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latin - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-12-01 10:28

2013-05-03 Fri

#1467. イタリック語派(印欧語族) [indo-european][family_tree][italic][latin][indo-european_sub-family][map]

 印欧語族の語派解説シリーズ (see indo-european_sub-family) の第5弾として,Baugh and Cable (28--30) と Fennell (28--29) により,広大なイタリック語派 (Italic Albanian) を取り上げる.
 この語派で歴史上もっとも重要な言語は,いうまでもなくラテン語 (Latin) だが,ラテン語が歴史上に台頭してくる以前のイタリアにおける言語分布をさらっておこう.紀元前600年までは,西に非印欧語族の Etruscan,北西に不詳の Ligurian なる言語が行なわれていた.北東では Venetic,最南東では Messapian が話されており,これらは「#1457. アルバニア語派(印欧語族)」 ([2013-04-23-1]) で触れた Illyrian の親戚ともいわれる.南部とシチリアはギリシャ植民地でギリシャ語が話されていた.このような印欧語・非印欧語ののるつぼのなかで,Latium においてラテン語が勢力を伸ばしてきた.
 ラテン語は厳密には Latin-Feliscan 語群の分派である.この語群と姉妹関係にあるのが,Oscan-Umbrian 語群で,前者は中南部の Samnium や南の半島部で,後者は Latium の北東部の限られた地域で行なわれていた.しかし,ラテン語の伸張により,これらの親戚諸言語は影を潜め,やがて置き換えられていった.ローマ帝国の拡大とともにラテン語はイタリア半島にとどまらず,Corsica と Sardinia の島を紀元前231年に,Spain を紀元前197年に,Provence を紀元前121年に,Dacia を紀元107年に植民地とし,ラテン語を広めた.そして,ブリテン島へラテン語が同様にして伝わったのも紀元1世紀のことだった.
 ヨーロッパ各地へ拡散したラテン語は,異なる時代の異なる変種として持ち込まれたことに加え,現地の基層言語の影響もあって,独自の言語的発達を遂げることとなった.これらのラテン語から派生した言語群を Romance 諸語と呼んでいる.ガリアに根付いて発展したフランス語 (French) は,中世には Norman, Picard, Burgundian, Ile-de-France (Paris) 方言に分かれていたが,カぺー朝 (987--1328) の確立により,Ile-de-France (Paris) 方言が公用語,文学語として優勢となり,13世紀以降はこの方言が標準フランス語と同義になった.一方,フランス南部では langue d'oïl のフランス語とは一線を画す langue d'oc の Provançal が話されている.Provançal は,11世紀より文証されるが,とりわけ12--13世紀にトルバドゥールの言語として栄えた.しかし,以降,Provançal は北のフランス語に押され,現在では方言の地位に甘んじている.
 イベリア半島では,スペイン語 (Spanish) とポルトガル語 (Portuguese) が比較的近い関係を保ちながら現在まで行なわれている.この2言語は後に南アメリカへ進出し,現代世界において非常に大きな役割を果たしている.特にスペイン語は,11世紀より文証されているが,現在,英語をしのいで世界第2位の母語話者人口を有する超大言語である([2010-05-29-1]の記事「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」を参照).イタリア半島で行なわれてきたイタリア語 (Italian) は,話し言葉としてのラテン語が直接に受け継がれているとだけあって,他のロマンス語よりも長い歴史を保っている.イタリア語は10世紀から文証され,標準変種となった Florentine Italian により Dante (1265--1321), Petrarch (1304--74), Boccaccio (1313--75) が文学を著わし,ルネサンス期にはヨーロッパ中に威信を誇った.ルーマニア語 (Romanian) はロマンス諸語のなかでは最も東に位置するが,ローマ軍の駐屯地として長い間,ローマと関係を保った.最古の文献は16世紀と新しい.
 上の2段落で述べたロマンス系主要6言語のほかにも,注記すべき言語・方言が存在する.イベリア北東部や Corsica にも分布する Catalan は多くの伝統文学をもつ.その他は,イベリア北西部の Galician,スイス南東部や Tyrol に行なわれる Rhaeto-Romanic 語群の Romansch,ベルギー南部で話される Walloon などを挙げておこう.
 なお,上に挙げたロマンス諸語は,Cicero (106--43 B. C.) や Virgil (70--19 B. C.) の表わした Classical Latin からではなく,民衆の口語変種 Vulgar Latin から派生したものである.
 イタリック語派の分布図は,Distribution of Romance languages in Europe を参照.  *

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.

Referrer (Inside): [2017-05-24-1]

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2013-04-28 Sun

#1462. animal の初出年について [latin][oed][sir_orfeo]

 OED2, MED とそれらに基づいた語源辞典によると,「動物」を意味するラテン語,フランス語由来の名詞 animal の初出は,14世紀初期の The Auchinleck Manuscript に所収の Breton lay ロマンス Sir Orfeo (l. 364) とされている.MED より animal (n.) を見てみると,"Þe vousour was anow[rn]ed al Of ich maner diuers animal." と引用されている.
 しかし,OED Online は,この箇所で animal との読みは誤りであり,これは amel (enamel) の異形であるという立場をとっている.

Middle Eng. Dict. at animāl n. records an earlier example from the Auchinleck manuscript copy of Sir Orfeo, but more recent editors read this as aumal, hence showing AMEL n., an interpretation which is supported by the context and by the equivalent passage in other manuscripts.


 先日 Sir Orfeo を読んでいてこの問題に出くわした.Bliss 版では ll. 363--64 は次の通り.

Þe vousour was auowed al Of ich maner diuers aumal.


 様々な議論をまとめると,結論として OED Online の見解が妥当だと考える.まず,写本では問題の語の2つの a の間に minim は5本しかない.次に,15世紀の2写本での対応語を見ると,Ashmole では amell,Harley では metalle となっている.後者は意味を取って異なる語を採用しているが,「動物」の読みでないことは明らかだ.また,Bliss 版の批評をした D'Ardenne (58) も,aumal の語形を,古仏語の語形 amail, ēmail を参照しながら,十分にあり得る語形と考えている.
 もう1つ関連する議論は,animal の現われる時代的な分布である.D'Ardenne (58) は,この箇所を除外すると animal の英語での初例は16世紀であり,借用元と考えられるフランス語においても12世紀に例はあるものの16世紀までは稀であると述べている.しかし,この D'Ardenne の議論は今では必ずしも説得力はない.というのは,OED Online でも MED でも,animal は,この箇所を除外したとしても,14世紀終わりからいくつか現われているからだ.だが,ここまでの議論により,Sir Orfeo (l. 364) が animal の初出箇所ではないということは言えそうだ.
 語の初出年の問題は,その語の語史にかかわるミクロな問題と思われがちだが,共時的に語彙の一部を構成している限りにおいて語彙史の問題でもある.例えば,今回の問題は,「#127. deer, beast, and animal」 ([2009-09-01-1]) で取り上げた意味の場を巡る類義語の盛衰という問題にも若干の間接的な影響があるかもしれない.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Wrenn, C. L. "The Value of Spelling as Evidence." TPS 42 (1943): 14--39.
 ・ D'Ardenne, S. R. T. O. "Sir Orfeo by A. Bliss." RES NS 8 (1957): 57--59.

