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etymology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-06-15 10:26

2012-02-18 Sat

#1027. コップとカップ [etymology][doublet][triplet][japanese][loan_word][history]

 日本語のコップとカップはどう違うか.『類義語使い分け辞典』によると,コップは,ガラス,プラスチック,金属製の冷たい飲み用の円筒形容器で,取っ手がない.一方,カップは陶磁製の熱い飲み物の容器で,取っ手がついている.前者の容量は200ccくらい,後者は250ccくらいというから,ここまで厳密に区別されていたのかと感心した.
 以上は各語の指示対象の外見や用途の違いだが,語それ自体の違いはといえば,コップはオランダ語 kop に由来し,カップは英語 cup に由来する語である.コップは18世紀にすでに見られ,日本語に借用されて古い語である.
 オランダ語 kop と英語 cup はもちろん同根語 (cognate) で,ラテン語 cūpa "vat, tub, cask" に遡る.これが両言語に借用され別々の語形で行なわれていたものが,そのまま日本語へ別々に借用され,意味を違えて定着したものである.
 コップとカップのように,語源的には同根に遡るが,異なる借用元言語から別々に借用されて,異なる形態と意味をもって共存しているペアのことを2重語 (doublet) と呼ぶ.日本語で定着した2重語としては,ほかに,ゴムとガムがある.ゴムはオランダ語 gom から,ガム gum は英語から借用した語である.ポルトガル語 bolo のボーロと,英語 ball のボールも類例だ.また,3重語の例として,ポルトガル語 carta からのカルタ,英語 card からのカード,ドイツ語 Karte からのカルテが挙げられる.
 さて,英語における2重語,3重語の例は,doublet の各記事で取り上げているのでそちらを見ていただくとして,日本語のコップとカップ,英語の regardreward ([2009-07-13-1]) 及び rationreason ([2011-11-27-1]) との関係を図示してみよう.

kop and cup

 借用元言語のペアは,第1例のオランダ語と英語では姉妹語どうしの関係,第2例の中央フランス語とノルマン・フランス語では方言どうしの関係,第3例のラテン語とフランス語では母娘の関係であり,それぞれ異なっている.しかし,受け入れ側の言語にしてみれば,そのような系統関係はどうでもよい.後世の人間が調べてみたら,たまたまそのような関係にある2つの言語から借用したのだとわかる,という話しである.しかし,私たちのような後世の人間にとっては,こうした例は言語史や文化史の観点から実に興味深い.言語と文化の接触の歴史を雄弁に物語る例だからである.

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2012-02-09 Thu

#1018. par と「あた」 [japanese][etymology][derivation][semantic_change][metathesis]

 昨日の記事「#1017. par の派生語」 ([2012-02-08-1]) の続き.昨日の記事では,ラテン語 par から派生し,英語へ借用された語に通底する原義は,印欧語根 *perə- "to allot" に想定される「割り当てる,あてがう」であるというところまで述べた.
 意味の発展と語の派生という点で par と瓜二つなのが,日本語の「あてる」だ.さらに語根へと還元すれば,「あた(あだ)」となる.大野 (146) の語根表より,"ata" の部分を引用しよう.

ata(敵)
 ata-Fi(値)
 ata-Fë(与)
 ata-kamö(恰)
 ata-ra(惜)
 ata-rasi(惜)
 ata-ri(当・辺)
 ate(当)


 大野 (73--74) のアタルの説明に沿いながら,英語の par 派生語との類似を指摘してゆきたい.語根のアタは敵・仇であり,compare がかつてライバルの意をもっていたことは昨日触れたとおりだ.これにアヘ(合)を後接したのがアタヘ(与) "to allot" である.その連用名詞形アタヒ(価)は,par (平価)を想起させる.語根にルを後接したのが動詞アタルで,アタラシ(惜)は,「対等の立場になりたい」けれどもアタル所にいないので「もったいない,惜しい」ほどの意で,comparable (比べてひけをとらない)の語義の発展と平行しそうだ.そのほか日本語では,アタリをつける,このアタリ,アテが外れるなど,近似を意味する一連の語を派生させた.
 アタラ,アタラシについては,日本語における音位転換 (metathesis) の代表例の1つとして知られている.アタラ(シ)という語の本来の意味は上記の通りだが,一方で "new" の意味のアラタシという語が存在した.ところが,中古初期に,後者に音位転換形アラタシが現われ,前者を滅ぼしてしまったという."new" の意味とかつての語形との関係は,いまなおアラタナ(新たな),アラタメル(改める),アライ(新井)に残っている.ただし,「惜しい」のアラタシが同音衝突に屈したのはなぜか,アラタナやアラタメルとの類似により音位転換が阻止されなかったのはなぜかなど,まだ考慮すべき点は残されている.

