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name_project - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-20 20:18

2024-01-07 Sun

#5368. ethnonym (民族名) [demonym][onomastics][toponymy][personal_name][name_project][ethnonym][terminology][toc][ethnic_group][race][religion][geography]

 民族名,国名,言語名はお互いに関連が深い,これらの(固有)名詞は名前学 (onomastics) では demonymethnonym と呼ばれているが,目下少しずつ読み続けている名前学のハンドブックでは後者の呼称が用いられている.
 ハンドブックの第17章,Koopman による "Ethnonyms" の冒頭では,この用語の定義の難しさが吐露される.何をもって "ethnic group" (民族)とするかは文化人類学上の大問題であり,それが当然ながら ethnonym という用語にも飛び火するからだ.その難しさは認識しつつグイグイ読み進めていくと,どんどん解説と議論がおもしろくなっていく.節以下のレベルの見出しを挙げていけば次のようになる.

 17.1 Introduction
 17.2 Ethnonyms and Race
 17.3 Ethnonyms, Nationality, and Geographical Area
 17.4 Ethnonyms and Language
 17.5 Ethnonyms and Religion
 17.6 Ethnonyms, Clans, and Surnames
 17.7 Variations of Ethnonyms
   17.7.1 Morphological Variations
   17.7.2 Endonymic and Exonymic Forms of Ethnonyms
 17.8 Alternative Ethnonyms
 17.9 Derogatory Ethnonyms
 17.10 'Non-Ethnonyms' and 'Ethnonymic Gaps'
 17.11 Summary and Conclusion

 最後の "Summary and Conclusion" を引用し,この分野の魅力を垣間見ておこう.

In this chapter I have tried to show that while 'ethnonym' is a commonly used term among onomastic scholars, not all regard ethnonyms as proper names. This anomalous status is linked to uncertainties about defining the entity which is named with an ethnonym, with (for example) terms like 'race' and 'ethnic group' being at times synonymous, and at other times part of each other's set of defining elements. Together with 'race' and 'ethnicity', other defining elements have included language, nationality, religion, geographical area, and culture. The links between ethnonyms and some of these elements, such as religion, are both complex and debatable; while other links, such as between ethnonyms and language, and ethnonyms and nationality, produce intriguing onomastic dynamics. Ethnonyms display the same kind of variations and alternatives as can be found for personal names and place-names: morpho-syntactic variations, endonymic and exonymic forms, and alternative names for the same ethnic entity, generally regarded as falling into the general spectrum of nicknames. Examples have been given of the interface between ethnonyms, personal names, toponyms, and glossonyms.
   In conclusion, although ethnonyms have an anomalous status among onomastic scholars, they display the same kinds of linguistic, social, and cultural characteristics as proper names generally.


 「民族」周辺の用語と定義の難しさについては以下の記事も参照.

 ・ 「#1871. 言語と人種」 ([2014-06-11-1])
 ・ 「#3599. 言語と人種 (2)」 ([2019-03-05-1])
 ・ 「#3706. 民族と人種」 ([2019-06-20-1])
 ・ 「#3810. 社会的な構築物としての「人種」」 ([2019-10-02-1])

 また,ethnonym のおもしろさについては,関連記事「#5118. Japan-ese の語尾を深掘りする by khelf 新会長」 ([2023-05-02-1]) も参照されたい.

 ・ Koopman, Adrian. "Ethnonyms." Chapter 17 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 251--62.

Referrer (Inside): [2024-02-07-1]

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2023-12-30 Sat

#5360. 社会言語学×名前学=社会名前学 [sociolinguistics][onomastics][name_project][socio-onomastics][variation]

 社会言語学 (sociolinguistics) × 名前学 (onomastics) = 社会名前学 (socio-onomastics)

 ストレートで分かりやすい式である.「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として名前学のハンドブック (The Oxford Handbook of Names and Naming) を読み進めているが,このような分野が確立していたのかと驚きつつ,目が輝いた.正確にいえばハンドブックを購入して目次を眺めたときに,該当する第25章の "Names in Society" というタイトルには気づいていたのだが,ハマりそうなので敢えて読むのを我慢していたところがある.いよいよ読み始めてしまった.
 同章の冒頭に掲げられている章の要旨を読むだけで,恐ろしく興味を引かれる.以下に引用する.

Abstract
In socio-onomastics, names in society are examined. Socio-onomastics can be defined as a sociolinguistic study of names. Above all, it explores the use and variation of names. The socio-onomastic research method takes into account the social, cultural, and situational field in which names are used. In this chapter, the methodology and major advancements in socio-onomastics are presented and discussed. In addition, an overview of the epistemological background is presented, as well as a brief look at the state of the art. Name variation is the core concern in socio-onomastics. In this chapter, the synchronic and especially social variation are discussed in more detail. In addition to social ('sociolect') variation, situational ('style lect') variation is presented. Also folk onomastic research as a sub-category in socio-onomastics is presented. Folk onomastics studies people's beliefs and perceptions of names and name use.


 いかがだろうか.この要旨の直下にはキーワードがいくつか挙げられており,ほとんど我慢することができない.

Keywords: socio-onomastics, folk onomastics, toponymic competence, first name fashion, place-names, personal names, commercial names


 ・ Ainiala, Terhi. "Names in Society." Chapter 25 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 371--81.

Referrer (Inside): [2024-01-09-1]

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2023-12-17 Sun

#5347. 名前学をかじり出して数ヶ月ですが,これまでの感想を [name_project][onomastics][voicy][heldio][personal_name][toponymy][hydronymy]

 この夏に「名前プロジェクト」 (name_project) を立ち上げました.思いつきで始めた感がなきにしもあらずのプロジェクトですが,この数ヶ月間,主に英語史の観点から名前学 (onomastics) をかじり出しました.まだまだこの領域では素人同然ですが,学生や heldio リスナーの皆さんなどとの議論を通じて,少しずつおもしろさが分かってきました.以下,雑感を箇条書きします.

