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英語の歴史では,英語の標準化は長期間にわたりゆっくりと進行したことが知られている.長い標準化の過程の始まりと終わりをどこに置くか,ピンポイントで指摘することは難しいが,14世紀後半の Chaucer の時代に萌芽がみられ,18世紀の規範主義の時代におよそ成し遂げられたとしておこう.
標準化とは,言語形式の観点からいえば,多様性が減るということである.綴字でいえば,同一の単語に対して複数の綴り方があるよりも唯一の綴り方があるほうが,より標準的ということだ.14世紀後半から18世紀まで英語が標準化の途上にあったということは,すなわちその時期には多かれ少なかれ形式上の多様性があったということである.
Trudgill (2047--48) が,英語の標準化の途上にみられた言語的多様性について,数名の著名な研究者より次のような発言を次々と引用している.
・ "the precise regional dialect constituents of London English were not finally fixed in their present proportion and distribution during the 15th century, nor indeed for some time after the beginning of the following century" (Wyld)
・ "in London circles during the 16 c and 17 c many different usages [...] were jostled together" (Strang)
・ "the modern standard has a heterogeneous dialect base" (Lass)
・ "coexisting subsystems" (Samuels)
・ "rival pronunciations" (Wells)
・ "it is tempting to ask what dialects were not present in this Londonish-East Midlandish-Northernish-Southernish 'single ancestor' of Standard English" (Hope)
では,この多様性は何に由来するのか.様々な答え方があるだろうが,Trudgill によれば,方言混合 (dialect_mixture) とのことである.この長期間,イングランド全土からロンドンに多くの人々が移住し続けていた.ロンドンで生まれ育った人はむしろ少数派であり,言語について言えばロンドンはまさに方言のるつぼだったのである.このような状況下では,方言の混合が常態であり,方言が水平化 (dialect_levelling) するにも時間を要したということだ.
この長引いた方言混合と標準化は,近現代英語における言語的不規則性と規則性のまだら模様を説明してくれるように思われる.現代英語のある部分が規則的で,別の部分が不規則的なのは,多く上記の事情に起因するといってよいだろう.
・ Trudgill, Peter. "Varieties of English: Dialect Contact." Chapter 130 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 2044--59.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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