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loan_word - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-02-16 06:56

2017-04-29 Sat

#2924. 「カステラ」の語源 [etymology][portuguese][spanish][loan_word][sobokunagimon]

 「カステラ」という語は,ポルトガル借用語の典型として,しばしば取り上げられる(「#1896. 日本語に入った西洋語」 ([2014-07-06-1]) を参照).語源辞典をひもとけば詳しく説明が載っている.例えば,『学研 日本語「語源」辞典』によれば,

もとは,スペインの「カステリア王国で作られたパン」の意のポルトガル語.室町末期にポルトガル人によって長崎に伝えられ,略して「カステイラ」と呼ばれた.江戸時代以降,「カステラ」という言い方も普及した.


とある.『世界大百科事典第2版』では,

カスティリャ地方の菓子の意であるポルトガル語のボロ・デ・カステラ bolo de Castella に出た語で,加須底羅,粕底羅などとも書かれた.長崎では寛永 (1624--44) 初年からつくられたといい,しだいに各地にひろまった.


と説明書きがある.さらに,『日本語源大辞典』を引用すると,

pão de Castella (カスティーリャ王国のパン)と教えられたのを,日本人が「カステイラ」と略したらしい.また,オランダ語 Castiliansh brood の略という説もある.中世末から近世にかけては,カステイラの形が一般的だったが,やがてカステラの形も現れた.


 およそ「カステラ」の借用ルートについては以上の通りだが,1つ素朴な疑問が残る.なぜスペインのカスティリャ地方のお菓子が,ポルトガル語にその名前を残しているのかということだ.スペイン(語)とポルトガル(語)は,国としても言語としても互いに近親の関係にあるということは前提としつつも,カステラというお菓子という具体的な事例に関して,両者がいかなる関係にあったのか.
 1ヶ月前のことになるが,3月29日の読売新聞朝刊に「カステラの名称 王室の結婚由来」という見出しの記事が掲載された.それによると,17世紀にポルトガル宮廷料理人の書いたレシピ本『料理法』のなかに,カステラと製法がほぼ同じ「ビスコウト・デ・ラ・レイナ」という名のお菓子が確認されたという.ラ・レイナとは「女王・王妃」を意味するスペイン語である.当時,ポルトガル王室はスペイン王室から王妃を迎えており,その婚姻を通じてそのお菓子もスペインからポルトガルへ伝わったものと考えられる.それが,スペインの政治的中心地の名前を冠して「ボーロ・デ・カステーラ」とポルトガル(語)でリネームされたというわけだ.そして,それからしばらく時間は経過したが,そのロイヤルウェディングのお菓子が,はるばる日本に伝わったということになる.
 以上は,東京大学史料編纂所の日欧交渉史を専門とする岡美穗子氏の調査により明らかにされたという.「カステラ」の語源の詰めが完成した感があり,気持ちよい.

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2017-03-05 Sun

#2869. 古ノルド語からの借用は古英語期であっても,その文証は中英語期 [old_norse][loan_word][borrowing][oe][eme]

 ある言語の話者が別の言語から語を借用するという行為と,その語を常用するという慣習とは,別物である.前者はまさに「借りる」という行為が行なわれているという意味で動的な borrowing の話題であり,後者はそれが語彙体系に納まった後の静的な loan_word 使用の話題である.この2者の違いを証拠 (evidence) という観点から述べれば,文献上,前者の "borrowing" の過程は確認されることはほとんどあり得ず,後者の "loan word" 使用としての状況のみが反映されることになる.
 この違いを,英語史の古ノルド語の借用(語)において考えてみよう.英語が古ノルド語の語彙を借用した時期は,両言語が接触した時期であるから,その中心は後期古英語期である.場所によっては多少なりとも初期中英語期まで入り込んでいたとしても,基本は後期古英語期であることは間違いない(「#2591. 古ノルド語はいつまでイングランドで使われていたか」 ([2016-05-31-1])).
 しかし,借用という行為が後期古英語期の出来事であったとしても,そのように借用された借用語が,その時期の作とされる写本などの文献に同時代的に反映されているかどうかは別問題である.通常,借用語は社会的にある程度広く認知されるようになってから書き言葉に書き落とされるものであり,借用がなされた時期と借用語が初めて文証される時期の間にはギャップがある.とりわけ現存する後期古英語の文献のほとんどは,地理的に古ノルド語の影響が最も感じられにくい West-Saxon 方言(当時の標準的な英語)で書かれているため,古ノルド語からの借用語の証拠をほとんど示さない.一方,古ノルド語の影響が濃かったイングランド北部や東部の方言は,非標準的な方言として,もとより書き記される機会がなかったので,証拠となり得る文献そのものが残っていない.さらに,ノルマン征服以降,英語は,どの方言であれ,文献上に書き落とされる機会そのものを激減させたため,初期中英語期においてすら古ノルド語からの借用語の使用が確認できる文献資料は必ずしも多くない.したがって,多くの古ノルド語借用語が文献上に動かぬ証拠として確認されるのは,早くても初期中英語,遅ければ後期中英語以降ということになる.古ノルド語の借用(語)を論じる際に,この点はとても重要なので,銘記しておきたい.
 Crowley (101) に,この点について端的に説明している箇所があるので,引いておこう.

[T]he Scandinavian influence on English dialects, which began after c. 850 and outside the tradition of writing, does not show up in any significant way in the records of Old English. The substantial pre-1066 texts from the Danelaw areas show either the local Old English dialect without Scandinavian influence or standard Late West Saxon. So, despite the circumstantial evidence and Middle English attestation of a significant Scandinavian influence, not much can be made of it for Old English.


 ・ Crowley, Joseph P. "The Study of Old English Dialects." English Studies 67 (1986): 97--104.

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2017-01-31 Tue

#2836. カタカナ語の氾濫問題を solidarity の観点から視る [sociolinguistics][japanese][katakana][loan_word][purism][solidarity][inkhorn_term]

 「カタカナ語」と称される外来語の氾濫は,しばしば日本語の問題として話題となる.本ブログでも,「#1617. 日本語における外来語の氾濫」 ([2013-09-30-1]),「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1]),「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1]) などで問題にしてきた.
 #1617の記事で触れたように,とりわけ「高齢者の介護や福祉に関する広報紙の記事は,読み手であるお年寄りに配慮した表現を用いることが,本来何よりも大切にされなければならないはず」にもかかわらず,外来語が多用されている現実が問題とされることが多い.「お年寄りに配慮した表現」とは,理解しやすい漢語や和語での言い換え表現であるとか,あるいは少なくとも括弧で説明を付すなどの気遣いのことと把握していたが,社会言語学的な観点,特に solidarity (連帯)の観点から視ると,もう少し根の深い問題がありそうだということが分かる.井上 (190) は,「連帯」の裏返しとしての「排除」について次のように述べている.

日本のお役所ことばにカタカナ語を乱用するのはそれがわからない高齢者などを排除することになる.カタカナ語が問題なのは,意味がわからないことだけではない.連帯と排除の構造を社会に作り出してしまうことこそより問題である.


