hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 次ページ / page 14 (16)

language_change - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-02-28 15:58

2012-02-10 Fri

#1019. 言語変化の予測について再考 [prediction_of_language_change][language_change]

 言語変化を予測することの意味については,[2011-08-18-1]の記事「#843. 言語変化の予言の根拠」や[2011-08-19-1]の記事「#844. 言語変化を予想することは危険か否か」で議論した.今回は,この問題についてもう少し議論を続けたい.
 言語変化の予測,予想,予言については,言語研究者のあいだでも考え方が分かれている.言語学を自然科学のようなものとしてみる向きの強い研究者は予測を是としているようであり,そうでない研究者は言語学の目指すところではないとさっぱり切り捨てる.ただし,後者でも,学問の対象としての言語変化予測は切り捨てるとしても,関心がないということではないだろう.むしろ,おおいに関心があるのではないだろうか.この点で,言語を記述する研究者が,しばしば言語の規範にも並々ならぬ関心を抱いているのと似ているように思う.
 予測を是とする者と非とする者の言葉を1つずつ引用しよう.私が読んでいて直接出会ったものである.まずは,賛成意見として,アメリカの著名な英語学者 Algeo (4) より.[2010-06-16-1]の記事「#415. All linguistic varieties are fictions」で取り上げた,言語の variety とはすべてフィクションだという趣旨の論文からの引用.

Without such fictions there can be no linguistics, nor any science. To describe, to explain, and to predict requires that we suppose there are stable things behind our discourse.


 Algeo の考え方はこうだろう.言語研究は言語を抽象化したところに成り立つものであり,抽象化した限りにおいてであったとしても,言語変化の予測が可能とならなければ,言語学はまだまだ記述力も説明力も足りない段階にあるのだ,と.なお,Algeo のこの発言については,Lilles (3) が ". . . the role of predicting language change hardly seems an essential component of linguistics." と返している.
 次に,反対意見として,日本語学者の小松 (17--18) を引く.

しかし、将来、どれほど研究が進歩しても、可能なのは、特定の限られた事柄についての短期予測だけであって、日本語の将来の状態を予測することは原理的に不可能である。/今から100年前(明治末期ごろ)、50年前(いわゆる戦後の時期)のデータに基づいて現在の日本語の状態を予測したとしても、その結果が現実と一致することはありえない。言語は社会の変化に連動して変化するが、社会の変動を具体的に予測することはできないし、社会の変動が言語にどのように具体的に反映されるかは、必ずしも一定ではない。また、予測が可能だと仮定しても、人口動態や自然災害などと違って、変化にそなえて対策を立てる必要はないから、役に立たないことに変わりはない。


 小松の要点は,言語変化の予測が (1) そもそも原理的に不可能であるという点と,(2) 役に立たないという点だ.しかし,(1) について,ある言語体系全体の予測は確かに原理的に不可能だろうが,限られた範囲での近い未来の予測であれば,それなりの精度が得られるかもしれない.次に,(2) について,なるほど言語変化の予測は役には立たないかもしれないが,予測への関心は,役立つかどうかというよりは,純粋な好奇心に根ざしているものであり,見返りを求めるものではない.
 言語変化の予測には捨てがたい魅力がある.ただし,その前にすべきことは,たくさん残っている.予測が可能かどうかの議論は別として,まず過去と現在の言語の動態を記述することが先決だろう.

 ・ Algeo, John. "A Meditation of the Varieties of English." English Today 27 (July 1991): 3--6.
 ・ Lilles, Jaan. "The Myth of Canadian English." English Today 62 (April 2000): 3--9, 17.
 ・ 小松 秀雄 『日本語の歴史 青信号はなぜアオなのか』 笠間書院,2001年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-02-06 Mon

#1015. 社会の変化と言語の変化の因果関係は追究できるか? [causation][language_change][methodology][speed_of_change][diachrony]

 昨日の記事「#1014. 文明の発達と従属文の発達」 ([2012-02-05-1]) と,そこから参照した「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1]) の記事では,社会の変化と言語(とりわけ文法)の変化の因果関係について触れた.この問題が研究者の関心を誘うことはまちがいないが,昨日述べたように学問的に扱うには難点を含んでいることも確かだ.
 社会変化が新語を生み出すというような語彙の刷新などは,時間的な符合により因果関係をとらえやすい.しかし,社会変革によってもたらされると仮定される文法レベルの変化は,たいてい時間がかかるものであり,その時間が長ければ長いほど,時間的な符合のもつ因果関係の証拠としての価値は弱まる.また,文法変化の場合,刷新形が急に現われるというよりは,前身があり,その頻度が徐々に高まってくる,という拡大過程を指すことが多く,語彙の場合のような,無から有の出現という見えやすい変化ではないことが普通だ.(部門別の言語変化の速度については,[2011-01-08-1]の記事「#621. 文法変化の進行の円滑さと速度」や[2011-01-09-1]の記事「#622. 現代英語の文法変化は統計的・文体的な問題」を参照.)
 Martinet (180--81) は,社会変化と言語変化の因果関係に関する議論をまったく排除するわけではないものの,共時的な構造言語学の立場からは副次的なものとして脇においておき,まず言語内での因果関係の追究に努めるべきだと主張する.

. . . il est trés difficile de marquer exactement la causalité des changements linguistiques à partir des réorganisations de la structure sociale et des modifications des besoins communicatifs qui en résultent. Les linguistes, une fois qu'ils ont reconnu l'influence décisive de la structure sociale sur celle de la langue, n'auront de chance d'atteindre à quelque rigueur que s'ils limitent leur examen à une période assez restreinte de l'évolution d'un idiome et se contentent de relever dans la langue même les traces d'influences extérieures et de noter les réactions en chaîne que celles-ci ont pu y déterminer, sans remonter aux chaînons prélinguistiques de la causalité. Certains traits de la langue étudiée deveront être nécessairement considérés comme des données de fait dont on ne saurait justifier l'existence qu'à l'aide d'hypothèses invérifiables. L'objet véritable de la recherche linguistique sera donc, ici, l'étude des conflits qui existent à l'intérieur de la langue dans le cadre des besoins permanents des êtres humains qui communiquent entre eux au moyen du langage.

社会構造の再編成や,そこから生じるコミュニケーション上の必要の変容に端を発する言語変化の因果関係を正確に示すことは,とても難しい.言語学者は,いったん社会構造が言語構造に与えた決定的な影響を認めたとしても,ある言語の発展の十分に限られた時期に調査を限定して,その言語に外的な影響の痕跡を見いだし,それが引き起こした可能性のある反応の連鎖に言及することで満足するよりほか,言語以前の因果関係の連鎖にさかのぼらずには,何らかの厳密さを得ることはできないだろう.研究対象の言語の特徴は,検証不能の仮説によってしかその存在を説明できない所与の事実としてみなさなければならない.したがって,言語研究の真の目的は,言語によって互いに意思伝達する人々の不変の必要性の枠内で言語内に存する対立の研究なのである.


 同書の最後の一節 (208) も引いておこう.

Les difficultés qu'on éprouve à identifier toutes les circonstances qui ont pu influer sur la genèse d'un changement linguistique ne sauraient détourner les chercheurs d'une analyse explicative. Il convient simplement de toujours donner la priorité à cet aspect de la causalité des phénomènes qui ne fait intervenir que la langue en cause et le cadre permanent, psychique et physiologique, de toute économie linguistique : loi du moindre effort, besoin de communiquer et de s'exprimer, conformation et fonctionnement des organes. En second lieu, interviendront les faits d'interférence d'un usage ou d'un idiome sur un autre. Sans faire jamais fi des données historiques de tous ordres, le diachroniste ne les fera intervenir qu'en dernier lieu, après avoir épuisé toutes les ressources explicatives que lui offrent l'examen de l'évolution propre de la structure et l'étude des effets de l'interférence.

言語変化の起源に影響を与えた可能性のあるすべての状況を同定するにあたって困難を感じるからといって,研究者は,説明的な分析から逸脱してはならない.諸現象の因果関係のある側面,すなわち当該の言語と言語組織全体の心的および生理学的な不変の枠組み(最小努力の原則,意思伝達し自己表現する必要性,器官の構造と機能)とにしか介入を許さないような因果関係の側面を常に優先するのが,単純にいって,よい.2番目には,ある用法や語法が他に干渉するという事実が関与してきてもよいだろう.あらゆる種類の歴史的に所与の事実をけっして無視するわけではないが,通時的な研究者は,それに介入させるのは最後にするのがよいだろう.構造の発達そのものの調査や干渉効果の検討がもたらしてくれる説明的なリソースをすべて使い尽くしたあとにするのがよいだろう.


 Martinet の透徹した共時主義の,構造主義の主張が響いている.共時態と通時態の折り合いについては,[2011-09-10-1]の記事「#866. 話者の意識に通時的な次元はあるか?」ほか diachrony の記事を参照.

 ・ Martinet, André. Éléments de linguistique générale. 5th ed. Armand Colin: Paris, 2008.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-02-05 Sun

#1014. 文明の発達と従属文の発達 [syntax][language_change][civilisation][causation][literacy]

 言語史において,従属文は歴史が浅いといわれる.従属構造は,文明が高度に発達し,思考や表現が洗練されて初めて出現するものだ,ということが,文献上でしばしば指摘されている.たとえば,最近,出会ったものとして2点引用しよう.