 ・ 大野 晋 『日本語をさかのぼる』 岩波書店,1974年.
 ・ 前田 富祺 監修 『日本語源大辞典』 小学館,2005年.

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2012-02-08 Wed

#1017. par の派生語 [etymology][derivation][metanalysis][semantic_change]

 ラテン語 pār という形容詞の中心的な語義は "equal, equal to, a match for, of the same rank or age, fit, meet, suitable, proper, right" だが,ここから多くの派生語が生み出され,いくつかは英語にも借用されている.福島 (469--71) より,英語に入った語を列挙すると以下の通り.

compare, comparable, incomparable, incomparably, comparative, comparatively, comparison; par, parity, disparity; pair; peer, compeer, peerage, peerless; disparage, disparagement; umpire


 compare の原義は「同等のものをつき合わせる」であり,現在では廃義となっているが「ライバル」を表わす名詞としても用いられた.同等者を敵とみるか味方とみるかは紙一重で,compeer はむしろ後者のとらえかたを反映しており,「仲間」や「同僚」を表わす.同様に,peer は,親族で世襲される「貴族」の意味を発達させた.英語へ借用された par は「平価,額面価格」を意味する.pair は同類のもの2つからなる1組である.umpire は,[2010-07-25-1]の記事「#454. GVS で二段階を経たように見える brier, choir, friar, umpire」でみたように,non-peer (同等でない者)の最初の n異分析 (metanalysis) され,脱落した語形に由来する.
 さて,ラテン語 pār は,印欧祖語の *perə- "to allot" にさかのぼり,語根の意味は「割り当てる,あてがう」といったところだろうか.「当てる」から始まり,「相応させる」,「比べる」,「同等」,「同位の者」などへと意味が発展し,次々と派生語が生み出されたものとみることができるだろう.
 今回 pār の一連の派生語を取りあげたのは,その意味の広がりが,日本語のある語根の場合とおもしろいほど一致するからである.それについては明日の記事で.

 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.

Referrer (Inside): [2012-02-09-1]

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2012-02-07 Tue

#1016. pangram の例を追加 [word_play][japanese][alphabet][etymology][compound][combining_form]

 [2012-01-29-1]の記事「#1007. Veldt jynx grimps waqf zho buck.」で,アルファベットの26字母すべてを用いて文を作る pangram ということば遊びを紹介した.
 その記事で,よく知られたものとして,タイピストがタイプ確認に利用したという The quick brown fox jumps over the lazy dog. を紹介したが,この pangram とその亜種は,現在,通信業界で "fox message" (FOXメッセージ)と呼ばれており,通信テストのために利用されているというから,pangram は単なることば遊びである以上に,実用性も兼ね備えているというべきだろう.
 pangram という語は,pan "all" + gram "letter" というギリシア語の combining form を組み合わせた neo-classical compound で,1933年が初出と新しいが,遊びそのものは古く,OED の "pangram" のもとに引用されている Medium Ævum からの例文を(文脈なしではあるが)一瞥したかぎりでは,13世紀よりずっと以前にさかのぼるようだ.
 英語の pangram の例について,『学研 日本語知識辞典』のミニ知識欄「英語版いろは歌」で新たに見つけたものを,以下に挙げておきたい.

The five boxing wizards jump quickly. (5人のボクシングの魔術師がすばやくジャンプする)
Mr. Jock, TV quiz Ph.D., bags few lynx. (テレビのクイズ博士ジョック氏は山猫をほとんど袋に入れない)
Quick wafting zephyrs vex bold Jim. (さやさやとそよぐそよ風が、大胆なジムを苛立たせる)
Waltz, nymph, for quick jigs vex Bud. (ワルツになさい、乙女よ、速いジグだとバドが苛立つから)


 日本語のいろは歌については,[2012-01-27-1]の記事「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」で触れたが,いろは歌に先行する,同じく47字の「たゐに歌」を紹介しよう.