 つまり,多くのお年寄りがカタカナ語の意味を理解できないという言語コミュニケーション上の問題以上に,お年寄りが,その意味を理解する若年集団と社会的に「連帯」できないという問題,もっと言えば「排除」されてしまうという問題があるという
 この社会言語学的な説明は,ただお年寄りとカタカナ語の問題に限らず,ある言語に借用語が氾濫したときにしばしば生じるアンチ借用語の言語的純粋主義 (purism) を論じるにあたって,一般的に有効なのではないかと思われる.例えば,初期近代英語の「インク壺語論争」(inkhorn_term) においても,ラテン借用語の氾濫は,一般庶民の理解を超えるという点で言語コミュニケーション上の問題と捉えることもできるが,それ以上に,ラテン語を操れる知識層と操れない一般庶民たちの間の断絶という社会的な含意をもった問題と捉えるほうが妥当かもしれない.

 ・ 井上 逸兵 『グローバルコミュニケーションのための英語学概論』 慶應義塾大学出版会,2015年.

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2016-12-08 Thu

#2782. 18世紀のフランス借用語への「反感」 [french][loan_word][purism][dryden]

 18世紀は,ヨーロッパにおけるフランス語の威信が高まった時代である.イギリスにおいてもこの傾向は確かにみられ,実際に,18世紀には少なからぬフランス借用語が英語に流れ込んでいる(「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1]),「#678. 汎ヨーロッパ的な18世紀のフランス借用語」 ([2011-03-06-1]),「#1792. 18--20世紀のフランス借用語」 ([2014-03-24-1]) を参照),
 中英語期の大量借用とは比べるべくもないが,英語史においてフランス語が再び威信を取り戻した1つの時代ではあった.しかし,この世紀は比較的保守的で渋好みの新古典主義時代(Augustan Period) にも相当しており,とりわけその前半期には外来語への「反感」を示す声も一部から漏れていたというのも事実である.一般に,外来のものが大好きという向きが多い時代には,一方で大嫌いという向きも必ず現われるものである.語彙の借用を推進する人々がいれば,語彙の純粋さ (purism) を保とうと運動する保守的な論客も現われるというのが,古今東西の通例である.以下,この時代の状況を,Baugh and Cable (281--82) に引用されている当時の原文により伝えたい.
 18世紀に外来語(主としてフランス借用語)の流入に苦言を呈した文人として,例えば Daniel Defoe (1660--1731) がいる.1708年10月10日付の Review では,"I cannot but think that the using and introducing foreign terms of art or foreign words into speech while our language labours under no penury or scarcity of words is an intolerable grievance." と述べている.
 それよりも少し前の1672年のことだが,John Dryden (1631--1700) も Dramatic Poetry of the Last Age のなかで英語におけるフランス語の乱用を非難している.

I cannot approve of their way of refining, who corrupt our English idiom by mixing it too much with French: that is a sophistication of language, not an improvement of it; a turning English into French, rather than a refining of English by French. We meet daily with those fops who value themselves on their travelling, and pretend they cannot express their meaning in English, because they would put off on us some French phrase of the last edition; without considering that, for aught they know, we have a better of our own. But these are not the men who are to refine us; their talent is to prescribe fashions, not words.


 Addison (1672--1719) も,1711年に Spectator (no. 165) で次のように述べている.

I have often wished, that as in our constitution there are several persons whose business is to watch over our laws, our liberties, and commerce, certain men might be set apart as superintendents of our language, to hinder any words of a foreign coin, from passing among us; and in particular to prohibit any French phrases from becoming current in this kingdom, when those of our own stamp are altogether as valuable.


 語彙の純粋さを巡る問題の常として,借用語使用を批判する論客が人々の言語使用に影響を与えることは,ほとんどない.18世紀の場合も例外ではなく,彼らは苦言こそ呈したが,ほぼ効き目はなかったのである.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2016-09-10 Sat

#2693. 古ノルド語借用語の統計 [lexicology][statistics][old_norse][french][loan_word][contact]

 昨日の記事「#2692. 古ノルド語借用語に関する Gersum Project」 ([2016-09-09-1]) 紹介した Gersum ProjectNorse Terms in English: A (basic!) Introduction に,フランス語からの借用語と対比しながら古ノルド語からの借用語に関する数値などが言及されていた.

When it comes to numbers, French influence, mainly as a result of the Norman Conquest, is much more significant: approximately 10,000 words were borrowed from French during the Middle English period (of which around 7,000 are still used), whereas there are about 2,000 Norse-derived terms recorded in medieval English texts. Of them, about 700 are still in use in Standard English, although many more can be found in dialects from areas such as the East Midlands, Yorkshire, Lancashire, and Cheshire. The significance of the Norse impact on (Standard) English lies instead in the fact that most of the Norse-derived terms do not have a technical character (consider, for instance, skirt, leg, window, ugly, ill, happy, scare, bask, die) and even include a number of grammatical terms, the most notable being the third person plural pronouns they, them and their (because personal pronouns are not easily borrowed between languages). The presence of these terms was probably facilitated by the similarity between Old English and Old Norse, both of which were Germanic languages. In fact, it seems very likely that the speakers of the two languages were able to understand each other by speaking their own language, of course with some careful lexical choices and a good deal of pointing and, when appropriate, smiling.


 借用語彙の統計は,語源の不確かさの問題などが絡み,いきおい概数にならざるを得ないが,与えられていれば参考になる.ここに挙げられている数値も,他書のものと大きく異なっていない.中英語期の借用語に限定して数えると,フランス語からはおよそ1万語(うち約7千語が現在まで残る)が入り,古ノルド語からはおよそ2千語(うち約700語が現代標準英語に残る)が入ったとしている.古ノルド語からの借用語は絶対数も現在までの残存率も相対的に低いといえるが,英語語彙のコアにまで浸透しているという意味で,質的な深さはある.また,イングランド北部・東部の諸方言を考慮に入れれば,現在使われている古ノルド語借用語の数は著しく増えるということも銘記しておきたい.古英語話者と古ノルド語話者がある程度通じ合えたとの積極的な指摘も注目に値する.
 その他,借用語に関する統計は cat:loan_word statistics の各記事を参照.

