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2016-01-26 Tue

#2465. 書写材料としての紙の歴史と特性 [writing][medium][history][timeline][map]

 書写材料の話題について,「#2456. 書写材料と書写道具 (1)」 ([2016-01-17-1]) と「#2457. 書写材料と書写道具 (2)」 ([2016-01-18-1]) で取り上げた.今回は,書写材料としての紙に注目したい.
 紙が人類の文化に甚大な影響を及ぼした偉大な発明であることは,衆目の一致するところである.紙の発明は,後漢書の記述に基づいた従来の見解によれば,元興元年(105年)に,蔡倫が麻のボロなどを用いて紙を作り,時の皇帝和帝に捧げたのが最初と言われてきたが,近年の発見と研究によれば,前漢の紀元前170年頃にはすでに紙が作られていた.それでも,蔡倫は,製紙技術の大成者としていまだ歴史に名前を残すには値するだろう.  *
 その後,紙は1世紀中に日本にもたらされたと考えられるが,日本における最初の製紙は,高句麗の僧曇徴により技術がもたらされた610年(推古18年)のことだと言われる.一方,製紙技術がシルクロードを経由してヨーロッパ世界へ伝わったのは,蔡倫より千年以上後の12世紀以降のことである.具体的には,1144年に,ムーア人の支配していたスペインのハチバで初めて紙が作られ,そこからフランス,オランダ,ドイツへと北上したほか,1274年には別途地中海経由でイタリアのファブリアノへ製紙法が伝えられた.  *
 小宮 (113) は「製紙産業における四大発明」として,(1) 105年,蔡倫による紙の発明(正確には上記の通り製紙技術の大成),(2) 1798年,フランス人ルイ・ロベールによる抄紙機の発明,(3) 1844年,ドイツ人ケラーによる木材パルプの発明,(4) 1807年,ドイツ人イリッヒによる内添えサイジングの発明,を挙げている.
 その使い勝手の良さから,書写材料としてだけではなく,包装材料(段ボール,包装紙など)や吸収材料(トイレットペーパーなど)としての用途もあり,その種類も古代から現在まで増え続けてきた.
 次に,紙のもっている性質に移ろう.小宮 (3) は以下の8点を挙げている.

 ・ 薄く,平ら,軽くて,適当な強さをもち,折ったり,曲げたり,接着したり,切るなどの加工がしやすい.
 ・ 水や液体を吸収するので,書いたり,印刷がしやすい.
 ・ 無害であり,燃やすことが出来る.
 ・ 土に埋めれば容易に分解してしまう.
 ・ 熱にたえる.
 ・ 他の材料に比べ値段が安い.
 ・ 原料が再生産可能な植物繊維である.
 ・ 使用した紙は再生紙として再利用しやすい.


 小宮 (3) は「人間の発明した素材でこれほど多くの特性をもったものは紙の他にない」と続け,紙のすぐれていることを指摘している.古来,書写材料は,粘土板,パピルス,石,骨,帛(絹布),木簡・竹簡,バイラーン(貝多羅葉;インド,タイ,ミャンマーのパルミラ椰子の葉),羊皮紙,タパとアマテ(無花果や楮の樹皮),通草紙(台湾の通脱木の随)など様々なものが用いられてきたが,それらと比べて,紙が様々なすぐれた性質を程よくもっていることは間違いない.紙は,この2千年間,書写材料の王者であると言ってよい.  *

 ・ 小宮 英俊 『紙の文化誌』 丸善,1992年.

