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suffix - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-23 11:02

2023-12-19 Tue

#5349. the green-eyed monster にみられる名詞を形容詞化する接尾辞 -ed (2) [morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix][parasynthesis][adjective][participle][oed][germanic][old_saxon][old_norse][latin]

 昨日の記事 ([2023-12-18-1]) の続編で,green-eyed のタイプの併置総合 (parasynthesis) による合成語について.今回は OED を参照して問題の接尾辞 -ed そのものに迫る.
 OED では動詞の過去分詞の接尾辞としての -ed, suffix1 と,今回のような名詞につく接尾辞としての -ed, suffix2 を別見出しで立てている.後者の語源欄を引用する.

Cognate with Old Saxon -ôdi (not represented elsewhere in Germanic, though Old Norse had adjectives similarly < nouns, with participial form and i-umlaut, as eygðr eyed, hynrdr horned); appended to nouns in order to form adjectives connoting the possession or the presence of the attribute or thing expressed by the noun. The function of the suffix is thus identical with that of the Latin past participial suffix -tus as used in caudātus tailed, aurītus eared, etc.; and it is possible that the Germanic base may originally have been related to that of -ed, suffix1, the suffix of past participles of verbs formed upon nouns.


 この記述によると,ゲルマン語派内部でも(狭い分布ではあるが)対応する接尾辞があり,さらに同語派外のラテン語などにも対応する要素があるということになる.共通の祖形はどこまで遡れるのか,あるいは各言語(派)での独立平行発達なのか,あるいは一方から他方への借用が考えられるのかなど,たやすく解決しそうにない問題のようだ.
 もう1つ考慮すべき点として,この接尾辞 -ed が単純な名詞に付く場合 (ex. dogged) と複合名詞に付く場合 (ex. green-eyed) とを,語形成の形態論の観点から同じものとみてよいのか,あるいは異なるものと捉えるべきなのか.歴史的にも形態理論的にも,確かに興味深い話題である.

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2023-12-18 Mon

#5348. the green-eyed monster にみられる名詞を形容詞化する接尾辞 -ed [terminology][morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix][shakespeare][personification][metaphor][conversion][parasynthesis][adjective][participle][noun]

 khelf(慶應英語史フォーラム)内で運営している Discord コミュニティにて,標題に掲げた the green-eyed monster (緑の目をした怪物)のような句における -ed について疑問が寄せられた.動詞の過去分詞の -ed のようにみえるが,名詞についているというのはどういうことか.おもしろい話題で何件かコメントも付されていたので,私自身も調べ始めているところである.
 論点はいろいろあるが,まず問題の表現に関連して最初に押さえておきたい形態論上の用語を紹介したい.併置総合 (parasynthesis) である.『新英語学辞典』より解説を読んでみよう.

 parasynthesis 〔言〕(併置総合)   語形成に当たって(合成と派生・転換というように)二つの造語手法が一度に行なわれること.例えば,extraterritorial は extra-territorial とも,(extra-territory)-al とも分析できない.分析すれば extra+territory+-al である.同様に intramuscular も intra+muscle+-ar である.合成語 baby-sitter (= one who sits with the baby) も baby+sit+-er の同時結合と考え,併置総合合成語 (parasynthetic compound) ということができる.また blockhead (ばか),pickpocket (すり)も,もし主要語 -head, pick- が転換によって「人」を示すとすれば,これも併置総合合成語ということができある.


 上記では green-eyed のタイプは例示されていないが,これも併置総合合成語の1例といってよい.a double-edged sword (両刃の剣), a four-footed animal (四つ脚の動物), middle-aged spread (中年太り)など用例には事欠かない.
 なお the green-eyed monster は言わずと知れた Shakespeare の Othello (3.3.166) からの句である.green-eyedthe green-eyed monster もいずれも Shakespeare が生み出した表現で,以降「嫉妬」の擬人化の表現として広く用いられるようになった.
 今後もこのタイプの併置総合について考えていきたい.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

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2023-05-31 Wed

#5147. 「ゆる言語学ラジオ」出演第3回 --- 『ジーニアス英和辞典』第6版を読む回で触れられた諸々の話題 [yurugengogakuradio][notice][youtube][genius6][suffix][prefix][heldio][voicy][hel_contents_50_2023][khelf][consonant][japanese][loan_word][spelling][terminology]


 「ゆる言語学ラジオ」からこちらの「hellog~英語史ブログ」に飛んでこられた皆さん,ぜひ

   (1) 本ブログのアクセス・ランキングのトップ500記事,および
   (2) note 記事,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の人気放送回50選
   (3) note 記事,「ゆる言井堀コラボ ー 「ゆる言語学ラジオ」×「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」×「Voicy 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」」
   (4) 「ゆる言語学ラジオ」に関係するこちらの記事群

をご覧ください.



 昨日5月30日(火)に,YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回がアップされました.ゲストとして出演させていただきまして第3回目となります(ぜひ第1回第2回もご視聴ください).今回は「英語史の専門家と辞書を読んだらすべての疑問が一瞬で解決した#234」です.



 昨秋出版された『ジーニアス英和辞典』第6版にて,新設コラム「英語史Q&A」を執筆させていただきました(同辞典に関連する hellog 記事は genius6 よりどうぞ).今回の出演はその関連でお招きいただいた次第です.水野さん,堀元さんとともに同辞典をペラペラめくっていき,何かおもしろい項目に気づいたら,各々がやおら発言し,そのままおしゃべりを展開するという「ゆる言語学ラジオ」らしい企画です.雑談的に触れた話題は多岐にわたりますが,hellog や heldio などで取り上げてきたトピックも多いので,関連リンクを張っておきます.

[ 接尾辞 -esque (e.g. Rubenesque, Kafkaesque) ]

 ・ hellog 「#216. 人名から形容詞を派生させる -esque の特徴」 ([2009-11-29-1])
 ・ hellog 「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1])
 ・ hellog 「#3716. 強勢位置に影響を及ぼす接尾辞」 ([2019-06-30-1])

[ 否定の接頭辞 un- (un- ゾーンの語彙) ]

 ・ hellog 「#4227. なぜ否定を表わす語には n- で始まるものが多いのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-22-1])
 ・ 大学院生による英語史コンテンツ 「#36. 語源の向こう側へ ~ in- と un- と a- って何が違うの?~」(目下 khelf で展開中の「英語史コンテンツ50」より)

[ カ行子音を表わす3つの文字 <k, c, q> ]

 ・ hellog 「#1824. <C> と <G> の分化」 ([2014-04-25-1])
 ・ heldio 「#255. カ行子音は c, k, q のどれ?」 (2022/02/10)

[ 日本語からの借用語 (e.g. karaoke, karate, kamikaze) ]

 ・ hellog 「#4391. kamikazebikini --- 心がザワザワする語の意味変化」 ([2021-05-05-1])
 ・ hellog 「#142. 英語に借用された日本語の分布」 ([2009-09-16-1])
 ・ hellog 「#3872. 英語に借用された主な日本語の借用年代」 ([2019-12-03-1])
 ・ hellog 「#4140. 英語に借用された日本語の「いつ」と「どのくらい」」 ([2020-08-27-1])
 ・ heldio 「#60. 英語に入った日本語たち」 (2021/07/31)

[ 動詞を作る en- と -en (e.g. enlighten, strengthen) ]

 ・ 「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1])
 ・ 「#3510. 接頭辞 en- をもつ動詞は品詞転換の仲間?」 ([2018-12-06-1])
 ・ 「#4241. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-12-06-1])
 ・ heldio 「#62. enlighten ー 頭にもお尻にも en がつく!」 (2021/08/02)