たゐにいでなつむわれをぞきみめすとあさりおひゆくやましろのうちゑへるこらもはほせよえふねかけぬ
(田居に出で菜摘む我をぞ君召すと 求食り追ひ行く山城の 打酔へる子ら藻は干せよ え舟繋けぬ)


 「たゐに歌」にさらに先行する平安初期の「あめつちの詞」についても触れておく.当時はまだ [e] と [je] が区別されており,47字ではなく48字からなる pangram だ.後半の「えのえお」の2つめの「え」は [je] を表わしたと考えられる.

あめ(天)つち(地)ほし(星)そら(空)やま(山)かは(川)みね(峰)たに(谷)くも(雲)きり(霧)むろ(室)こけ(苔)ひと(人)いぬ(犬)うへ(上)すゑ(末)ゆわ(硫黄)さる(猿)おふせよ(生ふせよ)えのを(榎の枝を)なれゐて(馴れ居て)


 また,『学研 日本語知識辞典』によると,明治時代に新聞「万朝報」が新いろは歌を募集したところ,「とりな歌」なる次のものが選ばれたという.

とりなくこゑすゆめさませみよあけわたるひんかしをそらいろはえておきつへにほふねむれゐぬもやのうち
(鳥鳴く声す 夢覚ませ 見よ明けわたる 東を 空色栄えて 沖つ辺に 帆船群れゐぬ 靄の中)

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2012-02-03 Fri

#1012. 古代における英語からフランス語への影響 [loan_word][palatalisation][french][germanic][anglo-saxon][etymology]

 英語史においてフランス語が英語に与えてきた影響については,french の多数の記事で取り上げてきた.古英語末期から近代に至るまで,言語的な影響はほぼ仏から英への一方向であり,逆方向の影響は,英語が国際的に力をもってきた18世紀以降になって初めて,借用語の部門で認められるといってよい(ホームズ・シュッツ,p. 147).
 しかし,英語史以前,アングロサクソン民族がブリテン島へ渡る直前には,英から仏への言語的影響が断片的に確認される.もっとも,当時の言語を英語や仏語と呼ぶのは,厳密には不適切だろう.標題も誤解を招く表現になっているが,以下に挙げる例の背景として念頭にあるのは,Anglo-Frisian と Gallo-Roman という段階での言語接触であることを断わっておく.
 西ゲルマン諸語は,[k] が [ʧ] へと変化する口蓋化 (palatalisation) を経た Anglo-Frisian 言語群とそれ以外の言語群に分けることができる.口蓋化を経た Anglo-Frisian の話者の一部は,5世紀以前,民族大移動の一環としてフランス北部へ圧力をかけており,Artois 北西部,Boulogne 近辺に定住していたことを示唆する地名上の証拠も多くある.このときに,Anglo-Frisian が Gallo-Roman にいくつかの言語的な影響を与えた可能性がある.Martinet (5) が挙げている断片的な例を引こう.
 上記の Anglo-Frisian 的な口蓋化が影響を及ぼした可能性の反映としては,ラテン語 caballum (馬)からフランス語 cheval (馬)への語頭子音の推移が挙げられる.フランス語(及びプロヴァンス語)以外のロマンス諸語では /k/ 音が保たれていることから,Anglo-Frisian の関与が考えられる.
 フランス語 savon (石けん)は,西ゲルマン祖語 *saipōn に由来する語形に基づく.第1音節の母音は,オランダ語 zeep やドイツ語 Seife の母音ではなく,古英語 sāpe の母音を反映しているようにみえる.また,フランス語 hâte (急ぎ)もゲルマン語からの借用だが,ゴート語の haifsts に示されるような2重母音よりは,古フリジア語 hāst (cf. 古英語 hǣst) の長母音をよく反映している(オランダ語 haast やドイツ語 Hast は後代にフランス語から借用されたもの).同じく母音の例を挙げれば,フランス語 est (東)の母音は,オランダ語 oost やドイツ語 Ost よりも,古英語 ēast の母音により近い.
 上記の例が,主張しているような言語接触の反映であると結論づけるためには,関与する諸言語間の音韻対応と各言語の音韻変化とを詳細につき合わせることが必要だろう.しかし,この言語接触の仮説は,西ゲルマン語族の一派が,大陸からブリテン島へ渡る途中に,フランス北部に定住,そして通過してゆく姿を思い描かせる仮説であり,興味をそそられる.
 西ゲルマン語族のブリテン島への移住に関する地図は,[2010-05-21-1]の記事「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」を参照.ゲルマン諸語の系統図と分布図は,[2009-05-08-1]の記事「#9. ゴート語(Gothic)と英語史」を参照.

