「#37. ブリテン島へ侵入した5民族の言語とその英語への影響」 ([2009-06-04-1]) でみたように,1066年までの「イギリス史」においては,少なくとも5回の異民族の渡来が起こっている.ケルト人,ローマ人,アングロ・サクソン人,デーン人,ノルマン人である.各々の背後にあった言語は,ケルト語,ラテン語,英語,古ノルド語,ノルマン・フランス語である.イギリス史・英語史の前半は,これらの諸民族・諸言語が織りなす複雑な物語といってよい.イギリス史の編著者である川北 (17) が次のように述べている.
ケルト期からノルマン期までの「イギリス」史を特徴づける点として異民族の接触をあげることができる.あらたな民族が渡来した際には征服・侵略活動がおこなわれる.しかし,その後の支配体制としては,先住民族をあらたな渡来民族が上から支配している重層的関係とともに,地理的な先住民との住み分けや共存関係がみられた.「ローマン=ブリティッシュ」「アングロ=ブリティッシュ」「アングロ=デーニッシュ」「アングロ=ノルマン」体制という場合に,それら両方の関係が示唆されていることに注意すべきである.
外民族の侵入は,各時代のブリテン島の民族構成を大きく変化させた.あらたな文化の創造も,侵入・移住してきた外民族の存在をぬきにしては語れない.民族の変化は,政治や宗教も含む大きな社会的転換を引き起こす可能性をもっていた.また,すべての民族の活動があって「イギリス」の成立があるのであり,特定の民族活動のみが重要であるというわけではない.
引用にある「先住民族をあらたな渡来民族が上から支配している重層的関係」を「縦糸」とみなし,「地理的な先住民との住み分けや共存関係」を「横糸」とみなせば,イギリス史は,様々な種類の糸で織られた織物といえるだろう.そして,これはほぼそのままに英語史にも当てはまるように思われる.
縦糸と横糸の絡み合いを表わす「ローマン=ブリティッシュ」などの複合的な用語を,フルに展開した用語を時代順に与えてみた.
段階 | 川北の用語 | 長く展開してみた用語 |
1 | (ブリティッシュ) | British (language) |
2 | ローマン=ブリティッシュ | Roman-British (language) |
3 | アングロ=ブリティッシュ | Anglo-Roman-British (language) |
4 | アングロ=デーニッシュ | Danish-Anglo-Roman-British (language) |
5 | アングロ=ノルマン | Norman-Danish-Anglo-Roman-British (language) |
昨日も引用した近藤和彦(著)の新書のイギリス史に,「イギリス史のパターン」と題するセクションがある (16) .俯瞰的かつ示唆に富む文章として引用しておきたい.
氷期が終わるとともに,ブリテン諸島は海によってヨーロッパ大陸から隔てられ,グレートブリテン島とアイルランド島も分離した.だが,これは孤立の始まりではない.海は人や文化を隔てるだけでなく,結びつけもする.イギリス史はけっしてブリテン諸島だけで完結することなく,広い世界との関係において展開する.農耕・牧畜民やローマやヴァイキングをはじめとして,海の向こうからくる力強く新しい要素と,これを迎える諸島人の抵抗と受容,そして文化変容.これこそ先史時代から現代まで,何度となくくりかえすパターンであった.
こうしたことをくりかえすうちに,やがてイギリス人が外の世界へ進出し,他を支配し従属させようとする.その摩擦と収穫をはじめとして,さまざまの経験を重ねつつ,競合し共存し,それぞれに学びあい,新しい秩序が形成される.二一世紀のイギリスと世界は,そうした歴史の所産である.
この文章中の「イギリス史」を「英語史」と置き換えても,そのまま当てはまることに驚く.この文章は,ほぼそのままで「英語史のパターン」の文章として読み替えることができるのだ.鍵となる概念をつなげれば,接触・競合・混合・共存・変容・支配・従属・消失・獲得・秩序といったところだろうか.これに沿ってイギリス史も英語史も展開してきたといえる.
・ 近藤 和彦 『イギリス史10講』 岩波書店〈岩波新書〉,2013年.
「#3774. 広島慶友会での講演「英語史から見る現代英語」のお知らせ」 ([2019-08-27-1]) でお知らせしたとおり,先週末の土日にわたって広島慶友会にて同演題でお話ししました.5月の準備の段階から広島慶友会会長・副会長さんにはお世話になっていましたが,当日は会員の皆さんも含めて,活発な反応をいただき,英語・日本語の話題について広く話し会う機会をもつことができました.
初日の土曜日には,「英語史で解く英語の素朴な疑問」という演題でお話しし,その終わりのほうでは,参加者の皆さんから具体的な「素朴な疑問」を募り,それについて英語史の観点から,あるいはその他の観点から議論できました.特に言語ごとに観察される「クセ」とか「フェチ」の話題に関しては,その後の懇親会や翌日の会にまで持ち越して,楽しくお話しできました(言語の「フェチ」については,fetishism の各記事を参照).
2日目の日曜日には,「英語の方言」と題して,方言とは何かという根本的な問題から始め,日本語や英語における標準語と諸方言の話題について話しました.こちらでも活発な意見をいただき,私も新たな視点を得ることができました.
