英語の文 ( sentence ) には,肯定文 ( positive ) と否定文 ( negative ) ,平叙文 ( statement ) と疑問文 ( question ) という2組の基本的な対立がある."He is honest." という肯定平叙文を例にとると,そこから次のような 2 x 2 の派生文が得られる.
| statement | question |
positive | He is honest. | Is he honest? |
negative | He isn't honest. | Isn't he honest? |
この分類は,2組の対立によりきれいにまとめられ,疑問を差し挟む余地はないように見える.しかし,この4つの文を分類する方法は他にもあり,そちらの分類を用いると新たな知見が得られる.大げさにいえば英語の世界観の一端を垣間見ることができる.
それは,assertion 対 nonassertion という別の対立軸の導入によって可能になる (Quirk
et al. 53--54) .この対立によると,基本文 "He is honest." が assertive となり,そこから派生する3つの文はいずれも nonassertive となる.肯定平叙文では 'He is honest' という命題が断定されているが,否定文や疑問文ではその命題が否定されるか疑問に付されるかで,いずれにしても断定はされていない.assertion という観点によって,肯定平叙文とそれ以外とで大きく二分されることになる.そこで,上記の 2 x 2 の表に替わって次のような図式が得られる.
+----- assertion ( "He is honest." )
|
sentence -----+ +----- negative ( "He isn't honest." )
| |
+----- nonassertion -----+
|
+----- question ( "Isn't he honest?" )
nonassertion の文は assertion の文と命題論理の観点から対置されるだけでなく,統語的にも operator (この文の場合には be 動詞の
is )の振る舞いが変化するという点でも対置される.さらに,assertion / nonassertion の対立は,以下の一連の対応語句の分布を説明する.
some /
any,
somebody /
anybody,
something /
anything,
sometimes /
ever,
already /
yet .各ペアの語句で,前者 ( assertive form ) はもっぱら肯定平叙文に現われ,否定文や疑問文にはもっぱら後者 ( nonassertive form ) が用いられる.
このように,assertion という観点を導入することで,英語の構文に関する新たな知見が得られることが分かるが,ここに1つ問題が残されている.否定疑問文 "Isn't he honest?" が上の図のどこに収まるのかという問題である.否定疑問文が nonassertion に含まれることは,統語的にも,論理的にも,また nonassertive form が出現可能である点でも,間違いない.では,図で示した negative や question と同列に置かれるのがよいのだろうか.あるいは,negative か question のいずれかに強く結びついており,それに応じて階層化を工夫する必要があるのだろうか.これについては明日の記事で.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik.
A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972.
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