 ・ 名前学の関心の在処は言語地理文化ごとに異なる.例えば,イギリスでは地名の語源に関心が向くのに対して,アメリカでは名付けの動機への関心が強い.また,水系につける名前 (hydronymy) について,イギリスや大陸では河川名が考察対象になるのに対して,北欧諸国は湖沼名が主たる関心の対象となる等.
 ・ 固有名詞化 (onymisation) の理論は一般言語学的な射程をもつ.普通名詞がいつ,どのように,なぜ固有名詞化するのか等.
 ・ 名前学における書き言葉(文字)の役割はいかに? 日本語の名前学においてはきわめて重要な点だが,西洋の名前学では文字という観点からの考察は比較的薄い.
 ・ 英語名前史における姓 (last name, family name, surname, by-name) の発展途上期には,姓は必ずしも固定的なものではなく,もっとフレキシブルだったという事実は興味深い.
 ・ 名前学は限りなく学際的な分野である (cf. 「#5187. 固有名詞学のハンドブック」 ([2023-07-10-1]),「#5334. 英語名前学を志す学徒に Cecily Clark より悲報!?」 ([2023-12-04-1])),「#5339. 英語人名学の守備範囲とトレンド」 ([2023-12-09-1]),「#5343. onomastics (名前学)の対象と射程 --- Bussmann の用語辞典より」 ([2023-12-13-1])).
 ・ 名前のあり方は,社会の集権化や公的管理の進展とともに大きく変容してきた(cf. 人間のコミュニティネットワークの広がり,コミュニケーション技術の発展,個人主義の高まり,アイデンティティ意識の強化,制度化される名前)
 ・ 歴史的に名前を考察する際には「1人=1つの名前」という固定的な紐付けを前提としてはいけない.また,かつては公的名前と私的名前の境はずっと曖昧だった.
 ・ 英語史が言語接触の歴史だとすれば,英語語彙の歴史こそがその縮図であると言われる.しかし,実は英語名前史も,すぐれてその縮図ではないか.英語の名前も,外来の名前と接触して,激しく新陳代謝を遂げてきたからだ.とりわけ英語人名の名付けは伝統の維持とその破壊の繰り返しだった.
 ・ 中英語までは人名(姓)について世襲・相続の発想が希薄だったが,これは家系ではなく個人を特定するのが本来の目的であった西洋中世の紋章 (heraldry) にも通じる性質である.

 思いつきを書き連ねてみました.これからも名前学をかじり続けていきます.

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2023-12-16 Sat

#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 [onomastics][personal_name][name_project][norman_conquest][prestige][sociolinguistics][by-name]

 標記の話題については,いくつかの hellog 記事で取り上げてきた.

 ・ 「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど」 ([2023-08-23-1])
 ・ 「#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期」 ([2023-12-08-1])

 ノルマン征服後,英語人名に姓に相当する要素 (last name, family name, surname, by-name) が導入された背景として,一般的には2点が指摘されている.1つは first name の種類が限定された結果,それだけでは個人を特定できなくなったこと.もう1つは,課税や法的書類記載に関わる政治的・官僚的な要因である.
 もう1つ付け加えるならば,ノルマン征服以前も大陸では(そして部分的にはイングランドでも)すでに姓を用いる習慣があるにはあったという事実を指摘しておくことは重要である.上記を含めこの辺りの事情について,Clark (553) が簡潔に説明してくれている.

Patently, such baptismal-name patterns were scarcely adequate for social identification, far less for administrative and legal purposes. By-naming --- that is, supplementation of baptismal names by phrases specifying their bearers in genealogical, residential, occupational or characteristic terms --- became, in England as elsewhere, a general necessity. Such specifying phrases had been in occasional use among English people since well before the Conquest . . . , and all signs are that shrinkage of the name-stock would in any case have soon compelled their general adoption. The Norman Conquest may well, however, have acted as a catalyst to the process, in so far as it brought in a new aristocracy among whom, as is clear not only from Domesday Book but also from the early records surviving from the settlers' homelands in Normandy, France and Flanders, use of by-names, and of territorial ones especially, was already widespread, with even more tentative movements towards family naming . . . . The prestige thus accruing to use of a by-name would hardly have hindered wider adoption of them among the general native population.


 引用の最後にある通り,貴族が採用したことにより姓に威信 (prestige) が付与され,それが庶民の姓の採用を促すことになった,という社会言語学的要因も,もう1つの背景として押さえておきたいところである.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

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2023-12-14 Thu

#5344. 名付ける際はここがポイント【名前プロジェクト企画 #2】(生放送) [name_project][onomastics][voicy][heldio][helwa][naming][notice]

 先日12月11日(月)の18:00より「名前プロジェクト」 (name_project) のメンバー4名で「名付け」 (naming) についておしゃべりする Voicy heldio の生放送をお届けしました.ライヴで参加いただいたリスナーの皆様には,盛り上げに貢献くださり,ありがとうございました.
 生放送の様子は,昨日13日(水)朝の通常配信回としてもお届けしましたので,本ブログの読者の皆様も,ぜひお時間のあるときにお聴きください.「#926. 名付ける際はここがポイント【名前プロジェクト企画 #2】(12月11日(月)生放送のアーカイヴ)」です(60分ほどの回です).



