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hellog〜英語史ブログ / 2021-11-19

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2021-11-19 Fri

#4589. 1911年,日本の学生の英語力が低下した理由とその処方箋 --- 夏目漱石と岡倉由三郎 [english_in_japan]

 明治末期は,それ以前の英語漬けによる英語教育の潮流が去り,エリートの間でも英語力が低下していた.この状況を受けて,当時を代表する英語人といってよい夏目漱石と岡倉由三郎が,それぞれおもしろい英語教育論を公表している.
 斎藤(著)『日本人と英語 --- もうひとつの英語百年史』 (45) より,まず漱石による「語学養成法」(明治44年1月?2月号の『学生』より)の文章を読んでみよう.当時の英語力低下の原因を探った論考である.

……吾々の学問をした時代は、総ての普通学は皆英語で遣らせられ、地理、歴史、数学、動植物、その他如何なる学科も皆外国語の教科書で学んだが、吾々より少し以前の人に成ると、答案まで英語で書いたものが多い。(中略)処が「日本」と云ふ頭を持つて、独立した国家という点から考えると、かゝる教育は一種の屈辱で、恰度、英国の属国印度と云つたやうな感じが起る。日本の nationality は誰が見ても大切である。英語の知識位と交換の出来る筈のものではない。従つて国家生存の基礎が堅固になるに伴れて、以上の様な教育は自然勢を失ふべきが至当で、又事実として漸漸其の地歩を奪はれたのである。実際あらゆる学問を英語の教科書でやるのは、日本では学問をした人がないから已むを得ないと云ふ事に帰着する。学問は普遍的なものだから、日本に学者さへあれば、必ずしも外国製の書物を用ゐないでも、日本人の頭と日本の言語で教へられぬと云ふ筈はない。又学問普及といふ点から考えると、(或る局部は英語で教授しても可いが)矢張り生まれてから使ひ慣れてゐる日本語を用ゐるに越した事はない。たとひ翻訳でも西洋語その儘よりは可いに極つてゐる。


 至極もっともな言い分に聞こえる.
 続いて,同年の『英語教育』に掲載されている岡倉由三郎の英語教育論の一節を,斎藤 (50) より引こう.英語力の低下の原因についてこう述べている.

今日の学生に、語学の力の不足なりと認められる点は、語彙の知識の貧弱なことも其一である。かのあらゆる学科に原書を用ゐなければならなかった時代には、英語の力の上から見て、其活用方面は兎まれ、単語に於ては、充分豊富なる知識を有するを得たことは事実である。然るに今日の如く、英語は英語の教授時間以外に、之を学び得る機会が殆ど無くなった時代には、此点に対して遜色あるは止むを得ぬことである。


 その後で,処方箋としてこんなことを提案している(斎藤 (51) より).

そこで、之を補ふ為には、自宅自修を多く遣らせる外、名案の無いことゝ為る。究極の所、今日は自修を多く命ずると云ふ事が、最緊切な点で、英語教授を効果あらしめるには、自修に俟つを最良とするより外に道が無い。然るに今日の教授法では自修に十分重きを置いて居るか、頗る疑はしい。此点は深く教師諸君の注意を乞はねばならぬ。


 斎藤も「悲しいまでに当たり前の真理」 (51) と述べている通り,身も蓋もない処方箋ではあるが,現代でもこれは変わらないだろう.

 ・ 斎藤 兆史 『日本人と英語 --- もうひとつの英語百年史』 研究社,中央公論新社,2007年.

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最終更新時間: 2024-04-08 06:04

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