hellog〜英語史ブログ

#3357. 日本語語彙の三層構造 (2)[japanese][lexicology][lexical_stratification]

2018-07-06

 英語と日本語の語彙に共通して見られる三層構造に関して,「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) に張ったリンク先の多くの記事で話題としてきた.日本語語彙の三層構造について「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1]) の記事でいくつかの例を挙げたが,今回は石黒 (59) より例を付け足そう.

和語漢語外来語
台所厨房キッチン
刃物包丁ナイフ
出前宅配デリバリー
買い物購入ショッピング
旅行トラベル/トリップ
海辺/浜辺海岸ビーチ


 比べてみれば「和語だと身近なイメージ,漢語だと厳密なイメージ,外来語だと新規なイメージが出せる」(石黒,p. 60) ということがよく分かるだろう.石黒 (62) は,それぞれの語種の特徴を次のようにまとめている.

 対象長所短所
和語身近な内容耳で聞いて意味がわかる(話し言葉向き),内容を易しく示せる抽象的な内容を表すのが不得手
漢語抽象的な内容目で見て意味がわかる(書き言葉向き),厳密な意味を表せる耳で聞いたときに意味がわかりにくい
外来語新しい内容海外の最新の概念を取りこめる目で見たときに意味がわかりにくい


 和語が話し言葉向き,漢語が書き言葉向きとあるが,なかには例外もある(石黒,p. 74).例えば,「仲間」と「輩(ともがら)」,「頑固」と「頑(かたく)な」,「貧乏」と「貧しい」など,前者の漢語のほうが相対的にいえば柔らかく話し言葉的で,後者の和語はむしろ堅く書き言葉的に響くだろう.同じ傾向は特に漢語副詞に見られるという.「全然」と「まったく」,「全部」と「すべて」,「絶対」と「かならず」,「多分」と「おそらく」,「一番」と「もっとも」,「大体」と「ほぼ」などを比べてみれば,前者の漢語のほうが話し言葉でよく用いられる.
 この種の例外は,おもしろいことに英語語彙の三層構造についても当てはまる.一般的には,英語本来語は柔らかくて話し言葉向き,フランス借用語は堅くて書き言葉向きという対照性が確かに観察される(cf. 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])).しかし,なかには foeenemydalevalley のように,ペアの前者(英語本来語)のほうが詩的なフォーマリティがあり,後者(フランス借用語)のほうが日常的な響きをもつ例もある.このような例外事情も含めて,英語と日本語の語彙の三層構造は似ているのである.

 ・ 石黒 圭 『語彙力を鍛える』 光文社〈光文社新書〉,2016年.

Referrer (Inside): [2019-12-16-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow