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hel_education - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-07-02 08:49

2019-12-28 Sat

#3897. Alternative Histories of English [hel_education][review][history][sociolinguistics][world_englishes][variety]

 この2日間の記事 ([2019-12-26-1], [2019-12-27-1]) で「歴史の if」について考えてみた.反実仮想に基づいた歴史の呼び方の1つとして alternative history があるが,この表現を聞いて思い出すのは,著名な社会言語学者たちによって書かれた英語史の本 Alternative Histories of English である.
 この本は,実際のところ,反実仮想に基づいたフィクションの英語史書というわけではない.むしろ,事実の記述に基づいた堅実な英語史記述である.ただし,現在広く流通している,いわゆる標準英語のメイキングに注目する「正統派」の英語史に対して,各種の非標準英語,すなわち "Englishes" の歴史に光を当てるという趣旨での「もう1つの歴史」というわけである.
 しかし,本書は(過去ではないが)未来に関するある空想に支えられているという点で,反実仮想と近接する部分が確かにある.このことは,2人の編者 Watts and Trudgill が執筆した "In the year 2525" と題する序論にて確認できる.以下に引用しよう.

   If the whole point of a history of English were, as it sometimes appears, to glorify the achievement of (standard) English in the present, then what will speakers in the year 2525 have to say about our current textbooks? We would like to suggest that orthodox histories of English have presented a kind of tunnel vision version of how and why the language achieved its present form with no consideration of the rich diversity and variety of the language or any appreciation of what might happen in the future. Just as we look back at the multivariate nature of Old English, which also included a written, somewhat standardised form, so too might the observer 525 years hence look back and see twentieth century Standard English English as being a variety of peculiarly little importance, just as we can now see that the English of King Alfred was a standard form that was in no way the forerunner of what we choose to call Standard English today.
   There is no reason why we should not, in writing histories of English, begin to take this perspective now rather than wait until 2525. Indeed, we argue that most histories of English have not added at all to the sum of our knowledge about the history of non-standard varieties of English --- i.e. the majority --- since the late Middle English period. It is one of our intentions that this book should help to begin to put that balance right. (1--2)


 正統派に属する伝統的な英語史の偏狭な見方を批判した,傾聴に値する文章である."alternative history" は,この2日間で論じてきたように,原因探求に効果を発揮するだけでなく,広く流通している歴史(観)を相対化するという点でも重要な役割を果たしてくれるだろう.
 本書の出版は2002年だが,それ以降,英語の非標準的な変種や側面に注目する視点は着実に育ってきている.関連して「#1991. 歴史語用論の発展の背景にある言語学の "paradigm shift"」 ([2014-10-09-1]) の記事も参照されたい.なお,このような視点を英語史に適用する試みは,いまだ多くないのが現状である.

 ・ Watts, Richard and Peter Trudgill, eds. Alternative Histories of English. Abingdon: Routledge, 2002.

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2019-12-27 Fri

#3896. 「歴史の if」の効用 (2) [methodology][history][hel_education]

 昨日の記事 ([2019-12-26-1]) に引き続いての話題.赤上 (64) によれば,「もしもあの時――」という反実仮想の思考法は,英語では様々な呼び方があるという.'what if?' history, alternative history, counterfactual history, allohistory などである(一方 alternate history は一般的にはフィクションを指す).
 「歴史の if」は学術的方法論としても提案されている.その分野の第一人者がイギリスの歴史学者 Niall Ferguson である.Ferguson は1997年の編著 Virtual History の序章において,次のように述べている(赤上,p. 165 の訳より).

われわれは,妥当性を持つと判断する「ありえたかもしれない歴史」を絞り込むことによって――つまり,「可能性 (chance)」という得体の知れないものを,蓋然性 (probabilities) の判断へと発想を転換させることによって――,「唯一の決定論的な過去」と「扱いづらいほどに無数に存在する反実仮想」という究極の選択を回避できる.つまり,反実仮想のシナリオは,単なるファンタジィではなく,シミュレーションでなければならない.複雑化する世界においてわれわれは,実際には起こらなかったが,起こってもおかしくなかった出来事の相対的確率を算出しようと試みる(「仮想歴史 (virtual history)」と命名した所以である).


 「もうひとつの歴史」の相対的確率を算出するのに Ferguson の提案した手法が,「もしも○○がなかったら」 ('but for' questions) という問いかけである.これにより「もうひとつの歴史」の因果関係や論理的必然性が確保されているかを判断しようとした(赤上,p. 166).「もしも○○がなかったら」という問いは,あくまで手段であり目的ではないことに注意したい.目的は「もうひとつの歴史」の相対的確率を得ることである.
 もちろんこの手法によって因果関係を探るにあたっては,難しい問題が立ちはだかる.1つには「説明すべき結果の範囲をどう設定するかによって,原因の重要度が変わってしまう」という問題がある(赤上,p. 28).2つめに「説明すべき結果の範囲が広くなるほど,学術的な根拠が乏しくなる」という問題がある(赤上,p. 29).端的にいえば「もしもあの時○○がなかったら,その翌日/1世紀後にはどんな世の中になっていただろうか」という問いに対して,翌日の場合か1世紀後の場合かで,○○の原因としての重要度も信用度も異なるにちがいない,ということだ
 このような方法論上の問題にも注意しつつ,これからは授業などに「歴史の if」をもっと持ち込んでみようか,などと思案する年の瀬である.

 ・ 赤上 裕幸 『「もしもあの時」の社会学』 筑摩書房〈ちくま選書〉,2018年.

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2019-12-26 Thu

#3895. 「歴史の if」の効用 (1) [methodology][history][hel_education]

 昨日の記事「#3894. 「英語復権にプラス・マイナスに貢献した要因」の議論がおもしろかった」 ([2019-12-25-1]) で,(英語の)歴史の理解を深めるのに「歴史の if」を議論することが有益であると指摘した.
 従来,歴史学では「歴史の if」は禁物とされてきた.実際に起こったことを根拠として記述するというのが歴史学の大前提であり,妄想は控えなければならないというのが原則だからだ.「もしあのとき○○だったら今頃××になっていたかもしれない」などという「未練学派」 ('might-have-been' school of thought) に居場所はないという態度だ.
 しかし,歴史学からも「歴史の if」の重要性を指摘する声が上がってきている.2018年に『「もしもあの時」の社会学』を著わした赤上 (27) は,序章「歴史に if は禁物と言われるけれど」のなかで,次のように述べている.

