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sobokunagimon - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-02-28 15:58

2022-01-24 Mon

#4655. 動詞の「相」って何ですか? [aspect][tense][category][sobokunagimon][verb][terminology][perfect][progressive]

 多くの言語には,時間 (time) に関連する概念を標示する機能があります.まず,日本語にも英語にもあって分かりやすいのは時制 (tense) という範疇 (category) ですね.過去,現在,未来という時間軸上のポイントを示すアレです.
 もう1つ,よく聞くのが (aspect) です.aspect という英単語は「局面,側面,様態,視座,相」ほどを意味し,いずれで訳してもよさそうですが,最も分かりにくい「相」が定訳となっているので困ります.難しそうなほうが学術用語としてありがたがられるという目論見だったのでしょうかね.あまり感心できませんが,定着してしまったものを無視するわけにもいきませんので,今回は「相」で通します.
 さて,aspect や「相」について参考書を調べてみると,様々な定義や解説が挙げられていますが,互いに主旨は大きく異なりません.

動詞に関する文法範疇の一つで,動詞の表わす動作・状態の様相のとらえ方およびそれを示す文法形式をいう.(『新英語学辞典』, p. 96)


The grammatical category (expressed in verb forms) that refers to a way of looking at the time of a situation: for example, its duration, repetition, completion. Aspect contrasts with tense, the category that refers to the time of the situation with respect to some other time: for example, the moment of speaking or writing. There are two aspects in English: the progressive aspect ('We are eating lunch') and the perfect aspect ('We have eaten lunch'). (McArthur 86)


A grammatical category concerned with the relationship between the action, state or process denoted by a verb, and various temporal meanings, such as duration and level of completion. There are two aspects in English: the progressive and the perfect. (Pearce 18)


 半年ほど前のことですが,オンライン授業の最中に,学生よりズバリ「相」って何ですかという質問がチャットで寄せられました.そのときに次の即席の回答をしたことを思い出しましたので,こちらに再現します.授業中ということもあり,その場での分かりやすさを重視し,カジュアルで私的な解説にはなっていますが,かえって分かりやすいかもしれません.

相が時制とどう違うか,という内容の問題でしょうかね? そうするとけっこう難しいのですが,よく言われるのは「相」は動詞の表わす動作の内部時間の問題,「時制」は動詞の表わす動作の外部時間の問題とか言われます.
 例えば jump 「跳ぶ」の外部時間は分かりやすくて「跳んだ」「跳ぶ」「跳ぶだろう」ですね.内部時間というのは,「跳ぶ」と一言でいっても,脚の筋肉を緊張させて跳び始めようかなという段階(=相)もあれば,実際跳び始めてるよという段階(=相)もあるし,跳んでいて空中にいる最中の段階(=相)もあれば,跳び終わって着時寸前の段階(=相)もあれば,跳び終わっちゃった段階(=相)もあるというように,今の例では少なくとも5段階くらいあるわけです.スローモーションの画像のどこで止めようかという話しです.この細かい段階を表わすのが「相」です.時間が関わってくる点では共通していますが,「時制」とは別次元の時間の捉え方ですよね.


 言語における「相」の概念の一部のみをつかんだ取り急ぎの解説にすぎませんが,参考になれば.
 もう少し本格的には「#2747. Reichenbach の時制・相の理論」 ([2016-11-03-1]) も参照.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

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2022-01-23 Sun

#4654. either は片方なのか両方なのか問題 [sobokunagimon][pronoun][adjective][dual][logic][semantics][contronym][khelf]

 一昨日の記事「#4652. any が「どんな?でも」を表わせるように either は「いずれの?でも」を表わせる」 ([2022-01-21-1]) でもすでに取り上げましたが,標記は目下私のゼミを中心とする khelf (= Keio History of the English Language Forum) メンバーの間で熱い議論の対象となっている問題です.
 either は,2者のうちのいずれかを選ぶ「片方」の意味を表わすというイメージが強いと思いますが,実は「両方」の意味を表わすケースもあるという問題です.一種の contronym の例といえます.
 『コンパスローズ英和辞典』の either より,それぞれに対応する語義1と語義2を引用しましょう.

--- (形)[単数形の名詞につけて]
(1) (2つ[2人]のうち)どちらか(一方)の;どちらの…でも,どちらでも任意の
   Take either apple.|どちらかのりんごを取りなさい
   You may invite either boy.|どちらの少年を招待しても結構です.
. . . .
(3) どちらの…も,両方の
   There was a chair at either end of the long table.|長いテーブルの両端にそれぞれいすが置かれていた.

(語法)3の意味では特に side, end, hand など対を表わす名詞と用いるが, 次の例のように both(+複数名詞)や each(+単数名詞)を用いることも多い.both は「両方」を同時にまとめて,either, each は「片方」 ずつそれぞれを個別に捉える感じとなる
   There were chairs at both ends of the long table.
   There was a chair at each end of the long table.


 either A or B という高頻度の相関表現がありますし,一般には (1) こそが either の原義だと捉えられていると思いますが,歴史的にみれば驚くことに (3) のほうが古いのです.OED によれば,(3) は古英語から普通に見られる語義ですが,(1) は中英語後期になってようやく現われる新参語義です.
 どうしてこんなことになってしまったのでしょうか.よく似た形態の outher という語とややこしい関係に陥ってしまったという事情があるようです.関連して「#945. either の2つの発音」 ([2011-11-28-1]) もご参照ください.

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2022-01-22 Sat

#4653. 可算名詞と不可算名詞の区別は近代英語期にかけて生じた [noun][countability][semantics][sobokunagimon][article][hc][category]

 先日「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) の記事を投稿したところ,読者の方より関連する論文がある,ということで教えていただきました.私の寡聞にして存じあげなかった Toyota 論文です.たいへんありがたいことです.早速読んでみました.
 論文の主旨は非常に明快です.Toyota (118) の冒頭より,論文を要約している文章を引用します.

Our main question is about how the distinction between mass and count nouns evolved. Earlier English surprisingly has a relatively poor counting system, the distinction between count and mass nouns not being clear. This poor distinction in earlier English has developed into a new systems of considering certain referents as mass nouns, and these referents came to be counted differently from those considered as count nouns. There are various changes involved in this development, and it is possible that factors like language contact caused the change. This view is challenged, asking whether other possibilities, such as a change in human cognition and the world-view of speakers, also affected this development.


