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sobokunagimon - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-12-21 20:28

2025-06-06 Fri

#5884. YouTube 「文藝春秋PLUS」にて英語史の魅力を語りました(後編) --- なぜ英語は世界のコトバになったのか? [notice][youtube][word_order][article][plural][prescriptive_grammar][sociolinguistics][helkatsu][hel_education][sobokunagimon]



 昨日の記事に引き続き,5月30日(金)に YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」で公開された英語史トークの後編(26分ほど)をご紹介します.タイトルは「【ややこしい英語が世界的言語になるまで】文法が確立したのはたった250年前|an appleのanは「発音しやすくするため」ではない|なぜ複数形はsばかりなのか|言語の"伝播"=権力」です.以下,動画を観る時間がない方のために,文章としても掲載します.



 後編では,さらに踏み込んで,文法の変化や,英語が今日の「世界語」としての地位を築くに至った背景など,より大きなテーマについてお話ししています.
 まず,文法の変化についてです.現代英語の大きな特徴の一つに,語順が厳格に定まっている点が挙げられます.「主語+動詞+目的語」 (SVO) という型が基本であり,これを崩すと文の意味が通じなくなったり,非文法的になったりします.しかし,1000年前の古英語の時代に遡ると,語順はもっと自由でした.名詞の格変化が豊かだったため,語順を入れ替えても文の骨格が崩れにくかったのです.この点では,現代日本語と比較できるタイプだったのです.
 現代英語のような固定語順の文法が確立したのは,歴史的にみれば比較的最近のことです.18世紀半ば,いわゆる規範文法の時代に,ロバート・ラウス (Robert Lowth) などの文法学者が「正しい」英語のルールを定め,それが教育を通じて社会に広まっていきました.それ以前は,互いに意味が通じればそれでよい,というような,より自然発生的で流動的な文法が主流だったのです.
 次に,名詞の複数形の歴史も興味深いテーマです.現代英語では,名詞の複数形は99%近くが語尾に -s をつけることで作られます.これは非常に規則的で,学習者にとってはありがたい点かもしれません.しかし,これもまた歴史の産物です.古英語では,複数形の作り方は一様ではなく,現代ドイツ語のように,名詞の性や格変化の種類によって様々なパターンがありました.
 その名残が,現代英語に不規則複数形として生き残っている単語群です.例えば,ox/oxen のように -n で複数形を作るタイプ,foot/feetman/men のように語幹の母音を変化させるタイプ,そして child/children のように古英語の名詞複数語尾 -ru に由来する -r- を含むタイプなどです.これらの単語がなぜ現代まで不規則なまま残っているのかというと,きわめて基本的な日常語彙であり,使用頻度が高かったために,-s をつけるという新しい規則の波に飲み込まれずに抵抗し得たからです.
 トークでは,不定冠詞 a/an の使い分けについても,学校文法で習う説明とは逆の歴史を明らかにしました.私たちは「次にくる単語が母音で始まるときには,発音の便宜上 an を使う」と学びます.しかし,歴史の真実はその逆です.もともと不定冠詞は,数字の one が弱まった an という形しかありませんでした.つまり,an apple こそがデフォルトの形だったのです.そして,an book のように次に子音が続く場合に,/n/ と /b/ という子音が連続して発音しにくいために,n のほうが脱落して a book という形が生まれたのです.まさに目から鱗が落ちるような事実ではありませんか.
 そして最後に,最も大きな問い「なぜ英語は世界語になったのか?」についてお話ししました.この問いに対する答えは,言語そのものの性質 --- たとえば文法が単純だからとか,語彙が豊富だからとか --- とは,ほとんど無関係です.ある言語が国際的な地位を得るかどうかは,ひとえに,その言語を話す人々の社会がもつつ「力」,すなわち政治力,軍事力,経済力,技術力といったパワーに依存します.
 英語の場合,18世紀以降のイギリス帝国の世界展開と,20世紀以降のアメリカ合衆国の圧倒的な国力が,その言語を世界中へ押し広げる原動力となりました.これは歴史上,漢文を国際語たらしめた古代中国の力や,ラテン語をヨーロッパの公用語としたローマ帝国の力と,まったく同じ原理です.言語の影響力は,常に社会的な力の勾配に沿って,上から下へと流れるのです.
 このように,英語の歴史を学ぶことは,単なる暗記ではなく,現代英語の姿の背後にあるダイナミックな変化の過程と,その背景にある人々の社会や文化を理解する営みです.「言葉の乱れ」を嘆く声も,長い歴史のスケールで見れば,言語が生きている証としての自然な変化の1コマに過ぎないことが見えてきます.
 トーク前編と合わせてご覧いただくことで,英語という言語の立体的な姿を感じていただけることと思います.



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2025-06-05 Thu

#5883. YouTube 「文藝春秋PLUS」にて英語史の魅力を語りました(前編) --- なぜ英語の綴字はこんなに不規則なのか? [notice][youtube][spelling_pronunciation_gap][me_dialect][etymological_spelling][sound_change][through][thorn][digraph][norman_conquest][prestige][helkatsu][hel_education][sobokunagimon]



 5月30日(金),YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」にて,前後編の2回にわたり,「英語に関する素朴な疑問」に答えながら英語史を導入するトークが公開されました.フリーアナウンサーの近藤さや香さんとともに,計60分ほどお話をしています.
 前編は「【know の K はなぜ発音しない?「英語史」で英語のナゼがわかる】国内唯一慶應だけの必修科目|古代英語はもはや別言語|500通り以上の綴りがある英単語|"憧れ"と"威信"が英語を変化させた」と題して,35分ほどお話ししました.動画を観る時間がない方のために,以下に文章としてお届けします.



 今回のトーク番組(前編)では,英語史の魅力や学びのおもしろさを,特に現代英語が抱える様々な疑問と絡めながら,導入的に解説しています.hellog の読者の皆さんにも,きっと楽しんでいただける内容かと思います.
 そもそも英語史とは,単に英語という言語の歴史を追うだけではありません.その言語を話してきた人々の社会や文化の歴史,つまりは世界史と密接に結びついた,実に奥深い分野です.私は英語史は「英語」と「歴史」であると考えています.
 なぜ英語史を学ぶのでしょうか.それは,現代英語を学習するなかで誰もが抱く素朴な疑問,たとえば,なぜ3単現に -s がつくのか,なぜ不規則動詞はこんなにも多いのか,そしてとりわけ「なぜ英語の綴字と発音はこれほどまでに食い違うのか」といった問いに対して,歴史的な視点から実に鮮やかな説明を与えてくれるからです.私自身,学生時代にこの「腑に落ちる」感覚に魅了され,英語史研究の道へと進むことになりました.今回の番組では,このおもしろさの一端でもお伝えできればと思っています.
 さて,番組の中心的な話題となったのは,英語の綴字と発音の乖離の問題です.英語の歴史は約1600年間ほどあり,大まかに古英語(449--1100年頃),中英語(1100--1500年頃),近代英語(1500--1900年頃),現代英語(1500--現在)の4期に区分されます.中英語であれば,訓練を積んだ英語ネイティブならなんとか読解可能ですが,古英語に至っては,用いられている文字も異なり,もはや外国語にしか見えないでしょう.
 この長い歴史のなかで,綴字と発音の間にずれが生じる原因は多数ありました.番組では,主な要因を3つほど紹介しました.1つ目は,方言の混交です.特に中英語期には,イングランド内で多様な方言が話されており「標準語」というべきものが存在しませんでした.後の時代に標準化が進んでいく過程で,ある単語の綴字はとある方言から採用され,発音は別の方言から採用される,というようなミスマッチが生じたのです.例えば busy /ˈbɪzi/ という単語の <u> の綴字はイングランド西部方言に由来し,/ɪ/ という発音は北部方言に由来します.build の <ui> という綴字も,同様の混乱が生んだ産物です.
 2つ目は,ルネサンス期の学者たちによる「お洒落」な改変です.16世紀,古典語であるラテン語やギリシア語への憧れから,教養ある学者たちが,単語の語源を綴字に反映させようと試みました.その結果,本来発音されない文字が,語源に倣って意図的に挿入されることになったのです.典型的な例が doubt の <b> (ラテン語 dubitāre に由来)や receipt の <p> (ラテン語 recepta に由来)です.当時の読み書きは知識階級の独占物だったため,彼らの決めた綴字が「正しい」ものとして定着してしまいました.そのような綴字は,教育を通じて世代から世代へと受け継がれ,一種の制度として固定化されていきました.綴字改革運動が繰り広げられることしばしばもありましたが,ほぼすべてが成功せずに現在に至ります.
 3つ目は,自然な音変化です.knowknife の語頭の <k> が発音されないのは,この例です.かつては /kn/ と発音されていたこの子音連鎖が,17世紀末から18世紀にかけて弱まり,やがて /k/ の音が脱落しました.しかし,その音変化が完了するより前に綴字が固定化してしまっていたため,発音されない <k> が綴字においては現代に至るまで残存しているというわけです.
 番組では,中英語期にとりわけ豊かな綴字のヴァリエーションを示した単語として through を挙げました.私が調査したところでは,この単語には実に516種類もの綴字がありました.また,古英語や中英語で用いられていた文字 <þ> (thorn) が,なぜわざわざ <th> という2文字の組み合わせに置き換えられてしまったのか,という話題にも触れました.これには,1066年のノルマン征服以降に英語に流入したフランス単語が放っていた威信が関係します.フランス語にはない文字 <þ> は「野暮ったい」とされ,フランス語風の <th> を用いるのが「お洒落」と見なされるようになったのです.言語の変化とは,必ずしも合理性や利便性だけで駆動するのではなく,こうした「ファッション」というべき非合理的な要因にも大きく左右される,実に人間臭い営みなのです.
 このように,英語の歴史を紐解くことで,現代英語の不可解な側面に光を当てることができます.英語史の知識は,英語学習者が抱えるフラストレーションを,知的な好奇心へと転化させる力を持っているといえるのです.
 今回の番組は,英語史の導入として,あるいは英語という言語への関心を深めるきっかけとして,多くの方にご覧いただければ幸いです.



