昨日の記事「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]) で触れたように,古英語期以前,とりわけ650年より前に入ってきた最初期のラテン借用語には,現在でも日常的に用いられているものが多い.「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) などで見てきたように,ラテン借用語にはレベルの高い単語が多いのは事実だが,古英語期以前の借用語に関していえば,そのステレオタイプは必ずしも事実を表わしていない.
Durkin (138--39) による興味深い数値がある.Durkin は,「#3400. 英語の中核語彙に借用語がどれだけ入り込んでいるか?」 ([2018-08-18-1]) でも示したとおり,"Leipzig-Jakarta list of basic vocabulary" と呼ばれる通言語的に最も基本的な意味を担う100語を現代英語から取り出し,そのなかにどれほど借用語が含まれているかを調査してみた.結果としては,ラテン借用語についていえば,そこには1語も含まれていなかった.
しかし,別途 "the WOLD survey" による1,460個の基本的な意味項目からなる日常語リストで調査してみると,137語ほど(およそ10%)が古英語期以前に借用されたラテン借用語と認定されるものだった.しかも,それらの単語は,24個設けられている意味のカテゴリーのうち,"Kinship", "Quantity", "Miscellaneous function words" を除く21個のカテゴリーにわたって見出されるという.つまり,英語史上,最初期に入ってきたラテン借用語は,広い分野にわたり日常的に用いられる英語の語彙の少なからぬ部分を構成しているというわけだ.古英語の形で具体例をいくつか挙げておこう.
・ butere "butter"
・ ele "oil"
・ cyċene "kitchen"
・ ċȳse, ċēse "cheese"
・ wīn "wine" (and its compounds)
・ sæterndæġ "Saturday"
・ mūl "mule"
・ ancor "anchor"
・ līn "line, continuous length"
・ mylen (and its compounds) "mill"
・ scōl, sċolu (and the compound leornungscōl) "school"
・ weall "wall"
・ pīpe "pipe, tube"
・ pīle "mortar"
・ disċ "plate/platter/bowel/dish"
・ candel "lamp, lantern, candle"
・ torr "tower"
・ prēost and sācerd "priest"
・ port "harbour"
・ munt "mountain or hill"
このようにラテン借用語のなかには意外と多く「基本語彙」もあることを銘記しておきたい.関連して,基本語彙の各記事も参照.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
英語史におけるラテン借用語といえば,古英語期のキリスト教用語,初期近代英語期のルネサンス絡みの語彙(あるいは「インク壺用語」 (inkhorn_term)),近現代の専門用語を中心とする新古典主義複合語などのイメージが強い.要するに「堅い語彙」というステレオタイプだ.本ブログでも,それぞれ以下の記事で取り上げてきた.
・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
・ 「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1])
・ 「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1])
・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
・ 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1])
・ 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])
・ 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])
・ 「#1615. インク壺語を統合する試み,2種」 ([2013-09-28-1])
・ 「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1])
・ 「#3438. なぜ初期近代英語のラテン借用語は増殖したのか?」 ([2018-09-25-1])
・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])
俯瞰的にいえば,このステレオタイプは決して間違いではないが,日常的で卑近ともいえるラテン借用語も存在するという事実を忘れてはならない.大雑把にいえば紀元650年辺りより前,つまり大陸時代から初期古英語期にかけて英語(あるいはゲルマン諸語)に入ってきたラテン単語の多くは,意外なことに,よそよそしい語彙ではなく,日々の生活になくてはならない語彙を構成しているのである.この事実は「ラテン語=威信と教養の言語」という等式の背後に隠されているので,よく確認しておくことが必要である.
650年というのはおよその年代だが,この前後の時代に入ってきたラテン借用語のタイプは異なっている.単純化していえば,それ以前は「親しみのある」日常語,それ以降は「お高い」宗教と学問の用語が入ってきた.Durkin (103) の要約文を引用しよう.
The context for most of the later borrowings is certain: they are nearly all words connected with the religious world or with learning, which were largely overlapping categories in the Anglo-Saxon world. Many of them are only very lightly assimilated into Old English, if at all. In fact it is debatable whether some of them should even be regarded as borrowed words, or instead as single-word switches to Latin in an Old English document, since it is not uncommon for words only ever to occur with their Latin case endings.
The earlier borrowings include many more words that are of reasonably common occurrence in Old English and later, for instance names of some common plants and foodstuffs, as well as some very basic words to do with the religious life.
では,具体的に前期・後期のラテン借用語とはどのような単語なのか.それについては今後の記事で紹介していく予定である.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
昨日の記事に続き,ローマン・ブリテンの言語状況について.Durkin (58) は,ローマ時代のガリアの言語状況と比較しながら,この問題を考察している.
One tantalizing comparison is with Roman Gaul. It is generally thought that under the Empire the linguistic situation was broadly similar in Gaul, with Latin the language of an urbanized elite and Gaulish remaining the language in general use in the population at large. Like Britain, Gaul was subject to Germanic invasions, and northern Gaul eventually took on a new name from its Frankish conquerors. However, France emerged as a Romance-speaking country, with a language that is Latin-derived in grammar and overwhelmingly also in lexis. One possible explanation for the very different outcomes in the two former provinces is that urban life may have remained in much better shape in Gaul than in Britain; Gaul had been Roman for longer than Britain, and urban life was probably much more developed and on a larger scale, and may have proved more resilient when facing economic and political vicissitudes. In Gaul the Franks probably took over at least some functioning urban centres where an existing Latin-speaking elite formed the basis for the future administration of the territory; this, combined with the importance and prestige of Latin as the language of the western Church, probably led ultimately to the emergence of a Romance-speaking nation. In Britain the existing population, whether speaking Latin or Celtic, probably held very little prestige in the eyes of the Anglo-Saxon incomers, and this may have been a key factor in determining that England became a Germanic-speaking territory: the Anglo-Saxons may simply not have had enough incentive to adopt the language(s) of these people.
つまり,ローマ帝国の影響が長続きしなかったブリテン島においては,ラテン語の存在感はさほど著しくなく,先住のケルト人も,後に渡来してきたゲルマン人も,大きな言語的影響を被ることはなかったし,ましてやラテン語へ言語交代 (language_shift) することもなかった.しかし,ガリアにおいては,ローマ帝国の影響が長続きし,ラテン語(そしてロマンス語)との言語接触も持続したために,最終的に基層のケルト語も後発のフランク語も,ラテン語に呑み込まれるようにして消滅していくことになった,というわけだ.
ブリテン島とガリアは,ケルト系言語の基層の上にラテン語がかぶさってきたという点では共通の歴史を有しているようにみえるが,ラテン語との接触の期間や密度という点では差があり,それが各々の地域における後世の言語事情にも重要なインパクトを与えたということだろう.この差は,部分的にはローマからの距離の差やラテン語に対して抱いていた威信の差へも還元できるものかもしれない.