Referrer (Inside): [2022-07-19-1]

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2013-04-10 Wed

#1444. 法律英語の特徴 [register][law_french][french][loan_word][latin]

 昨日の記事で「#1443. 法律英語における同義語の並列」 ([2013-04-09-1]) に焦点を当てた.関連して,法律英語におけるフランス語の存在感については「#336. Law French」 ([2010-03-29-1]),「#433. Law French と英国王の大紋章」 ([2010-07-04-1]),「#1240. ノルマン・コンクェスト後の法律用語の置換」 ([2012-09-18-1]) で扱ってきたが,こうして見てくると,法律英語の主たる特徴はフランス借用語の多用にあり,ということがよくわかる.しかし,法律英語の特徴はこれだけにとどまらない.もう少し詳しく調べると,語法の癖,語用の傾向が見えてくる.Crystal (101) にしたがって,いくつかの特徴を列挙する.

(1) 書き言葉においても話し言葉においても,形式的,儀式的な表現が用いられる.
  Signed, sealed and delivered
  You may approach the bench
  Your Honour
  May it please the court
  . . . the truth, the whole truth, and nothing but the truth

(2) 一般の語がしばしば特殊な意味で用いられる.
  action (law suit)
  hand (signature)
  presents (this legal document)
  said (mentioned before) (cf. [2011-02-21-1]の記事「#665. Chaucer にみられる3人称代名詞の疑似指示詞的用法」)

(3) 現在では一般には用いられない古英語,中英語由来の単語が保たれている.
  aforesaid, forthwith, heretofore, thenceforth, thereby, witnesseth (cf. [2012-10-24-1]の記事「#1276. hereby, hereof, thereto, therewith, etc.」)

(4) ラテン語表現も多い.
  corpus delicti(罪体), ejusdem generis(同種の), nolle prosequi(訴えの取り下げ), res gestae(付帯状況), sui juris(法律上の能力をもった), vis major(不可抗力)

(5) フランス借用語が多く,一般化したものも多い.
  demurrer(訴答不十分の抗弁), easement(地役権), estoppel(禁反言), fee simple(単純封土権), lien(留置権), tort(私犯)

(6) 正確で厳密な意味をもった専門用語.
  appeal(上訴), bail(保釈(金)), contributory(清算出資者), defendant(被告), felony(重罪), negligence(過失), injunction(差止命令)

(7) より曖昧な意味をもった,日常的にも使われうる "argot".
  alleged(疑わしい), issue of law(法律上の争点), objection(異義), order to show cause(理由開示命令), superior court(上位裁判所), without prejudice(あとの手続きを何ら拘束することなく)

(8) 解釈に幅をもたせるために意図的に曖昧な意味で用いられる用語.
  adequate cause(相当の理由), as soon as possible(可及的速やかに), improper(不適切な), malice(犯意), nominal sum(名目額), reasonable care(相当なる注意)

 これらの「(冗漫で複雑な, しばしば素人には難解な)法律家[文書]独特の言い回し」を指して,英語で legalese という呼び名があるが,それは日本語でも他の言語でも変わりないことだろう.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

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2013-04-09 Tue

#1443. 法律英語における同義語の並列 [french][law_french][latin][binomial][register][loan_word][euphony][lexical_stratification]

 英語の法律に関する使用域 (register) にフランス語の語句が満ちていることについては,「#336. Law French」 ([2010-03-29-1]),「#433. Law French と英国王の大紋章」 ([2010-07-04-1]),「#1240. ノルマン・コンクェスト後の法律用語の置換」 ([2012-09-18-1]) の各記事で取り上げてきた.中世イングランドにおける法律分野の言語交替の概略を示せば,13世紀にはラテン語に代わってフランス語が法律関係の表現において優勢となってゆく.フランス語は法文書においてもラテン語と競り合い,14世紀には優勢となる.15世紀には,Law French は Law English に徐々に取って代わられてゆくが,近代に至るまでフランス語の遺産は受け継がれた.
 法律分野でフランス語から英語への言語交替が進んでゆくと,法律用語におけるフランス単語から英単語への交替という問題も生じてくる.ところが,どちらの言語の用語を採用するかという問題は,多くの場合,どちらも採用するという決着をみた.つまり,両方を and などの等位接続詞でつなげて,2項イディオム (binomial idiom) にしてしまうという方策である(関連して[2011-07-26-1]の記事「#820. 英仏同義語の並列」も参照).2者の間に微妙な意味上の区別がある場合もあれば,さして区別はなく単に意味の強調であるという場合もあった.しかし,時間とともにこのような並列が慣習化し,法律分野の言語を特徴づける文体へと発展したというのが正しいだろう.というのは,英単語と仏単語の並列のみならず,仏単語2つや英単語2つの並列なども見られるようになり,語源の問題というよりは文体の問題ととらえるほうが適切であると考えられるからだ.もちろん,この文体の発展に,2項イディオムの特徴である韻律による語呂のよさ (euphony) も作用していただろうことは想像に難くない.
 以下に,Crystal (152--53) に示されている例を挙げよう.3つ以上の並列もある.

acknowledge and confess (English/French)
aid and abet (French/French)
breaking and entering (English/French)
cease and desist (French/French)
each and every (English/English)
final and conclusive (French/Latin)
fit and proper (English/French)
give and grant (English/French)
give, devise, and bequeath (English/French/English)
goods and chattels (English/French)
had and received (English/French)
have and hold (English/English)
heirs and assigns (French/French)
in lieu, in place, instead, and in substitution of (French/French/English/French or Latin)
keep and maintain (English/French)
lands and tenements (English/French)
let or hindrance (English/English)
made and provided (English/Latin)
new and novel (English/French)
null and void (French/French)
pardon and forgive (French/English)
peace and quiet (French/Latin)
right, title, and interest (English/English/French)
shun and avoid (English/Latin)
will and testament (English/Latin)
wrack and ruin (English/French)


 法律分野の要求する正確さと厳格さ,歴史的に育まれてきた英語語彙の三層構造,韻律と語呂を尊ぶ2項イディオムの伝統,このような諸要因が合わさって,中世後期以降,法律英語という独特の変種が発達してきたのだと考えられる.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

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2013-04-03 Wed

#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例 [loan_word][latin][oe][christianity][borrowing]

 英語史におけるラテン語借用については,latin loan_word の幾多の記事で取り上げてきた.古英語期以前のラテン借用については,「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1]) で簡単な時代別の分類に触れ,いくつかの例を挙げたにすぎないので,今回はもう少し例を挙げてみたい.
 Crystal (59--65) では,古英語以前のラテン語借用を,Serjeantson (Appendix A) にしたがって (1) 大陸時代,(2) c. 450--c. 650, (3) c. 650--c. 1100 と時代別に3区分している.以下に,それぞれの時代を代表する例をいくつか挙げよう.