 今回は「名付け」という人間らしい行為に注目し,事前にリスナーの方々より名付けに関して寄せられてきたコメントを読み上げつつ,メンバー4名であれこれとカジュアルにおしゃべりしました.人間は何に名前をつけるのか,名前をつける動機は何か,どの点を重視して名付けるのか,など自由に語り合いました.とりわけ「京都大学11月祭統一テーマ」の話題や,ファイル名をいかに付けるべきかなどの問いで盛り上がりました.
 今回の heldio 生放送は,名前プロジェクトの第2弾としてお届けしました.同じメンバーによる heldio 生放送の第1弾は「#5248. ニックネームを考察するための切り口」 ([2023-09-09-1]) でまとめた通り,9月に「#826. ニックネームを語ろう【名前プロジェクト企画 #1】(生放送)」としてお届けしました.こちらも合わせてお聴きいただければ幸いです.
 そもそもこの名前プロジェクトとは何なのか.これについては hellog 記事「#5217. 「名前プロジェクト」が立ち上がりました」 ([2023-08-09-1]) や heldio 配信回「#799. 「名前プロジェクト」立ち上げ記念収録 with 小河舜さん,矢冨弘さん,五所万実さん」をご参照ください.
 メンバーは以下の4名で,今後もプロジェクト関連イベントを開いていきたいと思っています.よろしくお願いします.

 - 五所万実さん(目白大学)
 - 矢冨弘さん(熊本学園大学)
 - 小河舜さん(フェリス女学院大学ほか)
 - 堀田隆一(慶應義塾大学)

 ちなみに上記生放送の後,2次会と称してプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) でおしゃべりの続編を収録しました.「【英語史の輪 #66】博士論文とファイル名」というお題で,五所&小河&堀田の3人で語り続けています.こちらにご関心のある方は,ぜひサブスクリプションしていただいた上でお聴きいただければ.

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2023-12-13 Wed

#5343. onomastics (名前学)の対象と射程 --- Bussmann の用語辞典より [name_project][terminology][onomastics][personal_name][toponymy][hydronymy]

 「名前プロジェクト」 (name_project) を立ち上げた関係で,onomastics (名前学,固有名詞学)をつまみ食いしながら学んでいる.今回は Bussmann の言語学用語辞典より onomastics の項を引いてみた.以下に引用し,この分野の概要をつかんでおきたい.

onomastics
Scientific investigation of the origin (development, age, etymology), the meaning, and the geographic distribution of names (⇒ proper noun). Onomastic subdisciplines include anthroponymy (the study of names of bodies of water), and toponymy (the study of geographic place-names), among others. Because place-names and personal names are among the oldest and most transparent linguistic forms, they are an important source of hypotheses about the history of language, dialect geography and language families. More recently, sociolinguistics (name-giving and use in society), psycholinguistics (psycho-onomastics and the physiognomy of names), pragmalinguistics and text linguistics have taken an active interest in onomastics. Onomastics also offers new insights into historical processes (pre- and early history, folklore, among others) as well as geography and natural history.


 上記の引用のなかの "the physiognomy of names" 「名前の人相学」などの存在には驚く.何を研究する分野なのだろうか? 名前にまつわる音形とイメージの符合や,漢字名の画数の問題なども含まれるのだろうかなどと妄想が止まらない.
 名前学の射程が広いことは「#5187. 固有名詞学のハンドブック」 ([2023-07-10-1]) や「#5339. 英語人名学の守備範囲とトレンド」 ([2023-12-09-1]) で触れてきた通りだが,ポテンシャルはまだまだ拡がっていきそうだ.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2023-12-17-1]

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2023-12-12 Tue

#5342. 切り取り (clipping) による語形成の類型論 [word_formation][shortening][abbreviation][clipping][terminology][polysemy][homonymy][morphology][typology][apostrophe][hypocorism][name_project][onomastics][personal_name][australian_english][new_zealand_english][emode][ame_bre]

 語形成としての切り取り (clipping) については,多くの記事で取り上げてきた.とりわけ形態論の立場から「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]) で詳しく紹介した.
 先日12月8日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) の配信回にて「#921. 2023年の英単語はコレ --- rizz」と題して,clipping による造語とおぼしき最新の事例を取り上げた.



 この配信回では,2023年の Oxford Word of the Year が rizz に決定したというニュースを受け,これが charisma の clipping による短縮形であることを前提として charisma の語源を紹介した.
 rizzcharisma の clipping による語形成であることを受け入れるとして,もとの単語の語頭でも語末でもなく真ん中部分が切り出された短縮語である点は特筆に値する.このような語形成は,それほど多くないと見込まれるからだ.「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]) の "Mesonym" で取り上げたように,例がないわけではないが,やはり珍しいには違いない.以下の解説によると "fore-and-aft clipping" と呼んでもよい.
 heldio のリスナーからも関連するコメント・質問が寄せられたので,この問題と関連して McArthur の英語学用語辞典より "clipping" を引用しておきたい (223--24) .

CLIPPING [1930s in this sense]. Also clipped form, clipped word, shortening. An abbreviation formed by the loss of word elements, usually syllabic: pro from professional, tec from detective. The process is attested from the 16c (coz from cousin 1559, gent from gentleman 1564); in the early 18c, Swift objected to the reduction of Latin mobile vulgus (the fickle throng) to mob. Clippings can be either selective, relating to one sense of a word only (condo is short for condominium when it refers to accommodation, not to joint sovereignty), or polysemic (rev stands for either revenue or revision, and revs for the revolutions of wheels). There are three kinds of clipping:

(1) Back-clippings, in which an element or elements are taken from the end of a word: ad(vertisement), chimp(anzee), deli(catessen), hippo(potamus), lab(oratory), piano(forte), reg(ulation)s. Back-clipping is common with diminutives formed from personal names Cath(erine) Will(iam). Clippings of names often undergo adaptations: Catherine to the pet forms Cathie, Kate, Katie, William to Willie, Bill, Billy. Sometimes, a clipped name can develop a new sense: willie a euphemism for penis, billy a club or a male goat. Occasionally, the process can be humorously reversed: for example, offering in a British restaurant to pay the william.
(2) Fore-clippings, in which an element or elements are taken from the beginning of a word: ham(burger), omni(bus), violon(cello), heli(copter), alli(gator), tele(phone), earth(quake). They also occur with personal names, sometimes with adaptations: Becky for Rebecca, Drew for Andrew, Ginny for Virginia. At the turn of the century, a fore-clipped word was usually given an opening apostrophe, to mark the loss: 'phone, 'cello, 'gator. This practice is now rare.
(3) Fore-and-aft clippings, in which elements are taken from the beginning and end of a word: in(flu)enza, de(tec)tive. This is commonest with longer personal names: Lex from Alexander, Liz from Elizabeth. Such names often demonstrate the versatility of hypocoristic clippings: Alex, Alec, Lex, Sandy, Zander; Eliza, Liz, Liza, Lizzie, Bess, Betsy, Beth, Betty.