 同論文によれば,古英語から初期中英語までは,可算性 (countability) に関する区別は明確にはなかったということです(その種のようなものはあったのですが).これは,可算性の区別をつけていなかったと考えられる印欧祖語の特徴の継承・残存と考えてよさそうです.
 ところが,後期中英語から,とりわけ初期近代英語期にかけて,突如として現代に通じる可算性の区別がつけられるようになってきました.背景には,すでに可算性の区別を獲得していたラテン語やフランス語からの影響が考えられますが,それだけでは比較的短い期間内に明確な区別が生じた事実を十分には説明できません.そこで,言語接触により触発された可能性は認めつつも,内発的に英語における「世界観」(弱めにいえば「名詞の分節基準」ほどでしょうか)が変化したのではないか,と Toyota は提言しています.
 Helsinki Corpus による経験的な調査として注目に値します.仮説として立てられた「世界観」の変化を実証するにはクリアしなければならない問題がまだ多くあるように思いましたが,それでも,たいへん理解しやすい野心的な試みとして読むことができました.私も,俄然この問題に関心が湧いてきました.

 ・ Toyota, Junichi. "When the Mass Was Counted: English as Classifier and Non-Classifier Language." SKASE Journal of Theoretical Linguistics 6.1 (2009): 118--30. Available online at http://www.skase.sk/Volumes/JTL13/pdf_doc/07.pdf .

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2022-01-20 Thu

#4651. なぜ fire から派生した形容詞 fiery はこの綴字なのですか? [sobokunagimon][spelling][pronunciation][adjective][gvs][vowel][syllable][analogy][suffix]

 この素朴な疑問は私も長らくナゾだったのですが,最近ゼミの学生に指摘してもらう機会があり,改めて考え出した次第です.fire に派生接尾辞 -y を付すのであれば,そのまま *firy でよさそうなものですが,なぜ fiery となるのでしょうか.expireexpiry, miremiry, spirespiry, wirewiry などの例はあるのですが,firefiery のタイプは他に例がないようなので,ますます不思議です.
 暫定的な答え,あるいはヒントとしては,近代英語期に fire が1音節ではなく2音節で,fiery が2音節ではなく3音節で発音されたことが関係するのではないかと睨んでいます.
 教科書的にいえば,中英語の [fiːr], [ˈfiː ri] は大母音推移 (gvs) を経て各々 [fəɪr], [ˈfəɪ ri] へ変化しました.長母音が2重母音に変化しただけで,音変化の前後でそれぞれ音節数に変化はありませんでした.
 しかし,語幹末の r の影響で,その直前に渡り音として曖昧母音 [ə] が挿入され,それが独立した音節の核となるような発音が,初期近代英語期には変異形として存在したようなのです.要するに fi-er, fi-e-ry のようなプラス1音節の異形態があったということです.似たような音構成をもつ語について,その旨の報告が同時代からあります.Jespersen (§11.11)の記述を見てみましょう.

The glide before /r/ was even before that time [= 1588 or †1639] felt as a distinct vowel-sound [ə], especially after the new diphthongs that took the place of /iˑ, uˑ/. This is shown by the spelling in some cases after ow: shower < OE scūr bower < OE būr . cower < Scn kūra . lower by the side of lour < Scn lūra 'look gloomy'. tower < F tour; cf. on flower and flour 3.49. Thus also after i in brier, briar, frier, friar, ME brere, frere; fiery, fierie, fyeri (from the 16th c.) for earlier fyry, firy. The glide-vowel [ə] is also indicated by Hart's phonetic spellings 1569: [feiër/ fire (as /heiër/) higher) . /meier/ mire /oˑer/ oar . [piuër] pure . /diër/ dear . [hier/ here (hie r, which also occurs, many be a misprint).


 要するに,fire の形容詞形に関する限り,もともとは発音上2音節であり,綴字上も2音節にみえる由緒正しい firy もあったけれども,初期近代英語期辺りには発音上渡り音が挿入されて3音節となり,綴字上もその3音節発音を反映した fiery が併用されたということのようです.そして,もとの名詞でも同じことが起こっていたと.
 ところが,現代英語の観点から振り返ってみると,名詞では渡り音を反映していないかのような fire の綴字が標準として採用され,形容詞では渡り音を反映したかのような fiery の綴字が標準として採用されてしまったように見えます.どうやら,英語史では典型的な(というよりも,お得意の)「ちぐはぐ」が,ここでも起こってしまったということではないでしょうか.
 あるいは,意味上の「激しさ」つながりで連想される形容詞 fierce との綴字上の類推 (analogy) もあったかもしれないと疑っています.いかがでしょうか.
 上の引用でも触れられていますが,flowerflour が,同語源かつ同じ発音でありながらも,異なる綴字に分化した事情と,今回の話題は近いように思われます.「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]),「#2440. flower と flour (2)」 ([2016-01-01-1]),および 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」 (heldio) も参照ください.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. London: Allen and Unwin, 1909.

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2022-01-19 Wed

#4650. 抽象名詞は形容詞に修飾されると可算名詞になりやすい? [noun][countability][adjective][article][sobokunagimon]

 昨日の記事「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) と関連して,ゼミ大学院生が興味深い疑問を振ってくれたので,ここで考えてみたい.
 通常,抽象名詞は不可算名詞として不定冠詞 a(n) を取らないが,形容詞で修飾される場合には具体性を帯び,不定冠詞を伴うことがあるといわれる.例を挙げれば,"Ours was a very happy marriage." "The book was a great success." のようなケースである.
 一方,形容詞を伴っても原則として不定冠詞を取らない「頑固な抽象名詞」もある.院生が言及してくれた『ロイヤル英文法』 (93) を参照していみると,次の語が列挙されていた.確かに good advice, remarkable progress, bitter weather などと不定冠詞は取らない.

advice, applause, behavior, conduct, damage, fun, harm, homework, information, luck, music, news, nonsense, progress, weather, wisdom, work


 この辺りの問題には合理的な説明を施すことは難しいようだ.Quirk et al. (§5.59)によると,不定冠詞が付き得る例文が3つ挙げられている.

Mavis had a good education.
My son suffers from a strange dislike of mathematics. <ironic>
She played the oboe with (a) remarkable sensitivity.


 このようなケースで不定冠詞が付き得る条件ははっきりしておらず,あくまで次のような場合には付きやすいという緩い傾向が指摘できるにとどまる.

(i) the noun refers to a quality or other abstraction which is attributed to a person;
(ii) the noun is premodified and/or postmodified; and, generally speaking, the greater the amount of modification, the greater the acceptability of a/an.


 標題が相当に難しそうな問題であることが分かってきた.