 しばしば「歴史の if」は歴史の原因を探求する時に用いられる.歴史上の出来事は一度しか起こらないので,反実仮想は因果関係の推定を可能にしてくれる有効な方法なのだ.カーが『歴史とは何か』で指摘したように,「歴史の研究は原因の研究」であるならば,歴史家も無意識のうちに反実仮想の思考を行なっていることになる.たとえば,「Aが原因でBが起きた」と考える場合,それは「もしAが起こらなかったら,Bは起こらなかったであろう(あるいは,違った形で起こったであろう)」ということを意味する.そこでは「もしAが起こらなかったら,Bは起こったであろう」とか「Aが起こったのに,Bは起こらなかった」という状態は否定される.
 厳密に言えば,原因の判定とは「必要原因(必要条件)」を明らかにし,その重要度を決めることだ.「必要原因」とは,それがなかったならば,ある特定の結果が起こりえなかった原因のことを指す.ある一つの原因に関し,ありえたかもしれない複数の結果と,実際に起こった結果を比べたときに,違いが大きければ大きいほど,その原因の重要度は高いと言える.このようにして,複数の原因を俎上に載せて検討することで,どれが「必要原因」かを特定できると考えられる.


 さらに次のようにも主張している.

「歴史の if」というと,「クレオパトラの鼻」のような,風が吹けば桶屋が儲かる式の発想を思い浮かべる人が多いかもしれないが,それは誤解である.〔中略〕実際に起こった出来事の原因や因果関係を明らかにする作業は重要だが,それが全てではない.「歴史の if」に着目することは,当時の人々が想像した「未来」 (= imagined futures) にわれわれの関心を導くという点で重要なのだ.本書では,反実仮想の定義を,一般的に用いられているよりも少し広く捉え,歴史の当事者たちが思い描いた未来像,すなわち「歴史のなかの未来」を検討対象に加えることを提唱したい.こうした視点こそ,二〇世紀末から二一世紀にかけて登場してきた反実仮想研究が取り組もうとしている新機軸なのだ. (32--33)


史実以外にもありえた可能性に思いを巡らせる反実仮想は,想像力を触発して,歴史のなかの「敗者」を救済する唯一の方法である.歴史上には,偶然の要素によって結果が大きく左右された出来事,つまり,もう一度歴史をやり直すことができたとしたら結果が入れ替わってしまうような出来事も少なくない.当時の人々の期待や不安,満たされなかった願望,実現しなかった数々の計画なども,それらが後世に引き継がれていない場合は,歴史のなかの「敗者」と言えるだろう. (50)


 「歴史の if」は,過去の出来事をアクチュアル化してとらえることを促してくれる.もっと重視してもよい視点だと思う.

 ・ 赤上 裕幸 『「もしもあの時」の社会学』 筑摩書房〈ちくま選書〉,2018年.

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2019-12-25 Wed

#3894. 「英語復権にプラス・マイナスに貢献した要因」の議論がおもしろかった [reestablishment_of_english][history][hel_education]

 今学期の英語学演習の授業では,英語史の古典的名著の1つ Baugh and Cable を読みつつ,グループでの議論を繰り広げてきた.とりわけ議論として盛り上がって楽しかったのは,ノルマン征服によって地下に潜った英語が13世紀以降徐々に復権していく過程にあって,英語の復権に最も貢献したのは具体的にどの事件・出来事・潮流だったと考えるかというディスカッションである.
 Baugh and Cable の6章 "The Reestablishment of English, 1200--1500" を読んでいたところで,以下の節のタイトルを「英語復権にプラス・マイナスに貢献した要因」として掲げ,みなで各要因の効き具合を議論した上で,最強の要因を決定するという趣旨だった.様々な意見が出て,なかなかおもしろかった.

 94. The Loss of Normandy
 95. Separation of the French and English Nobility
 96. French Reinforcements
 97. The Reaction against Foreigners and the Growth of National Feeling
 98. French Cultural Ascendancy in Europe
 100. Attempts to Arrest the Decline of French
 101. Provincial Character of French in England
 102. The Hundred Years' War
 103. The Rise of the Middle Class

 英語の復権にプラスに作用した要因としては 94, 95, 97, 101, 102, 103 が挙げられ,議論の対象となった.一方,英語の復権にマイナスに働いた要因(あるいは相対的にフランス語の威信の高揚に作用した要因)としては 96, 98, 100 が指摘された.「#3096. 中英語期,英語の復権は徐ろに」 ([2017-10-18-1]) でも取り上げたようにこの評価はもっともなのだが,そこに様々な意見が飛び交うのがおもしろい.
 たとえば,「96. French Reinforcements」では,Henry III がフランス人とフランス語を重用し,相対的に英語を軽視したという記述がみられるが,「#2567. 13世紀のイングランド人と英語の結びつき」 ([2016-05-07-1]) でも述べたように,むしろその後の反動「98. French Cultural Ascendancy in Europe」を考えれば,英語復権のための呼び水になったともいえ,間接的には英語復権にとってプラスに作用したと穿った解釈をすることもできる.
 また,2歩進んで1歩下がるかのような数世紀にわたる緩慢な英語復権の歩みに関して,一連の要因の皮切りである「94. The Loss of Normandy」が起こらなかったなら,そもそも英語の復権が緒に就くことはなかったという点で,これこそが最重要という見方が出た一方で,むしろ一連の要因の締めくくりである「102. The Hundred Years' War」が最重要という意見も飛び出した.さらに,地味ではあるが「103. The Rise of the Middle Class」が決定的ではないかという見解も出た.参加者それぞれが一家言もっているようで,実に実りある議論となった.
 各要因の効き具合を検討するということは,その要因がなかったら英語の復権はならなかった(あるいは遅れた)のではないかという可能性を考察するということであり,すなわち「歴史の if」のシミュレーションでもある.しばしば妄想が入り込むにせよ,英語史においても「歴史の if」の思考実験は必要であると実感した.
 「歴史の if」については「#3097. ヤツメウナギがいなかったら英語の復権は遅くなっていたか,早くなっていたか」 ([2017-10-19-1]),「#3108. ノルマン征服がなかったら,英語は・・・?」 ([2017-10-30-1]) の記事も参照.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2019-11-21 Thu

#3860. 京大先生シアター,家入葉子先生による「英語史 ことばが変化し続けることの意味」 [hel_education][notice][link]

 京大先生シアターに,京都大学文学研究科(文献文化学専攻英語学英米文学専修)の家入葉子先生が出演しています.「英語史 ことばが変化し続けることの意味」と題した3分弱の動画です.こちらよりどうぞ.
 英語に限らず,すべての言語が過去に変化してきましたし,そして現在も変化しています.言葉は常に変化するものです.家入先生は,動画のなかで do 迂言法 (do-periphrasis) や make の使役構文 (causative) などの話題に触れながら「現代に引きつけた英語史」という視点を押し出されています.英語史の教育・研究において,この視点はますます重要になってくることと私も考えています.
 家入先生のウェブサイトは,英語史関連のコンテンツも充実しています.リンクも様々に張られていますので,英語史の学びに役立ちます.

