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最終更新時間: 2024-12-22 08:43

2017-09-10 Sun

#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド [black_death][reestablishment_of_english][history][sociolinguistics][slide][link][map][hel_education][asacul]

 ここ数日,集中的に英語史における黒死病の意義を考えてきた.これまで書きためてきた black_death の記事を総括する意味で「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド (HTML) を作ってみたので,こちらよりご覧ください.
 13枚からなるスライドで,目次は以下の通り.

 1. 英語史における黒死病の意義
 2. 要点
 3. 黒死病 (Black Death) とは?
 4. ノルマン征服による英語の地位の低下
 5. 英語の復権の歩み (#131)
 6. 黒死病の社会(言語学)的影響 (1)
 7. 黒死病と社会(言語学)的影響 (2)
 8. 英語による教育の始まり (#1206)
 9. 実は中英語は常に繁栄していた
 10. 黒死病は英語の復権に拍車をかけたにすぎない
 11. 村上,pp. 176--77
 12. まとめ
 13. 参考文献

 HTML スライドなので,そのまま hellog 記事にリンクを張ったり辿ったりでき,とても便利.英語史スライドシリーズとして,ほかにも作っていきたい.  *  *

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2017-08-22 Tue

#3039. 連載第8回「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」 [grimms_law][consonant][loan_word][sound_change][phonetics][french][latin][indo-european][etymology][cognate][germanic][romance][verners_law][sgcs][link][rensai]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第8回の記事「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」が公開されました.グリムの法則 (grimms_law) について,本ブログでも繰り返し取り上げてきましたが,今回の連載記事では初心者にもなるべくわかりやすくグリムの法則の音変化を説明し,その知識がいかに英語学習に役立つかを解説しました.
 連載記事を読んだ後に,「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) および「#102. hundredグリムの法則」 ([2009-08-07-1]) を読んでいただくと,復習になると思います.
 連載記事では,グリムの法則の「なぜ」については,専門性が高いため触れていませんが,関心がある方は音声学や歴史言語学の観点から論じた「#650. アルメニア語とグリムの法則」 ([2011-02-06-1]) ,「#794. グリムの法則と歯の隙間」 ([2011-06-30-1]),「#1121. Grimm's Law はなぜ生じたか?」 ([2012-05-22-1]) をご参照ください.
 グリムの法則を補完するヴェルネルの法則 (verners_law) については,「#104. hundredヴェルネルの法則」 ([2009-08-09-1]),「#480. fatherヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1]),「#858. Verner's Law と子音の有声化」 ([2011-09-02-1]) をご覧ください.また,両法則を合わせて「第1次ゲルマン子音推移」 (First Germanic Consonant Shift) と呼ぶことは連載記事で触れましたが,では「第2次ゲルマン子音推移」があるのだろうかと気になる方は「#405. Second Germanic Consonant Shift」 ([2010-06-06-1]) と「#416. Second Germanic Consonant Shift はなぜ起こったか」 ([2010-06-17-1]) のをお読みください.英語とドイツ語の子音対応について洞察を得ることができます.

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2017-07-20 Thu

#3006. 古英語の辞書 [lexicography][dictionary][oe][doe][bibliography][hel_education][link]

 古英語を学習・研究する上で有用な辞書をいくつか紹介する.

 (1) Bosworth, Joseph. A Compendious Anglo-Saxon and English Dictionary. London: J. R. Smith, 1848.
 (2) Bosworth, Joseph and Thomas N. Toller. Anglo-Saxon Dictionary. Oxford: OUP, 1973. 1898. (Online version available at http://lexicon.ff.cuni.cz/texts/oe_bosworthtoller_about.html.)
 (3) Hall, John R. C. A Concise Anglo-Saxon Dictionary. Rev. ed. by Herbert T. Merritt. Toronto: U of Toronto P, 1996. 1896. (Online version available at http://lexicon.ff.cuni.cz/texts/oe_clarkhall_about.html.)
 (4) Healey, Antonette diPaolo, Ashley C. Amos and Angus Cameron, eds. The Dictionary of Old English in Electronic Form A--G. Toronto: Dictionary of Old English Project, Centre for Medieval Studies, U of Toronto, 2008. (see The Dictionary of Old English (DOE) and Dictionary of Old English Corpus (DOEC).)
 (5) Sweet, Henry. The Student's Dictionary of Anglo-Saxon. Cambridge: CUP, 1976. 1896.

 おのおのタイトルからも想像されるとおり,詳しさや編纂方針はまちまちである.入門用の Sweet に始まり,簡略辞書の Hall から,専門的な Bosworth and Toller を経て,最新の Healey et al. による電子版 DOE に至る.DOE を除いて,古英語辞書の定番がおよそ19世紀末の産物であることは注目に値する.この時期に,様々なレベルの古英語辞書が,独自の規範・記述意識をもって編纂され,出版されたのである.
 現代風の書き言葉の標準が明確に定まっていない古英語の辞書編纂では,見出し語をどのような綴字で立てるかが悩ましい問題となる.使用者は,たいてい適切な綴字を見出せないか,あるいは異綴りの間をたらい回しにされるかである.大雑把にいえば,入門的な Sweet の立てる見出しの綴字は "critical" で規範主義的であり,最も専門的な DOE は "diplomatic" で記述主義的である.その間に,緩やかに "critical" な Hall と緩やかに "diplomatic" な Bosworth and Toller が位置づけられる.
 合わせて古英語語彙の学習には,以下の2点を挙げておこう.

 ・ Barney, Stephen A. Word-Hoard: An Introduction to Old English Vocabulary. 2nd ed. New Haven: Yale UP, 1985.
 ・ Holthausen, Ferdinand. Altenglisches etymologisches Wōrterbuch. Heidelberg: Carl Winter Universitätsverlag, 1963.

 Holthausen の辞書は,古英語語源辞書として専門的かつ特異な地位を占めているが,語源から語彙を学ぼうとする際には役立つ.Barney は,同じ趣旨で,かつ読んで楽しめる古英語単語リストである.

