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me - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-05-30 08:17

2009-11-06 Fri

#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り [spelling][me][chancery_standard][ame][me_dialect][standardisation]

 [2009-06-21-1], [2009-06-20-1]で中英語における through の異綴りが515通りあったことを話題に取り上げた.中英語は方言の時代であり,綴字にも方言が顕著に反映された結果,とんでもない数の異綴りがおこなわれた.しかし,中英語も末期になると,徐々に書き言葉標準が現れてきた.いまだ現代的な意味での「標準」ではないが,後の標準化への下敷きとなる「参照点」を提供してくれる変種である.それはロンドンの公文書に用いられた変種で,Chancery Standard として知られている.15世紀の Chancery Standard のコーパスを調査した Fisher et al. によると,through の異綴りはこの時点で14種類にまで絞られていた.複数の異綴りがある時点で現代的な意味での「標準」ではないことは知られるが,515通りもあった直近の時代に比べれば格段の進歩である.以下,コーパス内の頻度数とともに異綴りを挙げる.

through (1), thurgh (4), tþurgh (3), thorugh (2), thourgh (1), throu (1), thorogh (1), throgh (1), thorwe (1), thorwgh (1), thorw (1), thorow (1), þorow (1), þorowe (1)


 Chancery English 以外のコーパスを参照すれば,他の異綴りもいまだ豊富に存在していたと推測されるが,15世紀の英語の書き言葉が標準化への道を歩み始めたことは間違いない.
 ちなみに,昨今,米語で見られる thru の綴りは,中英語からの異綴りの歴史とは切り離して考えるべきである.実際に,中英語の515通りのなかに thru は存在しない.近代英語期に through としてようやく標準化された綴りが,近年,米語で thru なる異綴りを見ているということは,歴史を逆行しているようでおもしろい.

 ・Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.
 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 30.
 ・Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996. 68, 76.

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2009-09-05 Sat

#131. 英語の復権 [me][history][reestablishment_of_english][timeline][monarch]

 ノルマン人の征服 ( Norman Conquest ) 以降,中英語の前半は,イングランドはフランス語の支配に屈していた.庶民の言語である英語はいわば地下に潜っていたが,13世紀辺りから徐々に英語の復活劇が始まる.だが,フランス語支配の時代に蓄えられた多くの遺産をすべてひっくり返すには,相当な時間とエネルギーが必要だった.例えば,法的文書の英語義務化は18世紀になってようやく施行された.英語の復権は,実に長い道のりだったわけである.
 以下の年表は,英語の復権に関連する出来事に絞ってまとめた年表である.

1066年ノルマン人の征服
12--13世紀英語の文学作品などが現れ始める( Layamon's Brut, The Owl and the Nightingale, Ancrene Wisse, etc. )
1258年Simon de Monfort の反乱(政府機関へのフランス人の登用に対する抗議.英語の回復も強く要求される.その結果,Henry III は布行政改革の宣言書をラテン語,フランス語だけでなく英語でも出すこととなった.)
1272年Edward I がイングランド王として初めて英語を使用する
1337年Edward III,フランスの王位継承権を主張し百年戦争が始まる( 〜 1453年 )
1348--50年最初のペストの流行( 1361--62, 1369, 1375年にも流行.黒死病については[2009-08-24-1]を参照.)
1350年代Higden's Polychronicon で,上流貴族の子弟にとってもすでに英語が母語となっていたことが示唆される
1356年地方裁判所の記録が英語になる
1362年議会の開会が英語で宣言される
1363年法廷での使用言語が英語となる (ただし、記録はラテン語)
1380年代ロンドンのギルドが記録に英語を使い始める
1381年Peasants' Revolt
1384年ロンドンのシティーが英語で布告を出す
1399年英語を母語とする最初の王 Henry IV 即位
1414年Henry V がイングランド王として初めて英語で手紙を書く(政府内でも英語の使用が奨励される)
1422年ロンドンの醸造業者が手続きをラテン語から英語にする
1453年百年戦争の終結
1488年英語が法的文書の書き言葉として認められる
1539年Great Bible が王により初めて公認される(保守的な宗教の世界でも英語の使用が認められるようになる)
1628年英語で書かれた最初の法典が編纂される
1731年法的文書が英語でなければならなくなる

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2009-08-25 Tue

#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語 [loan_word][latin][me][wycliffe][bible]