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2016-01-04 Mon

#2443. イングランドにおけるケルト語地名の分布 [celtic][toponymy][onomastics][geography][anglo-saxon][loan_word][history][map]

 英語国の地名の話題については,toponymy の各記事で取り上げてきた.今回は樋口による「イングランドにおけるケルト語系地名について」 (pp. 191--209) に基づいて,イングランドのケルト語地名の分布について紹介する.
 5世紀前半より,西ゲルマンのアングル人,サクソン人,ジュート人が相次いでブリテン島を襲い,先住のケルト系諸民族を西や北へ追いやり,後にイングランドと呼ばれる領域を占拠した経緯は,よく知られている (「#33. ジュート人の名誉のために」 ([2009-05-31-1]),「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」 ([2010-05-21-1]),「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1]),「#2353. なぜアングロサクソン人はイングランドをかくも素早く征服し得たのか」 ([2015-10-06-1])) .また,征服者の英語が被征服者のケルト語からほとんど目立った語彙借用を行わなかったことも,よく知られている.ところが,「#1216. 古英語期のケルト借用語」 ([2012-08-25-1]) や「#1736. イギリス州名の由来」 ([2014-01-27-1]) でみたように,地名については例外というべきであり,ケルト語要素をとどめるイングランド地名は少なくない.とりわけイングランドの河川については,多くケルト語系の名前が与えられていることが,伝統的に指摘されてきた (cf. 「#1188. イングランドの河川名 Thames, Humber, Stour」 ([2012-07-28-1])) .
 西ゲルマンの諸民族の征服・定住は,数世紀の時間をかけて,イングランドの東から西へ進行したと考えられるが,これはケルト語系地名の分布ともよく合致する.以下の地図(樋口,p. 199)は,ケルト語系の河川名の分布によりイングランド及びウェールズを4つの領域に区分したものである.東半分を占める Area I から,西半分と北部を含む Area II,そしてさらに西に連接する Area III から,最も周辺的なウェールズやコーンウォールからなる Area IV まで,漸次,ケルト語系の河川名及び地名の密度が濃くなる.

Map of Celtic Placenames

 征服・定住の歴史とケルト語系地名の濃淡を関連づけると,次のようになろう.Area I は,5--6世紀にアングル人やサクソン人がブリテン島に渡来し,本拠地とした領域であり,予想されるようにここには確実にケルト語系といえる地名は極めて少ない.隣接する Area II へは,サクソン人が西方へ6世紀後半に,アングル人が北方へ7世紀に進出した.この領域では,Area I に比べれば川,丘,森林などの名前にケルト語系の地名が多く見られるが,英語系地名とは比較にならないくらい少数である.次に,7--8世紀にかけて,アングロサクソン人は,さらに西側,すなわち Devonshire, Somerset, Dorset; Worcestershire, Shropshire; Lancashire, Westmoreland, Cumberland などの占める Area III へと展開した.この領域では,川,丘,森林のほか,村落,農場,地理的条件を特徴づける語にケルト語系要素がずっと多く観察される.アングロサクソン人の Area III への進出は,Area I に比べれば2世紀ほども遅れたが,この時間の差がケルト語系地名要素の濃淡の差によく現われている.最後に,Cornwall, Wales, Monmouthshire, Herefordshire 南西部からなる Area IV は,ケルト系先住民が最後まで踏みとどまった領域であり,当然ながら,ケルト語系地名が圧倒的に多い.
 このように軍事・政治の歴史が地名要素にきれいに反映している事例は少なくない.もう1つの事例として,「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) を参照されたい.

 ・ 樋口 時弘 『言語学者列伝 −近代言語学史を飾った天才・異才たちの実像−』 朝日出版社,2010年.

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2015-11-10 Tue

#2388. 世界の主要な英語変種の音韻的分類 [world_englishes][model_of_englishes][ame_bre][ame][bre][irish_english][australian_english][new_zealand_english][scots_english][map]

 世界の主要な英語変種を分類する試みは,主として社会言語学的な視点から様々になされてきた.本ブログでも,model_of_englishes の記事で取り上げてきた通りである.言語学的な観点からの分類としては,Trudgill and Hannah による音韻に基づくものが知られている.概論的にいえば,大きく 'English' type と 'American' type に2分する方法であり,直感的で素人にも理解しやすい.この常識的に見える分類が,結論としては,専門的な見地からも支持されるということである.この 'American' type と 'English' type の2分法は,より積極的に歴史的な視点を取れば,大雑把にいってイングランド内の 'northern' type と 'southern' type の2分法に相当することに注意したい.
 Trudgill and Hannah (10) は,音韻論的に注目すべき鍵として以下の10点を挙げて,英語諸変種を図式化した.