Referrer (Inside): [2020-06-24-1]

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2017-06-21 Wed

#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」 [notice][link][loan_word][borrowing][lexicology][french][latin][lexical_stratification][japanese][inkhorn_term][rensai][sobokunagimon]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第6回の記事「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」が公開されました.
 今回の話は,英語語彙を学ぶ際の障壁ともなっている多数の類義語セットが,いかに構造をなしており,なぜそのような構造が存在するのかという素朴な疑問に,歴史的な観点から迫ったものです.背景には,英語が特定の時代の特定の社会的文脈のなかで特定の言語と接触してきた経緯があります.また,英語語彙史をひもといていくと,興味深いことに,日本語語彙史との平行性も見えてきます.対照言語学的な日英語比較においては,両言語の違いが強調される傾向がありますが,対照歴史言語学の観点からみると,こと語彙史に関する限り,両言語はとてもよく似ています.連載記事の後半では,この点を議論しています.
 英語語彙(と日本語語彙)の3層構造の話題については,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』のの5.1節「なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?」と5.2節「なぜ Assist me! とはなおさら叫ばないのか?」でも扱っていますが,本ブログでも様々に議論してきたので,そのリンクを以下に張っておきます.合わせてご覧ください.また,同様の話題について「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1]) で紹介した拙論もこちらからご覧ください.

 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1])
 ・ 「#2643. 英語語彙の三層構造の神話?」 ([2016-07-22-1])
 ・ 「#387. trisociationtriset」 ([2010-05-19-1])

 ・ 「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1])
 ・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
 ・ 「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1])
 ・ 「#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語」 ([2009-08-25-1])
 ・ 「#1211. 中英語のラテン借用語の一覧」 ([2012-08-20-1])
 ・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
 ・ 「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1])
 ・ 「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1])
 ・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
 ・ 「#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])

 ・ 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1])
 ・ 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])
 ・ 「#1409. 生き残ったインク壺語,消えたインク壺語」 ([2013-03-06-1])
 ・ 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])
 ・ 「#1615. インク壺語を統合する試み,2種」 ([2013-09-28-1])
 ・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])

 ・ 「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1])
 ・ 「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1])
 ・ 「#1629. 和製漢語」 ([2013-10-12-1])
 ・ 「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1])
 ・ 「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1])
 ・ 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1])

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2017-06-10 Sat

#2966. 英語語彙の世界性 (2) [lexicology][loan_word][borrowing][statistics][link]

 英語語彙の世界性について,1年ほど前の記事 ([2016-06-24-1]) で様々なリンクを張ったが,その後書き足した記事もあるので,リンク等をアップデートしておきたい.記事を読み進めていけば,英語語彙史の概要が分かる.

1  数でみる英語語彙
  1.1  語彙の規模の大きさ (#898)
  1.2  語彙の種類の豊富さ (##756,309,202,429,845,1202,110,201,384)
  1.3  英語語彙史の概略 (##37,1526,126,45)
2  語彙借用とは?
  2.1  なぜ語彙を借用するのか? (##46,1794)
  2.2  借用の5W1H:いつ,どこで,何を,誰から,どのように,なぜ借りたのか? (#37)
3  英語の語彙借用の歴史 (#1526)
  3.1  大陸時代 (--449)
    3.1.1  ラテン語 (#1437)
  3.2  古英語期 (449--1100)
    3.2.1  ケルト語 (##1216,2443)
    3.2.2  ラテン語 (#32)
    3.2.3  古ノルド語 (##2625,2693,340,818)
    3.2.4  古英語本来語のその後 (##450,2556,648)
  3.3  中英語期 (1100--1500)
    3.3.1  フランス語 (##117,1210)
    3.3.2  ラテン語 (##120,1211)
    3.3.3  中英語の語彙の起源と割合 (#985)
  3.4  初期近代英語期 (1500--1700)
    3.4.1  ラテン語 (##478,114,1226)
    3.4.2  ギリシア語 (#516)
    3.4.3  ロマンス諸語 (##2385,2162,1411,1638)
  3.5  後期近代英語期 (1700--1900) と現代英語期 (1900--)
    3.5.1  語彙の爆発 (##203,616)
    3.5.2  世界の諸言語 (##874,2165,2164)
4  現代の英語語彙にみられる歴史の遺産
  4.1  フランス語とラテン語からの借用語 (#2162)
  4.2  動物と肉を表わす単語 (##331,754)
  4.3  語彙の3層構造 (##334,1296,335,1960)
  4.4  日英語の語彙の共通点 (##1645,296,1630,1067)
5  現在そして未来の英語語彙
  5.1  借用以外の新語の源泉 (##873,874,875)
  5.2  語彙は時代を映し出す (##625,631,876,889)


 英語語彙史を大づかみする上で最重要となる3点を指摘しておきたい.

  (1) 英語語彙史は,英語と他言語の交流の歴史と連動している
  (2) 語彙借用の動機づけは「必要性」のみではない
  (3) 語彙借用により類義語が積み上げられていき,結果として3層構造が生じた

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2017-05-23 Tue

#2948. 連載第5回「alive の歴史言語学」 [notice][link][syntax][adjective][rensai][fricative_voicing]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第5回の記事「alive の歴史言語学」が公開されました.
 今回の主張は「一波動けば万波生ず」という言語変化のダイナミズムです.古英語から中英語にかけて生じた小さな音の弱化・消失が,形態,統語,綴字,語彙など,英語を構成する諸部門に少なからぬ影響を及ぼし,やや大げさにいうと「英語の体系を揺るがす」ほどの歴史的なインパクトをもった現象である,ということを説きました.英語史のダイナミックな魅力が伝われば,と思います.
 以下に,第5回の記事で触れた諸点に密接に関わる hellog 記事へのリンクを張っておきます.合わせて読むと,連載記事のほうもより面白く読めると思います.

