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loan_word - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-05-16 10:26

2020-02-19 Wed

#3950. イディッシュ語話者のアメリカ移住が現代英語の音素体系に及ぼした影響 [yiddish][loan_word][phonology][phoneme][phonemicisation][phonotactics][consonant][phonotactics][contact][borrowing][phonaestheme]

 昨日の記事「#3949. 津波が現代英語の音素体系に及ぼした影響」 ([2020-02-18-1]) に引き続き,似たような話題を Minkova (148--149) より提供したい.昨日の記事で,現代的な現象として語頭に [ts-] という子音群が立つ借用語の例を紹介したが,さらに最近の注目すべき語頭の子音群として [ʃm-, ʃl-, ʃt-] を挙げる.これらも借用語に起源をもつという点で非英語的な子音連鎖ではあるが,様々な言語をソースとする [ts-] とは異なり,ソースがほぼ特定される.世界中のユダヤ系の人々が用いているイディッシュ語 (yiddish) である.イディッシュ語は,「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]) のゲルマン語派の系統図で示したように,歴とした西ゲルマン語群に属する言語である.
 第2次世界大戦後,アメリカ合衆国をはじめとする英語圏に広く移住したイディッシュ語話者が,自言語の語彙とともに,上記の特徴的な子音連鎖を英語に持ち込んだ.そして,その話者集団の文化的な影響力ゆえに,問題の子音連鎖が英語のなかで「市民権」を獲得してきたという次第である.しかし,その「市民権」たるや,何かさげすむような,おどけたような独特の含蓄をもちつつ,生産的な魅力を放っているのである.例として schmaltz (過度の感傷主義), schmooze (おしゃべり), schmuck (男性器), shtetl (小さなユダヤ人町), shtick (こっけいな場面), shtum (黙った), shtup (セックス)など.schm- [ʃm-] に至っては,独特の音感覚性 (phonaesthesia) を示す生産的な要素となっている.
 Minkova (148--149) の解説を引用しよう.

After World War II, Yiddish is spoken by more people in English-speaking countries --- US, Canada, Australia and Great Britain together --- than in Continental Europe or Israel. Large Yiddish communities in New York, Los Angeles, Melbourne and Montreal have contributed to the recognition and integration of new vocabulary and new consonant clusters: [ʃm-, ʃl-, ʃt-], which have become productive phonaesthemes in PDE. With at least a quarter of a million Yiddish speakers in North America, and a strong presence of Yiddish culture in film, TV and literature, familiarity with these clusters is to be expected and there is no attempt to assimilate them to some native sequence. What is more, the onset <schm-> [ʃm-], treated as a 'combining form' since 1929 by the OED, is clearly productive in playful reduplication, generating mildly disparaging or comic attention-getters: madam-shmadam, able-shmable, holy-shmoly, the Libros Shmibros lending library in Los Angeles.


 昨日取り上げた [ts-] にしても,今回の [ʃm-, ʃl-, ʃt-] にしても,英語が様々な言語と接触し,語彙を取り込むと同時に,そこに付随する独特な音素配列をも取り込んできた経緯がよく分かる.言語接触 (contact) の機会が多ければ,間接的な形で音素体系にもその影響が及ぶことを示す好例といえるだろう.

 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2020-02-18 Tue

#3949. 津波が現代英語の音素体系に及ぼした影響 [phonology][phoneme][phonemicisation][phonotactics][consonant][japanese][loan_word]

 現代英語では [ts] の発音は珍しくも何ともない.cats, hits, let's, nights, watts など,t で終わる基体に複数や3単現の -s が付加すれば,すぐに現われる音連鎖だ.しかし,この破擦音は2つの形態素をまたぐ位置に生じるため,音韻論的にはあくまで音素 /t/ と音素 /s/ が各々独立した立場で,この順に並んだものと解釈される.つまり,[ts] の音素表記はあくまで /ts/ であり,/t͡s/ ではない.
 しかし,借用語まで視野に入れると,形態素境界をまたぐわけではない [ts] も現に存在する.ロシア語からの借用語 tsar/czar (皇帝)は [zɑː] とも発音されるが,[tsɑː] とも発音される.日本語からの借用語 tsunami も [ts] で発音される.数は多くないが語末以外に [ts] が現われる借用語は近代以降増えてきており,/ts/ ではなく /t͡s/ の意識が芽生えてきているともいえるかもしれない.もしそうであれば最新の音素化 (phonemicisation) の事例となり,英語音韻史上の意義をもつ.この点で Minkova (148) の議論が参考になる.

. . . /ts/ is phonotactically non-native but not universally unattested. The earliest <ts->-initial borrowing in English is from Slavic: tsar (1555); the voiceless alveolar affricate onset [t͡s-] in this word and its many derived forms is most commonly assimilated to a singly articulated [z-], though the affricate [t͡s-] pronunciation is also recorded. Only three more [t͡s-] words were added in the sixteenth to seventeenth century, nine in the eighteenth century, and twenty-three between 1901 and 1975, with sources from languages from all over the world: Burmese, Chinese, German, Greek and Japanese. All of the most recent borrowing preserve the [t͡s-]; apparently the phonotactic constraint which generated the [z-] in tsar is no longer part of the system: no one would say [t͡s-] or [zuːˈnɑmi]. In other words, [t͡s-], although of more recent lineage, is likely to join [ʒ] ... as an addition to the consonantal inventory. The still marginal acceptability of a [t͡s-] onset can be related to its relative complexity and lower frequency of occurrence, though tsunami is hardly a rare item in English after 2011.


 [t͡s-] で始まる単語がまだ少なく,たいてい頻度も低いので,/t͡s/ の音素化が起こっているとはいえ,あくまで緩やかなものだという議論だが,引用の最後にあるように tsunami は決してレアな単語ではない.自然災害や気象など地球環境の変化に懸念を抱いている現代世界の多くの人々が注目するキーワードの1つである.この単語が高頻度化するというのは私たちにとって望ましくないことだが,英語の音素体系の側からみれば /t͡s/ の着実な音素化に貢献しているともいえる.
 過去の最新の音素化といえば,引用にも触れられているように /ʒ/ が挙げられるし,/ŋ/ もある.前者については「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1]) の (2) を,後者については「#1508. 英語における軟口蓋鼻音の音素化」 ([2013-06-13-1]) を参照.

 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2020-02-05 Wed

#3936. h-dropping 批判とギリシア借用語 [greek][loan_word][renaissance][inkhorn_term][emode][lexicology][h][etymological_respelling][spelling][orthography][standardisation][prescriptivism][sociolinguistics][cockney]

 Cockney 発音として知られる h-dropping を巡る問題には,深い歴史的背景がある.音変化,発音と綴字の関係,語彙借用,社会的評価など様々な観点から考察する必要があり,英語史研究において最も込み入った問題の1つといってよい.本ブログでも h の各記事で扱ってきたが,とりわけ「#1292. 中英語から近代英語にかけての h の位置づけ」 ([2012-11-09-1]),「#1675. 中英語から近代英語にかけての h の位置づけ (2)」 ([2013-11-27-1]),「#1899. 中英語から近代英語にかけての h の位置づけ (3)」 ([2014-07-09-1]),「#1677. 語頭の <h> の歴史についての諸説」 ([2013-11-29-1]) を参照されたい.
 h-dropping への非難 (stigmatisation) が高まったのは17世紀以降,特に規範主義時代である18世紀のことである.綴字の標準化によって語源的な <h> が固定化し,発音においても対応する /h/ が実現されるべきであるという規範が広められた.h は,標準的な綴字や語源の知識(=教養)の有無を測る,社会言語学的なリトマス試験紙としての機能を獲得したのである.
 Minkova によれば,この時代に先立つルネサンス期に,明確に発音される h を含むギリシア語からの借用語が大量に流入してきたことも,h-dropping と無教養の連結を強めることに貢献しただろうという.「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]),「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1]) でみたように,確かに15--17世紀にはギリシア語の学術用語が多く英語に流入した.これらの語彙は高い教養と強く結びついており,その綴字や発音に h が含まれているかどうかを知っていることは,その人の教養を示すバロメーターともなり得ただろう.ギリシア借用語の存在は,17世紀以降の h-dropping 批判のお膳立てをしたというわけだ.広い英語史的視野に裏付けられた,洞察に富む指摘だと思う.Minkova (107) を引用する.

Orthographic standardisation, especially through printing after the end of the 1470s, was an important factor shaping the later fate of ME /h-/. Until the beginning of the sixteenth century there was no evidence of association between h-dropping and social and educational status, but the attitudes began to shift in the seventeenth century, and by the eighteenth century [h-]-lessness was stigmatised in both native and borrowed words. . . . In spelling, most of the borrowed words kept initial <h->; the expanding community of literate speakers must have considered spelling authoritative enough for the reinstatement of an initial [h-] in words with an etymological and orthographic <h->. New Greek loanwords in <h->, unassimilated when passing through Renaissance Latin, flooded the language; learned words in hept(a)-, hemato-, hemi-, hex(a)-, hagio-, hypo-, hydro-, hyper-, hetero-, hysto- and words like helix, harmony, halo kept the initial aspirate in pronunciation, increasing the pool of lexical items for which h-dropping would be associated with lack of education. The combined and mutually reinforcing pressure from orthography and negative social attitudes towards h-dropping worked against the codification of h-less forms. By the end of the eighteenth century, only a set of frequently used Romance loans in which the <h-> spelling was preserved were considered legitimate without initial [h-].


 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2019-12-30 Mon

#3899. ラテン語 domus (家)の語根ネットワーク [word_family][etymology][latin][loan_word]

 昨日の記事「#3898. danger, dangerous の意味変化」 ([2019-12-29-1]) で触れたように,danger, dangerous の語源素はラテン語の domus (家,ドーム)である.ラテン語ではきわめて基本的な語であるから,そこから派生した語は多く,英語にも様々な経路で借用されてきた.以下に関連語を一覧してみよう.昨日みたように,「家」「家の主人」「支配者」「支配(力)」「危険」など各種の意味が発展してきた様子が伝わるのではないか.

condominium, dame, Dan, danger, demesne, Dom, domain, dome, domestic, domicile, dominant, dominant, dominate, domination, domineering, dominical, dominion, domino, dona, duenna, dungeon, madam, madame, mademoiselle, Madonna, majordomo, predominate


 「危険」と関連して「損害」の意味を含む damage, damn, condemn なども,domus と間接的に関わる.これらの語は,直接的にはラテン語の別の語根 damnum "loss, injury" に起源をもち,その後期ラテン語形である damniārium を経由して発展してきたと考えられるが,そこには後者の語形と *dominiāriu(m) "dominion" との混同も関与していたようだ.
 ラテン語からさらにさかのぼれば,印欧祖語 *dem(ə)- "house, household" にたどりつく.ここから古英語経由で timber (建築用木材),古ノルド語経由で toft (家屋敷),ギリシア語経由で despot (専制君主)なども英語語彙に加わっている.

