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[2009-05-17-1]で,母音を体系的に記述する母音四辺形を導入した.音声学の基本であり,これが分かっていないと,大母音推移をはじめとする英語に起こった数々の音声変化を理解することができない.
母音は (1) 舌の高さ,(2) 舌の前後の位置,(3) 唇の丸めの有無,という三つのパラメータで記述されるが,音声学初歩で導入される母音四辺形では,唇の丸めの表現がイマイチ垢抜けていない.舌の高さと前後については,母音四辺形をそのまま座標と見立てて,口腔内での舌の位置をそのままプロットすればよい.だが,唇の丸めというのは母音四辺形ではうまく表現できず,仕方ないので各点の左側に非円唇母音,右側に円唇母音の音声記号が記入されるのが慣例となっている.
この点に関して,最近,なるほどと感心したことがあった.音声学の専門家には常識なのかもしれないが,Ladefoged という音声学者が,母音四辺形の立体版,母音六面体とでも呼ぶべきものを提示していることを知った.
唇の丸めを奥行きに相当させ,母音体系を立体的に表現した図である.手前が円唇,奥が非円唇である.この図の秀逸な点は,前舌母音では舌の位置が低いほど,後舌母音であれば舌の位置が高いほど円唇を伴いやすいという調音音声学の原則が見事に表現されている点である.上の図は標準的な現代英語の基本母音であり,赤線で結ぶと上の原則がよく見えてくるだろう.さらに,この図は音響的なパラメータとの対応もうまくいっているというから文句なしである.
パラメータが三つだから立体で表現しようという発想はしごく自然であり,誰もが考えつきそうな発想だが,実際にこの図が作られたのは1971年であり,それほど昔のことではない.これは驚きである.母音四辺形があまりに有名なので,自然な発想がブロックされてしまったためだろうか.確かに,唇の丸めというパラメータを立体の一つの次元にあてはめるのは直感的ではないかもしれないが,それにしても盲点だったのではないか.どの分野にもこのような盲点はまだまだ存在するに違いない.
・ Ladefoged, Peter. Preliminaries to Linguistic Phonetics. Chicago: U of Chicago P, 1971. 72.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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