統語に関する類型論 (typology) の古典的な知見を紹介する.Whaley (86) が Lehmann (1973, 1978a) を参照しながら "Lehmann's Consituent Order Correlations" を掲げている.
Word Order | Correlation |
VO | OV |
Preposition + noun | Noun + preposition |
Noun + genitive | Genitive + noun |
Noun + adjective | Adjective + noun |
Noun + relative clause | Relative clause + noun |
Sentence-initial question word | Noninitial question word |
Prefixes | Suffixes |
Auxiliary verb + main verb | Main verb + auxiliary verb |
Comparative adjective + standard | Standard + comparative adjective |
Verb + adverb | Adverb + verb |
Negative + verb | Verb + negative |
Subordinator + clause | Clause + subordinator |
ある言語が VO 語順か OV 語順かが分かれば,その他の統語項目の並び順も予想できる,というのがこの表の骨子である.もちろん必ずしも正確に予想できるわけではないのだが,少なくとも相関関係はある,というのが趣旨だ.
しかし,この相関関係の主張に対しては様々な批判が投げかけられてきた.1つは,それほど高い相関関係ではないのではないかという疑いだ.例えば,英語は VO 語順だが,予想される「名詞+形容詞」ではなく「形容詞+名詞」が基本だ.このような「反例」が思ったよりも多く出てきてしまうようだ.
いま1つは,この表を受け入れるにせよ,なぜこのような相関関係が成立するのかについての考察がなされていないことだ.
さらに,VO か OV かという違いを基盤に据えれば他の統語項目の並び順を予想することができるという主張がなされているわけだが,真に相関関係が成り立つのであれば,基盤に据えるのは他の統語項目でもよいはずだ.なぜ VO か OV をとりわけ重要な基盤とみなすのだろうか.
このような反論はあるものの,Lehmann は統語に関する類型論の基本的なアイディアを示してくれたとはいえる.
今回参照した Whaley の著書については「#4692. 類型論の3つの問題,および類型論と言語変化の関係について」 (
[2022-03-02-1]) も参照.
・ Whaley, Lindsay J.
Introduction to Typology: The Unity and Diversity of Language. Thousand Oaks: Sage, 1997.
・ Lehmann, Winfred P. "A Structural Principle of Language and Its Implications."
Language 49 (1973): 47--66.
・ Lehmann, Winfred P. "Conclusion: Toward an Understanding of the Profound Unity Underlying Language."
Syntactic Typology. Austin: U of Texas P, 1978. 395--432.
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