hellog〜英語史ブログ

#63. 塵肺症は英語で最も重い病気?[spelling]

2009-06-30

 「塵肺症」という病気がある.日本語として知っている人は少ないだろうが,英語ではちょっと有名である.ただ,有名というのはその病気自体ではなく,それを表す英単語が,である.英語で最も長い単語と言われている.

pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis

 実に45文字からなり,このままでは何が何だか分からないが,分解してみると次のようになる.

pneumono 「肺の」
ultra 「超」
microscopic 「微細な」
silico 「ケイ素の,珪酸の」
volcano 「火山性の」
coniosis 「塵肺病」

「超微小な珪酸の火山塵が肺につまる病気」と考えればよさそうである.coniosis だけでも「塵肺病」を指せるので,まるで寿限無のようだが,確かに長い.膠着的とも抱合的ともいえる,英語としては相当に強引な語形成である.さらに細かく形態素分解すれば,次のようになる.語源は古代ギリシャ語かラテン語のいずれかに遡る.

pneumono 「肺の」 (Greek)
ultra 「超」 (Latin)
micro 「微」 (Greek)
scop 「視野」 (Greek)
ic 「?の」 (Greek)
silico 「ケイ素の,珪酸の」 (Latin)
volcano 「火山(灰)の」 (Latin)
coni 「塵」 (Greek)
osis 「症状」 (Greek)

 念のため,発音も記しておこう.

[nju:ˌmɑnoʊʌltrəmaɪkrəˈskɑpɪkˌsɪlkoʊvɑlkeɪnoʊkoʊnɪˈoʊsɪs]

 英単語としては,以下の4部門で金賞受賞と言っていいかもしれない.

 ・45文字
 ・19音節
 ・42音素(長母音と二重母音は1音素として数えた)
 ・9形態素(もっと細分化も可能?)

 英語史の観点からは,この単語の初出がいつかに関心がある.OED によると,初出は1936年となっている(ただし綴りが若干異なる).OED の説明は以下の通り.

a factitious word alleged to mean 'lung disease caused by the inhalation of very fine silica dust' but occurring chiefly as an instance of a very long word

 この単語は何かと有名な単語なので,Googleでpneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosisを検索するともっと面白い記事があるかもしれない.
 最後に疑問を二点.
 (1) 複数形は,やはり -osis を -oses にするのだろうか? (答:多分そうだろう)
 (2) 1936年より前には英語で最も長い単語は何だったのだろうか? (答:なぞである)

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