従文(従属文,dependent clause)は従属接続詞または関係詞によって導かれる.言語の発達史上,従文は人間の表現能力がより高度に発展した段階で生じた.〔中略〕言語史的にはまず並置法が,のちにより複雑な従位法が発達した.(下宮,p. 57)


La comparaison des langues indo-européennes montre que la proposition relative est une acquisition tardive, et l'observation synchronique indique que le type d'expansion représenté par les propositions subordonnées ne s'impose, dans certaines communautés, que sous la pression de besoins nouveaux apportés par la culture occidentale. (Martinet 179)

印欧語の比較により,関係節は遅れて獲得されたものであることが明らかにされているし,共時的な観察により,従属節の示す種類の拡大過程は,ある共同体では,西洋文化によってもたらされる新しい必要の圧力のもとでしか現われない.


 ここで考慮する必要があるのは,下宮氏のいう「人間の表現能力がより高度に発展した段階」や,Martinet のいう「西洋文化によってもたらされる新しい必要の圧力のもとでしか」という表現に含意されているように思われる文明の発達と,複雑な統語構造の1例としての従属文の発達とは,いかなる関係にあるかということである.
 少なくとも印欧語の文脈では,Martinet の言うように,従属節の発達が印欧諸語の発達の比較的遅い段階に見られるというのは客観的な事実である.つまり,文明の発達と従属文の発達とが時間的におよそ符合することは確かだ.しかし,時間的な符合は,即,因果関係を含意するわけではない.両者の間に因果関係はあるのか,ないのか.あるとすれば,どの程度の因果関係なのか.印欧語以外の文脈ではどうなのか.
 直感的には,文明が発達することによって,社会が複雑化し,それに伴って指示対象や思考の様式も複雑化し,それに伴って対応する言語表現も複雑化するというのは,自然のように思われる(Martinet は,蒸気船の発明に伴う le bateau qui marche à la vapeur という表現を例に挙げている).
 別のステップを思い描くこともできる.文明が発達すると,知識の集積と情報の伝達の必要が増大する.その必要に応えるための主たる媒体が言語,特に書きことばだとすれば,物事や出来事の関係を正確に記すための論理的な表現法が必要となる.そこで,その目的を達するのに必要な統語,形態,句読法などが新たに作り出されることになるが,その統語的な刷新の1つとして従属文の発達ということがあったのではないか.
 しかし,文明の発達と従属文の因果関係を実証することは極めて難しい.両方の発達とも,一夜にしてではなく相当の長さの時間をかけて起こったものであり,そのあいだに他の多くの要因が紛れ込んだ可能性があるからだ.間接的な因果関係がありそうだというところはまでは提起できても,因果関係を示す事実を挙げながら説得力をもって論じるということは難しそうだ.
 ただし,関連して興味深い例があるので示しておこう.池内 (59) のいうように,併合+標示付けや回帰的階層的句構造は人の言語を特徴づけるものであり,複雑な統語構造の発達は潜在的にどの言語でも可能である.しかし,複雑な統語構造が顕在化するかどうかは言語によって異なり,そこには文化的な要因も関わっているかもしれない.アマゾン流域の狩猟採集民族によって話されるピラハー語には回帰的な埋め込み構造がないとされ,研究者の注目を集めているが,池内 (59) によれば,「ピラハー語には,他の言語と同様に,(回帰的操作としての)併合と標示付けはあり,階層的句構造は生み出されるが,文化的な制約で回帰的な埋め込み構造まではいかない」だけであり「たまたま複雑な回帰がない」にすぎないという.
 文明の発達と個別の文化の制約とは異なるとはいえ,言語外の要因によって統語構造という言語内の体系が変化する可能性があるということは,注目すべきである.言語外の要因が語彙や意味に影響を及ぼす例は多く挙げられるが,より抽象的な統語レベルにも同様に影響を及ぼしうるのかという点は,なかなか追究するのが難しい.
 この問題については,[2011-01-12-1]の記事「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」に引用した Leech et al. の主張にも耳を傾けたい.また,文明の発達と言語の発達という点で,[2011-08-25-1]の記事「#850. 書き言葉の発生と論理的思考の関係」も,本記事の話題と関連するかもしれない.

 ・ 下宮 忠雄 『歴史比較言語学入門』 開拓社,1999年.
 ・ Martinet, André. Éléments de linguistique générale. 5th ed. Armand Colin: Paris, 2008.
 ・ 池内 正幸 『ひとのことばの起源と進化』 〈開拓社 言語・文化選書19〉,2010年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-11-15 Tue

#932. neutralization は異形態の縮減にも貢献した [oe][old_norse][inflection][conjugation][paradigm][contact][language_change][analogy]

 [2011-11-11-1]の記事「#928. 屈折の neutralization と simplification」と[2011-11-14-1]の記事「#931. 古英語と古ノルド語の屈折語尾の差異」で,古ノルド語との言語接触に起因する古英語の屈折体系の簡単化について取り上げてきた.O'Neil が neutralization と呼ぶ,この英語形態論の再編成については,両言語話者による屈折語尾の積極的な切り落としという側面が強調されることが多いが,より目立たない側面,allomorphy の縮減という側面も見逃してはならない.
 昨日の記事で示したパラダイムの対照表を見れば,屈折語尾の差異を切り落とし,ほぼ同一の語幹により語を識別するという話者の戦略が有効そうであることが分かるが,語幹そのものの同一性が必ずしも確保できないケースがある.パラダイムのスロットによっては,語幹が異形態 (allomorph) として現われることがある.昨日の例では,drīfan の過去形においては,単数1・3人称 (drāf) で ā の語幹母音を示すが,単数2人称および複数 (drifedrifon) で i の語幹母音を示す.
 他にも,現在単数2・3人称の屈折において語幹母音が i-mutation を示す古英語の動詞は少なくない.OE lūcan "to lock" の現在形の活用表を示すと,以下のように語幹母音が変異する (O'Neil 262) .

 Old English
Inflūcan 'lock'
Pres. Sing. 1.lūce
2.lȳc(e)st
3.lȳc(e)ð
Plur.lūcað


 ところが,中英語の典型的なパラダイムでは,現在単数2・3人称の語幹は他のスロットと同じ語幹を取るようになっている.ここで生じたのは allomorphy の縮減であり,結果として,不変の語幹が現在形のパラダイムを通じて用いられるようになった.動機づけのない allormophy をこのように縮減することは,当時,互いに意志疎通を図ろうとしていた古英語や古ノルド語の話者にとっては好意的に迎え入れられただろうし,それ以上にかれらが縮減を積極的に迎え入れたとすら考えることができる.

I think it clear that working from quite similar, often identical, underlying forms but with different sets and intersecting sets of endings associated with them and bewildering allomorphies as a result of the conditions established by the endings, the basic underlying sameness of Old English and Old Norse had become somewhat distorted and thus a superficial barrier to communication between speakers of the two languages had arisen. It is not surprising then that the inflections of the languages were rapidly and radically neutralized, for they were the source of nearly all difficulty. (O'Neil 262--63)


 allormophy の縮減は,言語接触による neutralization の過程としてだけでなく,言語内的な類推 (analogy) や 単純化 (simplification) の過程としても捉えることができる.実際には,片方のみが作用していたと考えるのではなく,両者が共に作用していたと考えるのが妥当かもしれない.
 allomorphy の縮減は,パラダイム内の levelling (水平化)と読み替えることも可能だろう.この用語については,[2010-11-03-1]の記事「#555. 2種類の analogy」を参照.

 ・ O'Neil, Wayne. "The Evolution of the Germanic Inflectional Systems: A Study in the Causes of Language Change." Orbis 27 (1980): 248--86.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-11-14 Mon

#931. 古英語と古ノルド語の屈折語尾の差異 [oe][old_norse][inflection][conjugation][paradigm][contact][language_change]

 [2011-11-11-1]の記事「#928. 屈折の neutralization と simplification」では,古英語の言語体系が古ノルド語との接触により簡単化していった過程を,O'Neil の用語を用いて neutralization と呼んだ.この過程の要諦は,古英語と古ノルド語との間で,対応する語幹はほぼ同一であるにもかかわらず,対応する屈折語尾は激しく異なっていたために,後者が積極的に切り落とされたということだった.
 では,具体的にどのように両言語の屈折体系が混乱を招き得るものだったかを確かめてみよう.以下は,典型的な強変化動詞,弱変化動詞,弱変化名詞,強変化女性名詞 (o-stem) の屈折の対照表である (O'Neil 257--59) .

Strong Verb

 Old EnglishOld Norse
Infdrīfan 'drive'drífã
Pres. Sing. 1.drīfedríf
2.drīfestdrífR
3.drīfeðdrífR
Plur. 1.drīfaðdrífom
2.drīfaðdrífeð
3.drīfaðdrífã
Past Sing. 1. and 3.drāfdreif
2.drifedreift
Plur. 1.drifondrifom
2.drifondrifoð
3.drifondrifð
Pres. pple.drīfendedrífande
Past pple.drifendrifenn

Weak Verb

 Old EnglishOld Norse
Inftellan 'count'teljã
Pres. Sing. 1.telletel
2.telesttelR
3.telðtelR
Plur. 1.tellaðteljom
2.tellaðteleð
3.tellaðteljã
Past Sing. 1taldetalda
2.taldesttalder
3.taldetalde
Plur. 1.taldontǫldom
2.taldontǫldoð
3.taldontǫldõ
Pres. pple.tellendeteljande
Past ppl.etaldtal(e)ð

Weak Noun

 Old EnglishOld Norse
Sing. Nom.guma 'man'gume
Obliquegumangumã
Plur. Nom.gumangumaR
Acc.gumangumã
Gen.gumenagum(n)a
Dat.gumumgumon

Strong Noun (Feminine ō-stems)

 Old EnglishOld Norse
Sing. Nom.bōt 'remedy'bót
Acc.bōtebót
Gen.bōtebótaR
Dat.bōtebót
Plur. Nom.bōtabótaR
Acc.bōtabótaR
Gen.bōtenabóta
Dat.bōtumbótom


 語幹はほぼ同一であり,わずかに異なるとしても「訛り」の許容範囲である.ところが,対応する屈折語尾を比べると,類似よりも相違のほうが目立つ.対応するスロットに異なる語尾が用いられているということはさることながら,形態的に同一の語尾が異なるスロットに用いられているというのも混乱を招くに十分だったろう.例えば,古英語の drīfeð は現在3人称単数だが,同音の古ノルド語 drífeð は現在2人称複数である.
 このように屈折表を見比べると,両言語話者の混乱振りが具体的に見えてくるのではないか.