Key
1. /ɑː/ rather than /æ/ in path etc.
2. absence of non-prevocalic /r/
3. close vowels for /æ/ and /ɛ/, monophthongization of /ai/ and /ɑu/
4. front [aː] for /ɑː/ in part etc.
5. absence of contrast of /ɒ/ and /ɔː/ as in cot and caught
6. /æ/ rather than /ɑː/ in can't etc.
7. absence of contrast of /ɒ/ and /ɑː/ as in bother and father
8. consistent voicing of intervocalic /t/
9. unrounded [ɑ] in pot
10. syllabic /r/ in bird
11. absence of contrast of /ʊ/ and /uː/ as in pull and pool

10  9   8   7   6   5        6   7   8   9   11         10         11  5   1   2

|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   |          |          |   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   | Northern |          |   |   |   |
|   |   |   |   |   | Canada |   |   |   |   | Ireland  | Scotland |   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   `----------+----------'   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |              |              |   |   |
|   |   |   |   |   `--------+---+---+---+--------------+--------------'   |   |
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|   |   |   |   |            |   |   |   `----------,   |                  |   |
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|   |   |   |   |   USA      |   |   |   ,----------+---+------------------'   |
|   |   |   |   |            |   |   |   | Republic |   |                      |
|   |   |   |   `------------'   |   |   |   of     |   |   ,------------------'
|   |   |   |                    |   |   | Ireland  |   |   |
|   |   |   `--------------------'   |   |          |   |   |  England  ,--------------------------------- 3
|   |   |                            |   |          |   |   |           | 
|   |   |                            |   |          |   |   |  Wales    |         ,----------------------- 4
|   |   |                            |   |          |   |   |           | South   | Australia   New
|   |   `----------------------------'   |          |   |   |           | Africa  |             Zealand
|   |                                    |          |   |   |           |         `----------------------- 4
|   |                                    |          |   |   |           |
|   `------------------------------------+----------'   |   |           `--------------------------------- 3
|                                        |              |   |
`----------------------------------------+--------------'   `--------------------------------------------- 2
                                         |
                                         `---------------------------------------------------------------- 1

 この図の説明として,Trudgill and Hannah (10) を引こう.

We have attempted to portray the relationships between the pronunciations of the major non-Caribbean varieties in [this] Figure 1.1. This diagram is somewhat arbitrary and slightly misleading (there are, for example, accents of USEng which are close to RP than to mid-western US English), but it does show the two main types of pronunciation: an 'English' type (EngEng, WEng, SAfEng, AusEng, NZEng) and an 'American' type (USEng, CanEng), with IrEng falling somewhere between the two and ScotEng being somewhat by itself.


 最後に触れられているように,Irish English が2大区分にまたがること,古い歴史をもつ Scots English が独自路線を行っていることは興味深い.

 ・ Trudgill, Peter and Jean Hannah. International English: A Guide to the Varieties of Standard English. 5th ed. London: Hodder Education, 2008.

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2015-10-25 Sun

#2372. ポルトガル語諸国共同体 [portuguese][history][linguistic_imperialism][francophonie][map][lingua_franca]