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2019-10-16 Wed

#3824. イギリス史・英語史は諸民族・諸言語が作り上げてきた織物 [history][hel_education][contact]

 「#37. ブリテン島へ侵入した5民族の言語とその英語への影響」 ([2009-06-04-1]) でみたように,1066年までの「イギリス史」においては,少なくとも5回の異民族の渡来が起こっている.ケルト人,ローマ人,アングロ・サクソン人,デーン人,ノルマン人である.各々の背後にあった言語は,ケルト語,ラテン語,英語,古ノルド語,ノルマン・フランス語である.イギリス史・英語史の前半は,これらの諸民族・諸言語が織りなす複雑な物語といってよい.イギリス史の編著者である川北 (17) が次のように述べている.

 ケルト期からノルマン期までの「イギリス」史を特徴づける点として異民族の接触をあげることができる.あらたな民族が渡来した際には征服・侵略活動がおこなわれる.しかし,その後の支配体制としては,先住民族をあらたな渡来民族が上から支配している重層的関係とともに,地理的な先住民との住み分けや共存関係がみられた.「ローマン=ブリティッシュ」「アングロ=ブリティッシュ」「アングロ=デーニッシュ」「アングロ=ノルマン」体制という場合に,それら両方の関係が示唆されていることに注意すべきである.
 外民族の侵入は,各時代のブリテン島の民族構成を大きく変化させた.あらたな文化の創造も,侵入・移住してきた外民族の存在をぬきにしては語れない.民族の変化は,政治や宗教も含む大きな社会的転換を引き起こす可能性をもっていた.また,すべての民族の活動があって「イギリス」の成立があるのであり,特定の民族活動のみが重要であるというわけではない.


 引用にある「先住民族をあらたな渡来民族が上から支配している重層的関係」を「縦糸」とみなし,「地理的な先住民との住み分けや共存関係」を「横糸」とみなせば,イギリス史は,様々な種類の糸で織られた織物といえるだろう.そして,これはほぼそのままに英語史にも当てはまるように思われる.
 縦糸と横糸の絡み合いを表わす「ローマン=ブリティッシュ」などの複合的な用語を,フルに展開した用語を時代順に与えてみた.

段階川北の用語長く展開してみた用語
1(ブリティッシュ)British (language)
2ローマン=ブリティッシュRoman-British (language)
3アングロ=ブリティッシュAnglo-Roman-British (language)
4アングロ=デーニッシュDanish-Anglo-Roman-British (language)
5アングロ=ノルマンNorman-Danish-Anglo-Roman-British (language)


 英語史の始まりは第3段階以降ということになるが,それ以前に作られていた下地の上にさらに織り上げられていったものとみるならば,英語は少なく見積もっても "Norman-Danish-Anglo-Roman British language" と呼ぶべき織物といえるだろう.

 ・ 川北 稔 「第一章 『イギリス』の成立」『イギリス史』川北 稔(編),山川出版社,1998年.16--53頁.

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2019-09-26 Thu

#3804. 英語史のパターン [hel_education][historiography]

 昨日も引用した近藤和彦(著)の新書のイギリス史に,「イギリス史のパターン」と題するセクションがある (16) .俯瞰的かつ示唆に富む文章として引用しておきたい.

 氷期が終わるとともに,ブリテン諸島は海によってヨーロッパ大陸から隔てられ,グレートブリテン島とアイルランド島も分離した.だが,これは孤立の始まりではない.海は人や文化を隔てるだけでなく,結びつけもする.イギリス史はけっしてブリテン諸島だけで完結することなく,広い世界との関係において展開する.農耕・牧畜民やローマやヴァイキングをはじめとして,海の向こうからくる力強く新しい要素と,これを迎える諸島人の抵抗と受容,そして文化変容.これこそ先史時代から現代まで,何度となくくりかえすパターンであった.
 こうしたことをくりかえすうちに,やがてイギリス人が外の世界へ進出し,他を支配し従属させようとする.その摩擦と収穫をはじめとして,さまざまの経験を重ねつつ,競合し共存し,それぞれに学びあい,新しい秩序が形成される.二一世紀のイギリスと世界は,そうした歴史の所産である.


 この文章中の「イギリス史」を「英語史」と置き換えても,そのまま当てはまることに驚く.この文章は,ほぼそのままで「英語史のパターン」の文章として読み替えることができるのだ.鍵となる概念をつなげれば,接触・競合・混合・共存・変容・支配・従属・消失・獲得・秩序といったところだろうか.これに沿ってイギリス史も英語史も展開してきたといえる.

 ・ 近藤 和彦 『イギリス史10講』 岩波書店〈岩波新書〉,2013年.

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2019-09-04 Wed

#3782. 広島慶友会の講演「英語史から見る現代英語」を終えて [keiyukai][hel_education][slide][link][sobokunagimon][dialect][fetishism][slide]

 「#3774. 広島慶友会での講演「英語史から見る現代英語」のお知らせ」 ([2019-08-27-1]) でお知らせしたとおり,先週末の土日にわたって広島慶友会にて同演題でお話ししました.5月の準備の段階から広島慶友会会長・副会長さんにはお世話になっていましたが,当日は会員の皆さんも含めて,活発な反応をいただき,英語・日本語の話題について広く話し会う機会をもつことができました.
 初日の土曜日には,「英語史で解く英語の素朴な疑問」という演題でお話しし,その終わりのほうでは,参加者の皆さんから具体的な「素朴な疑問」を募り,それについて英語史の観点から,あるいはその他の観点から議論できました.特に言語ごとに観察される「クセ」とか「フェチ」の話題に関しては,その後の懇親会や翌日の会にまで持ち越して,楽しくお話しできました(言語の「フェチ」については,fetishism の各記事を参照).
 2日目の日曜日には,「英語の方言」と題して,方言とは何かという根本的な問題から始め,日本語や英語における標準語と諸方言の話題について話しました.こちらでも活発な意見をいただき,私も新たな視点を得ることができました.
 全体として,土日の公式セッションおよび懇親会も含めまして,参加された皆さんと一緒に英語というよりは,言語について,あるいは日本語について,おおいに語ることができたと思います.非常に有意義な会でした.改めて感謝いたします.
 せっかくですので,講演で用いたスライド資料をアップロードしておきます.