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2016-09-09 Fri

#2692. 古ノルド語借用語に関する Gersum Project [old_norse][contact][loan_word][lexicology][etymology][semantic_borrowing]

 先日参加した ICEHL19 (see 「#2686. ICEHL19 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2016-09-03-1])) の学会で目を引いた研究発表に,Cambridge 大学の Richard Dance や Cardiff 大学の Sara M. Pons-Sanz による Gersum Project の経過報告があった.古英語から中英語にかけて生じた典型的な意味借用 (semantic_borrowing) の例といわれる bread と,その従来の類義語 loaf との関係について語史を詳しく調査した結果,Jespersen の唱えた従来の意味借用説を支持する証拠はない,という衝撃的な結論が導かれた(この従来の説については,本ブログでも「#2149. 意味借用」 ([2015-03-16-1]),「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]),「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1]) で触れている).
 Gersum Project は,従来の古ノルド語の英語に対する影響は過大評価されてきたきらいがあり(おそらくはデンマーク人の偉大な英語学者 Jespersen の愛国主義的な英語史観ゆえ?),その評価を正す必要があるとの立場を取っているようだ(関連して「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1]) を参照).プロジェクトのHPによると(←成蹊大学の田辺先生,教えていただき,ありがとうございます),プロジェクトの狙いは "The Gersum project aims to understand this Scandinavian influence on English vocabulary by examining the origins of up to 1,600 words in a corpus of Middle English poems from the North of England, including renowned works of literature like Sir Gawain and the Green Knight, Pearl, and the Alliterative Morte Arthure." だという.主たる成果は,総計3万行を越えるこれらのテキストにおける古ノルド語由来の単語のデータベースとして,いずれ公開されることになるようだ.
 古ノルド語の借用語とその歴史的背景に関する基礎知識を得るには,同HP内の Norse Terms in English: A (basic!) Introduction が有用.

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2016-08-15 Mon

#2667. Chaucer の用いた語彙の10--15%がフランス借用語 [chaucer][french][loan_word][statistics][popular_passage][me_text]

 Algeo and Pyles (280--81) に,Chaucer の The Canterbury Tales (Ellesmere 写本)から General Prologue の冒頭の27行について,フランス借用語にイタリック体を施して提示したものがある.以下に再現しよう,

Whan that Aprille with hise shoures soote
The droghte of March hath perced to the roote
And bathed every veyne in swich licour
Of which vertu engendred is the flour;
Whan Zephirus eek with his sweete breeth
Inspired hath in every hold and heeth
The tendre croppes, and the yonge sonne
Hath in the Ram his half[e] cours yronne,
And smale foweles maken melodye,
That slepen al the nyght with open eye---
So priketh hem nature in hir corages---
Thanne longen folk to goon on pilgrimages,
And Palmeres for to seken straunge strondes,
To ferne halwes kowthe in sondry londes
And specially fram every shires ende
Of Engelond to Caunterbury they wende
The hooly blisful martir for to seke
That hem hath holpen when þt they were seeke.
Bifil that in that seson on a day,
In southwerk at the Tabard as I lay
Redy to wenden on my pilgrymage
To Caunterbury with ful devout corage,
At nyght were come in to that hostelrye
Wel nyne and twenty in a compaignye
Of soundry folk by aventure yfalle
In felaweshipe, and pilgrimes were they alle
That toward Caunterbury wolden ryde.


 27行で合計189語が用いられているが,2度現われる pilgrimagecorage を各1語と数え,異なり語数で計算すると,24語 (12.70%) までがフランス借用語である.この数字は,フランス語に堪能だった Chaucer ならではというわけではなく,おそらく14世紀後半の教養あるロンドンの英語に典型的な値といってよいだろう.Serjeantson (151) によれば,Chaucer の用いた語の10--15%はフランス借用語だったということだが,General Prologue の冒頭27行は Chaucer としても典型的,平均的な値を示しているといえる.
 現代英語ではフランス借用語比率はどれくらいなのだろうか.当然ながら使用域によって異なるだろうが,標準的な文章語を対象に調査し,後期中英語の状況と比べるとおもしろそうだ.
 General Prologue の冒頭については,「#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形」 ([2010-10-13-1]),「#2275. 後期中英語の音素体系と The General Prologue」 ([2015-07-20-1]) を参照.

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
 ・ Serjeantson, Mary S. A History of Foreign Words in English. London: Routledge and Kegan Paul, 1935.

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2016-08-12 Fri

#2664. 「オープン借用」と「むっつり借用」 (2) [borrowing][loan_word][semantic_borrowing][loan_translation][contact][purism]

 昨日の記事 ([2016-08-11-1]) で導入した「オープン借用」と「むっつり借用」の対立は,Haugen の用語である importation と substitution の対立に換言される.「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) でみたように,importation とは借用元の形式をおよそそのまま自言語に取り込むことであり,substitution とは借用元の形式に対応する自言語の形式を代用することである.しかし,借用 (borrowing) と呼ばれるからには,必ず相手言語の記号の意味は得ている.その点では,オープン借用もむっつり借用も異なるところがない.
 さて,この2種類の借用方法の対立を念頭に,語彙借用の比較的多いといわれる英語や日本語などの言語と,比較的少ないといわれるアイスランド語やチェコ語などの言語の差について考えてみよう.これらの言語の語彙を比較すると,なるほど,例えば英語には形態的に他言語に由来するものが多く,アイスランド語にはそのようなものが少ないことは確かである.オープン借用の多寡という点に限れば,英語は借用が多く,アイスランド語は借用が少ないという結論になる.しかし,むっつり借用を調査するとどうだろうか.もしかすると,アイスランド語は案外多く(むっつり)借用している可能性があるのではないか.むっつり借用は,表面上,借用であることが分かりにくいという特徴があるため,詳しく語源調査してみないとはっきりしたことが言えないが,その可能性は十分にある.「#903. 借用の多い言語と少ない言語」 ([2011-10-17-1]) で触れたように,「例えば借用の多いと言われる英語と少ないと言われるアイスランド語の差は,実のところ,借用の多寡そのものの差ではなく,2つの借用の方法 (importation and substitution) の比率の差である可能性があることにな」り,「両方法による借用を加え合わせたものをその言語の借用の量と考えるのであれば,一般に言われているほど諸言語間に著しい借用の多寡はないのかもしれない」とも言えるかもしれない.ひょっとすると,あらゆる言語が,スケベの種類こそ異なれ,結局のところ結構スケベ(借用好き)なのではないか.言語間にスケベ(借用好き)の程度の差がまったくないとまでは言わないが.
 さらに,2種類の借用方法という観点から,他言語からの借用を嫌う言語的純粋主義 (purism) について考えてみたい.英語史にも日本語史にも,純粋主義者が他言語からの語彙借用を声高に批判する時代があった.「古き良き英語を守れ」「美しい本来の日本語を復活させよ」などと叫びながら,洪水にように迫り来る外来語に抵抗することが,歴史のなかで1度となく繰り返された.しかし,そのような純粋主義者が抵抗していたのはオープン借用に対してであり,実は彼ら自身が往々にしてむっつり借用を実践していた.現代日本語の状況で喩えれば,純粋主義の立場から「ワーキンググループ」と言わずに「作業部会」と言うべしという人がいたとすると,その人は英語の working group という記号の signifiant の借り入れにこそ抵抗しているものの,signifié については無批判に受け入れていることになる.同じスケベなら目に見えるスケベがよいという意見もあれば,同じスケベでも節度を保った目立たない立居振舞が肝要であるという意見もあろう.言語上の借用とスケベとはつくづく似ていると思う.
 純粋主義と語彙借用については,「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1]) ,「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1]),「#1545. "lexical cleansing"」 ([2013-07-20-1]),「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1]),「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1])),「#2068. 言語への忠誠」 ([2014-12-25-1]),「#2069. 言語への忠誠,言語交替,借用方法」 ([2014-12-26-1]),「#2147. 中英語期のフランス借用語批判」 ([2015-03-14-1]),「#2479. 初期近代英語の語彙借用に対する反動としての言語純粋主義はどこまで本気だったか?」 ([2016-02-09-1]) などを参照.

