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言語学史的にみれば,アメリカ構造言語学は明らかに形態重視の言語学だった.言語における意味に関しては,行動主義の観点から理解したものの,本格的に考察して理論化することはなかった.意味を軽視していたと言わざるをえない.しかし,アメリカ構造言語学の領袖 Bloomfield 自身は,彼に続く門下生ほど,意味を軽視していたわけではない.むしろ,よく考えていたからこそ,その難しさをも理解していた.意味を彼の創始した言語科学に持ち込むのに慎重だったのである.
立川・山田 (58) も Bloomfield をそのように評価しながら,「いままでのどの言語理論家にもまして,〈意味〉の本質をつく明解な定義を提出したのが,ほかならぬこのブルームフィールドだった」とまで述べている.その定義とは,以下のくだりである.
When anything apparently unimportant turns out to be closely connected with more important things, we say that it has, after all, a "meaning"; namely, it "means" these more important things. Accordingly, we say that speech-utterance, trivial and unimportant itself, is important because it has a meaning: the meaning consists of the important things with which the speech-utterance . . . is connected, namely the practical events . . . . (Bloomfield 27)
話者にとってより重要でないことを通じてより重要であることを表わす作用,その両者の関係こそが意味であると,Bloomfield は考えた.例えば,[ai] という音のつながりは,それ自体は物理的な音波にすぎず,些末なものである.しかし,それは日本語では「愛」,英語では I という,より重要とみなされるであろう事物や概念に結びつけられている.この結びつきこそが [ai] の意味であると考えられる.
立川・山田 (58--59) の説明を聞いてみよう.
だから,〈意味〉というのは,主体がある現象を,なんであれそれよりも「重要」だと彼がみなす,ほかの物質的ないし心的な事物に結びつける際の関係のことだ,ということになるだろう.「ヨリ重要な物事」が言及対象であるか概念であるか行動であるか,そのことはここでは問題ではない(ちなみに,ブルームフィールド自身は,〈意味=行動説〉に立っている).問題なのは,主体が現に聴いている音,見ている形や色などに満足することなく,それを不在の「ヨリ重要な物事」に関係づけるという,そのプロセスである.
このように,意味とは価値の階層的な関係を構成している.何がより重要でなく,何がより重要かは,文化によっても異なるものであるから,その限りにおいて意味(作用)とは相対的なものとならざるをえない,ということにもなる.Bloomfield は,意味の相対性を知っていたゆえに,音韻や形態と同列に意味を理論化することの困難にも気づいていたのだろう.
意味の意味については,「#1782. 意味の意味」 ([2014-03-14-1]),「#1863. Stern による語の意味を決定づける3要素」 ([2014-06-03-1]),「#1769. Ogden and Richards の semiotic triangle」 ([2014-03-01-1]) も参照されたい.
・ 立川 健二・山田 広昭 『現代言語論』 新曜社,1990年.
・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
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最終更新時間: 2024-10-26 09:48
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