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昨日の記事「#1450. 中英語の綴字の多様性はやはり不便である」 ([2013-04-16-1]) で,15世紀初期の Wycliffe 新約聖書へのコンコーダンスに言及した.この編者と編集法についての Kuhn の論文を読んで,いくつかの発見があったので報告する.
改めてこのコンコーダンスについて述べると,1425年頃に無名の編者が Wycliffe の新約聖書に対して編んだコンコーダンスであり,168葉の British Library MS Royal 17.B に所収されている.大部分が Wycliffe 聖書の Early version をもとにしている.テキストに表わされている方言は14世紀後期から15世紀初期にかけての East Midland 方言であり,概ね Wycliffe 派の聖書の言語に似ている.
このコンコーダンスのもつ英語史的な意義は2つある.1つは,Kuhn (266) によれば,"apparently the first concordance to an English book" であるという点だ.ラテン語のウルガタへのコンコーダンスは稚拙ではあるが13世紀より知られており,15世紀後期から17世紀初期にかけて,さらに編集手腕の発揮されたラテン語コンコーダンスが編まれたが,英語としてのコンコーダンスは知られていない.英語版コンコーダンスの編者は,おそらくラテン語版の編集手法を学びとって,応用したものと思われる.
もう1つの特筆すべき点は,このコンコーダンスが完全なアルファベット主義に基づいて編まれているという点である.語群をアルファベット順に並べるという発想そのものは,古英語以来の語彙集や辞書でも見られるが,多くは単語の最初の1文字のみをアルファベット順で並べ,2文字以下は順序を考慮しないというものだった.考慮するものも,せいぜい2文字か3文字ぐらいまでであり,単語の終わりの文字まで徹頭徹尾アルファベット順に配列するというという発想はなかったのである.例えば,8世紀の羅英語彙集 Epinal Glossary は1字目のみの考慮であり,Corpus Glossary は2字目までの考慮にとどまる.10世紀の British Museum MS Harley 3376 の羅英語彙集も1文字目のみ,11世紀の British Museum MS Cotton Cleopatra A の羅英語彙集はかろうじて2文字目まで.14世紀末に至っても,事情は変わらなかった.そして,15世紀初期,このコンコーダンス編者が初めて完全アルファベット主義を通すに至った.現代のソート文化の祖と呼んだら言い過ぎだろうか.
ソート文化に慣れきった現代人には信じがたいことだが,「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1]) の (6) で述べた通り,1604年という段階ですら,辞書のアルファベット順の原理は一般には広まっていなかった.いわんや15世紀初期においてをや,である.このコンコーダンス編者の理性は高く評価すべきだろう.本人も序文 (ff. 3a--b; Kuhn 271) で自信のほどを示している.
Þis concordaunce sueþ not oonly þe ordre of þe a, b, c in þe firste lettris of wordis but also in þe secounde, in þe þridde, in þe fourþe, & so forþ. Wherfore Aaron stondiþ bifore Abba, ffor þe secounde lettre of Aaron, which is a, stondiþ in þe a, b, c bifore b, which is þe secounde lettre of Abba. And Abba stondiþ bifore Abel, for þe þridde lettre of Abba, þat is b, stondiþ in þe a, b, c bifore þe þridde lettre of Abel, which is e. Þus conferme stondiþ bifore confounde bi cause þe fifþe lettre of þis word conferme stondiþ in þe a, b, c bifore þe fifþe lettre of confounde, þat is o. ffor in þe firste foure lettris of þese two wordis, whiche ben c, o, n, & f, in no þing þei discorden. Wherfore, if þou fynde ony word in þis werk þat is not set in þis forme, vnkunnyg or neglygence of þe writere is in cause, and liȝtly bi oon þat can, may it be amendid.
・ Kuhn, Sherman M. "The Preface to a Fifteenth-Century Concordance." Speculum 43 (1968): 258--73.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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