 ・ Haugen, Einar. "The Analysis of Linguistic Borrowing." Language 26 (1950): 210--31.

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2016-08-11 Thu

#2663. 「オープン借用」と「むっつり借用」 (1) [borrowing][loan_word][semantic_borrowing][loan_translation][terminology][contact][sign]

 標題は私の勝手に作った用語だが,言語項(特に語彙項目)の借用には大きく分けて「オープン借用」と「むっつり借用」の2種類があると考えている.
 議論を簡単にするために,言語接触に際して最もよく観察される単語レベルの借用に限定して考えよう.通常,他言語から単語を借りてくるというときに起こることは,供給側の言語の単語という記号 (sign) が,多少の変更はあるにせよ,およそそのまま自言語にコピーされ,語彙項目として定着することである.記号とは,端的に言えば語義 (signifié) と語形 (signifiant) のセットであるから,このセットがそのままコピーされてくるということになる (「記号」については「#2213. ソシュールの記号,シニフィエ,シニフィアン」 ([2015-05-19-1]) を参照) .例えば,中英語はフランス語から uncle =「おじ」という語義と語形のセットを借りたし,中世後期の日本語はポルトガル語から tabaco (タバコ)=「煙草」のセットを借りた.
 確かに,記号を語義と語形のセットで借り入れるのが最も普通の借用と考えられるが,語形は借りずに語義のみ借りてくる意味借用 (semantic_borrowing) や翻訳借用 (loan_translation) という過程もしばしば見受けられる.例えば,古英語 god は元来「ゲルマンの神」を意味したが,キリスト教に触れるに及び,対応するラテン語 deus のもっていた「キリスト教の神」の意味を借り入れ,自らに新たな語義を付け加えた.deus というラテン語の記号から借りたのは,語義のみであり,語形は本来語の god を用い続けたわけである(「#2149. 意味借用」 ([2015-03-16-1]),「#1619. なぜ deus が借用されず God が保たれたのか」 ([2013-10-02-1]) を参照).これは意味借用の例といえる.また,古英語がラテン語 trinitas を本来語要素からなる Þrines "three-ness" へと「翻訳」して取り入れたときも,ラテン語からは語義だけを拝借し,語形としてはラテン語をまるで感じさせないような具合に受け入れたのである.
 ごく普通の借用と意味借用や翻訳借用などのやや特殊な借用との間で共通しているのは,少なくとも語義は相手言語から借り入れているということである.見栄えは相手言語風かもしれないし自言語風かもしれないが,いずれにせよ内容は相手言語から借りているのである.「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) でも注意を喚起した通り,この点は重要である.いずれにせよ内容は他人から借りているという点で,等しくスケベである.ただ違うのは,相手言語の語形を伴う借用(通常の借用)では借用(スケベ)であることが一目瞭然だが,相手言語の語形を伴わない借用(意味借用や翻訳借用)では借用(スケベ)であることが表面的には分からないことである.ここから,前者を「オープン借用」,後者を「むっつり借用」と呼ぶ.
 はたして,どちらがよりスケベでしょうか.そして皆さんはどちらのタイプのスケベがお好みでしょうか.

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2016-07-25 Mon

#2646. オランダ借用語に関する統計 [loan_word][borrowing][dutch][flemish][afrikaans][statistics]

 昨日の記事「#2645. オランダ語から借用された馴染みのある英単語」 ([2016-07-24-1]) 及び「#148. フラマン語とオランダ語」 ([2009-09-22-1]),「#149. フラマン語と英語史」 ([2009-09-23-1]) で取り上げてきたように,オランダ語と関連変種(フラマン語,低地ドイツ語,アフリカーンス語などを含み,オランダ語とともにすべて合わせて "Low Dutch" と呼ばれる)から英語に入った借用語は案外と多い.Durkin による OED3 による部分的な調査によれば,これらの言語からの借用語にまつわる数字を半世紀ごとにまとめると,以下のようになる (Durkin, p. 355 の "Loanwords from Dutch, Low German, and Afrikaans, as reflected by OED3 (A--ALZ and M-RZZ)" と題する表を再現した).

Loanwords from Dutch, Low German, and Afrikaans, as reflected by OED3 (qtd. from Durkin 355)

 英語史を通じての全体的な数だけでいえば,Low Dutch からの借用語は,実に古ノルド語からの借用語よりも数が多いというのは意外かもしれない.「#126. 7言語による英語への影響の比較」 ([2009-08-31-1]) の表では,Dutch/Flemish からの語彙的影響は "minimal" と表現されているが,実際にはもう少し高めに評価する表現であってもよさそうだ.ただし,古ノルド語ほど英語の基本語彙に衝撃を与えたわけではなく,数だけで両ケースを比較することには注意しなければならない.ただし,Low Dutch からの語彙借用に関して顕著な特徴として,中世から現代まで途切れることなく語彙を供給している点は指摘しておきたい.
 時代別にみると,借用語の絶対数では中世の合計は近現代の合計を下回るが,割合としては特に後期中英語に借用が盛んだったことがよくわかる.英語本来語と Low Dutch からの借用語とは語源的,形態的に区別のつかないことも多く,実際には古英語でも少なからぬ借用があった可能性があると想像すると,Low Dutch 借用語のもつ英語史上の潜在的な意義は小さくないように思われる.
 Low Dutch 借用語の統計の問題について,Durkin (356--57) は次のように議論している.

The fullest study of words of Dutch or Low German origin in English remains that of Bense (1939), who drew his data chiefly from the first edition of the the (sic) OED. Bense's study groups loanwords from Dutch and Low German together under the collective heading 'Low Dutch', although at the level of individual word histories he frequently distinguishes between input from each language. His companion work, Bense (1925), provides a summary of the main historical contexts of contact. Bense discusses over 5,000 words, for most of which he considers Low Dutch origin at least plausible; this is thus much higher than the OED's etymologies suggest. His total includes some words ultimately of Dutch origin that have definitely entered English via other languages, e.g. plaque (from a French word that ultimately has a Dutch origin), and also many semantic loans; OED3 has over 150 of these in parts so far revised, e.g. household (a. 1399) or field-cornet (1800, after South African Dutch veldkornet). Nonetheless, Bense does make a case for direct borrowing from Dutch for many words for which the OED does not posit a Dutch etymon; even if one agrees with the OED's (generally more conservative) approach in all cases, Bense's suggestions are by no means absurd, and his work highlights very well the difficulty of being certain about the extent of the Dutch contribution to the lexis of English.


