hellog〜英語史ブログ

#98. 「リック」や「ニック」ではなく「チック」で切り出した理由[japanese_english][suffix][metanalysis][soed][waseieigo]

2009-08-03

 昨日の記事[2009-08-02-1]で,和製英語化した借用接尾辞「チック」が異分析であることを示した.日本語の音節構造からすれば,dramatic から語源的に正しい接尾辞 -ic をそのまま「イック」として切り出すことは確かに難しいだろう.日本語では,子音と母音の間で音を分割する発想がないので,「ドラマ+チック」と切り出すのが自然であることは理解できる.あまつさえ,「ドラマ」という語が,英語にも,そこから借りてきた日本語にも存在するわけで,この切り出し方はごく自然ともいえる.
 だが,[2009-08-02-1]でも述べたように,ギリシャ語から英語に入った借用語をみると,-ic の直前に来る音は t に限らず,あらゆる子音や母音が来ることができる: archaic, aerobic, silicic, Indic, onomatopoeic, terrific, nostalgic, Turkic, Gaelic, cosmic, electronic, heroic, geographic, Olympic, generic, basic, Gothic, Slavic, toxic
 これだけ豊富な可能性があるのだから,「チック」ではなく「リック」「ニック」「ミック」「フィック」などで切り出す可能性もあり得たのではないかという疑問が生じる.この疑問に対する一つの答えとしては,drama --- dramatic に見られるように,t が語幹末の子音として隠れたり現れたりすることがあるというギリシャ語特有の形態論がある.
 もう一つの答えは,頻度にあるかもしれない.CD-ROM版の New Shorter Oxford English Dictionary (ver. 1.0.03) で,-ic の直前に様々な子音や母音を入れ,"*tic" のようにワイルドカード検索してみた.円グラフでまとめると下図のようになった.

-ic Words in NSOED

 -tic は全体の36.6%を占めることがわかった.日本語として接尾辞を切り出すとき,この頻度がどれだけ影響したかは確かめようがないが,耳に触れる機会が圧倒的に多い「チック」で終わる英単語が第一に参照された可能性はありそうである.
 円グラフのソースとなるデータファイルを参照したい方はこちら

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