全体として,土日の公式セッションおよび懇親会も含めまして,参加された皆さんと一緒に英語というよりは,言語について,あるいは日本語について,おおいに語ることができたと思います.非常に有意義な会でした.改めて感謝いたします.
せっかくですので,講演で用いたスライド資料をアップロードしておきます.
・ 講演会 (1): 英語史で解く英語の素朴な疑問
・ 講演会 (2): 英語の方言
私たちが普段学び,用いている標準英語 (Standard English) が,歴史上いかに発展してきたかという話題は,英語史の最重要テーマの1つであり,本ブログでも standardisation の記事を中心に様々に取り上げてきた(とりわけ「#3231. 標準語に軸足をおいた Blake の英語史時代区分」 ([2018-03-02-1]),「#3234. 「言語と人間」研究会 (HLC) の春期セミナーで標準英語の発達について話しました」 ([2018-03-05-1]) を参照).
英語の標準化の歴史は,どの英語史の概説書でも必ず取り上げられる話題だが,人類言語学の概説書を著わした Foley の書いている "The Development of Standard English" という1節が,すこぶるよい文章である.要点を押さえながら,教科書的な標準英語の発展を非常に上手にまとめている.3ページ弱にわたるので,引用するのにも決して短くはないが,授業の講読の題材としても使えそうなので,PDFでこちらに用意しておく.
この記述がすぐれている点の1つは,標準英語のベースとなるロンドン英語が諸方言の混合物であることについて,歴史的経緯を分かりやすく説明してくれていることだ.もともと南部方言的な要素を多分に含んでいたロンドンの英語が,14--15世紀のあいだに,経済的に繁栄していた中東部からの人口流入を受けて中部方言的な要素を獲得した.ここには,14世紀後半からの黒死病に起因する人口流動性の高まりも相俟っていたろう.さらに,15世紀中には,羊毛製品で経済的に潤った北部方言の話者も,多くロンドンの上流層へ流れ込み,結果として,諸方言の混合としてのロンドン英語が成立した.そして,これが後の標準英語の母体となっていったのである.
もう1つ注目すべきは,英語史に限定されない一般的な立場から,言語の標準化の3つの条件を提示して議論を締めくくっている点である.1つは,経済的・政治的に有力な地域の言語・方言が標準語の土台となるということ.もう1つは,その言語・方言がエリート集団のものであること.最後に,文学伝統をもった言語・方言が標準語の土台となりやすいことだ.この下りだけでも,以下に直接引用しておきたい.
To summarize, the rise of Standard English . . . exhibits a number of important general points about the how and whys of language standardization: first, if economic and political power is centralized in a particular area, the language of that area has a strong likelihood of being the basis of the standard, as the center imposes its hold upon the periphery (Standard French based on the Parisian dialect is another example of this); second, the standard is likely to be based on the speech of economically and politically powerful social groups, the elite, as their speech becomes imposed upon or diffused to lower status groups; ability to speak this dialect now becomes emblematic of higher social standing and thus a desirable skill, a kind of symbolic resource further empowering the elite, who may control access to the dialect through the education system, as is clearly the case in most modern nation-states; and third, a language or dialect which is the basis of literate forms and other cultural activities is a strong candidate for an imposed standard (Standard Italian based on the Tuscany dialect of Dante exemplifies this). (Foley 403)
・ Foley, William A. Anthropological Linguistics: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 1997.
今週末8月31日(土)の14時?17時,および翌日9月1日(日)の10時?12時に,広島慶友会にて「英語史から見る現代英語」と題する2回の講演を行ないます.場所は,広島YMCA国際文化センター3号館3階です.公式の案内はこちらです.
大雑把な演題ではありますが,初日の土曜日は,英語に関する様々な素朴な疑問を具体的に取り上げ,英語史の観点から解決していくという趣旨で話しを進める予定です.講演の後半には,参加している皆さんからの疑問を受け付け,一緒に議論していくということも考えています.関連して,同趣旨の本ブログ記事「#3677. 英語に関する「素朴な疑問」を集めてみました」 ([2019-05-22-1]),あるいは sobokunagimon の各記事もご覧ください.
2日目の日曜日のセッションは,英語の方言について考えます.そもそも方言とは何か,言語と方言とはどう異なるのかという話しから始め,日本語の諸方言を参照しつつ,イングランドで話されている現代英語の地域方言をのぞいてみます.言語・方言の死,方言差別,世界の様々な英語,世界語としての英語のもつ求心力と遠心力などの話題に触れながら,英語の枠内にとどまらず,広く言語・方言の多様性について考えていきたいと思います.この議論を通じて,私たちが日々学び,用いている標準英語が,現代世界においてどのような立ち位置にあるか,よく分かるようになると思います.今後の英語との付き合い方を考える上で参考になるはずです.こちらの話題に関しては,dialect や world_englishes などの記事を参照ください.
6月14日に,『英語教育』(大修館書店)の7月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第4回目として拙論「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」が掲載されています.是非ご覧ください.