 ・ O'Neil, Wayne. "The Evolution of the Germanic Inflectional Systems: A Study in the Causes of Language Change." Orbis 27 (1980): 248--86.

Referrer (Inside): [2020-03-17-1] [2011-11-15-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-11-11 Fri

#928. 屈折の neutralization と simplification [inflection][contact][language_change][germanic][old_norse]

 英語史では,古英語から中英語にかけて起こった屈折体系の簡単化を,屈折の水平化 (levelling) や単純化 (simplification) という用語で表現するのが普通である.同様の現象が多かれ少なかれ他のゲルマン諸語でも生じてきたことは,昨日の記事「#927. ゲルマン語の屈折の衰退と地政学」 ([2011-11-10-1]) や「#656. "English is the most drifty Indo-European language."」 ([2011-02-12-1]) で話題にしてきたが,ここでも水平化や単純化という用語が適用されるだろう.
 しかし,O'Neil は,ゲルマン諸語に見られる屈折の衰退は,明確に区別されるべき2つの用語 neutralizationsimplification によって記述されるべきだと強調している.それぞれの定義は,O'Neil (283) によると次の通り.

(A) If there is significant and more-or-less permanent contact between two closely related languages differing for the most part only in superficial aspects of their grammars (inflections, accent, tone, etc.), these superficial differences will be rapidly neutralized or erased. (283)


(B) Without language contact, inflectional systems will simplify only so far as there is room available for easing learning without greatly decreasing perceptibility. (283)


 つまるところ,言語接触が契機となって文法カテゴリーの区別が失われるような言語体系の簡単化を neutralization と呼び,言語接触とは関係なく,学習や知覚に関わる話者の言語心理学的な要求に基づいて自然に進行する言語体系の簡単化を simplification と呼び分けるべきだと,O'Neil は主張している.比喩的に言えば,neutralization は突如として激しく作用するデジタルな力,simplification は常に少しずつ作用しているアナログな力と捉えられるだろうか.
 この用語でゲルマン諸語の屈折体系の簡単化を改めて記述すると,次のようになるだろう.Icelandic や High German などの相対的に保守的な言語では,主として simplification による屈折体系の簡単化のみが観察されるのに対して,著しく簡単化した英語,大陸スカンジナビア諸語,アフリカーンス語などでは,simplification に加えて,言語接触によって引き起こされた neutralization が作用した.
 古英語後期から言語内的に進行していた屈折の簡単化が古ノルド語との接触により著しく加速したという歴史的な説明は,今では広く受け入れられているが,それを明確に区別される2つの用語により説明しなおしたという点に,O'Neil の意義がある.既に進行していたプロセス (simplification) がそのまま延長されたのではなく,簡単化という意味では一緒にくくることができるものの,古ノルド語との接触により誘発された別のプロセス (neutralization) によって後押しされたと考えている点が重要である.

 ・ O'Neil, Wayne. "The Evolution of the Germanic Inflectional Systems: A Study in the Causes of Language Change." Orbis 27 (1980): 248--86.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-09-26 Mon

#882. Belfast の女性店員 [sociolinguistics][language_change][contact][social_network][weakly_tied]

 20世紀の後半には,社会言語学の分野でいくつかの画期的なフィールドワークが実施され,言語変化の実態(誰が,いつ,どこで,どのように,そしてなぜ言語変化を開始するのか)が少しずつ明らかにされてきた.[2010-06-07-1]の記事「#406. Labov の New York City /r/」で紹介した研究はそのうちの1つだが,別の進取的な研究を紹介したい.昨日の記事「#881. 古ノルド語要素を南下させた人々」 ([2011-09-25-1]) で引き合いに出した Milroy (and Milroy) の研究である.Aitchison (73--77) による同研究の要約を参照しつつ,以下で紹介する.
 Milroy (and Milroy) は,北アイルランドの Belfast 市街地社会で生じている音声変化を実地調査した.いくつかの母音変化が生じているが,そのなかに grassbad に含まれる母音 /ɑ/ が後舌化して /ɔː/ へと変化しているというものがある.あたかも <grawss> や <bawd> と綴られるかのような発音となる変化だ.この母音変化は19世紀後半より記録されており,決して新しくないが,その進行過程には謎があった.Belfast 市街地社会で一律に生じているわけではなく,分布に偏りが見られるというのである.
 分布の偏りについて見る前に,Belfast 市街地の社会的背景を理解しておく必要がある.Belfast 市街地は貧しく,荒廃しており,失業,早死,病気,少年犯罪が蔓延するスラム街だったが,そのなかでプロテスタントとカトリックの対立が際立っていた.両集団は市内で住み分けしており,互いに言語的接触はおろか物理的接触もあまりなく,たまの接触は一触即発の危険をはらんでいた.
 さて,問題の実地調査は,市街地東部のプロテスタント系の町 Ballymacarrett と市街地西部のカトリック系の町 the Clonard で行なわれた.その結果,当該の母音変化は Ballymacarrett の男性住民に顕著に観察されることが分かった.Ballymacarrett の男性住民は就業率が the Clonard よりも高く,ある種の社会的地位を有しているのが特徴的である.彼らは社会的つながりによって互いに強く結びつけられており,その集団力によって Belfast 市街地における母音後舌化の推進力となっていると考えられる.だが,Ballymacarrett の女性については,この母音変化は男性ほど浸透していない.あくまで男性集団が主導している変化であることが分かる.一般に,非標準的な方向への言語変化は男性に多く見られることが多いとされるが,その傾向がよく示されている.
 ところが,興味深いことに市街地西部のカトリック系の町 the Clonard においては,同じ母音変化が,若年層において男性よりも女性に多く観察されるというのである.ここに2つの謎がある.1つは,Ballymacarrett では,当該の母音変化は非標準的な方向への変化であることから予測される通り男性主導の革新だったが,the Clonard では若い女性が主導しているように見えることである.もう1つは,そもそも両集団のあいだにほとんど社会的な接触はないはずなのに,なぜ言語変化が伝播しうるのかという問題である( Ballymacarrett から the Clonard へと伝播していることは確からしい).
 この問題を解く鍵は,Ballymacarrett の男性と the Clonard の若い女性とのあいだに何らかの接触があるに違いないという点である.しかし,社会状況を考えれば,それほどロマンチックな話しがありそうには思えない.だが,あまりロマンチックではないところであれば,接触の機会はある.それは,町の中心にある店だった.the Clonard の若い女性は若い男性よりも就業率が高く,両集団が共通して利用する町の中心の店に店員として雇われているケースがある.彼女らは,Ballymacarrett からの男性客に応対する際に,彼らの発音の癖である後舌化した /ɔː/ を獲得したのではないか.店員が客層に合わせて言葉遣いを替える "shop-assistant phenomenon" は,社会言語学では accommodation の一種として知られており,[2010-06-07-1]の Labov の研究でも確認されている通りである.この小さな,しかし日常的な接触により,Ballymacarrett 発の母音変化が若い女性店員を経由して the Clonard へと伝播しているのではないか.
 母音変化の分布の謎を鮮やかに解き明かした Milroy (and Milroy) の実地調査は,後に言語変化の社会的ネットワーク理論へと発展する.これまで目に見えなかった言語変化の伝播の現場を,点として捉えることを可能にした画期的な研究である.
 参考までに,Aitchison (75) で要約されている後舌母音の頻度指数の内訳を示そう.4.0が最高値である.
 MenWomenMenWomen
Aged 40--5540--5518--2518--25
East Belfast3.62.63.42.1
West Belfast2.81.82.32.6


 ・ Milroy, J. and L. Milroy. "Belfast: Change and Variation in an Urban Vernacular." In Sociolinguistic Patterns in British English. London: Arnold, 1978.
 ・ Milroy, J. and L. Milroy. "Linguistic Change, Social Network and Speaker Innovation." Journal of Linguistics 21 (1985): 339--84.
 ・ Milroy, L. Language and Social Networks. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 1987.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-09-11 Sun

#867. Barber 版,現代英語の言語変化にみられる傾向 [pde][language_change][pde_language_change][elf][wsse]

 最近,現代英語の言語変化の傾向について調べる機会をもった.関連する話題は,これまでにも以下のような記事(とそこから張られているリンク先の記事)で扱ってきた.

 ・ 「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1])
 ・ 「#795. インターネット時代は言語変化の回転率の最も速い時代」 ([2011-07-01-1])
 ・ 「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1])
 ・ 「#622. 現代英語の文法変化は統計的・文体的な問題」 ([2011-01-09-1])
 ・ 「#339. 英語史が近代英語期で止まってしまったかのように見える理由」 ([2010-04-01-1])
 ・ 「#386. 現代英語に起こっている変化は大きいか小さいか」 ([2010-05-18-1])
 (以上を一括した,##860,795,625,622,339,386 もどうぞ.)

