hellog〜英語史ブログ

#4391. kamikazebikini --- 心がザワザワする語の意味変化[japanese][loan_word][semantic_change][khelf_hel_intro_2021][metaphor][false_friend]

2021-05-05

 昨日「英語史導入企画2021」にアップされた学部ゼミ生からのコンテンツ「お酒なのにkamikaze」は,すこぶるおもしろい話題であり,同時に心がざわつく話題でもあった.
 最近の「#4386. 「火鉢」と hibachi, 「先輩」と senpai」 ([2021-04-30-1]) でも話題となったように,近年でも日本語の単語が英語に借用される例は少なからずあり,しかもその語義が日本語のオリジナルの語義から変化してしまっているものも多い.今回取り上げられた kamikaze (神風)もその1つである.
 もちろん英単語としての kamikaze とて,日本語「神風」の原義を示しはする.13世紀末の元寇の折に日本を守ってくれた,かの「神風」の語義はしっかり保持しているし,太平洋戦争時の「神風特攻隊」の語義も保っている.しかし,上記コンテンツにも詳説されているように,比喩的に「危険を顧みずに突っ込んでいく人」という語義は日本語には認められない英語特有の語義だし,それお飲むことが自殺行為であるほどに度数が高いというメタファーに基づいたウォッカベースのカクテルを指す語として,日本語で一般に知られているともいえない.
 先の記事「#4386. 「火鉢」と hibachi, 「先輩」と senpai」 ([2021-04-30-1]) でも指摘したように,他言語に取り込まれた単語の意味が,独特の文脈で用いられるに及び大きく変容するということは日常茶飯であると述べた.いわゆる false_friend の例の創出である.いずれの言語にとってもお互い様の現象であり,非難しだしたらキリがないということも述べた.そうだとしても,やはり気になってしまうのが母語話者の性である.他言語に入って妙な意味変化を経ているとなれば,心穏やかならぬこともあろう.「神風」がメタファーとはいえカクテルの名称になっているというのは,やはり心がザワザワする.私としては,バー・カウンターで kamikaze を注文する気にはちょっとなれない.言語学者として語の意味変化を客観的に跡づける必要は認めつつも,その立場から一歩離れれば,おおいに心理的抵抗感がある.
 同じようなザワザワ感を,かつて別の単語について感じたことがあったと思い出した.水爆実験地として歴史的に知られる「ビキニ環礁」と女性用水着「ビキニ」の関係である.「#537. bikini」 ([2010-10-16-1]) で紹介した有力な語源説によると,bikini 「(女性用水着)ビキニ」の語義の発生は,1946年に同水着が初めてパリのショーで現われたときの衝撃と同年のビキニ環礁での水爆実験の衝撃とを引っかけたことに由来するという.ここでの語義変化のメカニズムは,言語学的にいえば kamikaze の場合と同様,広く緩くメタファーといってよいだろう.しかし,それとは別に,内心はまずもって悪趣味で不謹慎な語義転用との印象をぬぐえない.
 kamikazeninja, samurai, fujiyama などとは別次元の「文化語」として英語に取り込まれ、英語において独自の語義展開を示したということは,英語史上の語義変化の話題としては純正だろう.しかし,日本語母語話者として何とも心がザワザワする.

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