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2025-05-31 Sat

#5878. YouTube チャンネル「文藝春秋PLUS」にて英語史入門トークが配信されました [youtube][hel_education][helkatsu][notice][sobokunagimon]

 昨日5月30日(金),YouTube 「文藝春秋PLUS 公式チャンネル」にて,前後編の2回にわたり,「英語に関する素朴な疑問」に答えながら英語史を導入するトークが公開されました.フリーアナウンサーの近藤さや香さんとともに,計60分ほどお話をしています.



 前編は「【know の K はなぜ発音しない?「英語史」で英語のナゼがわかる】国内唯一慶應だけの必修科目|古代英語はもはや別言語|500通り以上の綴りがある英単語|"憧れ"と"威信"が英語を変化させた」と題して,35分ほどお話ししています.こちらの告知記事,および下記の分秒リストと合わせて,ご視聴いただければ.



 00:00 オープニング
 01:27 英語史とは何か
 03:48 国内唯一 慶應だけの必修授業
 04:27 英語史研究者になった理由
 07:24 古英語,中英語とは
 10:56 なぜ綴りと発音が違うのか
 15:25 読まない b や p がある理由
 19:25 なぜ綴りと発音を統一しないのか
 22:53 読まない k や gh がある理由
 28:15 through には500以上の綴りがあった
 33:00 英語を変化させた憧れと威信



 後編は26分ほどの「【ややこしい英語が世界的言語になるまで】文法が確立したのはたった250年前|an appleのanは「発音しやすくするため」ではない|なぜ複数形はsばかりなのか|言語の"伝播"=権力」です.こちら告知記事もどうぞ.



 00:00 オープニング
 01:18 child の複数形はなぜ children なのか
 05:43 なぜ a apple ではなく an apple なのか
 09:20 文法が決まるまでの過程
 15:04 なぜ英語が世界的な言語になったのか
 19:53 英語史を学んで見えてくるもの




 今回の動画を通じて,1人でも多くの方に英語史のおもしろさや意義が伝わればと思います.

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2025-05-24 Sat

#5871. 「英語に関する素朴な疑問 プチ千本ノック生配信 with 小河舜さん」のアーカイヴを YouTube で配信しました [senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][youtube][hel_education][notice][ogawashun][terasawashiho][khelf][helkatsu]



 去る5月10日(土)の午前10時30分過ぎより,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「英語に関する素朴な疑問 プチ千本ノック生配信 with 小河舜さん」をライヴでお届けしました.いつもの千本ノック (senbonknock) は1時間ほどの長尺でお届けすることが多いのですが,今回はサクッと22分ほどのプチ回となりました.生配信でお聴きいただいたリスナーの皆さん,ありがとうございました.
 前回の「#5851. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」のアーカイヴを YouTube で配信しました」 ([2025-05-04-1]) のときと同様に,今回も小河舜さん(上智大学)とともにノックを受けました.小河さんは,最近hel活のために X アカウント @scunogawa を開設され,活発に情報発信されていますので,ぜひフォローしていただければ.
 また,khelf(慶應英語史フォーラム)の寺澤志帆さんには,問題を選んで読み上げる係を務めてもらいました.寺澤さんも最近「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」シリーズという熱いhel活を始められているので,ぜひご訪問ください.
 生配信の様子は音声のみならず動画としても収録していたので,このたび YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」より公開しました.上記スクリーン,あるいは「英語に関する素朴な疑問 プチ千本ノック生配信 with 小河舜さん」よりご覧ください.音声のみで聴きたいという方のために,後日 Voicy heldio でも配信すべく準備中ですので少々お待ちください.
 今回取り上げた疑問は,いつものように慶應義塾大学文学部英米文学専攻の学生から寄せられたものです.今回はプチ回で,取り上げられたのは6問のみですが,おもしろいトークにはなっています.おおよその分秒とともに疑問を一覧します.

 (1) 01:21 --- 「これ」は this,「あれ」は that なのに,「それ」は it になるのはなぜですか?
 (2) 04:55 --- なぜ固有名詞(TokyoJapan など)の頭文字は大文字にしなければならないのですか?
 (3) 08:57 --- なぜ -teen をもつ thirteenfourteen とは異なり,eleventwelve はこのような特別な形になるのですか? なぜ *twoteen や * threeteen ではないのですか?
 (4) 12:52 --- 英語の方がおしゃれに感じるのは気のせいですか? 外国人もそう感じているのですか?
 (5) 16:03 --- なぜ主節と従属節で時制を一致させる必要があるのですか?
 (6) 19:15 --- なぜ相手の疑問文が肯定でも否定でも,答えが肯定なら Yes,否定なら No になるのですか?

 今後も千本ノックのシリーズは続けていきます.過去の千本ノック企画については,本ブログの senbonknock 記事群よりアクセスしてください.

(以下,後記:2025/05/31(Sat))
 今回の千本ノック生配信は heldio でも「#1462. 英語に関する素朴な疑問 プチ千本ノック with 小河舜さん --- 皐月収録回@三田より」として配信しています.


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2025-05-08 Thu

#5855. ギリシア語由来の否定の接頭辞 a(n)- と英語の不定冠詞 a(n) の平行性 [senbonknock][sobokunagimon][heldio][article][greek][prefix][consonant][ogawashun][khelf][negative][oe]



 5月28日に,khelf(慶應英語史フォーラム)の協賛のもと,heldio にて小河舜さん(上智大学;X アカウント @scunogawa)とともに「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」をライヴでお届けしました.その様子をアーカイヴとしてすでに YouTube 版で公開していることは,先日の記事「#5851. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」のアーカイヴを YouTube で配信しました」 ([2025-05-04-1]) でお伝えした通りですが,数日遅れで heldio のアーカイヴとしても配信しました.音声だけで十分という方,ながら聴きしたいという方は,「#1439. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」よりご聴取ください.本編は65分ほどの長さです.
 今回の千本ノックで取り上げた素朴な疑問は15件ありましたが,その5件目(本編の26分18秒辺りから)に注目します.質問の趣旨としては「不定冠詞 an/a の使い分け(an apple vs. a pen)の現象は,ギリシア語由来の否定の接頭辞 an-/a- の現象と同じですか?」というものでした.質問者からのこの高度な指摘にむしろ勉強になった旨,小河さんとライヴでも触れた通りです.
 調べてみると,確かに両者において,an- が歴史的には本来の形態素ですが,後ろに母音(あるいは h)で始まる要素が後続する場合には,音便により当該形態素より n が脱落し,a- という異形態が用いられています.きれいに平行的といえます.
 Webster の辞書の第3版に所収の A Dictionary of Prefixes, Suffixes, and Combining Forms によると,ギリシア語由来の否定の接頭辞 a-, an- について次のように記述があります.