 一般的な定義に従って現代英語を20世紀以降とすると,その前半と後半とでは英語を取り巻く環境は激変している.また,1990年代半ば以降には,ELF (English as a Lingua Franca) という表現も聞かれるようになり,世界の中での英語の位置づけは,21世紀中も安定することはなく,ますます変化してゆくものと思われる.英語の社会言語学的な立場が変化するにつれて,英語が言語的にも変容してゆくだろうということは容易に想像されよう.
 Barber は,20世紀半ばの時点での英語(主として彼が "Received Standard" と呼ぶイギリス標準英語)の言語変化について考察しているが,そこには2つの潮流が認められると述べている.

On the one hand, there has been a trend towards greater uniformity, a levelling out of differences; on the other hand, there has been an increased reluctance to accept as a norm what has hitherto been considered the standard form of the spoken language. In sum the effect has been to make the language more mixed. (16)


 非標準変種を含めた様々なイギリス英語内の変種に特徴的だった言語項目が標準変種へと忍び込んできているという潮流と,標準変種の地位そのものが低下してきているという潮流である.これは,標準と非標準が混合しながらも,足して2で割ったような同質的な変種が生まれつつあるという洞察と読めるだろう.この洞察から推測できることは,標準英語に生じている言語変化(の一部)は,標準英語に限定された視点からすれば新しい言語変化とみなすことができるかもしれないが,視野を広げて見れば,単に非標準変種にすでに存在していた言語項目が標準変種へ移入してきただけということもありそうだ,ということである.これは,方言借用 (dialectal borrowing) という過程に近い.Barber 自身の表現で言えば,次の引用で赤字で示したように "changes in acceptance" (受容の変化)ということになる.

Because of the change which is going on in the concept of standard English, and because of the social changes of the post-war period, some of the linguistic changes which we shall note will be changes in acceptance, rather than changes in actual usage. Usages which are not new, but which have previously been considered non-standard, are now coming to be accepted as standard by increasing numbers of educated speakers (though not always by the speaker of R. S. [Received Standard] proper). (28--29)


 Barber の説く現代イギリス標準英語の言語変化の潮流は,一言でいえば "dialectal mixing" の傾向と要約できるが,彼の達識は,20世紀半ばという比較的早い段階で,同じ潮流がイギリス標準英語だけでなく世界英語にも観察されることを指摘した点に見いだされる.(アメリカ英語を強力な基盤としながらも)世界中の英語変種が混ざり合い,緩やかに均一化しているのではないかという観察である.

[W]ith the great increase in world-wide communications, it is probable that the various forms of English spoken in the world are now influencing one another more than formerly, and that the trend to greater dialectal mixing is therefore taking place in English on a world scale. (21)


 これは,Crystal の提起する WSSE (World Standard Spoken English) に近い考え方である.[2010-10-09-1]の記事「アメリカ英語と conversion / diversion」で触れたように,相反する傾向,世界中の英語がちりぢりになって行く diversion の傾向を無視するわけにはいかないが,ELF が暗黙に目指している世界標準英語の確立という観点からは,Barber の1964年の観察と直感は評価に値すると考える.

 ・ Barber, Charles. Linguistic Change in Present-Day English. Alabama: U of Alabama P, 1964.

Referrer (Inside): [2012-04-17-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-09-04 Sun

#860. 現代英語の変化と変異の一覧 [pde][language_change][pde_language_change][exclamation_mark]

 [2010-05-31-1]の記事「現代英語に起こっている言語変化」と[2011-01-11-1]の記事「現代英語の文法変化の一覧」で,現代英語に生じている言語変化の一覧を挙げたが,今回はその拡大版を作った.網羅的な一覧は作り得ないので,Barber, Bauer, Fennell, Potter, Leech et al. その他の諸文献で取り上げられているような言語変化および変異の項目を,参照用にまとめたものとして理解されたい.含めた項目の広がりと細かさは恣意的だが,中心に据えたのは "PDE linguistic changes and variations in spoken and written varieties of present-day Standard British and/or American English" である.より詳しい一覧としては,中尾を参照されたい.
 通時的変化と共時的変異の区別は曖昧であり,明確に言語変化とみなせるかどうか疑わしい例もあるかもしれない.また,逸話や直感のレベルで言語変化と言い立てられているe例も含まれている.さらに,すべて現代英語で進行中の変化ではあるが,多くは現代英語で始まった変化ではない.多くは近代英語期から,あるいは中英語期以前から継続している変化であり,前史をもっている点にも注意したい.いずれの項目も,現代英語に生じている変化としてみなせるかどうか,検証するに値する項目ではある.

phonology

  • centering of short vowels (Barber 42): yes, good
  • change of /ɔː/ to /ɔ/ before /f/, /s/, and /θ/ (Barber 43): off, lost, cloth
  • closer /ɔː/: lord used to be pronounced like lard today
  • Continental pronunciation (Barber 72--74, Potter 31--32): Seine, Cherbourgh, Majorca, Sofia, Buenos Aires; quasi-, nuclei
  • de-syllabification of pp adj. with -ed (#776): aged, beloved
  • de-syllabification of /iə, uə/ to /i-ə, u-ə/ (Potter 18--19)
  • diphthongisation of /iː/ and /uː/ (Barber 44--45): tea, two
  • dramatic fronting of /uː/ and /ʌ/ in RP (Bauer 114--21)
  • final /iː/ for /i/ (Barber 46--47): pretty, Derby
  • fluctuation in pronunciation (#488, #766): applicable, dilemma, status
  • h-dropping (#462): herb, homage
  • initial /h/ for /wh/: where, what
  • instable pronunciation of triphthongs (Potter 19--20): [faə], [fɑə], [fɑː]] for [faiə]
  • intrusive (linking) -r (#500): the idea(r) of, law(r) and order
  • intrusive stops (Barber 58--59): fan(t)cy, warm(p)th, leng(k)th
  • loss of final alveolars (Barber 53--54): no(t) bad, ol(d) man, half pas(t) five
  • loss of plosives (Barber 54): knocked, East Coast
  • loss of /p/ from initial /ps/ and /pt/ (Barber 55): pseudo, psyche
  • new weak forms of pronunciation (Barber 64): /srait/ (that's right), /fjuˈlaik/ (if you like), /ˈtsɔːl ˈrait/ (it's all right)
  • Northern Cities Shift (#396)
  • noun-verb stress alternation (#803, #804, #406)
  • simplification of double consonants (Barber 54--55): a good deal, upside-down, lamp-post, prime-minister
  • Southern Hemisphere Shift (#402)
  • spelling pronunciation (#211, #212, #379): often, forehead
  • spread of /ə/ in unstressed syllables (Barber 48--49): ability, women, useless, engine
  • spread of glottal stops (Barber 60--61): butter, batman, button, not yet
  • vocalic influence of "dark l (Barber 47--48): revolve, solve; salt, falter; milk
  • voicing of intervocalic consonants (Barber 57): letter, better, British
  • vowel shift in Estuary English (#465)
  • word stress shift (#488, #769; #321, #342, #366): controversy, harass, Caribbean
  • /ɛ/ for /eɪ/ (#541, #543): says, against
  • yod-dropping (#841): dew, enthuse, lewd, new, suit, tune

morphology

  • acronyms, initialisms, and alphabetisms (#625, #817): EU, UNESCO, asap
  • active conversion (#394): to pluto
  • active blending (#631, #625): electrocute, Singlish
  • active shortening (Barber 89--91): telly, mike, sub, polio, bra
  • affixation (#732, #133, #593, #420): -dom, -ish, -wise, super-, mini-
  • back-formation (#108): baby-sit, escalator, ism, enthuse, liaise
  • change in formation of new words (Bauer 38--40): blends and compounds grow while suffixation and neo-classical compounds decline
  • conversion of phrasal verbs to nouns (Potter 171--73): breakout, getaway, layout, leftover, setup, walkout
  • generalisation of the s-plural (#121, #161, #482): thesauruses, mouses, oxes
  • headless compound (#420): pickpocket, sell-out
  • -ic for -ical (Barber 115): comic, botanic, politic
  • monosyllabism (Potter 76--78): ad, jet, op, quake
  • regularisation of irregular verb conjugations (#178, #528): dreamed for dreamt, wedded for wed
  • spread of the s-genitive to non-human nouns (#425): today's newspaper, the book's cover
  • suffixation for semantic differentiation (Potter 74--76): emergency / emergence, continuance / continuation / continuity
  • variants of the preterite of verb (#312): dove / dived, sung / sang, swum / swam

