hellog〜英語史ブログ

#2364. ノルマン征服後の英語人名のフランス語かぶれ[french][norman_conquest][onomastics][personal_name][christianity]

2015-10-17

 英語の人名について,本ブログでは「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1]),「#813. 英語の人名の歴史」 ([2011-07-19-1]),「#1673. 人名の多様性と人名学」 ([2013-11-25-1]) ほか,personal_name の各記事で扱ってきた.
 英語人名の通時的な移り変わりは著しい.特にノルマン征服語のフランス語かぶれの徹底ぶりには,驚かされる.アングロサクソン時代には,ほとんどの人名が英語本来語のゲルマン系要素を組み合わせたものだったが,それが征服後一気にフランス風となった.概論的にいえば,「#813. 英語の人名の歴史」 ([2011-07-19-1]) で触れたように,「1066年のノルマン・コンクェスト後の数十年の間に大部分の古英語名が Richard, William, Henry などの Norman French 名に置き換えられた.非常に多数が現代英語に継承されている.現代に残る古英語名は Edward, Alfred, Audrey, Edith など少数である」ということになる.フランス語かぶれした名前としては,起源としては大陸ゲルマン語だがフランス語化した形で採用された Robert, Roger や,フランス語化した聖人の名前 John, Matthew, Mary, Peter, Luke, Stephen, Paul, Mark なども含めてよいだろう.いずれにせよ,イングランド人は,ノルマン征服後,あっという間にフランス語風の名を名乗るようになったのである.征服とは恐ろしい.
 固有名詞学 (onomastics) の専門家である Coates (320--21) が,ノルマン征服後の英語人名事情について要領よくまとめている文章があるので引用しよう.

[N]ames of English origin declined fairly suddenly after 1066, but at different rates in different social groups . . ., persisting till about 1250 only among the peasantry. . . . Very few names of OE origin were preserved, the only really durable ones being of three popular saints, Edmund, Edward and Cuthbert.
   The typical 'English' names of the Middle Ages and later fall mainly into two categories: French-mediated ones of CWGmc [= Common West Germanic] origin and French-mediated ones of customary saints. Germanic ones included William, Robert, Richard, Gilbert, Alice, Eleanor, Rose/Rohais, Maud, together with the Breton Alan; Christian names were those of biblical personages or post-biblical popular saints, including Adam, Matthew, Bartholomew, James, Thomas, Andrew, Stephen, Nicholas, Peter/Piers, John and its feminine Joan, Anne, Margaret/Margery, from the late twelfth century onwards, Mary, and from the fourteenth Christopher. Whilst the fortune of individual names ebbed and flowed in time and in place, this is the name stock for both sexes which until recently served as the canon of 'English' names.


 農民よりも貴族のほうがフランス語人名かぶれが早かったということは理解しやすいが,実は同じことが姓 (surname) の獲得についてもいえる.ノルマン征服以降,姓を名乗る習慣が発達した背景には,「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1]) でみたように,為政者による税の徴収など人民管理の目的が濃厚だった.したがって,まず税金支払い義務のある貴族から姓を帯びることとなった.いずれの場合においても,名前とステータス(社会的威信)の密接な関係が窺われる.
 Coates の固有名詞論について,「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]),「#1185. 固有名詞化 (2)」 ([2012-07-25-1]) も参照されたい.

 ・ Coates, Richard. "Names." Chapter 6 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 312--51.

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