2a- or an- prefix [L & Gk; L a-, an-, fr. Gk --- more at UN-]: not: without <achromatic> <asexual> --- used chiefly with words of Gk or L origin; a- before consonants other than h and sometimes even before h, an- before vowels and usu. before h <ahistorical> <anesthesia> <anhydrous>


 このなかで示唆されている通り,このギリシア語由来の否定の接頭辞は,英語本来の否定の接頭辞 un- とも同根である.ついでに同辞典より un- の項目も覗いておこう.

1un- prefix [ME, fr. OE; akin to OHG un- un-, ON ō, ū-, Goth un-, L in-, Gk a-, an-, Skt a-, an- un-, OE ne not]


 古英語の否定辞 ne もこれらと同根であるから,つまるところ not, never, no などとも通じることになる.
 寄せていただいた素朴な疑問からの展開でした.たいへん勉強になりました!

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2025-05-07 Wed

#5854. 「hellog-radio」全62回の YouTube 版シリーズ再配信が完結しました [hellog-radio][radio_broadcast][sobokunagimon][youtube][notice][link]


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 コロナ禍の始まった2020年の6月から翌2021年の2月にかけて不定期に,英語史の話題,とりわけ一級の「英語に関する素朴な疑問」を取り上げる音声配信シリーズ「hellog-radio」をお届けしていました.全62回のシリーズです.当時は大学のオンライン授業の補足資料というつもりで,こちらの音声コンテンツ一覧 (heldio & hellog-radio)の下部のリンク集のとおり,HPに音声ファイル (MP3) を置いておくだけの内輪向けシリーズでした.
 その後,hellog-radio シリーズがきっかけとなり,Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」を始めたという経緯があり,後から振り返ると hellog-radio はいわば heldio の前身という位置づけのような存在になりました.このまま hellog-radio を眠らせておくのはもったいないと思い,「#5806. heldio の前身「hellog-radio」で一軍級の素朴な疑問を取り上げています」 ([2025-03-20-1]) や「#5833. YouTube で「英語史をお茶の間に」 --- 3つの再生リストをご紹介」 ([2025-04-16-1]) でも触れたとおり,今年の3月6日より YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」で再配信を始めました.
 1日1回を公開していき,昨日をもって全62回の再配信が完結しました.2ヶ月余,日々お付き合いいただいた方々に感謝を申し上げます.hellog-radio の YouTube版再配信の再生リストは「【再配信】 hellog-radio --- 英語史小ネタ」として公開していますので,折に触れて本シリーズを聴き直していただければと思います.以下,全62回のタイトル一覧とリンクも示しておきます.



 1. なぜ大文字と小文字があるのですか?
 2. 疑問詞は「5W1H」といいますが,なぜ how だけ h で始まるのでしょうか?
 3. なぜ q の後には必ず u がくるのですか?
 4. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのですか?
 5. なぜ put は put--put--put と無変化活用なのですか?
 6. なぜ go の過去形は went になるのですか?
 7. なぜ英語は左から右に書くのですか?
 8. 現存する最古の英文は何か?
 9. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのですか?
 10. なぜ hourh は発音されないのですか?
 11. なぜ careless の反対は *caremore ではなく careful なのですか?
 12. なぜ「the 比較級,the 比較級」で「?すればするほど?」の意味になるのですか?
 13. oncetwice の -ce とは何ですか?
 14. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか?
 15. なぜ women は「ウィミン」と発音するのですか?
 16. なぜ英語では「兄」も「弟」も brother と同じ語になるのですか?
 17. なぜ定冠詞 the は母音の前では the apple のように「ズィ」と発音するのですか?
 18. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか?
 19. なぜ数詞 two は「トゥー」と発音するのですか?
 20. guesthost は,なんと同語源
 21. なぜ often は「オフトゥン」と発音されることがあるのですか?
 22. なぜ will の否定形は won't になるのですか?
 23. なぜ w の文字は v が2つなのに "double-u" なのですか?
 24. なぜ英語には s と微妙に異なる th のような発音しにくい音があるのですか?
 25. なぜ th には「ス」の「ズ」の2つの発音があるのですか?
 26. なぜ know の綴字には発音されない k があるのですか?
 27. なぜ英語では lr が区別されるのですか?
 28. なぜ英語では vb が区別されるのですか?
 29. なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのですか?
 30. なぜ仮定法では If I WERE a bird のように WERE を使うのですか?
 31. なぜ child の複数形は children なのですか?
 32. なぜ number の省略表記は no. となるのですか?
 33. なぜ sheep の複数形は sheep なのですか?
 34. 形容詞 able と接尾辞 -able は別語源だった!
 35. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか?
 36. なぜ last には「最後の」と「継続する」の意味があるのですか?
 37. なぜ Are you a student? に対して *Yes, I'm. ではダメなのですか?
 38. なぜ as にはあんなに多くの用法があるのですか?
 39. なぜ ministermini- なのに「大臣」なのですか?
 40. なぜ input は *imput と綴らないのですか?
 41. なぜ形容詞 friendly には副詞語尾のはずの -ly が付いているのですか?
 42. <x> の不思議あれこれ
 43. なぜ同じ <oo> の綴字なのに bookfood では母音が異なるのですか?
 44. なぜ否定を表わす語には n- で始まるものが多いのですか?
 45. なぜ father, mother, brother では -th- があるのに sister にはないのですか?
 46. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか?
 47. なぜ3単現なのに *He cans swim. とはならず He can swim. となるのですか?
 48. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか?
 49. タコの「足」は英語で何といいますか?
 50. なぜ threethirteen では r の位置が異なるのですか?
 51. 英語の人名 Johnson, Jackson, Dickson などに現われる -son とは何ですか?
 52. なぜ名詞の複数形も動詞の3単現も同じ s なのですか?
 53. harassment の強勢はどこに置きますか?
 54. なぜ have, has, had はこのような発音と綴字なのですか?
 55. なぜアメリカでは英語が主たる言語として話されているのですか?
 56. なぜ digital transformation を略すと DX となるのですか?
 57. 世界に言語はいくつあるのですか?
 58. なぜ say の過去形,3単現形は「セイド」「セイズ」ではなく「セッド」「セズ」と発音されるのですか?
 59. なぜ英語は世界語となっているのですか?
 60. many years ago などの過去の時間表現に用いられる ago とは何ですか?
 61. なぜ island の綴字には s が入っているのですか?
 62. なぜ foot の複数形は feet なのですか?




 また,本再配信シリーズには YouTube 版のほか Spotify (Video) Podcast 版stand.fm 版もありますので,お好きなプラットフォームでお聴きください.
 hellog-radio の再配信シリーズはこれにて完結ですが,別途 hellog の再配信シリーズは日々継続中です.その再生リストは「【再配信】 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」となります.引き続きご聴取ください.

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2025-05-04 Sun

#5851. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」のアーカイヴを YouTube で配信しました [senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][youtube][hel_education][khelf][notice][ogawashun]



 先日,5月28日(水)の午後1時30分過ぎより,khelf(慶應英語史フォーラム)の協賛のもと,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「千本ノックGW回 with 小河舜さん」の生配信をお届けしました.平日昼間の65分にわたるライヴでしたが,ご聴取くださった皆さん,ありがとうございました.
 その生配信の様子は音声のみならず動画としても収録していたので,このたび YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」より公開しました.上記スクリーン,あるいは「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」よりご覧ください.(音声のみで十分という方は,後日 Voicy heldio のアーカイヴとしても配信する予定ですので,しばらくお待ちください.)
 今回の千本ノックは,前回の「#5843. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 年度初めの生配信」のアーカイヴを YouTube で配信しています」 ([2025-04-26-1]) とは異なり,私1人ではなく,小河舜さん(上智大学)にも久しぶりにご登場いただき,2人体制で千本ノックを受けるという形式をとりました.前回は孤独に大量の質問の矢面に立ちましたが,今回は強力な助っ人を得て,心強く千本ノックに臨むことができました.小河さん,ありがとうございました! 小河さんは,最近hel活のために X アカウント @scunogawa を開設されましたので,hellog 読者の皆さんは,ぜひフォローをお願い致します.
 さて,今回の千本ノックの質問も,慶應義塾大学文学部英米文学専攻や通信教育課程で「英語史」を受講している学生の皆さんから事前に募ったものがほとんどです.鋭い質問や興味深い観点からの疑問が多く寄せられました.生配信では時間の制約もあり,取り上げられた質問は15件にとどまりますが,英語史の多様な側面が垣間見えたのではないでしょうか.
 今回の15の疑問について,おおよその分秒とともに一覧します.

