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hellog〜英語史ブログ / 2025-03-09

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2025-03-09 Sun

#5795. ghost word 再訪 [lexicography][word_formation][folk_etymology][ghost_word][terminology]

 「#2725. ghost word」 ([2016-10-12-1]) や「#912. 語の定義がなぜ難しいか (3)」 ([2011-10-26-1]) で,この用語に触れてきた.今回は『新英語学辞典』の解説を読んでみよう.

ghost word〔言〕(幽霊語)
 Skeat (TPS, 1885--87, II. 350--51) の用語 (OED, s.v. ghost).誤植,書写の誤り,編集者・表現者の思い違いから生じた語で,本来はあるべからざる語のこと.そのありうべからざる語が現実に現われた場合,この語を幽霊語または幽霊形 (ghost form) という.つまり,語源的には不要な字が入るなどして,あるべからざる語形をとっている語(例:aghast, sprightly, island, ye (= the)) も幽霊語であるが,誤解から,本来はないはずの意味を与えられた語も幽霊語である.1) acre (= duel). 'fight an acre' のことを「(イングランドとスコットランド辺境地区で)決闘をする」という意味に解し,acre に duel の意味を与えること.本来は中世ラテン語 acram (= duel) committre の英訳の誤りから生じたもの. 2) in derring do (= in daring to do). Chaucer, Troilus and Criseyde 837 から Spenser が誤解して, derring-do を「勇敢な行動」の意味で用いている.3) bourne (= realm). Shakespeare, Hamlet 3:1:79--80 の The undiscovered country, from whose bourne (= limit) No traveller returns から誤解して fiery realm and airy bourne (= realm)--Keats というとき,この bourne は本来なかった意味で用いられていることになる(Bloomfield, 1933, p. 487).これもまた幽霊語の一種である.


 一言でいえば,諸々の事情で「あるべからざる語」が現に存在するようになったものが ghost word幽霊語)ということになる.日常用語としてはこれで済むかもしれないが,学術的には「あるべからざる語」の定義が必要だろう.どのような条件が成立すれば「あるべき語」なのか,あるいは「あるべからざる語」なのか.
 上記の引用では「誤植,書写の誤り,編集者・表現者の思い違い」の3点が挙げられているが,これだけで十分なのだろうか.また,真に「誤り」や「思い違い」が関わっているのどうかを歴史的に確かめることは,どこまで可能なのだろうか.幽霊形,幽霊語義,幽霊綴字などと様々に発展させられそうな概念なだけに,基本的な定義を固めておくことが重要のように考える.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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最終更新時間: 2025-03-09 09:06

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