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hellog〜英語史ブログ / 2011-04-30

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2011-04-30 Sat

#733. semantic prosody の通時的側面 [semantic_prosody][semantic_change][terminology]

 semantic prosody は,コーパス言語学の進展により20余年前にその現象が気付かれたばかりの比較的新しい研究である.現代英語について共時的な観点からしても研究が進んでいないのだから,通時的な側面の研究はいまだ皆無といってよさそうだ.[2011-03-12-1], [2011-03-03-1]の記事で軽く言及したように,通時的なディメンションはあるはずで,意味変化の研究と関連して,今後おもしろい分野になってくるかもしれないと考えている.
 これまで数点の関連論文に目を通したが,通時的な言及はほとんどない.唯一,[2011-03-03-1]で関連文献として挙げた Louw が,semantic prosody と irony の関係を論じながら,通時的な関連に言及している.

Prosodies, therefore, are reflections of either pejorative or ameliorative changes that have run their course sufficiently to allow irony to be instantiable against them through the deliberate creation of an exception to the trend. (169)


 ある表現が irony と認められるためには,元の表現が一定の semantic prosody をもっており,聞き手もそれを知っていることが前提となる.皮肉を発する話し手は,その表現とは通常共起しない表現を意図的に組み合わせることによって,聞き手の予想を裏切ることを目指す.皮肉を通じさせるためには,是非とも聞き手が問題の semantic prosody を(無意識であれ)知っている必要がある.その知識は,他の一般的な言語能力 (linguistic competence) と同様に,個人が明示的にアクセスすることができない種類の知識だが,個人が言語習得の過程で獲得するものには違いない.では,獲得に際してのインプットは何かというと,コーパスから引き出されると初めて可視化される類の共起表現とその頻度だろう.その共起表現と頻度は,その言語共同体で歴史的に育まれてきたものの現在の現われである.semantic prosody の通時的なディメンションは確かに存在する.
 ある semantic prosody が歴史のどの段階で生じたかを知ることは,なかなかに難しい.semantic prosody には負の含蓄の例が多いことから,問いの多くは「ある語句が軽蔑的な (derogatory) 含蓄を帯び始めたのはいつか」というようなものになるだろう.文脈を丹念に調べて,1例ずつ derogatory か否かを判定してゆくという地道で困難な作業が必要となるだろうが,それ以前にどの表現が semantic prosody の候補になりうるかという問題を解決しなければならない.なぜならば,semantic prosody はその性質からして話者の内省や直感ではアクセスできないものだからである ([2011-03-20-1]) .この点に関して,Louw の警鐘は痛烈だ.

A common problem is what might be called 'twenty-twenty hindsight': the tendency to claim that one 'felt' the presence of a form which was inaccessible to one's intuition until it was revealed through research. The only cure for twenty-twenty hindsight lies in constant exposure, of the most humbling kind, to real examples. (173)


 内省でアクセスできない問題を研究テーマとするというのは,方法論上の矛盾である.通時的側面を論じる以前に,現代英語の共時的側面ですら semantic prosody はいまだよく理解されていないのである.
 semantic prosody とは何かという定義の問題については,[2011-03-02-1]で1つの定義を紹介したが,捉えにくい概念なので客観的な記述は難しい.むしろ直感に訴えかける説明だと妙によく理解できるのである.例えば,Louw の次の定義などは,もっともよく直感にフィットするのである.

[a] consistent aura of meaning with which a form is imbued by its collocates (157)


 ・ Louw, Bill. "Irony in the Text or Insincerity in the Writer? The Diagnostic Potential of Semantic Prosodies." Text and Technology: In Honour of John Sinclair. Ed. M. Baker, G. Francis, and E. Tognini-Bonelli. Amsterdam: John Benjamins, 1993. 157--76.

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