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hellog〜英語史ブログ / 2012-08-09

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2012-08-09 Thu

#1200. なぜ英語史を学ぶか (3) [hel_education][prescriptive_grammar]

 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1]) および「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1]) で取り上げてきた英語史学習・教育の重要性について付け加え.Schmitt and Marsden (71--72) は,英語史の知恵をいかに英語教育へ応用すべきかという問題に対して,核心を突いた解答を示している.その「教訓」を以下に要約しよう.

 しばしば学習者が質問するような不規則形などの問題は,純粋に歴史の偶然の産物である.例えば,3単現の -s がなぜ残ったのかは誰もわからない.ほかに問題となりうる規則には,規範文法家が独断と偏見で作り出したものが多い.彼らは英語はこのように話すべきだと定めることに関心があり,英語が実際にどのように話されているかという現実には目を向けなかった.分離不定詞 (split_infinitive) や shallwill の使い分け([2010-07-22-1]の記事「#451. shallwill の使い分けに関する The Wallis Rules」を参照)などがその例だ.
 このような理不尽な規則そのものと同じくらい問題をはらんでいるのは,唯一の正しい英文法があるという誤った考え方だ.この態度は学習者にも教師にも深く根付いている.学習者も教師も1つの正しい答えを期待しているが,実際には言語は生きた体系であり,常に変化し,新しい状況に適用しようとする複雑で変化に富んだ体系である.つまり,文法とは絶対的な規則集ではない.もちろん文法項目のなかには比較的不変の項目もあり,それを規則として教えるということはよいことだろう.しかし,そうでない柔軟に変化する文法項目もある.後者の場合には,規則としてとらえるのではなく,多くの場合に用いられる規則的な形はあるけれども状況に応じて変異する規約くらいにとらえておくのがよい.
 教師は,英語文法の柔軟性をよく理解し,変異を左右する文脈的な要因に通じている必要がある.特に話し言葉と書き言葉の区別は重要であり,それぞれに異なった文法が存在するのだと認識しておくことが肝要だろう.

 Schmitt and Marsden は,この主張を支持するために,現代英文法の大著 Longman Grammar of Spoken and Written English の著者たちの次の言葉を引用している.

It would . . . be wrong to assume that standard English is fixed, with little or no variability. In fact, one of the major goals of the LGSWE is to describe the patterns of variation that exist within standard English, and to account for those patterns in terms of contextual factors. . . . In particular, the notion that the standard insists on 'uniformity'---allowing just one variant of each grammatical feature---is a serious fallacy, arising from a misleading application to language of the notion of 'standard' and 'standardization' taken from other walks of life. (18--19)


 改めて,私も主張したい.英語は他のすべての言語と同様に,絶対的,固定的なものではなく,通時的にも変わるし共時的にも替わる流動体である.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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