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標題について「#286. homonymy, homophony, homography, polysemy」 ([2010-02-07-1]),「#815. polysemic clash?」 ([2011-07-21-1]),「#1801. homonymy と polysemy の境」 ([2014-04-02-1]),「#2174. 民間語源と意味変化」 ([2015-04-10-1]) などで扱ってきた.今回はもう2つの例を挙げ,同音異義 (homonymy) と多義 (polysemy) の境界の曖昧性について改めて考えてみたい.
意味論の概説書を著わした Saeed (65) が,英語から sole と gay の語を挙げている.sole には,名詞として "bottom of the foot" (足の裏)と "flatfish" (カレイの仲間)の2つの語義がある.両語義は多くの母語話者にとって互いに関係のないものとして理解されており,したがって同音異義語と認識されている.しかし,歴史的にはラテン語 solea "sandal" がフランス語経由で英語に入ったものであり,同根である.確かに,言われてみれば,ともに平べったい「サンダル」である.辞書での扱いもまちまちであり,2つの見出し語を立てているものもあれば,1つの見出し語のもとに2つの語義を分けているものもある.とすると,公正な立場を取るのであれば,歯切れは悪いが,両者の関係は homonymy でもあり polysemy でもあると結論せざるを得ない.
もう1つの例は,形容詞 gay である.この語には "homosexual" (同性愛の)と "lively, light-hearted, bright" (陽気な)という,2つの主たる意味がある.特に若い世代にとって,両語義の関連は,あったとしても薄いものに感じられるようで,その点では homonymy の関係にあると把握されているのではないか.しかし,なかには両語義は相互に関係するととらえている人もいるかもしれないし,実際,通時的には「陽気な」から「同性愛の」への意味変化が生じたものとされている.ここでも,ある人にとっては homonymy,別の人にとっては polysemy という状況が見られる.ある見方をすれば homonymy,別の見方をすれば polysemy と言い換えてもよい.
客観的な意味論の観点から,いずれの関係かを決めることは極めて難しい.homonymy と polysemy の境について,言語学的に理論化するのが困難な理由が分かるだろう.
gay の用法については,American Heritage Dictionary の Usage Note より gay も参照.
・ Saeed, John I. Semantics. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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