 5000語を超えるという Bense の試算はやや大袈裟であっても,概数としては馬鹿げていないのではないかという Durkin の評価も,なかなか印象的である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2016-07-24 Sun

#2645. オランダ語から借用された馴染みのある英単語 [loan_word][borrowing][dutch][flemish][wycliffe][etymology][onomatopoeia]

 「#148. フラマン語とオランダ語」 ([2009-09-22-1]),「#149. フラマン語と英語史」 ([2009-09-23-1]) で述べたように,英語史においてオランダ語を始めとする低地帯の諸言語(方言)(便宜的に関連する諸変種を Low Dutch とまとめて指示することがある)からの語彙借用は,中英語から近代英語まで途切れることなく続いていた.その中でも12--13世紀には,イングランドとフランドルとの経済関係は羊毛の工業と取引を中心に繁栄しており,バケ (75) の言うように「ゲントとブリュージュとは,当時イングランドという羊の2つの乳房だった」.
 しかし,それ以前にも,予想以上に早い時期からイングランドとフランドルの通商は行なわれていた.すでに9世紀に,アルフレッド大王はフランドル侯地の創始者ボードゥアン2世の娘エルフスリスと結婚していたし,ウィリアム征服王はボードゥアン5世の娘のマティルデと結婚している.後者の夫婦からは,後のウィリアム2世とヘンリー1世を含む息子が生まれ,さらにヘンリー1世の跡を継いだエチエンヌの母アデルという娘も生まれていた.このようにイングランドと低地帯は,交易者の間でも王族の間でも,古くから密接な関係を保っていたのである.
 かくして中英語には低地帯の諸言語から多くの借用語が流入した.その単語のなかには,英語としても日本語としても馴染み深いものが少なくない.以下に中世のオランダ借用語をいくつか列挙してみたい.13世紀に「人頭」の意で入ってきた poll は,17世紀に発達した「世論調査」の意味で今日普通に用いられている.clock は,エドワード1世の招いたフランドルの時計職人により,14世紀にイングランドにもたらされた.塩漬け食品の取引から,pickle がもたらされ,ビールに欠かせない hop も英語に入った.海事関係では,13世紀に buoy が入り, 14世紀に rover, skipper が借用され,15世紀に deck, freight, hose がもたらされた.商業関係では,groat, sled が14世紀に,guilder, mart が15世紀に入っている.その他,13世紀に snatch, tackle が,14世紀に lollard が,15世紀に loiter, luck, groove, snap がそれぞれ英語語彙の一部となった.
 たった今挙げた重要な単語 lollard について触れておこう.この語は,1300年頃,オランダ語で病人や貧しい人々の世話をしていた慈善団体を指していた.これが,軽蔑をこめてウィクリフの弟子たちにも適用されるようになった.彼らが詩篇や祈りを口ごもって唱えていたのを擬音語にし,あだ名にしたものともされている.英語での初例はウィクリフ派による英訳聖書が出た直後の1395年である.

 ・ ポール・バケ 著,森本 英夫・大泉 昭夫 訳 『英語の語彙』 白水社〈文庫クセジュ〉,1976年.

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2016-07-22 Fri

#2643. 英語語彙の三層構造の神話? [loan_word][french][latin][lexicology][register][lexical_stratification][language_myth]

 rise -- mount -- ascendask -- question -- interrogate などの英語語彙における三層構造については,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) を始め,lexical_stratification の各記事で扱ってきた.低層の本来語,中層のフランス語,高層のラテン語という分布を示す例は確かに観察されるし,歴史的にもイングランドにおける中世以来の3言語の社会的地位ときれいに連動しているために,英語史では外せないトピックとして話題に上る.
 しかし,いつでもこのようにきれいな分布が観察されるとは限らず,上記の三層構造はあくまで傾向としてとらえておくべきである.すでに「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1]) でも示したように,本来語とフランス借用語を並べたときに,最も「普通」で「日常的」に用いられるのがフランス借用語のほうであるようなケースも散見される.Baugh and Cable (182) は,英語語彙の記述において三層構造が理想的に描かれすぎている現状に警鐘を鳴らしている.

. . . such contrasts [between the English element and the Latin and French element] ignore the many hundreds of words from French that are equally simple and as capable of conveying a vivid image, idea, or emotion---nouns like bar, beak, cell, cry, fool, frown, fury, glory, guile, gullet, horror, humor, isle, pity, river, rock, ruin, stain, stuff, touch, and wreck, or adjectives such as calm, clear, cruel, eager, fierce, gay, mean, rude, safe, and tender, to take examples almost at random. The truth is that many of the most vivid and forceful words in English are French, and even where the French and Latin words are more literary or learned, as indeed they often are, they are no less valuable and important. . . . The difference in tone between the English and the French words is often slight; the Latin word is generally more bookish. However, it is more important to recognize the distinctive uses of each than to form prejudices in favor of one group above another.


 三層構造の「神話」とまで言ってしまうと言い過ぎのきらいがあるが,特にフランス借用語がしばしば本来語と同じくらい「低い」層に位置づけられる事実は知っておいてよいだろう.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2016-07-04 Mon

#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性 [old_norse][loan_word][borrowing][lexicology]

 古ノルド語からの借用語には,基礎的で日常的な語彙が多く含まれていることはよく知られている.「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1]) では,この事実を印象的に表現する Jespersen の文章を引用した.
 今回は,現代英語の基礎語彙を構成しているとみなすことのできる古ノルド語からの借用語を列挙しよう.ただし,ここでいう「基礎語彙」とは,Durkin (213) が "we can identify fairly impressionistically the following items as belonging to contemporary everyday vocabulary, familiar to the average speaker of modern English" と述べているように,英語母語話者が直感的に基礎的と認識している語彙のことである.

 ・ pronouns: they, them, their
 ・ other function words: both, though, (probably) till; (archaic or regional) fro, (regional) mun
 ・ verbs that realize very basic meanings: die, get, give, hit, seem, take, want
 ・ other familiar items of everyday vocabulary (impressionistically assessed): anger, awe, awkward, axle, bait, bank (of earth), bask, bleak, bloom, bond, boon, booth, boulder, bound (for), brink, bulk, cake, calf (of the leg), call, cast, clip (= cut), club (= stick), cog, crawl, dank, daze, dirt, down (= feathers), dregs, droop, dump, egg, to egg (on), fellow, flat, flaw, fling, flit, gap, gape, gasp, gaze, gear, gift, gill, glitter, grime, guest, guild, hail (= greet), husband, ill, kettle, kid, law, leg, lift, link, loan, loose, low, lug, meek, mire, muck, odd, race (= rush, running), raft, rag, raise, ransack, rift, root, rotten, rug, rump, same, scab, scalp, scant, scare, score, scowl, scrap, scrape, scuffle, seat, sister, skill, skin, skirt, skulk, skull, sky, slant, slug, sly, snare, stack, steak, thrive, thrust, (perhaps) Thursday, thwart, ugly, wand, weak, whisk, window, wing, wisp, (perhaps) wrong.