[ 文法用語の謎:tense, voice, gender ]

 ・ heldio 「#644. 「時制」の tense と「緊張した」の tense は同語源?」 (2023/03/06)
 ・ heldio 「#643. なぜ受動態・能動態の「態」が "voice" なの?」 (2023/03/05)
 ・ hellog 「#1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか」 ([2013-06-25-1])
 ・ hellog 「#1449. 言語における「範疇」」 ([2013-04-15-1])

[ minister の語源 ]

 ・ 「#4209. なぜ ministermini- なのに「大臣」なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-04-1])

[ コラム「英語史Q&A」 ]

 ・ hellog 「#4892. 今秋出版予定の『ジーニアス英和辞典』第6版の新設コラム「英語史Q&A」の紹介」 ([2022-09-18-1])
 ・ heldio 「#532. 『ジーニアス英和辞典』第6版の出版記念に「英語史Q&A」コラムより spring の話しをします」 (2022/11/14)
 ・ hellog 「#4971. oftent は発音するのかしないのか」 ([2022-12-06-1])

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2023-05-22 Mon

#5138. 句比較の発達と言語接触 [comparison][adjective][suffix][superlative][contact][synthesis_to_analysis][latin][french][grammaticalisation][german][dutch][french_influence_on_grammar]

 形容詞・副詞の比較級・最上級の作り方には, -er/-est 語尾を付す形態的な方法と more/most を前置する統語的な方法がある.それぞれを「屈折比較」と「句比較」と呼んでおこう.これについては,hellog,heldio,その他でも様々に紹介してきた.「#4834. 比較級・最上級の歴史」 ([2022-07-22-1]) に関連リンクをまとめているので参照されたい.
 英語やロマンス諸語の歴史では,屈折比較から句比較への変化が生じてきた.印欧語族に一般に観察される「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) の潮流に沿った事例として見られることが多い.この変化は,比較構文の成立という観点からは文法化 (grammaticalisation) の1例ともとらえられる.
 今回は Heine and Kuteva による言語接触に関わる議論を紹介したい.英語やいくつかの言語において歴史的に句比較が発達した1要因として,ロマンス諸語との言語接触が関係しているのではないかという仮説だ.英語がフランス語やラテン語の影響のもとに句比較を発達させたという仮説自体は古くからあり,上記のリンク先でも論じてきた通りである.Heine and Kuteva は,英語のみならず他の言語においても言語接触の効果が疑われるとし,言語接触が決定的な要因だったとは言わずとも "an accelerating factor" (96) と考えることは可能であると述べている.英語を含めて4つの事例が挙げられている (96) .

a. Analytic forms were still rare in Northern English in the fifteenth century, while in Southern English, which was more strongly exposed to French influence, these forms had become current at least a century earlier . . . .
b. In German, the synthetic comparative construction is still well established, e.g. schön 'beautiful', schön-er ('beautiful-COMP') 'more beautiful'. But in the dialect of Luxembourg, which has a history of centuries of intense contact with French, instances of an analytic comparative can be found, e.g. mehr schön ('more beautiful', presumably on the model of French plus beau ('more beautiful') . . . .
c. The Dutch varieties spoken in Flanders, including Algemeen Nederlands, have been massively influenced by French, and this influence has also had the effect that the analytic pattern with the particle meer 'more' is used increasingly on the model of French plus, at the expense of the inherited synthetic construction using the comparative suffix -er . . . .
d. Molisean has a 500-years history of intense contact with the host language Italian, and one of the results of contact was that the speakers of Molisean have given up the conventional Slavic synthetic construction by replicating the analytic Italian construction, using veče on the model of Italian più 'more' as degree marker. Thus, while Standard Croatian uses the synthetic form lyepši 'more beautiful', Molisean has più lip ('more beautiful') instead . . . .


 このようなケースでは,句発達の発達は,言語接触によって必ずしも推進 ("propel") されたとは言えないものの,加速 ("accelerate") したとは言えるのではないか,というのが Heine and Kuteva の見解である.

 ・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.

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2023-05-02 Tue

#5118. Japan-ese の語尾を深掘りする by khelf 新会長 [aokikun][voicy][heldio][khelf][colloquia][link][demonym][suffix][onomastics]

 皆さん,なぜ Japan には -ese という語尾がつくのか,気になりますよね? *Japan-ian でもなく *Japan-ish でもなく,英語では Japan-ese ということになっています.
 この問題に英語史あるいは英語歴史言語学の観点から踏み込んでみると,魅惑的かつ複雑なパズルが展開しています.khelf(慶應英語史フォーラム)の新会長の青木輝さんが,この問題に分け入っています.
 今朝の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では,青木さんとの対談でこの対談を深掘りしています.「#701. なぜ「日本人」は Japan-ese なの?の深掘り回 --- 青木輝さんとの対談」をお聴きください.



 この対談のベースとなっているのは,『コロキア』 (Colloquia) の論文として公表されている以下のものです.

 ・ Aoki, Hikaru. "Why Japan-ese and Not Japan-ian?: Historical Relations between Demonymic Suffixes and Country Names." Colloquia 43 (2022): 85--102.

 この論文に基づいて,青木さんは khelf 活動を通じて,たびたび研究成果を公開してきています.

 ・ 『英語史新聞』第5号の第1面の記事「人々の名称の謎を追う --- なぜ X-ish という呼び名はイギリス周辺に多いのか --- なぜ X-ish という呼び名はイギリス周辺に多いのか ---」
 ・ heldio 「#680. なぜ「日本人」は Japanian などではなく Japanese なの? --- 青木輝さんとの対談
 ・ heldio 「#683. なぜ English のように -ish のつく呼び名はイギリス周辺に多いの? --- 青木輝さんとの対談」

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2023-02-08 Wed

#5035. 1900年以降の -ism [neologism][word_formation][oed][suffix][productivity][lexicography]

 「#5031. 接尾辞 -ism の起源と発達」 ([2023-02-04-1]),「#5033. 接尾辞 -ism の多義性」 ([2023-02-06-1]) で接尾辞 (suffix) としての -ism に焦点を当ててきた.生産性 (productivity) の高い接尾辞として紹介してきたが,具体的には最近どのような -ism 語が現われてきているのだろうか.OED より1900年以降に初出した -ism 新語を抜き出してみた.全体で724単語が挙がった.10年刻みで一覧してみる.



[ 1900年代 (1900--1909):135単語 ]

antidisestablishmentarianism, Big Brotherism, cultism, expansionism, heterotrophism, hyperthyroidism, maraboutism, meningism, middle-of-the-roadism, muckerism, Mu'tazilism, neopositivism, neuroticism, Old Testamentism, pentamerism, prostatism, spoonerism, structurism, thanatism, thigmotropism, divisionism, imperativism, motorism, pan-Europeanism, piezomagnetism, productivism, pyromagnetism, Sivaism, sociologism, tabloidism, antilogism, chronotropism, gargoylism, interactionism, ladronism, mescalism, multimodalism, Oblomovism, ogreism, pacifism, pan-Buddhism, seismism, tactism, theoreticism, transitivism, chemotactism, favism, Fletcherism, hippomobilism, homoeothermism, homosexualism, intimism, luminarism, macroseism, Marconism, Mendelianism, Mendelism, neo-Confucianism, osmatism, physogastrism, poikilothermism, polychromism, practicism, preferentialism, racism, stand-pattism, supernationalism, syntonism, aniconism, cryptomerism, Deweyism, ecologism, geneticism, katamorphism, manism, mascotism, microbism, monoclinism, nounism, pan-Africanism, pan-Asiaticism, thermochromism, hypothyroidism, luminism, neurotropism, Nietzscheanism, nomism, pan-Asianism, Parnassianism, Prometheanism, Pygmalionism, quattrocentism, vicinism, Victorianism, Addisonism, champagne socialism, ethnocentrism, hereditarianism, millennialism, new realism, nyctinastism, pismirism, post-classicism, reluctantism, immanentism, immoralism, inhumanism, reactionaryism, reincarnationism, suffragettism, syndicalism, Syrism, Christocentrism, deductivism, expressionism, ingotism, neo-realism, pacificism, Pan-Turkism, rotativism, substitutionalism, super-individualism, theriomorphism, vagrantism, xenophobism, cameralism, heurism, innatism, maximalism, neo-Aristotelianism, oculism, Porro prism, protagonism, Uranianism, voltinism

[ 1910年代:103単語 ]

adrenalism, conservationism, hypoparathyroidism, perspectivism, pithiatism, post-Impressionism, pre-animism, Sillonism, alloerotism, Cubism, factualism, Georgianism, inspirationalism, masculinism, Ottomanism, Rotarianism, autism, clientelism, eunuchoidism, imagism, marginalism, mobilism, mutationism, orthomorphism, selectionism, Synchromism, transvestitism, trichotomism, Acmeism, apotropaism, behaviourism/behaviorism, monophyletism, moronism, neo-imperialism, taurodontism, Theravadism, transvestism, Zapatism, pansexualism, phobism, postmodernism, supermanism, Thespianism, vorticism, zabernism, Balkanism, consumerism, distributism, Hohenzollernism, homoeroticism, lawyerism, new federalism, polyarchism, rurbanism, Simultaneism, bushism, denationalism, homoerotism, moanism, monenergism, multilingualism, neo-nationalism, pan-Turanianism, Pelmanism, presentism, Russellism, Schoenbergism, Boloism, Bolshevism, defeatism, environmentalism, hyperparathyroidism, indigenism, mathematicism, Mondism, Montessorianism, non-interventionism, pan-Indianism, pan-Turanism, philism, anorchidism, Dadaism, defencism/defensism, diffusionism, Fordism, Leninism, neo-Marxism, preventionism, Rasputinism, surdimutism, biomechanism, culturalism, hegemonism, inflationism, Lukanism, multi-partyism, pan-Arabism, panchromatism, paroicism, predictionism, sadomasochism, social imperialism, unanimism

[ 1920年代:111単語 ]

gangsterism, Kemalism, Menshevism, mid-Victorianism, mosaicism, Moscowism, myrmecophytism, photoperiodism, predatism, retreatism, servomechanism, fascism, futilitarianism, Mennonitism, New Zealandism, pastism, polycratism, Suprematism, abstract expressionism, adaptationalism, ameliorism, anarcho-syndicalism, Couéism, existentialism, finitism, introspectionism, isolationism, Menckenism, metapsychism, nabism, neoprimitivism, Poplarism, Rayonism, romanticalism, Sitwellism, allelism, neo-Communism, Nordicism, parkinsonism, peyotism, porphyrism, robotism, Tubism, constructionism, constructivism, fictionalism, MacDonaldism, Marranoism, Mussolinism, neo-Freudianism, nondeterminism, paragrammatism, peripheralism, Pollyannaism, redemptivism, voyeurism, Babbittism, configurationism, enantiomerism, Hattism, hyperurbanism, Pirandellism, puerilism, reductionism, Sun Yat-senism, Trotskyism, boosterism, conformism, diachronism, holism, liturgism, mechanomorphism, mycetism, squadrism, totalitarianism, unilateralism, Yiddishism, alloeroticism, choralism, contortionism, diatonism, homoism, Machism, minimalism, monolithism, occupationalism, Petrarchanism, pleiotropism, Praedism, providentialism, sexationalism, Stalinism, surrealism, Buchmanism, dispensationalism, Eonism, mesomerism, multilateralism, normativism, stylism, Undinism, welfarism, wholism, bovarism, contextualism, exceptionalism, foodism, market fundamentalism, Marxism-Leninism, productionism, situationism

[ 1930年代:90単語 ]

corporativism, hyphenism, metakinetism, National Socialism, Nazism, neocapitalism, neo-modalism, operationalism, social fascism, diatonicism, dirty realism, no-Goddism, pentatonism, post-communism, presenteeism, privatism, substantivism, bruxism, conciliarism, connectionism, Narodnikism, neo-Gothicism, polytypism, Rooseveltism, biocentrism, careerism, escapism, magic realism, Marxism, mesomorphism, New Dealism, nice nellyism, socialist realism, elitism, extrinsicism, inhibitionism, monophysism, Morganism, rightism, transvesticism, trilingualism, descriptivism, Edwardianism, Jocism, linearism, male chauvinism, Neo-plasticism, nothing-but-ism, operationism, quadrupedalism, rheomorphism, spatialism, thingism, Zenonism, conspiratorialism, Cubo-Futurism, Goldwynism, microprism, Miltonicism, non-objectivism, non-racialism, polyphyletism, Rexism, shitticism, apoliticism, Blimpism, Bukharinism, Caodaism, logicism, Marxist-Leninism, neocatastrophism, pandiatonicism, pentaprism, cultural Marxism, Francoism, narcism, nemesism, partitionism, photojournalism, pronatalism, pseudoallelism, sanctionism, blondism, Chamberlainism, essentialism, kineticism, neo-traditionalism, precisionism, verificationism, vicariism

[ 1940年代:58単語 ]

ahistoricism, photoisomerism, post-humanism, semanticism, technologism, megadontism, New Criticism, Pétainism, preservationism, Vansittartism, capitulationism, managerialism, momism, patrimonialism, pseudohypoparathyroidism, chemoautotrophism, do-goodism, globalism, identitarianism, neo-fascism, passéism, pranksterism, againstism, ethnophaulism, multinationalism, critical rationalism, eliminationism, veganism, lettrism, Peronism, reductivism, supremacism, dynamicism, microphonism, Titoism, Afghanistanism, ecumenism, emotivism, ferrimagnetism, Lysenkoism, magmatism, Messalianism, neo-Nazism, one-worldism, prescriptivism, rejectionism, resistentialism, tailism, white supremacism, immobilism, justicialism, Levantinism, marhaenism, Michurinism, Palamism, Panglossism, restrictivism, tectonism

[ 1950年代:68単語 ]

abstract impressionism, Atlanticism, Gaullism, judgementalism/judgmentalism, majoritarianism, Maoism, Marrism, McCarthyism, multiracialism, Narodnism, ouvrierism, psychoticism, Bevanism, neo-isolationism, photochromism, revanchism, troilism, amensalism, kleptoparasitism, neocolonialism, Nixonism, Nicodemism, obsessionalism, transsexualism, workerism, Butskellism, Islamicism, multi-partism, neo-Stalinism, retributivism, skollyism, tripartism, alternativism, morphism, neo-Gaullism, postcolonialism, Poujadism, ad hocism, Anglocentrism, diffeomorphism, ebullism, Europocentrism, Mendèsism, Nasserism, patternism, polycentrism, superparamagnetism, breatharianism, hipsterism, Khrushchevism, monoglacialism, multiculturalism, neo-expressionism, Parkinsonism, spiralism, transhumanism, Zhdanovism, archaeomagnetism, outsiderism, pentatonicism, televangelism, Antikythera mechanism, disimperialism, ethnonationalism, Fidelism, macrodactylism, nannyism, proceduralism

[ 1960年代:64単語 ]