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2019-12-29 Sun

#3898. danger, dangerous の意味変化 [semantic_change][french][loan_word][loan_translation][etymology]

 英単語 danger (危険)は,古仏語で「支配(力)」を意味した dangier, dongier を借用したものだが,これ自体は同義の俗ラテン語 *dominiāriu(m) にさかのぼるとされる.さらには同義のラテン語の dominium に,そして dominus (主人,神)にまでさかのぼる.もう一歩さかのぼると,語源素は domus (家,ドーム)という基本語である.全体としていえば,「家の主人」→「支配(力)」→「危険」のように意味変化を遂げてきたことになる.
 英語での danger の初出は,初期中英語期,1200年頃の修道女マニュアル Ancrene Riwle であり,そこでは「支配(力),傲慢」の意味で用いられている.古いイディオム to be in danger of は「〜の支配下で」を意味した(cf. 古仏語の estre en dangier "to be in the power, at the mercy, of someone").一方,現代風の「危険」という発展的語義が確認されるのは,後期中英語期,1378年頃の Piers Plowman からである.
 形容詞 dangerous のたどった経緯も,名詞 danger とほぼパラレルである.英語での初出はやはり Ancrene Riwle であり,支配者にありがちな性格として「扱いにくい,傲慢な」を意味した.それが,中英語末期にかけて現代的な「危険な」の意味を発達させている.名詞にせよ形容詞にせよ,古仏語から英語に借用された当初は「支配(力)」を意味していたものが,中英語期の間にいかにして「危険」の意味を発展させたのだろうか.
 シップリー (198--99) によれば dangerous の語源と意味変化の経緯は次の通りである.

 タンジュローズ (Dangerose) という名の魅力的な貴婦人が,かつてパリ北西郊外の都市アニエールの領主ダマーズ (Damase) にしつこく言い寄られて不倫を犯した.二人はル・マン (Mans) のティグ (Thigh) という名の第37代大司教の破門にもかかわらず同棲した.ある日,この領主が川を渡っていると,激しい嵐が起こった.稲妻に打たれ,水に飲まれ半焼死・半溺死の状態で地獄に落ちた.ダンジュローズは嘆き悲しんで大司教の足元に身を投げて許しを請い,その後,厳しい隠遁生活をおくった.しかし,彼女の話は広く伝わってしまった.それでフランス人は危機に瀕すると,"Ceci sent la Dangerose." (ダンジュローズのようだ)と言った.フランス語 dangereux, dangereuse (危険な)が派生したとされる.
 この訓戒話は,danger (危険)の一般的に認められている語源説と比べると信憑性に欠ける.danger は,dominion (支配権)と同語源で,ラテン語 dominium (支配,所有)から,後期ラテン語 dominarium (支配,権力),古フランス語 dongier (権力,支配)を経て中英語に借入された.in danger of と言えば,当時の意味は「権力や支配権の思いのままにされる」であった.そうすれば今日の「危険」の意味は,領主に対して領民がいかに恐れを抱いていたかを示している.権力者はまさに被支配者に「危険」をもたらすものだった.


 引用の第1段落は,シップリーの好みそうな民間語源 (folk_etymology) 的な逸話として横においておくとして,第2段落で述べられている意味の展開が実に興味深い.権力者の「支配(力)」は,すなわち庶民にとっての「危険」であるということだ.権力のある支配者は得てして「気位が高い」し「扱いにくい」ものである.度が過ぎれば,下で仕える者にとって「危険な」存在となるだろう.この語の意味変化は,いつの世でも支配・権力とは危険なものだということを思い起こさせてくれる.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

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2019-12-16 Mon

#3885. 『英語教育』の連載第10回「なぜ英語には類義語が多いのか」 [rensai][notice][lexicology][synonym][loan_word][borrowing][french][latin][lexical_stratification][sobokunagimon][link]

 12月13日に,『英語教育』(大修館書店)の1月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第10回となる今回は「なぜ英語には類義語が多いのか」という話題を扱っています.

『英語教育』2020年1月号



 英語には「上がる」を意味する動詞として risemountascend などの類義語があります.「活発な」を表わす形容詞にも lively, vivacious, animated などがあります.名詞「人々」についても folk, people, population などが挙がります.これらは「英語語彙の3層構造」の典型例であり,英語がたどってきた言語接触の歴史の遺産というべきものです.本連載記事では,英語語彙に特徴的な豊かな類義語の存在が,1066年のノルマン征服と16世紀のルネサンスのたまものであり,さらに驚くことに,日本語にもちょうど似たような歴史的事情があることを指摘しています.
 「英語語彙の3層構造」については,本ブログでも関連する話題を多く取り上げてきました.以下をご覧ください.

 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1])
 ・ 「#2643. 英語語彙の三層構造の神話?」 ([2016-07-22-1])
 ・ 「#387. trisociationtriset」 ([2010-05-19-1])
 ・ 「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1])
 ・ 「#3374. 「示相語彙」」 ([2018-07-23-1])

 ・ 「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1])
 ・ 「#3357. 日本語語彙の三層構造 (2)」 ([2018-07-06-1])
 ・ 「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1])
 ・ 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1])

 ・ 堀田 隆一 「なぜ英語には類義語が多いのか」『英語教育』2020年1月号,大修館書店,2019年12月13日.62--63頁.

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2019-12-03 Tue

#3872. 英語に借用された主な日本語の借用年代 [japanese][loan_word][oed]

 英語の語彙には,実はたくさんの日本語単語が入り込んでいる.あまり知られていないが,近代英語(主に後期だが)以降,日本語は英語に対して有力な語彙提供者なのである.この事実については「#45. 英語語彙にまつわる数値」 ([2009-06-12-1]),「#126. 7言語による英語への影響の比較」 ([2009-08-31-1]),「#142. 英語に借用された日本語の分布」 ([2009-09-16-1]),「#2165. 20世紀後半の借用語ソース」 ([2015-04-01-1]) などの記事で触れてきた.
 Durkin (395--98) が,英語に借用された日本語の単語について OED3 のデータをもとに論じている.主たる単語について初出年代を挙げているので,ざっと年代順に並べてみよう.

bonze 坊主 (1588) , tatami 畳 (1614) , furo 風呂 (1615) , bento 弁当 (1616) , maki-e 蒔絵 (1616) , mochi 餅 (1616) , mikan みかん (1618) , sake 酒 (1687) , soy 醤油 (1696) , katakana カタカナ (1727) , koi 鯉 (1727) , samurai 侍 (1727) , shubunkin 朱文金(金魚の一種) (1817) , hiragana ひらがな (1822) , yukata 浴衣 (1822) , hara-kiri 腹切り (1856) , noh 能 (1871) , seppuku 切腹 (1871) , mirin みりん (1874) , ju-jitsu 呪術 (1875) , sayonara さよなら (1875) , futon 布団 (1876) , netsuke 根付け (1876) , shiitake 椎茸 (1877) , rickshaw 人力車 (1879) , sashimi 刺身 (1880) , sumo 相撲 (1880) , tofu 豆腐 (1880) , kimono 着物 (1886) , geisha 芸者 (1887) , judo 柔道 (1888) , nori 海苔 (1892) , banzai 万歳 (1893) , sushi すし (1893) , soba 蕎麦 (1896) , tsunami 津波 (1897) , haiku 俳句 (1899) , kabuki 歌舞伎 (1899) , ikebana 生け花 (1901) , wasabi わさび (1903) , kanji 漢字 (1920) , tempura 天ぷら (1920) , udon うどん (1920) , kendo 剣道 (1921) , basho (相撲の)場所 (1940) , kamikaze 神風 (1945) , bonsai 盆栽 (1950) , aikido 合気道 (1955) , karate 空手 (1955) , dashi だし (1961) , teriyaki 照り焼き (1961) , ramen ラーメン (1962) , umami 旨味 (1963) , ninja 忍者 (1964) , shiatsu 指圧 (1967) , shabu-shabu しゃぶしゃぶ (1970) , teppan-yaki 鉄板焼き (1970)


 日本語からの借用語の数としては,日本が開国した1854年辺りを境にぐんと増えたことは理解できるだろう.また,開国以前には,借用語は日本文化を紹介する書物に現われるにすぎなかったが,以後にはより広い英語文献に記録されるようになったという違いもある.日本の飲食物,衣服,芸術,武道への関心の強さが,この一覧から見て取れるだろう.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-11-26 Tue

#3865. ロシア語から借用された英単語 [russian][loan_word][borrowing]

 これまで本ブログでロシア語からの借用語について取り上げたことがなかった.「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]) で少々触れた程度だったので,今回はもう少し覗いてみたい.
 Durkin (378--79) によれば,予想通りロシア借用語の数は多くない.ほとんどがロシアの文化や社会に関する語に限定されている.以下はサンプルではあるが,初出年代順に挙げてみる.