 ・ 講演会 (1): 英語史で解く英語の素朴な疑問
 ・ 講演会 (2): 英語の方言

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2019-09-02 Mon

#3780. Foley による「標準英語の発展」の記述 [standardisation][hel_education][demography][me_dialect][black_death][printing][caxton]

 私たちが普段学び,用いている標準英語 (Standard English) が,歴史上いかに発展してきたかという話題は,英語史の最重要テーマの1つであり,本ブログでも standardisation の記事を中心に様々に取り上げてきた(とりわけ「#3231. 標準語に軸足をおいた Blake の英語史時代区分」 ([2018-03-02-1]),「#3234. 「言語と人間」研究会 (HLC) の春期セミナーで標準英語の発達について話しました」 ([2018-03-05-1]) を参照).
 英語の標準化の歴史は,どの英語史の概説書でも必ず取り上げられる話題だが,人類言語学の概説書を著わした Foley の書いている "The Development of Standard English" という1節が,すこぶるよい文章である.要点を押さえながら,教科書的な標準英語の発展を非常に上手にまとめている.3ページ弱にわたるので,引用するのにも決して短くはないが,授業の講読の題材としても使えそうなので,PDFでこちらに用意しておく.
 この記述がすぐれている点の1つは,標準英語のベースとなるロンドン英語が諸方言の混合物であることについて,歴史的経緯を分かりやすく説明してくれていることだ.もともと南部方言的な要素を多分に含んでいたロンドンの英語が,14--15世紀のあいだに,経済的に繁栄していた中東部からの人口流入を受けて中部方言的な要素を獲得した.ここには,14世紀後半からの黒死病に起因する人口流動性の高まりも相俟っていたろう.さらに,15世紀中には,羊毛製品で経済的に潤った北部方言の話者も,多くロンドンの上流層へ流れ込み,結果として,諸方言の混合としてのロンドン英語が成立した.そして,これが後の標準英語の母体となっていったのである.
 もう1つ注目すべきは,英語史に限定されない一般的な立場から,言語の標準化の3つの条件を提示して議論を締めくくっている点である.1つは,経済的・政治的に有力な地域の言語・方言が標準語の土台となるということ.もう1つは,その言語・方言がエリート集団のものであること.最後に,文学伝統をもった言語・方言が標準語の土台となりやすいことだ.この下りだけでも,以下に直接引用しておきたい.

To summarize, the rise of Standard English . . . exhibits a number of important general points about the how and whys of language standardization: first, if economic and political power is centralized in a particular area, the language of that area has a strong likelihood of being the basis of the standard, as the center imposes its hold upon the periphery (Standard French based on the Parisian dialect is another example of this); second, the standard is likely to be based on the speech of economically and politically powerful social groups, the elite, as their speech becomes imposed upon or diffused to lower status groups; ability to speak this dialect now becomes emblematic of higher social standing and thus a desirable skill, a kind of symbolic resource further empowering the elite, who may control access to the dialect through the education system, as is clearly the case in most modern nation-states; and third, a language or dialect which is the basis of literate forms and other cultural activities is a strong candidate for an imposed standard (Standard Italian based on the Tuscany dialect of Dante exemplifies this). (Foley 403)


 ・ Foley, William A. Anthropological Linguistics: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 1997.

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2019-08-27 Tue

#3774. 広島慶友会での講演「英語史から見る現代英語」のお知らせ [notice][keiyukai][hel_education][sobokunagimon][dialect]

 今週末8月31日(土)の14時?17時,および翌日9月1日(日)の10時?12時に,広島慶友会にて「英語史から見る現代英語」と題する2回の講演を行ないます.場所は,広島YMCA国際文化センター3号館3階です.公式の案内はこちらです.
 大雑把な演題ではありますが,初日の土曜日は,英語に関する様々な素朴な疑問を具体的に取り上げ,英語史の観点から解決していくという趣旨で話しを進める予定です.講演の後半には,参加している皆さんからの疑問を受け付け,一緒に議論していくということも考えています.関連して,同趣旨の本ブログ記事「#3677. 英語に関する「素朴な疑問」を集めてみました」 ([2019-05-22-1]),あるいは sobokunagimon の各記事もご覧ください.
 2日目の日曜日のセッションは,英語の方言について考えます.そもそも方言とは何か,言語と方言とはどう異なるのかという話しから始め,日本語の諸方言を参照しつつ,イングランドで話されている現代英語の地域方言をのぞいてみます.言語・方言の死,方言差別,世界の様々な英語,世界語としての英語のもつ求心力と遠心力などの話題に触れながら,英語の枠内にとどまらず,広く言語・方言の多様性について考えていきたいと思います.この議論を通じて,私たちが日々学び,用いている標準英語が,現代世界においてどのような立ち位置にあるか,よく分かるようになると思います.今後の英語との付き合い方を考える上で参考になるはずです.こちらの話題に関しては,dialectworld_englishes などの記事を参照ください.

Referrer (Inside): [2019-09-04-1]

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2019-06-17 Mon

#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」 [notice][hel_education][elt][sobokunagimon][adjective][adverb][comparison][rensai][latin][french][synthesis_to_analysis][link]

 6月14日に,『英語教育』(大修館書店)の7月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第4回目として拙論「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」が掲載されています.是非ご覧ください.

『英語教育』2019年7月号



 形容詞・副詞の比較表現については,本ブログでも (comparison) の各記事で扱ってきました.以下に,今回の連載記事にとりわけ関連の深いブログ記事のリンクを張っておきますので,あわせて読んでいただければ,-ermore に関する棲み分けの謎について理解が深まると思います.

 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
 ・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第4回 なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」『英語教育』2019年7月号,大修館書店,2019年6月14日.62--63頁.

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2019-06-09 Sun

#3695. 日本における英語関係史の略年表 [timeline][hel_education][english_in_japan]

 小学館の『英語便利辞典』に,日本における英語受容史の主要な事項を年代順に列挙した略年表がある (460--61) .1600年から第2次世界大戦直後までの3世紀半に渡る日本と英語との接触の足跡を辿ろう.