この両地域の社会言語学的な状況の差は,回り回って英語とフランス語におけるケルト借用語の質・量の差にも影響を与えている.これについては,Durkin による「#3753. 英仏語におけるケルト借用語の比較・対照」 ([2019-08-06-1]) を参照されたい.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
Claudius 帝によるブリテンの征服が成った43年から,ローマが撤退する410年までのローマン・ブリテン時代には,言語状況はいかなるものだったのか.ケルト系言語とラテン語はどのくらい共存しており,どの程度のバイリンガル社会だったのか.これらの問題については正確なことが明らかにされておらず,およそ推測の域を出ないが,1つの見解として Durkin (57--58) の説明に耳を傾けてみよう
Unfortunately for our purposes, the linguistic situation is one of the things about which we know the least. During the period of Roman imperial domination, Latin was certainly the language of administration and of much of the elite; what is much less certain, and rather hotly disputed, is whether it was also the language of the 'man in the street', and if it was, whether it remained so in more troubled times before the arrival of the Anglo-Saxons. The assumption made by most scholars is that Latin had relatively little currency outside the urban areas; that (some form of) Celtic was the crucial lingua franca; while auxiliaries recruited from many locations both inside and outside the Roman Empire probably spoke their own native languages. There were certainly Germani among such auxiliaries. There were probably also slaves of Germanic origin in Britain and in the later stages of Roman Britain there were also certainly at least some mercenaries and other irregular forces of Germanic origin, and some settlements associated with such people. They may have been quite numerous, but it is unlikely that they had any significant impact on the subsequent linguistic history of Britain.
ラテン語はブリテン島に点在する都市部でこそ用いられていたが,それ以外では従来のケルト語の世界が広がっていたはずだというのが,大方の見解である.公的な領域においてはバイリンガル社会は存在したと思われるが,それほど著しいものではなかったろう.一方,ローマン・ブリテン時代の後期には,ゲルマン人もある程度の数でブリテン島に住まっていたことは確かなようであり,当時の言語状況はさらに複雑だったと思われる.
ローマン・ブリテン時代にさかのぼる地名の話題については「#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布」 ([2018-09-27-1]),「#3454. なぜイングランドにラテン語の地名があまり残らなかったのか?」 ([2018-10-11-1]) を参照.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
英語(およびゲルマン諸語)が大陸時代にラテン語から借用したとされる単語がいくつかあることは,「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]),「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1]) などで紹介してきた.ローマ時代後期の借用語とされる pound, kettle, cheap; street, wine, pit, copper, pin, tile, post (wooden shaft), cup (Durkin 55) などの例が挙げられるが,そのうち pound, kettle, cheap について Durkin (72--75) に詳しい解説があるので,それを要約したい.
古英語 pund は,Old Frisian pund, Old High German phunt, Old Icelandic pund, Old Swedish pund, Gothic pund などと広くゲルマン諸語に文証される.しかし諸言語に共有されているというだけでは,早期の借用であることの確証にはならない.ここでのポイントは,これらの諸言語に意味変化が共有されていることだ.つまり,いずれも重さの単位としての「ポンド」の意味を共有している.これはラテン語の lībra pondō (a pound by weight) という句に由来し,句の意味は保存しつつ,形態的には第2要素のみを取ったことによるだろう.交易において正確な重量測定が重要であることを物語る早期借用といえる.
次に古英語 ċ(i)etel もゲルマン諸語に同根語が確認される (ex. Old Saxon ketel, Old High German kezzil, Old Icelandic ketill, Gothic katils) .古英語形は子音が口蓋化を,母音が i-mutation を示していることから,早期の借用とみてよい.ラテン語 catīnus は「食器」を意味したが,ゲルマン諸語ではそこから発達した「やかん」の意味が共有されていることも,早期の借用を示唆する.ただし,現代英語の kettle という形態は,ċ(i)etel からは直接導くことができない.後の時代に,語頭子音に k をもつ古ノルド語の同根語からの影響があったのだろう.
ラテン語 caupō (small tradesman, innkeeper) に由来するとされる古英語 ċēap (purchase or sale, bargain, business, transaction, market, possessions, livestock) とその関連語も,しばしば大陸時代の借用とみられている.現代の形容詞 cheap は "good cheap" (good bargain) という句の短縮形が起源とされる.ゲルマン諸語の同根語は,Old Frisian kāp, Middle Dutch coop, Old Saxon kōp, Old High German chouf, Old Icelandic kaup など.動詞化した ċēapian (to buy and sell, to make a bargain, to trade) や ċȳpan (to sell) もゲルマン諸語に同根語がある.ほかに ċȳpa, ċēap (merchant, trader) を始めとして,ċēapung, ċȳping (trade, buying and selling, market, market place) や ċȳpman, ċȳpeman (merchant, trader) などの派生語・複合語も多数みつかる.この語については「#1460. cheap の語源」 ([2013-04-26-1]) も参照.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
今週末,9月7日(土)の15:15?18:30に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・3 ローマ帝国の植民地」と題する講演を行ないます.講座「英語の歴史と語源」の第3回となりますが,過去2回と同様,皆さんとの活気ある議論を楽しみにしています.ご関心のある方は,こちらよりお申し込みください.今回の趣旨は以下の通りです.
紀元前後,ブリテン島の大半はローマ帝国の版図に組み込まれました.この時代にはブリテン島はいまだケルトの島であり,英語が話される土地ではありませんでした.しかし,ローマ帝国から文明の言語としてもたらされたラテン語は,ケルト語を経由して,後にやってくる英語にも影響を与えたほか,当時大陸にいたアングロサクソン人にも直接,語彙的な影響を及ぼしました.英語にみられるラテン語単語の遺産を覗いてみましょう.
英語のラテン語との関係は,ヨーロッパ諸言語の例に洩れず,英語が英語となる前の紀元前から続く「腐れ縁」です.両言語は同じ印欧語族の親戚筋であるとはいえ,ゲルマン語派とイタリック語派という異なる派閥に属するために,血のつながりは決して濃くはありません.しかし,いってみれば知人としてあまりに長い間付き合ってきたために,英語はラテン語なしでは自らを表現できないほどまでにラテン語を自らの一部として取り込むに至りました.
したがってラテン語の影響は英語史を通じて続いていくわけですが,今回はブリテン島がローマ帝国の植民地となった前後の時代,つまり英語史上,最初にラテン語のインパクトが確認される時代(英語そのものはブリテン島ではなくいまだ大陸で用いられた時代ではありますが)に焦点を当て,英語とラテン語の「馴れ初め」を紹介します.その上で「馴れ初め」後の関係の展開についても述べる予定です.
今回の講演と関連して「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]),「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1]),「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1]),「#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布」 ([2018-09-27-1]),「#3454. なぜイングランドにラテン語の地名があまり残らなかったのか?」 ([2018-10-11-1]) などの記事をご覧ください.
昨日の記事「#3763. 形容詞接尾辞 -ate の起源と発達」 ([2019-08-16-1]) に引き続き,接尾辞 -ate の話題.動詞接尾辞の -ate については「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) で取り上げたが,今回はその起源と発達について,OED -ate, suffix1 を参照しながら,もう少し詳細に考えてみよう.