(1) 大陸時代
 belt (belt) < L balteus
 butere (butter) < L butyrum
 camp (field, battle) < L campus
 candel (candle) < L candela
 catt (cat) < L cattus
 ceaster (city) < L castra
 cetel (kettle) < L catillus
 cupp (cup) < L cuppa
 cycene (kitchen) < L coquina
 cyse (cheese) < L caseus
 draca (dragon) < L draco
 mæsse (mass) < L missa
 mil (mile) < L mille
 minte (mint) < L menta
 munuc (monk) < L monachus
 mynster (minster) < L monasterium
 panne (pan) < L panna
 piper (pepper) < L piper
 pise (pea) < L pisum
 plante (plant) < L planta
 port (door, gate) < L porta
 port (harbour, town) < L portus
 pund (pound) < L pondo
 sacc (sack, bag) < L saccus
 sinoð (council, synod) < L synodus
 stræt (road) < L strata
 tigle (tile) < L tegula
 weall (wall) < L vallum
 win (wine) < L vinum
 ynce (inch) < L uncia

(2) c. 450--c. 650
 cocc (cock) < L coccus
 cugle (cowl) < L cuculla
 cyrtan (to shorten, curtail) < L curtus
 forca (fork) < L furca
 fossere (spade) < L fossorium
 græf (stylus) < L graphium
 læden (Latin) < L ladinus (Vulgar Latin)
 leahtric (lettuce) < L lactuca
 mægester (master) < L magister
 nunne (nun) < L nonna
 pere (pear) < L pirum
 pinsian (to reflect, consider) < L pensare
 punt (punt, flat boat) < L ponto
 relic (relic) < L reliquia
 renge (spider) < L aranea
 seglian (to seal) < L sigillare
 segn (mark, sign) < L signum
 stropp (strap) < L stroppus
 torr (tower) < L turris
 turl (ladle, trowel) < L trulla

(3) c. 650--c. 1100
 alter (altar) < L altar
 biblioþece (library) < L bibliotheca
 cancer (crab) < L cancer
 creda (creed, belief) < L credo
 cucumer (cucumber) < L cucumer
 culpe (guilt, fault) < L culpa
 diacon (deacon) < L diaconus
 fenester (window) < L fenestra
 fers (verse) < L versus
 grammatic (grammar) < L grammatica
 mamma (breast) < L mamma
 notere (notary) < L notarius
 offrian (sacrifice, offer) < L offere
 orgel (organ) < L organum
 papa (pope) < L papa
 philosoph (philosopher) < L philosophus
 predician (preach) < L praedicare
 regol (religious rule) < L regula
 sabbat (sabbath) < L sabbatum
 scol (school) < L scola

 Serjeantson のリストによれば,(1) には183語,(2) には114語,(3) には244語が挙がっているが,各語の時代区分の正確性は必ずしも保証されておらず,額面通りに受け取るには注意を要する.だが,単語の意味領域について一般的にいえば,(1) は日常語を含む幅広い意味領域を覆っているが,(2) では宗教的な色彩が見え始め,(3) では宗教に加え学識を感じさせる単語が多い.キリスト教の伝来を契機に,ラテン借用語の質が変化したことを見て取ることができる.借用の媒介に関しても,(1) や (2) は主として話し言葉から入ったが,(3) は主として書き言葉を通じて流入したと想定される.
 上記のリストでは,主に現代英語まで残ったラテン借用語を挙げてあるが,実際には現代英語にまで生き残らなかったものも多い.現代標準英語に残っているのは,約100語くらいのものである.大多数が後に死語となった背景には,中英語期に同義のフランス借用語が流入したという事情がある.新しくて格好のよいフランス語が,古めかしいラテン語に取って代わったのである.ただし,現代まで残っているラテン借用語の多くは,本来語彙と同じぐらい盤石に英語語彙に根付いている.
 なお,古英語期以前に同一のラテン単語が2度借用された例もあるので,触れておこう.L calicem は "cup" の意味で最初に celc として,後に calic として古英語に借用された.同様の例を挙げる.

 cliroc, cleric (cleric, clergyman) < L clericus
 læden, latin (Latin) < L latinus
 leahtric, lactuca (lettuce) < L lactuca
 minte, menta (mint) < L menta
 spynge, sponge (sponge) < L spongea

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
 ・ Serjeantson, Mary S. A History of Foreign Words in English. London: Routledge and Kegan Paul, 1935.

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2013-04-02 Tue

#1436. EnglishEngland の名称 (2) [anglo-saxon][history][toponymy][etymology][latin][old_saxon]

 今回は,「#1145. EnglishEngland の名称」 ([2012-06-15-1]) に対する補足と追加の記事.5世紀半ばにアングル人 (Angles) ,サクソン人 (Saxons) ,ジュート人 (Jutes) を中心とする西ゲルマンの諸部族がブリテン島へ移住してきてから,これらの部族を統括して呼ぶ名称や,彼らが新しく占拠した土地を呼ぶ名称は,誰がどの言語で呼ぶのかによっても変異があったし,時代とともに変化もしてきた.結果としては,Angle びいきの総称が選ばれ,形容詞や言語名の English や国名の England が一般化した.なぜ Saxon や Jute を差し置いて Angle が優勢となったのかについては明確な答えがないが,推測できることはある.
 少なくとも8世紀から,ラテン語で Angli Saxones という表現が用いられていた.ここでは Angli は形容詞,Saxones は複数名詞で「アングル系サクソン人たち」ほどの意味だった.これは,大陸に残っていたサクソン人たち (Old Saxons) と区別するための呼称であり,形容詞 Angli にこめられた意味は「アングル人と一緒にブリテン島に渡った」ほどの意味だったと思われる.やがて,対立を明示する形容詞 Angli に力点が移り,これが固有名と解されて独立したということは,ありそうなことである.もしこのような経緯で8世紀中に Angli がブリテン島に住み着いた西ゲルマン民族の総称および領土名として再解釈されていったと考えれば,9世紀に Bede の古英語が出された際に,Angelcynn (gens Anglorum の訳)が総称的に用いられていた事実が特に不思議ではなくなる.また,同時期の880年頃には,Alfred 大王と Guthrum との間で取り交わされた条約のなかで "Danish" に対して "English" が用いられている.さらに,言語名としての Englisc も,やはり同時期に,Bede 古英語訳や Alfred のテキストに現われている.
 このように,Englisc は9世紀中に形容詞あるいは言語名として定着したが,領土名としての AngelcynnEngla land 系列に置き換えられるのは,11世紀の Chronicle を待たねばならなかった.Engla land のほか,Engle land, Englene londe, Engle lond, Engelond, Ingland なども行なわれたが,後に定着する England が現われるのは14世紀のことである.
 以上,Crystal (26--27) に拠った.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

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2013-03-06 Wed

#1409. 生き残ったインク壺語,消えたインク壺語 [inkhorn_term][loan_word][lexicology][emode][renaissance][latin][greek]

 昨日の記事「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1]) ほか inkhorn_term の各記事で,初期近代英語期に大量に流入した古典語由来の小難しい借用語の話題を扱ってきた.「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) で挙げたように,当時は「インク壺語」と揶揄されながらも,現代にまで生き残った有用な語も多い.一方で,現代にまで伝わらなかった語も少なくない.今回は,Baugh and Cable (223--24, 226) から,生き残った語彙とほぼ死に絶えた語彙の例をさらに追加したい.
 まずは生き残った語彙のサンプルを,名詞,形容詞,動詞の順に挙げる.大半はラテン語由来だが,赤字で示したようにギリシア語由来のもの(ラテン語を経由したものを含む)も多い.