 (1) 08:09 --- 肯定の平叙文で some + 名詞を含む文を疑問文や否定文にするとき,なぜ someany にひっくり返るのか?
 (2) 12:48 --- freedomliberty は重なる部分が多いが,ニュアンスの違いもある.このように基本的に同義でも特定の解釈で慎重さが求められる語が生まれた理由は?
 (3) 17:40 --- なぜ(文法書もなかったような)古い時代の英語で屈折に富んだ文法が使えたのか?
 (4) 21:55 --- 数が 0 の場合,それを受ける可算名詞がなぜ複数形になるのか? (実際には単数形もあり得ます)
 (5) 26:18 --- 不定冠詞 an/a の使い分け(an apple vs. a pen)の現象は,ギリシア語由来の接頭辞 an/a の現象と同じですか?
 (6) 28:05 --- なぜ Monday など曜日の最初の文字は大文字なのか? なぜ固有名詞扱いなのか?
 (7) 32:19 --- なぜ be 動詞は現在形では am, are, is の3種類なのに,過去形では was, were の2種類になるのか?
 (8) 36:35 --- 英語が世界言語として広まったのは,他言語と似ていて習得しやすいからか?
 (9) 39:39 --- なぜ英語では親指は finger ではなく thumb というのか?
 (10) 43:19 --- なぜ関係代名詞で「前置詞 + that」の形はないのか? なぜ that は非制限用法で使えないのか?
 (11) 46:47 --- 日本人の名字の長音(例:「大下」)のローマ字表記は,Ohshita, Ōshita, Oshita のどれが適切か?
 (12) 50:02 --- なぜ昔の文章ほど難解に感じられるのか?
 (13) 53:28 --- knightknife の語頭の k は発音しないが,昔は発音されていたのか?
 (14) 55:30 --- コンマ (,) の歴史的変遷は? 感嘆符 (!) や疑問符 (?) はどのようにして生まれたのか? なぜ文末にピリオド (.) を打つのか?
 (15) 58:28 --- 倒置は強調したい要素を文頭に出す場合に起こるが,仮定法(例:Were it not for ...)では何を強調しているのか?

 まだまだ未回答の疑問はたくさん残っていますので,別の機会に取り上げていきたいと考えています.過去の千本ノック企画については,本ブログの senbonknock 記事群よりアクセスしてみてください.引き続き,英語史の学びを楽しんでいきましょう!

(以下,後記:2025/05/08(Thu))
 今回の千本ノック生配信は heldio でも「#1439. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- GW回 with 小河舜さん」として配信しています.


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2025-04-27 Sun

#5844. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」最新回への参加者のコメント [youtube][senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][hel_education][notice][khelf]



 昨日の記事「#5843. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 年度初めの生配信」のアーカイヴを YouTube で配信しています」 ([2025-04-26-1]) と関連して,千本ノックの参加者(大学生)から寄せられてきた感想コメントをいくつかピックアップして示します.取り上げられた素朴な疑問の順で挙げていきます.(コメントの文章は適宜編集・要約しています.)

(1) なぜ複数形や3単現では -s を使うのか?

 ・ 3単現の -s が他の語尾(aq)でもよかったのでは,という根本的で「聞いても仕方ない」ような疑問にも英語史的な答えがあると知り,感動した.
 ・ 当たり前だと思っていた3単現の s が,古くは th であり,それが(音が似ているからではなく)置き換わったという歴史に驚き,言語変化のダイナミズムを感じた.

(2) なぜアルファベットと発音記号を分けているのか?

 ・ 綴り字は保守的だが発音は変化しやすいという原則を知り,綴りと発音の不一致問題が腑に落ちた.
 ・ 発音しない文字は単なる無駄ではなく,言語の過去(かつては発音されていた事実)を今に伝える「痕跡」であり,歴史の積み重ねだと感じた.
 ・ 綴り字改革が何度も試みられたが成功しなかった事実に,たとえ非合理でも定着したものを変えることの難しさ,言語の文化的・歴史的な重みを感じた.

(3) 発音しない h の存在意義は?

 ・ h の問題が「盲腸」や「男性の乳首」に喩えられていた,発音しない h の存在意義の説明が衝撃的で,言語における「進化」の痕跡という視点に感心した.
 ・ フランス語の影響で英語の h の発音が揺れた歴史を知り,英文学史で学んだノルマン・コンクエストと言語史が繋がり,興奮した.

(5) なぜ英語は左から読むのか?

 ・ 「なぜ英語は左から読むのか」という当たり前すぎる問いが,実は古英語では右書きもあったという事実から,深い歴史的問題になりうることに驚き,英語史の面白さを感じた.

(7) なぜ冠詞は分かりづらいのか?

 ・ 冠詞が歴史の途中(近代英語期)から発達した比較的新しい文法項目であり,古英語にはなかったという事実に衝撃を受けた.
 ・ 冠詞や進行形が比較的新しいことを知り,言語は不変ではなく,必要に応じて変化・進化するものだと実感した.

(8) なぜ英語にはドイツ語やフランス語にはない進行形があるのか?

 ・ 進行形も比較的新しい(近代英語以降の)文法で,シェイクスピアは使っていなかったこと,今も用法が拡大中であることを知り,言語が生きていることを実感した.

(10) なぜ英語には大文字と小文字があるのか?

 ・ 大文字と小文字の起源と用途の変遷(威厳 vs 速記 → 文中での強調・区別)を知り,実用性が文字の形や規則を生み出す過程に納得した.

(13) なぜ英語を話せる人を無意識にクールだと感じてしまうのか?

 ・ 英語話者をかっこいいと感じるのは,言語がもつ社会的な威信が原因であり,言語と権力の関係性(かつてのラテン語やフランス語のように)で説明できることに知的刺激を受けた.

(15) なぜ get in, get together, get over のように,基本動詞と副詞(または前置詞)の組み合わせによる句動詞が多く,多様な意味を持つのか?

 ・ 基本動詞+副詞(前置詞)から成る句動詞が,中英語期以降に激増したという歴史を知り,なぜそのような(学習者にとっては厄介な)形式が必要になったのか,その背景に興味をそそられた.

(17) なぜ be 動詞の現在形は am, are, is の3種類もあるのか?

 ・ 頻用される be 動詞が最も不規則変化するのは言語の宿命であり,「特別なんだろう」という曖昧だった認識が,英語史的説明で腑に落ちた.
 ・ 頻度が高い基本動詞ほど不規則になるという言語の原則に触れ,なぜ最初に習うものが一番複雑なのか納得した.

 その他,全体的な感想をいくつか挙げてみます.

 ・ 目の前でラジオの生放送が進行しているシチュエーションは初めてで,非常に新鮮であった.
 ・ 今後英語史を学んでいく上でさまざまな「なぜ」が出てくると思うので,また機会があればこのような企画を実施してほしいです.すごく有意義でした.
 ・ 素朴な疑問こそが英語史の入り口であり,歴史的視点から見ればどんな疑問にも(たとえ完全な答えがなくとも)考える「とっかかり」があるという指摘になるほどと思った.
 ・ 文法ルールを単なる暗記ではなく,「なぜそうなったのか」という歴史的背景とともに理解することで,英語学習がより深く,面白くなることを実感した.
 ・ 英語史を学ぶことで,一見無関係に見える文学史や社会史など,他の分野との繋がりが見えた.

 私も,千本ノックを通じて,多くの参加者が英語史に関心を抱いたようだと知ることができて嬉しかったです.英語史の本当の楽しさはこれからです.皆さん,ぜひこれから前のめりに学んでいってください!

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2025-04-26 Sat

#5843. 「英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 年度初めの生配信」のアーカイヴを YouTube で配信しています [youtube][senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][hel_education][notice][khelf]



 先日の月曜日,4月21日の午後1時20分より,khelf(慶應英語史フォーラム)の協賛のもと,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の生配信という形で「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」を配信しました.会場では70名ほどの大学生に参加してもらい,ライヴ配信では30名ほどのリスナーに聴取いただきました.盛り上げに協力してくださりまして,ありがとうございます.
 会場では千本ノックの様子を動画でも撮影しており,今朝 YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」にて動画を公開しました(音源は後日 Voicy heldio でもアーカイヴとして配信する予定です).「英語に関する素朴な疑問 千本ノック 2025年4月21日 --- 年度初めの生配信(アーカイヴ)」よりご覧ください(65分ほどの動画です).
 千本ノックの企画に先立ち,学生の皆さんには事前に英語に関する素朴な疑問を寄せてもらっていました.実に100以上の質問が集まりました.千本ノックでは,時間の都合でその一部の疑問にしか触れられませんでしたが,それでも話題の範囲は広く,英語史の懐の深さの感じられるラインナップだったのでないかと思っています.
 今回の千本ノックで取り上げた17の疑問について,おおよその分秒とともに一覧します.

 (1) 04:02 --- なぜ複数形や3単現では -s を使うのか?
 (2) 07:56 --- なぜアルファベットと発音記号を分けているのか?(発音記号をそのまま文字にすればよいのでは?)
 (3) 14:30 --- 発音しない h の存在意義は?
 (4) 20:06 --- なぜ過去形などにするとき,短い母音の後の子音字は重ねて書くのか?
 (5) 23:52 --- なぜ英語は左から読むのか?
 (6) 27:47 --- I am とその省略形 I'm はどう違うのか?
 (7) 31:39 --- なぜ冠詞は分かりづらいのか?
 (8) 34:48 --- なぜ英語にはドイツ語やフランス語にはない進行形があるのか?
 (9) 39:21 --- なぜ u という1つの文字に多様な発音があるのか?
 (10) 41:55 --- なぜ英語には大文字と小文字があるのか?
 (11) 44:08 --- なぜ曜日の名前は日本語とずれているのか?
 (12) 45:52 --- なぜ sisterbrother には姉・妹,兄・弟の区別がないのか?
 (13) 48:35 --- なぜ英語を話せる人を無意識にクールだと感じてしまうのか?
 (14) 51:17 --- なぜ Is this a pen? の答えは Yes, it is. であり,*Yes, this is. ではないのか?
 (15) 54:08 --- なぜ get in, get together, get over のように,基本動詞と副詞(または前置詞)の組み合わせによる句動詞が多く,多様な意味を持つのか?
 (16) 56:01 --- なぜ英語では固有名詞の所有格にアポストロフィを用いるのか?(ドイツ語のように -s だけではダメなのか?)
 (17) 59:49 --- なぜ be 動詞の現在形は am, are, is の3種類もあるのか?

 取り上げられなかった素朴な疑問がまだたくさん残っていますので,今後も千本ノックその他の機会を捉えて,話題にしていきたいと思います.過去の千本ノック企画については,本ブログより senbonknock を訪れてみてください.新年度も楽しい英語史の学びを!

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2025-04-22 Tue

#5839. 「いのほた言語学チャンネル」で go/went の堀田説について再び語りました [voicy][heldio][youtube][inohota][suppletion][sociolinguistics][homonymic_clash][verb][notice][sobokunagimon][taboo]

 同僚の井上逸兵さん(慶應義塾大学)と運営している YouTube 「いのほた言語学チャンネル」は開設から3年以上が経ちますが,おかげさまで多くの方にご覧いただいています(チャンネル登録者は目下1万4千人です).
 日曜日に配信された最新回は「#329. 2年経ってもご覧いただき続けている go/went 堀田説回(第25回)へのみなさまのコメントに堀田が回答!」です.視聴回数が著しく伸びています.18分ほどの動画です.ぜひご視聴ください.



 今回の動画は,3年以上前に(タイトルでは「2年経っても」とありますが,調べたら3年以上経っていました)公開した「#25. 新説!go の過去形が went な理由」という動画に,今なお多くのコメントをお寄せいただいていることを受けて制作したものです.



 この #25 は「いのほた言語学チャンネル」の全配信回のなかでも特によく視聴されている回の1つとなっています.#25 のコメント欄には,これまで様々なご意見,ご感想,ご批判が寄せられてきていたので,今回の #329 では,そのような反応に対して私より補足説明や回答をさせていただいたという次第です.#329 の内容を要約すると以下の通りです.



 #25 で取り上げられたのは,なぜ go の過去形が *goed ではなく went なのか,という英語に関する素朴な疑問です.これは英語史では補充法 (suppletion) と呼ばれる現象の代表例とされています.異なる語源をもつ単語が,ある単語の形態変化の一部(ここでは過去形)を補う形で使われるというものです.英語では,go の過去形に,もともと「行く,進む」を意味した別系統の動詞 wend の過去形 went が採用されたというのが,伝統的な英語史の説明です.
 #25 で提示した私の「新説」とは,一度 wentgo の過去形として定着した後,なぜ他の多くの不規則動詞が経験したような規則化,つまり *goed のような形への変化が起こらなかったのか,という点に焦点を当てたものです.私は,その理由を社会言語学 (sociolinguistics) 的な観点から説明してみました.つまり,不規則な went の使用が,ある種の「言語的な境界マーカー」として機能し,英語母語話者と非英語母語話者を,すなわち言語共同体の内部の人と外部の人を区別する役割を(無意識的にせよ)果たしてきたのではないか,と考えたわけです.詳しくは #25 をご覧いただければと思いますが,#329 でもこの点を要約して話してはいます.
 #25 のコメント欄には,「goed だと God (神)の発音と近くなり,不敬だから避けられたのではないか?」という趣旨の意見もいくつかいただきました.これは「神」のタブー性と同音異義衝突 (homonymic_clash) という言語変化の要因に関する仮説に基づいたものと思われます.
 しかし,動画内でも説明しましたが,私はこの説に与しません.理由としては,まず go の古英語期の形態は gān のように ā'' の母音を示すものであり,その過去形が仮に規則化したとしても,God (古英語形 god)との母音の類似性は低いからです.両語は,母音の音質も音量も明確に異なっていたのです.さらにいえば,言語において同音異義語はごく普通に存在しており,それらが衝突して片方が消滅するというのは,事例としては確かにあるものの,まれな現象です.この go/went の件に関して,同音異義衝突に基づく説を積極的に支持する根拠は見当たりません.
 もう1点,#25 での解説について,誤解を招く点があったかもしれませんので,補足しておきたいことがあります.コメント欄にて,went のような不規則な形は母語話者が非母語話者を排除するために意図的に作った罠であるという見方は,少々陰謀論的に過ぎるのではないか,という趣旨のコメントをいただいていました.
 #25 で私の言いたかったことは次の通りでした.言語変化は,基本的には誰かが意図して起こすものではなく,自然発生的に進んでいくものであり,go の過去形が went になったのも,あくまで歴史的な偶然の結果である.ただし,その結果として生じた不規則な形が,後から社会言語学的な意味合いを帯び,内部と外部を区別するような機能をもつようになった,ということは十分にあり得ると考えます.つまり,「罠を仕掛けた」のではなく,「自然にできた落とし穴のような窪地を,後から罠として利用するようになった」という喩えが適切でしょう.




 改めて,この説について考えていただければ.

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2025-04-16 Wed

#5833. YouTube で「英語史をお茶の間に」 --- 3つの再生リストをご紹介 [youtube][heltube][inohota][helkatsu][voicy][heldio][hellog-radio][heltalk][sobokunagimon][notice]

 新年度,英語史の学びを始める/続ける方も多いと思います.私は「英語史をお茶の間に」をモットーに様々な媒体で,英語史の情報をお伝えしています.英語史の学びを促す活動を「hel活」 (helkatsu) と呼んでいますが,最近もっとも伸びているhel活の媒体が YouTube です.
 2つの YouTube チャンネルを運営しており,各々の内部でいくつかの再生リストが用意されています.煩雑にならないよう,ここでは3つの厳選お薦め再生リストを示したいと思います.

 1. 「【再配信】 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の再生リスト

   毎朝6時頃に配信.4年弱続いている Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」を,YouTube で再放送しているものです.3年ほど遅れて,初回から1つずつ配信を重ねています.ここ数ヶ月ほど,視聴回数がぐんぐん伸びています.ちなみに今朝の配信回は「#270. cheap の語源」です.



 2. 「【再配信】 hellog-radio --- 英語史小ネタ」の再生リスト

   同じく毎朝6時頃に配信.上記 Voicy heldio の前身として2020年度に不定期で音声配信してきた hellog-radio の全62回を,目下毎日1回ずつ再放送しています.ちなみに,今朝の配信回は「#42. <x> の不思議あれこれ」です.参考までに「#5806. heldio の前身「hellog-radio」で一軍級の素朴な疑問を取り上げています」 ([2025-03-20-1]) もお読みください.



 3. 「いのほた言語学チャンネル」・堀田回の再生リスト

   同僚の英語学研究者,井上逸兵先生と毎週水・日の午後6時に配信している「いのほた言語学チャンネル」(旧「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」)より,堀田がメインで英語史について語っている回を集めた再生リストです.ちなみに,最新の配信回は「#325. English ということばをここまで掘り下げました」です(5000回以上視聴されています).



 いずれのチャンネルも視聴回数が伸びています.ぜひチャンネル登録の上,定期的にご覧になり,英語史の学びに活かしていただければ.

Referrer (Inside): [2025-05-07-1]

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2025-03-25 Tue

#5811. なぜ wind は短母音を示すのか? (3) [sobokunagimon][vowel][gvs][emode][variation][emode][orthoepy][orthography][variation]

 標記の問題について,「#5808. なぜ wind は短母音を示すのか?」 ([2025-03-22-1]) と「#5810. なぜ wind は短母音を示すのか? (2)」 ([2025-03-24-1]) で考えてきた.前者の記事で引いた OED の説明書きで Dobson が言及されていたので,そちらに当たってみた.Dobson (Vol. 2, §12) は,初期近代英語期における前舌高母音の長短の変異について,wind や関連する単語の事例を挙げながら論じている.議論の一部を引用しよう.

The variation occurs chiefly before OE lengthening groups. The most important class of word is those in -ind, which are normally recorded with ME ī; but there is some evidence of variation. Smith gives 'uīnd or uind' for wind sb. Mulcaster has ĭ in wind and bind against ī in kind, find, mind, and hind. Bullokar transcribes find with ī but rhymes it on ĭ. Coote says that some pronounce blind, find, and behind short, while others pronounce them long; Young's 'homophone' list shows variation in find. Hodges says that 'som men cal the winde, the wind'. It is clear that the variation was most common in wind, which has now come to have the short vowel; but in the sexteenth and seventeenth centuries it was more usually pronounced with ME ī given by Levins, Bullokar, Robinson, Gil, Willis, Wharton, Poole, J. Smith, Cooper, and Brown. Short ĭ (due to the separation of the n and d by the syllable-division) is apparently shown for winder by Fox and Hookes, who put it with window in their homophone list; but Bullokar has ī. (479)


 16--17世紀における -ind 語には,母音の長短の揺れがあったことがわかる.とりわけ問題の wind については揺れが激しかったようだ.個々の話者によっても,また時代や使用域によっても,揺れがあったにちがいない.当時の両発音の複雑な競合が,現代標準英語では「不規則」に思われる短母音に帰結してしまったということで,言語変異・変化の不思議さを思わずにはいられない.

 ・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.

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2025-03-24 Mon

#5810. なぜ wind は短母音を示すのか? (2) [sobokunagimon][vowel][diphthong][gvs][homorganic_lengthening][homonymy][homonymic_clash][homophony]

 一昨日の記事「#5808. なぜ wind は短母音を示すのか?」 ([2025-03-22-1]) で取り上げた話題の続編.
 英語音韻史の専門家 Minkova (168--69) は,同器性長化 (homorganic_lengthening) について解説する文脈で,問題の wind /wɪnd/ に触れており,短母音実現の特殊性を指摘している.

   The third cluster associated with Homorganic Cluster Lengthening is [-nd]. The long-term effect of this cluster is limited. It applies systematically only to the high vowels [i] and [u].

(7) OE <-ind> and <und> lengthening:

Early OE ME
blind [blind] blind [blnd] 'blind'
grindan [grindən] grind(en) [grndən] 'grind'
(be)hindan [-hindən] bihinde [-hnd(ə)] 'behind'
grund [grund] ground [grnd] 'ground'
hund [hund] hound [hnd] 'hound'
pund [pund] pound [pnd] 'pound'

The pair wind, n. - wind, v. is a special case, probably best explained on the grounds of homophony avoidance. Rhyme evidence suggests that the forms were actually homophonous into the late seventeenth century. The restriction of the lengthening effect to the high vowels leaves a whole set of common OE lexemes such as band, hand, land, sand, bend, blend, end, rend, send, spend, tender, wend with short vowels in PDE.


 Minkova は,同音異義衝突 (homonymic_clash) による説明を示唆しているものの,強く主張しているわけではない.しかし,高母音について体系的に作用した同器性長化の事例を多数見るにつけ,その集団から逸脱しているかのような wind /wɪnd/ の特殊性が浮き彫りになり,この解説の有意義さが改めて確認される.
 高母音として i のみならず u も平行的に考えるとすると,例えば「なぜ fund は短母音を示すのか?」も同様に問われてよいことになろう.調べ始めると視野が広がってくる.

 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

Referrer (Inside): [2025-03-25-1]

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2025-03-22 Sat

#5808. なぜ wind は短母音を示すのか? [sobokunagimon][vowel][diphthong][gvs][homorganic_lengthening][homonymy][homonymic_clash][oed][homophony]

 先日,ヘルメイトの ari さんが note で「#227【深掘り】-ind と -ing の発音の違い,あるいは wind の発音について」と題する記事を書かれていた.いくつかの問題が取り上げられているが,とりわけ wind (風)が /wɪnd/ と短母音で発音されるのはなぜか,という問いが興味深かった.確かに歴史的に予想される形は2重母音をもつ */waɪnd/ となりそうなものだし,実際に同綴異義語の wind (曲がりくねる)は /waɪnd/ の発音なので,不思議である.
 ari さんも部分的に引用されているが,OEDwind (n1) の発音の歴史に関する注をフルで引用しよう.

Pronunciation

The phonological development of this word differs from that of nouns with a similar phonological shape in Middle English, such as hind n.1 and rind n.1, and similarly the verb wind v.1 These show the result of lengthening of the vowel before the homorganic consonant cluster -nd in Old English. The evidence of the early modern orthoepists shows that there was considerable variation in early modern English between pronunciations with a short vowel or a long vowel (or its diphthongal reflex after the operation of the Great Vowel Shift); this variation appears to have been unusually persistent in the case of the present word (compare discussion in E. J. Dobson Eng. Pronunc. 1500--1700 (ed. 2, 1968) vol. II. §12), for which the pronunciation with a short vowel is the one that became usual in later standard English. Until the 18th cent. the diphthongal pronunciation appears to have been more usual, but by the end of the century had been largely supplanted in ordinary speech by the short-vowel pronunciation. Walker (1791), while listing both, puts the pronunciation with short vowel first, and notes: 'These two modes of pronunciation have been long contending for superiority, till at last the former seems to have gained a compleat victory, except in the territories of rhyme.' The poetic convention allowing rhyming use of the diphthongal pronunciation continued well into the 19th cent. (compare e.g. quot. 1811 at Phrases P.1n.ii, quot. 1820 at spring n.1 III.17a).

The preservation of the short vowel in this particular word is difficult to account for; it may have been aided by the large number of occurrences in compounds and derivatives, in which failure of vowel lengthening would have been more likely; it may also partly reflect a functional pressure to distinguish this word from wind v.1, which would otherwise have been homophonous. Frequent collocation with winter n.1 (with short vowel) could also have played a part.

Pronunciation with a diphthong (reflecting a Middle English long vowel) survives in some regional varieties and is occasionally reflected in forms such as wine and weind at α forms.


