hellog〜英語史ブログ

#780. ベジタリアンの meat[semantic_change][proverb]

2011-06-16

 昨日の記事「Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]) で Cornish pasty に軽く言及した.LDOCE5 により "a folded piece of pastry, baked with meat and potatoes in it, for one person to eat" と定義される大きな D 形のコーニッシュ・パイは,英国内はもちろんのこと欧米で広く食されており,その生産は Cornwall の主要産業の1つともなっている.ロンドンなどの街角では Cornish pasty shop はよく目にする.
 このパイと Cornwall との結びつきの由来は定かではないようだが,17,18世紀の Cornwall のスズ坑夫の手軽な弁当として発展してきたものといわれる.ボリュームがあり,冷めにくく,手で食べられるのが魅力だったのではないか(ボリュームがありすぎてビールのお供にというつもりで夜中に食べると胃がもたれるので注意).詳しい蘊蓄と写真は Wikipedia: Pasty を参照.
 パイにも様々な種類があるが,特にクリスマスに食される mince pie というパイがある.LDOCE5 によると "a pie filled with mincemeat, especially one that people eat at Christmas" とある.甘い菓子パイで,Google 画像で写真をみれば,あれのことかと思い当たるのではないだろうか.
 この mince pie の詰め物のことを mincemeat という.mincemeat の定義を CALD3 でみると,"a sweet, spicy mixture of small pieces of apple, dried fruit and nuts, (but not meat), which is often eaten at Christmas in mince pies" とある.ここから mincemeat には意外なことに肉が入っておらず,それを詰め物にした mince pie がベジタリアン食であることが分かる.
 meat の本来の意味と意味変化について知っていれば,これは不思議なことではない.meat は古英語では「食物;食事」の意であり,「肉」の意に限定されてきたのは13世紀以降のことである.ここでは意味の特殊化 ( specialisation ) が生じていることになる(意味の特殊化の他の例は,[2009-09-01-1], [2010-08-13-1], [2010-12-14-1], [2010-12-15-1], [2011-02-15-1]の記事を参照).
 The Authorized Version of the Bible では meat は「食物;食事」の意でしか用いられていないが,それを除けば,現代英語では上記の mincemeat や下記の少数の慣用表現・諺に古い語義が認められるのみである.

- before [after] meat 「食前[食後]に」
- green meat 「青物」
- meat and drink 「飲食物」 cf. meat and drink to sb 「?にとって何よりの楽しみ」
- One man's meat is another man's poison. 「甲の薬は乙の毒(=人の好みはさまざま)」
- sit down to meat 「食卓につく」
- sweetmeat 「砂糖菓子」

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