acme, allurement, allusion, anachronism, antipathy, antithesis, atmosphere, autograph, capsule, catastrophe, chaos, chronology, climax, crisis, criterion, democracy, denunciation, dexterity, disability, disrespect, dogma, emanation, emphasis, encyclopedia, enthusiasm, epitome, excrescence, excursion, expectation, halo, idiosyncrasy, inclemency, jurisprudence, lexicon, misanthrope, parasite, parenthesis, pathetic, pneumonia, scheme, skeleton, system, tactics, thermometer

abject, agile, anonymous, appropriate, caustic, conspicuous, critic, dexterous, ephemeral, expensive, external, habitual, hereditary, heterodox, impersonal, insane, jocular, malignant, polemic, tonic

adapt, alienate, assassinate, benefit, consolidate, disregard, emancipate, eradicate, erupt, excavate, exert, exhilarate, exist, extinguish, harass, meditate, ostrasize, tantalize


 次に,死語あるいは事実上の廃用となったもののサンプルを,名詞,形容詞,動詞の順に,語義とともに挙げる.

adminiculation (aid), appendance (appendage), assation (roasting), discongruity (incongruity), mansuetude (mildness)

aspectable (visible), eximious (excellent, distinguished), exolete (faded), illecebrous (delicate, alluring), temulent (drunk)

approbate (to approve), assate (to roast), attemptate (to attempt), cautionate (to caution), cohibit (to restrain), consolate (to console), consternate (to dismay), demit (to send away), denunciate (to denounce), deruncinate (to weed), disaccustom (to render unaccustomed), disacquaint (to make acquainted), disadorn (to deprive of adornment), disquantity (to diminish), emacerate (to emaciate), exorbitate (to stray from the ordinary course), expede (to accomplish, expedite), exsiccate (to desiccate), suppeditate (to furnish, supply)


 湯水の如き借用は実験的な借用ともいうことができる.実験的な性格は,現在も用いられている effective, effectual に加えて,effectful, effectuating, effectuous などがかつて使われていた事実からも知れるだろう.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2013-03-05 Tue

#1408. インク壺語論争 [popular_passage][inkhorn_term][loan_word][lexicology][emode][renaissance][latin][greek][purism]

 16世紀のインク壺語 (inkhorn term) を巡る問題の一端については,昨日の記事「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) 以前にも,「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) ,「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1]) ほか inkhorn_term の各記事で触れてきた.インク壺語批判の先鋒としては,[2010-11-24-1]で引用した The Arte of Rhetorique (1553) の著者 Thomas Wilson (1528?--81) が挙げられるが,もう1人挙げるとするならば Sir John Cheke (1514--57) がふさわしい.Cheke は自らがギリシア語学者でありながら,古典語からのむやみやたらな借用を強く非難した.同じくギリシア語学者である Roger Ascham (1515?--68) も似たような態度を示していた点が興味深い.Cheke は Sir Thomas Hoby に宛てた手紙 (1561) のなかで,純粋主義の主張を行なった(Baugh and Cable, pp. 217--18 より引用).

I am of this opinion that our own tung shold be written cleane and pure, unmixt and unmangeled with borowing of other tunges, wherin if we take not heed by tijm, ever borowing and never payeng, she shall be fain to keep her house as bankrupt. For then doth our tung naturallie and praisablie utter her meaning, when she bouroweth no counterfeitness of other tunges to attire her self withall, but useth plainlie her own, with such shift, as nature, craft, experiens and folowing of other excellent doth lead her unto, and if she want at ani tijm (as being unperfight she must) yet let her borow with suche bashfulnes, that it mai appeer, that if either the mould of our own tung could serve us to fascion a woord of our own, or if the old denisoned wordes could content and ease this neede, we wold not boldly venture of unknowen wordes.


 Erasmus の Praise of Folly を1549年に英訳した Sir Thomas Chaloner も,インク壺語の衒学たることを揶揄した(Baugh and Cable, p. 218 より引用).

Such men therfore, that in deede are archdoltes, and woulde be taken yet for sages and philosophers, maie I not aptelie calle theim foolelosophers? For as in this behalfe I have thought good to borowe a littell of the Rethoriciens of these daies, who plainely thynke theim selfes demygods, if lyke horsleches thei can shew two tongues, I meane to mingle their writings with words sought out of strange langages, as if it were alonely thyng for theim to poudre theyr bokes with ynkehorne termes, although perchaunce as unaptly applied as a gold rynge in a sowes nose. That and if they want suche farre fetched vocables, than serche they out of some rotten Pamphlet foure or fyve disused woords of antiquitee, therewith to darken the sence unto the reader, to the ende that who so understandeth theim maie repute hym selfe for more cunnyng and litterate: and who so dooeth not, shall so muche the rather yet esteeme it to be some high mattier, because it passeth his learnyng.


 "foolelosophers" とは厳しい.
 このようにインク壺語批判はあったが,時代の趨勢が変わることはなかった.インク壺語を(擁護したとは言わずとも)穏健に容認した Sir Thomas Elyot (c1490--1546) や Richard Mulcaster (1530?--1611) などの主たる人文主義者たちの示した態度こそが,時代の潮流にマッチしていたのである.
 なお,OED によると,ink-horn term という表現の初出は1543年.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2013-03-04 Mon

#1407. 初期近代英語期の3つの問題 [emode][renaissance][popular_passage][orthoepy][orthography][spelling_reform][standardisation][mulcaster][loan_word][latin][inkhorn_term][lexicology][hart]

 初期近代英語期,特に16世紀には英語を巡る大きな問題が3つあった.Baugh and Cable (203) の表現を借りれば,"(1) recognition in the fields where Latin had for centuries been supreme, (2) the establishment of a more uniform orthography, and (3) the enrichment of the vocabulary so that it would be adequate to meet the demands that would be made upon it in its wiser use" である.
 (1) 16世紀は,vernacular である英語が,従来ラテン語の占めていた領分へと,その機能と価値を広げていった過程である.世紀半ばまでは,Sir Thomas Elyot (c1490--1546), Roger Ascham (1515?--68), Thomas Wilson (1525?--81) , George Puttenham (1530?--90) に代表される英語の書き手たちは,英語で書くことについてやや "apologetic" だったが,世紀後半になるとそのような詫びも目立たなくなってくる.英語への信頼は,特に Richard Mulcaster (1530?--1611) の "I love Rome, but London better, I favor Italie, but England more, I honor the Latin, but I worship the English." に要約されている.
 (2) 綴字標準化の動きは,Sir John Cheke (1514--57), Sir Thomas Smith (1513--77; De Recta et Emendata Linguae Anglicae Scriptione Dialogus [1568]), John Hart (d. 1574; An Orthographie [1569]), William Bullokar (fl. 1586; Book at Large [1582], Bref Grammar for English [1586]) などによる急進的な表音主義的な諸提案を経由して,Richard Mulcaster (The First Part of the Elementarie [1582]), E. Coot (English Schoole-master [1596]), P. Gr. (Paulo Graves?; Grammatica Anglicana [1594]) などによる穏健な慣用路線へと向かい,これが主として次の世紀に印刷家の支持を受けて定着した.
 (3) 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]),「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1]),「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]) などの記事で繰り返し述べてきたように,16世紀は主としてラテン語からおびただしい数の借用語が流入した.ルネサンス期の文人たちの多くが,Sir Thomas Elyot のいうように "augment our Englysshe tongue" を目指したのである.
 vernacular としての初期近代英語の抱えた上記3つの問題の背景には,中世から近代への急激な社会変化があった.再び Baugh and Cable (200) を参照すれば,その要因は5つあった.