形容詞・副詞の比較表現については,本ブログでも (comparison) の各記事で扱ってきました.以下に,今回の連載記事にとりわけ関連の深いブログ記事のリンクを張っておきますので,あわせて読んでいただければ,-er と more に関する棲み分けの謎について理解が深まると思います.
・ 「#3617. -er/-est か more/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])
・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第4回 なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」『英語教育』2019年7月号,大修館書店,2019年6月14日.62--63頁.
小学館の『英語便利辞典』に,日本における英語受容史の主要な事項を年代順に列挙した略年表がある (460--61) .1600年から第2次世界大戦直後までの3世紀半に渡る日本と英語との接触の足跡を辿ろう.
年号 | 事項 | 解説 |
---|---|---|
1600(慶長5)年 | ウィリアム・アダムズ(William Adams;三浦按針)豊後海岸に漂着. | ウィリアム・アダムズは日本に最初に来た英国人とされる.家康に重用された. |
1808(文化5)年 | フェートン号事件 (Phaeton Incident) . | イギリスの軍艦フェートン号が長崎港に乱入.この事件をきっかけに,蘭学から英学へ移行. |
1814(文化11)年 | 『暗厄利亜語林大成(あんげりあごりんたいせい)』出版. | 蘭英字書をもとに編まれた日本最初の英和辞書. |
1841(天保12)年 | 中浜万次郎(通称:ジョン万),米捕鯨船に保護される. | 中浜万次郎は出漁中に太平洋上の孤島で遭難.その後米捕鯨船に救助され,アメリカで教育を受け,1851年帰国. |
1855(安政2)年 | 洋学所設立,翌年蕃書調所となる. | 洋学所は幕府の設置する洋学研究所. |
1858(安政5)年 | 日米修好通商条約締結. | 日本が外国と結んだ最初の条約. |
1859(安政6)年 | ヘボン博士来日. | ヘボン (James Curtis Hepburn) 博士はヘボン式ローマ字で有名.辞書編纂,聖書の日本語訳その他日本文化に多大の寄与をした. |
1860(万延1)年 | 咸臨丸アメリカに向け出航. | 日本の軍艦咸臨丸は,日米修好通商条約批准のための遣米使節団を乗せたポウハタン号に随行したが,同船には福沢諭吉,勝海舟なども乗船していた. |
1862(文久2)年 | 『英和對譯袖珍(しゅうちん)辞書』出版. | 堀達乃助他編.日本最初の本格的英和辞書. |
1866(慶応2)年 | 『西洋事情』ベストセラーとなる. | 福沢諭吉が著し,明治開化期の文明に大きな影響を与えた. |
1867(慶応3)年 | 『和英語林集成』出版. | ヘボンによる最初の和英辞典.その後改訂増補された. |
1871(明治4)年 | 津田梅子渡米. | 津田梅子は日本初の女子留学生.1900年女子英学塾(現在の津田塾大の前身)を創設. |
1876(明治9)年 | クラーク博士,札幌農学校に赴任. | クラーク (William Smith Clark) 博士は札幌農学校(現北海道大学)初代教頭を務める.諸説あるが,Boys, be ambitious! で有名.同校は新渡戸稲造(にとべいなぞう),内村鑑三など優秀な人材を輩出する. |
1890(明治23)年 | ラフカディオ・ハーン来日. | ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn;日本名:小泉八雲)は作家,英文学者.松江中学,東京帝国大学などで教鞭をとる.主著『怪談』『心』など. |
1914(大正4)年 | 『熟語本意英和中辞典』出版. | 斎藤秀三郎著.独創的な内容は,その後の英和辞書に大きな影響を与える. |
1918(大正7)年 | 『武信和英大辞典』出版. | 日本初の本格的和英辞典で,現行の研究社『新和英大辞典』の前身.武信(たけのぶ)由太郎編. |
1922(大正11)年 | パーマー (Harold E. Palmer) 来日. | オーラル・メソッド(Oral Method;口頭教授法)を唱え,以後の英語教育に大きな影響を与えた. |
1927(昭和2)年 | 研究社『新英和大辞典』出版. | 日本初の本格的英和大辞典.現在は第6版が出されているが,初版の著者は岡倉由三郎. |
1945(昭和20)年 | 『日米会話手帳』ベストセラーとなる. | 戦後2か月を経ない出版で,360万部の爆発的売れ行きを示した. |
1946(昭和21)年 | 平川唯一,英語会話放送開始. | 平川唯一はNHK放送のいわゆる「カムカム英語」の担当者.第二次世界大戦後の英語ブームの元祖となる. |
今年3月に出版された朝尾 幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』が広く読まれているようだ.拙著の『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)や『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)と同趣旨の本ということもあり関心をもって手に取ってみたが,実に読みやすく,分かりやすい.
内容をどこまで掘り下げているかという観点からいえば,この新刊書は浅掘りである.しかし,「まえがき」 (iv) にあるように,著者は英語史の事前知識を想定しないという立場をとっており,その趣旨からすると,むしろ詳しすぎない程度に記述を抑えているセンスは素晴らしいと言ってよいだろう.本書が手に取ってもらいやすい理由である.
