英語史におけるラテン語彙の借用については,[2009-05-30-1], [2009-08-19-1], [2009-08-25-1]などの記事で触れた.ラテン借用の量としていえば,[2009-08-19-1]で見たように初期近代英語期が群を抜いている.背景には,ルネッサンス期の古典復興や,自国意識に目覚めた英国民の語彙増強欲求があった.
しかし,16世紀に始まるラテン借用の爆発は突如として生じたことではない.それを予兆するかのようなラテンかぶれの文体が,aureate diction 「華麗語法」と呼ばれる形態で15世紀に存在していたのである.
Aureate diction is a self-consciously stylized and highly artificial poetic language designed to enrich vernacular poetic vocabulary by introducing Latin words, mostly from religious sources, into English. (Horobin 92)
宗教的な主題を扱う作品,特に the Virgin Mary (処女マリア)を話題にした詩に好んで使われる格調高い文体で,大量のラテン語彙の使用がその大きな特徴であった.ただ,利用されたラテン語彙の多くは最終的に英語語彙として組み込まれなかったので,まさに "artificial language" といってよい.この文体の萌芽は早くは Chaucer にもみられるが,もっとも強く結びつけられているのは Chaucer の信奉者であるイングランド詩人 John Lydgate (c1370--1449) やスコットランド詩人 William Dunbar (c1460/65--a1530) である.Dunbar の Ballad of Our Lady の冒頭部分が aureate diction の例としてよく引用される (see also http://www.lib.rochester.edu/Camelot/teams/duntxt1.htm#P4).
Hale, sterne superne! Hale, in eterne,
In Godis sicht to schyne!
Lucerne in derne, for to discerne
Be glory and grace devyne;
Hodiern, modern, sempitern,
Angelicall regyne!
Our tern infern for to dispern
Helpe, rialest Rosyne!
まさしく,漢字かな交じり文ならぬ,羅英交じり文である.
Baugh and Cable は,英語史において aureate diction は "a minor current in the stream of Latin words flowing into English in the course of the Middle Ages" (186) であると消極的な評価をくだしている.しかし,次の時代にやってくるラテン借用の爆発,そしてそこでも借用語彙の多数が後世まで残らなかったという事実を考えるとき,英語史におけるラテン借用に通底する共通項がくくり出せるように思える.
・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.
・Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
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