 1. the printing press
 2. the rapid spread of popular education
 3. the increased communication and means of communication
 4. the growth of specialized knowledge
 5. the emergence of various forms of self-consciousness about language

 まさに,文明開化の音がするようだ.[2012-03-29-1]の記事「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」も参照.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2013-02-11 Mon

#1386. 近代英語以降に確立してきた標準綴字体系の特徴 [spelling][grammatology][orthography][etymological_respelling][standardisation][loan_word][latin][greek]

 「#1332. 中英語と近代英語の綴字体系の本質的な差」 ([2012-12-19-1]) で略述したように,近代英語の綴字体系の大きな特徴は,より logographic だということだ.語や形態素を一定の綴字で表わすことを目指しており,その内部における表音性は多かれ少なかれ犠牲にしている.これは特徴というよりは緩やかな傾向と呼ぶべきものかもしれないが,的確な記述である.Brengelman (346) は,この特徴なり傾向なりを,さらに的確に表現している.

The specific characteristics of the theory of English spelling which finally emerged were the following: Each morpheme ought to have a consistent, preferably etymological spelling. Each morpheme ought to be spelled phonemically according to its most fully stressed and fully articulated pronunciation (thus n in autumn and damn, d in advance and adventure), and the etymology ought to be indicated in conventional ways (by ch, ps, ph, etc. in Greek words; by writing complexion---not complection---because the word comes from Latin complexus).


 要するに,形態素レベルでは主として語源形を参照して一貫した表記を目指し,音素レベルでは (1) 明瞭な発音に対応させるという方針と,(2) 語源を明らかにするための慣習に従うという方針,に沿った表記を目指す,ということである.近現代の綴字体系の特徴をよくとらえた要約ではないだろうか.
 興味深いことに,上の方針が最もよく反映されているのは,長くて堅苦しい借用語である.逆にいえば,初期近代英語期にラテン語やギリシア語からの借用語が増加したという背景があったからこそ,上の特徴が発生してきたということかもしれない.この点に関連して,Brengelman の2つの記述を読んでみよう.

Of all the improvements on English spelling made by the seventeenth-century orthographers, none was more important than their decision to spell the English words of Latin origin in a consistent way. Schoolmasters explained the process as showing the historical derivation of the words, but it did more than this: it showed their morphology. It is this development which makes possible a curious fact about English spelling: the longer and more bookish a word is, the easier it is to spell. No rules would lead a foreigner to spellings such as build or one, but he should easily spell verification or multiplicity. (350)


[E]nglish spelling began to be increasingly ideographic as early as the fourteenth century, and by the sixteenth, when the majority of readers and writers knew Latin, understanding was actually enhanced by Latinate spellings . . . . (351)


 歴史的にラテン語は英語に多種多様な影響を与えてきたが,また1つ,初期近代英語期の綴字標準化の過程においても大きな影響を与えてきたということがわかるだろう.

 ・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.

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2013-02-08 Fri

#1383. ラテン単語を英語化する形態規則 [morphology][latin][loan_word][neo-latin][romancisation][-ate]

 [2013-01-05-1]の記事「#1349. procrastination の生成過程」で,ラテン単語が英語に取り込まれる際に適用される形態音韻規則について,Bloomfield に拠って議論した.この規則は,近代英語期までに至るラテン語との長い接触を通じて通時的に育まれ,共時的に定着したものである.規則というよりは半ば自然に発達してきた慣習と言い換えてもよいかもしれないが,これをあたかも意識的に制定した規則であるかのように解説した記述がある.Thomas Blount の Glossographia (1656) である(Glossographia を含む記事を参照).Brengelman (353) に,その Blount の記述がまとまっているので,それを再現する.

LATINENGLISHEXAMPLES
-io-ioninquisition, ablution, abortion
-or-oragressor
-tura-tureabbreviature
-ista-istagonist
-isma, -ismus-istagonism, aphorism
Verb + o-ateabdicate, adumbrate
Verb + o (generally with long vowel)-#abduce, adjure, allude
Adj + is, us-#abject, abortive, angular, annual
-abilis-ablearable
-ibilis-ibleplausible
-us, -osus-ousabstemious, pernicious
Noun + a, um, us-#abysse, accent, alphabet
(rum, ra, rus)-eramber, alabaster
-ul--leangle
-i + us, um, a, as-yarbitrary, anatomy, adultery, acclivity
-entia-encyadolescency
-ans-antadjutant
-ens-entadjacent


 上の規則は,Brengelman (353) によれば,3点に要約できるという.

(1) retain and Anglicize derivational endings; (2) delete purely inflectional endings; (3) leave prefixes and bases unchanged.


 この規則に沿わない例があることは18世紀にも指摘されているが (ex. explain, proceed, labour) ,そのような語は,すでに辞書において固定化してしまっていたのだろう.
 なお,Blount の規則は,原則的に現代英語の Neo-Latin 造語にも適用されている.Neo-Latin 造語については,「#392. antidisestablishmentarianism にみる英語のロマンス語化」 ([2010-05-24-1]) を参照.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
 ・ Brengelman, F. H. "Orthoepists, Printers, and the Rationalization of English Spelling." JEGP 79 (1980): 332--54.

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2013-01-22 Tue

#1366. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由 [lexicology][loan_word][french][latin][renaissance][history][register][sociolinguistics][lexical_stratification]

 「#134. 英語が民主的な言語と呼ばれる理由」 ([2009-09-08-1]) で英語(の歴史)の民主的な側面を垣間見たが,バランスのとれた視点を保つために,今回は,やはり歴史的な観点から,英語の非民主的な側面を紹介しよう.
 英語は,近代英語初期(英国ルネサンス期)に夥しいラテン借用語の流入を経験した (##114,1067,1226).これによって,英語語彙における三層構造が完成されたが,これについては「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) や「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1]) で見たとおりである.語彙に階層が設けられたということは,その使用者や使用域 (register) にも対応する階層がありうることを示唆する.もちろん,語彙の階層とその使用に関わる社会的階層のあいだに必然的な関係があるというわけではないが,歴史的に育まれてきたものとして,そのような相関が存在することは否定できない.上層の語彙は「レベル」の高い話者や使用域と結びつけられ,下層の語彙は「レベル」の低い話者や使用域と結びつけられる傾向ははっきりしている.
 この状況について,渡部 (244) は,「英語の中の非民主的性格」と題する節で次のように述べている.