 ・ U. T. ホームズ,A. H. シュッツ 著,松原 秀一 訳 『フランス語の歴史』 大修館,1974年.
 ・ Martinet, André. "Comment les Anglo-Saxons ont-ils accédé à la Grande-Bretagne?" La Linguistique 32.2 (1996): 3--10.

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2012-01-31 Tue

#1009. ルーン文字文化と関係の深い語源 [runic][etymology][metanalysis]

 [2010-06-24-1]の記事「#423. アルファベットの歴史」及び[2012-01-28-1]の記事「#1006. ルーン文字の変種」で,ルーン文字の起源に触れた.起源については不明な点も多いが,英語に残っているいくつかの語の語源から,ルーン文字文化のなにがしかについて知ることができる.
 ルーン文字の書き方あるいは刻み方について示唆を与える語は,write である.この語は印欧祖語に遡る古い歴史をもっているが,「木または樹皮に傷をつけて,文字などを彫る」という語義をもっていた.類似する語義は,ドイツ語 reißen (引きちぎる)に残る.日本語でも「書く」は「掻く」に通ずる.
 ルーン文字が秘術的に謎めいた文句を引っ掻くものだったとすれば,それを読み解く作業こそが read だったにちがいない.古英語 rǣdan には「(夢・なぞの)意味を読み取る,解釈する」の語義が認められ,単に「読む」というよりも「言い当てる」の含意が強い.この名残は,read one's mind, read the future, read a riddle などの表現に残る.最後の表現にある riddle 自体が,関連する古英語 rǣdels (謎)に由来し,同族目的語の構文といえる.14世紀に語尾の -s が複数語尾として異分析 (metanalysis) され,現在の形態の原型が作られた([2010-04-06-1]の記事「#344. cherry の異分析」を参照).
 ルーン文字で掻いた(書いた)素材といえば,beech (ブナの木)だったかもしれない.母音交替を通じて book にも通じる可能性があることは,[2011-01-19-1]の記事「#632. bookbeech」で触れた.
 最後に,rune 自体の語源だが,伝統的には,古英語 rūn (ささやき,神秘,魔術)に由来すると解釈されてきた.しかし,「秘術」の connotation は,古ノルド語の対応する語にはあったとしても,古英語にはその証拠がない.古英語ではむしろ,キリスト教にすでに同化した語として「知識の共有」ほどの意味で用いられたとする説がある (Crystal 9) .古英語 rūn は現代英語では */raʊn/ となるはずだが,これは残っていない.実のところ,「ルーン文字」としての rune の初出は17世紀末のことで,北欧学者によるラテン語を経由しての再導入である.近現代では,rune は豊かで神秘的な connotation を得て,今なお人々の想像力をかき立てている.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2017-07-05-1]

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2012-01-30 Mon

#1008. ???????????壔????? ABC [hiragana][alphabet][etymology]

