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中英語の形態論や統語論を扱う場合,英語史上のより大きな問題である「総合 (synthesis) から分析 (analysis)」 への類型変化を視野に入れていることが多い (see synthesis_to_analysis) .大まかに言えば,総合とは屈折に依存する性質を指し,分析とは語順や前置詞・助動詞の使用に依存する性質を指す.純粋に synthetic あるいは analytic な言語(の段階)はないとすると,マクロにみて,どの言語も synthesis と analysis を両端とする線上のどこか中間に位置づけられることになる.古英語から中英語にかけては,この中間点が analytic の方向へ大きく動いたものとしてとらえられる.一方,ミクロにみると,ある表現を観察するとき,その表現の内部に synthetic な手段と analytic な手段が混在していることに気づく.初期中英語から取られたその興味深い例の1つが,標題に掲げた be nihtes である.
連日取り上げている,East Midland 方言で書かれた重要な初期中英語テキスト The Peterborough Chronicle の1137年の記述から,次のような例文を示そう(引用は Clark 版より;赤字は引用者;現代英語の拙訳つき).
Þa namen hi þa men þe hi wenden ðat ani god hefdeˈnˈ, bathe be nihtes 7 be dæies, . . . (year 1137, lines 17--19)
PDE translation: "Then they took the men that they thought had any property, both by night and by day, . . ."
問題の箇所 be nihtes 7 be dæies で両名詞の -es 語尾は起源としては複数語尾ではなく単数属格語尾である.[2009-07-18-1]で話題にしたが,現代英語の once, twice, always, sometimes, nowadays, besides, else, needs などの /s/ 語尾も,起源は単数属格語尾である.古英語には「副詞的属格」 ( adverbial genitive ) と呼ばれる属格の用法があり,主に時間を表わす名詞に -es を付加して副詞相当語を作った.単独で副詞として機能したので,前置詞は必要なかったのである.古英語では,「夜に」は nihtes,「昼に」は dæges だった.ところが,中英語にかけて英語の分析的傾向が強まってくると,現代英語の "by night" や "by day" に相当する前置詞を用いた表現が現われてくる.このように言語類型の推移していた時期に,古英語的な総合性と近代英語的な分析性を兼ね備えた中英語的な混合形 be nihtes 7 be dæies が現われたのである.
ちなみに,古英語の副詞的属格に由来する nights は現在でも特に《米略式》として用いられている.
・ Clark, Cecily, ed. The Peterborough Chronicle 1070-1154. 2nd ed. London: OUP, 1970.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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