hellog〜英語史ブログ

#4808. なぜ女性に関する/対するタブーが多いのか?[gender][taboo][race][anthropology]

2022-06-26

 タブー (taboo) という語を一般に広めた功績は,18世紀イングランドの大航海者 James Cook (1728--79),通称 Captain Cook に帰せられる(cf. 「#4162. taboo --- 南太平洋発、人類史上最強のパスワード」 ([2020-09-18-1]),「#4802. 絶対的タブーは存在しない」 ([2022-06-20-1])).例えば Cook は1768--71年のタヒチへの航海日誌にて,タヒチの女性は男性と一緒に食事をしないという風習に触れ,これを "Tabu" として言及している.
 この例をはじめとして,女性に「対して」課される種類のタブーは古今東西で非常に広くみられるようだ.同じように,女性に「関する」タブーやその周辺の話題にも事欠かない.例えば「#1908. 女性を表わす語の意味の悪化 (1)」 ([2014-07-18-1]) や「#1909. 女性を表わす語の意味の悪化 (2)」 ([2014-07-19-1]),「#908. bra, panties, nightie」 ([2011-10-22-1]),「#1483. taboo が言語学的な話題となる理由」 ([2013-05-19-1]),「#1507. taboo が言語学的な話題となる理由 (4)」 ([2013-06-12-1]) などからも,その匂いを感じ取ることができるだろう.
 一般に性 (gender) に関するタブーは普遍的であり,そのなかでもとりわけ女性に焦点が当てられることが多いということかと思われるが,なぜ男性ではなく女性なのだろうか.1つの見方によれば,多くの社会において女性へのタブーがみられることは,女性が男性よりも劣っているという一種の性的カースト制度・思想の反映と解釈できるのではないかという.Allan and Burridge (4) は,上記のタヒチのタブーの事例を念頭に,次のように述べている.

. . . we can look at this taboo in another way, as the function of a kind of caste system, in which women are a lower caste than men; this system is not dissimilar to the caste difference based on race that operated in the south of the United States of America until the later 1960s, where it was acceptable for an African American to prepare food for whites, but not to share it at table with them. This is the same caste system which permitted men to take blacks for mistresses but not marry them; a system found in colonial Africa and under the British Raj in India.


 上記のタヒチからの例は習慣・風習にまつわるタブーだが,世界の言語における言葉上のタブーについても「性的カースト」の観点から分析してみる価値がありそうだ.

 ・ Allan, Keith and Kate Burridge. Forbidden Words: Taboo and the Censoring of Language. Cambridge: CUP, 2006.

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