 ・ 「#2723. 前置詞 on における n の脱落」 ([2016-10-10-1])
 ・ 「#1365. 古英語における自鳴音にはさまれた無声摩擦音の有声化」 ([2013-01-21-1])
 ・ 「#1080. なぜ five の序数詞は fifth なのか?」 ([2012-04-11-1])
 ・ 「#702. -ths の発音」 ([2011-03-30-1])
 ・ 「#374. <u> と <v> の分化 (2)」 ([2010-05-06-1])
 ・ 「#712. 独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞 (2)」 ([2011-04-09-1])
 ・ 「#1916. 限定用法と叙述用法で異なる形態をもつ形容詞」 ([2014-07-26-1])
 ・ 「#2435. eurhythmy あるいは "buffer hypothesis" の適用可能事例」 ([2015-12-27-1])
 ・ 「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1])
 ・ 「#2422. 初期中英語における動名詞,現在分詞,不定詞の語尾の音韻形態的混同」 ([2015-12-14-1])
 ・ 「#2245. Meillet の "tout se tient" --- 体系としての言語」 ([2015-06-20-1])

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2017-05-18 Thu

#2943. 英語の発音と綴りが一致しない理由は「見栄」と「惰性」? [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][link]

 先日,「英語の発音と綴字の乖離」の問題について,DMM英会話ブログさんにインタビューしていただき,記事にしてもらいました.昨日その記事がアップロードされたので,今日はそれを紹介がてら,関連する hellog 記事へのリンクを張っておきます.記事のタイトルは,ずばり「圧倒的腹落ち感!英語の発音と綴りが一致しない理由を専門家に聞きに行ったら,犯人は中世から近代にかけての「見栄」と「惰性」だった.」です.こちらからどうぞ.
 最大限に分かりやすい解説を目指し,話しをとことんまで簡略化しました.簡略化するあまり,細かな点では不正確,あるいは言葉足らずなところもあると思いますが,多くの英語学習者の方々に関心をもたれる話題に対して,英語史の観点からどのように迫れるのか,英語史的な見方の入り口を垣間見てもらえるように,との思いからです.趣旨を汲み取ってもらえればと思います.かる?く,ゆる?く読んで「腹落ち感」を味わってください.
 さて,本ブログでは「英語の発音と綴字の乖離」問題について,spelling_pronunciation_gap の多くの記事で論じてきました.今回のインタビュー記事では,debt になぜ発音しない <b> があるのか,といった語源的綴字 (etymological_respelling) の話題を主として取り上げました.インタビュー中に言及のある具体的な事例との関係では,特に以下の記事をご覧ください.

 ・ debt の <b> の謎:「#116. 語源かぶれの綴り字 --- etymological respelling」 ([2009-08-21-1])
 ・ 中英語の through の綴字に見られる混乱:「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1])
 ・ 15世紀の through の綴字の収束:「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1])
 ・ 発音と綴字が別々に走っていた件:「#2292. 綴字と発音はロープでつながれた2艘のボート」 ([2015-08-06-1])
 ・ 不規則性・不合理性を保つことに意味がある!?:「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])

 1時間ほどのインタビューで上手に話し尽くせるようなテーマではありませんでしたが,読者のみなさんがこの問題に,また英語史という分野に関心を抱く機会となれば,私としては目的達成です.

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2017-04-21 Fri

#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」 [notice][link][ame_bre][history][calendar][z][rensai][sobokunagimon]

 4月20日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第4回の記事「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」が公開されました.
 今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の6.1節「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」および6.2節「アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?」で扱った英語の英米差について,具体的な単語のペア autumn vs fall を取り上げて,歴史的に深く解説しました.言語を単線的思考ではなく複線的思考で見直そう,というのが主旨です.
 英語の英米差は,英語史のなかでもとりわけ人気のある話題なので,本ブログでも ame_bre の多く取り上げてきました.今回の連載記事で取り上げた内容やツールに関わる本ブログ内記事としては,以下をご参照ください.

 ・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1])
 ・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])
 ・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1])
 ・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1])
 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1])
 ・ 「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1])
 ・ 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1])

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2017-04-20 Thu

#2915. Beowulf の冒頭52行 [beowulf][link][oe][literature][popular_passage][oe_text]

 「#2893. Beowulf の冒頭11行」 ([2017-03-29-1]) で挙げた11行では物足りなく思われたので,有名な舟棺葬 (ship burial) の記述も含めた Beowulf 冒頭の52行を引用したい.舟棺葬とは,6--11世紀にスカンディナヴィアとアングロサクソンの文化で見られた高位者の葬法である.
 原文は Jack 版で.現代英語訳は Norton Anthology に収録されているアイルランドのノーベル文学賞受賞詩人 Seamus Heaney の版でお届けする.