syntax

  • analytical comparison of disyllabic adjectives (#403, #456, #425; Bauer 51--61): more polite, most polite for politer, politest
  • change in case inflections of personal pronouns (Bauer 88): between you and I for between you and me; than myself to avoid the choice of either I or me
  • change in non-finite clausal complementation (part of "Great Complement Shift") (Leech et al. 205)
  • decline of wh-relatives in AmE (#424, #425; Bauer 66--83)
  • decline of whom (#622)
  • decline of auxiliary verbs like shall, ought (to), need(n't) (#677)
  • decline of passive constructions (Leech et al. 164)
  • development of new, auxiliary-like uses of certain lexical verbs: wanna for want to,
  • do-support for have in BrE: Have you any money? and No, I haven't any moneyDo you have / have you got any money? and No, I don't have any money / I haven't got any money
  • do-support for be (Potter 132): Why don't you be a good boy?, Why on earth doesn't the fellow be reasonable?
  • due to as a compound preposition (Barber138): Due to heart-failure, he suffered an early death.
  • elimination of shall as a future marker in the first person (#301)
  • expansion of phrasal verbs and compound verbs (Barber 140): run down; build up, start up
  • extension of the progressive to new constructions (especially modal, present perfect and past perfect passive progressives: the road would not be being built / has not been being built / had not been being built / They are remembering the days of their childhood, You are surely imagining things
  • fixed order of attributive adjectives (Potter 152--56): his five short brilliant creative years
  • fluctuation of prepositions in phrases (#301): different to for different from
  • further auxiliation of semi-auxiliaries and modal idioms (#64): gonna, have got to, be supposed to
  • gerunds as attributives (Fennell 174): the come-backing Australian tennis player, Claire X is a rapidly becoming confused mother of four
  • hyphenated attributives (Potter 106--107): an off-the-cuff opinion, round-the-clock discussions, hard-to-get-at volumes
  • increase in negative and verbal contractions: is'nt, it's
  • increase in the number and types of multi-word verbs (expanded predicates): phrasal verbs, have / take / give a + noun
  • increase in title + name: Prime Minister Margaret Thatcher for Mrs Thatcher, the Prime Minister, young Lambeth housewife Amy Green for Mrs Green, a young Lambeth housewife
  • less use of no-negation in contrast to not-negation (Leech et al. 241)
  • like, same as, and immediately as conjunctions (#312)
  • longer VPs (catenatives) (Fennell 174): He appears to wish to be able to carry on being examined by the same doctor.
  • more use of adjectives as adverbs (#312): They pay them pretty good.
  • more zero-relatives and that-relatives (Bauer 66--83)
  • more use of less instead of fewer with countable nouns: less people
  • more use of the preterite for the perfect (Fennell 175): I bought a new car for I've bought a new car
  • more use of the get-passive (Leech et al. 164): get frightened, get mixed
  • more use of the mediopassive (Leech et al. 165): Oilcloth wears well, Thr routes are designed to bicycle in a few hours.
  • (multiple) noun adjuncts (#625, #425; Potter 107--13, Fennell 175): World Court, recreation facilities, for health reasons, on efficiency grounds, weapons technology; World Heath Organization, Trades union congress centenary, New York City Ballet School instructor, railway station waiting room murder inquiry verdict
  • "noun disease" (Potter 100--05): London's growth is rapid for London is growing rapidly
  • number concord of collective nouns (#312; Bauer 61--66): The Government has/have been considering further tax cuts.
  • omission of the definite article (Potter 144--46): (the) university, (the) Government, (the) radio, all (the) winter
  • omission of have and do (Barber 136--37): we done it, they been, you seen; What you want that for?, Where you think you're going?
  • omission of Do you in questions (Barber 137): Like a cigarette?, Have a drink?
  • omission of that in now that and so that (Barber 138)
  • placement of frequency adverbs before auxiliary verbs even if no emphasis is intended: I never have said so
  • plural attributives (Bauer 48): drugs courier for drug courier
  • positive tags as afterthoughts (Potter 160): We all agree on this, or do we?, We know in our hearts that we shall be rewarded, or do we?
  • revival of the 'mandative' subjunctive, probably inspired by formal US usage (#312, #325, #326): we demand that she take part in the meeting
  • sentences becoming shorter (Barber 143)
  • sort of and kind of as adverbs (Barber 138): meaning so to speak, if that is the right word for it
  • spread of 'singular' they to formal and standard usage (#275; Bauer 148): Everybody came in their car
  • suppressed prepositions (Potter 140--41): agree (with), approve (of), compensate (for), protest (against), cope (with)
  • syntactic contamination (#737; Barber 139): both A but also B; between A to B, comprise of
  • this and that as intensive adverbs (Potter 147): It is not all that simple.

semantics

  • change in usage and meaning of words (#823, #755, #301): uninterested / disinterested, literally, hopefully

pragmatics

  • decline of she for ships and countries (#852)
  • decline of honorific vocatives such as Mr and Sir
  • democratised mode of address as by first-names (Bauer 141--45)
  • increase in questions (Leech et al. 242)
  • popularisation of political correctness (#115): Ms, chairperson; refuse collector
  • second person plural pronouns (#312, #529): y'all, you guys

lexicon

  • change in sources of new words (Bauer 35--36): English grows while French, Latin, and Greek decline
  • Cockney rhyming-slang since the World Wars (Barber 103): trouble and strife (wife), half-inch (to pinch), titfer (hat)
  • general growth in vocabulary (#629, #623)
  • Greco-Latin scientific vocabulary and its popularisation (Potter 90--98): ISV (International Scientific Vocabulary) such as pediatrics, arthritis, euphoria, claustrophobia, inferiority complex
  • growth in e-vocabulary as a result of e-revolution
  • new intensifiers (Barber 123--24): smashing, shattering, wizard, bang-on, super, super-duper, massive, fabulous
  • new lexical euphemisms (Barber 125): slump / depression / recession / downturn
  • proper names and trade names (Barber 95--97): diesel, kodak, Hoover, Biro
  • revival of old (esp. war-related) words: frigate, corvette, armour

spelling

  • -ise / -ize in BrE (#314; Bauer 134--35): emphasise, criticise, characterise, summarise, specialise
  • "pronunciation spelling" (#799, #825): lite, thru, warez

punctuation

  • fewer exclamation marks and semi-colons (Leech et al. 245)
  • growth in parenthetic sentences (Barber 143): Boxer Bill Smith (he will be twenty-four to-morrow) has signed a contract to fight. . .
  • increase of quoted speech (Leech et al. 248)
  • less use of apostrophes (Bauer 132--33): the 1969s
  • less use of hyphens (Potter 58--59): yearbook for year-book or year book; today for to-day
  • more use of quotes (Potter 56--57): to impress the uninitiated?
  • preference for lowercase (Potter 59--60): neo-platonic for Neo-Platonic or neo-Platonic
  • smileys and emoticons (#808): :-) and :-(
  • unindented address lines (Bauer 132)


 ・ Barber, Charles. Linguistic Change in Present-Day English. Alabama: U of Alabama P, 1964.
 ・ Bauer, Laurie. Watching English Change: An Introduction to the Study of Linguistic Change in Standard Englishes in the Twentieth Century. Harlow: Longman, 1994.
 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
 ・ Leech, Geoffrey, Marianne Hundt, Christian Mair, and Nicholas Smith. Change in Contemporary English: A Grammatical Study. Cambridge: CUP, 2009.
 ・ Potter, Simon. Changing English. London: Deutsch, 1969.
 ・ 中尾 俊夫 著,児馬 修・寺島 迪子 編 『変化する英語』 ひつじ書房,2003年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-08-19 Fri

#844. 言語変化を予想することは危険か否か [prediction_of_language_change][language_change]

 昨日の記事「言語変化の予言の根拠」 ([2011-08-18-1]) でも触れたように,言語変化を予想するという営みについては,歴史言語学者のあいだでも様々な意見がある.Bauer は,言語変化の予想は "hazardous" で "risky" であるとして,警鐘を鳴らしている.関連箇所を引用しよう.

Dealing with on-going changes is a very hazardous undertaking. It is tempting to conclude that, because we can see the beginning of a change, it follows that the change will continue. This is not true. It may even reverse itself. Consequently, predictions based on current trends mean very little. 'If current trends continue, then we may expect to find people saying xyz in the year 2050' is about as risky as predicting the value of the pound or the rate of inflation. (21)

Not only can we not predict the speed of a change, but we cannot predict whether it will be followed through to the end, or even whether it might be reversed. Diachronic linguistics is not a predictive science. (25)


 昨日の記事で引用した中尾 (2) も述べている通り,言語変化は自然科学の法則と異なり,傾向を示すにすぎない.これは確かである.そうだとすれば,予想をすることに何の価値があるのか,空虚な予想屋を演じているだけではないか,という意見が出るのは当然である.予想がいずれ当たるか当たらないかという次元の話しで終わるのであれば,学問的意味はないだろう.
 しかし,予想の学問的意味を疑う以前に,予想という行為に先だって存在するはずの,未来への関心や言語変化の理解を深めたいという好奇心は尊重されてよいように思う.まず,言語変化を研究していれば未来の姿を予想したくなる気持ちは当然である.この自然な関心を押し殺すというのは,教育においても研究においても精神衛生上好ましくない.また,過去から現在へと言語変化の道筋を追い,言語変化の理論を追究してきた者にとって,その視線を未来に延長しないというのはあまりに禁欲的である.
 そもそも,言語変化の理論は,現在まで続いてきた変化が逆流するかもしれないというような現実的な可能性を意識的に捨象することで組み立てられてきた.この作業は暗黙の了解だったのではないだろうか.中尾 (2) の言うように,予想は言語変化の要因を解明する努力そのものではないが,努力へ通じる営みであると,積極的に評価したい.
 実際のところ,Bauer も同書のなかで予想に近いことをしている.Bauer の警鐘は,予想があまりに "tempting" だからこそ,現実的には厳密な予想は不可能なのだという要点を強調しておきたかったものとして理解しておく.現時点で未確認だが,Bauer と同趣旨の議論が Lass (Phonology, 328--29) と Lass (Shape, 131) でなされているというので,いずれ確認したい.