Castroism, Goldwaterism, moderationism, multiregionalism, neo-Dadaism, Nkrumahism, nuclearism, supremism, Asiacentrism, audio-lingualism, compressionism, Kennedyism, neo-behaviourism/neo-behaviorism, neo-Keynesianism, non-ism, permissivism, photorealism, mycomysticism, mycoparasitism, prescriptionism, splittism, tokenism, entrism, neo-Pentecostalism, Parsonianism, polyphenism, Rachmanism, aleatorism, allosterism, androcentrism, credentialism, Montaignism, neuterism, triumphalism, dysmorphism, Eurocentrism, generativism, parajournalism, Powellism, renewalism, symphonism, transgenderism, entryism, neo-modernism, Paisleyism, paramilitarism, Popperism, Reaganism, McLuhanism, monetarism, Naderism, Olympism, Pinterism, polysomatism, auteurism, incrementalism, madrigalism, Panglossianism, workaholism, ageism, anarcho-capitalism, consequentialism, gravitropism, yobbism

[ 1970年代 53単語 ]

migrationism, Naxalism, Orwellism, spontaneism, tropicalism, heightism, logocentrism, multidialectalism, panselectionism, posthumanism, post-minimalism, sizeism, Afrocentrism, heterosexism, new historicism, O'Neillism, phonocentrism, polyglacialism, processualism, supersessionism, Velikovskianism, eliminativism, polystylism, stabilism, monoculturalism, neurotrophism, ockerism, preparationism, Mobutuism, multiculturism, phallocentrism, phallogocentrism, post-structuralism, speciesism, bioregionalism, ecocentrism, Eurocommunism, post-materialism, pre-modernism, social constructionism, Lacanianism, macromutationism, punctuationism, trendyism, lookism, Manhattanism, me-ism, nutritionism, whataboutism, computationalism, machoism, Mitterrandism, reliabilism

[ 1980年代:29単語 ]

Bushism, ecofeminism, neo-conceptualism, neosemanticism, originalism, popism, ableism, rockism, social constructivism, ecotourism, post-feminism, mimeticism, yuppieism, conspiracism, eco-socialism, shopaholism, post-Fordism, short-termism, cryovolcanism, fattism, long-termism, New Ageism, Euroscepticism/Euroskepticism, Islamofascism, Majorism, Norman Rockwellism, negaholism, phoenixism, techno-shamanism

[ 1990年代 8単語 ]

Extropianism, voluntourism, Afrofuturism, Blairism, slacktivism, turntablism, hacktivism, Stuckism

[ 2000年代:5単語 ]

craftivism, lactivism, disaster capitalism, cissexism, clicktivism




 数としてみれば20世紀前半がピークで,その後は減ってきているようにみえる.OED の編纂上の都合で,古い年代のほうが残されている資料を渉猟するのに費やしてきた時間が長く,多くの新語を見つけ出しやすいという事情はあるかもしれない.一方,最新の新語については選定という編纂過程が介入している可能性もある.そのような点を考慮した上で,この OED に基づく -ism 新語の一覧を評価する必要があるだろう.
 そうだとしても,20世紀前半という激動の時代に -ism の嵐が吹き荒れたことは興味深い.20世紀後半以降の漸減は,すでに出るべきものは出きってしまい,-ism に食傷気味となった世相を反映しているとみることもできそうだ.あるいは,近年,何でもかんでも -ism を付加するようになってしまったために,OED の編集部も採用するのに疲れてしまった,ということかもしれない.
 -ism 語の一覧,皆さんはどう読みますか?

Referrer (Inside): [2023-03-28-1]

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2023-02-06 Mon

#5033. 接尾辞 -ism の多義性 [polysemy][suffix][terminology]

 一昨日の「#5031. 接尾辞 -ism の起源と発達」 ([2023-02-04-1]) に引き続き,-ism という生産的な接尾辞 (suffix) について.今回はその多義性に注目します.
 Webster の辞書の第3版に所収の A Dictionary of Prefixes, Suffixes, and Combining Forms によると,-ism には大きく4つの語義があります.「動作」「状態」「主義」「特徴」です.単語の具体例とともにみてみましょう.

-ism n suffix -s [ME -isme, fr. MF & L; MF -isme, partly fr. L -isma (fr. Gk), & partly fr. L -ismus, fr. Gk -ismos] 1 a : act, practice, or process --- esp. in nouns corresponding to verbs in -ize <criticism> <hypnotism> <plagiarism> b : manner of action or behavior characteristic of a (specified) person or thing <animalism> <Micawberism> 2 a : state, condition, or property <barbarianism> <polymorphism> b : abnormal state or condition resulting from excess of a (specified) thing <alcoholism> <morphinism> c : abnormal state or condition characterized by resemblance to a (specified) person or thing <mongolism> 3 a : doctrine, theory, or cult <Buddhism> <Calvinism> <Platonism> <salvationism> <vegetarianism> b : adherence to a system or a class of principles <neutralism> <realism> <socialism> <stoicism> 4 : characteristic or peculiar feature or trait <colloquialism> <Latinism> <poeticism>


 言語の話題でよく用いられる -ism は,最後の「特徴」の語義と関連するものです.「○○に特徴的な言葉遣い;○○語法」の意味で Americanism, Britishism, Canadianism, Irishism, Gallicism, vulgarism, witticism, neologism などがあります.

Referrer (Inside): [2023-02-08-1]

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2023-02-04 Sat

#5031. 接尾辞 -ism の起源と発達 [suffix][greek][latin][french][polysemy][productivity][hellog_entry_set][neologism][lmode][derivation][derivative][word_formation]

 現代英語で -ism という接尾辞 (suffix) は高い生産性をもっている.racism, sexism, ageism, lookism など社会差別に関する現代的で身近な単語も多い.宗教とも相性がよく Buddhism, Calvinism, Catholicism, Judaism などがあるかと思えば,政治・思想とも親和性があり Liberalism, Machiavellism, Platonism, Puritanism などが挙げられる.
 上記のように「主義」の意味のこもった単語が多い一方で,aphorism, criticism, mechanism, parallelism などの通常の名詞もあり一筋縄ではいかない.また AmericanismBritishism などの「○○語法」の意味をもつ単語も多い(cf. 「#2241. Dictionary of Canadianisms on Historical Principles」 ([2015-06-16-1])).そして,今では接尾辞ではなく独立した語としての ism も存在する(cf. 「#2576. 脱文法化と語彙化」 ([2016-05-16-1])).
 接尾辞 -ism の語源はギリシア語 -ismos である.ギリシア語の動詞を作る接尾辞 -izein (英語の -ize の原型)に対応する名詞接尾辞である.現代英語の文脈では,動詞を作る -ize に対応する名詞接尾辞といえば -ization が思い浮かぶが,語源的にいえば -ism のほうがより由緒の正しい名詞接尾辞ということになる.(英語の -ize/-ise を巡る問題については,こちらの記事セットを参照.)
 ギリシア語 -ismos がラテン語,フランス語にそれぞれ -ismus, -isme として借用され,それが英語にも入ってきて,近代英語期以降に多用されるようになった.とりわけ後期近代英語期に,この接尾辞の生産性は著しく高まり,多くの新語が出現した.Görlach (121) は -ism について次のように述べている.

The 19th century can be seen as a battleground of ideologies and factions; at least, such is the impression created by the frequency of derivatives ending in -ism (often from a personal name, and accompanied by -ist for the adherent, and -istic/-ian for adjectival uses). The year 1831 alone saw the new words animism, dynamism, humorism, industrialism, narcotism, philistinism, servilism, socialism and spiritualism (CED).