著者が実例を挙げることを重視したと述べているとおり,本文にも〈英文法こぼれ話〉にも,読者の興味を引く例が掲載されている.ところどころに,見事なキャッチフレーズやセンスの光る解説がみられる.「英語は歴史的かなづかい」のような言い方もその1つだ.
以下に目次を付そう.章節のタイトルがそのまま素朴な疑問になっているものが多い.本ブログでも扱ってきた話題が多く取り上げられているので,ブログ内をキーワード検索などして記事も眺めていただければと思うが,同じ問題でも,人が変われば眺め方も変わるものである.本書の解説を読んでみて,私自身の手持ちの解説とは異なり,ナルホドと思ったケースも多々あった.是非ご一読を.
たいそうな題名の記事ですが,これまでにコーパス利用について書いてきたブログ記事その他へのリンク集にすぎません.
まず英語学でコーパスを利用しようと思ったら,様々な参考図書があるものの,まずは研究社のウェブサイトより「リレー連載 実践で学ぶ コーパス活用術」の連載記事(全37本)に目を通すのがよいと思います.筆者の堀田も影は薄いですが寄稿しています (cf. 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) と「#2216. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編」 ([2015-05-22-1])).
本ブログからは corpus の各記事をご覧いただきたいのですが,その中から特に重要な記事を選んでおきます.
・ 「#568. コーパスの定義と英語コーパス入門」 ([2010-11-16-1])
・ 「#307. コーパス利用の注意点」 ([2010-02-28-1])
・ 「#367. コーパス利用の注意点 (2)」 ([2010-04-29-1])
・ 「#2779. コーパスは英語史研究に使えるけれども」 ([2016-12-05-1])
・ 「#363. 英語コーパス発展の3軸」 ([2010-04-25-1])
・ 「#368. コーパスは研究の可能性を広げた」 ([2010-04-30-1])
・ 「#1165. 英国でコーパス研究が盛んになった背景」 ([2012-07-05-1])
・ 「#1280. コーパスの代表性」 ([2012-10-28-1])
・ 「#2584. 歴史英語コーパスの代表性」 ([2016-05-24-1])
・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
・ 「#517. ICE 提供の7種類の地域変種コーパス」 ([2010-09-26-1])
・ 「#271. 語彙研究ツールとしての辞書とコーパス」 ([2010-01-23-1])
歴史英語コーパスのハブというべきサイトといえば,「#506. CoRD --- 英語歴史コーパスの情報センター」 ([2010-09-15-1]) を挙げないわけにはいきません.現時点で最も有用な歴史英語の情報集積サイトです.
BNC, COCA, ICE, Brown Family, COHA, HC (= Helsinki Corpus), LAEME, EEBO, CLMET など個別の(歴史)コーパスについては,それぞれのタグをつけた bnc, coca, ice, brown, coha, hc, laeme, eebo, clmet もご参照ください.
その他,リンク集としては「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) の記事も参照.
『英語教育』の6月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第3回目となる「なぜ不規則な動詞活用があるのか」が掲載されています.是非ご一読ください.
日常的な単語ほど不規則な振る舞いを示すというのは,言語にみられる普遍的な性質です.これは英語の動詞の過去・過去分詞形についてもいえます.大多数の動詞は規則的な語尾 -ed を付して過去・過去分詞形を作りますが,日常的な少数の動詞は,buy -- bought -- bought, cut -- cut -- cut, go -- went -- gone, sing -- sang -- sung, write -- wrote -- written などのように個別に暗記しなければならない不規則な変化を示します.今回の連載記事では,これら不規則な動詞活用の歴史をたどります.そして,「不規則」動詞の多くは歴史的には「規則」動詞であり,その逆もまた真なり,という驚くべき真実が明らかになります.
動詞の不規則変化については,本ブログでも関連記事を書きためてきましたので,以下をご参照ください.
・ 「#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧」 ([2018-06-18-1])
・ 「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1])
・ 「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1])
・ 「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1])
・ 「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1])
・ 「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1])
・ 「#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である」 ([2018-06-24-1])
・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])
・ 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1])
・ 「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1])
・ 「#1858. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc. (2)」 ([2014-05-29-1])
・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1])
・ 「#1345. read -- read -- read の活用」 ([2013-01-01-1])
・ 「#2084. drink--drank--drunk と win--won--won」 ([2015-01-10-1])
・ 「#2210. think -- thought -- thought の活用」 ([2015-05-16-1])
・ 「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1])
・ 「#3490. dreamt から dreamed へ」 ([2018-11-16-1])
・ 「#439. come -- came -- come なのに welcome -- welcomed -- welcomed なのはなぜか」 ([2010-07-10-1])
・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1])
・ 「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])
・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])
連載のバックナンバーとして,第1回記事「なぜ3単現に -s をつけるのか」と第2回記事「なぜ不規則な複数形があるのか」の案内もご覧ください.
・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第3回 なぜ不規則な動詞活用があるのか」『英語教育』2019年6月号,大修館書店,2019年5月13日.62--63頁.