 ・ boyar (大公に次ぐ貴族) (1555)
 ・ tsar (皇帝) (1555)
 ・ verst (ベルスタ(ロシアの距離単位;=1.067km)) (1555)
 ・ rouble (ルーブル) (1557)
 ・ muzhik (農民) (1587)
 ・ beluga (ベルーガ;キャビア) (1591)
 ・ protopope (主席司祭) (1591)
 ・ parka (パーカ) (1625)
 ・ pope (教会区司祭) (1662)
 ・ steppe (ステップ) (a.1670)
 ・ copeck (コペイカ (1/100 rouble)) (1698)
 ・ mammoth (マンモス) (1706)
 ・ tsarevich (皇太子) (1710)
 ・ knout (革のむち) (1716)
 ・ yurt (ユルト,パオ(移動式テント小屋)) (1780)
 ・ vodka (ウォッカ) (1802--03)
 ・ rayon (レーヨン,人造絹糸) (1830)
 ・ samovar (サモワール) (1830)
 ・ babushka (バブーシュカ(女性用スカーフ)) (1834)
 ・ oblast (州) (a.1837)
 ・ duma (国会) (1870)
 ・ kulak (富農) (1877)
 ・ intelligentsia (知識階級) (1883)
 ・ borsch (ボルシチ) (1884)
 ・ borzoi (ボルゾイ(ロシア原産の犬)) (1887)
 ・ pogrom (大虐殺) (1891)
 ・ dacha (別荘) (1896)
 ・ Bolshevik (ボルシェビキ) (1907)
 ・ Presidium (最高会議幹部会) (1907)
 ・ Soviet (ソビエト) (1917)
 ・ Menshevism (メンシェビズム) (1920)
 ・ Suprematism (シュプレマティズム) (1920)
 ・ Politburo (政治局) (1923)
 ・ agitprop (アジプロ) (1925)
 ・ troika (トロイカ) (1945)
 ・ Gulag (グーラグ) (1946)
 ・ matryoshka (マトリョーシュカ) (1946)
 ・ nomenklatura (ノーメンクラツーラ) (1958)
 ・ samizdat (地下出版) (1967)
 ・ glasnost (グラスノスチ) (1986)
 ・ perestroika (ペレストロイカ) (1986)

 ロシア借用語の数としては19世紀後半から20世紀前半がピークである.ただし,この時期は英語語彙が全体として大幅に増加した時期であるということも加味して評価する必要がある.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-11-25 Mon

#3864. retard, pulse の派生語にみる近代英語期の語彙問題 [word_formation][latin][french][emode][lexicology][borrowing][loan_word][derivation][word_family]

 昨日の記事「#3863. adapt の派生語にみる近代英語期の語彙問題」 ([2019-11-24-1]) に引き続き,Durkin (334) より retard および pulse に関する派生語の乱立状況をのぞいてみよう.
 retard (1490) と retardate (1613) の2語が,動詞としてライバル関係にある基体である.ここから派生した語群を年代順に挙げよう(ただし,時間的には逆転しているようにみえるケースもある).retardation (n.) (c.1437), retardance (n.) (1550), retarding (n.) (1585), retardment (n.) (1640), retardant (adj.) (1642), retarder (n.) (1644), retarding (adj.) (1645), retardative (adj.) (1705), retardure (n.) (1751), retardive (adj.) (1787), retardant (n.) (1824), retardatory (adj.) (1843), retardent (adj.) (1858), retardent (n.) (1858), retardency (n.) (1939), retardancy (n.) (1947) となる.
 同じように pulse (?a.1425) と pulsate (1674) を動詞の基体として,様々な派生語が生じてきた(やはり時間的には逆転しているようにみえるケースもある).pulsative (n.) (a.1398), pulsatile (adj.) (?a.1425), pulsation (n.) (?a.1425), pulsing (n.) (a.1525), pulsing (adj.) (1559), pulsive (adj.) (1600), pulsatory (adj.) (1613), pulsant (adj.) (1642), pulsating (adj.) (1742), pulsating (n.) (1829) である.
 このなかには直接の借用語もあるだろうし,英語内で形成された語もあるだろう.その両方であると解釈するのが妥当な語もあるだろう.混乱,類推,勘違い,浪費,余剰などあらゆるものが詰まった word family である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-11-24 Sun

#3863. adapt の派生語にみる近代英語期の語彙問題 [word_formation][latin][french][emode][lexicology][borrowing][loan_word][derivation][word_family]

 初期近代英語期の語彙に関する問題の1つに,同根派生語の乱立がある.「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1)」 ([2018-03-29-1]),「#3259. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (2)」 ([2018-03-30-1]) などで論じてきたが,今回は adapt という基体を出発点にした派生語の乱立をのぞいてみよう.以下,Durkin (332--33) に依拠する.
 OED によると,15世紀初期に adapted が現われるが,adapt 単体として出現するのは1531年である.これ自体,ラテン語 adaptāre とフランス語 adapter のいずれが借用されたものなのか,あるいはいずれの形に基づいているものなのか,必ずしも明確ではない.
 その後,両形を基体とした様々な派生語が次々に現われる.adaptation (n.) (1597), adapting (n.) (1610), adaption (n.) (1615), adaptate (v.) (1638), adaptness (n.) (1657), adapt (adj.) (1658), adaptability (n.) (1661), adaptable (adj.) (1692), adaptive (adj.) (1734), adaptment (n.) (1739), adapter (n.) (1753), adaptor (1764), adaptative (adj.) (1815), adaptiveness (n.) (1815), adaptableness (n.) (1833), adaptorial (adj.) (1838), adaptational (adj.) (1849), adaptivity (n.) (1840), adaptativeness (n.) (1841), adaptationism (n.) (1889), adaptationalism (n.) (1922) のごとくだ.
 いずれの語がいずれの言語からの借用なのかが不明確であるし,そもそも借用などではなく英語内部において造語された語である可能性も高い.後者の場合には「英製羅語」や「英製仏語」ということになる.歴史語彙論的に,このような語群を何と呼んだらよいのか悩むところである.
 この問題に関する Durkin (333) の解説を引いておく.

Very few of these words show direct borrowing from Latin or French (probably just adapt verb, adaptate, adaptation, and maybe adapt adjective), but a number of others are best explained as hybrid or analogous formations on Latin stems. The group as a whole illustrates the impact of the borrowing of a handful of key words in giving rise to an extended word family over time, including many full or partial synonyms. In some cases synonyms may have arisen accidentally, as speakers were simply ignorant of the existence of earlier formations; some others could result from misrecollection of earlier words. . . . However, such profligacy and redundancy is typical of such word families in English well into the Later Modern period, well beyond the period in which 'copy' was particularly in vogue in literary style.


 ここからキーワードを拾い出せば "hybrid or analogous formations", "ignorant", "misrecollection", "profligacy and redundancy" などとなろうか.
 今回の内容と関連する話題として,以下の記事も参照されたい.

 ・ 「#1493. 和製英語ならぬ英製羅語」 ([2013-05-29-1])
 ・ 「#1927. 英製仏語」 ([2014-08-06-1])
 ・ 「#3165. 英製羅語としての conspicuousexternal」 ([2017-12-26-1])
 ・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
 ・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])
 ・ 「#3348. 初期近代英語期に借用系の接辞・基体が大幅に伸張した」 ([2018-06-27-1])
 ・ 「#3858. 「和製○語」も「英製△語」も言語として普通の現象」 ([2019-11-19-1])

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-11-25-1]

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2019-11-19 Tue

#3858. 「和製○語」も「英製△語」も言語として普通の現象 [waseieigo][contact][borrowing][loan_word][japanese][lexicology]

 「和製英語」の話題について,本ブログで waseieigo の各記事で取り上げてきた.関連して「和製漢語」,さらに「英製羅語」や「英製仏語」についても話題を提供してきた.以下の記事を参照.

 ・ 「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1])
 ・ 「#3793. 注意すべきカタカナ語・和製英語の一覧」 ([2019-09-15-1])
 ・ 「#1629. 和製漢語」 ([2013-10-12-1])
 ・ 「#1493. 和製英語ならぬ英製羅語」 ([2013-05-29-1])
 ・ 「#1927. 英製仏語」 ([2014-08-06-1])

 一般に現代の日本では「和製英語」はいくぶん胡散臭い響きをもって受け取られているが,日本語と英語の比較的長い言語接触の結果として,極めて自然な語形成上の現象だと私は考えている.同じ見方は,ずっと長い歴史のある「和製漢語」にも当てはまる.「和製漢語」のほとんどはすっかり日本語語彙に定着しているために違和感を感じさせないだけであり,語形成論や語彙論という観点からみれば「和製英語」も何ら異なるところがない.佐藤 (115--16) も,このことを示唆している.

漢語・外来語は,本来,借用語であるが,中には,借用した要素を日本語で組み合わせ,本来の漢語・外来語に似せて作ったものもある.これを,それぞれ,「和製漢語」「和製外来語」という.和製漢語は,古くから見られるが(「火事」「大根」「尾籠」「物騒」など),特に,江戸末期から明治にかけて西洋の近代的な事物や概念の訳語として多く作られた(「引力」「映画」「汽車」「酸素」「波動」「野球」など).「イメージ・アップ」「サラリー・マン」「ノー・カット」「ワンマン・バス」などの和製外来語は,本来の外来語が単語の要素として用いられているわけで,漢語の日本語化に共通するものがある.


 英語史の観点からいえば,上と同じことが「英製羅語」「英製仏語」にも当てはまる.ある言語との接触がそれなりに長く濃く続けば,「◇製☆語」という新語は自然と現われるものである.そして,他種の新語と異ならず,それらが導入された当初こそ,多少なりとも白い目で見られたとしても,一般的に用いられるようになれば自言語に同化していくし,流行らなければ廃れていくのである.他の語形成による新語のたどるパターンと比べて,特に異なるところはない.

 ・ 佐藤 武義(編著) 『展望 現代の日本語』 白帝社,1996年.

Referrer (Inside): [2020-09-05-1] [2019-11-24-1]

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2019-11-07 Thu

#3846. 黄道十二宮・星座名の語彙階層 [lexical_stratification][latin][lexicology][astrology][loan_word]

 『英語便利辞典』 (178--79) より,黄道十二宮と星座に関する一覧表を掲げよう(星座名については「#3707. 88星座」 ([2019-06-21-1]) も参照).