Clippings are not necessarily uniform throughout a language: mathematics becomes maths in BrE and math in AmE. Reverend as a title is usually shortened to Rev or Rev., but is Revd in the house style of Oxford University Press. Back-clippings with -ie and -o are common in AusE and NZE: arvo afternoon, journo journalist. Sometimes clippings become distinct words far removed from the applications of the original full forms: fan in fan club is from fanatic; BrE navvy, a general labourer, is from a 19c use of navigator, the digger of a 'navigation' or canal. . . .


 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2023-12-09 Sat

#5339. 英語人名学の守備範囲とトレンド [name_project][onomastics]

 「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として,英語の名前と名付けに関する記事を執筆する機会が増えてきた(cf. 「#5217. 「名前プロジェクト」が立ち上がりました」 ([2023-08-09-1])).今回は英語人名学 (English onomastics) の守備範囲とトレンドを確認すべく,Coates の解説より "The discipline of English onomastics" (317) と題する1節を引用したい.

Current onomastic work in the United Kingdom seeks to explain the linguistic origin of personal and place-names or to assess the historical significance of their distribution, and in the latter case as applied to personal names it is a tool of genealogy, and genealogical methods help refine historical-linguistic analysis. There have been small amounts of recent work on the social psychology of personal naming and nicknaming. There is sporadic work on literary onomastics (dealing with proper names for characters and locations in fictional works), but more in North America. In English-speaking countries beyond the British Isles, and indeed also in Ireland, Wales and Scotland, there is considerable interest in the heritage of names derived from languages that have been partly or totally displaced (for instance in North America and Australia), and in the cultural contexts in which naming has taken place, information about which tends to be of greater interest than in England, where the contexts of naming that generate most interest are medieval. In the words of William Bright: 'American onomatologists ... have given greater emphasis to "the motivation of the namer" --- to the "human activity" of naming.


 イギリスと北米とで英語人名学のトレンドが異なっている点が,各々の地域の歴史や関心の在処を反映しており興味深い.そもそも名前学 (onomastics) の守備範囲が著しく広いことは,「#5187. 固有名詞学のハンドブック」 ([2023-07-10-1]) でも示したとおりである.英語名前学の射程も,上記の引用が示唆する以上に広いことは銘記しておいてよい.
 このたび引用した Coates の論文には,過去にも hellog で何度か言及している.以下の記事を参照.

 ・ 「#2364. ノルマン征服後の英語人名のフランス語かぶれ」 ([2015-10-17-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#2382. 英語地名学の難しさ」 ([2015-11-04-1])
 ・ 「#2397. 固有名詞の性質と人名・地名」 ([2015-11-19-1])
 ・ 「#4538. 固有名の地位」 ([2021-09-29-1])
 ・ 「#4539. アングロサクソン人名の構成要素」 ([2021-09-30-1])
 ・ 「#4542. 中英語の人名のトレンド」 ([2021-10-03-1])

 ・ Coates, Richard. "Names." Chapter 6 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 312--51.

Referrer (Inside): [2023-12-17-1] [2023-12-13-1]

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2023-12-08 Fri

#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期 [name_project][me][oe][onomastics][personal_name][by-name]

 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1]) で,Clark に拠って,古英語から中英語にかけて人名のあり方が大きく変わったことを確認した(cf. 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])).(1) かつての "idionym" が "baptismal name" へと変容していったこと,そして (2) オプションだった "by-name" が徐々に現代的な "family name" へと発展していったことの2点が重要である.
 中英語人名の新機軸ともいえるこの2点が中英語期のどのぐらいのタイミングで定着・確立したのかを明確に述べることはできない.あくまで徐々に発展した特徴だからだ.しかし,Clark (552) は,1点目は1250年頃,2点目は1450年頃とみている.

This twofold shift in English personal naming was a specifically Middle English process. Among the mass of the population, the name system of ca 1100 was still virtually the classic Late Old English one, modified only by somewhat freer use of ad hoc by-names . . .; but ca 1450 a structure prefiguring the present-day one had been established, with hereditary family names in widespread use, though not yet universally adopted. As for the ousting of pre-Conquest baptismal names by what were virtually the present-day ones, that had been accomplished by ca 1250. This series of changes involved several convergent processes.


 大雑把にいえば,1点目の新機軸は初期中英語期 (1100--1300) の間に固まっていき,2点目の新機軸は主に後期中英語期 (1300--1500) に発展していったと言えそうだ.アングロサクソン的な名付けから現代的な名付けへの変化の中心となる時代は,ほぼきれいに中英語期 (1100--1500) といっておいてよいことになる.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-16-1]

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2023-12-04 Mon

#5334. 英語名前学を志す学徒に Cecily Clark より悲報!? [onomastics][oe][name_project][toponymy][personal_name][evidence][philology][methodology]

 今年の夏に立ち上げた「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として,名前学 (onomastic) の文献を読む機会が多くなっている.ここ数日の hellog 記事でも,Clark を参照して古英語の名前学に関する話題をお届けしてきた.
 この Clark の論文の最後の段落が強烈である.英語名前学を研究しようと思ったら,これだけの知識と覚悟がいる,という本当のこと(=厳しいこと)を畳みかけてくるのだ.せっかくここまで読んできて英語名前学への関心を焚きつけられた読者が,この最後のくだりを目にして「やーめた」とならないかと,こちらがヒヤヒヤするほどである.