 世界の思想上の分断が進行している21世紀も -ism の生産性が衰えることはなさそうだ.

 ・ Görlach, Manfred. English in Nineteenth-Century England: An Introduction. Cambridge: CUP, 1999.

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2023-01-30 Mon

#5026. 接尾辞 -age [suffix][french][latin][word_formation][noun][borrowing][loan_word]

 -age は名詞を作る接尾辞 (suffix) として一見目立たなそうだが,意外と基本的な単語にも用いられている.例えば percentage, marriage, usage, passage, storage, shortage, mileage, voltage, baggage, postage, luggage, breakage, bondage, anchorage, shrinkage, orphanage 等をみれば頷けるだろう.
 語源としては,古典時代以降のラテン語 -agium に遡る場合もあれば,同じく古典時代以降のラテン語の別の語尾 -aticum(古典ラテン語の形容詞語尾 -āticus の中性形より)がフランス語に -age として伝わったものに由来する場合もある.いずれももとより名詞を作る接尾辞として機能していた.
 この接尾辞をもつ単語は早くも初期中英語期にフランス語やラテン語から借用されていたが,後期中英語期になると peerage, mockage など英語内部で語形成されたものも現われ,この傾向は近代英語期になるととりわけ強くなった.現代英語においてもある程度の生産性を有する接辞で,1949年には signage などの語が作られている.
 この接尾辞の主な意味を語例とともに挙げてみよう.

 1. 集合: cellarage, leafage, luggage, surplusage, trackage, wordage
 2. 動作・過程: coverage, haulage, stoppage
 3. 結果: breakage, shrinkage, usage
 4. 率・数量: acreage, dosage, leakage, mileage, outage, slippage
 5. 家・場所: orphanage, parsonage, steerage
 6. 状態: bondage, marriage, peonage
 7. 料金: postage, towage, wharfage

 このように -age は英語では原則として名詞を作る接尾辞だが,ラテン語の形容詞語尾 -āticus より機能を受け継ぎ,珍しく形容詞としてフランス語より入ってきた savage という語を挙げておこう.

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2023-01-14 Sat

#5010. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第23回「なぜ現在分詞と動名詞は同じ -ing で表されるの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][participle][gerund][progressive][polysemy][suffix][heldio]

 本日『中高生の基礎英語 in English』の2月号が発売となります.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第23回は「なぜ現在分詞と動名詞は同じ -ing で表されるの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2023年2月号



 英語の -ing 語尾は多義ですね.現在分詞 (present participle) は,be と組み合わさって進行形 (progressive) を形成したり,形容詞として名詞を修飾・叙述したり,分詞構文を作ることもできます.動名詞 (gerund) としては,動詞を名詞に転換させる生産的な方法を提供しています.つまり,-ing は動詞を形容詞にしたり,副詞にしたり,名詞にしたりと八面六臂の活躍を示しているのです.
 しかし,現在分詞の -ing と動名詞の -ing は起源がまったく異なります.古くは形態も異なっていたのですが,歴史の過程で -ing という同じ形に合わさってしまっただけです.今回の連載記事では,この辺りの事情を易しく丁寧に解説しています.また,進行形は近代英語期に確立した比較的新しい文法事項なのですが,なぜどのように成立したのか,その歴史的過程もたどっています.いつものように謎解き風の記事となっています.ぜひご一読ください.
 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の関連する放送回として「#375. 接尾辞 -ing には3種類あるって知っていましたか?」を紹介しておきます.連載記事と合わせて -ing への理解が深まると思います.


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2022-12-26 Mon

#4991. -ise か -ize か問題 --- 2つの論点 [spelling][suffix][z][greek][latin][french][verb][oed][academy][orthography]

 昨日の記事「#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史」 ([2022-12-25-1]),および以前の「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) の記事と合わせて,改めて -ise か -ize かの問題について考えたい.今回は文献参照を通じて2つほど論点を追加する.
 昨日の記事で,OED が -ize の綴字を基本として採用している旨を紹介した.<z> を用いるほうがギリシア語の語源に忠実であり,かつ <z> ≡ /z/ の関係がストレートだから,というのが採用の理由である.しかし,この OED の主張について,Carney (433) が -ise/-ize 問題を解説している箇所で疑問を呈している.有用なので解説全体を引用しておこう.

17 /aɪz/ in verbs as <-ise>, <-ize>

The <-ize> spelling reflects a Greek verbal ending in English words, such as baptize, organize, which represent actual Greek verbs. There are also words that have been made up to imitate Greek, in later Latin or in French (humanise), or within English itself (bowdlerise). Some printers adopt a purist approach and spell the first group with <-ize> and the second group with <-ise>, others have <-ize> for both.
   Since this difference is opaque to the ordinary speller, there is pressure to standardize on the <s> spelling, as French has done. To standardize with a <z> spelling as American spelling has done has disadvantages, because there are §Latinate verbs ending in <-ise> which have historically nothing to do with this suffix: advertise, apprise, circumcise, comprise, supervise, surmise, surprise. If you opt for a scholarly <organize>, you are likely to get an unscholarly *<supervize>. The OED argues that the pronunciation is /z/ and that this justifies the <z> spelling. But this ignores the fact that <s>≡/z/ happens to be the commonest spelling of /z/. To introduce more <z> spellings would probably complicate matters for the speller.


 もう1つの論点は,イギリス英語の -ise はフランス語式の綴字を真似たものと理解してよいが,その歴史的な詳細については調査の必要があるという点だ.というのは,フランス語でも長らく -ize は使われていたようだからだ.ここで,フランス語でいつどのように -ise の綴字が一般化したのかが問題となる.また,(イギリス)英語がいつどのように,そのようなフランス語での -ise への一般化に合わせ,-ise を好むようになったのかも重要な問いとなる.Upward and Davidson (170--71) の解説の一部がヒントになる.

          The suffix -IZE/-ISE

There are some 200 verbs in general use ending in the suffix -ISE/-IZE, spelt with Z in American usage and s or z in British usage. The ending originated in Gr with z, which was transmitted through Lat and OFr to Eng beginning in the ME period.

・ Three factors interfered with the straightforward adoption of z for all the words ending in /aɪz/:
   - The increasing variation of z/s in OFr and ME.
   - The competing model of words like surprise, always spelt with s (-ISE in those words being not the Gr suffix but part of a Franco-Lat stem).
   - Developments in Fr which undermined the z-spelling of the Gr -IZE suffix; for example, the 1694 edition of the authoritative dictionary of the Académie Française standardized the spelling of the Gr suffix with s (e.g. baptiser, organiser, réaliser) for ModFr in accordance with the general Fr rule for the spelling of /z/ between vowels as s, and the consistent use of -ISE by ModFr from then on gave weight to a widespread preference for it in British usage. American usage, on the other hand, came down steadfastly on the side of -IZE, and BrE now allows either spelling.


 英語の -ise/-ize 問題の陰にアカデミー・フランセーズの働きがあったというのはおもしろい.さらに追求してみたい.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

Referrer (Inside): [2023-10-10-1]

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2022-12-25 Sun

#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史 [spelling][suffix][z][greek][latin][french][consonant][diphthong][verb][oed][ame_bre]

 動詞を作る接尾辞 -ize/-ise について,いずれのスペリングを用いるかという観点から,「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) で話題にしてきた.今回は OED の記述を要約しながら,この接尾辞の歴史を概説する.
 -ize/-ise はギリシア語の動詞を作る接尾辞 -ίζειν に遡る.人や民族を表わす名詞について「~人(民族)として(のように)振る舞う」の意味の動詞を作ることが多かった.現代英語の対応語でいえば barbarianize, tyrannize, Atticize, Hellenize のような例だ.
 この接尾辞は3,4世紀にはラテン語に -izāre として取り込まれ,そこで生産力が向上していった.キリスト教や哲学の用語として baptizāre, euangelizāre, catechiizāre, canōnizāre, daemonizāre などが生み出された.やがて,ギリシア語の動詞を借用したり,模倣して動詞を造語する際の一般的な型として定着した.
 この接尾辞は,中世ラテン語やヴァナキュラーにおいて,やがて一般的にラテン語の形容詞や名詞から動詞を作る機能をも発達させた.この機能の一般化はおそらくフランス語において最初に生じ,そこでは -iser と綴られるようになった.civiliser, cicatriser, humaniser などである.
 英語は中英語期よりフランス語から -iser 動詞を借用する際に,接尾辞をフランス語式に基づいて -ise と綴ることが多かった.この接尾辞は,後に英語でも独自に生産性を高めたが,その際にラテン語やフランス語の要素を基体として動詞を作る場合には -ise を,ギリシア語の要素に基づく場合にはギリシア語源形を尊重して -ize を用いるなどの傾向も現われた.しかし,この傾向はあくまで中途半端なものだったために,-ize か -ise かのややこしい問題が生じ,現代に至る.OED の方針としては,語源的であり,かつ /z/ 音を文字通りに表わすスペリングとして -ize に統一しているという.
 なお,英語のこの接尾辞に2重母音が現われることについて,OED は次のように述べている.

In the Greek -ιζ-, the i was short, so originally in Latin, but the double consonant z (= dz, ts) made the syllable long; when the z became a simple consonant, /-idz/ became īz, whence English /-aɪz/.

Referrer (Inside): [2023-10-10-1] [2022-12-26-1]

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2022-11-05 Sat

#4940. 再分析により -ess から -ness [reanalysis][metanalysis][analogy][suffix][morpheme]

 形態論的な再分析 (reanalysis) にはいくつかの種類があるが,今回は Fertig (32) を引用しつつ,名詞化接尾辞 -ness が実は -ess に由来するという事例を紹介する.

This [type of reanalysis] occurs frequently when the reanalysis affects the location of a boundary between stem and affix. A well-known example involves the Germanic suffix that became English -ness. The corresponding suffix in proto-Germanic was -assu. This suffix was frequently attached to stems ending in -n, and this n was subsequently reanalyzed as belonging to the suffix rather than the stem. In Old English, we find examples based on past participles, such as forgifeness 'forgiveness', which could still be analyzed as forgifen + ess, but also many instances based on adjectives, such as gōdness 'goodness' or beorhtness 'brightness', which provide unambiguous evidence of the reanalysis and the new productive rule of -ness suffixation . . . . Similar reanalyses give us the common Germanic suffix -ling --- as in English darling, sapling, nestling, etc. --- from attachment of -ing (OED -ing, suffix3 'one belonging to') to stems ending in l, as well as the German suffixes -ner and -ler, attributable to words where -er was attached to stems ending in -n or -l and then extended to give us new words such as Rentner 'pensioner' < Rente 'pension' and Sportler 'sportsman'.


 『英語語源辞典』よりもう少し補っておこう.接尾辞 -ness は強変化過去分詞の語尾に現われる n が,ゲルマン祖語の弱変化動詞の接辞 *-atjan に由来する *-assus (後の古英語の -ess)に接続したものである.つまり n は本来は基体の一部だったのだが,それが接尾辞 -ess と一体化して,-ness なる新たな接尾辞ができたというわけだ.
 オランダ語 -nis,ドイツ語 -nis,ゴート語 -inassus のような平行的な例がゲルマン諸語に確認されることから,この再分析の過程はゲルマン祖語の段階で起こっていたと考えられる.ゲルマン諸語間の母音の差異については不詳である.英語内部でみても初期中英語では -nes(se) と -nis(se) が併存していたが,後期中英語以降は前者が優勢となった.
 身近な -ness という接尾辞1つをとっても,興味深い歴史が隠れているものだ.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.
 ・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2022-05-31 Tue

#4782. cleanse に痕跡を残す動詞形成接尾辞 -(e)sian [suffix][etymology][oe][verb][word_formation][derivation][vowel][shortening][shocc]

 昨日の記事「#4781. openwarn の -(e)n も動詞形成接尾辞」 ([2022-05-30-1]) で,古英語の動詞形成接尾辞 -(e)nian を取り上げた.古英語にはほかに -(e)sian という動詞形成接尾辞もあった.やはり弱変化動詞第2類が派生される.
 昨日と同様に,Lass と Hogg and Fulk から引用する形で,-(e)sian についての解説と単語例を示したい.

(i) -s-ian. Many class II weak verbs have an /-s-/ formative: e.g. clǣn-s-ian 'cleanse' (clǣne 'clean', rīc-s-ian 'rule' (rīce 'kingdom'), milt-s-ian 'take pity on' (mild 'mild'). The source of the /-s-/ is not entirely clear, but it may well reflect the IE */-s-/ formative that appears in the s-aorist (L dic-ō 'I say', dīxī 'I said' = /di:k-s-i:/). Alternants with /-s-/ in a non-aspectual function do however appear in the ancient dialects (Skr bhā-s-ati 'it shines' ~ bhā-ti), and even within the same paradigm in the same category (GR aléks-ō 'I protect', infinitive all-alk-ein). (Lass 203)


(iii) verbs in -(e)sian, including blētsian 'bless', blīðsian, blissian 'rejoice', ġītsian 'covet', grimsian 'rage', behrēowsian 'reprent', WS mǣrsian 'glorify', miltsian 'pity', rīcsian, rīxian 'rule', unrōtsian 'worry', untrēowsian 'disbelieve', yrsian 'rage'. (Hogg and Fulk 289)


 古英語としてはよく見かける動詞が多いのだが,残念ながら昨日の -(e)nian と同様に,現在まで残っている動詞は稀である.その1語が cleanse である.形容詞 clean /kliːn/ に対応する動詞 cleanse /klɛnz/ だ.母音が短くなったことについては「#3960. 子音群前位置短化の事例」 ([2020-02-29-1]) を参照.

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2022-05-30 Mon

#4781. openwarn の -(e)n も動詞形成接尾辞 [suffix][etymology][oe][verb][word_formation][derivation]

 昨日の記事「#4780. weaken に対して strengthen, shorten に対して lengthen」 ([2022-05-29-1]) で,動詞を形成する接尾辞 -en に触れた.この接尾辞 (suffix) については「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1]),「#3987. 古ノルド語の影響があり得る言語項目 (2)」 ([2020-03-27-1]) の記事などでも取り上げてきた.
 この接尾辞は古英語の -(e)nian に由来し,さらにゲルマン語にもさかのぼる古い動詞形成要素である.古英語では,名詞あるいは形容詞から動詞を派生させるのに特に用いられ,その動詞は弱変化動詞第2類に属する.古英語からの例を Lass (203) より解説とともに引用する.

(iii) -n-. An /-n-/ formative, reflecting an extended suffix */-in-o:n/, appears in a number of class II weak verbs, especially denominal and deadjectival: fæst-n-ian 'fasten' (fæst), for-set-n-ian 'beset' (for-settan 'hedge in, obstruct'), lāc-n-ian 'heal, cure' (lǣce 'physician'). The type is widespread in Germanic: cf. Go lēki-n-ōn, OHG lāhhi-n-ōn, OS lāk-n-ōn.


 同じく Hogg and Fulk (289) からも挙げておこう.