年号事項解説
1600(慶長5)年ウィリアム・アダムズ(William Adams;三浦按針)豊後海岸に漂着.ウィリアム・アダムズは日本に最初に来た英国人とされる.家康に重用された.
1808(文化5)年フェートン号事件 (Phaeton Incident) .イギリスの軍艦フェートン号が長崎港に乱入.この事件をきっかけに,蘭学から英学へ移行.
1814(文化11)年『暗厄利亜語林大成(あんげりあごりんたいせい)』出版.蘭英字書をもとに編まれた日本最初の英和辞書.
1841(天保12)年中浜万次郎(通称:ジョン万),米捕鯨船に保護される.中浜万次郎は出漁中に太平洋上の孤島で遭難.その後米捕鯨船に救助され,アメリカで教育を受け,1851年帰国.
1855(安政2)年洋学所設立,翌年蕃書調所となる.洋学所は幕府の設置する洋学研究所.
1858(安政5)年日米修好通商条約締結.日本が外国と結んだ最初の条約.
1859(安政6)年ヘボン博士来日.ヘボン (James Curtis Hepburn) 博士はヘボン式ローマ字で有名.辞書編纂,聖書の日本語訳その他日本文化に多大の寄与をした.
1860(万延1)年咸臨丸アメリカに向け出航.日本の軍艦咸臨丸は,日米修好通商条約批准のための遣米使節団を乗せたポウハタン号に随行したが,同船には福沢諭吉,勝海舟なども乗船していた.
1862(文久2)年『英和對譯袖珍(しゅうちん)辞書』出版.堀達乃助他編.日本最初の本格的英和辞書.
1866(慶応2)年『西洋事情』ベストセラーとなる.福沢諭吉が著し,明治開化期の文明に大きな影響を与えた.
1867(慶応3)年『和英語林集成』出版.ヘボンによる最初の和英辞典.その後改訂増補された.
1871(明治4)年津田梅子渡米.津田梅子は日本初の女子留学生.1900年女子英学塾(現在の津田塾大の前身)を創設.
1876(明治9)年クラーク博士,札幌農学校に赴任.クラーク (William Smith Clark) 博士は札幌農学校(現北海道大学)初代教頭を務める.諸説あるが,Boys, be ambitious! で有名.同校は新渡戸稲造(にとべいなぞう),内村鑑三など優秀な人材を輩出する.
1890(明治23)年ラフカディオ・ハーン来日.ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn;日本名:小泉八雲)は作家,英文学者.松江中学,東京帝国大学などで教鞭をとる.主著『怪談』『心』など.
1914(大正4)年『熟語本意英和中辞典』出版.斎藤秀三郎著.独創的な内容は,その後の英和辞書に大きな影響を与える.
1918(大正7)年『武信和英大辞典』出版.日本初の本格的和英辞典で,現行の研究社『新和英大辞典』の前身.武信(たけのぶ)由太郎編.
1922(大正11)年パーマー (Harold E. Palmer) 来日.オーラル・メソッド(Oral Method;口頭教授法)を唱え,以後の英語教育に大きな影響を与えた.
1927(昭和2)年研究社『新英和大辞典』出版.日本初の本格的英和大辞典.現在は第6版が出されているが,初版の著者は岡倉由三郎.
1945(昭和20)年『日米会話手帳』ベストセラーとなる.戦後2か月を経ない出版で,360万部の爆発的売れ行きを示した.
1946(昭和21)年平川唯一,英語会話放送開始.平川唯一はNHK放送のいわゆる「カムカム英語」の担当者.第二次世界大戦後の英語ブームの元祖となる.


 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

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2019-06-08 Sat

#3694. 朝尾 幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』 [sobokunagimon][review][toc][hel_education]

 今年3月に出版された朝尾 幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』が広く読まれているようだ.拙著の『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)や『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)と同趣旨の本ということもあり関心をもって手に取ってみたが,実に読みやすく,分かりやすい.
 内容をどこまで掘り下げているかという観点からいえば,この新刊書は浅掘りである.しかし,「まえがき」 (iv) にあるように,著者は英語史の事前知識を想定しないという立場をとっており,その趣旨からすると,むしろ詳しすぎない程度に記述を抑えているセンスは素晴らしいと言ってよいだろう.本書が手に取ってもらいやすい理由である.
 著者が実例を挙げることを重視したと述べているとおり,本文にも〈英文法こぼれ話〉にも,読者の興味を引く例が掲載されている.ところどころに,見事なキャッチフレーズやセンスの光る解説がみられる.「英語は歴史的かなづかい」のような言い方もその1つだ.
 以下に目次を付そう.章節のタイトルがそのまま素朴な疑問になっているものが多い.本ブログでも扱ってきた話題が多く取り上げられているので,ブログ内をキーワード検索などして記事も眺めていただければと思うが,同じ問題でも,人が変われば眺め方も変わるものである.本書の解説を読んでみて,私自身の手持ちの解説とは異なり,ナルホドと思ったケースも多々あった.是非ご一読を.



 1 英語の始まり
  1.1 ブリテン島の攻防
  1.2 現代英語
  1.3 近代英語
  1.4 中英語
  1.5 古英語
  〈英文法こぼれ話〉 日比谷公園のルーン文字
 2 「てにをは」はどこにある
  2.1 「は」はどこにある
  2.2 屈折の話
  2.3 英語は聞き取りにくい
  〈英文法こぼれ話〉 アポストロフィー大論争
 3 代名詞にだけ主格・目的格があるのはなぜ
  3.1 古い姿を残す1人称代名詞
  3.2 単数にも複数にも you を使うのはなぜ
  3.3 文法性を捨てた3人称代名詞
  3.4 同じ起源だった who, what, why
  3.5 主格と目的格のせめぎあい
  〈英文法こぼれ話〉 who と whom,どちらを使う
 4 屈折はなぜ消えた
  4.1 英語消滅の危機
  4.2 消えた屈折
  4.3 代名詞の they はどこから来た
  〈英文法こぼれ話〉 ポアロはことばの名探偵
 5 格はどこへ行った
  5.1 主語・目的語は何でわかる
  5.2 なぜ It's me. と言うのか
  5.3 なぜ There is/are と言うのか
  5.3 なぜ go home と言うのか
 6 〈3単現〉だけでない動詞の謎
  6.1 不規則動詞は例外か
  6.2 〈3単現〉に -(e)s をつけるのはなぜ
  6.3 be 動詞が無秩序なのはなぜ
  〈英文法こぼれ話〉 『トム・ソーヤーの冒険』に現れる古英語の〈3単現〉
 7 未来形はどこにある
  7.1 「未来形」の謎
  7.2 will が未来を表すのはなぜ
  7.3 shall が未来を表すのはなぜ
 8 仮定法は仮定を表すのか
  8.1 なじみの薄い「法」
  8.2 ものの見方・とらえ方
  8.3 従節に現れる仮定法現在
  8.4 影の薄い仮定法
  8.5 過去形で現在を表すのはなぜ
  8.6 命令文に動詞の原形を使うのはなぜ
 8 仮定法は仮定を表すのか
  9.1 can に〈3単現〉の -s をつけないのはなぜ
  9.2 仮定法の意味を担うようになった may
  9.3 なぜ must には過去形がないのか
  9.4 could, might の将来
 10 覚えきれない単語の謎
  10.1 英語史上最大の危機
  10.2 こんなに語彙が多いのはなぜ
  10.3 不思議な綴り字の謎
  〈英文法こぼれ話〉 U・V・W の謎
 11 前置詞 of の意味はなぜ混乱している
  11.1 「の」では理解できない
  11.2 前置詞 of が所有格の意味を表すのはなぜ
  11.3 所有格と of のどちらを使う
 12 英語は歴史的かなづかい
  12.1 母音を目で見る
  12.2 姿を変えた英語の母音
  12.3 規則的に不規則な英語の綴り字
  〈英文法こぼれ話〉 ghoti の謎
 13 A の謎:可算・不可算はどうして決まる
  13.1 数詞から生まれた不定冠詞
  13.2 可算・不可算はだれが決めた
  13.3 形あるもの・ないもの
  13.4 なぜ a few と言うのか
  〈英文法こぼれ話〉 歴史に残った不定冠詞のつけ忘れ
 14 定冠詞の謎:the はつけるの,つけないの
  14.1 指示代名詞から生まれた定冠詞
  14.2 認識の共有
  14.3 輪郭をつくる
  14.4 とりたて
  〈英文法こぼれ話〉 ハックルベリー・フィンとトム・ソーヤー
 15 関係代名詞に that と wh- があるのはなぜ
  15.1 that を接続詞に使うのはなぜ
  15.2 that, who, which, what を関係代名詞に使うのはなぜ
  15.3 関係代名詞は省略されたのか
  〈英文法こぼれ話〉 二重否定は肯定か
 16 that で程度・結果を表すのはなぜ
  16.1 なぜ so/such ... that と言うのか
  16.2 なぜ so that ... で結果・目的を表すのか
  16.3 なぜ that が「そんなに」と言う意味になるのか
 17 不定詞に to がつくのはなぜ
  17.1 なぜ「不定詞」と言うのか
  17.2 不定詞に to がつくのはなぜ
  17.3 疑問文・否定文に do/does/did が現れるのはなぜ
  〈英文法こぼれ話〉 明治時代の助動詞 do
 18 不定詞は何を表す:to 不定詞と原形不定詞
  18.1 to 不定詞の意味はどこから生まれる
  18.2 動名詞と to 不定詞,何が違う
  18.3 知覚動詞と使役動詞:原形不定詞を使うのはなぜ
 19 現在完了形に have を使うのはなぜ
  19.1 現在完了はなぜ〈have+過去分詞〉なのか
  19.2 完了・結果・経験・継続の意味になるのはなぜ
  19.3 なぜ have to という言い方をするのか
 20 進行形は進行を表すのか
  20.1 進行形はなぜ〈be+...ing〉なのか
  20.2 クローズアップで見せる進行形
  20.3 なぜ be going to という言い方をするのか

 あとがきに替えて――『オックスフォード英語辞典』を使う



 ・ 朝尾 幸次郎 『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』 大修館,2019年.

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2019-05-21 Tue

#3676. 英語コーパスの使い方 [corpus][hel_education][link][methodology]

 たいそうな題名の記事ですが,これまでにコーパス利用について書いてきたブログ記事その他へのリンク集にすぎません.
 まず英語学でコーパスを利用しようと思ったら,様々な参考図書があるものの,まずは研究社のウェブサイトより「リレー連載 実践で学ぶ コーパス活用術」の連載記事(全37本)に目を通すのがよいと思います.筆者の堀田も影は薄いですが寄稿しています (cf. 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) と「#2216. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編」 ([2015-05-22-1])).
 本ブログからは corpus の各記事をご覧いただきたいのですが,その中から特に重要な記事を選んでおきます.

 ・ 「#568. コーパスの定義と英語コーパス入門」 ([2010-11-16-1])

 ・ 「#307. コーパス利用の注意点」 ([2010-02-28-1])
 ・ 「#367. コーパス利用の注意点 (2)」 ([2010-04-29-1])
 ・ 「#2779. コーパスは英語史研究に使えるけれども」 ([2016-12-05-1])

 ・ 「#363. 英語コーパス発展の3軸」 ([2010-04-25-1])
 ・ 「#368. コーパスは研究の可能性を広げた」 ([2010-04-30-1])
 ・ 「#1165. 英国でコーパス研究が盛んになった背景」 ([2012-07-05-1])

 ・ 「#1280. コーパスの代表性」 ([2012-10-28-1])
 ・ 「#2584. 歴史英語コーパスの代表性」 ([2016-05-24-1])
 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#517. ICE 提供の7種類の地域変種コーパス」 ([2010-09-26-1])

 ・ 「#271. 語彙研究ツールとしての辞書とコーパス」 ([2010-01-23-1])

 歴史英語コーパスのハブというべきサイトといえば,「#506. CoRD --- 英語歴史コーパスの情報センター」 ([2010-09-15-1]) を挙げないわけにはいきません.現時点で最も有用な歴史英語の情報集積サイトです.
 BNC, COCA, ICE, Brown Family, COHA, HC (= Helsinki Corpus), LAEME, EEBO, CLMET など個別の(歴史)コーパスについては,それぞれのタグをつけた bnc, coca, ice, brown, coha, hc, laeme, eebo, clmet もご参照ください.
 その他,リンク集としては「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) の記事も参照.

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2019-05-15 Wed

#3670.『英語教育』の連載第3回「なぜ不規則な動詞活用があるのか」 [notice][hel_education][elt][sobokunagimon][verb][conjugation][tense][preterite][participle][rensai][link]

 『英語教育』の6月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第3回目となる「なぜ不規則な動詞活用があるのか」が掲載されています.是非ご一読ください.

『英語教育』2019年6月号



 日常的な単語ほど不規則な振る舞いを示すというのは,言語にみられる普遍的な性質です.これは英語の動詞の過去・過去分詞形についてもいえます.大多数の動詞は規則的な語尾 -ed を付して過去・過去分詞形を作りますが,日常的な少数の動詞は,buy -- bought -- bought, cut -- cut -- cut, go -- went -- gone, sing -- sang -- sung, write -- wrote -- written などのように個別に暗記しなければならない不規則な変化を示します.今回の連載記事では,これら不規則な動詞活用の歴史をたどります.そして,「不規則」動詞の多くは歴史的には「規則」動詞であり,その逆もまた真なり,という驚くべき真実が明らかになります.
 動詞の不規則変化については,本ブログでも関連記事を書きためてきましたので,以下をご参照ください.