 [2012-01-27-1]の記事「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」で,日本語音韻の順序としての「いろは」について簡単に触れた.
 平安末期,橘忠兼が「色葉字類抄」2巻本で漢字や熟語をいろは順に整理したのを嚆矢として,鎌倉初期に10巻本として増補改訂された「伊呂波字類抄」を含め,広く辞書の配列に,いろはが利用されるようになった.室町時代に成立したいろは順の国語辞書「節用集」は,その実用性ゆえに江戸時代には広く用いられ,辞書の代名詞となった.明治以降は,平安時代に別途成立した五十音図(現存最古の図は11世紀初めの醍醐寺蔵「孔雀経音義」)にもとづく「あいうえお」順が配列の基本となっているが,いろはは歴史的仮名遣いにおける仮名の使い分けの根拠とされ,現代かなづかいにも間接的に影響を与えていることになる.配列としてのいろはの伝統は,「ピアノのいろは」「いろはの『い』の字も知らない」などの慣用表現においても「物事の初歩」ほどの意味で残っている.
 「物事の初歩」ということでいえば,英語にも ABC という表現がある.the ABC of gardening, (as) easy as ABC, I don't know even the ABC of business など,「いろは」とよく似た使い方だ.語としての ABC は,英語では14世紀前半に「読み書き」や「アルファベット」の語義で初出する.「初歩」の語義では,Gower が初出だ.
 関連して from A to Z (初めから終わりまで,すっかり)も,アルファベットの配列にもとづいた慣用表現だ.こちらの初出は1819年.
 ギリシア語アルファベトからは,Rev. 1:8 の I am Alpha and Omega, the beginning and the ending が英語に入っており,Tyndale の聖書 (1526) がその初出である.
 サンスクリット語(梵語)からは,日本語へ「阿吽(あうん)」が入ってきている.「阿」は口を開く音で字音の初め,「吽」は口を閉じる音で字音の終わり.万物の初めと終わりを示す点では,上記と相通ずる.阿吽は「息の出入り」という意味を発展させ,共に一つのことをするときの相互の微妙な調子や気持ちを表わすのに「阿吽の呼吸」という慣用句が生まれた.
 いろは歌にせよアルファベットにせよ,順序を表わすという役割の大きかったことがわかる.現代は科学の時代で,数字で順序を表わすのが主流になってきているとはいえ,「あいうえお」や ABC もまだまだ健在である.いずれも文化史上の大発明といってよいだろう.ちなみに,いろは歌の最後に「京(ん)」が加えられたのは鎌倉時代からだが,その理由はよくわかっていない.

Referrer (Inside): [2015-01-30-1] [2014-05-04-1]

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2012-01-13 Fri

#991. 副詞としての very の起源と発達 (2) [etymology][semantic_change][conversion][adverb][adjective][flat_adverb][intensifier][metanalysis]

 昨日の記事[2012-01-12-1]に引き続き,強意の副詞 very の歴史について付言.昨日は,very が統語的に形容詞とも副詞ともとれる環境こそが,副詞用法の誕生につながったのではないかという Mustanoja の説を紹介した.MED も同様に考えているようで,"verrei (adj.)" の語源欄にて,解釈の難しいケースがあることに触れている.

When verrei adj. precedes another modifier, it is difficult if not impossible to distinguish (a) the situation in which both function as adjectives modifying the noun, from (b) that in which the modifier nearest the noun forms a syntactic compound with it (which compound is modified by verrei) and from (c) that in which verrei functions as an adverb modifying the adjective immediately following; some exx. of (a) and (b) now in this word may = (c) and belong to verrei adv.


 例えば,a verrai gentil man という句で考えれば,(a) の読みでは "a true gentle man",(b) では "a true gentleman",(c) では "a truly gentle man" という現代英語の表現に示される統語構造の解釈となる.この種の境目のあいまいな構造から,異分析 (metanalysis) の結果,副詞としての very が発達したと考えられる.
 しかし,ここで起こったのは形容詞から副詞への品詞転換 (conversion) にすぎず,「真実,本当」という原義はいまだ保持していた.とはいえ,「真実に,本当に」の原義から「とても,非常に」の強意の語義への道のりは,きわめて近い.語義間の差の僅少であることは,MED "verrei (adv.)" の 2 の (a) から (d) に与えられている語義のグラデーションからもうかがい知れる.各語義を表わす例と文脈を見比べても,互いに意味がどう異なるのか,にわかには判断できない.
 「真実に」か「とても」かの僅差を実感するには,今日でも用いられる手紙の "sign-off" の文句の例が適当だろう.very の副詞としての用法が発達した初期の例として,Paston Letters の締めの文句 Vere hartely your, Molyns がある.ここでは hartely は "sincerely, affectionately" ほどの意で,vere は「真実に」の原義と,単純に強意を示す「とても」の語義とが共存している例と解釈したい (Room 278) .
 以上のように,very は,フランス語形容詞の借用→形容詞「真実の」→副詞「真実に」→副詞「とても」へ,用法と語義を発展させてきた.しかし,現在,発展の最終段階ともいうべきもう1つの変化が進行中である.それは強意語の宿命ともいえる意味変化なのだが,肝心の強意がその勢いを弱めてきているというものである.以下は,シップリーの mere の項で触れられているコメント.