 ・ Bauer, Laurie. Watching English Change: An Introduction to the Study of Linguistic Change in Standard Englishes in the Twentieth Century. Harlow: Longman, 1994.
 ・ 中尾 俊夫 著,児馬 修・寺島 迪子 編 『変化する英語』 ひつじ書房,2003年.
 ・ Lass, Roger. Phonology. Cambridge: CUP, 1984.
 ・ Lass, Roger. The Shape of English. London and Melbourne: J. M. Dent, 1987.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-08-18 Thu

#843. 言語変化の予言の根拠 [prediction_of_language_change][language_change][drift][acquisition]

 中尾 (2) では,言語変化の予言とその根拠について次のように述べられている.

 一般にことばの変化についての予言は、
 (i) 現在進行中の変化および方向、
 (ii) 過去において実際に起こった歴史的変化および方向、
 (iii) 同系言語にみられる変化、
 (iv) 幼児の言語習得、
などに基づいて行われる。


 (i) から (iv) にかけて,具体から抽象へ,特殊から一般へと基準の普遍性が高くなっている点が注目に値する.(i) は当該言語の現在における変化の事実,(ii) は当該言語の過去に生じた変化の事実,(iii) は同系言語の現在と過去の変化の事実( drift の議論などが関与する),(iv) は言語そのものではなくヒトの言語習得 (language acquisition) の示す特性(過去も現在も未来も不変との仮定で)にそれぞれ相当する.
 しかし,(iii) の後に,同系・非同系言語の全体,つまり人類言語の総体において現在および過去に生じた変化の事実という参照点を加えてもよいのではないか.端的にいえば,通言語的な言語変化の類型論 (typology of language change) という視点である.「言語変化の予言の根拠」の改訂版を図示すると以下のようになるだろうか.

具体・特殊
  |  
  |  (1) 当該言語の言語変化(現在)
  |  
  |  (2) 当該言語の言語変化(過去)
  |  
  |  (3) 同系言語の言語変化(現在・過去)
  |  
  |  (4) 人類言語の言語変化(現在・過去)
  |  
  |  (5) 言語習得と言語変化(現在・過去)
  ↓  
抽象・一般


 これらの手がかりを参考に,当該言語が今後どのように変化して行くのか,その未来の姿はどのようなものになるだろうかについて予言がなされることになる.ただし,言語変化を予言するという行為については,言語学者の間にも様々な考え方がある.例えば,Sapir (Chapters 7--8) は積極的に言語変化の予言をしているが,一方で Bauer (21, 25) は予言がいかに危険であるかを説いている.
 上で引用した中尾 (2) は,次のように述べている.

 ことばの変化は、まったく同じ条件が整ったからといって必ず生起するとは限らない。その意味で、ことばの変化は自然科学の法則 (law) とはちがい、傾向 (trend, tendency) を示すにすぎない。
 結局、変化についての予言、記述などは、「ことばの変化を引き起こす要因は何か」という基本的な問題を解明する努力へ通じるものである。


 この文章から,著者は言語変化を予言するという行為の価値は,それが当たるかどうかという予言としての精度にあるのではなく,言語変化の原因を明らかにしようとする営みである点にあると考えていることが分かる.Bauer の批判的態度もよく分かるのだが,基本的には中尾の立場に同意したい.

 ・ 中尾 俊夫 著,児馬 修・寺島 迪子 編 『変化する英語』 ひつじ書房,2003年.
 ・ Sapir, Edward. Language. New York: Hartcourt, 1921.
 ・ Bauer, Laurie. Watching English Change: An Introduction to the Study of Linguistic Change in Standard Englishes in the Twentieth Century. Harlow: Longman, 1994.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-08-12 Fri

#837. 言語変化における therapy or pathogeny [functionalism][language_change][systemic_regulation][phoneme][phonemicisation][minimal_pair][functional_load][teleology]

 過去2日間の記事「機能主義的な言語変化観への批判」 ([2011-08-10-1]) と「機能負担量と言語変化」 ([2011-08-11-1]) で,Schendl を引き合いに出しながら,機能主義 (functionalism) ,自己調整機能 (systemic regulation) ,治癒力 (therapeutic power) ,機能負担量 (functional load) などの用語を用いてきた.昨日これに関連して次のような質問が寄せられた.

Schendl (69)からの引用についてひとつ質問をさせてください。
'therapeutic changes in one part of the grammar may create imbalance in another part'
とありますが、どのような例があるのか思い浮かびません。治癒力のせいで生じてしまう不均衡とはどのようなものなのか、とても気になりますので御回答お願いします。


 Schendl は同著で具体的に例を挙げているわけではないので,読者としては該当しうる例を考えてみるしかない.ある部門(例えば音韻論)に生じた言語変化が,他の部門(例えば形態論や統語論)に別の言語変化を連鎖的に引き起こすというような例や議論は英語史でも多く見られるが,より限定的に,ある治癒的な (therapeutic) 言語変化が別のところでは病因となるような (pathogenic) 言語変化の連鎖の例というのはあったろうかと,確かに考えさせられた.
 なぜすぐに例が思い浮かばないのだろうかと考えてみると,"therapeutic" という用語が具体的に何を指すか,客観的に決めがたいという背景があるからではないかと思い当たった.一般の用語では「治癒」の目指す最終目標は「全快」状態だが,言語体系において「全快」とはいかなる状態を指すのか.機能主義の立場に立った一般的な理解としては,治癒とは "a symmetrical, balanced, simple, economical system" を指向しているとみなすことができるだろう(いずれの形容詞も Schendl の説明に現われる).しかし,言語体系は複数の下位体系の複雑な組み合わせによって成る有機体であり,その一部に生じる言語変化が,ある下位体系の観点から見れば therapeutic だとしても,別の下位体系の観点から見れば pathogenic であることもあり得る.では,言語体系全体の観点からすると,この言語変化はどの程度 therapeutic なのか,あるいは pathogenic なのか.これを決定することは非常に難しい.
 具体例として思いついたのは,昨日の記事でも取り上げた /θ/ と /ð/ の対立の発生,別の言い方をすれば /ð/ の音素化 (phonemicisation) という言語変化である.古英語では,
[θ] と [ð] は1つの音素 (phoneme) の2つの異音 (allomorphs) という位置づけにすぎなかった.しかし,後に主として機能語において専ら有声音 [ð] が行なわれるようになり (ex. that, the, then, there, they, thou, though, with; cf. verners_law) ,thy vs. thigh のような最小対 (minimal pair) が生じた.こうして /θ/ と /ð/ は別々の音素へと分裂していった.
 この /ð/ の音素化の動機づけを機能主義的な観点から説明すると,昨日も述べたように次のようになる.英語の阻害音 (obstruent) 系列では有声と無声の対立が大きな機能負担量を担っており,歯摩擦音での声の対立の欠如は阻害音系列の対称性を損なう「病因」と考えられる./θ/ と /ð/ の音素化はこの非対称性を減じる方向で作用し,問題の病因を「治癒」していると解釈される.実際には thy vs. thigh 型の最小対の例は少ないので,声の有無の対立はたいして利用されているわけではないのだが,それでも /θ/ と /ð/ の音素的な対立が堅持されているのは,英語音韻論全体として声の有無という対立が極めて機能的だからである.以上の説明が受け入れられるとすれば,この議論はまさに therapeutic な考え方を代表していると言えるだろう.
 しかし,同じ言語変化を書記素論 (graphemics) の立場から見ると,むしろ体系的な非対称性が増しているとも考えられる.言語において,1音素に1文字が対応しているのが最も対称的で,均衡が取れており,単純で,経済的であることは疑いを容れない.現代英語はこの点で非常に悪名高いことはよく知られている.さて,より対称的で,均衡が取れており,単純で,経済的な音素と書記素の関係を追求するような言語変化が生じたとすれば,それは書記素論の観点からは therapeutic な変化ということができるだろう.ところが,上述の /ð/ の音素化に合わせて書記素体系も同様に変化したわけではないので,結果として <th> という二重字 (digraph) で表わされる1つの書記素が2つの異なる音素に対応することになってしまった.これは,書記素論の立場からすると,therapeutic ではなく,むしろ pathogenic な変化と言える.
 まとめると,/ð/ の音素化という言語変化は,音韻論の観点からは therapeutic な変化だったが,書記素論の観点からは pathogenic な変化だったということになる.では,音韻論や書記素論やその他の部門をすべて考え合わせて,英語という言語体系全体への影響という視点で見ると,この変化ははたしてプラスだったのかマイナスだったのか.影響の質も量も客観的に計測することが難しいので,この判断はおぼつかないことになる(その意味では,機能負担量とは影響を客観的に計測しようとする営みの現われであり,その方法の1つなのかもしれないが).
 言語において,何をもって「治癒」とし,何をもって「罹病」とするかはよくわからない.動物の場合ですら,敢えて軽く罹病させて予防・治癒効果を狙う予防接種の考え方がある.ちなみに,上で用いてきた pathogenic (発病させる)という形容詞は therapeutic の対義語として今回便宜的に用いたまでで,用語として定着しているわけではない.