 ・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2022-01-18 Tue

#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか? [noun][countability][semantics][sobokunagimon][article][category]

 名詞の可算性 (countability) は現代英語における重要な問題だが,本ブログでまともに扱ったことがなかったことに気づいた.「#4335. 名詞の下位分類」 ([2021-03-10-1]),「#4214. 強意複数 (1)」 ([2020-11-09-1]),「#4215. 強意複数 (2)」 ([2020-11-10-1]),「#2808. Jackendoff の概念意味論」 ([2017-01-03-1]) 辺りで間接的に触れてきた程度である.私自身,この問題について歴史的に向き合ったことがなかったということもある.
 日本語母語話者として英語を学んできて,なぜこの単語は不可算名詞なのか,と疑問を抱いたことは一度や二度ではない.次に挙げる単語は,そのまま数えられそうでいて英語では数えられということになっており,強引に数えたい場合にはいちいち単位を表わす可算名詞を用いた表現にパラフレーズしなければならない.例えば Quirk et al. (§5.9)によると次の通り.

NONCOUNT NOUNCOUNT EQUIVALENT
This is important informationa piece/bit/word of information
Have you any news?a piece/a bit/an item of good news
a lot of abusea term/word of abuse
some good advicea piece/word of good advice
warm applausea round of applause
How's business?a piece/bit of business
There is evidence that . . .a piece of evidence
expensive furniturea piece/an article/a suite of furniture
The interest is only 5 percent.a (low) rate of interest
What (bad/good) luck!a piece of (bad/good) luck


 英語史の観点からの興味は,可算名詞と不可算名詞の区別がいつ頃生まれたのかということである.意味論的には,名詞の可算性の区別そのものは古英語期にもあったのだろうか.あくまで形式的にいえば,名詞の可算性が顕在化するのは,主として不定冠詞の用法が発達してからのことだろう.不定冠詞が厳密にいつ確立したかは議論のあるところだが,「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) で見たように中英語期以降であることは認めてよいだろう.それ以降は,不定冠詞が付くことができれば可算名詞であり,付くことができなければ不可算名詞であると判定し得るので,調査のしようがあるように思われる.では,上記の単語はその当初から不可算名詞だったのだろうか.そして,単位(可算)名詞を伴う表現もその当初からあったのだろうか.あるいは,可算・不可算の区別自体が,それ以降,徐々に発達してきたものなのだろうか.
 名詞の可算性の顕在化は,主に付随する不定冠詞の有無によって判定し得ると述べたが,それ以外の形式的な判定基準もあるかもしれない.例えば「#2697. fewa few の意味の差」 ([2016-09-14-1]),「#3051. 「less + 複数名詞」はダメ?」 ([2017-09-03-1]),「#3052. そのような用法は昔からあった,だから何?」 ([2017-09-04-1]),「#2035. 可算名詞は he,不可算名詞は it で受けるイングランド南西方言」 ([2014-11-22-1]) で取り上げたような議論も関連してくるのではないか.
 本格的に調べたことがないので,現時点で私に言えることはないが,少しずつ追いかけてみようと思う.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2022-01-15 Sat

#4646. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第11回「なぜ eleven, twelve というの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][numeral][metathesis]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の2月号のテキストが発売されました.本年度連載中の「英語のソボクな疑問」の第11回の話題は「なぜ eleven, twelve というの?」です.13から19までは X-teen という語形成で「X + 10」という構成原理がわかりやすいのですが,11と12については期待される *oneteen, *twoteen とはなりません.これはなぜなのでしょうか.

『中高生の基礎英語 in English』2022年2月号



 本ブログでは「#3279. 年度初めの「素朴な疑問」を3点」 ([2018-04-19-1]) にて,この問題に簡単に触れました.わからないことも多々あるのですが,そこでの説明を膨らませたのが今回の連載記事です.記事では,その他 thirteenfifteen についての謎にも迫っています.なぜ素直に *threeteen や *fiveteen とならないのか,という素朴な疑問です.ぜひテキストを手に取っていただければと思います.
 数詞というのは非常に身近な語彙ですが,eleven, twelve の問題に関わらず謎が多い語群でもあります.むしろ日常的で頻度が高すぎるからこそ,イレギュラーなことが多いのだろうと思われます.数詞の不思議については,本ブログでも numeral の各記事で取り上げてきましたので,そちらもご覧ください.

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2022-01-02 Sun

#4633. 2021年によく聴かれた「英語の語源が身につくラジオ」の放送 [link][sobokunagimon][notice][hel_education]

 昨年6月2日に音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.以後,毎日更新しています(cf. 「#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました」 ([2021-06-04-1])).前身の「hellog ラジオ版」も合わせてどうぞ.



 7ヶ月ほど続けてきましたが,最もよく聴かれている放送20件を以下に示します.たまに対談ものも織り交ぜています.本ブログの追補版として始めたのですが,収録となると毎日そこそこ気は張りますね.
 ちなみに,本日の放送は,この本日のブログ記事と連動させた2021年の放送の振り返りです.以下,正月の余暇にお聴きください.

 1. 「『英語の思考法』(ちくま新書)の著者、井上逸兵先生との対談」,9月17日放送,917回再生
 2. 「なぜ A pen なのに AN apple なの?」,6月2日放送,860回再生
 3. 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」,6月3日放送,655回再生
 4. 「なぜ否定語が文頭に来ると VS 語順になるの?」,8月28日放送,621回再生
 5. 「塵も積もれば山となる」に対応する英語の諺」,6月4日放送,548回再生
 6. 「対談 井上逸兵先生と「英語新書ブーム」を語る」,10月22日放送,430回再生
 7. 「なぜ月曜日 Monday はムーンデイではなくマンデイなの?」,6月7日放送,421回再生
 8. 「harassment のアクセントはどこに置けばいいの?」,6月5日放送,407回再生
 9. 「なぜ used to do が「?したものだった」なの?」,11月16日放送,397回再生
 10. 「なぜ one と書いてオネではなくてワンなの?」,6月8日放送,369回再生
 11. 「対談 英語史の入門書」,10月18日放送,353回再生
 12. 「forget, forgive の for- とは何?」,8月27日放送,353回再生
 13. 「one, only, any は同語源って知ってました?」,6月9日放送,334回再生
 14. 「対談 英語史×国際英語」,10月19日放送,333回再生
 15. 「meat のかつての意味は「食物」一般だった!」,6月6日放送,332回再生
 16. 「現在完了は過去を表わす表現と共起したらNG?」,8月23日放送,316回再生
 17. 「first の -st は最上級だった!」,6月10日放送,314回再生
 18. 「Japanese の -ese って何?」,11月12日放送,285回再生
 19. 「前置詞ならぬ後置詞の存在」,10月11日放送,284回再生
 20. 「英語とギリシア語の関係って?」,10月15日放送,277回再生

Referrer (Inside): [2022-03-13-1]

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2022-01-01 Sat

#4632. 2021年によく読まれた記事 [link][sobokunagimon][notice][hel_education]

 謹賀新年.今年も英語史に関する話題を広く長く提供し続ける「hellog?英語史ブログ」を続けていきます.引き続きよろしくお願いいたします.
 2021年に本ブログのどの記事が最もよく読まれたか,調べてみました.12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧ください(昨年版と一昨年版については,それぞれ「#4267. 2020年によく読まれた記事」 ([2021-01-01-1]) と「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) をどうぞ).
 「素朴な疑問」系の記事 (sobokunagimon) がよく読まれているようなので,その系列で上位に入っている50件ほどを以下に挙げておきます(各行末の数字は年間アクセス数).お正月の読み物(ラジオの場合は聴き物)としてどうぞ.