(ii) verbs in -(e)nian, including ġedafenian 'befit' (cf. ġedēfe 'fitting'), fæġ(e)-nian 'rejoice' (cf. fæġe 'popular'), fæstnian 'fasten' (cf. fæst 'firm'), hafenian 'hold' (cf. habban 'have'), lācnian 'heal' (cf. lǣċe 'doctor'), op(e)nian 'open' (cf. upp 'up'), war(e)nian 'warn' (cf. warian 'beware'), wilnian 'desire' (cf. willa 'desire'), wītnian 'punish' (cf. wīte 'punishment') . . . .


 現在まで存続している動詞は多くないが,例えば open, warn の -(e)n にその痕跡を認めることができる.現在の多くの -en 動詞は,古英語にさかのぼるわけではなく,中英語期以降の新しい語形成である.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2022-05-29 Sun

#4780. weaken に対して strengthen, shorten に対して lengthen [suffix][word_formation][phonology][morphology][chiguhagu_channel][antonymy][word_formation][derivation]

 khelf(慶應英語史フォーラム)の内輪の話しで恐縮ですが,英語史・英語学上の遊びのようなものとして「ちぐはぐチャンネル」 (chiguhagu_channel) という企画を,かれこれ2年ほど続けています.一定の割合で良い「ちぐはぐ」が出てくるもので,本格的な議論の出発点となることも多く,私も楽しんでいます.Slack というチャットツールのなかの「チャンネル」(コーナーのようなもの)として立てたので,こんな名前がついています.その意義は次の通り.
'

宇宙と人生の機微を17文字,31文字で表現するのが俳句,短歌だとすれば,言語(英語)の不条理を1~2行で表現するのが「ちぐはぐチャンネル」です.切れ味で勝負するもよし,「あはれ」「をかし」で勝負するもよし,理屈で勝負するもよし.学者も学生も素人も区別なく,同じ土俵で「詠む」ことに徹するチャンネルです.


 さて,先日大学院生より鋭い「ちぐはぐ」が投稿されました(この大学院生とは,目下準備中の『英語史新聞』第2号の編集委員長を務めてくれている李さんです.第2号も乞うご期待!).

weak(形) → weaken(動)
strength(名) → strengthen(動)


 たったの2行ですが,きわめて鋭角な指摘.オオっとうなりました.その後,この「ちぐはぐ」にインスピレーションを受け,私から次のような趣旨で「返歌」しました.

李さんのちぐはぐに完全に便乗させてもらいます.

short(形) → shorten(動)
length(名) → lengthen(動)

この問題を考えながら,どこかで読んだことがあるなと記憶の糸をたどっている最中なのですが,動詞を作る接尾辞 -en は,確か基体の末尾の音を選ぶ(阻害音だったかな・・・)ということだったと思うのですね.形容詞の strong や long は鳴音 /ŋ/ で終わるので,-en が接続しない(というよりは接続できない)ということではないかと.もっと調べてみます,というか思い出してみます.


 その後,この典拠を思い出し,たどり着くことができました.Jespersen でした.Jespersen の pp. 355--56 を中心として,その前後に動詞を作る接尾辞 -en に関する詳細な解説があります.原則として -en は阻害音 (obstruent) で終わる基体につき,鳴音 (sonorant) や母音で終わる基体にはつかないということです.このため *strongen や *longen とはなり得ず,このルールにかなう別の基体(今回のケースでは名詞形 strength, length)が選ばれ,そこに -en がついたということです.

   There are no examples of n-vbs formed from adjs in vowels (or diphthongs): free, blue, low, slow, hight, sly, shy, new; narrow, yellow, steady, holy; nor of such disyllables as able, noble; nor of adjs in m, n, ŋ, r: slim, thin, brown, clean, long, strong; far, poor, near. Note the contrast in Kipling L 135 to see the smoke roll outward, thin and thicken again | Hardy L 147 her hair greyed and whitened | Quincey 295 to soften and refine the feelings.
   . . . .
   Our rule accounts for the formation of length(en) and strength(en): there are no vbs long or longen 'make or become long, strong or strongen. On the analogy of these we have the rare depthen (17th c.) and breadthen (19th c.); no corresponding vbs without -en.
   Adjs in -l generally have no vbs in -en (thus none from small, full, still); the two named above [= dullen and palen] are exceptional and late.


 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

Referrer (Inside): [2022-05-30-1]

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2022-05-10 Tue

#4761. -er, -or, -ee などは「行為者接尾辞」というよりは「主語(者)接尾辞」? [semantic_role][terminology][suffix][noun][word_formation][agentive_suffix]

 本ブログや Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では,-er, -or, -ee などの「~する人(もの)」を意味する名詞を作る「行為者接尾辞」 (agentive_suffix) について,いろいろと取り上げてきた.

 ・ 「#214. -er か -or か迷ったときのヒント」 (heldio)
 ・ 「#215. 女性行為者接尾辞 -ster」 (heldio)
 ・ 「#1748. -er or -or」 ([2014-02-08-1])
 ・ 「#1880. 接尾辞 -ee の起源と発展 (1)」 ([2014-06-20-1])
 ・ 「#1881. 接尾辞 -ee の起源と発展 (2)」 ([2014-06-21-1])
 ・ 「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1])
 ・ 「#4056. deme, demere, demande」 ([2020-06-04-1])
 ・ 「#4222. 行為者接尾辞 -eer」 ([2020-11-17-1])
 ・ 「#4302. 行為者接尾辞 -ar」 ([2021-02-05-1])

 これまで,これらの接尾辞 (suffix) について深く考えずに「行為者接尾辞」 (agentive_suffix) と呼び,記事のためのタグも設定してきた.しかし,Bauer (285--86) の議論を読み,むしろ「主語(者)接尾辞」 (subject suffix) くらいの用語が妥当だと気づいた.前者は意味論的な名付けで,後者は統語論的な名付けである.

There is a class of nominalizations which is sometimes given the name 'agentive nominalization' in the literature . . . . This class is made up mainly of forms such as baker, examiner, killer, where the suffix -er is added to a verbal base. 'Agentive nominalization' is actually a misnomer because such forms do not always denote agents, in any normal sense of the term 'agent'. In words like curler, opener, synthesizer the derivative in -er denotes an instrument; in words like lover the derivative denotes an experiencer or patient. These various semantic effects, however, can be given a unitary explanation if it is said that the derivative is a lexeme which is a typical subject of the verb used in the base: a curler curls, an opener opens, a lover loves, and so on. A better name for this group of nominalizations, therefore, is subject nominalization, although this label will cover more than just -er suffixation.


 明快な議論である.だが,行為者接尾辞 (agentive suffix) という用語もそれなりに定着しており,すぐには捨てがたい.使い続けるにしても,Bauer の指摘を意識しつつ使うことにしよう.

 ・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.

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2022-05-09 Mon

#4760. 過去分詞と現在分詞の由来は大きく異なる [infinitive][germanic][morphology][inflection][verb][oe][germanic][indo-european][etymology][suffix]

 「#4349. なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」 ([2021-03-24-1]) という素朴な疑問と関連して,そもそも両者の由来が大きく異なる点について,Lass の解説を引用しよう.まず過去分詞について,とりわけ強変化動詞の由来に焦点を当てる (Lass 161) .