 なお,この一覧を掲げた Durkin (213) の断わり書きも付しておこう."Of course, it must be remembered that in many of these cases it is probable that a native cognate has been directly replaced by a very similar-sounding Scandinavian form and we may only wish to see this as lexical borrowing in a rather limited sense."

 古ノルド語からの借用語の日常性は,しばしば英語と古ノルド語の言語接触の顕著な特異性を示すものとして紹介されるが,言語接触の類型論の立場からは,いわれるほど特異ではないとする議論もある.後者については,「#1182. 古ノルド語との言語接触はたいした事件ではない?」 ([2012-07-22-1]),「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1]),「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1]) を参照されたい.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2016-06-30 Thu

#2621. ドイツ語の英語への本格的貢献は19世紀から [loan_word][borrowing][statistics][german]

 「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]) で触れたように,ドイツ語の英語への語彙的影響は案外少ない.安井・久保田 (20) は次のように述べている.

ドイツ語が1824年に至るまで,英国人に,ほとんどまったくといってよいくらい,顧みられなかったのも,驚くべきことである.ドイツ語からの借用語は16世紀からあるにはあるが,フランス語,オランダ語,スカンジナヴィア語などよりの借用語に比べると,じつに少ないのである.20世紀に入ってからでも,英国人のドイツ語に関する知識は満足すべき段階に達していない.


 なお,引用中の1824年とは,Thomas Carlyle (1795--1881) が Göthe の Wilhelm Meister's Apprenticeship を翻訳出版した年である.
 OED3 により借用語を研究した Durkin (362) によると,19世紀より前にはドイツ借用語は目立っていなかったが,19世紀前半に一気に伸張したという.19世紀後半にはその勢いがピークに達し,20世紀前半に半減した後,20世紀後半にかけて下火となるに至る.  *
 ドイツ借用語は全体として専門用語が多く,それが一般に目立たない理由だろう.Durkin (361) は Pfeffer and Cannon の先行研究を参照しながら,ドイツ語借用の性質と時期について次のように要約している.

Pfeffer and Cannon provide a broad analysis of their data into subject areas; those with the highest numbers of items are (in descending order) mineralogy, chemistry, biology, geology, botany; only after these do we find two areas not belonging to the natural sciences: politics and music. The remaining areas that have more than a hundred items each (including semantic borrowings) are medicine, biochemistry, philosophy, psychology, the military, zoology, food, physics, and linguistics. Nearly all of these semantic areas reflect the importance of German as a language of culture and knowledge, especially in the latter part of the nineteenth century and early twentieth century.


 英語はゲルマン系 (Germanic) の言語であり,ドイツ語 (German) と「系統」関係にあるとは言えるが,上に見たように両言語は歴史的に(近現代に至ってすら)接触の機会が意外と乏しかったために,「影響」関係は僅少である.たまに「英語はドイツ語の影響を受けている」と言う人がいるが,これは系統関係と影響関係を取り違えているか,あるいは Germanic と German を同一視しているか,いずれにせよ誤解に基づいている.この誤解については「#369. 言語における系統影響」 ([2010-05-01-1]),「#1136. 異なる言語の間で類似した語がある場合」 ([2012-06-06-1]),「#1930. 系統と影響を考慮に入れた西インドヨーロッパ語族の関係図」 ([2014-08-09-1]) を参照.

 ・ 安井 稔・久保田 正人 『知っておきたい英語の歴史』 開拓社,2014年.
 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2016-06-24 Fri

#2615. 英語語彙の世界性 [lexicology][loan_word][borrowing][statistics][link]

 英語語彙は世界的 (cosmopolitan) である.350以上の言語から語彙を借用してきた歴史をもち,現在もなお借用し続けている.英語語彙の世界性とその歴史について,以下に本ブログ (http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/) 上の関連する記事にリンクを張った.英語語彙史に関連するリンク集としてどうぞ.

1  数でみる英語語彙
  1.1  語彙の規模の大きさ (#45)
  1.2  語彙の種類の豊富さ (##756,309,202,429,845,1202,110,201,384)
2  語彙借用とは?
  2.1  なぜ語彙を借用するのか? (##46,1794)
  2.2  借用の5W1H:いつ,どこで,何を,誰から,どのように,なぜ借りたのか? (#37)
3  英語の語彙借用の歴史 (#1526)
  3.1  大陸時代 (--449)
    3.1.1  ラテン語 (#1437)
  3.2  古英語期 (449--1100)
    3.2.1  ケルト語 (##1216,2443)
    3.2.2  ラテン語 (#32)
    3.2.3  古ノルド語 (##340,818)
  3.3  中英語期 (1100--1500)
    3.3.1  フランス語 (##117,1210)
    3.3.2  ラテン語 (#120)
  3.4  初期近代英語期 (1500--1700)
    3.4.1  ラテン語 (##114,478)
    3.4.2  ギリシア語 (#516)
    3.4.3  ロマンス諸語 (#2385)
  3.5  後期近代英語期 (1700--1900) と現代英語期 (1900--)
    3.5.1  世界の諸言語 (##874,2165)
4  現代の英語語彙にみられる歴史の遺産
  4.1  フランス語とラテン語からの借用語 (#2162)
  4.2  動物と肉を表わす単語 (##331,754)
  4.3  語彙の3層構造 (##334,1296,,335)
  4.4  日英語の語彙の共通点 (##1526,296,1630,1067)
5  現在そして未来の英語語彙
  5.1  借用以外の新語の源泉 (##873,875)
  5.2  語彙は時代を映し出す (##625,631,876,889)


[ 参考文献 ]

 ・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2016-06-07 Tue

#2598. 古ノルド語の影響力と伝播を探る研究において留意すべき中英語コーパスの抱える問題点 [old_norse][loan_word][me_dialect][representativeness][geography][lexical_diffusion][lexicology][methodology][laeme][corpus]

 「#1917. numb」 ([2014-07-27-1]) の記事で,中英語における本来語 nimen と古ノルド語借用語 taken の競合について調査した Rynell の研究に触れた.一般に古ノルド語借用語が中英語期中いかにして英語諸方言に浸透していったかを論じる際には,時期の観点と地域方言の観点から考慮される.当然のことながら,言語項の浸透にはある程度の時間がかかるので,初期よりも後期のほうが浸透の度合いは顕著となるだろう.また,古ノルド語の影響は the Danelaw と呼ばれるイングランド北部・東部において最も強烈であり,イングランド南部・西部へは,その衝撃がいくぶん弱まりながら伝播していったと考えるのが自然である.
 このように古ノルド語の言語的影響の強さについては,時期と地域方言の間に密接な相互関係があり,その分布は明確であるとされる.実際に「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) や「#1937. 連結形 -son による父称は古ノルド語由来」 ([2014-08-16-1]) に示した語の分布図は,きわめて明確な分布を示す.古英語本来語と古ノルド語借用語が競合するケースでは,一般に上記の分布が確認されることが多いようだ.Rynell (359) 曰く,"The Scn words so far dealt with have this in common that they prevail in the East Midlands, the North, and the North West Midlands, or in one or two of these districts, while their native synonyms hold the field in the South West Midlands and the South."
 しかし,事情は一見するほど単純ではないことにも留意する必要がある.Rynell (359--60) は上の文に続けて,次のように但し書きを付け加えている.

