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この5日間,人工言語についての記事を書いてきた (##958,959,960,961,962) .書きながら考えてきたことなのだが,人工言語の歴史を学ぶことは,自然言語の特徴や英語史の問題を考察する上で,新しい視点をもたらしてくれるようである.人工言語が必ずしも成功を収めていない事実と英語の実質的な世界的展開とのあいだに何らかの関係があるとすれば,それを探ることは有意義だろう.以下,この新しく得られそうな視点に関連して,5点ほど箇条書きでメモしておく.
(1) 自然言語の特徴が浮き彫りになる
人工言語に対する賛否両論は,そのまま,英語のような自然言語が世界共通語として機能している状況への人々の様々な反応を反映している.人工言語の長所と短所は自然言語の短所と長所に対応していることが多い.例えば,[2011-12-14-1]の記事「#961. 人工言語の抱える問題」の (2) に示したアイデンティ標示機能は,自然言語には必然的に備わっているが人工言語には欠けている.民族主義の興隆と人工言語の普及運動とが歴史的に反比例の関係になりやすかったことも,この点と関係しているだろう.一方で,程度の差はあれ双方がともに抱えている問題もある.例えば,同記事の (3) 言語的偏狭と (5) 反感は,双方ともに免れているとはいいがたい.
(2) 世界共通語としての英語の抱える問題が浮き彫りになる
英語に限らず自然言語の常ではあるが,言語的な不規則性が学習効率を妨げているという主張が,しばしば人工言語支持者からなされる.人工言語におけるその解決策案を参照すれば,多くの人が,英語の語学的な問題がどのような点にあると考えているかを推し量ることができる(綴字と発音の乖離,<th> 音,イディオム等々).また,人工言語支持者がしばしば示す英語への反感の根拠を探ることで,英語そのものが問題である側面と,英語が代表している自然言語一般の問題である側面とが区別できるかもしれない.
(3) 英語の抱える問題への解決策が議論できる
上の (2) で示されるような英語の問題に対する解決策として,どのような策が実現可能であるか,議論できるようになる.[2011-12-13-1]の記事で取り上げた Basic English や,理念的にその延長線上にあると考えられる辞書の defining vocabulary など,英語そのものを改革するような策ではなく,英語学習・教育に応用して成果をあげられるような現実的な策を提案できるようになるのではないか.
(4) 人々の世界共通語への期待の大きさが認識される
自然言語(英語)支持者と人工言語支持者は立場は違えど,共通して目指している方向がある.現代世界で日増しに高まる国際コミュニケーションの需要に応えることのできる世界共通語の希求と期待である.両者の立場は場合によっては180度異なるともいえるが,究極的に追い求めているものは同じ理想である.未来の世界共通語に寄せられている期待の大きさは,それほどまでに大きい.はたして,英語は,あるいはエスペラント語は,この重圧に耐えられるのか.
(5) ピジン語やクレオール語の再解釈を促す
Basic English に象徴される英語の語彙の単純化や,計画的に人工言語に埋め込まれた簡便な文法などが指向しているのは,学習の容易さである.Basic English や人工言語はあくまで人為的な人造物だが,より自然な形で学習の容易さを実現していると解釈できるものに,ピジン語やクレオール語がある.ピジン英語やクレオール英語は一般には劣った言語として捉えられることが多いが,世界共通語への期待という文脈に位置づければ,簡単化した自然言語として再評価することができるかもしれない.ピジン語あるいはクレオール語を,即,世界共通語の議論に結びつけることはもちろん突飛だが,少なくとも Basic English や人工言語と並べて比較することには意味があるのではないか.
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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