 ・ Schendl, Herbert. Historical Linguistics. Oxford: OUP, 2001.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-08-11 Thu

#836. 機能負担量と言語変化 [functionalism][language_change][systemic_regulation][terminology][phonology][drift][minimal_pair][functional_load]

 昨日の記事「機能主義的な言語変化観への批判」([2011-08-10-1]) で触れた,機能負担量 (functional load or functional yield) について.機能負担量とはある音韻特徴がもつ弁別機能の高さのことで,多くの弁別に役立っているほど機能負担量が高いとみなされる.
 例えば,英語では音素 /p/ と /b/ の対立は,非常に多くの語の弁別に用いられる.別の言い方をすれば,多くの最小対 (minimal pair) を産する (ex. pay--bay, rip--rib ) .したがって,/p/ と /b/ の対立の機能負担量は大きい.しかし,/ʃ/ と /ʒ/ の対立は,mesher--measure などの最小対を生み出してはいるが,それほど多くの語の弁別には役立っていない.同様に,/θ/ と /ð/ の対立も,thigh--thy などの最小対を説明するが,機能負担量は小さいと考えられる.
 機能負担量という概念は,上記のような個別音素の対立ばかりではなく,より抽象的な弁別特徴の有無の対立についても考えることができる.例えば,英語において声の有無 (voicing) という対立は,すべての破裂音と /h/ 以外の摩擦音について見られる対立であり,頻繁に使い回されているので,その機能負担量は大きい.
 では,機能負担量と言語変化がどのように結び着くというのだろうか.機能主義的な考え方によると,多くの語の弁別に貢献している声の有無のような機能負担量の大きい対立が,もし解消されてしまうとすると,体系に及ぼす影響が大きい.したがって,機能負担量の大きい対立は変化しにくい,という議論が成り立つ.反対に,機能負担量の小さい対立は,他の要因によって変化を迫られれば,それほどの抵抗を示さない.この論でゆくと,/θ/ と /ð/ の対立は,機能負担量が小さいため,ややもすれば失われないとも限らない不安定な対立ではあるが,一方でより抽象的な次元で声の有無という盤石な,機能負担量の大きい対立によって支えられているために,それほど容易には解消されないということになろうか.機能主義論者の主張する,言語体系に内在するとされる「対称性 (symmetry) の指向」とも密接に関わることが分かるだろう.
 体系的な対立を守るために,あるいは対立の解消を避けるために変化が抑制されるという「予防」の考え方は,すぐれて機能主義的な視点である.しかし,話者(集団)は体系の崩壊を避ける「予防」についてどのように意識しうるのか.話者(集団)は日常の言語行動で無意識に「予防」行為を行なっていると考えるべきなのか.これは,[2011-03-13-1]の記事「なぜ言語変化には drift があるのか (1)」で見たものと同類の議論である.

 ・ Schendl, Herbert. Historical Linguistics. Oxford: OUP, 2001.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-08-10 Wed

#835. 機能主義的な言語変化観への批判 [homonymic_clash][functionalism][systemic_regulation][language_change][functional_load]

 言語変化における機能主義 (functionalism) の考え方は,一方では広く受け入れられているが,他方では厳しい批判がある.言語変化の機能主義的な説明の最たるものとして,このブログでも何度も扱ってきた同音異義衝突 ( homonymic clash ) がある.homonymic_clash に関する一連の記事のなかでも言及してきたが,この機能主義的な言語変化観に対する風当たりは強い.
 一言でいえば,機能主義的な言語変化観とは,言語には systemic regulation という自己調整機能が備わっており,崩れた体系をより対称的で均衡の取れた体系へと治癒する (therapeutic) 力があるとする考え方である.具体例としては,上に触れた homonymic clash のほか,対称性への指向を仮定する「不安定な子音 /h/」([2009-11-27-1]) や人称代名詞体系の非対称性 ([2009-11-09-1], [2009-10-24-1]) の問題,また機能負担量 (functional load) の問題がある.
 言語が話者(の社会)から独立して自己調整能力をもっているという考え方は「言語=生物」という考え方([2011-07-13-1]の記事「言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」を参照)にもつながり,議論が巻き起こりそうだということは予想される.実際に,機能主義を支持する者も多数いれば,批判する者も多数いる.Schendl (69) に批判の要点がまとめられていたので,引用しよう.

A basic problem with such functional explanations is how the individual speakers or the speech community as a whole could know about the actual or threatening asymmetry of systems and act accordingly. Another problem with the notion of 'therapeutic change' is that therapeutic changes in one part of the grammar may create imbalance in another part; finally, if this was the main driving force behind change then we would expect all linguistic systems to have become balanced by now, which they clearly are not. (69)

. . . though linguistic factors such as functional load undoubtedly can contribute to linguistic change, there is no empirical proof of their coming into play in specific cases. (69)


 批判的意見から読み取れるのは,「言語変化をもたらす主はあくまで話者たる人間であり言語体系自身ではない」,「言語体系に自己調整機能があるとしても,それは強い自己調整機能ではない」,「理論上の仮説としては機能主義も認められるが,経験的に実証できない」という主張だろうか.

 ・ Schendl, Herbert. Historical Linguistics. Oxford: OUP, 2001.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-07-29 Fri

#823. uninteresteddisinterested [semantic_change][negative][language_change][prescriptive_grammar]

 意味の変化と規範的な語法には相反する力が作用しており,議論の対象になりやすい.近年の著名な例の1つに,標題の2語の使い分けに関する議論がある.
 肯定形 interested には異なる2つの語義がある.いくつかの英英辞典を調べたなかでは,Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary (MWALED; see [2010-08-24-1], [2010-08-23-1]) による定義がこの区別を最も分かりやすく表わしていた.部分的に引用する.

1a. wanting to learn more about something or to become involved in something
???The listeners were all greatly/very interested in the lecture.???
2. having a direct or personal involvement in something
???The plan will have to be approved by all interested parties.???


 日本語にすれば,前者は「興味をもっている」,後者は「利害関係のある」の区別となる.後者がより古い語義を表わすが,頻度としては前者のほうが圧倒的に高いだろう.1つの語が異なる複数の語義をもっていること自体は,英語でも他の言語でもまったく珍しいことではない.しかし,注目すべきは,英語では両語義に対応する否定が別々の語で表わされることである.規範的な語法に従えば,1a の語義「興味をもっている」の否定は uninterested で,2 の語義「利害関係のある」の否定は disinterested で表わされるとされる.それぞれの例文を示そう.

- He is completely uninterested in politics. (興味をもっていない)
- Her advice appeared to be disinterested. (利害関係のない,公平無私の)


 ところが,2 の語義が比較的まれだからか,近年では disinteresteduninterested と同様に 1a の否定の語義「興味をもっていない」として用いられることが増えてきているという.保守的な評者は,かつては明確に存在した uninteresteddisinterested の語義上の区別が失われかけている,あるいは disinterested が両義的になってしまったとして警鐘を鳴らしているが,この批判はどのくらい当を得ているだろうか.
 第1に,disinterested の両義性について.もとより肯定形の interested は2つの異なる語義をもっており常に両義的だったが,両語義が区別されないで不合理だという批判は聞いたことがない.すでにある両義性には寛容でありながら,もともとあった区別が両義化してゆくことには厳格というのは,あまり筋が通っているとはいえない.
 第2に,「興味をもっていない」の語義を新しく獲得した disinteresteduninterested と完全な同義ではなく,しばしば強意を込めた「まるで興味をもっていない」の意味で interested とは使い分けられるとされる.この場合,両語の使い分けによって,かつては不可能だった興味のなさの度合いの標示が可能になったということであり,あらたな区別が獲得されたことになる.
 第3に,従来は,「興味をもっていないこと,無関心」を意味する対応する1語の名詞形が存在しなかった.*uninterest という語は通常は用いられず,lack of interest などという迂言的表現で我慢するしかなかった.ところが,disinterest という語は「利害関係のないこと,公平無私」を意味する名詞として存在していたので,形容詞の意味変化と連動して,この同じ語が「無関心」の語義をも担当するようになった.「無関心」がずばり1語で表現できるようになったのは,問題の形容詞の意味変化ゆえと考えられる.
 まとめれば,次のようになる.uninteresteddisinterested にまつわる意味変化の結果として,保守的な評者のいうようにある区別が失われたことは確かである.しかし,その反面,従来は存在しなかった別の区別が獲得されたのも事実である.
 規範的な辞書では,disinterested の新しい語義をいまだに正用とは認めていないようだ.言語が無常であることを考えれば「誤用」が正用化するのは時間の問題かもしれない.あるいは,話者の規範遵守の傾向が強ければ,少なくとも格式張った文脈では,誤用とのレッテルを貼られ続けるのかもしれない.私個人としてはどちらが望ましいか判断できないし,あえて判断しない.ただ,言語は無機的に変化してゆくのではなく,話者によって有機的に変化させられてゆくものだとは信じている.
 以上の議論は Trudgill (2--5) に拠った.

 ・ Trudgill, Peter. "The Meaning of Words Should Not be Allowed to Vary or Change." Language Myths. Ed. Laurie Bauer and Peter Trudgill. London: Penguin, 1998. 1--8.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-07-01 Fri

#795. インターネット時代は言語変化の回転率の最も速い時代 [speed_of_change][language_change][internet][netspeak][pde_language_change]

 インターネットの到来により,言語の使用のあらゆる次元における慣習が変化しつつある.関連語彙の増殖はもとより,NetSpeak に特有の書記習慣の発達,簡略化した文法の多用,新しい語用慣習の模索など,近年の通信技術の発展にともなう言語変化の回転率は,人類の言語史上,最も著しいものといえる.そして,この技術革新にとりわけ大きな影響を受けているのが,英語であることは疑いを容れない.
 これらの多くの言語変化が,今後も長らく存続することになるのか,あるいは一過性のものであり次に来たる新たな変化に置換されるのかは現時点では分からない.したがって,言語変化の定着率が言語史上もっとも著しい時代であるかどうかは未知だが,少なくとも言語変化の回転率(そして絶対量)という点では,おそらく歴史上に類を見ないといえるだろう.そして,今後もこの回転率はさらに増加してゆくものと予想される.
 やや長いが,Crystal, The English Language の第8章 "The Effect of Technology" の最終段落を引用する.