 ・ 「#4188. なぜ sheep の複数形は sheep なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-14-1]) (8159)
 ・ 「#4044. なぜ活字体とブロック体の小文字 <a> の字形は違うのですか?」 ([2020-05-23-1]) (7541)
 ・ 「#3717. 音声学と音韻論はどう違うのですか?」 ([2019-07-01-1]) (5679)
 ・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1]) (5164)
 ・ 「#1299. 英語で「みかん」のことを satsuma というのはなぜか?」 ([2012-11-16-1]) (4807)
 ・ 「#4017. なぜ前置詞の後では人称代名詞は目的格を取るのですか?」 ([2020-04-26-1]) (3126)
 ・ 「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]) (2937)
 ・ 「#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか?」 ([2019-03-17-1]) (2756)
 ・ 「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) (2696)
 ・ 「#2784. なぜアメリカでは英語が唯一の主たる言語となったのか?」 ([2016-12-10-1]) (2511)
 ・ 「#3747. ケルト人とは何者か」 ([2019-07-31-1) (2304)
 ・ 「#3677. 英語に関する「素朴な疑問」を集めてみました」 ([2019-05-22-1]) (2226)
 ・ 「#4272. 世界に言語はいくつあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-06-1]) (2120)
 ・ 「#2924. 「カステラ」の語源」 ([2017-04-29-1]) (1882)
 ・ 「#4069. なぜ live の発音は動詞では「リヴ」,形容詞だと「ライヴ」なのですか?」 ([2020-06-17-1]) (1845)
 ・ 「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) (1801)
 ・ 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) (1695)
 ・ 「#4196. なぜ英語でいびきは zzz なのですか?」 ([2020-10-22-1]) (1598)
 ・ 「#2618. 文字をもたない言語の数は? (2)」 ([2016-06-27-1]) (1591)
 ・ 「#2885. なぜ「前置詞+関係代名詞 that」がダメなのか (1)」 ([2017-03-21-1]) (1563)
 ・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1]) (1539)
 ・ 「#4233. なぜ quite a few が「かなりの,相当数の」の意味になるのか?」 ([2020-11-28-1]) (1529)
 ・ 「#4199. なぜ last には「最後の」と「継続する」の意味があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-25-1]) (1526)
 ・ 「#3648. なんで *He cans swim. のように助動詞には3単現の -s がつかないのですか?」 ([2019-04-23-1]) (1475)
 ・ 「#3017. industry の2つの語義,「産業」と「勤勉」 (1)」 ([2017-07-31-1]) (1447)
 ・ 「#3298. なぜ wolf の複数形が wolves なのか? (1)」 ([2018-05-08-1]) (1446)
 ・ 「#4304. なぜ foot の複数形は feet なのですか?」 ([2021-02-07-1]) (1404)
 ・ 「#11. 「虹」の比較語源学」 ([2009-05-10-1]) (1398)
 ・ 「#3941. なぜ hour, honour, honest, heir では h が発音されないのですか?」 ([2020-02-10-1]) (1395)
 ・ 「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1]) (1360)
 ・ 「#2105. 英語アルファベットの配列」 ([2015-01-31-1]) (1358)
 ・ 「#3852. なぜ「新橋」(しんばし)のローマ字表記 Shimbashi には n ではなく m が用いられるのですか? (1)」 ([2019-11-13-1]) (1350)
 ・ 「#3831. なぜ英語には冠詞があるのですか?」 ([2019-10-23-1]) (1337)
 ・ 「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) (1280)
 ・ 「#3588. -o で終わる名詞の複数形語尾 --- pianospotatoes か?」 ([2019-02-22-1]) (1270)
 ・ 「#4195. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-21-1]) (1262)
 ・ 「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1]) (1249)
 ・ 「#4389. 英語に関する素朴な疑問を2685件集めました」 ([2021-05-03-1]) (1224)
 ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1]) (1211)
 ・ 「#4186. なぜ Are you a student? に対して *Yes, I'm. ではダメなのですか?」 ([2020-10-12-1]) (1156)
 ・ 「#4026. なぜ JapaneseChinese などは単複同形なのですか? (3)」 ([2020-05-05-1]) (1122)
 ・ 「#3113. アングロサクソン人は本当にイングランドを素早く征服したのか?」 ([2017-11-04-1]) (1062)
 ・ 「#2891. フランス語 bleu に対して英語 blue なのはなぜか」 ([2017-03-27-1]) (1053)
 ・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]) (1012)
 ・ 「#47. 所有格か目的格か:myselfhimself」 ([2009-06-14-1]) (962)
 ・ 「#4219. なぜ DXdigital transformation の略記となるのか?」 ([2020-11-14-1]) (938)
 ・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1]) (936)
 ・ 「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1]) (925)
 ・ 「#2189. 時・条件の副詞節における will の不使用」 ([2015-04-25-1]) (920)
 ・ 「#146. child の複数形が children なわけ」 ([2009-09-20-1]) (890)

 新年は学び始めにふさわしい時期でもあります.英語史に関心をもった方,さらに関心をもちたい方は,「#4359. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!(2021年度版)」 ([2021-04-03-1]) および「なぜ英語史を学ぶか」の記事セットをご覧ください.
 また,本ブログとは別に,昨年の6月2日に音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.耳で学ぶ英語史として毎日配信していますので,こちらも是非お聴きください(cf. 「#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました」 ([2021-06-04-1])).

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2021-12-15 Wed

#4615. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第10回「なぜ英語には省略語が多いの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][abbreviation][shortening][blend][word_formation][morphology][japanese]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の1月号のテキストが発売となりました.連載中の「英語のソボクな疑問」の第10回は「なぜ英語には省略語が多いの?」です.piano, bus, cute, sport, Paralympics, AI, CEO, GDP, EU, USA などの英単語は,ほぼそのまま日本語にも入ってきている日常語といってよいですが,なんといずれも何らかの点で省略されている語なのです.それぞれオリジナルの長い形を復元できるでしょうか.かなり難しいのではないでしょうか.

