hellog〜英語史ブログ

#209. near の正体[double_comparative][comparison]

2009-11-22

 [2009-11-08-1]で Shakespeare の二重比較級 ( double comparative ) の使用について触れた.近代英語期の文法を語るときに,worser などの二重比較級 がよく話題に取りあげられる.しかし Nevalainen に触れられている Kytö and Romaine の研究によると,実際のところ二重比較級の頻度は比較級全体の 1% にすぎないという.現代標準英語の視点からすると珍しい現象であるがゆえに,実際以上に評価されてしまう例だろう.
 現代標準英語では,二重比較級はなおさら少ない---というよりも,誤用である.だが,注記すべき例外が二つある.一つは[2009-11-08-1]でも触れた lesser である.もう一つは,lesser よりも気づきにくいものの,頻度はいくぶん高いと思われる nearer である.near はそれ自体が歴史的には比較級であり,-er 語尾を付加した nearer は,すなわち二重比較級ということになる.
 古英語では,対応する形容詞・副詞の原級は nēah だった.そして,比較級が nēara,最上級が nīehsta だった.これらは,それぞれ形態的には現代英語の nigh, near, next に対応している.
 near は,このように本来は比較級だったが,中英語初期から原級として解釈されるケースが出てきた.この解釈は,例えば現代英語でも come nearcome nearer が語用論的にほぼ同義となり得ることから理解できよう.同様の発達は,中期オランダ語の naer にも観察されるという.
 16世紀には,本来の比較級としての near の用法もいまだ見られたが,新しい比較級として nearer が現れ出し,以降,比較級としての near は徐々に衰退していった.こうして,near は原級として生まれ変わった.
 結果として,現代英語には,古英語の形容詞・副詞 nēah に由来する二系列の比較級・最上級が併存することとなった.旧式の系列では,原級の nigh は古風であり,比較級の near は廃用となっており,最上級の next は「最も近い」から「次の」へと意味が限定されている.意味的,語法的に有標 ( marked ) の系列といっていいだろう.
 一方,新式は味も素っ気もない無標 ( unmarked ) の系列である.生まれ変わった原級としての near に規則的に -er, -est が付加され,規則的な比較級と最上級の意味「より近い」「もっとも近い」を表すのみである.
 まとめると以下のようになる.

旧式(有標)nigh (古風)near (廃用)next (「次の」)
新式(無標)nearnearernearest


 ・Kytö, Merja and Suzanne Romaine. "Competing Forms of Adjective Comparison in Modern English." To Explain the Present: Studies in the Changing English Language in Honour of Matti Rissanen. Mémoires de la Société Néophilologique de Helsinki. 52. Ed. Terttu Nevalainen and Leena Kahlas-Tarkka. Helsinki: Société Néophilologique, 329--52.
 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 99.

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