The speed with which Internet usages are taken up is unprecedented in language change --- another manifestation of the influence of the technology on English. Traditionally, a new word entering the language would take an appreciable time --- typically a decade or two --- before it became so widely used that it would be noted in dictionaries. But in the case of the Internet, a new usage can travel the world and receive repeated exposure within a few days. It is likely that the pace of language change will be much increased through this process. Moreover, as word-inventors all over the world now have a global audience at their disposal, it is also likely that the amount of linguistic innovation will increase. Not by any means all innovations will become a permanent feature of the English language; but the turnover of candidates for entry at any one time is certainly going to be greater than at any stage in the past. Nor is it solely a matter of new vocabulary, new spellings, grammatical constructions, patterns of discourse, and regional preferences (intranational and international) can also be circulated at an unprecedented rate, with consequences that as yet cannot be anticipated. (140)


 コミュニケーション技術の革新の時代には,言語は大きく変化する.文字,紙,印刷術,タイプライター,電話,ラジオ,映画,テレビ,コンピュータ,インターネット.これらの発明の後には,対応する言語の変化と言語使用慣習の変化が続いた.近年のインターネット関連技術が,一連のコミュニケーション技術革新の最終章を飾っているとは考えられず,現在では予想のつかない新技術が次の時代を飾るだろうことは間違いない.しかし,少なくとも現在に至る技術革新の歴史のなかでは,このインターネットの到来ほど大規模に言語変化を誘引した技術革新はないだろう.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-06-20 Mon

#784. 歴史言語学は abductive discipline [abduction][language_change][abduction]

 [2011-04-24-1]の記事「語源学の自律性」で触れた abduction(仮説形成)という推論は,語源学ばかりでなく歴史言語学全体に当てはまる.言語変化の「なぜ」の問題に対する歴史言語学者の態度は,とりわけ abductive にならざるをえない.多くの場合,その解はおそらく複合的である.すべての要因を網羅することはできないし,要因間の関係や各要因の重みを明らかにすることもしばしば困難である.それでも,あえて最重要と思われるいくつかの要因を取り出し,それに焦点を当て,合理的な説明を試みるのが歴史言語学の役目である.
 以下の一節を書いたことがある.

It is to be admitted that any answers to the "how" and "why" will only be plausible or provisional because historical linguistics is an abductive discipline (Andersen; Anttila 196--98, 285--86). This means that the suggested description and explanation of the language change is a reasoned inference made with reference to universals such as human experience, human nature, and culture, and to observed facts. The number of possible inferences made in this way is theoretically infinite, and therefore the best that historical linguists can offer is a subset of the theoretically possible descriptions and explanations. Being methodologically abductive, historical linguistics is different from natural science; it is no less tempting, however, to make such inferences in historical linguistics since it allows for different interpretations for a phenomenon. (Hotta 3)


 そもそもすべての言語変化に原因・理由があるのか,あるとすればその原因・理由のレベルは生理的か,社会的か,その他か.歴史言語学として,どこまで明らかにできるのか.この問い自体が茫洋としており,心許ない.しかし,ある言語変化の原因・理由を巡って様々な論が提出されること,abductive に議論が進められることこそが,歴史に関わる分野の魅力である.歴史言語学の発展は,演繹 (deduction) でも帰納 (induction) でもなく,かつ恣意的でもない推論としての abduction にかかっている.改めて,abduction の推論の形式は以下の通り(米森, p. 54).

驚くべき事実Cが観察される、
しかしもしHが真であれば,Cは当然の事柄であろう、
よって,Hが真であると考えるべき理由がある。


 ・ Andersen, Henning. "Abductive and deductive change." Language 49 (1873): 765-93.
 ・ Anttila, Raimo. Historical and Comparative Linguistics. Rev. ed. Amsterdam: Benjamins, 1989.
 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
 ・ 米森 裕二 『アブダクション 仮説と発見の論理』 勁草書房,2009年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-06-12 Sun

#776. 過去分詞形容詞 -ed の非音節化 [pde][phonetics][language_change]

 [2011-01-30-1]の記事「独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞」と[2011-04-09-1]の記事「独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞 (2)」で,aged, jagged などが2音節として発音され得る事実について論じた.aged については被修飾名詞によって揺れがあることに言及したが,aged に代表される過去分詞形容詞 -ed の発音の揺れは,通時的変化が現在進行中であることを示唆しているものと考えられる.その変化の方向は,過去に無数の -ed に生じてきたとおり,非音節化の方向である.Bolinger (148fn) は,-ed の非音節化を,19世紀から20世紀にかけて進行してきた最も印象的な音韻変化であると評している.

The reduction of -ed has been perhaps the most striking phonological change in English in the past century and a half. Poutsma (Part II, 則2, p. 569) quotes Bradley to the effect that "Within the memory of living persons it was still usual in the reading of the Bible or the Liturgy to make two syllables of such words as loved or changed, which are now pronounced in one syllable." As a child I gave striped and streaked two syllables each. The disintegration continues; I have heard jagged pronounced as one syllable by a-twelve-year old.


 屈折語尾としての -ed の運命が非音節化にあることは,英語史の流れから明らかである.その大きな潮流に抗う小さな潮流として,2音節を保持し強弱のリズムを堅守するという韻律的な要因がある.換言すれば,この小さな潮流は大きな潮流をせき止めることはできなくとも,進行を遅らせるくらいには作用していると考えられる.だが,その作用も徐々に限界に達しつつあるということだろうか.aged, beloved, naked, wicked などは頻度が比較的高いが,これらの -ed が独立した音節でなくなる日は遠くないのかもしれない.

 ・ Bolinger, Dwight L. "Pitch Accent and Sentence Rhythm." Forms of English: Accent, Morpheme, Order. Ed. Isamu Abe and Tetsuya Kanekiyo. Tokyo: Hakuou, 1965. 139--80.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-05-20 Fri

#753. なぜ宗教の言語は古めかしいか [speed_of_change][language_change][religion][sociolinguistics][sobokunagimon]

 [2011-05-12-1], [2011-05-13-1]の記事でそれぞれ,結婚の誓約と Amen の発音を取り上げ,宗教の言語が保守的な振る舞いを示す事実の一端を見た.古今東西,宗教にまつわる言語使用,ことに聖典の言語や儀式の言語は保守的であり,変化に対して抵抗を示すのが常である.キリスト教,イスラム教,仏教でも然り.では,なぜ宗教の言語は古いまま保たれるのだろうか.
 以下,思いつくままに可能性のある要因をブレストしてみたが,他にもいろいろ挙がるかもしれない.

 ・ 古いままの言語あるいは理解不能の言語のほうが宗教的な神秘性,ありがたみが感じられるから
 ・ 教義の不変性・普遍性に対応すべく,それを表わす言語も不変・普遍でなければならないから
 ・ 教祖の言葉をそのままに伝えることが重要だから
 ・ 聖典や儀式の文句などがいったん文字化されたあとでは,そこに書き言葉の特性である保守性が付与されるのは当然である
 ・ 宗教の言語には諺や詩に見られるようなレトリックが用いられている場合が多く,そのようなレトリックは現代語に翻訳することが難しいから
 ・ 宗教組織においては,庶民にとって理解不能な言語であるほうが,その言語を使いこなせる聖職者階級が権威を保ちやすいから

 これらの要因が組み合わさって,宗教の言語は変化しない,少なくとも変化の速度が緩いということになるのではないか.言語変化の速度については speed_of_change の各記事で話題にしてきたが,特に「言語変化を阻害する要因」の記事[2010-07-01-1]で言語が変化しにくい環境について論じた.今回の話題にも応用できるはずである.
 例えば,[2010-07-01-1]の記事で言語変化を阻害する要因の3点目として挙げた "political and social stability" は,社会体制としての宗教についてそのまま当てはまるだろう.4点目の "attitudes of ethnic and linguistic purism" については,ここに "religious purism" を含めても自然な文脈である.宗教的 purism を追求するのであれば,当然,それを伝える言語の purism も追求することになるだろう.英語史でも,宗教改革の時代に聖書翻訳の問題と絡んで言語的 purism の議論が生じた.5点目の "a strong written tradition" も上に触れた通りである.
 1点目,2点目の "isolation", "separation" が示唆するのは,宗教の非日常性である.日常世界から逸脱している雰囲気をかもすには,言語を古くするのが手っ取り早い.同時に,神秘性,ありがたみをかもすこともできる.
 いずれの点も,宗教という体制の特徴を要として相互に関係している.宗教の言語の古さは,宗教に内在する特徴の現われと言えるのではないか.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-04-26 Tue

#729. 言語変化のマインドマップ [language_change][causation][linguistics][flash][methodology][mindmap]

 大学の授業で英語史における具体的な言語変化を論じるにあたって,しばしば言語変化理論を概説する必要が生じるのだが,この学際的な分野を一望できる適切な資料がない.言語変化を扱う研究書の目次などが使えるのではないかと思っているが,探すよりも自分でまとめたほうが手っ取り早いと考えた.Bussmann の言語学辞典の "language change" の項を参照し,マインドマップを作成してみた.ノードを開閉できるFlash版もどうぞ.

Mindmap of Language Change

 作成に当たっては,ほかに[2010-07-13-1]の記事「言語変化の原因」などを参照した.ゆくゆくは language_change の各記事をまとめて,マインドマップの改訂版を作りたいと思っている.ある意味で,このブログ全体を通じて言語変化に関する考察の目録を作ろうとしているとも言えるので,日々の書きためが肝心.
 英語の言語変化理論に関するウェブ上の資料としては,Raymond Hickey's Studying the History of EnglishLanguage change が充実している.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2015-02-18-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow