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standardisation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-08-02 08:24

2010-02-27 Sat

#306. Samuels の中英語後期に発達した書きことば標準の4タイプ [standardisation][chaucer][auchinleck][chancery_standard]

 中英語後期,14世紀後半から,英語に書きことば標準 ( written standard ) が現れ出した.この頃から,英語がそれまでのフランス語に代わって政治・行政や文学のために用いられるようになり,より広く通用する書きことば標準が求められるようになった.書きことば標準の発達過程は非常に複雑で,さまざま議論が繰り広げられているが,議論の出発点として Samuels の書きことば標準の4タイプが有名である (165--70).以下に,Horobin (13--15) を参考にまとめてみる.

 Type 1: the Central Midlands Standard としても知られる.John Wycliffe や Lollards と結びつけられる翻訳聖書などのテキストに残る書きことば.

 Type 2: 14世紀中後期のロンドン写本群に残る書きことば.ロンドンや中西部出身の写字生によって1340年頃に書写された Auchinleck 写本のテキストを含む.他に,(1) The Mirror: BL MS Harley 5085, (2) Corpus Christi College, Cambridge, MS 282, (3) Glasgow University Library MS Hunter 250 を含む.1380年代に一人の写字生によって書写された,(4) BL MS Harley 874, (5) Bodleian Library MS Laud Misc. 622, (6) Magdalene College, Cambridge, MS Pepys 2498 なども含む.Norfolk や Suffolk からロンドンへ移民した人々の言語特徴が反映されている.

 Type 3: 1400年前後のロンドンの書きことば.(1) Hengwrt MS of The Canterbury Tales, (2) Ellesmere MS The Canterbury Tales, (3) Corpus Christi College, Cambridge, MS 61 of Troilus and Criseyde などの最初期の Chaucer 写本を含む.他には,ロンドン・ギルドの申告書や絹物証人の請願書といった市民記録や Thomas Hoccleve の自筆書名入りの写本群を含む.Central Midlands の方言特徴を示す.

 Type 4: 15世紀初期に Type 3 を置きかえた書きことば標準."Chancery Standard" とも呼ばれる.1430年以降,政府文書に大量に現れてくる.Central Midlands 方言のうえに North Midlands の方言がかぶさった言語特徴を示す.

 Type 4 が Type 3 を置きかえた過程や,Type 4 が現在の書きことば標準といかなる関係にあるか,については不明な点が多く今後もさかんに研究が進められていくだろう.

 ・Samuels, M. L. Linguistic Evolution with Special Reference to English. London: CUP, 1972.
 ・Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.

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2010-02-18 Thu

#297. 印刷術の導入は英語の標準化を推進したか否か [caxton][printing][spelling][standardisation][german]

 [2009-12-24-1]の記事で,15世紀後半に Caxton が England に印刷術をもたらした経緯について述べた.一般に,この印刷術の導入は,15世紀前半から徐々に進行していた英語の綴字の標準化を推進したとして解釈されている.英語史の古典の一つというべき Baugh and Cable は,印刷術の影響を次のように評価している.

A powerful force thus existed for promoting a standard, uniform language, and the means were now available for spreading that language throughout the territory in which it was understood. (Baugh and Cable 201)


 しかし,Caxton による印刷術の導入がすぐに綴字の標準化に貢献したかどうかは疑わしいという慎重論も出てきている.

The introduction of the press did not at first assist the adoption of the standard, but over time compositors became more familiar with it and helped to ensure its triumph. (Blake 205 as cited in Horobin 79)


. . . while the advent of the printing press was an important factor for the standardisation of written English, this was a gradual process which even by the close of the fifteenth century still remained unfinished. (Horobin 87)


 さらに,印刷術はむしろまだ残っていた綴字の variation を国中に広める役割を果たし,標準化に逆行する流れを生み出した,とする意見すらある.

. . . it is an irony in the history of the development of the standard that the orthography of early printing represented a backward step when compared with the established conventions of chancery English. (Görlach 24 as cited in Horobin 79)


 この三番目の逆説的な意見と関連して,初期近代高地ドイツ語期の書き言葉標準化の状況を思い出した.以下は拙著からの引用.

The inflectional system remained unstable during the following Early New High German period. One of the major factors for the instability was ironically the growing standardisation of written language. To quote R. Keller, "the growth of a written standard language spread regional features to other areas and by making them supra-regional increased variation and thus morphological confusion" (German 410) (Hotta 27)


 英語の場合,上記いずれの意見が正しいかは,Caxton や初期の印刷事業者の spelling の使い方を詳細に分析してみるところから始めなければ明らかにならないだろう.この議論は,一つの文化史上の出来事に対して様々な評価が可能であることを示す例として興味深い.

 ・Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.
 ・Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
 ・Blake, N. F. A History of the English Language. Basingstoke: Macmillan, 1996.
 ・Görlach, M. Studies in the History of the English Language. Heidelberg: C. Winter, 1990.
 ・Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
 ・Keller, R. E. The German Language. London: Faber, 1978.

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2010-01-09 Sat

#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? [chaucer][standardisation][french][loan_word]

 「英詩の父」と呼ばれる Geoffrey Chaucer (1342/43--1400) が英文学史上に果たした役割といえば,それこそ無限に論じられるかもしれない.しかし,Chaucer が英語史上に果たした役割は,と問われるとどうだろうか.文豪であれ政治家であれ一個人が言語の歴史に果たした役割というのは,評価するのはより難しい.
 それでも,さすがに Chaucer 級の大詩人が英語史に何も貢献していないということは考えにくいようである.例えば,英語史概説書の類では,フランス借用語を含め大量の新語を英語に導入した個人として評価されることが多い.文学言語としての英語を作り出した功績を Chaucer に付与するという見方である.だが,Horobin はこれを一蹴する.

. . . he introduced large numbers of new words into English and thereby somehow 'created' the English literary language. This view is a myth that has built up over generations of scholarship, although it is partly based upon analyses of the evidence of the Oxford English Dictionary (OED). (24)


 Horobin (79) の理屈は以下の通りである.確かに OED では,Chaucer の用いた多くの借用語が英語での初出例として記録されている.しかし,(1) 中英語の語彙に特化して編まれた Middle English Dictionary によれば,そのうちの多くが Chaucer 以前に現れていることが判明する.また,(2) 現存していないが Chaucer 以前に存在したであろう文献に問題の語彙が現れていたという可能性を考える必要があるし,記録に残らない話し言葉ではすでに用いられていたかもしれないという可能性にも留意する必要がある.さらに,(3) フランス語やラテン語から語彙を借用する習慣は Chaucer に始まったわけでなく,すでに Chaucer 以前の作家が大量に借用していたという事実がある(see [2009-08-22-1]).
 では,Chaucer に英語史上の意義は見いだせないのだろうか? Horobin の結論は以下のごとくである.

By writing for a range of characters, in a range of voices, as well as writing scientific, moral, philosophical and penitential prose tacts, Chaucer showed that the English language was capable of a range of functions not witnessed since before the Norman Conquest. . . . Chaucer demonstrated how the English language could be used for all types of writing, particularly for secular literature. (26)


 英語史上の意義というよりは,より広く英文学史,英語文体史,英語史のすべてを覆う意義と読めるが,キーワードは function だろう.ここでは直接的には文体的機能のことを指していると読めるが,Horobin は社会言語学的な機能も意図していると思う.[2009-11-06-1]でみたように,Chaucer 以降,中英語末期にかけて英語の書き言葉標準が整備されてゆく.Chaucer はこの時代の流れを明確に予感させる英語の使い手として,英文学史上だけではなく英語史上にも名を残している,と言えるのではないか.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

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2009-11-06 Fri

#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り [spelling][me][chancery_standard][ame][me_dialect][standardisation]

 [2009-06-21-1], [2009-06-20-1]で中英語における through の異綴りが515通りあったことを話題に取り上げた.中英語は方言の時代であり,綴字にも方言が顕著に反映された結果,とんでもない数の異綴りがおこなわれた.しかし,中英語も末期になると,徐々に書き言葉標準が現れてきた.いまだ現代的な意味での「標準」ではないが,後の標準化への下敷きとなる「参照点」を提供してくれる変種である.それはロンドンの公文書に用いられた変種で,Chancery Standard として知られている.15世紀の Chancery Standard のコーパスを調査した Fisher et al. によると,through の異綴りはこの時点で14種類にまで絞られていた.複数の異綴りがある時点で現代的な意味での「標準」ではないことは知られるが,515通りもあった直近の時代に比べれば格段の進歩である.以下,コーパス内の頻度数とともに異綴りを挙げる.

through (1), thurgh (4), tþurgh (3), thorugh (2), thourgh (1), throu (1), thorogh (1), throgh (1), thorwe (1), thorwgh (1), thorw (1), thorow (1), þorow (1), þorowe (1)


 Chancery English 以外のコーパスを参照すれば,他の異綴りもいまだ豊富に存在していたと推測されるが,15世紀の英語の書き言葉が標準化への道を歩み始めたことは間違いない.
 ちなみに,昨今,米語で見られる thru の綴りは,中英語からの異綴りの歴史とは切り離して考えるべきである.実際に,中英語の515通りのなかに thru は存在しない.近代英語期に through としてようやく標準化された綴りが,近年,米語で thru なる異綴りを見ているということは,歴史を逆行しているようでおもしろい.

 ・Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.
 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 30.
 ・Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996. 68, 76.

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2009-09-04 Fri

#130. 中英語の方言区分 [me_dialect][dialect][standardisation][map][isogloss]

 現在の言語学では,通時的な研究にしろ共時的な研究にしろ,方言が重視されている.とりわけ中英語に関しては方言研究が盛んである.その現れの一つとして,このブログでも何度か紹介してきたが,初期中英語期の方言地図 LAEME がオンラインで公表されたことが挙げられる.
 とりわけ中英語研究が方言学と相性がよいのには理由がある.古英語や現代英語では,標準語なるものが存在する.ここでは 標準変種 ( standard variety ) と呼んでおくことにしよう.古英語では書き言葉に限定すれば West-Saxon 方言が標準変種であったし,現代英語では英国に限定すれば BBC English や Estuary English などが標準変種とされる.このように社会的に広く認められた標準変種が存在すると,そうでない変種,特に地方方言は,標準から逸脱した変種,堕落した変種としてとらえられることが,従来は多かった.このような従来の風潮では,方言研究は亜流であるとのステレオタイプから免れることは難しかった.
 ところが,中英語にはそもそも標準変種と呼ばれるものがない.確かに中英語の末期には書き言葉標準の萌芽が見られるようになるが,確立された標準変種は,中英語期を通じてほぼなかったといってよい.政治・経済・文化の中心地たるロンドンで話されていた言葉ですら,特別視されるような変種ではなく,あくまで「ロンドン方言」であった.したがって,中英語には標準変種もなければ,方言間の社会的な上下差もなく,まさに各方言が百花繚乱に咲き乱れた時代といえる.
 その百花繚乱の中英語方言を地理的に区分する試みは古くからなされているが,どんな言語特徴を基準に区分するかによって諸説ある.下に掲げたのは,現在,比較的ひろく受け入れられている区分である.

ME Dialect Map

 区分線は,およそ注目する語(群)の等語線 ( isogloss ) によるが,その選択は恣意的である.また,特に West Midland と East Midland を分ける線などは,実際にはこれほど明確ではなく,かなり曖昧であった.地図上の区分はあくまで目安までに.

 ・ Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.

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