大学の英語史ゼミでは,今期も数名でミニ調査を行なう「グループ研究」を開始しています.5つのグループ研究テーマを設けていますが,各研究の取っ掛かりとして,いくつかの参考資料や文献を提示します.今後も随時ここに書誌を加えていこうかと思っていますので,ゼミ学生はたまに覗いてください.ミニ書誌ではありますが,せっかくなのでブログ上でオープンにしておきます.強調しておきますが,あくまで「取っ掛かり」のための書誌です.ここから研究を育てていってください.
0. 全般
本年度前期,東京言語研究所の理論言語学講座の「史的言語学」部門は,本ブログの執筆者,堀田隆一が担当することになっています.講座概要 (PDF) で「英語史の概説を通じて,歴史的・通時的な言語の見方を身につける」と銘打っている通り,英語史と歴史言語学の入門講座です.概要に書いた文章を繰り返しますと,
英語という言語の特徴を理解するためには,それがたどってきた歴史を学ぶことが不可欠です.英語の起源はどこにあるのか,英語に見られる不規則性は何に由来するのか,英語は将来どうなってゆくのか,などの現代的な問題に歴史的・通時的な視点からアプローチすることで,多面的な英語観,言語観を形成することが本講義の目標です.
ということになります.
5月14日(火)から毎週火曜日19:00?20:40の枠で10回の講義を予定していますので,関心のある方は東京言語研究所の HP よりお申込みください.申込みの締切は5月9日(木)となっています.また,第1週の始まる直前の5月12日(日)の13:00より,開講式および前期の面接ガイダンスが予定されています.
なお,先週末の4月21日(土)には同研究所で,単発の春期講座「英語史の視点から英語を眺める」を開かせていただきました(cf. 「#3633. 4月21日(日),東京言語研究所の春期講座で「英語史の視点から英語を眺める」を話します」 ([2019-04-08-1])).レギュラー講座でもよろしくお願いいたします.
本ブログは,今回をもって3650番目を数えることになりました.毎日1つの記事ということで続けてきましたので,(閏年の計算云々は別にして)ほぼ10年間続けてきたことになります.続けてこられたのは,ひとえに英語史に関心を寄せる読者のみなさんのおかげです.ありがとうございます.
10年前にブログを始めたのは,私の「英語史」の講義を受講していた大学生に,講義の補足情報を提供するためだったのですが,その後受講学生以外にも読者が少しずつ広がっていき,今では英語学習者,英語教師,そして英語学などを専攻する大学院生や研究者の方にも閲覧してもらっているようです.
毎日の執筆ですし,おのずから校正も甘くなってしまうので内容や形式について不十分なところがありますが,引用や参照においては典拠を明示するなど,みなさんが各々の話題について確認したり,さらに調べたりできるようには心がけてきました.
実はブログ執筆を通じていちばん恩恵を被っているのは執筆者自身であるということは,恐らく誰も信じないことかと思います(そうでないと続くわけがないのです)が,これは本当です.本ブログに基づいて英語史の書籍も複数出版しましたし,学術論文も出してきました.これらのいろいろなポジティヴな効用は,開始当時はまったく想定外でした.また,自分で書いたことを忘れてしまっている記事も多いので,ブログをセルフ検索して改めて学ぶ頻度でいえば,多分誰にも負けていないのではないかと思います(一日に何度キーワードを検索しているだろうか・・・).
いずれにせよ,これからも続けていくつもりです.ここ数日は年度初めということもあり,学生から寄せられた「素朴な疑問」をなるべく多く取り上げることにしています.実際には,多くが「素朴」な疑問などではなく,かなり高度だったりしますが,それでも英語学習の際に,あるいは英語教育の現場で,何気なく,ふと生じる疑問,これまであえて問うてこなかった疑問を,親しみやすく「素朴な疑問」と呼び続けることにしたいと思います.そして,それを取っ掛かりにして英語史の世界へ足を踏み入れていただき,その魅力に気付いてもらえればと思っています.これからも,どうぞよろしくお願いいたします.
最近多く読まれている記事のランキングは,こちらからどうぞ.
昨日の記事 ([2019-04-16-1]) に引き続き,新年度に英語史をちょっと覗いてみよう(あるいは本格的に研究してみよう)という人のために,英語史が教養の学であることを改めて力説したいと思います.Heyes and Burkette は,2017年に編んだ英語史教育に関する本の序論で,英語史 (HEL = the history of the English language) が教養的な学問領域であり,人文的な知を統合した総合学であることを繰り返し指摘しています.まずは,次の引用から.
HEL course, especially in English departments, are often outliers in course catalogs. Yet they tacitly reside at the center of professional conversation about "English Studies" that emphasize the role of praxis and the potential for political engagement in academic course. For the very reasons that HEL demands much of its instructors and students, it epitomizes the intellectual dynamism and integrated knowledge that have been identified among the humanities' most compelling assets in twenty-first-century university curricula. (2)
また,日本人の英語史研究者 Haruko Momma などを引き合いに出して,英語史という領域を次のように評価しています.