 ・ 「#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧」 ([2018-06-18-1])
 ・ 「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1])
 ・ 「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1])
 ・ 「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1])
 ・ 「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1])
 ・ 「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1])
 ・ 「#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である」 ([2018-06-24-1])
 ・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])
 ・ 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1])
 ・ 「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1])
 ・ 「#1858. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc. (2)」 ([2014-05-29-1])
 ・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1])
 ・ 「#1345. read -- read -- read の活用」 ([2013-01-01-1])
 ・ 「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1])
 ・ 「#2210. think -- thought -- thought の活用」 ([2015-05-16-1])
 ・ 「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1])
 ・ 「#3490. dreamt から dreamed へ」 ([2018-11-16-1])
 ・ 「#439. come -- came -- come なのに welcome -- welcomed -- welcomed なのはなぜか」 ([2010-07-10-1])
 ・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1])
 ・ 「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])
 ・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])

 連載のバックナンバーとして,第1回記事「なぜ3単現に -s をつけるのか」第2回記事「なぜ不規則な複数形があるのか」の案内もご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第3回 なぜ不規則な動詞活用があるのか」『英語教育』2019年6月号,大修館書店,2019年5月13日.62--63頁.

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2019-05-14 Tue

#3669. ゼミのグループ研究のための取っ掛かり書誌 [hel_education][bibliography][seminar][agentive_suffix]

 大学の英語史ゼミでは,今期も数名でミニ調査を行なう「グループ研究」を開始しています.5つのグループ研究テーマを設けていますが,各研究の取っ掛かりとして,いくつかの参考資料や文献を提示します.今後も随時ここに書誌を加えていこうかと思っていますので,ゼミ学生はたまに覗いてください.ミニ書誌ではありますが,せっかくなのでブログ上でオープンにしておきます.強調しておきますが,あくまで「取っ掛かり」のための書誌です.ここから研究を育てていってください.

0. 全般



1. be 完了の歴史

  • hellog より "perfect be" のタグのついた記事すべて
  • Rissanen, Matti. "Syntax." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 187--331. 215ff.
  • Sorace, A. "Gradients in Auxiliary Selection with Intransitive Verbs." Language 76 (2000): 859--90.
  • Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973. 2043ff.
  • 荒木 一雄,宇賀治 正朋 『英語史IIIA』 英語学大系第10巻,大修館書店,1984年.423頁他.
  • 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.
  • 保坂 道雄 『文法化する英語』 開拓社,2014年.


2. 行為者接尾辞の歴史

  • hellog より "suffix agent" のタグのついた記事すべて
  • Barker, Chris. "Episodic -ee in English: A Thematic Role Constraint on New Word Formation." Language 74 (1998): 695--727.
  • Bolinger. "Visual Morphemes." Language 22 (1946): 333--40.
  • Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
  • Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
  • Isozaki, Satoko. "520 -ee Words in English." Lexicon 36 (2006): 3--23.
  • Marchand, Hans. The Categories and Types of Present-Day English Word-Formation: A Synchronic-Diachronic Approach. 2nd. ed. München: Beck, 1969.
  • McDavid, Raven I., Jr. "Adviser and Advisor: Orthography and Semantic Differentiation." Studies in Linguistics 1 (1942).
  • Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.
  • 大石 強 『形態論』 開拓社,1988年.
  • 太田 聡  「「?する人[もの]」を表す接尾辞 -or について」『近代英語研究』 第25号,2009年,127--33頁.
  • 西川 盛雄 『英語接辞研究』 開拓者,2006年.


3. 強意語のサイクル

  • hellog より "intensifier" のタグのついた記事すべて
  • Peters, Hans. "Degree Adverbs in Early Modern English." Studies in Early Modern English. Ed. Dieter Kastovsky. Mouton de Gruyter, 1994. 269--88.
  • Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.
  • Stern, Gustaf. Meaning and Change of Meaning. Bloomington: Indiana UP, 1931.
  • Ullmann, Stephen. The Principles of Semantics. 2nd ed. Glasgow: Jackson, 1957.
  • Waldron, R. A. Sense and Sense Development. New York: OUP, 1967.
  • Williams, Joseph M. Origins of the English Language: A Social and Linguistic History. New York: Free P, 1975. 191ff.


4. 聖書の英語の通時的比較



5. 英語帝国主義批判

  • hellog より "linguistic_imperialism" のタグのついた記事すべて
  • Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at https://www.teachingenglish.org.uk/article/future-english.
  • Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
  • Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at https://www.teachingenglish.org.uk/article/english-next.
  • Phillipson, Robert. Linguistic Imperialism. Oxford: OUP, 1992.
  • 施 光恒 『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 集英社〈集英社新書〉,2015年.
  • 津田 幸男 『英語支配とことばの平等』 慶應義塾大学出版会,2006年.
  • 中村 敬 『英語はどんな言語か 英語の社会的特性』 三省堂,1989年.
  • 中村 敬 『なぜ,「英語」が問題なのか? 英語の政治・社会論』 三元社,2004年.
  • 水村美苗 『日本語が亡びるとき』 筑摩書房,2008年.

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2019-04-26 Fri

#3651. 5月14日(火)より,東京言語研究所の理論言語学講座(前期)「史的言語学」が開講されます [notice][hel_education]

 本年度前期,東京言語研究所の理論言語学講座の「史的言語学」部門は,本ブログの執筆者,堀田隆一が担当することになっています.講座概要 (PDF) で「英語史の概説を通じて,歴史的・通時的な言語の見方を身につける」と銘打っている通り,英語史と歴史言語学の入門講座です.概要に書いた文章を繰り返しますと,

英語という言語の特徴を理解するためには,それがたどってきた歴史を学ぶことが不可欠です.英語の起源はどこにあるのか,英語に見られる不規則性は何に由来するのか,英語は将来どうなってゆくのか,などの現代的な問題に歴史的・通時的な視点からアプローチすることで,多面的な英語観,言語観を形成することが本講義の目標です.


ということになります.
 5月14日(火)から毎週火曜日19:00?20:40の枠で10回の講義を予定していますので,関心のある方は東京言語研究所の HP よりお申込みください.申込みの締切は5月9日(木)となっています.また,第1週の始まる直前の5月12日(日)の13:00より,開講式および前期の面接ガイダンスが予定されています.
 なお,先週末の4月21日(土)には同研究所で,単発の春期講座「英語史の視点から英語を眺める」を開かせていただきました(cf. 「#3633. 4月21日(日),東京言語研究所の春期講座で「英語史の視点から英語を眺める」を話します」 ([2019-04-08-1])).レギュラー講座でもよろしくお願いいたします.