 英語はその歴史を通じて絶え間なくラテン語から語彙を借用してきたが,英語史でよく取り上げられる時代は,古英語期[2009-05-30-1]と初期近代英語期[2009-08-19-1]である.前者はローマ世界の文明やキリスト教との接触と関連が深く,後者はルネッサンス期の古典復興の潮流に負うところが大きい.間にはさまれた中英語期はフランス語の影響が甚大だったために[2009-08-22-1],ラテン語からの借用は影が薄いものの,しっかりと継続していたことは覚えておいてよい.
 中英語期にも借用が継続された背景には,イングランドの知識人が,ラテン語を通じて絶え間なく古典文学,医術,天文学などを学んでいたという事情がある.また,宗教改革者 John Wycliffe (1330?-84) と弟子たちが聖書を英訳した際に,ラテン語の原典から1000以上の単語を借用したという事情もあった.
 この時代のラテン語借用の特徴としては,現代英語にまで残っている語彙が多いことが挙げられる.日常用語になっているものも少なくない.このことは,ラテン単語が湯水のごとく借用されては捨て去られていった初期近代英語期の傾向と対照をなす.
 中英語期のラテン借用語をいくつか挙げておく.(Wycliffe が初出のものは赤字.かっこ内は初出年.)

actor (c1384), adjacent (a1420), adoption (1340), ambitious (c1384), ceremony (c1384), client (?c1387), comet (?a1200), conflict (?a1425), contempt (a1393), conviction (a1437), custody (1453), depression (1391), desk (1363-64), dial (1338), diaphragm (a1398), digit (a1398), equal (a1390), equator (1391), equivalent (c1425), exclude (c1384), executor (c1290), explanation (c1384), formal (c1390), gloria (?a1200), hepatic (a1393), impediment (c1385), implement (1445), implication (?c1425), incarnate (1395), include (1402), index (a1398), inferior (?a1425), intercept (1391), interrupt (?a1400), item (a1398), juniper (c1384), lector (a1387), legitimate (a1460), library (c1380), limbo (c1378), lucrative (a1412), mediator (c1350), picture (a1420), polite (a1398), prosecute (?a1425), quiet (c1384), recipe (a1400), remit (c1375), reprehend (c1340), requiem (c1303), saliva (?a1425), scribe (?c1200), scripture (a1325), testify (a1378), testimony (c1384), tradition (c1384), ulcer (a1400)


 ・寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年. 69--70頁.
 ・橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年. 80頁.

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2009-07-15 Wed

#78. Verbix とコーパス [software][web_service][conjugation][inflection][oe][me][corpus][variation]

 昨日の記事[2009-07-14-1]で,Verbix の古英語版の機能を紹介し,評価して終わったが,実は述べたかったことは別のことである.
 動詞の不定詞形を入れると活用表が自動生成されるという発想は,標準語として形態論の規則が確立している現代語を念頭においた発想である.これは古英語や中英語などには,あまりなじまない発想である.確かに古英語にも Late West-Saxon という「標準語」が存在し,古英語の文法書では,通常この方言にもとづいた動詞の活用表が整理されている.だが,Late West-Saxon の「標準語」内ですら variation はありうるし,方言や時代が変われば活用の仕方も変わる.中英語にいたっては,古英語的な意味においてすら「標準語」が存在しないわけであり,Verbix の中英語版というのは果たしてどこの方言を標準とみなして活用表を生成しているのだろうか.
 Verbix 的な発想からすると,方言や variation といった現象は,厄介な問題だろう.このような問題に対処するには,Verbix 的な発想ではなくコーパス検索的な発想が必要である.タグ付きコーパスというデータベースに対して,例えば「bēon の直説法一人称単数現在形を提示せよ」とクエリーを発行すると,コーパス中の無数の例文から該当する形態を探しだし,すべて提示してくれる.その検索結果は,おそらく Verbix 型のきれいに整理された表ではなく,変異形 ( variant ) の羅列になるだろう.古英語の初学者にはまったく役に立たないリストだろうが,研究者には貴重な材料だ.
 英語史研究,ひいては言語研究における現在の潮流は,標準形を前提とする Verbix 的な発想ではなく,variation を許容するコーパス検索的な発想である.同じプログラミングをするなら,Verbix のようなプログラムよりも,コーパスを検索するプログラムを作るほうがタイムリーかもしれない.
 とはいえ,Verbix それ自体は,学習・教育・研究の観点から,なかなかおもしろいツールだと思う.だが,個人的な研究上の都合でいうと,古英語や中英語の名詞の屈折表の自動生成ツールがあればいいのにな,と思う.誰か作ってくれないだろうか・・・.自分で作るしかないのだろうな・・・.

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