昨日も述べたように,-ate はラテン語の第1活用動詞の過去分詞接辞 -ātus, -ātum, -āta に遡るから,本来は動詞の語尾というよりは(過去分詞)形容詞の語尾というべきものである.動詞接尾辞 -ate の起源を巡る議論で前提とされているのは,-ate 語に関して形容詞から動詞への品詞転換 (conversion) が起こったということである.形容詞から動詞への品詞転換は多くの言語で認められ,実際に古英語から現代英語にかけても枚挙にいとまがない.たとえば,古英語では hwít から hwítian, wearm から wearmian, bysig から bysgian, drýge から drýgan が作られ,それぞれ後者の動詞形は近代英語期にかけて屈折語尾を失い,前者と形態的に融合したという経緯がある.
ラテン語でも同様に,形容詞から動詞への品詞転換は日常茶飯だった.たとえば,siccus から siccāre, clārus から clārāre, līber から līberāre, sacer から sacrāre などが作られた.さらにフランス語でも然りで,sec から sècher, clair から clairer, content から contenter, confus から confuser などが形成された.英語はラテン語やフランス語からこれらの語を借用したが,その形容詞形と動詞形がやはり屈折語尾の衰退により15世紀までに融合した.
こうした流れのなかで,16世紀にはラテン語の過去分詞形容詞をそのまま動詞として用いるタイプの品詞転換が一般的にみられるようになった.direct, separate, aggravate などの例があがる.英語内部でこのような例が増えてくると,ラテン語の -ātus が,歴史的には過去分詞に対応していたはずだが,共時的にはしばしば英語の動詞の原形にひもづけられるようになった.つまり,過去分詞形容詞的な機能の介在なしに,-ate が直接に動詞の原形と結びつけられるようになったのである.
この結び付きが強まると,ラテン語(やフランス語)の動詞語幹を借りてきて,それに -ate をつけさえすれば,英語側で新しい動詞を簡単に導入できるという,1種の語形成上の便法が発達した.こうして16世紀中には fascinate, concatenate, asseverate, venerate を含め数百の -ate 動詞が生み出された.
いったんこの便法が確立してしまえば,実際にラテン語(やフランス語)に存在したかどうかは問わず,「ラテン語(やフランス語)的な要素」であれば,それをもってきて -ate を付けることにより,いともたやすく新しい動詞を形成できるようになったわけだ.これにより nobilitate, felicitate, capacitate, differentiate, substantiate, vaccinate など多数の -ate 動詞が近現代期に生み出された.
全体として -ate の発達は,語形成とその成果としての -ate 動詞群との間の,絶え間なき類推作用と規則拡張の歴史とみることができる.
英語で典型的な動詞語尾の1つと考えられている -ate 接尾辞は,実はいくつかの形容詞にもみられる.aspirate, desolate, moderate, prostrate, sedate, separate は動詞としての用法もあるが,形容詞でもある.一方 innate, oblate, ornate, temperate などは常に形容詞である.形容詞接尾辞としての -ate の起源と発達をたどってみよう.
この接尾辞はラテン語の第1活用動詞の過去分詞接辞 -ātus, -ātum, -āta に遡る.フランス語はこれらの末尾にみえる屈折接辞 -us, -um, -a を脱落させたが,英語もラテン語を取り込む際にこの脱落の慣習を含めてフランス語のやり方を真似た.結果として,英語は1400年くらいから,ラテン語 -atus などを -at (のちに先行する母音が長いことを示すために e を添えて -ate) として取り込む習慣を獲得していった.
上記のように -ate の起源は動詞の過去分詞であるから,英語でも文字通りの動詞の過去分詞のほか,形容詞としても機能していたことは無理なく理解できるだろう.しかし,後に -ate が動詞の原形と分析されるに及んで,本来的な過去分詞の役割は,多く新たに規則的に作られた -ated という形態に取って代わられ,過去分詞(形容詞)としての -ate の多くは廃用となってしまった.しかし,形容詞として周辺的に残ったものもあった.冒頭に挙げた -ate 形容詞は,そのような経緯で「生き残った」ものである.
以上の流れを解説した箇所を,OED の -ate, suffix2 より引こう.
Forming participial adjectives from Latin past participles in -ātus, -āta, -ātum, being only a special instance of the adoption of Latin past participles by dropping the inflectional endings, e.g. content-us, convict-us, direct-us, remiss-us, or with phonetic final -e, e.g. complēt-us, finīt-us, revolūt-us, spars-us. The analogy for this was set by the survival of some Latin past participles in Old French, as confus:--confūsus, content:--contentus, divers:--diversus. This analogy was widely followed in later French, in introducing new words from Latin; and both classes of French words, i.e. the popular survivals and the later accessions, being adopted in English, provided English in its turn with analogies for adapting similar words directly from Latin, by dropping the termination. This began about 1400, and as in -ate suffix1 (with which this suffix is phonetically identical), Latin -ātus gave -at, subsequently -ate, e.g. desolātus, desolat, desolate, separātus, separat, separate. Many of these participial adjectives soon gave rise to causative verbs, identical with them in form (see -ate suffix3), to which, for some time, they did duty as past participles, as 'the land was desolat(e by war;' but, at length, regular past participles were formed with the native suffix -ed, upon the general use of which these earlier participial adjectives generally lost their participial force, and either became obsolete or remained as simple adjectives, as in 'the desolate land,' 'a compact mass.' (But cf. situate adj. = situated adj.) So aspirate, moderate, prostrate, separate; and (where a verb has not been formed), innate, oblate, ornate, sedate, temperate, etc. As the French representation of Latin -atus is -é, English words in -ate have also been formed directly after French words in --é, e.g. affectionné, affectionate.
つまり,-ate 接尾辞は,起源からみればむしろ形容詞にふさわしい接尾辞というべきであり,動詞にふさわしい接尾辞へと変化したのは,中英語期以降の新機軸ということになる.なぜ -ate が典型的な動詞接尾辞となったのかという問題を巡っては,複雑な歴史的事情がある.これについては「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) を参照(また,明日の記事でも扱う予定).
接尾辞 -ate については,強勢位置や発音などの観点から「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]),「#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-30-1]),「#3686. -ate 語尾,-ment 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-31-1]),「#1383. ラテン単語を英語化する形態規則」 ([2013-02-08-1]) をはじめ,-ate の記事で取り上げてきたので,そちらも参照されたい.
中世前期のヨーロッパにおける俗語書記文化の発達は,周縁部から順に始まったようにみえる.ラテン語ではなく俗語 (vernacular) で書かれた文学が現われるのは,フランス語では1098年頃の『ローランの歌』,ドイツ語では13世紀の『ニーベルンゲンの歌』というタイミングだが,英語ではずっと早く700年頃とされる『ベオウルフ』が最初である.
