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12月23日,白水社の月刊誌『ふらんす』2025年1月号が刊行されました.今年度,同誌で連載記事「英語史で眺めるフランス語」を寄稿していますが,今回は第10回「英語綴字におけるフランス語の影響」です.
なんと今号は『ふらんす』の100周年号という記念すべき号でした."Revue France, 100 ans!" と表紙にあり,特集企画「ふらんす100年!」も掲載されています.そのような記念号の一画に,フランス語史ならぬ英語史の連載記事を載せていただくのは恐縮でもあり,喜びでもあります.稀な瞬間に立ち会わせていただき,白水社さんにも感謝いたします.
1. 英語の綴字は意外とフランス語風
ノルマン征服の影響で,その後の英語の綴字にはフランス語の綴字習慣が多分に反映されています.英単語の綴字が実はフランス語的であることはあまり知られていません.
2. 「氷」が īs から ice へ
英語の綴字は,フランス語の影響のもと中英語期にかけて大きく変容しました.「過剰修正」の結果,例えば現代英語の ice にみられるような -ce の綴字が広く採用されました.
3. チャ行子音の綴字が c から ch へ
フランス語の影響により,古英語では c で表記されたチャ行子音が中英語期に ch へと置換されました.これにより英単語 child や church などの綴字が確立しました.
4. 消えた古英語の文字
古英語で常用された文字 (æ, ƿ, þ, ð)は,フランス語に存在しなかったこともあり,中英語以降に衰退していき,最終的には消滅しました.
5. なぜ英語綴字はフランス語かぶれしたのか?
英語綴字は,簡素化や合理化の方向を目指すのではなく,むしろ威信あるフランス語の綴字習慣を受け入れることにより,若干複雑化しました.フランス語は権力と教養と洗練の言語だったのです.
英語の綴字におけるフランス語の影響は,中英語期の綴字変化や古英語文字の廃用に顕著に見られます.これにより古英語的な綴字は影を潜め,代わって現代的な見栄えの綴字が拡がることになりました.
さらに詳しくは,直接『ふらんす』1月号を手に取ってお読みいただければ.過去9回の連載記事は hellog 記事群 furansu_rensai で紹介してきましたので,そちらもご参照ください.
今号と関連して,heldio でも「#1305. 英語綴字におけるフランス語の影響 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第10弾」と題してお話ししていますので,こちらもお聴きください.
・ 堀田 隆一 「英語史で眺めるフランス語 第10回 英語綴字におけるフランス語の影響」『ふらんす』2025年1月号,白水社,2024年12月23日.52--53頁.
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