Speaking to HEL's difference from other English department courses, Haruko Momma judges it an "intellectual advantage" that HEL "has never been subject to the compartmentalization that has affected the rest of the discipline." Momma's observation addresses HEL's chronological scope as well as its interdisciplinary reach. Over the course of a single semester, a HEL course may incorporate material from history, geography, lexicography, philology, literature, grammar, and linguistics, the last of which includes the subfields of phonology, morphology, syntax, semantics, pragmatics, and sociolinguistics. As Michael Adams has observed, in HEL "many elements of a liberal education converge." (3)
キーフレーズを拾えば,"intellectual dynamism", "integrated knowledge", "intellectual advantage", "never . . . subject to the compartmentalization", "many elements of a liberal education" となり,英語史がいかに教養的,人文的,学際的な領域であるかを力説していることがわかります.
・ Heyes, Mary and Allison Burkette. "Introduction." Chapter 1 of Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Ed. Mary Heyes and Allison Burkette. Oxford: OUP, 2017. 1--10.
常々,英語史という学問領域は,教養的,人文的,学際的であると考えています.言語学(英語学)と歴史学の接点であることは言うまでもなく,言語学の関連諸分野と歴史学の関連諸分野とが多様に交差する複合的な知の領域です.年度初めのこの4月に,英語史の世界に初めて足を踏み入れる人も,改めて深く学ぼうと意気軒昂たる人も,ぜひ英語史をこのように広くとらえてもらえればと思います.
英語史の古典的名著を著わした Baugh and Cable も,その第6版の冒頭を飾る第1節 "The History of the English Languages as a Cultural Subject" にて,それは教養ある人々にふさわしい教養科目であると宣言しています.少し長いですが,力のこもった文章なので,掲載しておきましょう.
It was observed by that remarkable twelfth-century chronicler Henry of Huntington that an interest in the past was one of the distinguishing characteristics of humans as compared with the other animals. The medium by which speakers of a language communicate their thoughts and feelings to others, the tool with which they conduct their business or the government of millions of people, the vehicle by which has been transmitted the science, the philosophy, the poetry of the culture is surely worthy of study. It is not to be expected that everyone should be a philologist or should master the technicalities of linguistic science. But it is reasonable to assume that a liberally educated person should know something of the structure of his or her language, its position in the world and its relation to other tongues, the wealth of its vocabulary together with the sources from which that vocabulary has been and is being enriched, and the complex relationships among the many different varieties of speech that are gathered under the single name of the English language. The diversity of cultures that find expression in it is a reminder that the history of English is a story of cultures in contact during the past 1,500 years. It understates matters to say that political, economic, and social forces influence a language. These forces shape the language in every aspect, most obviously in the number and spread of its speakers, and in what is called "the sociology of language," but also in the meanings of words, in the accents of the spoken language, and even in the structures of the grammar. The history of a language is intimately bound up with the history of the peoples who speak it. The purpose of this book, then, is to treat the history of English not only as being of interest to the specialized student but also as a cultural subject within the view of all educated people, while including enough references to technical matters to make clear the scientific principles involved in its evolution. (Baugh and Cable 1--2)
この主張に賛同するのであれば,英語史と同じくらい日本語史も勉強したくなるかもしれません.○○語史は,専門科目でもあり教養科目でもあるのです.学習意欲を高めるために,次の記事もどうぞ.
・ 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1])
・ 「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1])
・ 「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1])
・ 「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1])
・ 「#2984. なぜ英語史を学ぶか (5)」 ([2017-06-28-1])
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
『英語教育』の英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」が,前回の4月号より始まっています.昨日発売された5月号では,第2回の記事として「なぜ不規則な複数形があるのか」という素朴な疑問を取りあげています.是非ご一読ください.
名詞複数形の歴史は,私のズバリの専門分野です(博士論文のタイトルは The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English でした).そんなこともあり,本ブログでも複数形の話題は plural の記事で様々に取りあげてきました.今回の連載記事の内容ととりわけ関係するブログ記事へのリンクを以下に張っておきます.
・ 「#946. 名詞複数形の歴史の概要」 ([2011-11-29-1])
・ 「#146. child の複数形が children なわけ」 ([2009-09-20-1])
・ 「#157. foot の複数はなぜ feet か」 ([2009-10-01-1])
・ 「#12. How many carp!」 ([2009-05-11-1])
・ 「#337. egges or eyren」 ([2010-03-30-1])
・ 「#3298. なぜ wolf の複数形が wolves なのか? (1)」 ([2018-05-08-1])
・ 「#3588. -o で終わる名詞の複数形語尾 --- pianos か potatoes か?」 ([2019-02-22-1])
・ 「#3586. 外来複数形」 ([2019-02-20-1])
英語の複数形の歴史というテーマについても,まだまだ研究すべきことが残っています.英語史は奥が深いです.
2017年に連載した「現代英語を英語史の視点から考える」の第1回「「ことばを通時的にみる 」とは?」でも複数形の歴史を扱いましたので,そちらも是非ご一読ください.
・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第2回 なぜ不規則な複数形があるのか」『英語教育』2019年5月号,大修館書店,2019年4月12日.62--63頁.
大学でも新年度が本格的に始まりました.今期私が担当する英語史関連の授業で,2016年に研究社より出版された拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』を指定テキスト(あるいは参考テキスト)としているので,年度初めに趣旨と内容を簡単に紹介しておきます.