人文主義による語彙豊饒化の努力が産んだもう一つの結果は,英語が非民主的な性格を持つようになった,ということであろう。OE時代には王様の言葉も農民の言葉もたいして変りなかったと思われる。上流階級だからと言って特に難かしい単語を使うということは少なかったからである。その状態は Norman Conquest によって,上層はフランス語,下層は英語という社会的二重言語 (social bilingualism) に変ったが,英語が復権すると,英語それ自体の中に,一種の社会的二言語状況を持ち込んだ形になった。その傾向を助長したのは人文主義であって,その点,Purism をその批判勢力と見ることが可能である。事実,聖書をほとんど唯一の読書の対象とする層は,その後近代に至るまでイギリスの民衆的な諸運動とも結びついている。


 英語(の歴史)は,ある側面では非民主的だが,別の側面では民主的である.だが,このことは多かれ少なかれどの言語にも言えることだろう.また,言語について言われる「民主性」というのは,「#1318. 言語において保守的とは何か?」 ([2012-12-05-1]) や「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]) で取り上げた「保守性」と同じように,解釈に注意が必要である.「民主性」も「保守性」も価値観を含んだ表現であり,それ自体の善し悪しのとらえ方は個人によって異なるだろうからだ.それでも,社会言語学的な観点からは,言語の民主性というのはおもしろいテーマだろう.
 なお,英語における民主的な潮流といえば,「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1]) や「#1059. 権力重視から仲間意識重視へ推移してきた T/V distinction」 ([2012-03-21-1]) の話題が思い出される.

 ・ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.

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2013-01-05 Sat

#1349. procrastination の生成過程 [morphology][french][latin][derivation][word_formation][diachrony][combining_form][loan_word][romancisation][neo-latin]

 procrastination /prə(ʊ)ˌkræstɪˈneɪʃən/ というラテン語に由来する形態素からなる派生語がある.「遅延」を意味する語で,英語での初例は1548年となっている.語源としては,古典ラテン語の名詞 prōcrāstinātiō から借用したものである,と述べて済まそうと思えば済ませられるが,英単語 procrastination の形態と発音を本格的に説明しようとすれば,英語がいかにラテン語やフランス語の形態規則や音韻規則を取り込んできたかという歴史を述べざるを得ない.この歴史は,中英語期以降,数世紀をかけて通時的に育まれてきた言語的慣習が,共時的な形態規則や音韻規則として固定化してきた歴史である.
 Bloomfield によれば,英語話者はラテン単語を借用する際に,"a fairly well-fixed set of habits" (493) を心得ているという.

[T]hese habits are composed of (1) the adaptations and phonetic renderings that were conventional in the French use of book-Latin words round the year 1200, (2) adaptations that have become conventional in the English usage of Latin-French forms, and (3) phonetic renderings due to English sound-changes that have occurred since the Norman time.


 これを procrastination に当てはめてみよう.フランス語では,ラテン語の名詞は主格ではなく対格や奪格の形態,正確にはそこから語尾を落とした形態で取り入れられるのが通例である.したがって,ラテン語 prōcrāstinātiō は,主格形のままフランス語へ入るのではなく,prōcrāstinātiōnem などの斜格形から -em が取り除かれた状態で,procrastination としてフランス語へ入る.もし13世紀辺りにフランス語に入っていたならば,フランス語では *[prokrastinaˈsjoːn] などとなっていたことだろう.この推定される音形は (1) の習慣に基づく.
 次に,英語話者は,(2) の習慣に従って,フランス語を経由して英語に入ってくる単語の発音を英語化する.上記の推定形における第2音節の母音 *[a], 第4音節の母音 *[a], その直後の *[sjon] を,それぞれ英語風に [æ], [eɪ], [ʃən] へと置き換えるのである.この習慣は,英語が大量のフランス借用語を取り入れながら築き上げてきた,一種の英仏対応規則である.
 最後に,(3) の習慣,すなわち英語における強勢移動にかかわる規則の変化に従って,第1強勢が最終音節からその一つ前へ移動した.
 Bloomfield 本人も p. 450 で認めているように,(2) と (3) の境目は必ずしも明確ではない.しかし,上記の要点は,英語,フランス語,ラテン語の3者の間で通時的に育まれてきた対応規則と通時的に生じてきた言語変化とが,一種の英語における共時的な形態規則(あるいは形態習慣)として確立してきたという歴史的過程である.英語が16世紀半ばに,ラテン語 prōcrāstinātiō を借用したとき,あるいは参照して自言語に取り込んだとき,半ば無意識に (1), (2), (3) の習慣が適用され,英語の音形をもつ procrastination が生成されたのである.ここには,単なる借用以上の過程が作用している.
 長い時間のあいだに繰り返し通電してきた神経回路が,いつのまにか太い高速回路となって,直感的に通電するようになったとでも言おうか.借用語彙の取り込み方という問題は,言語における diachrony と synchrony との接点を論じる上でも示唆を与えてくれそうだ.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.

Referrer (Inside): [2014-01-31-1] [2013-02-08-1]

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2012-11-13 Tue

#1296. 三層構造の例を追加 [lexicology][loan_word][french][latin][greek][lexical_stratification]

 英語語彙の三層構造について,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) を始めとする各記事で触れてきた.今回は,様々な典拠から Schmitt and Marsden (89) が集めた,英語(下層あるいは "general"),フランス語(中層あるいは "formal"),ラテン・ギリシア語(上層あるいは "intellectual")の三層構造をなす例を追加して,表の形で示す.

Old English (general)French (formal)Latin or Greek (intellectual)
askquestioninterrogate
bookvolumetext
fairbeautifulattractive
fastfirmsecure
fearterrortrepidation
fireflameconflagration
foeenemyadversary
giftpresentdonation
goodnessvirtueprobity
heartycordialcardiac
helpaidassistance
holysacredconsecrated
kinglyroyalregal
livelyvivaciousanimated
risemountascend
timeageepoch
wordtermlexeme


 表を眺めてみると,確かに各行に並んだ3種類の語はそれぞれ使用域 (register) が異なっているように思われる.意味の広がり,共起語の選択,使用頻度においても差があるだろう.
 さて,このような三層構造を英語語彙の際立った特徴として取り上げることは一般論としては有効だろう.しかし,細かくいえば問題がないわけではない.まず,三層をなす3語1組をほかに集めようとしても難しい.英語語彙の特徴であるからには,例を次々と思いついてもおかしくなさそうだが,意外と難しい.上記の例は,三層構造を例証する選ばれし語群なのだ.
 次に,類義語 (synonym) の範囲の曖昧さがある.各行の3種類の語は意味を共有する類義語だが,類義性をどこまで認めるかの判断は解釈者しだいである.例えば,heartycordial は「真心の」でつながるとしても,cardiac は別物ではないか.book -- volume -- text もどうか,等々.類義語辞典によっても収録する類義語の種類や数は異なっており,類義性の判断に絶対的な基準を設けることはできない.すると,上記の例は選んで探してきた例である,ということにならないか.
 最後に,ゼミ生が類義語辞典から探し当てた例だが,stealthy -- secret -- confidential という三層構造では,本来語の stealthy は予想される general の層に属するとはいえないだろうし,むしろフランス語の secret のほうがずっと general である.三層構造という一般論に対してこのような個々の例外はほかにも多くあるだろうが,あくまで一般的な特徴づけであることを思い出させてくれる点で,このような例外の指摘は価値がある.

(後記 2014/08/20(Wed): Hughes (15) を参照して,以下の3例を追加する.)