OEPDE translation
a-verseb-verse
Hwæt, wē Gār-Denain geārdagum,So. The Spear-Danes in days gone by
þēodcyningaþrym gefrūnon,and the kings who ruled them had courage and greatness.
hū ðā æþelingasellen fremedon.We have heard of those princes' heroic campaigns.
   Oft Scyld Scēfingsceaþena þrēatum,   There was Shield Sheafson, scourge of many tribes,
5monegum mǣgþummeodosetla oftēah,a wrecker of mead-benches, rampaging among foes.
egsode eorl[as],syððan ǣrest wearðThis terror of the hall-troops had come far.
fēasceaft funden;hē þæs frōfre gebād,A foundling to start with, he would flourish later on
wēox under wolcnum,weorðmyndum þāh,as his powers waxed and his worth was proved.
oðþæt him ǣghwylc þ[ǣr]ymbsittendraIn the end each clan on the outlying coasts
10ofer hronrādehȳran scolde,beyond the whale-road had to yield to him
gomban gyldan.Þæt wæs gōd cyning!and begin to pay tribute. That was one good king.
Ðǣm eafera wæsæfter cenned   Afterward a boy-child was born to Shield,
geong in geardum,þone God sendea cub in the yard, a comfort sent
folce tō frōfre;fyrenðearfe ongeatby God to that nation. Hew knew what they had tholed,
15þ[e] hīe ǣr drugonaldor[lē]asethe long times and troubles they'd come through
lange hwīle.Him þæs Līffrēa,without a leader; so the Lord of Life,
wuldres Wealdendworoldāre forgeaf;the glorious Almighty, made this man renowned.
Bēowulf wæs brēme---blǣd wīde sprang---Shield had fathered a famous son:
Scyldes eaferaScedelandum in.Beow's name was known through the north.
20Swā sceal [geong g]umagōde gewyrcean,And a young prince must be prudent like that,
fromum feohgiftumon fæder [bea]rme,giving freely while his father lives
þæt hine on yldeeft gewunigenso that afterward in age when fighting starts
wilgesīþasþonne wīg cume,steadfast companions will stand by him
lēode gelǣsten;lofdǣdum scealand hold the line. Behavior that's admired
25in mǣgþa gehwǣreman geþēon.is the path to power among people everywhere.
   Him ðā Scyld gewāttō gescæphwīle,   Shield was still thriving when his time came
felahrōr fēranon Frēan wǣre.and he crossed over into the Lord's keeping.
Hī hyne þā ætbǣrontō brimes faroðe,His warrior band did what he bade them
swǣse gesīþas,swā hē selfa bæd,when he laid down the law among the Danes:
30þenden wordum wēoldwine Scyldinga;they shouldered him out to the sea's flood,
lēof landfrumalange āhte.the chief they revered who had long ruled them.
Þǣr æt hȳðe stōdhringedstefnaA ring-whorled prow rode in the harbor,
īsig ond ūtfūs,æþelinges fær;ice-clad, outbound, a craft for a prince.
ālēdon þālēofne þēoden,They stretched their beloved lord in his boat,
35bēaga bryttanon bearm scipes,laid out by the mast, amidships,
mǣrne be mæste.Þǣr wæs mādma felathe great ring-giver. Far-fetched treasures
of feorwegum,frætwa gelǣded;were piled upon him, and precious gear.
ne hȳrde ic cȳmlīcorcēol gegyrwanI never heard before of a ship so well furbished
hildewǣpnumond heaðowǣdum,with battle-tackle, bladed weapons
40billum ond byrnum;him on bearme lægand coats of mail. The massed treasure
mādma mænigo,þā him mid scoldonwas loaded on top of him: it would travel far
on flōdes ǣhtfeor gewītan.on out into the ocean's sway.
Nalæs hī hine lǣssanlācum tēodan,They decked his body no less bountifully
þēodgestrēonum,þon þā dydonwith offerings than those first ones did
45þe hine æt frumsceafteforð onsendonwho cast him away when he was a child
ǣnne ofer ȳðeumborwesende.and launched him alone out over the waves.
Þā gȳt hie him āsettonsegen g[yl]denneAnd they set a gold standard up
hēah ofer hēafod,lēton holm beran,high above his head and let him drift
gēafon on gārsecg.Him wæs geōmor sefa,to wind and tide, bewailing him
50murnende mōd.Men ne cunnonand mourning their loss. No man can tell,
secgan tō sōðe,selerǣden[d]e,no wise man in hall or weathered veteran
hæleð under heofenum,hwā þǣm hlæste onfēng.knows for certain who salvaged that load.


 ・ Jack, George, ed. Beowulf: A Student Edition. Oxford: Clarendon, 1994.
 ・ Greenblatt, Stephen, ed. The Norton Anthology of English Literature. 8th ed. New York:: Norton, 2006.

Referrer (Inside): [2023-07-29-1]

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2017-03-29 Wed

#2893. Beowulf の冒頭11行 [beowulf][link][oe][literature][popular_passage][oe_text][hel_education]

 Beowulf は,古英語で書かれた最も長い叙事詩(3182行)であり,アングロサクソン時代から現存する最も重要な文学作品である.スカンディナヴィアの英雄 Beowulf はデンマークで怪物 Grendel を殺し,続けてその母をも殺した.Beowulf は後にスウェーデン南部で Geat 族の王となるが,年老いてから竜と戦い,戦死する.
 この叙事詩は,古英語で scop と呼ばれた宮廷吟遊詩人により,ハープの演奏とともに吟じられたとされる.現存する唯一の写本(1731年の火事で損傷している)は1000年頃のものであり,2人の写字生の手になる.作者は不詳であり,いつ制作されたかについても確かなことは分かっていない.8世紀に成立したという説もあれば,11世紀という説もある.
 冒頭の11行を Crystal (18) より,現代英語の対訳付きで以下に再現しよう.

1HǷÆT ǷE GARDEna in ȝeardaȝum .Lo! we spear-Danes in days of old
2þeodcyninȝa þrym ȝefrunonheard the glory of the tribal kings,
3hu ða æþelinȝas ellen fremedon .how the princes did courageous deeds.
4oft scyld scefing sceaþena þreatumOften Scyld Scefing from bands of enemies
5monegū mæȝþum meodo setla ofteahfrom many tribes took away mead-benches,
6eȝsode eorl[as] syððan ærest ƿearðterrified earl[s], since first he was
7feasceaft funden he þæs frofre ȝebadfound destitute. He met with comfort for that,
8ƿeox under ƿolcum, ƿeorðmyndum þah,grew under the heavens, throve in honours
9oðþ[æt] him æȝhƿylc þara ymbsittendrauntil each of the neighbours to him
10ofer hronrade hyran scoldeover the whale-road had to obey him,
11ȝomban ȝyldan þ[æt] ƿæs ȝod cyninȝ.pay him tribute. That was a good king!


 冒頭部分を含む写本画像 (Cotton MS Vitellius A XV, fol. 132r) は,こちらから閲覧できる.その他,以下のサイトも参照.

