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french - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-23 11:02

2009-08-22 Sat

#117. フランス借用語の年代別分布 [loan_word][french][statistics][lexicology]

 ノルマン人の征服以降,フランス語の語彙が大量に英語に流入したことはよく知られている.その流入は実に今日まで絶え間なく続いてきており,英語史全体で2万語近くが入ってきたのではないかという推計がある.だが,もちろん常に同じペースで流入してきたわけではない.借用されたフランス単語を年代別に数えるという研究は古くからなされてきており,有名なものとしては OED を利用した Jespersen と Koszal の共同調査がある.宇賀治先生がご著書で数値等をまとめられているので,それに基づいてグラフ化してみた(数値データはこのページのHTMLソースを参照).ただ,この調査は悉皆調査ではなく,OED でアルファベットの各文字で始まるフランス借用語のうち,最初の100語を抽出し,その初出年で振り分けたものである.目安ととらえたい.

French Loanwords Intake Rate



 中英語期の中盤をピークとし,初期近代英語期にも一度小さなピークはあるものの,現在まで漸減を続けている.それでも,悉皆調査をすれば,どの時代も絶対数としてはそれなりの数にはなろう.借用が爆発的に増えた13世紀と14世紀は,イングランドにおいて英語が徐々にフランス語のくびきから解放され,復権を遂げてゆく時期である.そんな時期にフランス借用が増えるというのは矛盾するようにも思えるが,フランス語を母語としていた貴族が英語に乗り換える際に,元母語から大量の語彙をたずさえつつ乗り換えたと考えれば合点がいく.
 一方,16世紀の漸増は,[2009-08-19-1]で見たとおりルネッサンス期の借用熱に負っているところが大きい.借用語の増減の背後には,常に何らかの社会の動きがあるようである.
 英語におけるフランス借用語の研究はされ尽くされた観があるが,悉皆調査が行われていないというのは大きな盲点かもしれない.Jespersen などの時代と違って OED も電子化されているし,やりやすくはなっていると思うのだが.

 ・Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 9th ed. 1938. Oxford: Basil Blackwell, 86-87.
 ・宇賀治 正朋著 『英語史』 開拓社,2000年. 95頁.

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2009-08-16 Sun

#111. 英語史における古ノルド語と古フランス語の影響を比較する [contact][old_norse][french]

 英語は歴史のなかで数多くの言語と接触し,影響を受けてきたが,そのなかでも特に古ノルド語 ( Old Norse ) と古フランス語 ( Old French ) からのインパクトは顕著である.
 古ノルド語は古英語後期から中英語初期にかけて,古フランス語は主に中英語期を中心に,英語に多大な影響を及ぼした.両言語とも現代英語に深い接触の爪痕を残した点では共通しているが,爪痕のタイプは天と地ほど違う.英語史の概説書でも両言語の影響はよく対比されるので,今回は対比ポイントをまとめておきたい.下の表は,英語史における古ノルド語と古フランス語の役割を図式的に対比させたものである.

 古ノルド語古フランス語
影響の顕著な時代後期古英語から初期中英語中英語
影響の始まった地域主に北部・東部から主に南部から
英語との言語的類似大きい小さい
英語との歴史文化的類似大きい小さい
書き言葉としての立場なし確立
影響の及ぼし手の数多い少ない
影響の及ぼし手の階級一般階級上流階級
英語との社会言語学的関係同等上位
相互の意思疎通可能不可能
借用語の数中くらい多い
借用語のタイプ内容語と機能語主に内容語
借用語の難易度主に基本語基本語と難解語
借用語の頻度高い中くらい
借用語の文体口語的文語的
借用語の音節多くは単音節多くは多音節
地名の借用語多い少ない
綴り字への影響少ない多い


 対立を強調するためにいきおい単純化しすぎていることは否定できないが,二言語の影響を対立させてとらえる見方は,全体として妥当だと考える.ただ,あえて共通点は挙げなかったが,人名への影響の大きさなど,両言語ともに英語に大きな影響を与えている点も少なくないことは銘記しておきたい.
 英語史も歴史であり物語であるから,古ノルド語と古フランス語という登場人物に反対の個性をもたせてみるのも,脚本としてはおもしろいだろう.

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2009-08-01 Sat

#96. 英語とフランス語の素材を活かした 混種語 ( hybrid ) [hybrid][suffix][french]

 歴史上,多くの言語接触を経てきた英語には,語幹と接辞の語種の異なる派生語が多数存在する.このような語を混種語 ( hybrid ) というが,典型的なのは, (1) 語幹はフランス語だが接辞は本来語,(2) 語幹は本来語だが接辞はフランス語,の二通りのタイプである.以下の例では,フランス語部文を赤のイタリックにしてある.

 (1) colourless, commonly, courtship, dukedom, faintness, faithful, noblest, peacefully, preaching
 (2) enlightenment, fishery, goddess, hindrance, loveable, mileage, murderous, oddity

 (1) のタイプは14世紀ころから,(2) のタイプは14世紀後半ころから見られるようになった.特に (2) のタイプは,大量のフランス借用語に慣れてこその習慣と考えられるから,フランス語との接触が本格的に始まった12世紀以降,かなりの時間を経たのちに出現してきたということはうなずける.
 日本語の接尾辞にも,漢語由来の「?的」や英語由来の「?チック」などが和語の語幹に付加される例があるが,それは日本語が両言語と接触して久しいからといっていいだろう.

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