受験英文法で「びっくり should」「がっくり should」「当たり前の should」という呼び名の用法がある.It is surprising that she should love you. などにおける従属節の should の用法のことだ.私も受験生のときに,これを学んだ覚えがある.
しかし,英語史の立場からこの現象を解釈しようとする者にとっては,このような呼称はあまりに共時的,便宜的に聞こえる.明確に通時的な立場を取る細江にとって,should のこの用法に対する様々な呼称は気に障るようである (309) .
この should は邦語の「何々しようとするのはむつかしく何々しようとするのはやさしい」などの「しよう」の中に含まれている叙想的意義を持つものである。それゆえこれを「意外という意味の should」「正当を意味する should」などいうようなのは全く言語道断である。
歴史的なスタンスに立つ私自身も,細江の主張には賛同する.上の引用で端的に述べられているが,ポイントは,かつては屈折語尾で表わされていた叙想法(仮定法,接続法)が,後に助動詞を用いる迂言法で置き換えられたことを反映し,現在 should が用いられている,ということだ.この should の用法を「意外」の用法などと呼ぶことは共時的なショートカットにすぎず,歴史的な観点からは「迂言的接続法」あるいは「接続法の迂言的残滓」と呼ぶべきものである.その心は,と問われれば,細江 (310) が答えて曰く「この should の意義はある事柄をわれわれの判断に訴える思考上の問題とするのにあるので,けっして他の意はない」である.
この should が用いられる典型的な構文は It is strange that . . . should . . . . などだが,変異パターンも多い.細江 (310--13) を参照して,近代英語からのいくつかの例文を挙げよう.
・ It is right that a false Latin quantity should excite a smile in the House of Commons; but it is wrong that a false English meaning should not excite a frown.---Ruskin.
・ How almost impossible is it that good should come unmixed with evil!---Watts-Dunton.
・ That there should have been such a likeness is not strange.---Macaulay.
・ How very strange that you should have said so!---Hardy.
・ It is natural enough, Mr. Holgrave, that you should have ideas like these.---Hawthorne.
・ It is strange I should not have heard of you.---Wilkie Collins.
・ Is it not extraordinary that a burglar should deliberately break into a house at a time when he could see from the lights that two of the family were still afoot?---Doyle.
・ Is it possible, on such a sudden, you should fall into so strong a liking with old Sir Rowland's youngest son?---Shakespeare
・ It is impossible you should need any assistance.---Cowper.
・ I wonder you should ever have troubled yourself with Christ at all.---Borrow.
・ Now, I wonder a girl of your sense should waste a thought upon such a trumpery.---Goldsmith.
・ I am sorry that Murray should groan on my account.---Byron.
・ I lament that your father should be deceived.---Ainsworth.
・ I am content it should be in your keeping.---Scott.
・ O that men should take an enemy into their mouths to steal away their brains!---Shakespeare.
・ Oh, Henry, to think that you should have such a grief as this; your dear father's tomb violated!---Watts-Dunton.
これらの例文では should が用いられているが,先述のとおり,古くは接続法の屈折が用いられていた.近代英語でもまだ屈折はかろうじて生き残っていたので,例は挙げられる.
・ 'Tis better that the enemy seek us.---Shakespeare
・ It is not proper that I be beholden to you for meat and drink.---George Borrow.
・ I am often ashamed lest this be selfish.--Miss Mulock.
ここから分かる通り,この用法の should は,「びっくり」「がっくり」などの特別なラベルを貼り付けるのがふさわしい用法というよりは,単に古い時代の屈折による接続法の代用としての迂言的な接続法の用法にすぎない.実際上,共時的に「びっくり」「がっくり」などの含意が伴うことが多いのは確かだが,should と「びっくり」「がっくり」とは直接には結びつかない.これらを間接的に結びつける鍵は,接続法の本来の機能である「想念」というより他ない.「想念」という広い範囲を覆うものであるから,文脈によっては「驚き」ではなく「不安」「疑い」「喜び」「憧れ」等々,何とでもなり得るのである.このように理解すると,この should の用法を公式的に「びっくり should」ととらえる場合よりも,理解に際して応用範囲が広くなるだろう.これは,言語現象を通時的に見る習慣のついている英語史がもたらしてくれる知恵の1つである.
・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.
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