This is obviously not tantamount to saying that the native words are wanting in the former parts of the country and, inversely, that the Scn words are all absent from the latter. Instead, the native words are by no means infrequent in the East Midlands, the North, and the North West Midlands, or at least in parts of these districts, and not a few Scn loan-words turn up in the South West Midlands and the South, particularly near the East Midland border in Essex, once the southernmost country of the Danelaw. Moreover, some Scn words seem to have been more generally accepted down there at a surprisingly early stage, in some cases even at the expense of their native equivalents.


 加えて注意すべきは,現存する中英語テキストの分布が偏っている点である.言い方をかえれば,中英語コーパスが,時期と地域方言に関して代表性 (representativeness) を欠いているという問題だ.Rynell (358) によれば,

A survey of the entire material above collected, which suffers from the weakness that the texts from the North and the North (and Central) West Midlands are all comparatively late and those from the South West Midlands nearly all early, while the East Midland and Southern texts, particularly the former, represent various periods, shows that in a number of cases the Scn words do prevail in the East Midlands, the North, and the North (and sometimes Central) West Midlands and the South, exclusive of Chaucer's London . . . .


 古ノルド語の言語的影響は,中英語の早い時期に北部・東部方言で,遅い時期には南部・西部方言で観察される,ということは概論として述べることはできるものの,それが中英語コーパスの時期・方言の分布と見事に一致している事実を見逃してはならない.つまり,上記の概論的分布は,たまたま現存するテキストの時間・空間的な分布と平行しているために,ことによると不当に強調されているかもしれないのだ.見えやすいものがますます見えやすくなり,見えにくいものが隠れたままにされる構造的な問題が,ここにある.
 この問題は,古ノルド語の言語的影響にとどまらず,中英語期に北・東部から南・西部へ伝播した言語変化一般を観察する際にも関与する問題である (see 「#941. 中英語の言語変化はなぜ北から南へ伝播したのか」 ([2011-11-24-1]),「#1843. conservative radicalism」 ([2014-05-14-1])) .
 関連して,初期中英語コーパス A Linguistic Atlas of Early Middle English (LAEME) の代表性について「#1262. The LAEME Corpus の代表性 (1)」 ([2012-10-10-1]),「#1263. The LAEME Corpus の代表性 (2)」 ([2012-10-11-1]) も参照.

 ・ Rynell, Alarik. The Rivalry of Scandinavian and Native Synonyms in Middle English Especially taken and nimen. Lund: Håkan Ohlssons, 1948.

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2016-06-04 Sat

#2595. 英語の曜日名にみられるローマ名の「借用」の仕方 [latin][etymology][borrowing][loan_word][loan_translation][mythology][calendar]

 現代英語の曜日の名前は,よく知られているように,太陽系の主要な天体あるいは神話上それと結びつけられた神の名前を反映している.いずれも,ラテン単語の反映であり,ある意味で「借用」といってよいが,その借用の仕方に3つのパターンがみられる.
 Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday については,各々の複合語の第1要素として,ローマ神 Mars, Mercury, Jupiter, Venus に対応するゲルマン神の名前が与えられている.これは,ローマ神話の神々をゲルマン神話の神々で体系的に差し替えたという点で,"loan rendition" と呼ぶのがふさわしいだろう.(Wednesday については「#1261. Wednesday の発音,綴字,語源」 ([2012-10-09-1]) を参照.)
 一方,Sunday, Monday の第1要素については,それぞれ太陽と月という天体の名前をラテン語から英語へ翻訳したものと考えられる.差し替えというよりは,形態素レベルの翻訳 "loan translation" とみなしたいところだ.
 最後に Saturday の第1要素は,ローマ神話の Saturnus というラテン単語の形態をそのまま第1要素へ借用してきたので,第1要素のみに限定すれば,ここで生じたことは通常の借用 ("loan") である(複合語全体として考える場合には,第1要素が借用,第2要素が本来語なので "loanblend" の例となる;see 「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1])).
 英語の曜日名に,上記のように「借用」のいくつかのパターンがみられることについて,Durkin (106) が次のように紹介しているので,引用しておきたい.

The modern English names of six of the days of the week reflect Old English or (probably) earlier loan renditions of classical or post-classical Latin names; the seventh, Saturday, shows a borrowed first element. In the cases of Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday there is substitution of the names of roughly equivalent pagan Germanic deities for the Roman ones, with the names of Tiw, Woden, Thunder or Thor, and Frig substituted for Mars, Mercury, Jupiter, and Venus respectively; in the cases of Monday and Sunday the vernacular names of the celestial bodies Moon and Sun are substituted for the Latin ones. The first element of Saturday (found in Old English in the form types Sæternesdæġ, Sæterndæġ, Sætresdæġ, and Sæterdæġ) uniquely shows borrowing of the Latin name of the Roman deity, in this case Saturn.


 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2018-11-02-1]

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2016-05-18 Wed

#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語 [loan_word][latin][celtic][oe][borrowing][statistics]

 ブリテン島が紀元43年から410年までのあいだローマの支配化に置かれ,島内である程度ラテン語が話されていたという事実から,この時期に用いられていたラテン単語が,後に島内の主たる言語となる英語にも,相当数残っているはずではないかと想像されるかもしれない.当時のラテン単語の多くが,ケルト語話者が媒介となって,後に英語にも伝えられたのではないかと.しかし,実際にはそのような状況は起こらなかった.Baugh and Cable (77) によると,

It would be hardly too much to say that not five words outside of a few elements found in place-names can be really proved to owe their presence in English to the Roman occupation of Britain. It is probable that the use of Latin as a spoken language did not long survive the end of Roman rule in the island and that such vestiges as remained for a time were lost in the disorders that accompanied the Germanic invasions. There was thus no opportunity for direct contact between Latin and Old English in England, and such Latin words as could have found their way into English would have had to come in through Celtic transmission. The Celts, indeed, had adopted a considerable number of Latin words---more than 600 have been identified--- but the relations between the Celts and the English were such . . . that these words were not passed on.


 当時のケルト語には600語近くラテン単語が入っていたというのは,知らなかった.さて,古英語に入ったのはきっかり5語にすぎないといっているが,Baugh and Cable (77--78) が挙げているのは,ceaster (< L castra "camp"), port (< L portus, porta "harbor, gate, town"), munt (< L mōns, montem "mountain"), torr (L turris "tower, rock"), wīc (< L vīcus "village") である.これですら語源に異説のあるものもあり,ケルト語経由で古英語に入ったラテン借用語の確実な例とはならないかもしれない.その他,地名要素としての street, wall, wine などが加えられているが,いずれにせよそのようなルートで古英語に入ったラテン借用語一握りしかない.
 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1]),「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]),「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1]) などで触れたように,英語史においてラテン単語の借用の波と経路は何度かあったが,この Baugh and Cable の呼ぶところのラテン単語借用の第1期に関しては,見るべきものが特に少ないと言っていいだろう.Baugh and Cable (78) の結論を引こう.

At best . . . the Latin influence of the First Period remains much the slightest of all the influences that Old English owed to contact with Roman civilization.


 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2016-03-05 Sat

#2504. Simon Horobin の "A history of English . . . in five words" [link][hel_education][anglo-saxon][french][loan_word][lexicology][lexicography][johnson]

 2月23日付けで,オックスフォード大学の英語史学者 Simon Horobin による A history of English . . . in five words と題する記事がウェブ上にアップされた.英語に現われた年代順に English, beef, dictionary, tea, emoji という5単語を取り上げ,英語史的な観点からエッセー風にコメントしている.ハイパーリンクされた語句や引用のいずれも,英語にまつわる歴史や文化の知識を増やしてくれる良質の教材である.こういう記事を書きたいものだ.
 以下,5単語の各々について,本ブログ内の関連する記事にもリンクを張っておきたい.

1. English or Anglo-Saxon

 ・ 「#33. ジュート人の名誉のために」 ([2009-05-31-1])
 ・ 「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」 ([2010-05-21-1])
 ・ 「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1])
 ・ 「#1145. EnglishEngland の名称」 ([2012-06-15-1])
 ・ 「#1436. EnglishEngland の名称 (2)」 ([2013-04-02-1])
 ・ 「#2353. なぜアングロサクソン人はイングランドをかくも素早く征服し得たのか」 ([2015-10-06-1])
 ・ 「#2493. アングル人は押し入って,サクソン人は引き寄せられた?」 ([2016-02-23-1])

2. beef

 ・ 「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1])
 ・ 「#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話」 ([2010-03-25-1])
 ・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
 ・ 「#1603. 「動物とその肉を表す英単語」を最初に指摘した人」 ([2013-09-16-1])
 ・ 「#1604. 「動物とその肉を表す英単語」を次に指摘した人たち」 ([2013-09-17-1])
 ・ 「#1966. 段々おいしくなってきた英語の飲食物メニュー」 ([2014-09-14-1])
 ・ 「#1967. 料理に関するフランス借用語」 ([2014-09-15-1])
 ・ 「#2352. 「動物とその肉を表す英単語」の神話 (2)」 ([2015-10-05-1])

3. dictionary

 ・ 「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1])
 ・ 「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1])
 ・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])
 ・ 「#610. 脱難語辞書の18世紀」 ([2010-12-28-1])
 ・ 「#726. 現代でも使えるかもしれない教育的な Cawdrey の辞書」 ([2011-04-23-1])
 ・ 「#1420. Johnson's Dictionary の特徴と概要」 ([2013-03-17-1])
 ・ 「#1421. Johnson の言語観」 ([2013-03-18-1])
 ・ 「#1609. Cawdrey の辞書をデータベース化」 ([2013-09-22-1])

4. tea

 ・ 「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1])
 ・ 「#1966. 段々おいしくなってきた英語の飲食物メニュー」 ([2014-09-14-1])

5. emoji

 ・ 「#808. smileys or emoticons」 ([2011-07-14-1])
 ・ 「#1664. CMC (computer-mediated communication)」 ([2013-11-16-1])

 英語語彙全般については,「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]), 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]) をはじめとして,lexicologyloan_word などの記事を参照.

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2016-01-29 Fri

#2468. 「英語は語彙的にはもはや英語ではない」の評価 [lexicology][loan_word][borrowing][japanese][style][register]

 英語の語彙の大部分が諸言語からの借用語から成っていること,つまり世界的 (cosmopolitan) であることは,つとに指摘されてきた.そこから,英語は語彙的にはもはや英語とはいえない,と論じることも十分に可能であるように思われる.英語は,もはや借用語彙なしでは十分に機能しえないのではないか,と.
 しかし,Algeo and Pyles (293--94) は,英語における語彙借用の著しさを適切に例証したうえで,なお "English remains English" たることを独自に主張している.少々長いが,意味深い文章なのでそのまま引用する.

   Enough has been written to indicate the cosmopolitanism of the present English vocabulary. Yet English remains English in every essential respect: the words that all of us use over and over again, the grammatical structures in which we couch our observations upon practically everything under the sun remain as distinctively English as they were in the days of Alfred the Great. What has been acquired from other languages has not always been particularly worth gaining: no one could prove by any set of objective standards that army is a "better" word than dright or here., which it displaced, or that advice is any better than the similarly displaced rede, or that to contend is any better than to flite. Those who think that manual is a better, or more beautiful, or more intellectual word than English handbook are, of course, entitled to their opinion. But such esthetic preferences are purely matters of style and have nothing to do with the subtle patternings that make one language different from another. The words we choose are nonetheless of tremendous interest in themselves, and they throw a good deal of light upon our cultural history.
   But with all its manifold new words from other tongues, English could never have become anything but English. And as such it has sent out to the world, among many other things, some of the best books the world has ever known. It is not unlikely, in the light of writings by English speakers in earlier times, that this could have been so even if we had never taken any words from outside the word hoard that has come down to us from those times. It is true that what we have borrowed has brought greater wealth to our word stock, but the true Englishness of our mother tongue has in no way been lessened by such loans, as those who speak and write it lovingly will always keep in mind.
   It is highly unlikely that many readers will have noted that the preceding paragraph contains not a single word of foreign origin. It was perhaps not worth the slight effort involved to write it so; it does show, however, that English would not be quite so impoverished as some commentators suppose it would be without its many accretions from other languages.


 英語と同様に大量の借用語からなる日本語の語彙についても,ほぼ同じことが言えるのではないか.漢語やカタカナ語があふれていても,日本語はそれゆえに日本語性を減じているわけではなく,日本語であることは決してやめていないのだ,と.
 現在,日本では大和言葉がちょっとしたブームである.これは,1つには日本らしさを発見しようという昨今の潮流の言語的な現われといってよいだろう.ここには,消極的にいえば氾濫するカタカナ語への反発,積極的にいえばカタカナ語を鏡としての和語の再評価という意味合いも含まれているだろう.また,コミュニケーションの希薄化した現代社会において,人付き合いを円滑に進める潤滑油として和語からなる表現を評価する向きが広がってきているともいえる.いずれにせよ,日本語における語彙階層や語彙の文体的・位相的差違を省察する,またとない機会となっている.この機会をとらえ,日本語のみならず英語の語彙について改めて論じる契機ともしたいものである.
 関連して,以下の記事も参照されたい.

 ・ 「#153. Cosmopolitan Vocabulary は Asset か?」 ([2009-09-27-1])
 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1])
 ・ 「#390. Cosmopolitan Vocabulary は Asset か? (2)」 ([2010-05-22-1])
 ・ 「#2359. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由 (3)」 ([2015-10-12-1])

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.

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