 ・ Cotton MS Vitellius A XV, Augustine of Hippo, Soliloquia; Marvels of the East; Beowulf; Judith, etc.: 写本画像を閲覧可能.
 ・ Beowulf: BL による物語と写本の解説.
 ・ Beowulf Readings: 古英語原文と「読み上げ」へのアクセスあり.
 ・ Beowulf Translation: 現代英語訳.
 ・ Diacritically-Marked Text of Beowulf facing a New Translation (with explanatory notes): 古英語原文と現代英語の対訳のパラレルテキスト.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

Referrer (Inside): [2023-07-29-1] [2017-04-20-1]

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2017-03-23 Thu

#2887. 連載第3回「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」 [notice][link][vowel][diphthong][consonant][alphabet][writing][grapheme][history][spelling_pronunciation_gap][grammatology][rensai][sobokunagimon]

 3月21日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第3回の記事「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」が公開されました.今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の第2章「発音と綴字に関する素朴な疑問」で取り上げた話題と関連して,特に「母音の表記の仕方」に注目し,掘り下げて考えています.現代英語の母音(音声)と母音字(綴字)の関係が複雑であることに関して,音韻論や文字史の観点から論じています.この問題の背景には,実に3千年を優に超える歴史物語があるという驚愕の事実を味わってもらえればと思います.
 以下に,第3回の記事と関連する本ブログ内の話題へのリンクを張っておきます.合わせてご参照ください.

 ・ 「#503. 現代英語の綴字は規則的か不規則的か」 ([2010-09-12-1])
 ・ 「#1024. 現代英語の綴字の不規則性あれこれ」 ([2012-02-15-1])
 ・ 「#2405. 綴字と発音の乖離 --- 英語綴字の不規則性の種類と歴史的要因の整理」 ([2015-11-27-1])
 ・ 「#1021. 英語と日本語の音素の種類と数」 ([2012-02-12-1])
 ・ 「#2515. 母音音素と母音文字素の対応表」 ([2016-03-16-1])
 ・ 「#1826. ローマ字は母音の長短を直接示すことができない」 ([2014-04-27-1])
 ・ 「#2092. アルファベットは母音を直接表わすのが苦手」 ([2015-01-18-1])
 ・ 「#1837. ローマ字とギリシア文字の字形の差異」 ([2014-05-08-1])
 ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
 ・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])

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2017-02-21 Tue

#2857. 連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」 [link][notice][3sp][3pp][conjugation][verb][inflection][variety][rensai][sobokunagimon]

 昨日2月20日に,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第2回となる「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」が研究社のサイトにアップロードされました.3単現の -s に関しては,本ブログでも 3sp の各記事で書きためてきましたが,今回のものは「素朴な疑問」に答えるという趣旨でまとめたダイジェストとなっています.どうぞご覧ください.
 連載記事のなかでは触れませんでしたが,3単現の -s の問題に歴史的に迫るには,(3人称)複数現在に付く語尾,つまり「複現」の屈折の問題も平行的に考える必要があります.その趣旨から,本ブログでは「複現」についても 3pp というカテゴリーのもとで様々に論じてきました.合わせてご参照ください.
 また,今回の連載記事でも,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』でも,詳しく取り上げませんでしたが,本来 -th をもっていた3単現語尾が初期近代英語期にかけて -s に置き換えられた経緯に関する問題があります.この問題も,英語史上,議論百出の興味深い問題です.議論を覗いてみたい方は,「#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s」 ([2014-05-26-1]),「#1856. 動詞の直説法現在形語尾 -eth は17世紀前半には -s と発音されていた」 ([2014-05-27-1]),「#1857. 3単現の -th → -s の変化の原動力」 ([2014-05-28-1]),「#2141. 3単現の -th → -s の変化の概要」 ([2015-03-08-1]),「#2156. C16b--C17a の3単現の -th → -s の変化」 ([2015-03-23-1]) などをご覧ください.

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2017-01-21 Sat

#2826. 連載記事「現代英語を英語史の視点から考える」を始めました [link][notice][diachrony][rensai][sobokunagimon]

 昨日1月20日付けで,「現代英語を英語史の視点から考える」と題する連載記事を開始しました.昨年,研究社より出版された拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画としての連載寄稿です.拙著との連係を図りつつ,内容についての補足や応用的な話題を提供してゆく予定です.月に一度のペースとなりますが,そちらも本ブログとともによろしくお願いします.
 さて,初回の話題は,「ことばを通時的にみる 」とは?」 です.拙著の2.1.3 「共時的な説明と通時的な説明」で取り上げた問題を,詳しく,分かりやすく掘り下げました.具体例として,3.2節で扱った「なぜ *foots, *childs ではなく feet, children なのか?」という「不規則複数形」の事例を挙げています.共時的ではなく通時的な視点から言語を眺めてみると,これだけ見方が変わるのだ,ということを改めて主張しています.
 通時態 (diachrony) と共時態 (synchrony) については,本ブログでもいろいろと考えてきましたが,今回の記事にとりわけ関連する点についてはこちらの記事群をご一読ください.
 関連して,「#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました」 ([2016-11-20-1]) や「#2806. 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画」 ([2017-01-01-1]) の記事もご参照を.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1]

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2017-01-01 Sun

#2806. 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画 [link][notice]

 明けましておめでとうございます.2017年も hellog を続けていきます.どうぞよろしくお願いします.
 昨年後半に,本ブログの内容もおおいに取り込んだ拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました.英語に関連する分野としては,一般にマイナーな領域とみられている「英語史」ですが,その存在意義を少しでも多くの方に知ってもらい,さらに欲をいえば,英語史を本格的に勉強してみたいという気持ちになってもらえればと思い,執筆しました.この執筆動機は本ブログの日々の執筆動機と完全に一致していますので,両者を合わせて読んでいただければと思います.
 『はじめての英語史』の出版にともないコンパニオン・サイト を研究社のサイト内に設けており,少しずつコンテンツを増やしている最中です.補足資料のページでは,本書の各章節の話題に対応した本ブログ記事へのリンクを多く張っていますので,本ブログ読者にも関心をもってもらえるかと思います.こちらも今後リンクをどんどん加えていく予定です.
 本書と同じ趣旨,似たテイストの「連載」記事も,今年から同コンパニオン・サイトで公開していく予定です.この連載企画は本書の延長という位置づけで,本書の補足や関連する話題を定期的に提供していくものです.早ければ数週間後には第1回が掲載されることになりますが,そちらもよろしくお願いいたします.関連して,「#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました」 ([2016-11-20-1]) もご参照ください.
 では,酉年が良い年になりますように!

Referrer (Inside): [2017-01-21-1]

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2016-12-25 Sun

#2799. Orijinz Quiz [link][etymology][hel_education]

 Merry Christmas! ということで,軽めの話題を.数年前のことだが,英語の語源や故事成語に関する豆知識をカード化した Orijinz という教材(?)を買ったことがある.商品サイトにメールアドレスを登録していたらしく,先日 Orijinz Quiz という HP へのリンクが送られてきた.クイズが数問あり,こちらに解答が書かれていた.
 そのなかの2問はすでに本ブログでも扱っている話題である.1つは「#2771. by and large」 ([2016-11-27-1]) で扱ったばかりの話題であり,別の1つは「#1767. 固有名詞→普通名詞→人称代名詞の一部と変化してきた guy」 ([2014-02-27-1]) の話である.

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2016-11-20 Sun

#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました [toc][link][notice][sobokunagimon]

 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が,研究社より出版されました.主として本ブログの記事を元にして執筆しているので,普段ブログを読んでいただいている方には関心をもってもらえるのではないかと思っています.英語学習者が一度は抱くはずの「素朴な疑問」に徹底的にこだわって書きました.

naze_front_cover

 ・ 堀田隆一(ほったりゅういち) 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.206頁.ISBN: 978-4327401689.定価2200円(税別).

 ・ 本書のコンパニオン・サイトもご覧ください.

 ・ 本書は,Amazon.co.jp 等のオンライン書店でも購入可能です.



 上にもあるように,本書のコンパニオン・サイトが研究社のウェブサイト内に設けられていますので,そちらもご覧ください.特に,まずは本書の紹介ページを訪れてみてください.そこには,内容紹介と目次や,コンパニオン・サイト用に書き下ろした本書のねらいを掲載しています.また,サンプルPDFへのリンクも張られていますので,ご一読ください.サンプルでは,「はじめに」,「目次」,そして本書の pp. 26--30 に相当する2.1節「なぜ *a apple ではなく an apple なのか?―――2種類の不定冠詞」の本文全体を読むことができるので,内容のフィーリング(←本ブログに近いです)がつかめると思います.まだ工事中となっているリンク先も多いですが,今後このコンパニオン・サイトには,本書に関する(あるいは英語史全般に関する)様々な補足資料をアップロードしていく予定です.また,本書の内容と関連した新しい話題を提供する「連載」も企画中です.
 本書のねらいに詳しいですが,本書は「英語教員をはじめとする英語にかかわる多くの方々に」読んでもらいたいと思い執筆しました.こだわりにこだわったことは,先にも述べたように「素朴な疑問」を扱うということ,「英語史」のおもしろさをとことん伝えること,そして読者に「目から鱗が落ちる」体験を味わってもらうことです.はたしてその目的はうまく果たされているかどうか・・・読者のみなさんの反応をお待ちしています!
 コンパニオン・サイト内にも本書の目次がありますが,参照用に詳しいバージョンを以下に再現しておきます.