『中高生の基礎英語 in English』2022年1月号



 英語にも日本語にもその他の言語にも省略語は存在します.すべてを口にするには長ったらしいけれども情報量が詰まっていて有用な表現というものは,たくさんあるものですね.そのような表現をぐっと約めて簡潔な1単語に省略できれば,便利に違いありません.言語には省略語が付きものです.
 省略の方法についていえば種類は限られています.連載記事で詳しく述べていますが,基本となるのは「切り落とし」「切り貼り」「イニシャル取り」の3種です.それぞれの例をたくさん挙げていますので,どうぞご覧ください.
 言語には省略語が付きものとは述べましたが,英語に関する限り,とりわけ20世紀以降におびただしい省略語が生み出されてきたという事情があります.過去にもまして現代は省略語の時代といってもよいほどです.なぜなのでしょうか.連載記事では,この謎解きも披露しています.

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2021-11-30 Tue

#4600. egges or eyren:なぜ奥さんは egges をフランス語と勘違いしたのでしょうか? [caxton][me_dialect][french][popular_passage][sobokunagimon][heldio]

 先日の講演「世界の "English" から "Englishes" の世界へ」でお世話になった立命館大学の岡本広毅先生より,たいへんおもしろい話題を提供してもらいました.William Caxton (1422?--91) の egges/eyren の逸話において,なぜ南部の農夫の奥さんは北部訛りを理解できないだけでなく,それを「フランス語」と勘違いしたのか,という疑問です.
 簡単に背景を解説しておきますと,史上初の英語の印刷家である Caxton が,1490年に出版した Eneydos の序文のなかで,英語方言に関する逸話が紹介されています.イングランド北部出身とおぼしき商人が,イングランド南部のテムズ川で船を停留させ,陸に上がって,ある農夫の奥さんに食事を求めたときの話しです.商人は egges (卵)を所望したのですが,奥さんはこの単語を理解せず,フランス語は分からないと答えました.商人は商人でフランス語など話していない,なぜ egges を理解できないのかと怒ったところ,別の者が割って入り,商人が言っている(北部方言の) egges とは(奥さんの理解する南部方言でいうところの) eyren のことだと解説してあげて一件落着といった小話しです.
 当時の英語の方言差を指摘しているメタコメントとして,英語史ではよく知られている逸話です.本ブログでも「#337. egges or eyren」 ([2010-03-30-1]) でそのくだりを中英語の原文で引用しました.改めて,以下に引用しておきます.

And one of theym named Sheffelde, a mercer, cam in-to an hows and axed for mete; and specyally axed after eggys. And the goode wyf answerde, that she coude speke no frenshe. And the marchaunt was angry, for he also coude speke no frensche, but wolde have hadde egges, and she understode hym not. And thenne at laste a nother sayd that he wolde have eyren. Then the gode wyf sayd that she understode hym wel. Loo, what sholde a man in thyse dayes wryte, egges or eyren?


 岡本先生の疑問は,なぜ南部の農夫の奥さんは北部訛りを理解できないだけでなく,それを「フランス語」と勘違いしたか,というものです.とてもおもしろい質問だと思い,私なりに考えてみました.
 まず根本的な点ですが,この逸話は事実に基づく話しというよりは,Caxton による創作ではないかという疑念があります.egges (北部方言)と eyren (南部方言)の方言分布は事実ですので,根も葉もない言説ではないとはいえ,小話しとしてうまくできすぎている感があり,多かれ少なかれ Caxton が「盛った」ネタである可能性が高いと考えています(語幹と複数形語尾の両形態素が方言間で相当異なるこの単語を意図的に選んだのではないか,という疑惑).ただ,もし創作だとしても,同時代の読者の間に当時の言語・方言事情の知識が共有されていることが前提となっているはずなので,「フランス語」を引き合いにして逸話におかしみを加えようとした狙いそのものは,読み解く価値がありそうです.
 では,なぜ奥さんは egges をフランス語と勘違いしたのでしょうか.おそらく商人は北部訛りで "Can I ask for eggs?" に相当する発言をしたのではないかと想像されます.奥さんは,肝心の eggs の部分は理解できずとも,その他の部分は訛っているけれども英語は英語だと認識できたはずなので,なぜこの人は肝心の部分だけ理解不能の単語で表現するのだろうといぶかしく思ったに違いありません.そこで,奥さんは,この理解不能の単語は当時のイングランドにおける筆頭外国語であるフランス語の単語に違いないと疑ってみたのではないでしょうか.
 奥さんが egges と聞いて,最初に英語の北部方言の単語ではなく,フランス語の単語と勘ぐった辺りが,話しとしてはおもしろいところです.南部方言話者の奥さんにとって,外国語であるフランス語よりも英語の北部方言のほうが理解不能だったということになるからです.それほどまでに英語の南部方言と北部方言は異なるのだということを,Caxton は示したかったのではないでしょうか.誇張といえば誇張のようにも感じられます.
 また,この逸話は,後期中英語期のイングランドにおける筆頭外国語がフランス語だったという前提をも示唆しているように思われます.ノルマン征服から3世紀以上経っており,もはやイングランドにおいてフランス語は公私の場ともに実用言語の地位をほぼ完全に失い,英語が完全復活を遂げていた時代ではありますが,フランス語はいまだ文化語としての威信は保っていました.ちょうど現代日本において英語が国際語として威信を保っているのと似たような状況です.現代日本で英語が筆頭外国語として位置づけられているのと同様に,後期中英語期のイングランドではフランス語が筆頭外国語として位置づけられていたわけです(cf. 「#2622. 15世紀にイングランド人がフランス語を学んだ理由」 ([2016-07-01-1])).奥さんも商人もフランス語はできなかったようですが,フランス語がイングランドの第1外国語であるという認識は共有しており,だからこそフランス語が引き合いに出されたということではないでしょうか.
 以上,私の解釈です.岡本先生,みなさん,いかがでしょうか.
 ちなみに,今回の話題と連動して,本日の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,上記の逸話を中英語の原文で読み上げてみました.ぜひお聴きください.


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2021-11-13 Sat

#4583. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第9回「なぜ英語の語順は SVO なの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][word_order][syntax][japanese]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の12月号のテキストが発売となりました.連載中の「英語のソボクな疑問」の第9回は「なぜ英語の語順は SVO なの?」について取り上げました.

『中高生の基礎英語 in English』2021年12月号



 6節からなる今回の連載記事の小見出しはそれぞれ以下の通りです.

 1. 「私」「話します」「英語」
 2. 世界の言語の語順
 3. 基本語順とは?
 4. 昔の英語は SVO ばかりではなかった!
 5. 「助詞」に相当するものが消えてしまって
 6. 語順というのは,割とテキトー!?