very (非常に)はほとんど力のない言葉になってしまった。I'm very glad to meet you. (お会いできてとてもうれしい)は,I'm glad to meet you. (お会いできてうれしい)よりも,しばしば誠意に欠ける表現となることがある。


 very の意味変化には,語の一生のドラマが埋め込まれている.いや,一生というには時期尚早だろう.なんといっても,very は,今,最盛期にあるのだから.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.
 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.

Referrer (Inside): [2012-01-15-1] [2012-01-14-1]

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2012-01-12 Thu

#990. 副詞としての very の起源と発達 (1) [etymology][semantic_change][conversion][adverb][adjective][flat_adverb][intensifier][metanalysis]

 [2012-01-04-1]の記事「#982. アメリカ英語の口語に頻出する flat adverb」で,本来,形容詞である goodreal が,主として米口語で副詞として用いられるようになってきていることに触れた.形容詞から副詞へ品詞転換 (conversion) した最も有名な例としては,強意語 very を挙げないわけにいかない.
 very は,現代英語で最頻の強意語といってよいだろう.Frequency Sorter によれば,BNC における very の総合頻度は86位である.しかし,この語が強意の副詞として本格的に用いられ出したのは15世紀以降であり,中英語へ遡れば主たる用法は「真の,まことの,本当の」を意味する形容詞だった.それもそのはずで,この語は古フランス語の同義の形容詞 ve(r)rai を借用したものだからである(現代フランス語では vrai).英語での初例は,c1275.この語義は,in very truth, Very God of very God などの慣用句中に残っている.14世紀末には,定冠詞や所有格代名詞を伴って「まさにその,全くの」を意味する強意語としても用いられ始め,この用法は現代英語の the very hat she wanted to get, at the very bottom of the lake, do one's very best などにみられる.
 一方,早くも14世紀前半には,上記の形容詞に対応する副詞として「真に,本当に」の語義で very の使用が確認されている.なぜ形容詞から副詞への転換が生じたかという問題を解く鍵は,that is a verrai gentil man (Gower CA iv 2275), he was a verray parfit gentil knyght (Ch. CT A Prol. 72), this benigne verray feithful mayde (Ch. CT E Cl. 343) などの例に見いだすことができる.ここでの very の用法は,続く形容詞と同格の形容詞である.しかし,意味的にも統語的にも,第2の形容詞を強調する副詞と解釈できないこともない.つまり,異分析 (metanalysis) が生じたと疑われる.このような句が慣習的に行なわれるようになると,修飾されるべき名詞がない統語環境ですら very が形容詞に先行し,完全な副詞として機能するに至ったのではないか.また,verray penitentverray repentaunt などのように,very が,名詞的に機能しているとも解釈しうる形容詞を修飾するような例も,この品詞転換の流れを後押ししたと考えられる.そして,15世紀には強意の副詞として普通になり,16世紀後半までにはそれまで典型的な強意の副詞であった full, right, much を追い落とすかのように頻度が高まった.
 以上,Mustanoja, pp. 326--27 を参考に記述した.1つの説得力のある議論といえるだろう.中英語で用いられた他の多くの強意副詞も,その前後のページで細かく記述されているので参考までに.
 考えてみれば,[2012-01-04-1]でみた現代米口語の副詞的 real もかつての ve(r)rai と同様,フランス借用語であり,かつ「真の,まことの,本当の」を意味する形容詞である.a real good soundtrack などの表現をみるとき,上述の Mustanoja の very に関する議論がそのまま当てはまるようにも思える.歴史が繰り返されているかのようだ.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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