 この問題を理解するには,上記の OED の解説を正確に読み解く必要があり,そのためには英語の音韻史や語彙史の概要を知っていなければならない.とりわけ同器性長化 (Homorganic Lengthening; homorganic_lengthening),大母音推移 (Great Vowel Shift: gvs),同音異義衝突 (homonymic_clash) に関する理解が欠かせない.
 OED でも明確な答えは出ていないので,このブログでももう少し調べていきたい.(ari さん,話題提供ありがとうございました.)

Referrer (Inside): [2025-03-25-1] [2025-03-24-1]

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2025-03-20 Thu

#5806. heldio の前身「hellog-radio」で一軍級の素朴な疑問を取り上げています [sobokunagimon][helkatsu][hellog-radio][heldio][heltalk][heltube]

 本ブログの姉妹版・音声版として,毎朝6時に Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」を配信しています.heldio は2021年6月2日に開始したチャンネルですが,実はその前身として「hellog-radio」という個人的な音声シリーズを前年の2020年6月23日より不定期で公開していました.その一覧はこちらのページの下部からご覧になれます.ただし,当時は特別な音声配信プラットフォームを利用しておらず,HP上に音声ファイルを直置きしていただけなので,聴かれる機会は多くありませんでした.
 「hellog-radio」は62件の英語史小ネタからなる音声配信のシリーズで,選りすぐりの一軍級の「英語に関する素朴な疑問」が集まっています.そのまま寝かせておいてはもったいないと思い,2週間前の3月6日から毎朝6時前後に1つずつ,再放送の体で公開し始めています.いくつかのプラットフォームよりアクセス可能ですので,お好きなところからどうぞ.

 ・ YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」の再生リスト「【再配信】 hellog-radio --- 英語史小ネタ」
 ・ stand.fm 「英語史つぶやきチャンネル (heltalk)」内で配信回タイトルに「hellog-radio」がついているもの
 ・ 上記の Spotify (Video) Podcast 版

 「hellog-radio」再放送については,heldio の一昨日の回「#1388. heldio の前身「hellog-radio」なるものを YouTube で再放送しています」でもお話ししているので,ぜひお聴きください.この配信回のインフォグラフィックも掲載しておきます.




hellog-radio ?????冗?????????ャ?????


Referrer (Inside): [2025-05-07-1] [2025-04-16-1]

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2025-03-08 Sat

#5794. 英文法用語としての準動詞 [verb][verbid][participle][gerund][infinitive][terminology][sobokunagimon][jespersen][voicy][heldio][pos]



 昨日と今朝の heldio にて,「#1377. 思い出の英文法用語 --- リスナーの皆さんからお寄せいただきました(前半)」「#1378. 思い出の英文法用語 --- リスナーの皆さんからお寄せいただきました(後半)」を配信しました.これは,2月24日にリスナー参加型企画として公開した「#1366. あなたの思い出の英文法用語を教えてください」のフォローアップ回でした.heldio リスナーの皆さんには,多くのコメントを寄せていただきましてありがとうございました.
 英文法用語といってもピンからキリまであります.基本的な用語から言語学の術語というべきものまで多々あります.レベルを気にせずに,とにかく思い出の/気になる/推しの/嫌いな用語を挙げてくださいという趣旨で,コメントを募りました.その結果を読み上げたのが,上掲の2つの配信回です.
 そのなかで準動詞という用語が何度か言及されていました.英語では verbalverbid と呼ばれますが,これはいったい何のことでしょうか.『新英語学辞典』の verbal を引いてみると,(1) として「準動詞」の解説があります.

(1) (準動詞)  不定詞 (infinitive),分詞 (participle),動名詞 (gerund) の総称.verbid ともいう.また非定形 (non-finite form),不定形 (infinite form),非定形動詞 (non-finite verb) ともいう.なお,準動詞が名詞的に用いられたものを名詞的準動詞 (noun verbal) または動詞的名詞 (verbal noun) といい,形容詞的用法のものを形容詞的準動詞 (adjective verbal) または動詞的形容詞 (verbal adjective) ということがある.I'm thinking of going./I wish to go. 〔名詞的準動詞〕//melting snow 〔形容詞的準動詞〕.


 言い換え表現や,さらに細かい区分の用語もあり,ややこしいですね.次に,OED の verbid (NOUN) を引いてみましょう.

Grammar. Somewhat rare.

A word, such as an infinitive, gerund, or participle, which has some characteristics of a verb but cannot form the head of a predicate on its own. Also: (with reference to certain West African languages) a bound verb with in a serial verb construction.

   1914 We shall..restrict the name of verb to those forms that have the eminently verbal power of forming sentences, and..apply the name of verbid to participles and infinitives. (O. Jespersen, Modern English Grammar vol. II. 7)
   . . . .


 OED での初例から,これが Jespersen の造語であることを初めて知りました.「#5782. 品詞とは何か? --- 厳密に形態を基準にして分類するとどうなるか」 ([2025-02-24-1]) で紹介した Jespersen の品詞論との関連からも,興味深い事実です.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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2025-03-07 Fri

#5793. 「ゆる言語学ラジオ」で pronounce/pronunciation の綴字問題が取り上げられました [youtube][yurugengogakuradio][voicy][heldio][sobokunagimon][spelling][spelling_pronunciation_gap][sound_change][u][vowel][diphthong]



 たびたびお世話になっている人気 YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最近の回で,「説明動画で満足しちゃダメ? なぜ原典を読むべきなのか?【おたより回】#394」が配信されました.
 視聴者からの質問を受けて水野さんと堀元さんがトークを繰り広げる回でしたが,その14:39辺りから,悪児戯罹(おにぎり)さんによる質問が披露されました.pronouncepronunciation のペアで,なぜ第2音節部分の綴字が <ou> と <u> で異なるのか,という素朴な疑問でした.
 悪児戯罹さんは,本ブログの「#2046. <pronunciation> vs <pronounciation>」 ([2014-12-03-1]) を見つけて読まれたようなのですが,難しくて分からなかったということで,水野さんが記事の内容をかみ砕いて説明するという構成となっていました.水野さんから,この回についてご連絡をいただきまして,私がいちばん驚きました(笑).
 問題の記事の内容については,水野さんがしっかりかみ砕いて説明してくださいまいした.関連して「#2043. 英語綴字の表「形態素」性」 ([2014-11-30-1]) にも言及していただきました.結果としては pronounce/pronunciation の綴字問題は例外的な現象なのだという趣旨の解説です.
 ここまでは私もリラックスしながら視聴していることができました.ところが,20:36辺りからの2人のやりとりを聞き,戦慄が走りました.

 - 堀元さん:なぜその例外が生まれたんですか?
 - 水野さん:ていうのの回答はここには書かれていない.
 - 堀元さん:気持ち悪いなあ,教えて欲しいな・・・

 まさにこの点が分からないからこそ記事では無言だったわけです.「ゆる言語学ラジオ」は痛いところを突いてきます.
 こうして10年ぶりに,この問題に再び頭を悩ますことになりました.丸一日いろいろと考えをめぐらせた後,必ずしも自信があったわけではないのですが,1つの仮説を立ててみました.それを Voicy heldio で配信したのが「#1370. 「ゆる言語学ラジオ」で取り上げられた pronounce vs. pronunciation の綴字問題」です.26分ほどの配信回ですが,お時間のある方はぜひお聞きください.少なくとも言語変化の複雑さだけは分かるのではないかと思います.



 この heldio の配信後,水野さんから,聴きましたとのコメントをいただきました.どうしても難しめの話しとなってしまい,悪児戯罹さんには届かないかもしれなのですが,これをまた水野さんにかみ砕いて解説していただければと(笑).

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2025-02-28 Fri

#5786. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか? --- いのほた YouTube 版 [youtube][inohota][voicy][heldio][personal_pronoun][sobokunagimon][link][notice]



 2月23日(日)に配信された YouTube 「いのほた言語学チャンネル」の回が,思いのほか多く視聴されています(本記事執筆時点で5,400回超え).「#313. 三人称代名詞の狭くて奥深い世界 --- get'em は get them の th が落ちたのではない!」です.英語の3人称代名詞の形態をめぐる,17分弱のトークとなっています.ぜひご覧ください.
 今回の動画における3人称代名詞への注目点は複数ありますが,第1に「なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか?」という英語に関する素朴な疑問が取り上げられました.これについては,hellog その他でも取り上げてきましたので,そちらもご参照ください.