本書の出版後に研究社のウェブサイト上に特設されたコンパニオン・サイトの本書のねらいにも詳しく書きましたが,なぜ皆さんに本書を読んでいただきたいのか,改めてここで強調しておきたいと思います.それは,
英語の「素朴な疑問」に「英語史」の視点から答えていくことを通じて,英語教員をはじめとする英語にかかわる多くの方々に,英語の「新しい見方」を提案し,「目から鱗が落ちる」体験を味わってもらいたいからです.
具体的には,以下の5つのねらいがあります.
1. 誰もが抱く英語の「素朴な疑問」に,納得のいく解答を与えます
2. 新たに生じる「素朴な疑問」にも対応できる,体系的な知識の必要性を説きます
3. 学問分野「英語史」の魅力を伝えます
4. 英語,英語学習,英語教育に対する「新しい見方」を提案します
5. 歴史的な視点から,英語について「目から鱗が落ちる」体験を提供します
本書で取り上げている話題の多くは日々書きためている本ブログの記事が元になっていますので,ブログ読者にとっては内容的にも文体的にもデジャヴュ感があるかもしれません.目次一覧はこちらに挙げてあるので繰り返しませんが,多くの人が興味をもちそうなタイトルを引き抜いておきます.
・ なぜ *a apple ではなく an apple なのか?
・ なぜ名詞は récord なのに動詞は recórd なのか?
・ なぜ often の t を発音する人がいるのか?
・ なぜ five に対して fifth なのか?
・ なぜ name は「ナメ」ではなく「ネイム」と発音されるのか?
・ なぜ debt, doubt には発音しない <b> があるのか?
・ なぜ3単現に -s を付けるのか?
・ なぜ *foots, *childs ではなく feet, children なのか?
・ sometimes の -s 語尾は何を表わすのか?
・ なぜ不規則動詞があるのか?
・ なぜ -ly を付けると副詞になるのか?
・ なぜ未来を表わすのに will を用いるのか?
・ なぜ If I were a bird となるのか?
・ なぜ英語には主語が必要なのか?
・ なぜ *I you love ではなく I love you なのか?
・ なぜ May the Queen live long! はこの語順なのか?
・ なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?
・ なぜ Assist me! とはなおさら叫ばないのか?
・ なぜ1つの単語に様々な意味があるのか?
・ なぜ単語の意味が昔と今で違うのか?
・ 英語の新語はどのように作られるのか?
・ なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?
・ アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?
・ なぜ黒人英語は標準英語と異なっているのか?
・ なぜ船・国名を she で受けるのか?
・ なぜ単数の they が使われるようになってきたのか?
本書を読み,英語史の魅力に目覚めたら,ぜひ上記のコンパニオン・サイト上で2017年1月から12月にかけて連載された,本書の拡大版・発展版というべき「現代英語を英語史の視点から考える」企画の記事12本もオンラインでご一読ください.次のラインナップです.
・ 第1回 「ことばを通時的に見る」とは?(2017/01/20)
・ 第2回 なぜ3単現に -s を付けるのか?(2017/02/20)
・ 第3回 なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?(2017/03/21)
・ 第4回 イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall (2017/04/20)
・ 第5回 alive の歴史言語学 (2017/05/22)
・ 第6回 なぜ英語語彙に3層構造があるのか?(2017/06/20)
・ 第7回 接尾辞 -ish の歴史的展開 (2017/07/20)
・ 第8回 なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか (2017/08/21)
・ 第9回 なぜ try が tried となり,die が dying となるのか? (2017/09/20)
・ 第10回 なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか? (2017/10/20)
・ 第11回 なぜ英語は SVO の語順なのか?(前編) (2017/11/20)
・ 第12回 なぜ英語は SVO の語順なのか?(後編) (2017/12/20) ・
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
年度初めで英語史を学び始める人もいると思うので,英語史概説書を中心に,英語史・英語学の基本文献(2019年度版)を掲げたい.英語史の初学者に特にお薦めの図書に◎を,次にお薦めの図書に○を付してある.このほかに,各図書の巻末やウェブサイトに掲載されている参考文献表も要参照.印刷配布用のPDFも作ったので,こちらからどうぞ.
[英語史概説書(日本語)]
◎ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.
○ 唐澤 一友 『多民族の国イギリス---4つの切り口から英国史を知る』 春風社,2008年.
○ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
◎ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年.
・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
・ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.
○ 柳 朋宏 『英語の歴史をたどる旅』 中部大学ブックシリーズ Acta 30,風媒社,2019年.
・ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.
[英語史概説書(英語)]
・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
◎ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
・ Blake, N. F. A History of the English Language. Basingstoke: Macmillan, 1996.
○ Bradley, Henry. The Making of English. London: Macmillan, 1955.
○ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.
・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
○ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Göorlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
○ Gooden, Philip. The Story of English: How the English Language Conquered the World. London: Quercus, 2009.
◎ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.
・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.
◎ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
・ McCrum, Robert, William Cran, and Robert MacNeil. The Story of English. 3rd rev. ed. London: Penguin, 2003.
・ Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
○ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
[英語史・英語学の参考図書]
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
・ 大泉 昭夫(編) 『英語史・歴史英語学:文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ 小野 茂(他) 『英語史』(太田朗, 加藤泰彦編 『英語学大系』 8--11巻) 大修館書店,1972--85年.
・ 佐々木 達,木原 研三(編) 『英語学人名辞典』,研究社,1995年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語史・歴史英語学 --- 文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 (編) 『英語史総合年表?英語史・英語学史・英米文学史・外面史?』 研究社,1993年.
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
・ The Cambridge History of the English Language. Vols. 1--7. Ed. Richard M. Hogg. 1992--2001.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
・ The Oxford English Dictionary. 2nd ed. CD-ROM. Oxford: Oxford University Press, 1992. Version 3.1. 2004. (Also available online as Oxford English Dictionary Online at http://www.oed.com/ .)
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
[英語史関連のウェブサイト]
・ 家入 葉子 「英語史関係(基本文献など)」 http://www.iyeiri.sakura.ne.jp/students/English.htm .(より抜かれた基本文献のリスト)
・ 堀田 隆一 「hellog?英語史ブログ」 http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/.特に「参考文献リスト」 (http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/references.html) を参照.
・ 三浦 あゆみ 「A Gateway to Studying HEL: Textbooks(日本語編)」 http://www013.upp.so-net.ne.jp/HEL/textbooks.html .(充実した英語史の文献リスト)
本年度前期,東京言語研究所の理論言語学講座の「史的言語学」部門を担当することになりました.講座概要 (PDF) で「英語史の概説を通じて,歴史的・通時的な言語の見方を身につける」と銘打っている通り,英語史と歴史言語学の入門講座です.5月14日(火)から毎週火曜日19:00?20:40の枠で10回の講義を予定しています.
また,5月からの講座開始に先立ち,英語史分野の導入という意味合いも込めて,来たる4月21日(日)の10:00?11:20に,単発の春期講座として,標題の通り「英語史の視点から英語を眺める」と題する話しをします.概要はこちら (PDF) に掲載されていますが,以下に再現します.
何年か英語を学んでいると,学び始めの頃に抱いていたような素朴な疑問が忘れ去られてしまうことが多いものです.なぜ A は「ア」ではなく「エイ」と読むのか,なぜ go の過去形は went なのか,なぜ動詞の3単現には -s がつくのか,英語とフランス語・ドイツ語はどのような関係にあるのか,なぜ英語は世界語となりえたのか等々.このような素朴な疑問を改めて思い起こし,あえて引っかかってゆき,まじめに考察するのが,歴史言語学の観点からみる英語学 --- 英語史 --- という分野です.
狙いとしては,4点を掲げます.(1) 現代英語の疑問点に歴史的な視点からアプローチする,(2) 英語史の概略を知る,(3) 英語学・言語学の考え方を学ぶ,(4) 歴史を通じて幅広い柔軟な英語観を形成する.
本講義では,素朴な疑問と英語史の相性の良さについて考察した後,英語史を概観します.続けて,綴字,発音,文法,語彙,英語方言やその他に関する素朴な疑問を取り上げながら,英語史的なものの見方・考え方を紹介します.
年度初めですし,まずは英語史という分野の楽しさを伝えることを最大の目標にします.
春期講座自体は4月20日(土),21日(日)の両日の開講で,2日間で全体として16の講座が用意されています.受講の申込締切日も迫ってきていますので,参加希望の方は東京言語研究所の HPよりお申込みください.
3月30日(土)の15:00?18:15に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて,「英語の歴史」と題するシリーズ講座の最後となる第3弾として「英語史で解く英語の素朴な疑問」を開講します.以下,お知らせの文章です.
何年も英語を学んでいると,学び始めの頃に抱いていたような素朴な疑問が忘れ去られてしまうことが多いものです.なぜ A は「ア」ではなく「エイ」と読むのか,なぜ go の過去形は went なのか,なぜ動詞の3 単現には -s がつくのか等々.このような素朴な疑問を改めて思い起こし,あえて引っかかってゆき,大まじめに考察するのが,英語史という分野です.素朴な疑問を次々と氷解させていく英語史の力にご期待ください.
1. 素朴な疑問と英語史の相性の良さ
2. 英語史概略
3. 綴字と発音に関する素朴な疑問
4. 語形に関する素朴な疑問
5. 文法に関する素朴な疑問
6. 語彙に関する素朴な疑問
7. 英語方言その他に関する素朴な疑問
英語学習・教育に携わる方々であれば,これまで必ず直面してきたはずの数々の「素朴な疑問」に英語史の観点からスパッと切り込んでいきます.3時間たっぷりの講座のなかで,ナルホドと何度も膝を打つ機会があるはずです.冒頭に英語史の概観もおこないますので,英語史という分野に接するのが初めてであっても心配ありません.皆さんの「素朴な疑問」も持ち寄りつつ,楽しみに参加してもらえればと思います.
なお,おかげさまで前回の「#3606. 講座「北欧ヴァイキングと英語」」 ([2019-03-12-1]) は(狭い教室とはいえ)満席となりまして,嬉しいかぎりですが,希望して受講できなかった方もおられたようです.どうぞ早めにお申し込みください.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow