hellog〜英語史ブログ

#5066. 英語の前置詞としての sans[french][loan_word][preposition][shakespeare][connotation][idiom]

2023-03-11

 この1週間は hellog でも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも前置詞 (preposition) に注目する機会がたまたま多く,途中から「前置詞ウィーク」と呼んで発信していました.前置詞にご関心のある方は,ぜひこの数日間の記事や放送回を振り返っていただければと思います..
 今日も同じ流れで,意外性のある前置詞として sans を紹介します.without に相当するフランス語の前置詞でフランス語では sans /sɑ̃/ と発音されますが,英語としては綴字通りに /sænz/ と発音されます.フランス語からそのまま取り入れた慣用表現の前置詞句は,例えば sans doute 「疑いもなく」 /sɑ̃ duːt/ のように,フランス語風に発音されますが,そうでない場合には英語化した /sænz/ で発音されます.英語の文脈では,たいてい古風,あるいは冗談めかした connotation で用いられます.例文を挙げてみましょう.

 ・ Sans teeth, sans eyes, sans taste, sans everything. 「(老いぼれて)歯もなく,目もなく,味もなければ何もなし」(Shakespeare, As You Like It II. vii)
 ・ a wallet sans cash
 ・ There were no potatoes so we had fish and chips sans the chips.
 ・ He came to the door sans shirt.
 ・ She went to the party sans her husband.
 ・ She would not be happy with people seeing her sans makeup.
 ・ He was wearing running shoes, sans socks.


 こうしてみると,なかなか使ってみたくなる前置詞ですね.
 OED の sans, prep. によると,英語での初出は初期近代英語の Kyng Alisaunder です.

c1300 K. Alis. 134 Of gold he made a table Al ful of steorren, saun fable.


 ただし,Shakespeare 以前の用法はいずれも目的語としてフランス単語を伴っており,いわばフランス語の慣用表現をそのまま英語に取り込んだもののようです (ex. sans delay, sans doubt, sans fable, sans pity, sans return).英語において生産的な前置詞として発達したのは,かの言葉遊びの天才がユーモアを交えて再導入したからといってよさそうです.

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