 ・ 「#4080. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか?」 ([2020-06-28-1])
 ・ 「#4121. なぜ she の所有格と目的格は her で同じ形になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-08-08-1])

 次に,古英語の3人称代名詞のすべての形態が h で始まっていた点についても触れました.ところが,後の歴史でいくつかの形態において h が脱落したり別の子音に置き換えられたりしたのでした.参考までに,関連する hellog 記事を挙げておきます.

 ・ 「#467. 人称代名詞 it の語頭に /h/ があったか否か」 ([2010-08-07-1])
 ・ 「#4004. 古英語の3人称代名詞の語頭の h」 ([2020-04-13-1])

 3人称女性単数代名詞の方言形についても,動画で触れました.これについては以下の記事をどうぞ.

 ・ 「#793. she --- 現代イングランド方言における異形の分布」 ([2011-06-29-1])

 最後に,動画タイトルにある get'em については,以下の記事をお読みください.

 ・ 「#2331. 後期中英語における3人称複数代名詞の段階的な th- 化」 ([2015-09-14-1])
 ・ 「#2337. 16世紀,hem, 'em 不在の謎 (1)」 ([2015-09-20-1])
 ・ 「#974. 3人称代名詞の主格形に作用した異化」 ([2011-12-27-1])
 ・ 「#975. 3人称代名詞の斜格形ではあまり作用しなかった異化」 ([2011-12-28-1])

 英語史は英語に関する素朴な疑問に答えるのが得意です.しかし,英語史の枠内にとどまっていては解決できない問いも多くあります.英語史からさらに遡ってゲルマン語史や印欧語史にも目配りする必要が,しばしば生じます.この「拡大版英語史」が何よりも魅力的ですね.
 今回の動画が人気回となったので,便乗して Voicy heldio でも一昨日「#1368. 3人称代名詞に関するもう1つのナゾ --- いのほた最新回がよく視聴されています」を配信しました.こちらも合わせてお聴きいただければ.


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2025-01-06 Mon

#5733. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 年末ヴァージョン with 小河舜さん [senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][hel_education]



 昨年末の12月26日(木)の午後,小河舜さん(上智大学)とともに,大学生から寄せられていた質問を話題に,Voicy heldio の生配信で,何度目かになる「千本ノック」 (senbonknock) をお届けしました.そのアーカイヴ版を,一昨日配信しましたので,ご案内します.「#1315. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- 年末ヴァージョン with 小河舜さん(生配信)です.55分ほどの回となっています.以下に,参考のため,寄せられた質問と本編チャプター内での対応する分秒を一覧します.今回回答したのは8問のみですが,各々の話題を2人で縦に横に広げてトークしましたので,全体として充実した回となっていると思います.じっくりとお聴きいただければ.

 (1) 02:35 --- 英語語彙における借用語は,ヨーロッパ起源のものが中心で,アメリカやアフリカ起源のものはあるのでしょうか?
 (2) 09:15 --- 「help 人 (to) do」の構文で to が付かなかったりするのは,言語の単純化によるものなのでしょうか?
 (3) 13:05 --- 日本語では「和語」「漢語」「外来語」を瞬時に弁別でき,ニュアンスの傾向も分かりますが,英語の native words と loan loanwords には,このような傾向はあるのでしょうか?また,英語話者はそれらを瞬時に弁別できるのでしょうか?
 (4) 20:25 --- 文法性が存在することのメリットは何なのでしょうか? 現代英語のように性がない方がスッキリしているように感じます.また,文法性はどのように決まったのでしょうか?
 (5) 28:09 --- 動詞に付く3人称「単数」現在が -s で,名詞に付く「複数」も -s ということが,英語を学び始めたときに不思議だなと思いました.
 (6) 33:10 --- yes/no question は文末上げ調子になるのに対し,wh-question は通常下げ調になるのはなぜでしょうか? 現在のイントネーションになったのはいつ頃でしょうか? ([追加の投げ込み質問として]question mark はいつ頃から使われるようになったのですか?)
 (7) 44:07 --- アポストロフィーは短縮形だけでなく Mary's のように所有格でも使われます。また CD の複数形として CD's の形もあると聞いたことがあります.アポストロフィの使われ方の歴史を知りたいです.
 (8) 48:59 --- 現代英語は地域的にも社会的にもバリエーションが豊富にありますが,特定の表現がどの地域でどのような方々に使われているのかを検索できるようなツールはありますか?

 今年もいろいろな形で「千本ノック」をやっていきたいと思います.皆さんもぜひ投げ込み用に素朴な疑問を温めておいていただけますと幸いです.

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2024-12-18 Wed

#5714. 佐久平千本ノック [helkatsu][senbonknock][sobokunagimon][voicy][heldio][helwa][helmate][hel_education]

 12月8日,長野県佐久平にて英語に関する素朴な疑問に回答する「千本ノック」 (senbonknock) の企画を開催しました.heldio/helwa のコアリスナーであるみーさんがホストを務めてくださり,初の地方開催での千本ノック,かつ質問者が小中学生である千本ノックが実現した次第です.15名の小中学生,およびその保護者の方々が会場に集まり,生徒さんたちに事前に考えておいてもらった16の質問を題材に,私が80分ほどお話しさせていただきました.同席されたもう1人のコアリスナー Grace さんが,後日,同イベントへの潜入ルポというべき note 記事「佐久平オフ会(千本ノック)レポ」を書かれています.
 小中学生から寄せられた疑問をもとに,ぶっつけ本番で千本ノックを敢行しました.大人相手とは異なり質問の角度も鋭角ですし,回答するにも専門用語は使えず,あくまで平易な言葉で分かりやすく答えなければなりません.事前に予想はしていたものの,私にとっては予想以上に難易度の高い課題でした.しかし,非常に多くの気づきを得られたことも確かです.教育上のみならず学術的にも示唆に富んだ質問がいくつかあり,当たり前に思っていた現象を再考察する機会となりました.
 今回の佐久平千本ノックの一部始終は,当日の Voicy heldio で生配信しました.後日,それを前半(小学生版)と後半(中学生版)の2回に分割して,アーカイヴとしても配信しました.収録時の問題で,ところどころ聞こえにくいところはありますが,ご容赦ください.以下に,聴取の便のため,寄せられた質問と本編チャプター内の対応する分秒を一覧します.

【前半:小学生部門(約60分) 「#1289. 佐久平千本ノック (1) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」



 (1) 03:12 --- なぜ1のワンは one と書くの?
 (2) 08:16 --- なぜ筆記体ができたの?
 (3) 12:17 --- なぜ大文字と小文字で違う形の文字があるの?
 (4) 18:31 --- アルファベットの形はどんな理由で決まったの?
 (5) 22:13 --- なぜ deer, sheep, fish の複数形には -s がつかないの?
 (6) 27:40 --- なぜ c と k で同じ発音をするの?
 (7) 32:04 --- なぜ bottle の発音は t を読まないの?
 (8) 36:38 --- なぜ c は「ク」とか「キャ」と読むのですか?
 (9) 41:35 --- なぜ knife の k は読まないのですか?
 (10) 45:10 --- なぜ英語が世界共通語なのですか?

【後半:中学生部門(約48分) 「#1292. 佐久平千本ノック (2) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」



 (11) 00:55 --- be 動詞が主語に応じて is, am, are と形を変えるのはなぜですか?
 (12) 08:40 --- 序数の形について,なぜ first, second, fifth は変な形なのですか?
 (13) 15:32 --- 疑問文で does が出ると動詞の -s がなくなるのはなぜですか?
 (14) 22:19 --- 英語やアルファベットは誰が作ったのですか?
 (15) 27:14 --- なぜ接続詞の that は省略できるの?
 (16) 33:12 --- なぜ be 動詞と一般動詞は一緒に使えないのですか?

 佐久平千本ノックに参加した小中学生と保護者の皆さん,本当に大きなインスピレーションをいただきました.あらためて感謝申し上げます.

Referrer (Inside): [2024-12-29-1]

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