Old English (general)French (formal)Latin or Greek (intellectual)
folkpeoplepopulation
godepartexit
gutsentrailsintestines
word-hoardvocabularylexicon


 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
 ・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.

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2012-11-12 Mon

#1295. フランス語とラテン語の2重語 [doublet][french][latin][etymology][loan_word][syllable]

 「#944. rationreason」 ([2011-11-27-1]) で,フランス語とラテン語から借用された2重語 (doublet) の例をいくつか見た.reason -- ration, treason -- tradition, poison -- potion, lesson -- lection といったペアである.Schmitt and Marsden (87) に他の例が挙がっていたので,下に示したい.左列は中英語期に先に入っていたものでフランス語,右列は初期近代英語期に改めて借用されたラテン語である.

French (in ME)Latin (in EModE)
armorarmature
chambercamera
choirchorus
frailfragile
gendergenus
jealouszealous
proveprobe
straitstrict
strangeextraneous
treasurethesaurus


 フランス語形をラテン語形と比べてみると,いかに子音が消失あるいは変化したり,音節が失われているかがわかる.概してラテン語形は音節数が多い.英語はこれらの異なる語形を豊富に取り入れることによって,語彙そのものを増やしてきたことはもちろん,語彙の音節数別の分布をも変化させてきたのだろう.英語語彙と音節数については,syllable statistics の各記事を参照.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

Referrer (Inside): [2022-06-05-1] [2015-03-29-1]

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2012-10-05 Fri

#1257. なぜ「対格」が "accusative case" なのか [terminology][case][greek][latin][grammar][history_of_linguistics][etymology][sobokunagimon]

 古英語を含む印欧諸語の文法では,様々な格 (case) に専門的な呼称が与えられている.印欧祖語に再建される8格でいえば,それぞれ主格 (nominative) ,対格 (accusative) ,属格 (genitive) ,与格 (dative) ,具格 (instrumental) ,奪格 (ablative) ,位格 (locative) ,呼格 (vocative) と呼ばれる.それぞれの英単語はいずれもラテン語由来だが,ラテン語としてみれば,およそ当該の格の代表的な意味や用法が反映された呼び名となっている.
 genitive は,ややわかりにくいが,ラテン語 genitus 「生み出された」に由来し,典型的に「生まれ,起源」を表わす属格の用法をよく反映している.むしろ,日本語の訳語に問題があるのかもしれない.
 だが,accusative は理解しにくい.なぜ,これが対格(あるいはその機能)に対応するのか.accuse は「訴える,非難する」の意で,同義のラテン語 accūsāre に由来する.対格に直接かかわるとは思えない.
 しかし,accusative の語源を調べてみると,事情が判明する.格の名称は古代ギリシア語の文法用語に由来し,そこでは aitiātikḕ (ptōsis) "(the case) of that which is caused or affected" と呼ばれていた.aitíā に "cause" の語義があったのである.ところが,この aitiā は別に "accusation, charge" の語義を合わせもっていたため,翻訳者がこの用語をラテン語へ移し替える際に両語義を混同してしまい,"accusation" の語義として訳してしまった.正しくはラテン語 causātivus 辺りが訳としてふさわしかったのであり,この方向で継承されれば,英語では対格は causative (case) となっていたことだろう (Robins 44) .
 この誤訳の責任者は,ローマの代表的な教養人で,ローマで最も独創的な学者だったとも評される Varro (116--27 B.C.) であるといわれる.ラテン語文法をも論じた Varro は,4世紀の Donatus や6世紀の Priscian による影響力のあったラテン文法の影で,後世にとってその存在があまり目立たないが,ギリシア文法の模倣が全盛の時代にあって,独創的な仕事をした.例えば,それまでは明確に区別されていなかった屈折形態論と派生形態論を分けた功績は,Varro に帰せられる (Robins 63) .

 ・ Robins, R. H. A Short History of Linguistics. 4th ed. Longman: London and New York, 1997.

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2012-10-04 Thu

#1256. 西洋の品詞分類の歴史 [dionysius_thrax][grammar][greek][latin][pos][history_of_linguistics][parts_of_speech]

 西洋の文法論,とりわけ品詞論には,約2400年の連綿と続く歴史がある.紀元前5世紀後半に現われた Plato (427?--?348 B.C.) が,文の構成要素を ónoma (name, subject) と rhēma (what is said, predicate) へ大別することに端を発した分類は,Aristotle (384--322 B.C.) により sýndesmos (link) を加えられて後代へ受け継がれた.
 紀元前3世紀より,ストア派の学者は3段階にわたり,ónoma, rhēma, sýndesmos の3区分をさらに細分化していった.その過程で彼らは固有名詞と普通名詞を区別するなどの新機軸をもたらしたが,これは中世へは継承されなかった.ストア派は品詞論の主流とはならず,代わりにアレクサンドリア学派が台頭した.紀元前100年頃に出た Dionysius Thrax はアレクサンドリア学派の流れを汲むが,ストア派の伝統も無視はしておらず,むしろその対立の中から,[2011-10-06-1]の記事で取り上げたギリシア語文法の超ロングセラー Techne Grammatike を著わした.8品詞の伝統の元祖である.この文法書は,初期キリスト教の時代にアルメニア語や古代シリア語へも翻訳されたし,ビザンティンの批評家や古典注釈者の対象テキストともなり,実に13世紀ものあいだ,西洋世界で圧倒的な権威を誇ることになる (Robins 38) .そして,その伝統は,ギリシア語,ラテン語などの古典語のみならず英語を含めた現代語の文法論にも確実に息づいている.
 とはいっても,Techne Grammatike の文法論が完全に改変されずに中世へ継承されたわけではない.例えば,現代でいうところの伝統文法では名詞と形容詞は区別されているが,Techne では ónoma としてまとめられている.今でも "substantive" という用語が聞かれることがあるが,これは名詞と形容詞を包括する用語である.逆に,現代の伝統文法では,分詞は動詞の下位区分として非独立的だが,Techne では動詞とは独立した1つの範疇を形成していた.
 古代ギリシア以降の品詞論の変遷を,Robins (42) に図示されている通りに再現したので,参考までに(クリックで拡大).

History of POS Categorisation since Greek

 ・ Robins, R. H. A Short History of Linguistics. 4th ed. Longman: London and New York, 1997.

Referrer (Inside): [2022-10-13-1] [2012-12-02-1]

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2012-09-04 Tue

#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布 [loan_word][lexicology][statistics][emode][renaissance][inkhorn_term][latin]

 英語史における借用語の最たる話題として,中英語期におけるフランス語彙の著しい流入が挙げられる.この話題に関しては,語彙統計の観点からだけでも,「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]) を始めとして,french loan_word statistics のいくつかの記事で取り上げてきた.しかし,語彙統計ということでいえば,近代英語期のラテン借用語を核とする語彙増加のほうが記録的である.
 [2009-08-19-1]の記事「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」で言及したが,Görlach は初期近代英語の語彙の著しい増大を次のように評価し,説明している.