Signs of the Zodiac (黄道十二宮)
宮 (house)獣帯星座 (zodiacal constellations)太陽が通過する期間運勢・性格
spring signs (春の星座宮)
Aries (白羊宮)*the Ram (おひつじ座)3月21日〜4月20日energetic, ambitious, generous, aggressive
Taurus (金牛宮)*the Bull (おうし座)4月21日〜5月22日charming, witty, kind, restless
Gemini (双子宮)*the Twins (ふたご座)5月23日〜6月21日strong, loyal, determined, quiet
summer signs (夏の星座宮)
Cancer (巨蟹宮)*the Crab (かに座)6月22日〜7月22日sensitive, materialistic, careful, humorous
Leo (獅子宮)the Lion (しし座)7月23日〜8月22日dignified, honest, vain
Virgo (処女宮)the Virgin (おとめ座)8月23日〜9月22日perfectionist, dependable, gentle, efficient
autumn signs (秋の星座宮)
Libra (天秤宮)the Balance [*Scales] (てんびん座)9月23日〜10月22日gracious, harmonious, logical, fair
Scorpio (天蠍宮)the Scorpion (さそり座)10月23日〜11月21日courageous, intense, secretive, intelligent
Sagittarius (人馬宮)the Archer (いて座)11月22日〜12月22日truthful, friendly, optimistic, adventurous
winter signs (冬の星座宮)
Capricorn (磨羯宮)*the Goat (やぎ座)12月23日〜1月20日hardworking, kind, determined, disciplined
Aquarius (宝瓶宮)*the Water Bearer [Carrier] (みずがめ座)1月21日〜2月19日loyal, wise, creative, aloof
Pisces (双魚宮)*the Fish (うお座)2月20日〜3月20日kind, quiet, romantic, easygoing


Signs of the Zodiac

 この表から気づくのは,1列目の占星術・天文学上の名称と,2列目の星座を表わす動物・人などの名前とが,しばしば似ていないことだ.Leo/the Lion, Virgo/Virgin, Scorpio/Scorpion は明らかに類似しているが,それ以外はすべて似ていないようにみえる.前者は学問的な用語としてすべてラテン語(さらに遡ってギリシア語)由来だが,後者はすべてとは言わずとも多くが英語本来語の庶民的な単語である.表中で * を付しているものがそれである(Scales については,厳密には英語由来ではなく古ノルド語由来だが,少なくともゲルマン系の単語ではある).* の付されていない2列目の5つの名前については,確かにラテン語かフランス語に由来するものの,古英語期や中英語期など比較的早い段階に借用されており,早々に英語化していた語といってよい.
 全体としていえば,1列目はラテン語の威厳を背負った学問用語,2列目は(事実上)英語的な庶民性を帯びた動物・人などの一般名といってよい.これは有名な「動物と肉の語彙」の話題にも比較される.例の ox/beef, swine/pork, sheep/mutton, fowl/poultry, deer/venison, calf/veal の語彙階層の対立である.これについては,以下の記事を参照.

 ・ 「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1])
 ・ 「#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話」 ([2010-03-25-1])
 ・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
 ・ 「#1603. 「動物とその肉を表す英単語」を最初に指摘した人」 ([2013-09-16-1])
 ・ 「#1604. 「動物とその肉を表す英単語」を次に指摘した人たち」 ([2013-09-17-1])
 ・ 「#2352. 「動物とその肉を表す英単語」の神話 (2)」 ([2015-10-05-1])

 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

Referrer (Inside): [2021-05-11-1]

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2019-11-06 Wed

#3845. 講座「英語の歴史と語源」の第5回「キリスト教の伝来」を終えました [asacul][notice][slide][link][christianity][alphabet][latin][loan_word][bible][religion]

 「#3833. 講座「英語の歴史と語源」の第5回「キリスト教の伝来」のご案内」 ([2019-10-25-1]) で案内した朝日カルチャーセンター新宿教室講座を11月2日(土)に終えました.今回も大勢の方に参加していただき,白熱した質疑応答が繰り広げられました.多岐にわたるご指摘やコメントをいただき,たいへん充実した会となりました.
 講座で用いたスライド資料をこちらに置いておきますので,復習等にご利用ください.スライドの各ページへのリンクも張っておきます.

   1. 英語の歴史と語源・5 「キリスト教の伝来」
   2. 第5回 キリスト教の伝来
   3. 目次
   4. 1. イングランドのキリスト教化
   5. 古英語期まで(〜1066年)のキリスト教に関する略年表
   6. 2. ローマ字の採用
   7. ルーン文字とは?
   8. 現存する最古の英文はルーン文字で書かれていた
   9. ルーン文字の遺産
   10. 古英語のアルファベット
   11. 古英語文学の開花
   12. 3. ラテン語の借用
   13. 古英語語彙におけるラテン借用語比率
   14. キリスト教化以前と以後のラテン借用
   15. 4. 聖書翻訳の伝統
   16. 5. 宗教と言語
   17. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響の比較
   18. 日本語における宗教語彙
   19. まとめ
   20. 補遺:「主の祈り」の各時代のヴァージョン
   21. 参考文献

 次回の第6回は少し先の2020年3月21日(土)の15:15〜18:30となります.「ヴァイキングの侵攻」と題して英語史上の最大の異変に迫る予定です.

Referrer (Inside): [2020-04-19-1]

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2019-10-22 Tue

#3830. 古英語のラテン借用語は現代まで地続きか否か [lexicology][latin][loan_word][oe][borrowing]

 古英語に借用されたラテン単語について,以下の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
 ・ 「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1])
 ・ 「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1])
 ・ 「#3790. 650年以前のラテン借用語の一覧」 ([2019-09-12-1])
 ・ 「#3829. 650年以後のラテン借用語の一覧」 ([2019-10-21-1])

 これらのラテン借用語に関する1つの問題は,そのうちの少なからぬ数の語が確かに現代英語にもみられるが,それは古英語期から生き残ってきたものなのか,あるいは一度廃れたものが後代に再借用されたものなのかということだ.いずれにせよラテン語源としては共通であるという言い方はできるかもしれないが,前者であれば古英語期の借用語として英語における使用の歴史が長いことになるし,後者であれば中英語期や近代英語期の比較的新しい借用語ということになる.英語は歴史を通じて常にラテン語と接触してきたという事情があり,しばしばいずれのケースかの判断は難しい.前代と後代とで語形や語義が異なっているなどの手がかりがあれば,再借用と認めることができるとはいえ,常にそのような手がかりが得られるわけでもない.
 とりわけ650年以後の古英語期のラテン借用語に関して,判断の難しいケースが目立つ.昨日の記事 ([2019-10-21-1]) で眺めたように,一般的なレジスターに入っていなかったとおぼしき専門語な語彙が少なくない.これらの多くは地続きではなく後代の再借用ではないかと疑われる.
 Durkin (131) は,650年以前のラテン借用語について,現代まで地続きで生き残ってきた可能性の高いものを次のように一覧している.

abbot; alms; anthem; ass; belt; bin; bishop; box; butter; candle; chalk; cheap; cheese; chervil; chest; cock; cockle (plant name); copper; coulter; cowl; cup; devil; dight; dish; fennel; fever; fork; fuller; inch; kiln; kipper; kirtle; kitchen; line; mallow; mass (= Eucharist); mat; (perhaps) mattock; mile; mill; minster; mint (for coinage); mint (plant name); -monger; monk; mortar; neep (and hence turnip); nun; pail; pall (noun); pan (if borrowed); pear; (probably) peel; pepper; pilch (noun); pile (= stake); pillow; pin; to pine; pipe; pit; pitch (dark substance); (perhaps) to pluck; (perhaps) plum; (perhaps) plume; poppy; post; (perhaps) pot; pound; priest; punt; purple; radish; relic; sack; Saturday; seine; shambles; shrine; shrive (and shrift, Shrove Tuesday); sickle; (perhaps) silk; sock; sponge; (perhaps) stop; street; strop (and hence strap); tile; toll; trivet; trout; tun; to turn; turtle-dove; wall; wine


 このリストに,やや可能性は低くなるが,地続きと考え得るものとして次を追加している (131) .

anchor; angel; antiphon; arch-; ark; beet and beetroot; capon; cat; crisp; drake (= dragon, not duck); fan; Latin; lave; master; mussel; (wine-)must; pea; pine (the tree); plant; to plant; port; provost; psalm; scuttle; table; also (where the re-borrowing would be from early Scandinavian) kettle


 続いて,650年以後のラテン借用語について,現代まで地続きであると根拠をもっていえる少数の語を次のように挙げている (132) .

aloe; cook; cope (= garment); noon; pole; pope; school; (if borrowed) fiddle; (in some of these cases re-borrowing in very early Middle English could also be possible)


 そして,根拠がやや弱くなるが,650年以後のラテン借用語として現代まで地続きの可能性のあるものは次の通り (132) .

altar; canker; cap; clerk; comet; creed; deacon; false; flank; hyssop; lily; martyr; myrrh; to offer; palm (tree); paradise; passion; peony; pigment; prior; purse; rose; sabbath; savine; sot; to spend; stole; verse; also (where the re-borrowing would be from early Scandinavian) cole


 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-10-21 Mon

#3829. 650年以後のラテン借用語の一覧 [lexicology][latin][loan_word][oe][borrowing]

 「#3790. 650年以前のラテン借用語の一覧」 ([2019-09-12-1]) に続き,今回は反対の650年「以後」のラテン借用語を,Durkin (116--19) より列挙しよう.ただし,こちらは先の一覧と異なり網羅的ではない.あくまで一部を示すものなので注意.
 650年以前と以後の借用語の傾向について比較すると,後者は学問・宗教と結びつけられる語彙が目立つことがわかるだろう.「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]) も参照.

[ Religion and the Church ]

 ・ acolitus 'acolyte' [L acoluthus, acolitus]
 ・ altare, alter 'altar' [L altare]
 ・ apostrata 'apostate' [L apostata]
 ・ apostol 'apostle' [L apostrolus]
 ・ canon 'canon, rule of the Church; canon, cleric living under a canonical rule' [L canon]
 ・ capitol 'chapter, section; chapter, assembly' [L capitulum]
 ・ clauster 'monastic cell, cloister, monastery' [L claustrum]
 ・ cleric, also '(earlier) clīroc 'clerk, clergyman' [L clericus]
 ・ crēda, crēdo 'creed' [L credo]
 ・ crisma 'holy oil, chrism; white cloth or garment of the newly baptized; chrismatory or pyx' [L chrisma]
 ・ crismal 'chrism cloth' [L chrismalis]
 ・ crūc 'cross' [L cruc-, crux]
 ・ culpa 'fault, sin' [L culpa]
 ・ decan 'person who supervises a group of (originally) ten monks or nuns, a dean' [L decanus]
 ・ dēmōn 'devil, demon' [L aemon]
 ・ dīacon 'deacon' [L diaconus]
 ・ discipul 'disciple; follower; pupil' [L discipulus]
 ・ eretic 'heretic' [L haereticus]
 ・ graþul 'gradual (antiphon sung between the Epistle and the Gospel at Mass)' [L graduale]
 ・ īdol 'idol' [L idolum]
 ・ lētanīa 'litany' [L letania]
 ・ martir, martyr 'martyr' [L martyr]
 ・ noctern 'nocturn, night office' [L nocturna]
 ・ nōn 'ninth hour (approximately 3 p.m.); office said at this time' [L nona (hora)]
 ・ organ 'canticle, song, melody; musical instrument, especially a wind instrument'
 ・ orgel- (in orgeldrēam 'instrumental music') [L organum]
 ・ pāpa 'pope' [L papa]
 ・ paradīs 'paradise, Garden of Eden, heaven' [L paradisus]
 ・ passion 'story of the Passion of Christ' [L passion-, passio]
 ・ prīm 'early morning office of the Church' [L prima]
 ・ prior 'superior office of a religious house or order, prior' [L prior]
 ・ sabat 'sabbath' [L sabbata]
 ・ sācerd 'priest; priestess' [L sacerdos]
 ・ salm, psalm, sealm 'psalm, sacred song' [L psalma]
 ・ saltere, sealtere 'psalter, also type of stringed instrument' [L psalterium]
 ・ sanct 'holy person, saint' [L sanctus]
 ・ stōl, stōle 'long outer garment; ecclesiastical vestment' [L stola]
 ・ tempel 'temple' [L templum]

[ Learning and scholarship ]

 ・ accent 'diacritic mark' [L accentus]
 ・ bærbære 'barbarous, foreign' [L barbarus]
 ・ biblioþēce, bibliþēca 'library' [L bibliotheca]
 ・ cālend 'first day of the month; (in poetry) month' [L calendae]
 ・ cærte, carte '(leaf or sheet of) vellum; piece of writing, document, charter' [L charta, carta]
 ・ centaur 'centaur' [L centaurus]
 ・ circul 'circle, cycle' [L circulums]
 ・ comēta 'comet' [L cometa]
 ・ coorte, coorta 'cohort' [L cohort-, cohors]
 ・ cranic 'chronicle' [L chronicon or chronica]
 ・ cristalla, cristallum 'crystal; ice' [L crystallum]
 ・ epistol, epistola, pistol 'letter' [L epistola, epistula]
 ・ fers, uers 'verse, line of poetry, passage, versicle' [L versus]
 ・ gīgant 'giant' [L gigant- gigas]
 ・ grād 'step; degree' [L gradus]
 ・ grammatic-cræft 'grammar' [L grammatica]
 ・ legie 'legion' [L legio]
 ・ meter 'metre' [L metrum]
 ・ nōt 'note, mark' [L nota]
 ・ nōtere 'scribe, writer' [L notarius]
 ・ part 'part (of speech)' [L part-, pars]
 ・ philosoph 'philosopher' [L philosophus]
 ・ punct 'quarter of an hour' [L punctum]
 ・ tītul 'title, superscription' [L titulus]
 ・ þēater 'theatre' [L theatrum]

[ Plants, fruit, and products of plants ]

 ・ alwe 'aloe' [L aloe]
 ・ balsam, balzam 'balsam, balm' [L balsamum]
 ・ berbēne 'vervain, verbena' [L verbena]
 ・ cāl, cāul, cāwel (or cawel) 'cabbage' [L caulis]
 ・ calcatrippe 'caltrops, or another thorny or spiky plant' [L calcatrippa]
 ・ ceder 'cedar' [L cedrus]
 ・ coliandre, coriandre 'coriander' [L coliandrum, coriandrum]
 ・ cucumer 'cucumber' [L cucumer-, cucumis]
 ・ cypressus 'cypress' [L cypressus]
 ・ fēferfuge (or feferfuge), fēferfugie (or feferfugie) 'feverfew' [L febrifugia, with substitution of Old English fēfer or fefer for the first element]
 ・ laur, lāwer 'laurel, bay, laver' [L laurus]
 ・ lilie 'lily' [L lilium]
 ・ mōr- (in mōrberie, mōrbēam) 'mulberry' [L morus]
 ・ murre 'myrrh' [L murra, murrha, mytrrha]
 ・ nard 'spikenard (name of a plant and of ointment made from it)' [L nardus]
 ・ palm, palma, pælm 'palm (tree)' [L palma]
 ・ peonie 'peony' [L paeonia]
 ・ peruince, perfince 'periwinkle' [L pervinca]
 ・ petersilie 'parsley' [L ptetrosilenum, petrosilium, petresilium]
 ・ polente (or perhaps polenta) 'parched corn' [L polenta]
 ・ pyretre 'pellitory' (a plant) [L pyrethrum]
 ・ rōse (or rose) 'rose' [L rosa]
 ・ rōsmarīm, rōsmarīnum 'rosemary' [L rosmarinum]
 ・ safine 'savine (type of plant)' [L sabina]
 ・ salfie, sealfie 'sage' [L salvia]
 ・ spīce, spīca 'aromatic herb, spice, spikenard' [L spica]
 ・ stōr 'incense, frankincense' [probably L storax]
 ・ sycomer 'sycamore' [L sycomorus]
 ・ ysope 'hyssop' [L hyssopus]

[ Animals ]

 ・ aspide 'asp, viper' [L aspid-, aspis]
 ・ basilisca 'basilisk' [L basiliscus]
 ・ camel, camell 'camel' [L camelus]
 ・ *delfīn 'dolphin' [L delfin]
 ・ fenix 'phoenic; (in one example) kind of tree' [L phoenix]
 ・ lēo 'lion' [L leo]
 ・ lopust 'locust' [L locusta]
 ・ loppestre, lopystre 'lobster' [probably L locusta]
 ・ pndher 'panther' [L panther]
 ・ pard 'panther, leopard' [L pardus]
 ・ pellican 'name of a bird of the wilderness' [L pellicanus]
 ・ tiger 'tiger' [L tigris]
 ・ ultur 'vulture' [L vultur]

[ Medicine ]

 ・ ātrum, atrum, attrum 'black vitriol; atrament; blackness' [L atramentum]
 ・ cancer 'ulcerous sore' [L cancer]
 ・ flanc 'flank' [L *flancum]
 ・ mamme 'teat' [L mamma]
 ・ pigment 'drug' [L pigmentum]
 ・ plaster 'plaster (medical dressing), plaster (building material)' [L plastrum, emplastrum]
 ・ sċrofell 'scrofula' [L scrofula]
 ・ tyriaca 'antidote to poison' [L tiriaca, theriaca]

[ Tools and implements ]

 ・ pāl 'stake, stave, post, pole; spade' [L palus]
 ・ (perhaps) paper '(probably) wick' [L papirus, papyrus]
 ・ pīc 'spike, pick, pike' [perhals L *pic-]
 ・ press 'press (specifically clothes-press)' [L pressa or French presse]

[ Building and construction; settlements ]

 ・ castel, cæstel 'village, small town; (in late manuscripts) castle' [L castellum]
 ・ foss 'ditch' [L fossa]
 ・ marman-, marmel- (in marmanstān, marmelstān 'marble' [L marmor]

[ Receptacles ]

 ・ purs, burse 'purse' [L bursa]

[ Money; units of measurement ]

 ・ cubit 'cubit, measure of length' [L cubitum]
 ・ mancus 'a money of account equivalent to thirty pence, a weight equivalent to thirty pence' [L mancus]
 ・ talente 'talent (as unit of weight or of money)' [L talentum]

[ Clothing ]

 ・ cæppe, also (in cantel-cāp 'cloak worn by a cantor') cāp 'cloak, hood, cap' (with uncertain relationship to cōp in the same meaning) [L cappa]
 ・ tuniċe, tuneċe 'undergarment, tunic, coat, toga' [L tunica]

[ Roles, ranks, and occupations (non-religious or not specifically religious) ]

 ・ centur, centurio, centurius 'centurion' [L centurion-, centurio]
 ・ cōc 'cook' [L *cocus, coquus]
 ・ consul 'consul' [L consul]
 ・ fiþela 'fiddler' (also fiþelere 'fiddler', fiþelestre '(female) fiddler') [probably L vitula]

[ Warfare ]

 ・ mīlite 'soldiers' [L milites, plural of miles]

[ Verbs ]

 ・ acordan 'to reconcile' [perhaps L accordare, although more likely a post-Conquest borrowing from French]
 ・ acūsan 'to accuse (someone)' [L accusare]
 ・ ġebrēfan 'to set down briefly in writing' [L breviare]
 ・ dēclīnian 'to decline or inflect' [L declinare]
 ・ offrian 'to offer, sacrifice' [L offerre]
 ・ *platian 'to make or beat into thin plates' (implied by platung 'metal plate' and ġeplatod and aplatod 'beaten into thin plates') [L plata, noun]
 ・ predician 'to preach' [L predicare, praedicare]
 ・ prōfian 'to assume to be, to take for' [L probare]
 ・ rabbian 'to rage' [L rabiare]
 ・ salletan 'to sing psalms, to play on the harp' [L psallere]
 ・ sċrūtnian, sċrūdnian 'to examine' [L scrutinare]
 ・ *spendan 'to spend' (recorded in Old English only in the derivatives spendung, aspendan, forspendan) [L expendere]
 ・ studdian 'to look after, be careful for' [L studere]
 ・ temprian 'to modify; to cure, heal; to control' [L temperare]
 ・ tonian 'to thunder' [L tonare]

[ Adjectives ]

 ・ fals 'false' [L falsus]
 ・ mechanisċ 'mechanical' [L mechanicus]

[ Miscellaneous ]

 ・ fals 'fraud, trickery' [L falsum]
 ・ rocc (only in stānrocc) 'cliff or crag' [L rocca]
 ・ sott 'fool', also adjective 'foolish' [L sottus]
 ・ tabele, tabul, tabule 'tablet, board; writing tablet; gaming table' [L tabula]

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-10-22-1]

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2019-10-13 Sun

#3821. Old Saxon からの借用語 [loan_word][borrowing][lexicology][old_saxon][germanic][dutch][flemish][german]

 英語史において,英語と同じ西ゲルマン語群の姉妹言語である Old Saxon の存在感は薄い.しかし,ゼロではない.昨日の記事「#3819. アルフレッド大王によるイングランドの学問衰退の嘆き」 ([2019-10-11-1]) で触れた,アルフレッド大王の教育改革に際して,John という名の古サクソン人が補佐を務めていたという記録がある.また,Genesis B として知られる古英詩には,9世紀の Old Saxon から翻訳された1節が含まれていることも知られている.
 Genesis B には,hearra (lord), sima (chain), landscipe (region), heodæg (today) を含む少数の Old Saxon に由来するとおぼしき語が確認される.いずれも後代に受け継がれなかったという点では,英語史上の意義は小さいといわざるを得ない.しかし,必要とあらばありとあらゆる単語を多言語から借りるという,後に発達する英語の雑食的な特徴が,古英語期にすでに現われていたということは銘記しておいてよい (Crystal 27) .
 一般に,英語史において「遺伝的」関係が近い西ゲルマン語群からの借用語は多くはない.遺伝的関係が近いのであれば,現実の言語接触も多かったはずではないかと想像されるが,そうでもない.たとえば,(高地)ドイツ語からの借用語は「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]),「#2621. ドイツ語の英語への本格的貢献は19世紀から」 ([2016-06-30-1]) でみたように,全体としては目立たない.それなりの規模で英語に影響を与えたといえるのは,オランダ語やフラマン語くらいだろう.これらの低地諸語からの語彙的影響については,「#149. フラマン語と英語史」 ([2009-09-23-1]),「#2645. オランダ語から借用された馴染みのある英単語」 ([2016-07-24-1]),「#2646. オランダ借用語に関する統計」 ([2016-07-25-1]),「#3435. 英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきた」 ([2018-09-22-1]),「#3436. イングランドと低地帯との接触の歴史」 ([2018-09-23-1]) を参照されたい.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2019-09-12 Thu

#3790. 650年以前のラテン借用語の一覧 [lexicology][latin][loan_word][oe][borrowing]

 過去3日間の記事(「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]),「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1]),「#3789. 古英語語彙におけるラテン借用語比率は1.75%」 ([2019-09-11-1]))でも触れたように,650年辺りより前にラテン語から英語へ流入した単語には,意外と日常的なものが多く含まれている.
 これを確認するには,具体的な単語一覧を眺めてみるのが一番だ.Durkin (107--16) を参照して,以下に,意味の分野ごとに,各々の単語について古英語の借用形,現代の対応語(あるいは語義),ラテン語形を示す.先頭に "?" を付している語は,早期の借用語であると強い根拠をもっては認められない語である.

[ Religion and the Church ]

 ・ abbod, abbot 'abbot' [L abbat-, abbas]
 ・ abbodesse 'abbess' [L abbatissa]
 ・ antefn, also (later) antifon, antyfon 'antiphon (type of liturgical chant)' [L antifona, antefona]
 ・ ælmesse, ælmes 'alms, charity' [L *alimosina, variant of elemosina]
 ・ bisċeop 'bishop' [probably L episcopus]
 ・ cristen 'Christian' [L christianus]
 ・ dēofol, dīofol 'devil' [perhaps Latin diabulus]
 ・ draca 'dragon, monstrous beast; the devil' [L draco]
 ・ engel, angel 'angel' [probably L angelus]
 ・ mæsse, messe 'mass' (the religious ceremony) [L missa]
 ・ munuc 'monk' [L monachus]
 ・ mynster 'monastery; importan church' [L monasterium]
 ・ nunne 'nun' [L nonna]
 ・ prēost 'priest' [probably L *prebester, presbyter]
 ・ senoð, seonoð, sinoð, sionoð 'council, synod, assembly' [L synodus]
 ・ ? ancra, ancor 'anchorite' [L anachoreta, perhaps via Old Irish anchara]
 ・ ? ærċe-, erċe-, arce- 'arch-' (in titles) [L archi-]
 ・ ? relic- (in relicgang (probably) 'bearing of relics in a procession') [clipping of L reliquiae or OE reliquias]
 ・ ? reliquias 'relics' [L reliquiae]

[ Learning and scholarship ]

 ・ Læden 'Latin; any foreign language', also (later) lātin [L Latina]
 ・ sċolu, also (later) scōl 'troop, band; school' [L schola]
 ・ ? græf 'stylus' [L graphium]
 ・ ? stǣr (or stær) 'history' [probably ultimately L historia, perhaps via Celtic]
 ・ ? traht 'text, passage, commentary' [L tractus]
 ・ ? trahtað 'commentary' [L tractatus]

[ Plants, fruit, and products of plants ]

 ・ bēte 'beet, beetroot' [L beta]
 ・ billere denoting several water plants [L berula]
 ・ box 'box tree', later also 'box, receptable' [L buxus]
 ・ celendre, cellendre 'coriander' [L coliandrum]
 ・ ċerfille, ċerfelle 'chervil' [L caerefolium]
 ・ *ċiċeling 'chickpea' [L cicer]
 ・ ċīpe 'onion' [L cepe]
 ・ ċiris-(bēam) 'cherry tree' [L *ceresia, cerasium]
 ・ ċisten-, ċistel-, ċist-(b&#275;am) 'chestnut tree' [L castinea or castanea]
 ・ coccel 'corn cockle, or other grain-field weed' [L *cocculus < coccum]
 ・ codd-(æppel) 'quince' [L cydonium, cotoneum, or cotonium]
 ・ consolde '(perhaps) daisy or comfrey' [L consolida]
 ・ corn-(trēo) 'cornel tree' [L cornus]
 ・ cost 'costmary' [L constum]
 ・ cymen 'cumin' [L cuminum]
 ・ cyrfet 'gourd' [L cucurbita]
 ・ earfe plant name, probably vetch [L ervum]
 ・ elehtre '(probably) lupin' [L electrum]
 ・ eofole 'dwarf elder, danewor' [L ebulus]
 ・ eolone, elene 'elecampane' (a plant) [L inula, helenium]
 ・ finol, finule, finugle 'fennel' [L fenuculum]
 ・ glædene a plant name (usually for a type of iris) [L gladiola]
 ・ humele 'hop plant' [L humulus]
 ・ lāser 'weed, tare' [L laser]
 ・ leahtric, leahtroc, also (later) lactuce 'lettuce' [L lactuca]
 ・ *lent 'lentil' [L lent-, lens]
 ・ lufestiċe 'lovage' [L luvesticum]
 ・ mealwe 'mallow' [L malva]
 ・ *mīl 'millet' [L milium]
 ・ minte, minta 'mint' [L mentha]
 ・ næp 'turnip' [L napus]
 ・ nefte 'catmint' [L nepeta]
 ・ oser or ōser 'osier' [L osaria]
 ・ persic 'peach' [L persicum]
 ・ peru 'pear' [L pirum, pera]
 ・ piċ 'pitch' (the resinous substance) [L pic-, pix]
 ・ pīn 'pine' [L pinus]
 ・ pipeneale 'pimpernel' [L pipinella]
 ・ pipor 'pepper' [L piper]
 ・ pieir 'pear tree' [L *pirea]
 ・ pise, *peose 'pea' [L pisum]
 ・ plūme 'plum; plum tree' and plȳme 'plum; plum tree' [both perhaps L pruna]
 ・ pollegie 'penny-royal' [L pulegium]
 ・ popiġ, papiġ 'poppy' [L papaver]
 ・ porr 'leek' [L porrum]
 ・ rǣdiċ 'radish' [L radic-, radix]
 ・ rūde 'rue' [L ruta]
 ・ syrfe 'service tree' [L *sorbea, sorbus]
 ・ ynne- (in ynnelēac) 'onion' [L unio]
 ・ ? æbs 'fir tree' [L abies]
 ・ ? croh, crog 'saffron; type of dye; saffron colour' [L crocus]
 ・ ? fīċ 'fig tree, fig' [L ficus]
 ・ ? plante 'young plant' [L planta]
 ・ ? sæðerie, satureġe 'savory (plant name)' [L satureia]
 ・ ? sæppe 'spruce fir' [L sappinus]
 ・ ? sōlsēċe 'heliotrope' [L solsequium, with substitution of a derivative of OE sēċan 'to seek' for the second element]

[ Animals ]

 ・ assa 'ass' [L asinum perhaps via Celtic]
 ・ capun 'capon' [probably L capon-, capo]
 ・ cat, catte 'cat' [L cattus]
 ・ cocc 'cock, rooster' [L coccus]
 ・ *cocc (in sǣcocc) 'cockle' [perhaps L *coccum]
 ・ culfre 'dove' [perhals L columbra, columbula]
 ・ cypera 'salmon at the time of spawning' [L cyprinus]
 ・ elpend, ylpend 'elephant', also shortend to ylp [L elephant-, elephans]
 ・ eosol, esol 'ass' [L asellus]
 ・ lempedu, also (later) lamprede 'lamprey' [L lampreda]
 ・ mūl 'mule' [L mulus]
 ・ muscelle 'mussel' [L musculus]
 ・ olfend 'camel' [probably L elephant-, elephans, with the change in meaning arising from semantic confusion]
 ・ ostre 'oyster' [L ostrea]
 ・ pēa 'peafowl' [L pavon-, pavo]
 ・ *pine- (in *pinewincle, as suggested emendation of winewincle) 'wincle' [perhals L pina]
 ・ rēnġe 'spider' [L aranea]
 ・ strȳta 'ostrich' [L struthio]
 ・ trūht 'trout' [L tructa]
 ・ turtle, turtur 'turtle dove' [L turtur]

[ Food and drink (see also plants and animals) ]

 ・ ċȳse, ċēse 'cheese' [L caseus]
 ・ foca 'cake baked on the ashes of the hearth' (only attested with reference to Biblical contexts or antiquity) [L focus]
 ・ must 'wine must, new wine' [L mustum]
 ・ seim 'lard, fat' (only attested in figurative use) [L *sagimen, sagina]
 ・ senap, senep 'mustard' [L sinapis]
 ・ wīn 'wine' [L vinum]

[ Medicine ]

 ・ butere 'butter' [L butyrum, buturum]
 ・ ċeren 'wine reduced by boiling for extra sweetness' [L carenum]
 ・ eċed 'vinegar' [L acetum]
 ・ ele 'oil' [L oleum]
 ・ fēfer or fefer 'fever' [L febris]
 ・ flȳtme 'lancet' [L fletoma]

[ Transport; riding and horse gear ]

 ・ ancor, ancra 'anchor (also in figurative use)' [L ancora]
 ・ cæfester 'muzzle, halter, bit' [L capistrum, perhaps via Celtic]
 ・ ċæfl 'muzzle, halter, bit' [L capulus]
 ・ ċearricge (meaning very uncertain, perhaps 'carriage') [perhaps L carruca]
 ・ punt 'punt' [L ponton-, ponto]
 ・ sēam 'burden; harness; service which consisted in supplying beasts of burden' [L sauma, sagma]
 ・ stǣt 'road; paved road, street' [L strata]

[ Tools and implements ]

 ・ cucler 'spoon' [L coclear]
 ・ culter 'coulter; (once) dagger' [L culter]
 ・ fæċele 'torch' [L facula]
 ・ fann 'winnowing fan' [L vannus]
 ・ forc, forca 'fork' [L furca]
 ・ *fossere or fostere 'spade' [L fossorium]
 ・ inseġel, insiġle 'seal; signet' [L sigillum]
 ・ līne 'cable, rope, line, cord; series, row, rule, direction' [probably L linea]
 ・ mattuc, meottuc, mettoc 'mattock' [perhaps L *matteuca]
 ・ mortere 'mortar' [L mortarium]
 ・ panne 'pan' [perhaps L panna]
 ・ pæġel 'wine vessel; liquid measure' [L pagella]
 ・ pihten part of a loom [L pecten]
 ・ pīl 'pointed object; dart, shaft, arrow; spike, nail; stake' [L pilum]
 ・ pīle 'mortar' [L pila]
 ・ pinn 'pin, peg, pointer; pen' [probably L penna]
 ・ pīpe 'tube, pipe; pipe (= wind instrument); small stream' [L pipa]
 ・ pundur 'counterpoise; plumb line' [L ponder-, pondus]
 ・ seġne 'fishing net' [L sagena]
 ・ sicol 'sickle' [L *sicula, secul < secare 'to cut']
 ・ spynġe, also (later) sponge 'sponge' [L spongia, spongea]
 ・ timple instrument used in weaving [L templa]
 ・ turl 'ladele' [L trulla]
 ・ ? stropp 'strap' [L stroppus or struppus]
 ・ ? trefet 'trivet, tripod' [L tripes]

[ Warware and weapons ]

 ・ camp 'battle; war; field' [L campus]
 ・ cocer 'quiver' [perhaps L cucurum]

[ Buildings and parts of buildings; construction; towns and settlements ]

 ・ ċeafor-(tūn), cafer-(tūn) 'hall, court' [L capreus]
 ・ ċealc, calc 'chalk, plaster' [L calc-, calx]
 ・ ċeaster, ċæster 'fortification; city, town (especially one with a wall)' [L castra]
 ・ ċipp 'rod, stick, beam (especially in various specific contexts)' [probably L cippus]
 ・ clifa, cleofa, cliofa 'chamber, cell, den, lair' [perhaps L clibanus 'oven']
 ・ clūse, clause 'lock; confine, enclosure; fortified pass' [L clausa]
 ・ clūstor 'lock, bolt, bar, prison' [L claustrum]
 ・ cruft 'crypt, cave' [L crupta]
 ・ cyċene 'kitchen' [L coquina]
 ・ cylen 'kiln, oven' [L culina]
 ・ *cylene 'town' (only as place-name element) [L colonia]
 ・ mūr 'wall' [L murus]
 ・ mylen 'mill' [L molina]
 ・ pearroc 'enclosure; fence that forms an enclosure' [perhaps L parricus]
 ・ pīsle or pisle 'warm room' [L pensilis]
 ・ plætse, plæce, plæse 'open place in a town, square, street' [L platea]
 ・ port 'town with a harbour; harbour, port; town (especially one with a wall or a market)' [L portus]
 ・ post 'post; doorpost' [L postis]
 ・ pytt 'hole in the ground; excavated hole; pit; grave; hell' [pherlaps L puteus]
 ・ sċindel 'roof shingle' [L scindula]
 ・ solor 'upper room; hall, dwelling; raised platform' [L solarium]
 ・ tīġle, tīgele, tigele 'earthen vessel; potshert; tile, brick' [L tegula]
 ・ torr 'tower' [L turris]
 ・ weall 'wall, rampart, earthwork' [L vallum]
 ・ wīċ 'dwelling; village; camp, fortress' [L visum]
 ・ ? port 'gate, gateway' [L porta]
 ・ ? prtiċ 'porch, portico, vestibule, chapel' [L poorticus]

[ Containers, vessels, and receptacles ]

 ・ amber 'vessel, dry or liquid measure' [L amphora, ampora]
 ・ binn, binne 'basket, bin; manger' [L benna]
 ・ buteruc 'bottle' [perhaps from a derivative of L buttis]
 ・ byden 'vessel, container; cask, tub; tub-shaped geographical feature' [probably L *butina]
 ・ bytt 'bottle, flask, cask, wine skin' [L *buttia]
 ・ ċelċ, cælc, calic 'drinking vessel, cup' [L calic-, calix]
 ・ ċist, ċest 'chest, box, coffer; reliquary; coffin' [L cista]
 ・ cuppe 'cup', also copp 'cup, beaker; gloss for Latin spongia sponge' [L cuppa]
 ・ cȳf 'large jar, vessel, or tub' [L cupia < cupa]
 ・ cȳfl 'tub, bucket' [L cupellus]
 ・ cyll, cylle 'leather bottle, leather bag; ladele; oil lamp' [L culleus]
 ・ disċ 'dish, bowl, plate' [L discus]
 ・ earc, earce, earca, also arc, arce, arca 'ark (especially Noah's ark or the ark of the covenent), chest, coffer' [L arca]
 ・ gabote, gafote kind of dish or platter [L gabata]
 ・ ġellet 'jug, bowl, or basin' [L galleta]
 ・ læfel, lebil 'spoon, cup, bowl, vessel' [L labellum]
 ・ orc 'pitcher, crock, cup' [L orca]
 ・ pott 'pot' [perhaps L pottus]
 ・ sacc, also sæcc 'sack, bag' [L saccus]
 ・ sester 'jar, vessel; a measure' [L sextarius]
 ・ spyrte 'basket' [probably L sporta, *sportea]
 ・ ? cæpse 'box' [L copsa]
 ・ ? sċrīn 'chest; shrine' [L scrinium]
 ・ ? sċutel 'dish, platter' [L scutella]
 ・ ? tunne 'cask, tun, barrel' [L tunna]

[ Coins, money; wights and measures, units of measurement ]

 ・ dīner, dīnor type of coin, denarius [L denarius]
 ・ mīl 'mile' [L milia]
 ・ mydd 'a measure' [L modius]
 ・ mynet 'a coin; coinage, money' [L moneta]
 ・ oma 'a liquid measure' [L ama]
 ・ pund 'pound (in weight or money); pint' [L pondo]
 ・ trimes 'unit of weight, a dracm; name of a coin' [L tremissis]
 ・ ynċe 'inch' [L uncia]
 ・ yntse 'ounce' [L uncia]

[ Transactions and payments ]

 ・ ċēap 'perchase, sale, transaction, market, possessions, price' [L cauō or caupōnārī]
 ・ toll, also toln, tolne 'toll, tribute, rent, duty' [L toloneum]
 ・ trifet 'tribute' [L tributum]

[ Clothing; fabric ]

 ・ belt 'belt, girdle' [L balteus]
 ・ bīsæċċ 'pocket' [L bisaccium]
 ・ cælis 'foot-covering', also (later) calc 'sandal' [L calceus]
 ・ ċemes 'shirt, undergarment' [L camisia]
 ・ ġecorded 'having cords, corded (or perhaps fringed)' [L corda]
 ・ cugele '(monk's) cowl' [L cuculla]
 ・ fifele 'broach, clasp' [L fibula]
 ・ mentel 'cloak' [L mantellum]
 ・ pæll, pell 'fine or rich cloth; purple cloth; altar cloth rich robe' [L pallium]
 ・ pyleċe 'fur robe' [L pellicia]
 ・ seolc 'silk' [perhaps L sericum]
 ・ sīde 'silk' [L seta]
 ・ *sīric 'silk' [perhals L sericum]
 ・ socc 'light shoe' [L soccus]
 ・ swiftlēre 'slipper' [L subtalaris]
 ・ ? orel, orl 'robe, garment, veil, mantle' [L orale, orarium]
 ・ ? purpure, purpur 'deep crimson garment; deep crimson colour (imperial purple)' [L purpura]
 ・ ? sabon 'sheet' [L sabanum]
 ・ ? tæpped, teped 'cloth wall or floor covering' [L tapetum, tappetum]

[ Furniture and furnishing ]

 ・ meatte, matte 'mat; underlay for a bed' [L matta]
 ・ mēse, mīse 'table' [L mensa]
 ・ pyle, pylu 'pillow, cushion' [L pulvinus]
 ・ sċamol, sċemol, sċeomol, sċeamol 'stool, footstool, bench' [L *scamellum]
 ・ strǣl, strēaġl 'curtain; quilt, matting, bed' [L stragula]
 ・ strǣt 'bed' [L stratum]

[ Precious stones ]

 ・ ġimm 'gem, precious stone, jewel; also in figurative use' [L gemma]
 ・ meregrot 'pearl' [L margarita, but showing folk-etymological alteration after an English word for 'sea' and (probably) an English word for 'fragment, particple']
 ・ pærl '(very doubtfully) pearl' [perhals L *perla]

[ Roles, ranks, and occupations (non-religious or not specifically religious) ]

 ・ cāsere 'emperor; ruler' [L caesar]
 ・ fullere 'fuller' [L fullo]
 ・ mangere 'merchant, trader' [L mango]
 ・ mæġester, also (later) māgister or magister 'leader, master, teacher' [L magister]
 ・ myltestre 'prostitute' [L meretrix, with remodelling of the ending after the Old English feminine agent noun suffix -estre]
 ・ prafost, also profost 'head, chief, officer' [L praepositus, propositus]
 ・ sūtere 'shoumaker' [L sutor]

[ Punishment, judgement, codes of behaviour ]

 ・ pīn 'pain, fortune, anguish, punishment' [L poena]
 ・ regol, reogol 'rule; principle; code of rules; wooden ruler' [L regula]
 ・ sċrift 'something decreed as a penalty; penance; absolution; confessor; judge' [L scriptum]

[ Verbs ]