 連日,「#2370. ポルトガル語からの語彙借用」 ([2015-10-23-1]),「#2371. ポルトガル史年表」 ([2015-10-24-1]) の記事で,ポルトガル語の話題を取り上げてきた.ポルトガル語は,ポルトガルの国語として約1千万人によって話されているが,何よりも2億人近くの人口を擁するブラジルで国語として話されていることの意味が大きい.ほかにも,歴史的な経緯により,ポルトガル語が用いられている国・地域はある.Angola, Brazil, Cape Verde Islands, East Timor, Equatorial Guinea, Guinea-Bissau, Mozambique, Portugal, São Tomé e Príncipe で公用語として用いられており,その他 EthnologuePortuguese によれば一部 Andorra, China-Macao, France, India でも話されている.
 ポルトガル語話者はポルトガルの旧名 Lusitania にちなんで,Lusophone と呼ばれ,また話者共同体は Lusosphere あるいは Lusofoniaルゾフォニア)と言及される.ポルトガル旧植民地はすべて独立し,帝国はすでに解消しているが,1996年にはポルトガル語諸国共同体 (Community of Portuguese Language Countries, or Comunidade dos Países de Língua Portuguesa (CPLP)) が結成されている(本部はリスボン).これは,イギリス主導の「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) や,フランス主導の「#2192. La Francophonie (1)」 ([2015-04-28-1]),「#2193. La Francophonie (2)」 ([2015-04-29-1]) のポルトガル版とみることができ,ポルトガルの新植民地主義の現われと評価する向きもある.
 メンバー国は Angola, Brazil, Cape Verde, East Timor, Equatorial Guinea, Guinea-Bissau, Mozambique, Portugal, São Tomé e Príncipe の9カ国であり,他のいくつかのオブザーバー国も設置されている.実は日本も日系ブラジル人というコネクションをもつことから,2014年7月に CPLP のオブザーバー国となることが承認されている.これについては,2014年7月23日付の外務省による報道を参照されたい.

Map of CPLP

Referrer (Inside): [2015-11-05-1]

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2015-10-24 Sat

#2371. ポルトガル史年表 [history][timeline][portuguese][map]

 昨日の記事「#2370. ポルトガル語からの語彙借用」 ([2015-10-23-1]) で,ポルトガル語からの世界的な借用語をみた.この借用語彙の世界性は,15--16世紀にポルトガルが海洋国として世界へ展開した歴史に負っている.その背景を理解すべく,地図も添えつつ,ポルトガルの歴史年表を『ナショナルジオグラフィック 世界の国 ポルトガル』の巻末 (p. 60--61) より再現しよう.

