hellog〜英語史ブログ

#3037. <ee>, <oo> はあるのに <aa>, <ii>, <uu> はないのはなぜか?[spelling][vowel][spelling][minim]

2017-08-20

 現代英語の綴字で feet, greet, meet, see, weed など <ee> は頻出するし,foot, look, mood, stood, took のように <oo> も普通に見られる.それに比べて,aardvark, bazaar, naan のような <aa> は稀だし,日常語彙で <ii>, <uu> もほとんど見られないといっていよい.長母音を表わすのに母音字を重ねるというのは,きわめて自然で普遍的な発想だと思われるが,なぜこのような偏った分布になっているのだろうか.
 古英語では,短母音とそれを伸ばした長母音を区別して標示するのに特別は方法はなかった."God" と "good" に対応する語はともに god と綴られたし,witan は短い i で発音されれば "to know" の意味の語,長い i で発音されれば "to look" の意味の語となった.しかし,中英語になると,このような母音の長短の区別をつけようと,いくつかの方法が編み出された.それらの方法はおよそ現代英語に残っており,<ae>, <ei>, <eo>, <ie>, <oe> のように異なる複数の母音字を組み合わせるものもあれば,<a .. e>, <i .. e>, <u .. e> など遠隔的に組み合わせる方法もあったし,より直観的に,同じ母音字を重ねる <aa>, <ee>, <ii>, <oo>, <uu> などもあった.単語により,あるいはその単語のもっている発音により相当に込み入った事情があるなかで,徐々に典型的な綴り方が絞られていったが,同じ母音字を重ねる方式に関しては,<ee>, <oo> だけが残った.いったいなぜだろうか.
 <ee> と <oo> が保持されやすい特殊な事情があったというよりは,むしろ <aa>, <ii>, <uu> が採用されにくい理由があったと考えるほうが妥当である.というのは上に述べたように,母音字を重ねるという方式はしごく自然と考えられ,それが採用されない理由を探るほうが容易に思われるからだ.
 <ii> と <uu> が避けられたのは説明しやすい.中世においては,これらの綴字はいずれも点の付かない縦棒 (minim) のみで構成されており,それぞれ <ıı>, <ıııı> と綴られた.このように複数の縦棒が並列すると,意図されているのがどの文字(の組み合わせ)なのかが読み手にとって分かりにくくなるからだ.例えば,<ıııı> という綴字を見せられても,意図されているのが <iiii>, <ini>, <im>, <mi>, <nn>, <nu>, <un>, <wi> 等のいずれを表わすかは文脈を参照しなければわからない.関連して,「#91. なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか」 ([2009-07-27-1]),「#223. woman の発音と綴字」 ([2009-12-06-1]),「#870. diacritical mark」 ([2011-09-14-1]),「#1094. <o> の綴字で /u/ の母音を表わす例」 ([2012-04-25-1]),「#2227. なぜ <u> で終わる単語がないのか」 ([2015-06-02-1]),「#2450. 中英語における <u> の <o> による代用」 ([2016-01-11-1]) を参照されたい.
 <aa> については,なぜこれが採用されなかったのかの説明は難しい.初期中英語には,<aa> で綴られる単語もいくつかあったが,後世に伝わらなかった.Crystal (46) は,"aa never survived, probably because the 'silent' e spelling had more quickly established itself as the norm, as in name, tale, etc." と考えているが,もうそうだとしてももっと説得力のある説明が欲しいところだ.
 結局,特に差し障りがなく自然なまま生き残ったのが <ee>, <oo> ということだ.関連して,「#2092. アルファベットは母音を直接表わすのが苦手」 ([2015-01-18-1]) および「#2887. 連載第3回「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」」 ([2017-03-23-1]) を参照

 ・ Crystal, David. Spell It Out: The Singular Story of English Spelling. London: Profile Books, 2012.

Referrer (Inside): [2017-09-21-1]

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