Because lack of context makes name-etymology especially speculative, any opinion proffered in a survey or a name-dictionary must be considered critically, as basis for further investigation rather than as definitive statement. Anyone wishing to pursue historical name-studies of either sort seriously must, in addition to becoming conversant with the philology of the relevant medieval languages, be able to read Medieval Latin as well as modern French and German. Assessing and interpreting the administrative records that form the main course-material is the essential first step in any onomastic study, and requires understanding of palaeographical and diplomatic techniques; competence in numismatics may on occasion also be needed. Onomastic analysis itself involves not only political, social and cultural history but also, when place-names are concerned, a grasp of cartography, geology, archaeology and agrarian development. Any student suitably trained and equipped will find great scope for making original contributions to this field of study.


 博覧強記のスーパーマンでないと英語名前学の研究は務まらない!?

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

Referrer (Inside): [2023-12-17-1]

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2023-12-03 Sun

#5333. 古英語地名要素の混乱 --- -ham, -hamm, -holm; -bearu, -beorg, -burg, -byrig, -borough [old_norse][name_project][etymology][onomastics][toponymy][inflection][oe][polysemy][homonymy][synonym]

 古英語の地名は2要素からなるもの (dithematic) が多い.特に第2要素には「村」「町」などの一般名 (generic) が現われることが多い.そもそも固有名は音形が崩れやすく,とりわけ第2要素は語尾に対応するので弱化しやすい.すると,-ham 「村」なのか -hem 「縁」なのか -holm 「河川敷」なのかが形態的に区別しにくくなってくる.-bearu 「木立ち」,-beorg 「塚」,-burg/-byrig/-borough 「市」についても同じことがいえる(スラッシュで区切られた3つの異形態については「#5308. 地名では前置詞付き与格形が残ることがある」 ([2023-11-08-1]) を参照).
 古英語地名学をめぐる,この厄介な音形・綴字のマージという問題は,Clark でも紹介されている.上記の2つの例についての解説を引用する.

(2) OE -hām 'village', OE -hamm 'site hemmed in by water or wilderness' and also the latter's Scandinavian synonym -holm all fall together as [m̩]. Not even pre-Conquest spellings always allow of distinguishing -hām from -hamm: if dat. forms in -hamme/-homme survive, they tell in favour of the latter, but often etymology has to depend upon topography . . . . Distinction between -hamm and -holm is complicated by their synonymity, and their likely interchange in the medieval forms of many Danelaw names. . . . PDE spellings are again often unhistorical, as in Kingsholm < OE cyninges hamm 'the king's water-meadow' . . . . Confusion is further confounded by occasional unhistorical spellings of [m̩] < OE or Scand. dat. pl. -um, as in Airyholme and Howsham . . . . (Clark 486--87)


(4) Reflexes of OE -bearu 'grove' and -beorg 'mound' are partly merged not only with each other but also with those of -burg/-byrig, so that PDE forms in -barrow can represent -bearu or -beorg, ones in -bury can represent -bearu or byrig and ones in -borough can represent -beorg or burg . . . . (Clark 487)


 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-12-02 Sat

#5332. 豊かな土地は古英語名で貧しい土地は古ノルド語名? [old_norse][name_project][etymology][onomastics][toponymy][oe]

 古英語期の後半,8世紀半ば以降,イングランド北東部はヴァイキングに侵攻され奪われた.この地域は,後にデーン人の法律が適用される土地という意味で Danelaw と呼ばれることになる.この地域には,古ノルド語要素を含む地名が数多く残っている.これについては昨日の記事「#5331. 古ノルド語由来の地名に潜む2種類の単数属格形」 ([2023-11-30-1]) でも取り上げ,ほかにも「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) や「#1938. 連結形 -by による地名形成は古ノルド語のものか?」 ([2014-08-17-1]) などで話題にしてきた.
 イングランド北東部は,Danelaw となる以前に,古来ケルト人が住んできた土地であり,後にアングロサクソン人も渡来して住み着いた土地である.したがって,すでに多くの土地がケルト語や英語で名付けられていた.ヴァイキングはあくまでその後にやってきたのであり,母語である古ノルド語の要素を利用して新しく地名を与えるという機会はそれほど多くなかったはずだ.それにもかかわらず古ノルド語要素を含む地名が少なからず残っているということは,(1) 既存の地名を古ノルド語要素で置き換えたか,あるいは (2) まだ名付けられていなかった土地に古ノルド語の名前を与えたか,ということになる.
 この観点から,Clark (484--85) が興味深い指摘を与えている.Danelaw の地名に関する限り,豊かな土地には古英語名が与えられ,貧しい土地には古ノルド語名が与えられている傾向があるというのだ.

The distribution in England of Scandinavian, Scandinavianised and hybrid place-names coincides almost exactly with the Danelaw as specified in Alfred's treaty with Guthrum . . . . This implies such names to stem mainly from the late ninth-century settlements, rather than from the wider Cnutian hegemony. Throughout the area, however, Scandinavian names co-exist, in varying proportions, with purely English ones. So, in attempts to clarify the picture and its bearing on settlement history, sites to which the various types of name are applied have been graded according to their likely attractiveness to subsistence formers. Those adjudged most promising bear either purely English names or else the sort of hybrid ones in which a Scand. specific, often a personal name, qualifies an OE generic; a finding consonant with the view that often the latter sort of name represents partial Scandinavianisation of a pre-Viking OE one. Sites bearing purely Scand. names, especially ones based on the generic -, mostly look less promising; and the villages concerned have often indeed prospered less than ones with names in the two previous categories. The main river-valleys are dominated by OE names, whereas Scand. forms appear mainly along the tributaries. These name-patterns are taken to imply two modes of settlement: one by which pre-existing English villages acquired Viking overlords, whose names some at least of those that had changed hands thenceforth bore; and another by which Viking settlers adopted lands previously uncultivated. As yet, it remains unclear what chronological relationship is to be postulated between the two processes.


