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先住民のいる土地に,外から新参者がやってきた.軍事的征服ということもあれば,移動の末に流れ着いたということもあろう.いずれにせよ既存の地名があるところへ新参者が入ってきて,社会的に優勢となった場合,彼らはそのまま既存の地名(往々にして外国語)を温存するのか,あるいは自らの言語の名付けの流儀に従って新しい地名を作り出し,置き換えるのか.
一般論としていえば両方のパターンがあり得るようだ.征服,植民,漂流など,その経緯によってパターンが異なるのかどうかは議論の余地があるが,温存と置換の両方が可能である.これは,ある程度は地名という固有名の無意味性と関連づけて説明できるかもしれない.
既存の地名に語彙的な意味が読み込まれるのであれば,それを根拠として温存する,あるいは廃棄するという積極的な決定がなされるかもしれない.しかし,地名に自明な意味が読み取れないのであれば,それは新参者にとっては,ただの土地同定のための記号にすぎず,任意あるいは消極的な動機づけにより,変えるのが面倒で温存することもあれば,適当に自言語で名付けなおすということもあるだろう.
後世からみれば,いずれにせよ選択はランダムのように見えるわけだが,実際に当時でも往々にしてランダムだったのかもしれない.地名は,意味をもつ語というよりも,指示対象のみをもつ記号という色彩が強いからだ.Hough (87) はこの点について次のように述べている.
Since names can be used without understanding of semantic content, incoming groups of speakers characteristically take over some of the existing names while creating others of their own. This means that in almost all areas where successive phases of migration have occurred, the names represent a palimpsest of formations from different languages and time-periods.
地名の(無)意味性をめぐる議論としては,以下の記事を参照.
・ 「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1])
・ 「#5197. 固有名に意味はあるのか,ないのか?」 ([2023-07-20-1])
・ Hough, Carole. "Settlement Names." Chapter 6 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 87--103.
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最終更新時間: 2024-09-24 08:28
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