 ・ *cōfrian 'to recover' (implied by acōfrian in the same meaning) [L recuperare]
 ・ *cyrtan 'to shorten' (implied by cyrtel 'garment, tunic, cloak, gown' and (probably) ġecyrted 'cut off, shortened') [L curtus, adjective]
 ・ dīligian 'to erase, rub out; to destroy, obliterate' [L delere]
 ・ impian 'to graft; to busy oneself with' [L imputare]
 ・ *mūtian (implied by bemūtian 'to exchange' and mūtung 'exchange') [L mutare]
 ・ *nēomian 'to sound sweetly' or *nēome 'sound' [L neuma, noun]
 ・ pinsian 'to weigh, consider, reflect' [L pensare]
 ・ pīpian 'to play on a pipe' [L pipare]
 ・ pluccian 'to pluck' [perhaps L *piluccare]
 ・ *pundrian (implied by apyndrian, apundrian 'to weigh, to adjudge') [L ponderare, if not a derivative of OE punduru]
 ・ pynġan 'to prick' [L pungere]
 ・ sċrīfan 'to allot, prescribe, impose; to hear confession; to receive absolution; to have regard to' [L scribere]
 ・ seġlian 'to seal' [L sigillare]
 ・ seġnian 'to make the sign of the cross; to consecrate, bless' [L signare, if not < OE seġn]
 ・ *-stoppian (implied by forstoppian) 'to obstruct, stop up' [perhaps L *stuppare]
 ・ trifulian 'to break, bruise, stamp' [L tribulare]
 ・ tyrnan, turnian 'to turn, revolve' [L turnare]
 ・ ? cystan 'to get the value of, exchange for the worth of' [L constare]
 ・ ? dihtan, dihtian 'to direct, command, arrange, set forth' [L dictare]
 ・ ? glēsan 'to gloss, explain' [L glossare (verb) or glossa (noun)]
 ・ ? lafian 'to pour water on, to bathe, wash' [L lavare]
 ・ ? *pilian 'to peel, strip, pluck' [L pilare]
 ・ ? plantian 'to plant' [L plantare, or < OE plante]
 ・ ? *pyltan 'to pelt' (implied by later pilt, pelt) [perhaps L *pultiare, alteration of pultare]
 ・ ? sealtian 'to dance' [L saltare]
 ・ ? trahtian 'to comment on, expound; to interpret' [L tractare, if not < OE traht]

[ Adjectives ]

 ・ cirps, crisp 'curly, curly haired' [L crispus]
 ・ cyrten 'beautiful' [perhals L *cortinus]
 ・ pīs 'heavy' [L pensus]
 ・ sicor 'sure, certain; secure' [L securus]
 ・ sȳfre 'clean, pure, sober' [L sobrius]
 ・ byxen 'of box wood' [probably L buxeus]
 ・ ? cūsc 'virtuous, chaste' [L conscius, perhaps via Old Saxon kusko]

[ Miscellaneous ]

 ・ candel, condel 'candle, taper', (in figurative contexts) 'source of light' [L candela]
 ・ ċēas, ċēast 'quarrel, strife; reproof' [L causa]
 ・ ċeosol, ċesol 'hut; gullet; belly' [L casula, casella]
 ・ copor 'copper' [L cuprum]
 ・ derodine 'scarlet' [probably L dirodinum]
 ・ munt 'mountain, hill' [L mont-, mons]
 ・ plūm-, in plmfeðer '(inplural) down, feathers' [L pluma]
 ・ sælmeriġe 'brine' [L *salmuria]
 ・ sætern- (in sæterndæġ 'Saturday') [L Saturnus]
 ・ seġn 'mark, sign, banner' [L signum]
 ・ tasul, teosol 'dice; small square of stone' [L tessella, *tassellus]
 ・ tæfl 'piece used in a board game, dice; type of game played on a board, game of dice; board on which this is played' [L tabula]
 ・ -ere, forming agent nouns [probably L -arius; if so, borrowed early]
 ・ -estre, forming feminine agent nouns [perhaps L -istria]
 ・ ? coron-(b&#275;ag) 'crown' [L corona]
 ・ ? diht 'act of directing or arranging; direction, arrangement, command' [L dictum]
 ・ ? *pill (perhaps shown by pillsāpe soap for removing hair, depilatory) [perhals L pilus 'hair']

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-09-11 Wed

#3789. 古英語語彙におけるラテン借用語比率は1.75% [latin][loan_word][borrowing][oe][lexicology][statistics]

 英語語源学の第一人者 Durkin によれば,古英語期までに英語に借用されたラテン単語の数は,少なくとも600語はあるという.650年辺りを境に,前期に300語ほど,後期に300語ほどという見立てである.この600という数字を古英語語彙全体から眺めてみると,1.75%という割合がはじき出される.しかし,これらのラテン借用語単体ではなく,それに基づいて作られた合成語や派生語までを考慮に入れると,古英語語彙における割合は4.5%に跳ね上がる.Durkin (100) の解説を引用しよう.

If we take an estimate of at least 600 words borrowed (immediately) from Latin, and a total of around 34,000 words in Old English, then, conservatively, around 1.75% of the total are borrowed from Latin. If we include all compounds and derivatives formed on Latin loanwords in Old English, then the total of Latin-derived vocabulary probably comes closer to 4.5% . . . , although this figure may be a little too high, since estimates of the total size of the Old English vocabulary (native and borrowed) probably rather underestimate the numbers of compounds and derivatives.


 この数値をどう評価するかは視点の取り方次第である.後の歴史における英語の語彙借用の規模とその影響を考えれば,この段階でのラテン借用語の割合など,取るに足りない数字にみえるだろう.一方,これこそが英語の語彙借用の歴史の第一歩であるとみるならば,いわば0%から出発した借用語の比率が,すでに古英語期中に1.75%(あるいは4.5%)に達しているというのは,ある程度著しい現象であるといえなくもない.さらにいえば,その多くが千数百年を隔てた現代英語にも残っており,日常語として用いられているものも目立つのである(昨日の記事「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1]) を参照).
 古英語のラテン借用語については英語史研究においてもさほど注目されてきたわけではないが,見方を変えれば十分に魅力的なトピックになりそうだ.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-09-12-1]

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2019-09-10 Tue

#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性 [latin][loan_word][oe][lexicology][lexical_stratification][statistics][borrowing]

 昨日の記事「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]) で触れたように,古英語期以前,とりわけ650年より前に入ってきた最初期のラテン借用語には,現在でも日常的に用いられているものが多い.「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) などで見てきたように,ラテン借用語にはレベルの高い単語が多いのは事実だが,古英語期以前の借用語に関していえば,そのステレオタイプは必ずしも事実を表わしていない.
 Durkin (138--39) による興味深い数値がある.Durkin は,「#3400. 英語の中核語彙に借用語がどれだけ入り込んでいるか?」 ([2018-08-18-1]) でも示したとおり,"Leipzig-Jakarta list of basic vocabulary" と呼ばれる通言語的に最も基本的な意味を担う100語を現代英語から取り出し,そのなかにどれほど借用語が含まれているかを調査してみた.結果としては,ラテン借用語についていえば,そこには1語も含まれていなかった.
 しかし,別途 "the WOLD survey" による1,460個の基本的な意味項目からなる日常語リストで調査してみると,137語ほど(およそ10%)が古英語期以前に借用されたラテン借用語と認定されるものだった.しかも,それらの単語は,24個設けられている意味のカテゴリーのうち,"Kinship", "Quantity", "Miscellaneous function words" を除く21個のカテゴリーにわたって見出されるという.つまり,英語史上,最初期に入ってきたラテン借用語は,広い分野にわたり日常的に用いられる英語の語彙の少なからぬ部分を構成しているというわけだ.古英語の形で具体例をいくつか挙げておこう.

 ・ butere "butter"
 ・ ele "oil"
 ・ cyċene "kitchen"
 ・ ċȳse, ċēse "cheese"
 ・ wīn "wine" (and its compounds)
 ・ sæterndæġ "Saturday"
 ・ mūl "mule"
 ・ ancor "anchor"
 ・ līn "line, continuous length"
 ・ mylen (and its compounds) "mill"
 ・ scōl, sċolu (and the compound leornungscōl) "school"
 ・ weall "wall"
 ・ pīpe "pipe, tube"
 ・ pīle "mortar"
 ・ disċ "plate/platter/bowel/dish"
 ・ candel "lamp, lantern, candle"
 ・ torr "tower"
 ・ prēost and sācerd "priest"
 ・ port "harbour"
 ・ munt "mountain or hill"

 このようにラテン借用語のなかには意外と多く「基本語彙」もあることを銘記しておきたい.関連して,基本語彙の各記事も参照.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-09-09 Mon

#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質 [latin][loan_word][oe][chronology][lexicology][borrowing][link]

 英語史におけるラテン借用語といえば,古英語期のキリスト教用語,初期近代英語期のルネサンス絡みの語彙(あるいは「インク壺用語」 (inkhorn_term)),近現代の専門用語を中心とする新古典主義複合語などのイメージが強い.要するに「堅い語彙」というステレオタイプだ.本ブログでも,それぞれ以下の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
 ・ 「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1])
 ・ 「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1])
 ・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
 ・ 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1])
 ・ 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])
 ・ 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])
 ・ 「#1615. インク壺語を統合する試み,2種」 ([2013-09-28-1])
 ・ 「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1])
 ・ 「#3438. なぜ初期近代英語のラテン借用語は増殖したのか?」 ([2018-09-25-1])
 ・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
 ・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])

 俯瞰的にいえば,このステレオタイプは決して間違いではないが,日常的で卑近ともいえるラテン借用語も存在するという事実を忘れてはならない.大雑把にいえば紀元650年辺りより前,つまり大陸時代から初期古英語期にかけて英語(あるいはゲルマン諸語)に入ってきたラテン単語の多くは,意外なことに,よそよそしい語彙ではなく,日々の生活になくてはならない語彙を構成しているのである.この事実は「ラテン語=威信と教養の言語」という等式の背後に隠されているので,よく確認しておくことが必要である.
 650年というのはおよその年代だが,この前後の時代に入ってきたラテン借用語のタイプは異なっている.単純化していえば,それ以前は「親しみのある」日常語,それ以降は「お高い」宗教と学問の用語が入ってきた.Durkin (103) の要約文を引用しよう.

The context for most of the later borrowings is certain: they are nearly all words connected with the religious world or with learning, which were largely overlapping categories in the Anglo-Saxon world. Many of them are only very lightly assimilated into Old English, if at all. In fact it is debatable whether some of them should even be regarded as borrowed words, or instead as single-word switches to Latin in an Old English document, since it is not uncommon for words only ever to occur with their Latin case endings.
   The earlier borrowings include many more words that are of reasonably common occurrence in Old English and later, for instance names of some common plants and foodstuffs, as well as some very basic words to do with the religious life.


 では,具体的に前期・後期のラテン借用語とはどのような単語なのか.それについては今後の記事で紹介していく予定である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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