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hellog〜英語史ブログ / 2011-08-19

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2011-08-19 Fri

#844. 言語変化を予想することは危険か否か [prediction_of_language_change][language_change]

 昨日の記事「言語変化の予言の根拠」 ([2011-08-18-1]) でも触れたように,言語変化を予想するという営みについては,歴史言語学者のあいだでも様々な意見がある.Bauer は,言語変化の予想は "hazardous" で "risky" であるとして,警鐘を鳴らしている.関連箇所を引用しよう.

Dealing with on-going changes is a very hazardous undertaking. It is tempting to conclude that, because we can see the beginning of a change, it follows that the change will continue. This is not true. It may even reverse itself. Consequently, predictions based on current trends mean very little. 'If current trends continue, then we may expect to find people saying xyz in the year 2050' is about as risky as predicting the value of the pound or the rate of inflation. (21)

Not only can we not predict the speed of a change, but we cannot predict whether it will be followed through to the end, or even whether it might be reversed. Diachronic linguistics is not a predictive science. (25)


 昨日の記事で引用した中尾 (2) も述べている通り,言語変化は自然科学の法則と異なり,傾向を示すにすぎない.これは確かである.そうだとすれば,予想をすることに何の価値があるのか,空虚な予想屋を演じているだけではないか,という意見が出るのは当然である.予想がいずれ当たるか当たらないかという次元の話しで終わるのであれば,学問的意味はないだろう.
 しかし,予想の学問的意味を疑う以前に,予想という行為に先だって存在するはずの,未来への関心や言語変化の理解を深めたいという好奇心は尊重されてよいように思う.まず,言語変化を研究していれば未来の姿を予想したくなる気持ちは当然である.この自然な関心を押し殺すというのは,教育においても研究においても精神衛生上好ましくない.また,過去から現在へと言語変化の道筋を追い,言語変化の理論を追究してきた者にとって,その視線を未来に延長しないというのはあまりに禁欲的である.
 そもそも,言語変化の理論は,現在まで続いてきた変化が逆流するかもしれないというような現実的な可能性を意識的に捨象することで組み立てられてきた.この作業は暗黙の了解だったのではないだろうか.中尾 (2) の言うように,予想は言語変化の要因を解明する努力そのものではないが,努力へ通じる営みであると,積極的に評価したい.
 実際のところ,Bauer も同書のなかで予想に近いことをしている.Bauer の警鐘は,予想があまりに "tempting" だからこそ,現実的には厳密な予想は不可能なのだという要点を強調しておきたかったものとして理解しておく.現時点で未確認だが,Bauer と同趣旨の議論が Lass (Phonology, 328--29) と Lass (Shape, 131) でなされているというので,いずれ確認したい.

 ・ Bauer, Laurie. Watching English Change: An Introduction to the Study of Linguistic Change in Standard Englishes in the Twentieth Century. Harlow: Longman, 1994.
 ・ 中尾 俊夫 著,児馬 修・寺島 迪子 編 『変化する英語』 ひつじ書房,2003年.
 ・ Lass, Roger. Phonology. Cambridge: CUP, 1984.
 ・ Lass, Roger. The Shape of English. London and Melbourne: J. M. Dent, 1987.

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