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#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった[onomastics][personal_name][name_project][by-name][doublet][me][occupational_term]

2024-05-06

 中英語の職業名を帯びた姓 (by-name) について調べていると,当時の職業の細分化されている様に驚く.こんなに細かく職業が分かれているのかと圧倒されると同時に,種類の多さに驚嘆せざるを得ないのだ.
 例えば Fransson (30) の研究によると,調査したサンプルのうち「布」産業に関する職業名に対応する姓は,なんと165種類あるという.「染め物屋」関連や「織物」業界も多く,後者と関連して25の姓がみつかるという.「冶金」方面にも108の姓が見出され,「物作り」や「物売り」も予想されるとおり種類が豊富で,関連付けられた姓は107に及ぶという.
 おもしろいことに,次の近代英語の時代には,ここまでの職業名の細分化や多様性は確認されないという.諸々の事情で通時的な比較は必ずしも単純ではないものの,Fransson (31) は "we can say that --- with the exception of modern factories -- specialization of trades was considerably greater in the Middle Ages than in modern times." と結論づけている.
 では,なぜ中英語期には職業(名)がこのように細分化されているのだろうか.Fransson (31) は,次の4点ほどを指摘し,議論している.

 (1) 中世の技術の著しい発展(製品改良の欲求と,そのための競争ゆえ)
 (2) 職業の名前について英語名と対応するフランス語名が併存していることが多く,一見して名前の種類が豊富に見えることが多い
 (3) ある職業名を帯びた人物が,狭い意味でその職業だけに従事していたわけではない,という事情がある.例えば girdler は「ガードル職人」だが,実際にはガードルだけを作っているわけではなく,同時に他の製品も作っていることが多い.つまり,広く金属製品の職人でもあった.
 (4) 上記と関連して,本業とともにマイナーな副業を営んでいた場合,後者の名前を姓として採用するほうが,姓としては識別能力が高いだろう.Blodleter 「瀉血人」(=床屋)や Vershewere 「韻文刻み」(=石切り)などが,そのような例に当たる.

 中英語期に職業名が細分化されていて多様だという事実を受け止めよう.では,古英語期ではどうだったのだろうか.そして,なぜ近代英語期以降には,この細分化や多様性が見られなくなったのだろうか.興味深い問題である.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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