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2019-04-25 Thu

#3650. hellog 10周年になります [notice][hel_education]

 本ブログは,今回をもって3650番目を数えることになりました.毎日1つの記事ということで続けてきましたので,(閏年の計算云々は別にして)ほぼ10年間続けてきたことになります.続けてこられたのは,ひとえに英語史に関心を寄せる読者のみなさんのおかげです.ありがとうございます.
 10年前にブログを始めたのは,私の「英語史」の講義を受講していた大学生に,講義の補足情報を提供するためだったのですが,その後受講学生以外にも読者が少しずつ広がっていき,今では英語学習者,英語教師,そして英語学などを専攻する大学院生や研究者の方にも閲覧してもらっているようです.
 毎日の執筆ですし,おのずから校正も甘くなってしまうので内容や形式について不十分なところがありますが,引用や参照においては典拠を明示するなど,みなさんが各々の話題について確認したり,さらに調べたりできるようには心がけてきました.
 実はブログ執筆を通じていちばん恩恵を被っているのは執筆者自身であるということは,恐らく誰も信じないことかと思います(そうでないと続くわけがないのです)が,これは本当です.本ブログに基づいて英語史の書籍も複数出版しましたし,学術論文も出してきました.これらのいろいろなポジティヴな効用は,開始当時はまったく想定外でした.また,自分で書いたことを忘れてしまっている記事も多いので,ブログをセルフ検索して改めて学ぶ頻度でいえば,多分誰にも負けていないのではないかと思います(一日に何度キーワードを検索しているだろうか・・・).
 いずれにせよ,これからも続けていくつもりです.ここ数日は年度初めということもあり,学生から寄せられた「素朴な疑問」をなるべく多く取り上げることにしています.実際には,多くが「素朴」な疑問などではなく,かなり高度だったりしますが,それでも英語学習の際に,あるいは英語教育の現場で,何気なく,ふと生じる疑問,これまであえて問うてこなかった疑問を,親しみやすく「素朴な疑問」と呼び続けることにしたいと思います.そして,それを取っ掛かりにして英語史の世界へ足を踏み入れていただき,その魅力に気付いてもらえればと思っています.これからも,どうぞよろしくお願いいたします.
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2019-04-17 Wed

#3642. 英語史のすゝめ (2) --- 英語史は教養的な学問領域 [hel_education]

 昨日の記事 ([2019-04-16-1]) に引き続き,新年度に英語史をちょっと覗いてみよう(あるいは本格的に研究してみよう)という人のために,英語史が教養の学であることを改めて力説したいと思います.Heyes and Burkette は,2017年に編んだ英語史教育に関する本の序論で,英語史 (HEL = the history of the English language) が教養的な学問領域であり,人文的な知を統合した総合学であることを繰り返し指摘しています.まずは,次の引用から.

HEL course, especially in English departments, are often outliers in course catalogs. Yet they tacitly reside at the center of professional conversation about "English Studies" that emphasize the role of praxis and the potential for political engagement in academic course. For the very reasons that HEL demands much of its instructors and students, it epitomizes the intellectual dynamism and integrated knowledge that have been identified among the humanities' most compelling assets in twenty-first-century university curricula. (2)


 また,日本人の英語史研究者 Haruko Momma などを引き合いに出して,英語史という領域を次のように評価しています.

Speaking to HEL's difference from other English department courses, Haruko Momma judges it an "intellectual advantage" that HEL "has never been subject to the compartmentalization that has affected the rest of the discipline." Momma's observation addresses HEL's chronological scope as well as its interdisciplinary reach. Over the course of a single semester, a HEL course may incorporate material from history, geography, lexicography, philology, literature, grammar, and linguistics, the last of which includes the subfields of phonology, morphology, syntax, semantics, pragmatics, and sociolinguistics. As Michael Adams has observed, in HEL "many elements of a liberal education converge." (3)


 キーフレーズを拾えば,"intellectual dynamism", "integrated knowledge", "intellectual advantage", "never . . . subject to the compartmentalization", "many elements of a liberal education" となり,英語史がいかに教養的,人文的,学際的な領域であるかを力説していることがわかります.

 ・ Heyes, Mary and Allison Burkette. "Introduction." Chapter 1 of Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Ed. Mary Heyes and Allison Burkette. Oxford: OUP, 2017. 1--10.

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2019-04-16 Tue

#3641. 英語史のすゝめ (1) --- 英語史は教養的な学問領域 [hel_education][bchel]

 常々,英語史という学問領域は,教養的,人文的,学際的であると考えています.言語学(英語学)と歴史学の接点であることは言うまでもなく,言語学の関連諸分野と歴史学の関連諸分野とが多様に交差する複合的な知の領域です.年度初めのこの4月に,英語史の世界に初めて足を踏み入れる人も,改めて深く学ぼうと意気軒昂たる人も,ぜひ英語史をこのように広くとらえてもらえればと思います.
 英語史の古典的名著を著わした Baugh and Cable も,その第6版の冒頭を飾る第1節 "The History of the English Languages as a Cultural Subject" にて,それは教養ある人々にふさわしい教養科目であると宣言しています.少し長いですが,力のこもった文章なので,掲載しておきましょう.

It was observed by that remarkable twelfth-century chronicler Henry of Huntington that an interest in the past was one of the distinguishing characteristics of humans as compared with the other animals. The medium by which speakers of a language communicate their thoughts and feelings to others, the tool with which they conduct their business or the government of millions of people, the vehicle by which has been transmitted the science, the philosophy, the poetry of the culture is surely worthy of study. It is not to be expected that everyone should be a philologist or should master the technicalities of linguistic science. But it is reasonable to assume that a liberally educated person should know something of the structure of his or her language, its position in the world and its relation to other tongues, the wealth of its vocabulary together with the sources from which that vocabulary has been and is being enriched, and the complex relationships among the many different varieties of speech that are gathered under the single name of the English language. The diversity of cultures that find expression in it is a reminder that the history of English is a story of cultures in contact during the past 1,500 years. It understates matters to say that political, economic, and social forces influence a language. These forces shape the language in every aspect, most obviously in the number and spread of its speakers, and in what is called "the sociology of language," but also in the meanings of words, in the accents of the spoken language, and even in the structures of the grammar. The history of a language is intimately bound up with the history of the peoples who speak it. The purpose of this book, then, is to treat the history of English not only as being of interest to the specialized student but also as a cultural subject within the view of all educated people, while including enough references to technical matters to make clear the scientific principles involved in its evolution. (Baugh and Cable 1--2)


 この主張に賛同するのであれば,英語史と同じくらい日本語史も勉強したくなるかもしれません.○○語史は,専門科目でもあり教養科目でもあるのです.学習意欲を高めるために,次の記事もどうぞ.

 ・ 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1])
 ・ 「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1])
 ・ 「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1])
 ・ 「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1])
 ・ 「#2984. なぜ英語史を学ぶか (5)」 ([2017-06-28-1])

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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