 英語は語順の言語ですね.日本語についての文法用語は多く知らずとも,英語について「5文型」や「SVO」などの用語を聞いたことのない人はいないのではないでしょうか.英文法といえば語順の文法のことだといって大きな間違いはありません.語の並べ方がしっかり決まっているのが英語という言語の著しい特徴です.
 しかし,です.確かに現代の英語は語順の言語といってよいのですが,歴史を遡って古い英語を覗いてみると,実は語順は比較的自由だったのです.英語のおよそ千年前の姿である古英語 (Old English) でも SVO 語順は確かに優勢ではあったものの,SOV も普通にみられましたし VSO などもありました.現代ほどガチガチに語順が決まっている言語ではなかったのです.
 私も初めてこの事実を知ったときには腰を抜かしそうになりましたね.英語は最初から語順の言語だったわけではなく,歴史を通じて語順の言語へ変化してきたということなのです.
 では,いつ,どのようにして,なぜ語順の言語となったのか.これは英語史における最も重要な問題の1つであり,その周辺の問題と合わせて今なお議論が続いています.
 今回の連載記事では,英語史におけるこの魅力的な問題をなるべく易しく紹介しました.どれくらい成功しているかは分かりませんが,少なくとも p. 132 の古英語の叙事詩『ベーオウルフ』にちなんだ主人公ベーオウルフと怪物グレンデルのイラストは必見!?(←イラストレーターのコバタさん,いつもありがとうございます)

Referrer (Inside): [2022-06-11-1]

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2021-10-17 Sun

#4556. 英語史の世界にようこそ [hel_education][notice][heldio][hellog-radio][sobokunagimon][link]

 学期の始めなので,標題のような「英語史の学びのエンカレッジ系」の記事が多くなります.最近では「#4546. 新学期の始まりに,英語史の学び方」 ([2021-10-07-1]) も書いており,本ブログの記事などに関連するリンクを多々張っていますので,詳しくは是非そちらもご覧ください.今回は先の記事から重要な6点のみピックアップし,改めて英語史への入り口を案内します.

(1) 私(堀田隆一)の考える「英語史の魅力」はズバリこれ.

 1. 英語の見方が180度変わる!
 2. 英語と歴史(社会科)がミックスした不思議な感覚の科目!
 3. 素朴な疑問こそがおもしろい!
 4. 英語が本当によく分かるようになる!

(2) 上記の「素朴な疑問こそがおもしろい!」は本当です.「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]) に挙げたような疑問が,英語史によりスルスルと解けていきます.それでも足りない方は「#4389. 英語に関する素朴な疑問を2685件集めました」 ([2021-05-03-1]) でどうでしょう!

(3) 本ブログ「hellog?英語史ブログ」は「英語史に関する話題を広く長く提供し続けるブログ」として2009年5月1日に立ち上げたものです.大学の英語史概説の講義に対する補助的な読み物を提供する趣旨で始めました.日々の記事の種類は多岐にわたり,英語を学び始めたばかりの中学生などを読者と想定した話題もあれば,大学院博士課程の学生を念頭においた学術的な話題もあります.書き手以外何を言っているか分からないという話題も少なくないと思います,失礼! それでも,ぜひ毎日タイトルだけでも目を通していれば,英語史のカバーする範囲の広さが分かってくると思います.毎日タイトルをお届けするツイッターアカウントもあります.

(4) 本ブログの姉妹版・音声版として「hellog ラジオ版 (hellog-radio)」(2020年6月23日?2021年2月7日に不定期で),および続編である「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」(2021年6月2日より現在まで毎日定期的に)を配信しています.hellog に比べ,話題は「英語に関する素朴な疑問」におよそ特化しています.各放送は10分以内の短い英語史ネタです.ぜひこれを聞くことを日課にどうぞ! ちなみに本日の放送では,上記 (1) を熱く語っています.



(5) 明後日10月19日は「TOEIC の日」.つい先日 TOEIC 事業などを手がける IIBC (一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)のインタビューを受けました.テーマは「英語はいかにして世界の共通語になったのか」という,英語(史)に関する究極の疑問の1つです.英語史超入門ともなっているこちらのインタビュー記事をどうぞ(cf. 「#4545. 「英語はいかにして世界の共通語になったのか」 --- IIBC のインタビュー」 ([2021-10-06-1])).

(6) 最後に私の選んだ「#4358. 英語史概説書等の書誌(2021年度版)」 ([2021-04-02-1]) をご覧ください.英語史を学び始めるには,なんといっても本を読むのが一番です.

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2021-10-15 Fri

#4554. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第8回「なぜ A の読みは「アー」ではなく「エイ」なの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][link][gvs]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の11月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」は第8回となっています.今回は英語の母音字の読みに関する,きわめて素朴な疑問「なぜ A の読みは「アー」ではなく「エイ」なの?」を取り上げています.

『中高生の基礎英語 in English』2021年11月号



 本ブログの読者の多くの方々は,この疑問が英語史でいうところの「大母音推移」 (gvs) に関わるものであることがお分かりかと思います.しかし,連載は中高生を対象読者とするものですので,この用語を持ち出すことは控えたいと考えました.そして,もちろん音声学の用語や概念なども前提とすることはできません.ということで,真正面から大母音推移の伝統的な説明を施すことはせず,なるべく易しく噛み砕いて伝えようと努めました.結果として,前舌母音のみの説明にとどめて後舌母音については触れないでおくなど,理解しにくくなりそうな部分を思い切って割愛しました.このような次第で,今回は私にとって1つの挑戦となりました(どのくらい成功しているかは分かりませんねえ).
 大母音推移の教科書的な説明としては本ブログの「#205. 大母音推移」 ([2009-11-18-1]) をどうぞ.もう少し詳しくは,拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』の1.3節と2.5節をご参照ください.専門的には gvs の各記事で扱っています.

 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.

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2021-10-07 Thu

#4546. 新学期の始まりに,英語史の学び方 [hel_education][sobokunagimon][link]

 今年度も後期が始まる時期となりました.年度初めの4月に,本ブログでは英語史の学びのモチベーションを高めるキャンペーンを張ったのですが,この学期初めの10月にも,改めて英語史の学びを促すべく広報したいと思います.
 まず,私が新年度あるいは新学期の初回の授業で必ず述べることにしている「英語史」の魅力4点を明記します.



--- 英語史の魅力 ---

(1) 英語の見方が180度変わる!

(2) 英語と歴史(社会科)がミックスした不思議な感覚の科目!

(3) 素朴な疑問こそがおもしろい!
 
(4) 現代英語に戻ってくる英語史




 以下に,上記4点とも密接に関わる,英語史の学びに役立つ本ブログからの記事をいくつか紹介します.

 ・ 「#4358. 英語史概説書等の書誌(2021年度版)」 ([2021-04-02-1]) --- 入門書から専門書までの厳選書誌
 ・ 「#4359. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!(2021年度版)」 ([2021-04-03-1]) --- この hellog の効果的な使い方の tips
 ・ 「#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました」 ([2021-06-04-1]) --- hellog の音声版というべき「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) を Voicy にて毎日配信中.1本10分未満で英語史の話題をお届けしています.
 ・ 「#4360. 英単語の語源を調べたい/学びたいときには」 ([2021-04-04-1]) --- 皆が関心をもつ英単語の語源の話題.自らどんどん調べてみてください.
 ・ 「#4361. 英語史は「英語の歴史」というよりも「英語と歴史」」 ([2021-04-05-1]) --- 上記の魅力 (2) に通じる話です
 ・ 「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]) --- 上記の魅力 (3) に通じる話です
 ・ 「#4389. 英語に関する素朴な疑問を2685件集めました」 ([2021-05-03-1]) --- おびただしい疑問の一覧は直接こちらからどうぞ
 ・ 「#4545. 「英語はいかにして世界の共通語になったのか」 --- IIBC のインタビュー」 ([2021-10-06-1]) --- 英語史に関する究極の疑問かもしれません.インタビューに基づいたわかりやすい解説になっています.直接こちらからどうぞ.
 ・ 「なぜ英語史を学ぶのか」の記事セット --- 様々な角度から検討してみました.「英語史って何のため?」 (heldio) でもしゃべっています.
 ・ 「#4417. 「英語史導入企画2021」が終了しました」 ([2021-05-31-1]) --- 今年度初めに企画した英語史の学びを応援するイベント.すでに終了していますが「英語史コンテンツ」とは何かがよく分かります.

 皆さん,今学期も実り多い学びを!

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2021-10-06 Wed

#4545. 「英語はいかにして世界の共通語になったのか」 --- IIBC のインタビュー [notice][hel_education][sobokunagimon][link][future_of_english][linguistic_imperialism]

 先日,TOEIC 事業などを手がける IIBC (一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会)の Newsletter 44号のために,標題についてのインタビューを受けました.10月19日が「TOEIC の日」に制定されたそうで,その特別企画としての取材でした.(関係者の皆様,夏の暑い時期でしたが,私の研究室までお運びいただきありがとうございました.)
 冊子体でも発行されているのですが,ウェブでも公表されています.こちらよりご一読ください.英語史超入門ともなっています.(ゲルマン語系統図や英語史略年表も,とてもきれいに作っていただきました.あ,それから写真も.)
 標題の素朴な疑問への答えはインタビュー記事を読んでいただければ分かるわけですが,かいつまんでいえば英米両国の覇権という社会的な要因がほぼすべてです.英語の語彙が豊かだからとか,文法が簡単だからとか,その他の英語の言語的特質に起因するものでは決してありません.この点は拙著や本ブログでも繰り返し主張してきました.以下は関連する記事群です.

 ・ 「#1072. 英語は言語として特にすぐれているわけではない」 ([2012-04-03-1])
 ・ 「#1082. なぜ英語は世界語となったか (1)」 ([2012-04-13-1])
 ・ 「#1083. なぜ英語は世界語となったか (2)」 ([2012-04-14-1])
 ・ 「#1607. 英語教育の政治的側面」 ([2013-09-20-1])
 ・ 「#1788. 超民族語の出現と拡大に関与する状況と要因」 ([2014-03-20-1])
 ・ 「#2487. ある言語の重要性とは,その社会的な力のことである」 ([2016-02-17-1])
 ・ 「#2673. 「現代世界における英語の重要性は世界中の人々にとっての有用性にこそある」」 ([2016-08-21-1])
 ・ 「#2935. 「軍事・経済・宗教―――言語が普及する三つの要素」」 ([2017-05-10-1])
 ・ 「#3470. 言語戦争の勝敗は何にかかっているか?」 ([2018-10-27-1])
 ・ 「#4279. なぜ英語は世界語となっているのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-13-1])

 インタビューの後半では,むしろ今後英語がどうなっていくのかという問題も熱く論じました.これについては future_of_english の記事群をどうぞ.

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2021-09-15 Wed

#4524. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第7回「なぜ know や high には発音されない文字があるの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][silent_letter][spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][link]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の10月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」も第7回となっています.今回の話題は「なぜ know や high には発音されない文字があるの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2021年10月号



 英語には綴字では書かれているのに発音されない文字というのがありますね.これは黙字 (silent_letter) と呼ばれ,英語に関する素朴な疑問の定番といってよい話題です.歴史的な由来としてはいろいろなパターンがあるのですが,最も多いのが,かつてはその文字がきちんと発音されていたというパターンです.昔の英語では,know は「クノウ」,high は「ヒーヒ」などとすべて文字通りに発音されていたのが,後に発音の変化により問題の音が消えてしまったというケースが多いのです.その一方で綴字は古いままに据え置かれ,現在までゾンビのように生き残っているというわけです.要するに,綴字が発音の変化に追いついていかなかったという悲劇ですね.
 今回の話題と関連して,以下の記事を発展編として読んでみてください.英語の綴字には,本当に黙字が多いです.

 ・ 「#4164. なぜ know の綴字には発音されない k があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-09-20-1])
 ・ 「#122. /kn/ で始まる単語」 ([2009-08-27-1])
 ・ 「#1095. acknowledge では <kn> が /kn/ として発音される」 ([2012-04-26-1])
 ・ 「#3675. kn から k が脱落する音変化の過程」 ([2019-05-20-1])
 ・ 「#1290. 黙字と黙字をもたらした音韻消失等の一覧」 ([2012-11-07-1])
 ・ 「#210. 綴字と発音の乖離をだしにした詩」 ([2009-11-23-1])
 ・ 「#1195. <gh> = /f/ の対応」 ([2012-08-04-1])
 ・ 「#2085. <ough> の音価」 ([2015-01-11-1])
 ・ 「#2590. <gh> を含む単語についての統計」 ([2016-05-30-1])
 ・ 「#2292. 綴字と発音はロープでつながれた2艘のボート」 ([2015-08-06-1])

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2021-08-18 Wed

#4496. two laps to go 「残り2週」の to go [sobokunagimon][infinitive][bnc]

 先日,ゼミ生より陸上競技などで「残り2周」というのに英語では two laps to go などと言われるのを聞いたということで,to go の用法について質問があった.時間,距離,その他の量などについて「残り○○」として一般に用いられる日常的なフレーズだが,どのような由来なのだろうか.
 OED の go, v. を調べてみると,語義 9c の下にこの用法が挙げられていた.挙げられている最初期の3例文とともに,以下に引用する.

c. intransitive. In the infinitive, used as a postpositive clause. Of a period of time: to be left, remain; to be required to elapse. Hence of a quantity of something: to remain to be dealt with.
     Earliest in the context of marine racing.
      Formally coincident with some uses of sense 2a(b): cf. quot. 1905 at that sense.