 一流の土地はフル英語名,二流の土地は英語・古ノルド語のハイブリッド名,三流の土地はフル古ノルド語名.
 本当にそれほどきれいに分布しているのかどうかは私には分からないが,おもしろい.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-12-01 Fri

#5331. 古ノルド語由来の地名に潜む2種類の単数属格形 [old_norse][name_project][etymology][onomastics][toponymy][inflection][genitive][oe]

 イングランド地名に古ノルド語に由来する要素が含まれている件については「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) や「#1938. 連結形 -by による地名形成は古ノルド語のものか?」 ([2014-08-17-1]) で取り上げてきた.
 地名を構成する要素には人名などの属格形が現われるケースが多い.「○○氏の町」といった名付けが自然だからだ.古ノルド語では名詞の単数属格形には特定の語尾が現われる.o 語幹の男性・中性名詞では -ss が,ā 語幹の女性名詞では -aR が現われるのが原則だ.これらの語尾(が少々変形したもの)が,実際に Danelaw の古英語地名に確認される.
 Clark (483) がその例をいくつか挙げているので確認したい.

In the districts most densely settled by Vikings --- mainly, that is, in Lincolnshire and Yorkshire --- survival in some specifics of Scand. gen. sing. inflexions bears witness to prolonged currency of Scandinavian speech in the milieux concerned . . . . Both with personal names and with topographical terms, genitives in -ar occur chiefly in the North-West: e.g. Lancs. Amounderness < Agmundar nes 'A.'s headland' and Litherland < hliðar (hlið 'hill-side') + -land . . . . Non-syllabic Scandinavian-style genitives in [s] are more widespread: e.g. Yorks. Haxby < DB Haxebi 'Hákr's estate' and Lincs. Brauncewell < ME Branzwell 'Brandr's spring'.


 接触した言語の屈折語尾が化石的に残存しているのは固有名詞だからこそだろう.一般語ではこのような事例はほとんどみられないと思われる.このような側面が名前学 (onomastics) の魅力である.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-11-29 Wed

#5329. 古英語地名に残る数少ないラテン語の遺産 [name_project][etymology][onomastics][toponymy][oe][roman_britain][celtic]

 ローマン・ブリテン時代の後に続く古英語期の地名には,思いのほかラテン語の痕跡が少ない.実際,純粋なラテン語由来の地名はほとんどないといってよい.ただし,部分的な要素として生き残っているものはある(cf. 「#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布」 ([2018-09-27-1])).
 Clark (481) は Lincoln, Catterick, camp, eccles, funta, port, wīc などを挙げているが,確かに全体としてあまり目立たない.

Unlike those once-Romanised areas that were destined to become Romance-speaking, England shows hardly any place-names of purely Latin origin. Few seem to have been current even in Romano-British times; fewer still survived . . . . PDE Lincoln is a contraction of Lindum Clonia, where the first element represents British *lindo 'pool' . . . . Whether Catterick < RB Cataractonium derives ultimately from Latin cataracta in supposed reference to rapids on the River Swale)(sic) or from a British compound meaning 'battle-ramparts' is uncertain . . . .
   The main legacy of Latin to Old English toponymy consisted not of names but of name-elements, in particular: camp < campus 'open ground, esp. that near a Roman settlement'; eccles < ecclesia 'Christian church'; funta < either fontana or fons/acc. fontem 'spring, esp. one with Roman stonework'; port < portus 'harbour'; and the already-mentioned wīc < vicus 'settlement, esp. one associated with a Roman military base', together with its hybrid compound wīchām . . . . Names involving these loan-elements occur mainly in districts settled by the English ante AD 600, and often near a Roman road and/or a former Roman settlement . . . .


 イングランドの地名に関する限り,ラテン語は(後の中英語期以降に関与してくる)フランス語と同様に,微々たる貢献しかなしてこなかったといってよい.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-11-27 Mon

#5327. York でみる地名と民間語源 [name_project][etymology][folk_etymology][onomastics][toponymy][oe][roman_britain][celtic][diphthong][old_norse][sound_change]

 「#5203. 地名と民間語源」 ([2023-07-26-1]) でみたように,地名には民間語源 (folk_etymology) が関わりやすい.おそらくこれは,地名を含む固有名には,指示対象こそあれ「意味はない」からだろう(ただし,この論点についてはこちらの記事群を参照).地名の語源的研究にとっては頭の痛い問題となり得る.
 Clark (28--29) に,York という地名に関する民間語源説が紹介されている.

. . . 'folk-etymology' --- that is, replacement of alien elements by similar-sounding and more or less apt familiar ones --- can be a trap. The RB [= Romano-British] name for the city now called York was Ebŏrācum/Ebŭrācum, probably, but not certainly, meaning 'yew-grove' . . . . To an early English ear, the spoken Celtic equivalent apparently suggested two terms: OE eofor 'boar' --- apt enough either as symbolic patron for a settlement or as nickname for its founder or overlord --- and the loan-element -wīc [= "harbour"] . . ., hence OE Eoforwīc . . . . (The later shift from Eoforwīc > York involved further cross-cultural influence . . . .) Had no record survived of the RB form, OE Eoforwīc could have been taken as the settlers' own coinage; doubt therefore sometimes hangs over OE place-names for which no corresponding RB forms are known. The widespread, seemingly transparent form Churchill, for instance, applies to some sites never settled and thus unlikely ever to have boasted a church; because some show a tumulus, others an unusual 'tumulus-like' outline, Church- might here, it is suggested, have replaced British *crǖg 'mound' . . . .


