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review - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-01 05:55

2015-04-18 Sat

#2182. Baugh and Cable の英語史第6版 [review][hel_education][historiography][bibliography]

 新年度なので,授業で英語史の概説書などを紹介する機会があるが,英語史の定番・名著といえば Baugh and Cable である(ほかには「#1445. 英語史概説書の書誌」 ([2013-04-11-1]) も参照).「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) で2013年に出版された第6版の目次を紹介した.では,第6版は先行する第5版からどのように変化したのだろうか.両版を比較した和田によると,次のような異同が認められるという.

(1) 新たに第12章として,21世紀に向けた英語やその他の国際的な言語に関する章が付け加えられ,様々な言語的アプローチや言語における相対的な複雑性といった観点を含んだ議論がなされている。(2) 音韻変化について,新しいアプローチが加えられ,第3章の古英語,第7章の中英語の各章で紹介されている。(3) ルネサンス期の英語について,コーパス言語学的なアプローチが加えられている。(4) accent と register に関するセクションが加えられている。(5) アフリカ系黒人英語の観点から creolists と neo-Anglicists に関する最新の議論が加えられている。(6) 書誌情報の更新がなされている。


 さらに和田によると,中世英語の記述に的を絞ると,§38にて古英語期を中心としたその前後の時代に起こった音韻変化の解説が従来よりも詳しく書かれており,グリムの法則以後の主要な音韻変化の理解が縦につながるような工夫がなされているという.中英語を扱う第7章の冒頭セクション(§§111--12)でも,前の版にはみられなかった中英語の音韻変化が具体的に解説されており,音韻分野での最新の研究成果が反映されたものと考えられる.
 21世紀の英語,あるいは英語の未来を扱うような章節の追加は,近年出された英語史概説書に共通する特徴である.社会的な視点が豊富に取り入れられているのも最近の傾向だろう.だが,コーパス言語学の知見については,もっと取り入れられてもよいのではないかと思う.それくらいにコーパスを用いた研究の進展は著しい.Baugh and Cable の書誌情報は相変わらず豊富で,貴重である.
 英語史を志す大学生の皆さんには,早い段階での通読をお勧めします.
 ほかに英語史概説書の目次シリーズより,以下の記事も参照.

 ・ 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1])
 ・ 「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1])
 ・ 「#2050. Knowles の英語史概説書の目次」 ([2014-12-07-1])

 ・ 和田 忍 「新刊紹介 Albert C. BAUGH & Thomas CABLE, A History of the English Language, Sixth edition, Upper Saddle River, NJ, Pearson, 2013, 446+xviii p., $174.07」『西洋中世研究』第5号,2013年,159頁.

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2012-11-18 Sun

#1301. Gramley の英語史概説書のコンパニオンサイト [link][review][hel_education]

 今年出版された Gramley の英語史概説書コンパニオンサイトが充実している.特に Timeline とそこからアクセスできる資料の豊富さが魅力だ.
 概説書をめくってみると,ページの至る所に,ウェブ上に説明書きのある項目が青字で示されている.多くは用語説明だが,なかには便利な表や一覧を含んでいるものもあり,相当の情報量だ.PDFで資料をダウンロードする必要があり,ウェブ上でシームレスにとはいかないが,探ってみる価値はある.
 こちらのページからは,古い英語のグロッサリー付きテキスト(91頁分)が手に入り,講読用教材としておおいに利用できそうだ.
 また,様々な英語変種で発音された音声ファイルがこちらから手に入る.諸変種のサンプル音源については,以下の記事に張ったリンクからもアクセスできるので参考までに.

 ・ 「#517. ICE 提供の7種類の地域変種コーパス」 ([2010-09-26-1])
 ・ 「#303. 世界で話される英語の発音のサンプル音源」 ([2010-02-24-1])

 本書自体は未読だが,目次を見る限り,社会言語学的な観点を打ち出しており,外面史への傾斜が強いようだ.昨今の英語史の潮流を反映して,近代以降の諸変種の誕生にも力点が置かれている.438頁の分厚い本だが,いずれ目を通したい.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2011-09-25 Sun

#881. 古ノルド語要素を南下させた人々 [old_norse][contact][review][sociolinguistics]

 BBC のキャスターで,著述家としても知られる Melvyn Bragg の書いた一般向けの英語史の本がある.BBC Radio 4 で2000--2001年に放送された25回にわたる The Routes of English のシリーズ番組を担当した経験をもとに,今度は2003年に ITV の8回にわたるテレビシリーズ番組として The Adventure of English を制作した,その際の台本とも言える本である.アマチュア教養人の視点から自らの母語の歴史を熱く語った本で,英語を礼賛するロマンチストとしての評もあるが(そして私もその評に賛成するが),英語史の専門家ではないがゆえの縛りからの解放と想像力の発露が随所に見られ,確かな文章力と相俟って,読者の心をつかむ本となっている.議論したい箇所を取り出せばきりがないのだが,それでもイギリスの教養人とはかくあるものかと思わせる筆致ではある.
 Bragg の歴史についての知識と発想の豊かさは,例えば,次のようなくだりに表われている.878年,King Alfred がデーン人を打ち負かした際に締結されたウェドモア条約 (Treaty of Wedmore) に基づいて,イングランドはアングロサクソン領とデーン領に二分された([2011-07-24-1]の記事「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」を参照).その後の両地域の国境を越えた交流について,Bragg (19) はこう述べている

. . . he [King Alfred] drew a line diagonally across the country from the Thames to the old Roman road of Watling Street. The land to the north and east would be known as the Danelaw and would be under Danish rule. The land to the south and west would be under West Saxon, becoming the core of the new England. This was no cosmetic exercise. No one was allowed to cross the line, save for one purpose --- trade. This act of commercial realism would more radically change the structure of the English language than anything before or since. Trade refined the language and made it more flexible.


 古ノルド語との接触が及ぼした英語への影響,古ノルド語の英語史上の意義については,[2009-06-26-1]の記事「#59. 英語史における古ノルド語の意義を教わった!」で要約したが,言語接触を論じるには,その背景にある人々の接触についての歴史的な理解がなければならない.言語接触という抽象的な現象を扱っていると,この点は比較的忘れられやすい.言語接触とは無機質な言い方だが,実際には話者という生身の人間の接触が起こっているのである.
 当時,国境線をまたいでの人々の往来は政治的,軍事的な次元では制限されていたが,地に足の着いたより現実的な営みである交易という次元では活発だったはずだ.そして,交易を担った商人は商品だけでなく言葉をも北へ南へと伝えた.狭い関門を幾たびも通り抜けることによって南北の言語習慣を互いに波及させた交易の役割は,ちょうど Milroy (and Milroy) の Belfast における言語変化の研究で鮮やかに提示された社会的ネットワーク理論を想起させる.
 Bragg の英語史が読みやすいのは,過去の出来事がいかに現代の日常的な言語使用に結びついているのかという,歴史への自然な問いかけとその答えが,随所にさらっと記されているからだと思う.専門家であれば歴史の因果関係の正確さを気にするあまり簡単には口にできないことを,彼はアマチュア的に指摘する.歴史記述というよりは歴史小説として読める.英語史への関心を惹くにはよい一冊だ.

 ・ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.

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