はじめに

1  いかにして英語は現在の姿になったのか?―――英語史入門
  1.1  英語史の時代区分
    1.1.1  各時代区分の名称
    1.1.2  時代区分の恣意性
  1.2  資料と媒体
  1.3  音声と綴字の変化
    1.3.1  音声の変化
    1.3.2  綴字の変化
  1.4  文法の変化
  1.5  語彙の変化
  1.6  英語の多様性
2  発音と綴字に関する素朴な疑問
  2.1  なぜ *a apple ではなく an apple なのか?―――2種類の不定冠詞
    2.1.1  母音連続を避ける傾向?
    2.1.2  子音の前での n の脱落
    2.1.3  共時的な説明と通時的な説明
  2.2  なぜ名詞は récord なのに動詞は recórd なのか?―――「名前動後」の強勢パターン
    2.2.1  名前動後とは
    2.2.2  16世紀以来の語彙拡散
    2.2.3  名前動後の拡大の背景
    2.2.4  新しい強勢パターンの介入
    2.2.5  現在は通過地点
  2.3  なぜ often の t を発音する人がいるのか?―――発音と綴字の関係
    2.3.1  綴字発音
    2.3.2  often の起源と発達
    2.3.3  今の変化は昔の変化
  2.4  なぜ five に対して fifth なのか?―――古英語の発音規則
    2.4.1  five の語形こそが説明を要する
    2.4.2  有声音に挟まれると子音が有声化する規則
    2.4.3  third の音位転換
    2.4.4  first, second の補充法
  2.5  なぜ name は「ナメ」ではなく「ネイム」と発音されるのか?―――音変化とマジック e
    2.5.1  <e> の役割
    2.5.2  ナマからネイムへ
    2.5.3  運用変更による切り抜け
    2.5.4  綴字の保守性
  2.6  なぜ debt, doubt には発音しない <b> があるのか?―――ルネサンス期の見栄
    2.6.1  語源的綴字
    2.6.2  非語源的綴字?
    2.6.3  フランス語における語源的綴字
3  語形に関する素朴な疑問
  3.1  なぜ3単現に -s を付けるのか?―――屈折の歴史的性格
    3.1.1  共時的・形式的な説明
    3.1.2  共時的・機能的な説明
    3.1.3  通時的な説明
  3.2  なぜ *foots, *childs ではなく feet, children なのか?―――規則と不規則 (1)
    3.2.1  規則複数 -s の起源
    3.2.2  child の複数形が children となるわけ
    3.2.3  foot の複数形はなぜ feet か
    3.2.4  高頻度語と不規則複数
  3.3  sometimes の -s 語尾は何を表わすのか?―――古英語の格の痕跡
    3.3.1  古英語の属格
    3.3.2  古英語の対格
  3.4  なぜ不規則動詞があるのか?―――規則と不規則 (2)
    3.4.1  不規則動詞の規則化
    3.4.2  過去形のヴァリエーション
    3.4.3  set -- set -- set
    3.4.4  なぜ go の過去形が went になるのか?
  3.5  なぜ -ly を付けると副詞になるのか?―――形容詞と副詞の関係
    3.5.1  -ly は副詞接辞か?
    3.5.2  -e の衰退の一波万波
    3.5.3  単純副詞
4  統語に関する素朴な疑問
  4.1  なぜ未来を表わすのに will を用いるのか?―――未来時制の発達
    4.1.1  時・条件の副詞節では未来のことでも will を用いない
    4.1.2  英語に未来時制はなかった
    4.1.3  英語の未来時制の発達
  4.2  なぜ If I were a bird となるのか?―――仮定法の衰退と残存
    4.2.1  be 動詞の歴史
    4.2.2  仮定法は直説法とは別物と考える
    4.2.3  仮定法現在と should
  4.3  なぜ英語には主語が必要なのか?―――語順の固定化 (1)
    4.3.1  非人称構文
    4.3.2  非人称構文から人称構文へ
    4.3.3  現代英語に残る非人称構文
  4.4  なぜ *I you love ではなく I love you なのか?―――語順の固定化 (2)
    4.4.1  世界の言語の基本語准
    4.4.2  古英語から中英語への語順の発達過程
    4.4.3  属格名詞の前置と of の発達
    4.4.4  なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか?
  4.5  なぜ May the Queen live long! はこの語順なのか?―――祈願の may の発達
    4.5.1  近代英語期の祈願の may の発達
    4.5.2  古英語・中英語における祈願の may の萌芽
    4.5.3  語用標識としての may
5  語彙と意味に関する素朴な疑問
  5.1  なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?―――英語語彙の階層性 (1)
    5.1.1  日本語語彙の階層
    5.1.2  英語語彙の階層
    5.1.3  逆転の構造
  5.2  なぜ Assist me! とはなおさら叫ばないのか?―――英語語彙の階層性 (2)
    5.2.1  英語語彙の3層構造
    5.2.2  日本語語彙の3層構造
    5.2.3  3層ピラミッド構造の比喩
  5.3  なぜ1つの単語に様々な意味があるのか?―――同音異義と多義
    5.3.1  同音異義衝突
    5.3.2  though と they の同音異義衝突の例
    5.3.3  同○異△語
  5.4  なぜ単語の意味が昔と今で違うのか?―――単語の意味変化の日常性
    5.4.1  意味変化の日常性と類型
    5.4.2  deer の周辺の体系的な意味変化
    5.4.3  意味借用
  5.5  英語の新語はどのように作られるのか?―――混成語の流行
    5.5.1  現代の新語の作り方
    5.5.2  借用
    5.5.3  複合と派生
    5.5.4  混成
    5.5.5  頭字語
6  方言と社会に関する素朴な疑問
  6.1  なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?――― r の発音と移民史
    6.1.1  イギリスにおける r
    6.1.2  アメリカにおける r
    6.1.3  イギリスからアメリカへ渡った移民の出身地
    6.1.4  「間大西洋変種」の r
  6.2  アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?――― colonial lag の虚実
    6.2.1  アメリカ英語のステレオタイプ
    6.2.2  「アメリカ英語=革新的」神話の打破
    6.2.3  「アメリカ英語=保守的」神話の打破
    6.2.4  英米さの類型論と均衡の取れた見方
    6.2.5  言語において保守的とは何か
  6.3  なぜ黒人英語は標準英語と異なっているのか?―――英語変種と偏見
    6.3.1  AAVE の起源
    6.3.2  AAVE の特徴
    6.3.3  黒人英語はさらに異なっていくのか?―――黒人英語の合流仮説と分岐仮説
    6.3.4  AAVE の3単現の -s
  6.4  なぜ船・国名を she で受けるのか?―――英語におけるジェンダー問題 (1)
    6.4.1  現代英語の例
    6.4.2  歴史的背景
    6.4.3  20世紀中の現象
  6.5  なぜ単数の they が使われるようになってきたのか?―――英語におけるジェンダー問題 (2)
    6.5.1  3人称単数共性代名詞を求めて
    6.5.2  実は古くからあった単数の they
    6.5.3  規範的な he の人工性

篁????
  英語史年表
  読書案内

おわりに―――なぜ英語史を学ぶのか?

参考文献

索引


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2016-10-25 Tue

#2738. Book of Common Prayer (1549) と King James Bible (1611) の画像 [bible][book_of_common_prayer][popular_passage][hel_education][bl][history][literature][link][emode][printing]

 表題の2つの書は,英語史上大きな影響力をもった,初期近代英語で書かれた文献である.いつぞやか大英図書館で購入した絵はがきを見つけたので,各々より1葉のイメージを与えておきたい(画像をクリックすると文字も読める拡大版).

Book of Common Prayer (Of Matrimonie)King James Bible (Title-page)
Book of Common Prayer (Of Matrimonie)King James Bible (Title-page)


 Book of Common Prayer および King James Bible については,各々以下の記事やリンク先を参照.