 もし York の地名についてローマン・ブリテン時代の文献上の証拠がなかったとしたら,それが民間語源である可能性を見抜くこともできなかっただろう.とすると,地名語源研究は文献資料の有無という偶然に揺さぶられるほかない,ということになる.
 ちなみに古英語 Eoforwīc から後の York への語形変化については,Clark (483) に追加的な解説があるので,それも引用しておこう.

OE Eoforwīc was reshaped, with a Scand. rising diphthong replacing the OE falling one, assibilation of the final consonant inhibited, and medial [v] elided before the rounded vowel: thus, Iorvik > York . . . .


 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-11-21 Tue

#5321. 初期中英語の名前スペリングとアングロ・ノルマン写字生の神話 [name_project][spelling][orthography][language_myth][scribe][anglo-norman][eme]

 初期中英語のスペリング事情をめぐって「#1238. アングロ・ノルマン写字生の神話」 ([2012-09-16-1]) という学説上の問題がある.昨今はあまり取り上げられなくなったが,文献で言及されることはある.初期中英語のスペリングが後期古英語の規範から著しく逸脱している事実を指して,写字生は英語を話せないアングロ・ノルマン人に違いないと解釈する学説である.
 しかし,過去にも現在にも,英語母語話者であっても英語を書く際にスペリングミスを犯すことは日常茶飯だし,その書き手が「外国人」であるとは,そう簡単に結論づけられるものではないだろう.初期中英語期の名前事情について論じている Clark (548--49) も,強い批判を展開している.

Orthography is, as always in historical linguistics, a basic problem, and one that must be faced not only squarely but in terms of the particular type of document concerned and its likely sociocultural background. Thus, to claim, in the context of fourteenth-century tax-rolls, that 'OE þ, ð are sometimes written t, d owing to the inability of the French scribes to pronounce these sounds' . . . involves at least two unproven assumptions: (a) that throughout the Middle English period scriptoria were staffed chiefly by non-native speakers; and (b) that the substitutions which such non-native speakers were likely to make for awkward English sounds can confidently be reconstructed (present-day substitutes for /θ/ and /ð/, for what they are worth, vary partly according to the speakers' backgrounds, often involving, not /t/ and /d/, but other sorts of spirant, e.g., /s/ and /z/, or /f/ and /v/) Of course, if --- as all the evidence suggests --- (a) can confidently be dismissed, then (b) becomes irrelevant. The orthographical question that nevertheless remains is best approached in documentary terms; and almost all medieval administrative documents, tax-rolls included, were, in intention, Latin documents . . . . A Latin-based orthography did not provide for distinction between /θ/ and /t/ or between /ð/ and /d/, and so spellings of the sorts mentioned may reasonably be taken as being, like the associated use of Latin inflections, matters of graphic decorum rather than in any sense connected with pronunciation.


 Clark の論点は明確である.名前のスペリングに関する限り,そもそも英語ではなくラテン語で(あるいは作法としてラテン語風に)綴られるのが前提だったのだから,英語話者とアングロ・ノルマン語話者のの発音のギャップなどという議論は飛んでしまうのである.
 もちろん名前以外の一般語のスペリングについてどのような状況だったのかは,別問題ではある.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

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2023-11-17 Fri

#5317. 「英語の名前」 (English names) とは何か? [name_project][onomastics][personal_name][toponymy]

 名前(固有名詞)に意味があるのか,という問いは名前学 (onomastics) の論争の代表格である.関連する話題は hellog でも「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]),「#5289. 名前に意味はあるのか?」 ([2023-10-20-1]),「#5290. 名前に意味はあるのか論争の4つの論点」 ([2023-10-21-1]) などで取り上げてきた.
 これと関連の深いもう1つの問題は,名前は特定の言語に属するか,という問いである.London は英語語彙の一部なのか,「東京」は日本語彙の一部なのか.John や「太郎」はどうか.特定の名前はどの言語にも属していないとも,すべての言語に属しているとも言えるかもしれない(cf. 「#2979. Chibanian はラテン語?」 ([2017-06-23-1]) の議論も参照).
 とすれば,English names (英語の名前)という表現も,素直には受け取れないように思われる.この English names について論じている Coates (331--32) の解説(弁解?)は以下の通り.

   Talking of English names, as I have just done, raises a whole further problem to which there is no easy answer. What is an English name? A name like that of Athens, Georgia, is an English name in the sense that it was bestowed by English-speakers, and preserved as institutionalised in an English-speaking community. In that sense it is hard to call it a Greek name, whilst (ignoring changes during the transmission of the name via Latin and French to modern English) there is a more obvious sense in which that of Athens, Greece, is Greek. (This is reflected by differential translatability; Athens, Greece, is translatable into French (etc.) whilst Athens, Georgia, is not.) For the purposes of this chapter, I shall define an English name as one coined using English-language material; allowing for the fact that namers make use of borrowed onomastic elements (e.g. in place-names -ville, -burg, in given-names -ine, -ette - see below). But I shall want to mention English-transmitted names such as the Athens just mentioned, at least in passing, because their usage tells us something about the English language during the period in question: namely what the naming strategies of English-speakers were.
   I doubt whether the notion 'English name' can ever be made fully coherent, and still embrace all the names bestowed by English-speakers and used in an English-language context; but the above will serve as a guide to my intentions in the pages which follow.


 English names の論考は,もちろん意味のあるものである.English names の研究は,当面は英語社会における名付け行為と,その結果としての名前語彙の研究ととらえておいてよいだろう.

