hellog〜英語史ブログ

#3842. 言語変化の原因の複雑性と多様性[language_change][causation][multiple_causation]

2019-11-03

 本ブログでは言語変化の原因 (causation) に関する問題を様々に論じてきた.特に,たいていの変化には複数の込み入った要因があるとして,multiple_causation の原則を主張してきた.たとえば以下の記事である.

 ・ 「#443. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か?」 ([2010-07-14-1])
 ・ 「#1232. 言語変化は雨漏りである」 ([2012-09-10-1])
 ・ 「#1233. 言語変化は風に倒される木である」 ([2012-09-11-1])
 ・ 「#1582. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (2)」 ([2013-08-26-1])
 ・ 「#1584. 言語内的な要因と言語外的な要因はどちらが重要か? (3)」 ([2013-08-28-1])
 ・ 「#1977. 言語変化における言語接触の重要性 (1)」 ([2014-09-25-1])
 ・ 「#1978. 言語変化における言語接触の重要性 (2)」 ([2014-09-26-1])
 ・ 「#1986. 言語変化の multiple causation あるいは "synergy"」 ([2014-10-04-1])
 ・ 「#3152. 言語変化の "multiple causation"」 ([2017-12-13-1])
 ・ 「#3271. 言語変化の multiple causation 再考」 ([2018-04-11-1])
 ・ 「#3355. 言語変化の言語内的な要因,言語外的な要因,"multiple causation"」 ([2018-07-04-1])
 ・ 「#3377. 音韻変化の原因2種と結果3種」 ([2018-07-26-1])

 言語変化にかかわらず,何事においても原因と結果の関係を探るのは難しい.因果関係とは複雑で多様なものだからだ.ほとんどの場合,シンプルな1つの答えがあるわけではない.これについて,『論証のルールブック』を著わしたウェストン (90--91) による説得力のある文章を読んでみよう.「因果関係は複雑だ」という題の文章だ(原著の傍点は以下で下線にしてある).

 幸福だが結婚していない人は多いし,結婚しているが幸福でない人も多い.だからといって,一般に結婚は幸福に影響しないということではない.幸福か不幸か(そして,結婚か独身か)には原因がたくさんあるのだ.一つの相関関係がすべてではない.ここで問題になるのは,それぞれの原因の重要度の違いである.
 一部の E1 が一部の E2 の原因であると主張するとき,E1 が E2 を引き起こさない場合があること,あるいは別の原因が E2 を引き起こす場合があることは,必ずしも反例とはいえない.たんに E1しばしばあるいは一般に E2 を引き起こすと主張しているだけだからだ.つまり,他の原因はそれほど一般的ではない,あるいは E1 は E2主要な原因の一つであり,全体からすれば複数の原因があり,他にも主要な原因があるかもしれない,というわけだ.世の中にはタバコを一本も吸わないのに肺がんになる人もいれば,一日三箱吸いつづけても病気とは無縁の人もいる.両者とも医学的には興味をそそられるし重要な例だが,いずれにしろ,タバコが肺がんを引き起こす第一の原因なのは変わらぬ事実だ.
 たくさんの異なる原因があいまって影響を及ぼしている.たとえば,地球温暖化にはさまざまな原因があり,その一部には太陽の活動の変化など自然的なものもあるが,だからといって人間が原因ではないとはいえない.何度もいうが,因果関係は複雑なのだ.多種多様な要因が働いている(じつのところ,太陽の活動もまた温暖化に一役買っているのならば,それは人間活動が及ぼしている影響を減じるさらなる根拠となるだろう).
 原因と結果は循環構造にあるのかもしれない.映画会社の独立性は創造性をもたらすかもしれないが,逆に創造性のある映画製作者はそもそも独立性を求め,それがさらなる創造性をもたらす,というループ状になっているわけだ.より自由な活動を求めるがゆえに創造性と独立性の両方を求めることもあるだろうし,とてもすばらしいアイデアを持っていて大会社に売りたくないということもあるだろう.ことほどさように,因果関係は複雑だ.


 言語変化の原因を考慮する際の教訓としたい.

 ・ ウェストン,アンソニー(著),古草 秀子(訳) 『論証のルールブック』第5版 筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉,2019年.

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