地理的にさらに周縁に位置するアイルランド語については,現存する最古の文書は1106年頃の『ナ・ヌイドレ書』や1160年頃の『ラグネッヘ書』とされるが,その起源は6世紀にまでさかのぼるという.6世紀のダラーン・フォルギルによる「コルムキル(聖コルンバ)頌歌」が最もよく知られている.同じくウェールズ語についても現存する最古の文書は13世紀以降だが,「アネイリン」「タリエシン」などの詩歌の起源は6世紀にさかのぼるらしい.周縁部において俗語書記文化の発達がこれほど早かったのはなぜだろうか.原 (213) が次のように解説している.
この答えはまさにその文化的周縁性にあるといっていいだろう.フランスの社会言語学者バッジオーニの提唱していることだが,ローマ帝国の周縁部(リメース)とその隣接地帯,すなわちブリタニア諸島,ドイツ北東部,スカンジナビア,ボヘミアなどでは,ラテン語は教養人にとっても外国語でしかなく,その使われ方も古風なままであった.権威ある言語が自由に日常的に用いられないというなかで,地元のことばをそれに代用するという考え方が生まれ,ラテン語に似せた書きことばでの使用がはじまったというわけである.
したがって,ヨーロッパでは,ローマ帝国の周縁部,その内外で最初に,日常的に用いられる俗語による書きことばが誕生した.こうした俗語が現代の国語・民族語のはっきりとした外部であるヒベルニアでは,六世紀には詩歌ばかりでなく,年代記や法的文書までゲール語で書かれるようになった.カムリー語の法的文書は一〇世紀,聖人伝はラテン語からの翻訳で一一世紀末になって登場するので,ゲール語と比べるとその使用度は低い.ワリアが一部はローマ帝国領内だったということも関係しているだろう.
周縁部ではラテン語の権威が適度に弱かったという点が重要である.ラテン語と距離を置く姿勢が俗語の使用を促したのである.別の観点からみれば,周縁部の社会は,ラテン語から刺激こそ受けたが,ラテン語をそのまま使用するほどにはラテン語かぶれしなかったし,母語との言語差もあって語学上のハンディを感じていたということではないか.
そして,そのような語学上の困難を少しでも楽に乗り越えるために,学習の種々のテクニックがよく発達したのも周縁部の特徴である.「#1903. 分かち書きの歴史」 ([2014-07-13-1]) の記事で,分かち書きは「外国語学習者がその言語の読み書きを容易にするために編み出した語学学習のテクニックに由来する」と述べたが,この書記上の革新をもたらしたのは,ほかならぬイギリス諸島という周縁に住む修道僧たちだったのである.
・ 原 聖 『ケルトの水脈』 講談社,2007年.
英語のボキャビルのために「グリムの法則」 (grimms_law) を学んでおくことが役に立つということを,「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」などで論じてきたが,それと関連して時折質問される事項について解説しておきたい.印欧祖語の帯気有声閉鎖音は,英語とラテン語・フランス語では各々どのような音へ発展したかという問題である.
印欧祖語の帯気有声閉鎖音 *bh, *dh, *gh, *gwh は,ゲルマン語派に属する英語においては,「グリムの法則」の効果により,各々原則として b, d, g, g/w に対応する.
一方,イタリック語派に属するラテン語は,問題の帯気有声閉鎖音は,各々 f, f, h, f に対応する(cf. 「#1147. 印欧諸語の音韻対応表」 ([2012-06-17-1])).一見すると妙な対応だが,要するにイタリック語派では原則として帯気有声閉鎖音は調音点にかかわらず f に近い子音へと収斂してしまったと考えればよい.
実はイタリック語派のなかでもラテン語は,共時的にややイレギュラーな対応を示す.語頭以外の位置では上の対応を示さず,むしろ「グリムの法則」の音変化をくぐったような *bh > b, *dh > d, *gh > g を示すのである.ちなみにギリシア語派のギリシア語では,各々無声化した ph, th, kh となることに注意.
結果として,印欧祖語,ギリシア語,(ゲルマン祖語),英語における帯気有声閉鎖音3音の音対応は次のようになる(寺澤,p. 1660--61).
IE | Gk | L | Gmc | E |
---|---|---|---|---|
bh | phāgós | fāgus | ƀ, b | book |
dh | thúrā | forēs (pl.) | ð, d | door |
gh | khḗn | anser (< *hanser) | ʒ, g | goose |
The characteristic look of the Italic languages is due partly to the widespread presence of the voiceless fricative f, which developed from the voiced aspirate[ stops]. Broadly speaking, f is the outcome of all the voiced aspirated except in Latin; there, f is just the word-initial outcome, and several other reflexes are found word-internally. (248)
The main hallmark of Latin consonantism that sets it apart from its sister Italic languages, including the closely related Faliscan, is the outcome of the PIE voiced aspirated in word-internal position. In the other Italic dialects, these simply show up written as f. In Latin, that is the usually outcome word-initially, but word-internally the outcome is typically a voiced stop, as in nebula 'cloud' < *nebh-oleh2, medius 'middle' < *medh(i)i̯o-, angustus 'narrow' < *anĝhos, and ninguit < *sni-n-gwh-eti)
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.
古代より世界各地で,星と星を想像力豊かに結んだ「星座」 (constellation) が作り出されてきた.近代の科学的かつ国際的な時代になると,特に19世紀初めにかけて様々な新星座が新設され,20世紀にはそれを整理する必要が生じた.第1次世界大戦後,1920年に国際天文学連合が結成され,1922年に88の星座を設ける原案が作成された.その内訳は,黄道12,北天28,南天48の星座である.1939年の総会で,星座の学名はラテン語とし,ある星座に属する特定の星を指し示すのには星座名の属格を用いることが決定された(あわせて3文字の略語も策定された).こうして現在にまで続く「星座の科学的区画法」が確定した.
たいていの参考図書では,88星座はあいうえお順かアルファベット順で並べられているのだが,意味をもたせるために,以下『星と星座』と『理科年表 平成28年』を参照しつつ,春の星座,夏の星座,秋の星座,冬の星座,そして(日本から見えない)南半球の星座の順に整理しなおした.ラテン名の下線部を括弧内の形態で置き換えると属格形になる(下線のないものは単純に括弧内の形態を語末に加える).参照用にどうぞ.