The EModE period (especially 1530--1660) exhibits the fastest growth of the vocabulary in the history of the English language, in absolute figures as well as in proportion to the total. (136)

. . . the general tendencies of development are quite obvious: an extremely rapid increase in new words especially between 1570 and 1630 was followed by a low during the Restoration and Augustan periods (in particular 1680--1780). The sixteenth-century increase was caused by two factors: the objective need to express new ideas in English (mainly in fields that had been reserved to, or dominated by, Latin) and, especially from 1570, the subjective desire to enrich the rhetorical potential of the vernacular. / Since there were no dictionaries or academics to curb the number of new words, an atmosphere favouring linguistic experiments led to redundant production, often on the basis of competing derivation patterns. This proliferation was not cut back until the late seventeenth/eighteenth centuries, as a consequence of natural selection or a s a result of grammarians' or lexicographers' prescriptivism. (137--38)


Görlach は,A Chronological English Dictionary に基づいて,次のような語彙統計も与えている (137) .これを図示してみよう.

The Growth of the EModE Vocabulary, 1500--1700
Decade15101520153015401550156015701580159016001610162016301640165016601670168016901700
New words4095081415140016091310154818761951330027102281168811221786197313701228974943


 近代英語期のラテン借用について関連する話題は,「#203. 1500--1900年における英語語彙の増加」 ([2009-11-16-1]) や emode loan_word lexicology の各記事を参照.

 ・ Görlach, Manfred. Introduction to Early Modern English. Cambridge: CUP, 1991.
 ・ Finkenstaedt, T., E. Leisi, and D. Wolff, eds. A Chronological English Dictionary. Heidelberg: Winter, 1970.

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2012-08-20 Mon

#1211. 中英語のラテン借用語の一覧 [latin][loan_word][lexicology][me][wycliffe][bible][statistics]

 昨日の記事「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1]) に続いて,今回は中英語に借用されたラテン語の一覧を掲げたい.「#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語」 ([2009-08-25-1]) でも57語からなる簡単な一覧を示したが,Baugh and Cable (185) を参照して,もう少し長い123語の一覧とした.むろん網羅的ではなくサンプルにすぎない.
 中英語期には,ラテン語は14--15世紀を中心に千数百語ほどが借用されたといわれる.教会関係者や学者を通じて,話し言葉から入ったものもあるが,主として文献から入ったものである.ラテン語から英語への翻訳に際して原語を用いたという背景があり,Wycliffe とその周辺による聖書翻訳が典型例だが,Bartholomew Anglicus による De Proprietatibus Rerum を Trevisa が英訳した際にも数百語のラテン語が入ったという事例がある (Baugh and Cable 184) .

abject, actor, adjacent, adoption, allegory, ambitious, ceremony, client, comet, conflict, conspiracy, contempt, conviction, custody, depression, desk, dial, diaphragm, digit, distract, equal, equator, equivalent, exclude, executor, explanation, formal, frustrate, genius, gesture, gloria, hepatic, history, homicide, immune, impediment, implement, implication, incarnate, include, incredible, incubus, incumbent, index, individual, infancy, inferior, infinite, innate, innumerable, intellect, intercept, interrupt, item, juniper, lapidary, lector, legal, legitimate, library, limbo, lucrative, lunatic, magnify, malefactor, mechanical, mediator, minor, missal, moderate, necessary, nervous, notary, ornate, picture, polite, popular, prevent, private, project, promote, prosecute, prosody, pulpit, quiet, rational, recipe, reject, remit, reprehend, requiem, rosary, saliva, scribe, script, scripture, scrutiny, secular, solar, solitary, spacious, stupor, subdivide, subjugate, submit, subordinate, subscribe, substitute, summary, superabundance, supplicate, suppress, temperate, temporal, testify, testimony, tincture, tract, tradition, tributary, ulcer, zenith, zephyr


 なお,赤字で示した語は,現代英語の頻度順位で1000位以内に入る高頻度語である(Frequency Sorter より).ラテン借用語に意外と身近な側面があることがわかるだろう.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2012-07-15 Sun

#1175. ロマンス系動詞借用以前の副詞の役割 [romancisation][lexicology][latin][french][adverb][synonym][japanese][onomatopoeia][lexical_stratification]

 英語語彙の三層構造について,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) を始めとする記事で取り上げてきた.本来語とロマンス系借用語との差は,意味や語法上の微妙な差として現われることが多い.例えば,本来語動詞 beat が "to defeat, to win against sb" であるのに対して,フランス語動詞 vanquish は "to defeat sb completely" である.また,本来語動詞 wet が "to make sth wet" であるのに対して,フランス語形容詞から派生した動詞 moisten は "to make sth slightly wet" である.動詞についていえば,類義語間の差異は,多くの場合,迂言的に言い換えた場合の副詞(相当語句)の差異や有無であることが多い.
 このことを逆からみれば,ロマンス系動詞が借用される以前の時代(古英語や初期中英語)には,類義語は貧弱であり,表現力を求めるのであれば,副詞(相当語句)により迂言的に表現せざるを得なかったということになる.特に文学の文体における副詞の役割は大きかったに違いない.Donner (2) は,次のように指摘している.

In a period of the language antecedent to the influx of Latin verbs that allow modern authors so readily both to designate an act and to characterize its quality within a single word, modal qualifiers are likely to play rather a more important role than they currently do in literary rhetoric, which largely avoids them . . . .


 中英語期以降,法 (mood) を含意する副詞の役割が大きくなっていることは,Killie (127) などの言及している "adverbialization process" として認められるが,それ以前の時代にも,それとは異なる意味においてではあるが,上記の動詞語彙の貧弱さとの関連において,副詞の役割は重要だったと考えられる.
 ここで思い出すのは,日本語における動詞の貧弱さと擬音語様態副詞の豊富さだ.和語の動詞は比較的少なく,多くは漢語に補助動詞「する」を付加した派生的な動詞である.漢語が借用される以前の日本語では,先述の諸期中英語以前の状況と同様に,表現力を求めるかぎり,副詞的な役割をもつ語に依存せざるを得なかった.日本語の場合,副詞的な役割をもつ語として,擬音語が異常に発達していたことは広く知られている.現代の「ゴロゴロ」「スヤスヤ」「ジリジリ」「プンプン」「シトシト」「ベロンベロン」等々.漢語の動詞が大量生産された後もこれらの擬音語は遺産として引き継がれ,拡大すらしたが,動詞の表現力を補う副詞としての役割は,相対的に減じているのかもしれない.同様に,英語の副詞はロマンス系動詞の大量借用後も遺産として引き継がれ,拡大すらしたが,動詞の表現力を補う副詞としての役割は,相対的に減じてきたのではないか.
 ただし,これは,Donner も触れているとおり,"literary rhetoric" というレジスターにおいてのみ有効な議論かもしれない.いや,それすらも危うい.英語の副詞や日本語の擬音語の多用は幼稚な印象を与えかねない一方で,時にこれらの表現は驚くほど印象的な修辞を生み出すこともあるからだ.しかし,この問題は,英語史にとっても,日英語の比較にとっても,エキサイティングなテーマとなるに違いない.

 ・ Killie, Kristin. "The Spread of -ly to Present Participles." Advances in English Historical Linguistics. Ed. Jacek Fisiak and Marcin Krygier. Mouton de Gruyter: Berlin and New York: 1998. 119--34.
 ・ Donner, Morton. "Adverb Form in Middle English." English Studies 72 (1991): 1--11.

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