1881 'Rockwood' Stories Sc. Sports 91 Fifteen seconds to go, and it is all anxiety. Five seconds gone, and yet she is not there.
1892 J. G. Blaine Let. 26 Feb. in Fur-seal Arbitration: App. Case U.S. before Tribunal I. 354 Our consul at Victoria, telegraphs to-day that there are---Forty-six schooners cleared to date. Six or seven more to go.
1909 H. Sutcliffe Priscilla of Good Intent xvi. 241 There were five minutes to go before the signal for the start.


 初例が19世紀後半ということなので,決して古い表現ではない.現代競技スポーツの文脈から生まれた表現と考えてよさそうで,今回のゼミ生の気づきも偶然ではなかったことになる.
 go 「行く」という動詞は,古英語期より「(ある時間,距離,量を)進む,経る,踏破する,カバーする」ほどの語義で用いられてきた.例えば,現代英語でも "One of my favorite things to do was ice-skate on the beautiful St. Lawrence river... I'd go for miles and miles." などといえる.この用法の go が時間,距離,量を表わす表現の後ろに形容詞用法の不定詞として置かれ,「残り○○」の慣用表現を形成することになったのだろう.
 ちなみに,BNCweb で "_CRD (more)? _NN* to go" と検索してみると422例が挙がってきた.単位の名詞は minutes, hours, days, weeks, months, years などの時間を表わすものが多いが,feet, yards, miles などの距離を表わすもの,また laps, holes, fenses, games などスポーツ競技を連想させるものも散見される.

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2021-08-17 Tue

#4495. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第6回「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][comparison][adjective][adverb][suffix][periphrasis][link]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の9月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」も第6回となりましたが,今回の話題は「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2021年9月号



 これは素朴な疑問の定番といってよい話題ですね.短い形容詞なら -er,長い形容詞なら more というように覚えている方が多いと思いますが,何をもって短い,長いというのかが問題です.原則として1音節語であれば -er,3音節語であれば more でよいとして,2音節語はどうなのか,と聞かれるとなかなか難しいですね.同じ2音節語でも early, happy は -er ですが,afraid, famousmore を取ります.今回の連載記事では,この辺りの複雑な事情も含めて,なるべく易しく歴史的に謎解きしてみました.どうぞご一読を.
 定番の話題ということで,本ブログでも様々な形で取り上げてきました.連載記事よりも専門的な内容も含まれますが,こちらもどうぞ.

 ・ 「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1])
 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore か」 ([2021-06-25-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
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2021-08-08 Sun

#4486. coffee, cafe, caffeine [sobokunagimon][french][vowel][loan_word][turkish][arabic][assimilation][eebo]

 「コーヒー」は coffee /ˈkɒfi/ だけれども,その飲料に含まれる興奮剤の「カフェイン」は caffeine /ˈkæfiːn/ となる.最初の母音(字)が異なるのはなぜだろうか.こんな素朴な疑問が先日ゼミ生から寄せられた.確かになぜだろうと思って調べてみた.
 コーヒーは茶やビールなどと並んで世界で広く通用する文化語の1つである.飲用としてのコーヒーが文献上初めて現われるのは,10世紀前後のイスラムの医学書においてである.11世紀にアラブ世界で飲用され始め,13世紀半ばには酒を禁じられているイスラム教徒の間で酒に代わるものとして愛飲されるようになった.その頃から酒の一種の名前を取ってアラビア語で qahwa と呼ばれるようになった.16世紀にトルコのエジプト遠征を機に,この飲料はトルコ語に kahve として入り,1554年にイスタンブールに華麗なコーヒー店 Kahve Khāne が開かれた.
 ヨーロッパ世界へのコーヒーの導入は,16世紀後半にトルコを経由してなされた.17世紀になるとヴェネチアやパリなど各地に広まり,イギリスでは1650年にオックスフォードで,1652年にロンドンで最初のコーヒー店がオープンした.政治談義の場としても利用される文化現象としてのコーヒーハウス (coffee house) の誕生である.
 さて,飲料としてのコーヒーはこのようにしてイギリスに入ってきたわけだが,それを表わす名前や語形についてはどうだったのだろうか.OED によると,アラビア語 qahwah からトルコ語に kahveh として入った後,イタリア語 caffè を経てヨーロッパ諸言語に借用されたのではないかという.
 仮にイタリア語形を基準とすると,前舌母音(字)a が保たれたのが,フランス語 café,スペイン語 café,ポルトガル語 café,ドイツ語 Kaffee,デンマーク語・スウェーデン語の kaffe ということになる.一方,後舌母音(字)をもつ異形として定着したのが,英語 coffee,オランダ語 koffie,古いドイツ語 coffee/koffee,ロシア語 kophe/kopheĭ である.後者の o については,アラビア語やトルコ語の ahw/ahv が示す唇音 w/v が調音点の同化 (assimilation) を引き起こしたものと推測される.Barnhart の語源辞書の記述を参照しよう.

coffee n. 1598 chaoua, 1601 coffe, 1603-30 coffa, borrowed from Turkish kahveh, or directly from Arabic qahwah coffee, originally, wine. Two forms of this word (with a and with o) came into most modern languages about 1600: the first is represented by French, Spanish, and Portuguese café, Italian caffè, German Kaffee, Danish, Norwegian, and Swedish kaffe. The second form is represented by English coffee, Dutch koffie, Russian kofe. The forms with o may have had earlier au (see the earliest English form chaoua), from Turkish -ahv-- or Arabic -ahw-.


 OED によると英語での初例は1598年の Chaoua であり,17世紀中にも a をもつ語形が散見される.初期近代英語期の大規模コーパス EEBO で検索しても cahave, kauhi などがわずかではあるが見つかった.しかし,17世紀の早い段階で o をもつ語形にほぼ切り替わったようではある.17世紀前半には coffa が,17世紀後半には coffee が主要形として定着した.
 さて,フランス語では café が「コーヒー」のみならず「コーヒー店,カフェ」を意味するが,このフランス語としての単語が,前者の語義で1763年に,後者の語義で1802年に英語に入ってきた.現代英語の cafe /ˈkæfeɪ/ は通常は後者の語義に限定して使われており,日本語でも同様である.
 最後に caffeine だが,これは1830年にフランス語 caféine から英語に入ってきた.a をもっているのは,フランス語での語形成だからということになる.

 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.

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