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昨日の記事 ([2020-04-29-1]) で「なぜ英語史を学ぶか」の記事セットを紹介しました.英語史を学ぶ理由,動機,メリットはいろいろとありますが,私がとりわけ重要と考えている点について改めて述べておきたいと思います.
現在,私たちが英語を学んだり,教えたり,使ったりしていること,日本の義務教育で英語を学び始めることになっていること,英語が世界中で最も実用的なリンガフランカとして機能していることは,当たり前のことでもなければ必然的なことでもありません.世界の歴史の結果です.長きにわたる人類の活動の結果,今現在,英語が上記のような位置づけにあるということです.
「言語学的に」いえば,英語が日本語を含めた他の多数の言語と比較して,とりわけ優れた言語とみなす根拠はありません.あくまで「社会的に」とりわけ重要な言語であるということにすぎません.英語史の学びは,この区別すべき2つの見方を峻別する知恵を与えてくれます.
誰しも,ある言語やその語学学習に関して個人的な好き嫌いがあるのは自然でしょう.周知の通り,英語が大好きという人もいれば大嫌いという人もいます.しかし,そのような個人的な思いとは別次元で,避けなければいけないことがあります.それは盲目的な英語崇拝に陥ったり,逆にむやみに英語を忌避することです.英語に対しては盲信も不信も無益です.英語への盲信はその背後で他言語の排除や蔑視に結びつくおそれがありますし,英語への不信は他の言語と同列に尊ばれるべき言語である英語とその(母語)話者に対して失礼にあたります.(後者について,ある英語母語話者の言葉が忘れられません.日本の学生から英語が嫌いと言われると腹立たしいというのです.その学生にとっては単に教科としての英語(学習)が嫌いというつもりかもしれませんが,自分の母語,それで生まれ育ってきた最も愛着のある言語のことを嫌いと面と向かって言われるのは不愉快というわけです.)
現代世界に生きる私たちにとって,英語という「社会的に」きわめて重要な言語と付き合っていくことは避けられません.英語とうまく付き合っていくためには,肩肘張らずに向かい合う必要があります.英語は日本語や他の言語と同列の1つの言語だという認識がぜひとも必要なのです.この認識を得るのに英語史の学びは非常に有効であると確信しています.
万物は流転します.英語もまた時を通じて変化してきました.文法,発音,語彙などの「言語学的な」側面においても変化してきましたし,一民族の言葉から世界のリンガフランカへと成長してきた通り,その「社会的な」位置づけも変わってきました.英語という言語について,この両側面における変化とその歴史(各々「内面史」「外面史」と呼ばれます)を学ぶことで,英語の本質,ひいては言語の本質も見えてくるでしょう.本質が見えてくれば,英語にせよ(母語たる)日本語にせよ,特定の言語に対する盲信や不信は雲散霧消するでしょう.肩肘張らずに付き合っていけます.
英語史の学びでは,上記のような知恵を得るために,個々の小さな知識を習得していくことになります.本ブログでも積極的に取り入れている「素朴な疑問」の数々も,そのような個々の小さな知識の一部です.「なぜ a apple ではなく an apple なのか?」「なぜ3単現に -s を付けるのか?」「なぜ If I were a bird となるのか?」「なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?」「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」などの疑問に答えられることそれ自体は,確かに英語物知りのトリビア的知識にすぎないようにみえるかもしれません.しかし,このような個々の知識を多数つなぎ合わせて体系化したものこそが「英語史」という分野であり,先に述べた大きな目標に到達することを助けてくれる学問だと信じています.ですので,私は「素朴な疑問」への回答に際しても「へぇ,なるほど,おもしろいね」という反応だけでは終わらせまいという意気込みでいつも臨んでいます.表面的なトリビア的知識の一歩先に進んでいきたいからです.
英語史の知識を英語史の知恵へと昇華させる,これが私の大きなテーマです.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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