. . . its [= past participle] descent is not always very neat. To begin with, it is historically not really 'part of' the verb paradigm: it is originally an independent thematic adjective (IE o-stem, Gmc a-stem) formed off the verbal root. The basic development would be:
IE PGmc
*ROOT - o - nó->*ROOT - α -nα-


 強変化動詞に関する限り,過去分詞は動詞語根から派生したにはちがいないが,もともと動詞パラダイムに組み込まれていなかったということだ.形態的には,動詞からの独立性が強く,しかも動詞の強弱の違いにも依存した.
 一方,現在分詞には,歴史的に動詞の強弱の違いに依存しないという事情があった (Lass 163) .これについてはすでに「#4345. 古英語期までの現在分詞語尾の発達」 ([2021-03-20-1]) で引用したとおりである.
 「なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」という疑問に向き合うに当たって,そもそも過去分詞と現在分詞の由来が大きく異なっていた点が重要となるだろう.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2022-01-20 Thu

#4651. なぜ fire から派生した形容詞 fiery はこの綴字なのですか? [sobokunagimon][spelling][pronunciation][adjective][gvs][vowel][syllable][analogy][suffix]

 この素朴な疑問は私も長らくナゾだったのですが,最近ゼミの学生に指摘してもらう機会があり,改めて考え出した次第です.fire に派生接尾辞 -y を付すのであれば,そのまま *firy でよさそうなものですが,なぜ fiery となるのでしょうか.expireexpiry, miremiry, spirespiry, wirewiry などの例はあるのですが,firefiery のタイプは他に例がないようなので,ますます不思議です.
 暫定的な答え,あるいはヒントとしては,近代英語期に fire が1音節ではなく2音節で,fiery が2音節ではなく3音節で発音されたことが関係するのではないかと睨んでいます.
 教科書的にいえば,中英語の [fiːr], [ˈfiː ri] は大母音推移 (gvs) を経て各々 [fəɪr], [ˈfəɪ ri] へ変化しました.長母音が2重母音に変化しただけで,音変化の前後でそれぞれ音節数に変化はありませんでした.
 しかし,語幹末の r の影響で,その直前に渡り音として曖昧母音 [ə] が挿入され,それが独立した音節の核となるような発音が,初期近代英語期には変異形として存在したようなのです.要するに fi-er, fi-e-ry のようなプラス1音節の異形態があったということです.似たような音構成をもつ語について,その旨の報告が同時代からあります.Jespersen (§11.11)の記述を見てみましょう.

The glide before /r/ was even before that time [= 1588 or †1639] felt as a distinct vowel-sound [ə], especially after the new diphthongs that took the place of /iˑ, uˑ/. This is shown by the spelling in some cases after ow: shower < OE scūr bower < OE būr . cower < Scn kūra . lower by the side of lour < Scn lūra 'look gloomy'. tower < F tour; cf. on flower and flour 3.49. Thus also after i in brier, briar, frier, friar, ME brere, frere; fiery, fierie, fyeri (from the 16th c.) for earlier fyry, firy. The glide-vowel [ə] is also indicated by Hart's phonetic spellings 1569: [feiër/ fire (as /heiër/) higher) . /meier/ mire /oˑer/ oar . [piuër] pure . /diër/ dear . [hier/ here (hie r, which also occurs, many be a misprint).


 要するに,fire の形容詞形に関する限り,もともとは発音上2音節であり,綴字上も2音節にみえる由緒正しい firy もあったけれども,初期近代英語期辺りには発音上渡り音が挿入されて3音節となり,綴字上もその3音節発音を反映した fiery が併用されたということのようです.そして,もとの名詞でも同じことが起こっていたと.
 ところが,現代英語の観点から振り返ってみると,名詞では渡り音を反映していないかのような fire の綴字が標準として採用され,形容詞では渡り音を反映したかのような fiery の綴字が標準として採用されてしまったように見えます.どうやら,英語史では典型的な(というよりも,お得意の)「ちぐはぐ」が,ここでも起こってしまったということではないでしょうか.
 あるいは,意味上の「激しさ」つながりで連想される形容詞 fierce との綴字上の類推 (analogy) もあったかもしれないと疑っています.いかがでしょうか.
 上の引用でも触れられていますが,flowerflour が,同語源かつ同じ発音でありながらも,異なる綴字に分化した事情と,今回の話題は近いように思われます.「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]),「#2440. flower と flour (2)」 ([2016-01-01-1]),および 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」 (heldio) も参照ください.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. London: Allen and Unwin, 1909.

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2021-12-30 Thu

#4630. Shakespeare の比較級・最上級の例をもっと [shakespeare][emode][comparison][superlative][adjective][adverb][suffix][periphrasis][suppletion]

 昨日の記事「#4629. Shakespeare の2重比較級・最上級の例」 ([2021-12-29-1]) で,現代英語の規範文法では許容されない2重比較級・最上級が Shakespeare によって使われていた事例を見た.
 それとは異なるタイプだが,現代では普通 more, most を前置する迂言形が用いられるところに Shakespeare では -er, -est を付す屈折形が用いられていた事例や,その逆の事例も観察される.さらには,現代では比較級や最上級になり得ない「絶対的」な意味をもつ形容詞・副詞が,Shakespeare ではその限りではなかったという例もある.現代と Shakespeare には400年の時差があることを考えれば,このような意味・統語論的な変化があったとしても驚くべきことではない.
 Shakespeare と現代の語法で異なるものを Crystal and Crystal (88--90) より列挙しよう.

[ 現代英語では迂言法,Shakespeare では屈折法の例 ]

Modern comparative Shakespearian comparative Example
---------------------- ----------------------------- -----------
more honest honester Cor IV.v.50
more horrid horrider Cym IV.ii.331
more loath loather 2H6 III.ii.355
more often oftener MM IV.ii.48
more quickly quicklier AW I.i.122
more perfect perfecter Cor II.i.76
more wayward waywarder AY IV.i.150

Modern superlative Shakespearian superlative Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
most ancient ancient'st WT Iv.i10
most certain certain'st TNK V.iv.21
most civil civilest 2H6 IV.vii.56
most condemned contemned'st KL II.ii.141
most covert covert'st R3 III.v.33
most daring daring'st H8 II.iv.215
most deformed deformed'st Sonn 113.10
most easily easil'est Cym IV.ii.206
most exact exactest Tim II.ii.161
most extreme extremest KL V.iii.134
most faithful faithfull'st TN V.i.112
most foul-mouthed foul mouthed'st 2H4 II.iv.70
most honest honestest AW III.v.73
most loathsome loathsomest TC II.i.28
most lying lyingest 2H6 II.i.124
most maidenly maidenliest KL I.ii.131
most pained pained'st Per IV.vi.161
most perfect perfectest Mac I.v.2
most ragged ragged'st 2H4 I.i.151
most rascally rascalliest 1H4 I.ii.80
most sovereign sovereignest 1H4 I.iii.56
most unhopeful unhopefullest MA II.i.349
most welcome welcomest 1H6 II.ii.56
most wholesome wholesom'st MM IV.ii.70

[ 現代英語では屈折法,Shakespeare では迂言法の例 ]

Modern comparative Shakespearian comparative Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
greater more great 1H4 IV.i77
longer more long Cor V.ii.63
nearer more near AW I.iii.102

[ 現代英語では比較級・最上級を取らないが,Shakespeare では取っている例 ]

Modern word Shakespearian comparison Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
chief chiefest 1H6 I.i.177
due duer 2H4 III.ii.296
just justest AC II.i.2
less lesser R2 II.i.95
like liker KJ II.i.126
little littlest [cf. smallest] Ham III.ii.181
rather ratherest LL IV.ii.18
very veriest 1H4 II.ii.23
worse worser [cf. less bad] Ham III.iv.158

 現代と過去とで比較級・最上級の作り方が異なる例については「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1]) も参照.

 ・ Crystal, David and Ben Crystal. Shakespeare's Words: A Glossary & Language Companion. London: Penguin, 2002.

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