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Chaucer の中英語などを読んでいると,やたらと soth という語が出てくる.これは現代英語の sooth /su:θ/ 「真実(の)」に相当する語である.古英語の昔から存在した基本語で,in sooth, by my sooth, for sooth などという句で特によく現れ,「誓って」「心から」「本当に」といった誓いや強めの意味で頻繁に用いられた.現代英語にも残るsoothsayer とは「真実を述べる人」の原義から,現在では「占い師,予言者」を意味する.
現代英語では類義語の true や truth などが幅をきかせており,sooth はその古めかしい響きゆえに影が薄いが,その動詞形である soothe /su:ð/ 「なだめる,やわらげる」は基本語5000語程度に入る重要な動詞である.語源としては,古英語の形容詞 sōþ に動詞語尾 -ian を付加した sōþian にさかのぼるが,現在の動詞としての意味は sooth 「真実の」とは無関係のように見える.どのような意味変化を経て,「なだめる,やわらげる」の意味になったのだろうか.
OED で soothe の意味の変遷を確認してみると,次のような一連の流れが見てくる.
(1) to prove to be true; verify
(2) to declare to be true; to corroborate, support
(3) to encourage by expressing assent
(4) to please or flatter by assent
(5) to render less offensive
(6) to render calm; to appease
(7) to render less violent; to allay
意味の流れを要約すると,
「真実のことを真実のこととして実証する」
→「真実でないかもしれないことを真実であると述べる」
→「真実でないことを真実であるかのようにかばってあげる」
→「悪いことをやわらげてあげる」
→「なだめる」
となろうか.すべてつながっているようで,いつのまにか意味が原義から逆転してしまっている.しかし,「良きものを良きものとして示す」あるいは「悪いものをそれほど悪いものでないかのように示す」の両者には,一貫して,「良きものとして示す」という意味の核 が感じられる.
(1) の語義は古英語から16世紀までに確認されるが,その後は廃れ,(2) 以下の様々な語義が派生してくることになる.現在では,1700年前後に現れた (6) と (7) の語義のみが生き残っている.
OED に,1645年辺りからの次のような例文があった.
I am of the number of those that had rather commend the Virtue of an Enemy, than sooth the Vices of a Friend.
ここでは commend は良い意味,sooth は悪い意味として対比されているが,かつては commend と類義だったことを考えると,この時期にすでに意味変化が起こっていたのだとよく分かる.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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