[春の星座] | 45 | みずがめ座 | Aquarius (i); Aqr | |||
1 | おおぐま座 | Ursa (e) Major (is); UMa | 46 | うお座 | Pisces (ium); Psc | |
2 | こぐま座 | Ursa (e) Minor (is); UMi | 47 | みなみのうお座 | Piscis Austrinus (i); PsA | |
3 | うしかい座 | Boötes (is); Boo | 48 | つる座 | Grus (is); Gru | |
4 | かんむり座 | Corona (e) Borealis; CrB | 49 | ちょうこくしつ座 | Sculptor (is); Scl | |
5 | りょうけん座 | Canes (um) Venatici (orum); CVn | 50 | けんびきょう座 | Microscopium (i); Mic | |
6 | おとめ座 | Virgo (inis); Vir | ||||
7 | てんびん座 | Libra (e); Lib | [冬の星座] | |||
8 | かみのけ座 | Coma (e) Berenices; Com | ||||
9 | しし座 | Leo (nis); Leo | 51 | オリオン座 | Orion (is); Ori | |
10 | かに座 | Cancer (ris); Cnc | 52 | おおいぬ座 | Canis Major (is); CMa | |
11 | こじし座 | Leo (nis) Minor (is); LMi | 53 | こいぬ座 | Canis Minor (is); CMi | |
12 | やまねこ座 | Lynx (is); Lyn | 54 | いっかくじゅう座 | Monoceros (tis); Mon | |
13 | からす座 | Corvus (i); Crv | 55 | ふたご座 | Gemini (orum); Gem | |
14 | うみへび座 | Hydra (e); Hya | 56 | ぎょしゃ座 | Auriga (e); Aur | |
15 | コップ座 | Crater (is); Crt | 57 | おうし座 | Taurus (i); Tau | |
16 | ろくぶんぎ座 | Sextans (tis); Sex | 58 | うさぎ座 | Lepus (oris); Lep | |
17 | ケンタウルス座 | Centaurus (i); Cen | 59 | はと座 | Columba (e); Col | |
18 | おおかみ座 | Lupus (i); Lup | 60 | エリダヌス座 | Eridanus (i); Eri | |
61 | ろ座 | Fornax (cis); For | ||||
[夏の星座] | 62 | ちょうこくぐ座 | Caelum; (i); Cae | |||
63 | とも座 | Puppis; Pup | ||||
19 | こと座 | Lyra (e); Lyr | 64 | らしんばん座 | Pyxis (dis); Pyx | |
20 | わし座 | Aquila (e); Aql | 65 | ポンプ座 | Antlia (e); Ant | |
21 | はくちょう座 | Cygnus (i); Cyg | ||||
22 | いるか座 | Delphinus (i); Del | [南半球の星座] | |||
23 | や座 | Sagitta (e); Sge | ||||
24 | こぎつね座 | Vulpecula (e); Vul | 66 | コンパス座 | Circinus (i); Cir | |
25 | りゅう座 | Draco (nis); Dra | 67 | さいだん座 | Ara (e); Ara | |
26 | ヘルクレス座 | Hercules (is); Her | 68 | じょうぎ座 | Norma (e); Nor | |
27 | へびつかい座 | Ophiuchus (i); Oph | 69 | ふうちょう座 | Apus (odis); Aps | |
28 | へび座 | Serpens (tis); Ser | 70 | ぼうえんきょう座 | Telescopium (i); Tel | |
29 | さそり座 | Scorpius (i); Sco | 71 | みなみのさんかく座 | Triangulum (i) Australe (is); TrA | |
30 | いて座 | Sagittarius (i); Sgr | 72 | インディアン座 | Indus (i); Ind | |
31 | たて座 | Scutum (i); Sct | 73 | きょしちょう座 | Tucana (e); Tuc | |
32 | みなみのかんむり座 | Corona (e) Australis; CrA | 74 | くじゃく座 | Pavo (nis); Pav | |
75 | はちぶんぎ座 | Octans (tis); Oct | ||||
[秋の星座] | 76 | ほうおう座 | Phoenix (cis); Phe | |||
77 | みずへび座 | Hydrus (i); Hyi | ||||
33 | カシオペヤ座 | Cassiopeia (e); Cas | 78 | カメレオン座 | Chamaeleon (tis); Cha | |
34 | ケフェウス座 | Cepheus (i); Cep | 79 | とびうお座 | Volans (tis); Vol | |
35 | とかげ座 | Lacerta (e); Lac | 80 | はえ座 | Musca (e); Mus | |
36 | ペガスス座 | Pegasus (i); Peg | 81 | ほ座 | Vela (orum); Vel | |
37 | こうま座 | Equuleus (i); Equ | 82 | みなみじゅうじ座 | Crux (is); Cru | |
38 | ペルセウス座 | Perseus (i); Per | 83 | りゅうこつ座 | Carina (e); Car | |
39 | アンドロメダ座 | Andromeda (e); And | 84 | がか座 | Pictor (is); Pic | |
40 | くじら座 | Cetus; Cet | 85 | かじき座 | Dorado (us); Dor | |
41 | おひつじ座 | Aries (tis); Ari | 86 | テーブルさん座 | Mensa (e); Men | |
42 | さんかく座 | Triangulum (i); Tri | 87 | とけい座 | Horologium (i); Hor | |
43 | きりん座 | Camelopardalis; (Cam) | 88 | レチクル座 | Reticulum (i); Ret | |
44 | やぎ座 | Capricornus (i); Cap |
6月14日に,『英語教育』(大修館書店)の7月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第4回目として拙論「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」が掲載されています.是非ご覧ください.
形容詞・副詞の比較表現については,本ブログでも (comparison) の各記事で扱ってきました.以下に,今回の連載記事にとりわけ関連の深いブログ記事のリンクを張っておきますので,あわせて読んでいただければ,-er と more に関する棲み分けの謎について理解が深まると思います.
・ 「#3617. -er/-est か more/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])
・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第4回 なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」『英語教育』2019年7月号,大修館書店,2019年6月14日.62--63頁.
昨日の記事「#3696. ボキャビルのための「最も役に立つ25の語のパーツ」」 ([2019-06-10-1]) で取り上げたなかでも最上位に挙げられている spec(t) という連結形 (combining_form) について,今回はさらに詳しくみてみよう.
この連結形は印欧語根 *spek- にさかのぼる.『英語語源辞典』の巻末にある「印欧語根表」より,この項を引用しよう.
spek- to observe. 《Gmc》[その他] espionage, spy. 《L》 aspect, auspice, conspicuous, despicable, despise, especial, expect, frontispiece, haruspex, inspect, perspective, prospect, respect, respite, species, specimen, specious, spectacle, speculate, suspect. 《Gk》 bishop, episcopal, horoscope, sceptic, scope, -scope, -scopy, telescope.
また,語源の取り扱いの詳しい The American Heritage Dictionary of the English Language の巻末には,"Indo-European Roots" なる小辞典が付随している.この小辞典から spek- の項目を再現すると,次のようになる.
spek- To observe. Oldest form *spek̂-, becoming *spek- in centum languages.
▲ Derivatives include espionage, spectrum, despise, suspect, despicable, bishop, and telescope.
I. Basic form *spek-. 1a. ESPY, SPY, from Old French espier, to watch; b. ESPIONAGE, from Old Italian spione, spy, from Germanic derivative *speh-ōn-, watcher. Both a and b from Germanic *spehōn. 2. Suffixed form *spek-yo-, SPECIMEN, SPECTACLE, SPECTRUM, SPECULATE, SPECULUM, SPICE; ASPECT, CIRCUMSPECT, CONSPICUOUS, DESPISE, EXPECT, FRONTISPIECE, INSPECT, INTROSPECT, PERSPECTIVE, PERSPICACIOUS, PROSPECT, RESPECT, RESPITE, RETROSPECT, SPIEGELEISEN, SUSPECT, TRANSPICUOUS, from Latin specere, to look at. 3. SPECIES, SPECIOUS; ESPECIAL, from Latin speciēs, a seeing, sight, form. 4. Suffixed form *spek-s, "he who sees," in Latin compounds. a. Latin haruspex . . . ; b. Latin auspex . . . . 5. Suffixed form *spek-ā-. DESPICABLE, from Latin (denominative) dēspicārī, to despise, look down on (dē-), down . . .). 6. Suffixed metathetical form *skep-yo-. SKEPTIC, from Greek skeptesthai, to examine, consider.
II. Extended o-grade form *spoko-. SCOPE, -SCOPE, -SCOPY; BISHOP, EPISCOPAL, HOROSCOPE, TELESCOPE, from metathesized Greek skopos, on who watches, also object of attention, goal, and its denominative skopein (< *skop-eyo-), to see. . . .
2つの辞典を紹介したが,語源を活用した(超)上級者向け英語ボキャビルのためのレファレンスとしてどうぞ.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ The American Heritage Dictionary of the English Language. 4th ed. Boston: Houghton Mifflin, 2006.
中田(著)『英単語学習の科学』に,先行研究に基づいた「最も役に立つ25の語のパーツ」が提示されている (76--77) .これは,3000?1万語レベルの英単語を分析した結果,とりわけ多くの語に含まれるパーツを取り出したものである.パーツのほとんどが,ラテン語やギリシア語の接頭字 (prefix) や連結形 (combining_form) である.
語のパーツとその意味 | 具体例 |
spec(t) = 見る | spectacle(見せ物),spectator(観客),inspect(検査する),perspective(視点),retrospect(回顧) |
posit, pos = 置く | impose(負わせる,課す),opposite(反対の),dispose(配置する,処分する),compose(校正する,作る),expose(さらす) |
vers, vert = 回す | versus(対),adverse(反対の,不利な),diverse(多様な),divert(転換する),extrovert(外交的な) |
ven(t) = 来る | convention(大会,しきたり,慣習),prevent(妨げる,予防する),avenue(通り),revenue(歳入),venue(場所) |
ceive/ceipt, cept = とる(こと) | accept(受け入れる,容認する),exception(例外),concept(概念),perceive(知覚する),receipt(レシート,受け取ること) |
super- = 越えて | superb(すばらしい),supervise(感得する),superior(上級の),superintendent(監督者),supernatural(超自然の,神秘的な) |
nam, nom, nym = 名前 | surname(苗字),nominate(指名する),denomination(命名,単位),anonymous(匿名の),synonym(同義語) |
sens, sent = 感じる | sensible(分別のある),sensitive(敏感な),sensor(センサー),sensation(感覚),consent(同意,同意する) |
sta(n), stat = 立つ | stable(安定した),status(地位),distant(離れた),circumstance(状況),obstacle(障害) |
mis, mit = 送る | permit(許可する),transmit(送る),submit(提出する),emit(放射する),missile(ミサイル) |
med(i), mid(i) = 真ん中 | intermediate(中級の),Mediterranean(地中海),mediocre(並みの),mediate(仲裁する),middle(中央,中間の) |
pre, pris = つかむ | prison(刑務所),enterprise(事業),comprise(構成する),apprehend(捕らえる,理解する),predatory(捕食性の,食い物にする) |
dictate, dict = 言う | dictate(書き取らせる,命じる),dedicate(捧げる),predict(予言する),contradict(否定する,矛盾する),verdict(評決) |
ces(s) = 行く | access(アクセス,接近),excess(超過),recess(休憩),ancestor(先祖),predecessor(前任者) |
form = 形 | formal(形式的な),transform(変形する),uniform(同形の,制服),format(形式),conform(一致する) |
tract = 引く | extract(抜粋,抜粋する),distract(気をそらす),abstract(要約,抽象的な),subtract(引く),tractor(トラクター,牽引車) |
graph = 書く | telegraph(電報),biography(伝記),autograph(サイン),graph(グラフ),geography(地理) |
gen = 生む | genuine(本物の),gene(遺伝子),genius(天才),indigenous(土着の,固有の),ingenuity(工夫) |
duce, duct = 導く | conduct(導く),produce(生み出す),reduce(減らす),induce(引き起こす,誘発する),seduce(誘惑する) |
voca, vok = 声 | advocate(主張する,唱道者),vocabulary(語彙),vocal(声の,ボーカル),invoke(祈る),equivocal(あいまいな) |
cis, cid = 切る | precise(正確な),excise(削除する),scissors(はさみ),suicide(自殺),pesticide(殺虫剤) |
pla = 平らな | plain(明白な,平原),plane(平面,平らな),plate(皿),plateau(高原,高原状態) |
sec, sequ = 後に続く | consequence(結果),sequence(連続),subsequent(その次の),consecutive(連続した),sequel(続編) |
for(t) = 強い | fortress(要塞),effort(努力),enforce(実施する,強いる),reinforce(強化する),forte(長所) |
vis = 見る | visible(目に見える),envisage(心に描く),revise(改訂する),visual(視覚の,映像),vision(視力,ビジョン) |
昨日の記事「#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-30-1]) に引き続き,-ate 語尾をもつ語の発音が,動詞では /eɪt/ となり名詞・形容詞では /ɪt/ となる件について.
Carney でもこの問題が各所で扱われており,特に p. 398 にこの現象を示す単語リストが挙げられている.以下に再現しておこう.網羅的ではないと思われるが,便利な一覧である.
aggregate, animate, appropriate, approximate, articulate, associate, certificate, co-ordinate, correlate, degenerate, delegate, deliberate, duplicate, elaborate, emasculate, estimate, expatriate, graduate, importunate, incorporate, initiate, intimate, moderate, postulate, precipitate, predicate, separate, subordinate, syndicate
Carney がこのリストを挙げているのは,品詞によって発音を替える類いの単語があるという議論においてである.他の種類としては,強勢音節を替える名前動後 (diatone) も挙げられているし,接尾辞 -ment をもつ語も話題にされている.名前動後という現象とその歴史的背景についてについては,すでに本ブログでも diatone の各記事で本格的に紹介してきたが,「品詞によって発音を替える」というポイントで -ate 語とつながってくるというのは,今回の発見だった.
-ment 語については,動詞であれば明確な母音で /-mɛnt/ となるが,名詞・形容詞であれば曖昧母音化した /-mənt/ となる.Carney (398) より該当する単語のリストを挙げておこう.complement, compliment, document, implement, increment, ornament, supplement.
・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
標記について質問が寄せられました.たとえば appropriate は動詞としては「私用に供する」,形容詞としては「適切な」ですが,各々の発音は /əˈproʊpriˌeɪt/, /əˈproʊpriˌɪt/ となります.語末音節の母音が,完全な /eɪt/ が縮減した /ɪt/ かで異なっています.これはなぜでしょうか.
動詞の /eɪt/ 発音は,綴字と照らし合わせればわかるように,大母音推移 (gvs) の効果が現われています.<-ate> という綴字で表わされる本来の発音 /-aːt(ə)/ が,初期近代英語期に生じた大母音推移により /eɪt/ へと変化したと説明できます.しかし,同綴字で名詞・形容詞の -ate 語では,そのような発音の変化は起こっていません.そこで生じた変化は,むしろ母音の弱化であり,/ɪt/ へと帰結しています.
この違いは,大母音推移以前の強勢音節のあり方の違いに起因します.一般的にいえば,appropriate のような長い音節の単語の場合,動詞においては後方の音節に第2強勢が置かれますが,形容詞・名詞においては置かれないという傾向があります.appropriate について具体的にいえば,動詞としては第4音節の -ate に(第2)強勢が置かれますが,名詞・形容詞としてはそれが置かれないということになります.
ここで思い出すべきは,大母音推移は「強勢のある長母音」において作用する音過程であるということです.つまり,-ate 語の動詞用法においては,(第2強勢ではありますが)強勢が置かれるので,この条件に合致して /-aːt(ə)/ → /eɪt/ が起こりましたが,名詞・形容詞用法においては,強勢が置かれないので大母音推移とは無関係の歴史を歩むことになりました.名詞・形容詞用法では,本来の /-aːt(ə)/ が,綴字としては <-ate> を保ちながらも,音としては強勢を失うとともに /-at/ へと短化し,さらに /-ət/ や /-ɪt/ へと曖昧母音化したのです.
このような経緯で,-ate 語は品詞によって発音を違える語となりました.いったんこの傾向が定まり,パターンができあがると,その後は実際の発音や強勢位置にかかわらず,とにかく確立したパターンが類推的に適用されるようになりました.こうして,-ate 語の発音ルールが確立したのです.
関連して,「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]),「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) もご参照ください.-age 語などに関しても,ほぼ同じ説明が当てはまると思います.中尾 (310, 313) も要参照.
・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.
アイルランドとアングロサクソンがみごとに融合した装飾写本の傑作『ケルズの書』 (The Book of Kells) が,オンライン化した.こちらより,写本の精密画像が閲覧できる.この情報は "The Medieval Masterpiece, the Book of Kells, Is Now Digitized & Put Online" という記事で知った.
『ケルズの書』は,insular half-uncial 書体のラテン語で書かれた4福音書である.680ページからなる大部のところどころに極めて緻密な装飾が施されており,至高の芸術的価値を誇る.7世紀後半から9世紀にかけて,おそらくアイオナ島のアイルランド修道院で,時間をかけて編纂され装飾されたものだろう.西洋中世の写本といえば,まずこの写本の名前が挙がるというほどのダントツの逸品である.Encyclopaedia Britannica によると,次のように解説がある.
Illuminated gospel book (MS. A.I. 6; Trinity College Library, Dublin) that is a masterpiece of the ornate Hiberno-Saxon style. It is probable that the illumination was begun in the late 8th century at the Irish monastery on the Scottish island of Iona and that after a Viking raid the book was taken to the monastery of Kells in County Meath, where it may have been completed in the early 9th century. A facsimile was published in 1974.
ダブリンに行かずとも,いながらにしてこの傑作を眺められるようになった.すごい時代になったなぁ・・・.
・ Encyclopaedia Britannica. Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite. Chicago: Encyclopaedia Britannica, 2008.
Mt. Fuji is the highest mountain in Japan. には,Mt. (= mount) と mountain という「山」を意味する2つの単語が現われる.固有名詞とともに現われる場合には mount (表記上はたいてい省略して Mt.)を用い,一般名詞としては mountain を用いる.
古英語で普通に「山」を意味する語は本来語の beorg (ドイツ語 Berg)だった.しかし,すでに古英語期から,ラテン語で「山」を意味する mōns, mont- が借用語 munt として入っており,用いられることはあった.さらに中英語期になると,同語源で古フランス語の語形 mont にも強められるかたちで通用されるようになった(MED の mount n.(1) を参照).現代英語では,一般名詞としては文語・古語としての響きを有し,上記のように Mt. として固有名詞の一部として用いられるのが普通である.
一方,mountain は13世紀後半に初出する.語源は先にもあげたラテン語 mōns, mont- の形容詞形ともいうべきもので,俗ラテン語の *montānea(m) (regiōnem) (= "mountainous region") から古フランス語形 montagne を経て,英語に mountain(e n. として入ってきたものである.現在までに最も普通の「山」を表わす一般名詞として発展してきた.(考えてみると,mountainous という形容詞は,語源的には形容詞の,そのまた形容詞ということになっておもしろい.)
実は Mt. という省略表記の使用の歴史について知りたいと思い,いくつかの歴史辞書でこれらの語を引いてみたのだが,ほとんど情報がない.別の資料にあたって調べてみる必要がありそうだ.ちなみに,関連するかもしれないと思って調べてみた Mr や Mrs などの表記については,およそ初期近代に遡るという(cf. 「#895. Miss は何の省略か?」 ([2011-10-09-1])).
ルネサンス期のラテン・ギリシア語熱に浮かされたかのような「インク壺語」 (inkhorn_term) について,本ブログでも様々に取り上げてきた(とりわけ「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]),「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1]),「#1409. 生き残ったインク壺語,消えたインク壺語」 ([2013-03-06-1]),「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1]),「#2479. 初期近代英語の語彙借用に対する反動としての言語純粋主義はどこまで本気だったか?」 ([2016-02-09-1]),「#3438. なぜ初期近代英語のラテン借用語は増殖したのか?」 ([2018-09-25-1]) を参照).
インク壺語は同時代からしばしば批判や風刺の対象とされてきたが,劇作家 Ben Jonson も,1601年に初上演された The Poetaster のなかでチクリと突いている.Crispinus という登場人物が催吐剤を与えられ,小難しい単語を「吐く」というくだりである.吐かれた順にリストしていくと,次のようになる (Johnson 192; †は現代英語で廃語) .
retrograde, reciprocall, incubus, †glibbery, †lubricall, defunct, †magnificate, spurious, †snotteries, chilblaind, clumsie, barmy, froth, puffy, inflate, †turgidous, ventosity, oblatrant, †obcaecate, furibund, fatuate, strenuous, conscious, prorumped, clutch, tropological, anagogical, loquacious, pinnosity, †obstupefact
OED では,pinnosity を除くすべての単語が見出し語として立てられている.しかし,このなかには Jonson の劇でしか使われていない1回きりの単語も含まれている.現代でも普通に通用するものもあるにはあるが,確かに立て続けに吐かれてはかなわない単語ばかりである.典型的なインク壺語のリストとして使えそうだ.
・ Johnson, Keith. The History of Early English: An Activity-Based Approach. Abingdon: Routledge, 2016.
英語の不規則複数形をとる名詞には,外来複数形と呼ばれる一群がある.主として近代英語以降にラテン語,ギリシア語,フランス語,イタリア語などから借用された学術・専門語で,原語における複数形を保っているものだ.現代にかけて,英語の規則的な語尾 -(e)s を取るようになったものも少なくないが,それらも含めて代表的な単語を,『徹底例解ロイヤル英文法』に依拠して以下に示そう.
特にラテン系 -us 名詞に見られる20世紀中の規則複数化の流れについては,Hotta の拙論を参照(関連して,「#121. octopus の複数形」 ([2009-08-26-1]),「#161. rhinoceros の複数形」 ([2009-10-05-1]) も).
1. ラテン語系の名詞
1.1 -us で終わる語
a) -us [əs] → -i [aɪ]
alumnus (男子卒業生) → alumni
bacillus (バチルス菌) → bacilli
esophagus (食堂) → esophagi
locus (軌跡) → loci, loca
stimulus (刺激) → stimuli
b) 規則複数語尾 -es をつけるもの
apparatus (装置) → apparatuses
bonus (ボーナス) → bonuses
campus (校庭) → campuses
caucus (幹部会議) → caucuses
chorus (コーラス) → choruses
circus (サーカス) → circuses
impetus (起動力) → impetuses
minus (負の数,マイナス符号) → minuses
prospectus (学校などの案内) → prospectuses
sinus (洞) → sinuses
status (地位) → statuses
c) -us → -i の変化と -es の両様のもの
cactus (サボテン) → cacti, cactuses
cirrus (巻雲) → cirri, cirruses
cumulus (積雲) → cumuli, cumuluses
focus (焦点) → foci, focuses
fungus (きのこなどの菌類) → fungi, funguses
genius (守護神;天才) → genii (守護神),geniuses (天才)
nimbus (乱雲) → nimbi, nimbuses
nucleus (原子核) → nuclei, nucleuses
radius (半径) → radii, radiuses
stratus (層雲) → strati, stratuses
syllabus (教授細目) → syllabi, syllabuses
terminus (末端,終着駅) → termini, terminuses
d) その他
corpus (集大成,言語資料) → corpora, corpuses
genus (属) → genera, genuses
1.2 -a で終わる語
a) -a [ə] → -ae [iː]
alga (藻) → algae
alumna (女子卒業生) → alumnae
larva (幼虫) → larvae
b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
area (地域) → areas
arena (闘技場) → arenas
dilemma (ジレンマ) → delemmas
diploma (学位免状) → diplomas [まれに diplomata もあり]
drama (ドラマ) → dramas
era (時代) → eras
c) -a → -ae と -s の両様のもの
antenna (触角;アンテナ) → antennae (触覚), antennas (アンテナ)
formula (公式) → formulae, formulas
nebula (星雲) → nebulae, nebulas
vertebra (脊椎) → vertebrae, vertebras
1.3 -um で終わる語
a) -um [əm] → -a [ə]
addendum (付録) → addenda
bacterium (バクテリア) → bacteria
corrigendum (ミスプリント) → corrigenda (正誤表)
datum (データ) → data
desideratum (切実な要求) → desiderata
erratum (誤植) → errata (正誤表)
ovum (卵子) → ova
b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
album (アルバム) → albums
chrysanthemum (菊) → chrysanthemums
forum (討論会) → forums [まれに fora もあり]
museum (博物館) → museums
premium (割り増し金) → premiums
stadium (スタジアム) → stadiums [まれに stadia もあり]
c) -um → -a と -s の両様のもの
aquarium (水族館) → aquaria, aquariums
curriculum (教育課程) → curricula, curriculums
maximum (最大限) → maxima, maximums
medium (媒介物) → media, mediums [media が単数形,medias が複数形という用法もあり]
memorandum (メモ) → memoranda, memorandums
millennium (千年間) → millennia, millenniums
minimum (最小限) → minima, minimums
moratorium (支払い猶予期間) → moratoria, moratoriums
podium (指揮台,葉柄) → podia, podiums
referendum (国民投票) → referenda, referendums
spectrum (スペクトル) → spectra, spectrums
stratum (地層) → strata, stratums
symposium (シンポジウム) → symposia, symposiums
ultimatum (最後通告) → ultimata, ultimatums
1.4 -ex, -ix で終わる語
a) -ex [ɛks], -ix [ɪks] → -ices [ɪsiːz]
codex (古写本) → codices
b) -ex, -ix → -ices と -es の両様のもの
apex (頂点) → apices, apexes
appendix (付録,虫垂) → appendices, appendixes [「虫垂」の意味の複数形は appendixes]
index (指標) → indices, indexes [「索引」の意味の複数形は indexes]
matrix (母体,行列) → matrices, matrixes
vortex (渦) → vortices, vortexes
2. ギリシャ語系の名詞の複数形
2.1 -is [ɪs] で終わる語
a) 語尾は -es [iːz] になる.
analysis (分析) → analyses
axis (軸) → axes [ax(e) 「斧」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
basis (理論的基礎) → bases [base 「基地」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
crisis (危機) → crises
diagnosis (診断) → diagnoses
ellipsis (省略) → ellipses [ellipse 「長円」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
hypothesis (仮説) → hypotheses
oasis (オアシス) → oases
paralysis (麻痺) → paralyses
parenthesis (丸かっこ) → parentheses
synopsis (概要) → synopses
synthesis (総合,合成) → syntheses
thesis (論文) → theses
b) 規則複数語尾 -es をつけるもの
metropolis (首都,大都会) → metropolises
2.2 -on で終わる語
a) -on [ən] → -a [ə]
criterion (判断の基準) → criteria
phenomenon (現象) → phenomena
b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
electron (電子) → electrons
neutron (中性子) → neutrons
proton (陽子) → protons
c) -on → -a と -s の両様のもの
automaton (自動装置,ロボット) → automata, automatons
ganglion (神経節) → ganglia, ganglions
3. フランス語系の名詞の複数形
3.1 -eau, -eu → -eaux, -eux
adieu [əˈdjuː] (別れ) → adieux [əˈdjuːz] または adieus
bureau [ˈbjʊəroʊ] (事務局) → bureaux [ˈbjʊəroʊz] または bureaus
plateau [ˈplætou] (高原) → plateaux [ˈplætoʊz] または plateaus
tableau [ˈtæbloʊ] (絵) → tableaux [ˈtæbloʊz] または tableaus
3.2 単複同 (ただし複数のときのみ -s [z] を発音する)
corps (団) → corps
chassis [ˈʃæsi(ː)] (自動車の車台,シャシー) → chassis
faux pas [foʊ pɑː] (エチケットに反する失敗) → faux pas
rendezvous [ˈrɑːndəˌvuː] (約束による会合) → rendezvous
4. イタリア語系の名詞の複数形
4.1 -o → -i
libretto (脚本) → libretti [-iː] または librettos
tempo (テンポ) → tempi [-iː] または tempos
virtuoso (巨匠) → virtuosi [-iː] または virtuosos
4.2 規則複数語尾 -s をつけるもの
solo (独奏[唱]) → solos
soprano (ソプラノ) → sopranos
・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.
・ Hotta, Ryuichi. "Thesauri or Thesauruses? A Diachronic Distribution of Plural Forms for Latin-Derived Nouns Ending in -us." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture. 106 (2010): 117--36.
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