 ・ 「#2597. Book of Common Prayer (1549)」 ([2016-06-06-1])
 ・ 「#745. 結婚の誓いと wedlock」 ([2011-05-12-1])
 ・ 「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1])

 ・ BL より Sacred Texts: King James Bible
 ・ The King James Bible - The History of English (4/10)

Referrer (Inside): [2018-11-27-1]

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2016-10-19 Wed

#2732. British Library の提供する英語史学習サイト "English Timeline" と "Words for time travellers" [hel_education][link][bl][chaucer]

 The British Library"English Timeline" という英語史学習用コンテンツを提供している.「#1456. John Walker の A Critical Pronouncing Dictionary (1791)」 ([2013-04-22-1]) で関連するリンクを張った程度だが,眺めていくとなかなかおもしろい.写本画像などのイメージや各種メディアのコンテンツが豊富で,教材として役に立ちそうだ.
 同様に,関連するコンテンツとして Words for time travellers もある.画像,テキスト,演習問題のついているものもあり,教材として使えそうだ.例えば,Chaucer について4ページのコンテンツがあり,以下のような構成になっている.

 (1) Chaucer's English - page 1: Caxton 版の The Canterbury Tales よりテキストと写本画像を掲載
 (2) Chaucer - page 2: テキストを簡単な注解により解説
 (3) Chaucer - page 3: 単語に関する演習問題
 (4) Chaucer - page 4: その解答
 
 「#18. 英語史をオンラインで学習できるサイト」 ([2009-05-16-1]) で紹介した BBC の Ages of English Timeline とともに,英語史の学習・教育にどうぞ.

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2016-06-24 Fri

#2615. 英語語彙の世界性 [lexicology][loan_word][borrowing][statistics][link]

 英語語彙は世界的 (cosmopolitan) である.350以上の言語から語彙を借用してきた歴史をもち,現在もなお借用し続けている.英語語彙の世界性とその歴史について,以下に本ブログ (http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/) 上の関連する記事にリンクを張った.英語語彙史に関連するリンク集としてどうぞ.

1  数でみる英語語彙
  1.1  語彙の規模の大きさ (#45)
  1.2  語彙の種類の豊富さ (##756,309,202,429,845,1202,110,201,384)
2  語彙借用とは?
  2.1  なぜ語彙を借用するのか? (##46,1794)
  2.2  借用の5W1H:いつ,どこで,何を,誰から,どのように,なぜ借りたのか? (#37)
3  英語の語彙借用の歴史 (#1526)
  3.1  大陸時代 (--449)
    3.1.1  ラテン語 (#1437)
  3.2  古英語期 (449--1100)
    3.2.1  ケルト語 (##1216,2443)
    3.2.2  ラテン語 (#32)
    3.2.3  古ノルド語 (##340,818)
  3.3  中英語期 (1100--1500)
    3.3.1  フランス語 (##117,1210)
    3.3.2  ラテン語 (#120)
  3.4  初期近代英語期 (1500--1700)
    3.4.1  ラテン語 (##114,478)
    3.4.2  ギリシア語 (#516)
    3.4.3  ロマンス諸語 (#2385)
  3.5  後期近代英語期 (1700--1900) と現代英語期 (1900--)
    3.5.1  世界の諸言語 (##874,2165)
4  現代の英語語彙にみられる歴史の遺産
  4.1  フランス語とラテン語からの借用語 (#2162)
  4.2  動物と肉を表わす単語 (##331,754)
  4.3  語彙の3層構造 (##334,1296,335)
  4.4  日英語の語彙の共通点 (##1526,296,1630,1067)
5  現在そして未来の英語語彙
  5.1  借用以外の新語の源泉 (##873,875)
  5.2  語彙は時代を映し出す (##625,631,876,889)


[ 参考文献 ]

 ・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2016-05-13 Fri

#2573. Caxton による Recuyell of the Historyes of Troye の序文 [caxton][lme][literature][printing][popular_passage][manuscript][link][me_text]

 英語史上最初に英語で印刷された本は,William Caxton による印刷で,Recuyell of the Historyes of Troye (1475) である.印刷された場所はイングランドではなく,Caxton の修行していた Bruges だった.この本は,当時の北ヨーロッパの文化と流行の中心だったブルゴーニュの宮廷においてよく知られていたフランス語の本であり,ヨーク家のイングランド王 Edward IV の妹でブルゴーニュ公 Charles に嫁いでいた Margaret が気に入っていた本でもあったため,Caxton はこれを英訳して出版することを商機と見ていた.
 題名の Historyes は,当時は「歴史(物語)」に限定されず「伝説(物語)」をも意味した.Recuyell という英単語は「寄せ集める」を意味する(したがって「編纂文学」ほどを指す)フランス単語を借用したものであり,まさにこの本の題名における使用が初例である.
 以下に,英語史上燦然と輝くこの本の序文を,Crystal (32) の版により再現しよう.

hEre begynneth the volume intituled and named the recuyell of the historyes of Troye / composed and drawen out of dyuerce bookes of latyn in to frensshe by the ryght venerable persone and wor-shipfull man . Raoul le ffeure . preest and chapelayn vnto the ryght noble gloryous and myghty prince in his tyme Phelip duc of Bourgoyne of Braband etc In the yere of the Incarnacion of our lord god a thou-sand foure honderd sixty and foure / And translated and drawen out of frenshe in to englisshe by Willyam Caxton mercer of ye cyte of London / at the comaūdemēt of the right hye myghty and vertuouse Pryncesse hys redoubtyd lady. Margarete by the grace of god . Du-chesse of Bourgoyne of Lotryk of Braband etc / Whiche sayd translacion and werke was begonne in Brugis in the Countee of Flaundres the fyrst day of marche the yere of the Incarnacion of our said lord god a thousand foure honderd sixty and eyghte / And ended and fynysshid in the holy cyte of Colen the . xix . day of Septembre the yere of our sayd lord god a thousand foure honderd sixty and enleuen etc.

And on that other side of this leef foloweth the prologe.


 なお,Rylands Medieval Collection より The Recuyell of the Historyes of Troye の写本画像 を閲覧できる.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

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