 ・ Coates, Richard. "Names." Chapter 6 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 312--51.

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2023-11-08 Wed

#5308. 地名では前置詞付き与格形が残ることがある [name_project][onomastics][toponymy][dative][preposition][metanalysis][determiner][article]

 昨日の記事「#5307. Birmingham の3つの発音」 ([2023-11-07-1]) の引用した一節にも言及があったように,地名は古くは位格(古英語以降は与格)の形を取ることが多かった.同様に前置詞を伴って生起することも,やはり多かった.これは考えてみれば自然のことである.すると,与格語尾や前置詞が,そのまま地名本体の一部に取り込まれてしまう例も出てくる.さらに,この形成過程が半ば忘れ去られると,異分析 (metanalysis) が生じることにもなる.そのような産物が,現代の地名に残っている.
 Clark (476--77) によると,例えば Attercliffe は古英語 *æt þǣm clife (DB Atecliue) "beside the escarpment" に由来し,Byfleet は古英語 bī flēote "by a stream" に,Bygrave は後期古英語 bī grafan "beside the diggings" にそれぞれ由来する.
 現代の定冠詞 the に相当する決定詞の一部が地名に取り込まれてしまう例もある.例えば Thurleigh は古英語 (æt) þǣre lēage "at the lye" に遡る.Noke は中英語 atten oke に,それ自体は古英語 *(æt) þǣm ācum "at the oak-trees" に遡るというから,語頭の n は決定詞の屈折語尾の(変形した)一部を伝えているといえる.RyeRea も同様で,古英語 (æt) þǣre īege/ēa "at the water" からの異分析による発達を表わす.
 もう1つ興味深いのは Scarborough, Edinburgh, Canterbury などに見られる borough 「市」の異形態だ.古英語の主格・対格 -burg に由来するものは -borough/-burgh となるが,与格 -byrig に由来するものは -bury となる.
 複数形についても同様の揺れが見られ,Hastings の -s は複数主格・対格形に遡るが,Barking, Reading などは複数与格形に遡るという(古英語の複数与格形は -um だが,これが段階的に弱化して消失した).
 以上,前置詞,決定詞,格形との複雑な絡み合いが,地名の形態を複雑で豊かなものにしてきたことが分かるだろう.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

Referrer (Inside): [2023-12-03-1]

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2023-11-07 Tue

#5307. Birmingham の3つの発音 [pronunciation][name_project][onomastics][toponymy][spelling_pronunciation][palatalisation][phonetics][dative][h]

 イギリスの都市 Birmingham の発音は /ˈbəːmɪŋəm/ である.イギリス地名によくあることだが,長い歴史のなかで発音が短化・弱化してきた結果である.この地名の場合 -ham の頭子音が脱落してしまっている.
 一方,同名のアメリカの都市では,この h が保存されており /ˈbɚːmɪŋhæm/ と発音される./h/ が保存されているというよりは,むしろ綴字発音 (spelling_pronunciation) として復活されたというほうが適切かもしれない.
 そして,イギリスの都市については,もう1つ伝統的で大衆的な発音があるという.それは /ˈbrʌməʤm̩/ というものである.この話題とその周辺の話題について,Clark (476) が次のように述べている.

Further complications arise from a sporadic palatalisation and assibilation of -ing(-) > [ɪnʤ] that affects suffix and infix alike: e.g. Lockinge, Wantage < OE Waneting (also originally a stream-name --- PN Berks.: 17--18, 481--2), and also the traditional, now vulgar, /brʌməʤm̩/ for Birmingham (PN Warks.: 34--6). Explanations have ranged from variant development of gen. pl. -inga- . . . to fossilised survival of a PrOE locative in *ingi, assumed to have dominated development of the names in question in the way that dative forms not uncommonly do . . . .


 この説が正しいとすると,くだんの -ing の起源となる屈折語尾母音の小さな違いによって,公式な発音 /ˈbəːmɪŋəm/ と大衆的な発音 /ˈbrʌməʤm̩/ が分かれてしまったことになる.そして,この異形態の揺れが,場合によっては1500年ほどの歴史を有するかもしれない,ということになる.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

Referrer (Inside): [2023-11-08-1]

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2023-11-04 Sat

#5304. 地名 Grimston は古ノルド語と古英語の混成語ではない!? [language_myth][name_project][onomastics][toponymy][old_norse]

 イングランド北部・東部には古ノルド語の要素を含む地名が多い.特に興味深いのは古ノルド語要素と英語要素が混在した "hybrid" な地名である.これについては「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) などで紹介してきた.
 その代表例の1つがイングランドに多く見られる Grimston だ.古ノルド語人名に由来する Grim に,属格の s が続き,さらに古英語由来の -ton (town) が付属する形だ.私も典型的な hybrid とみなしてきたが,名前学の知見によると,これはむしろ典型的な誤解なのだという.Clark (468--69) を引用する.

An especially unhappy case of misinterpretation has been that of the widespread place-name form Grimston, long and perhaps irrevocably established as the type of a hybrid in which an OE generic, here -tūn 'estate', is coupled with a Scandinavian specific . . . . Certainly a Scandinavian personal name Grímr existed, and certainly it became current in England . . . . But observation that places so named more often than not occupy unpromising sites suggests that in this particular compound Grim- might better be taken, not as this Scandinavian name, but as the OE Grīm employed as a by-name for Woden and so in Christian parlance for the Devil . . . .


 今年の夏から「名前プロジェクト」 (name_project) の一環として名前学 (onomastic) の深みを覗き込んでいるところだが,いろいろな落とし穴が潜んでいそうだ.「定説」に対抗する類似した話題としては「#1938. 連結形 -by による地名形成は古ノルド語のものか?」 ([2014-08-17-1]) も参照.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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