Map of Portugal

紀元前4200ころ初期の組織的な社会によって,ポルトガルのポカ・デ・ガチエールやゴルジネスに巨石墓が建てられる.
紀元前500鉄器時代のケルト人が北部ポルトガルを支配する.
紀元前201ローマ帝国がポルトガルの南部海岸を支配下におく.
紀元前140ローマがケルト人の抵抗を制圧して支配を拡大する
紀元前27ローマ皇帝カエサル・アウグストゥスが,ポルトガル中部をふくむ属州ルシタニアをつくる.
567ゲルマン系の西ゴート人がイベリア半島に支配を拡大する.
711イスラム教徒の軍隊がイベリア半島に侵入する.その後7年のうちにイベリア半島のほぼ全体が,ムーア人のウマイア朝の支配下におかれる.
1096ブルゴーニュ家のエンリケがポルトゥカーレ伯となる.
1143アフォンソ・エンリケスが王となりイベリア半島の他の部分から分離独立したポルトガル王国が建国される.
1249アフォンソ3世がイベリア半島から最後のムーア人を追い出し,ポルトガル国境を確立する.
1416エンリケ航海王子がザグレスに海軍基地と航海学校をつくり,大航海時代がはじまる.
1488ポルトガル人航海士のバルトロメウ・ディアスが喜望峰をまわる航海に成功.のちにアジアへの航路を確立する.
1494スペインとポルトガルがトルデシリャス条約をむすび,新たに南北アメリカ大陸で発見した土地を両国で分割する.
1497ヴァスコ・ダ・ガマがインドへの2年間の航海に乗り出す.この後,ポルトガル人のゴアへの入植,インドとの貿易が始まる.
1500ペドロ・アルヴァレス・カブラルがブラジルに到達し,ポルトガルとアメリカ大陸との貿易路を開く.
1572ルイス・ヴァス・デ・カモンイスがポルトガル人の永遠の象徴となる『ルジアダス』を著す.
1580スペイン王フェリペ2世がポルトガル王フィリペ1世として即位し,ポルトガルはスペインに併合される.
1609ポルトガル王フィリペ2世がすべてのモリスコ(キリスト教徒に改宗したムーア人)の追放を命じる.この決定により,ポルトガル経済は大きな痛手をうける.
1650ころアズレージョ(装飾スタイル)の主要生産国となる.
1755大地震がリスボンを襲い,6万人が死亡,多数の建物が倒壊する.リスボンはポンバル侯爵の指揮のもと再建される.
1807ナポレオン・ボナパルトがポルトガルに侵攻.国王ジョアン6世はブラジルに逃れ,1821年までブラジルにいる.
1822ジョアン6世の息子のペドロがブラジルの独立を宣言し,ブラジル皇帝となる.
1846民衆蜂起により,国内が自由主語と保守主義のふたつの勢力に分かれる.
1890イギリスの最後通牒をうけて,アフリカにおける植民地拡大計画を放棄する.
1908カルロス国王と長男がリスボンで暗殺される.次男がマヌエル2世として即位.
1910革命勢力がマヌエル2世を退位させ,第1共和制を樹立.
1911新憲法を採択.女性参政権が認められる.
1916リスボンでドイツ船が拿捕され,ドイツが宣戦布告.ポルトガルは連合国側として第1次世界大戦終結まで2年間戦う.
1926軍がクーデターで政権を奪い,48年間にわたる軍事政権がはじまる.
1928アントニオ・デ・オリヴェイラ・サラザールが財務大臣に就任する.
1932サラザールが首相となり,やがて独裁者となる.
1933「エスタド・ノヴォ(新国家)」憲法を採択し,言論の自由を制限し,ストライキおよび反政府運動を禁止する.
1936サラザールがスペイン内戦でフランシスコ・フランコ将軍率いる右派勢力を支持.
1939第2次世界大戦中の中立を宣言する.しかし戦争のあいだ,イギリスがアゾレス諸島の空軍基地を使用することを認める.
1947独裁制に反対するリスボンの港湾労働者と軍将校らによる氾濫を,政府が鎮圧.
1949北大西洋条約機構 (NATO) の創設メンバーとなる.
1955国際連合(国連)に加盟.
1961インドがポルトガルの植民地ゴアを併合する.アンゴラ,ギニア,モザンビークで反乱がおきる.
1968サラザールが発作で倒れた後,マルセロ・カエターノが首相に就任し,新国家憲法にもとづいて政治をおこなう.
1974カーネーション革命で,軍将校がヨーロッパ最長の独裁制を倒す.民衆の要求により,新政府は民主主義を採用.
1975植民地だったギニア・ビサウ,モザンビーク,カボベルデ,サントメ・プリンシペ,アンゴラの独立承認の手続きが完了する.
1982文民政権が復活する.
1986マリオ・ソアレスが60年ぶりの文民の大統領となる.アニバル・カバコ・シルバが首相に就任.ヨーロッパ連合 (EU) の前進であるヨーロッパ経済共同体に加盟.
1999最後に残っていた海外領土であるマカオが中華人民共和国に返還される.
2002通貨エスクードの使用をやめ,ユーロに移行する.


 15世紀前半,エンリケ航海王子により「大航海時代」が拓かれると,1世紀半の間,ポルトガルは世界を駆け巡り,隆盛をきわめた.この時期のポルトガルの活躍によって,英語や日本語にも世界的な語彙が流入したのである.
 しかし,その後,16世紀後半にスペイン王フェリペ2世によって併合されるに及び,ポルトガルの国力は相対的に減じていく.17世紀末にブラジルに金鉱が発見されると,ポルトガルは再び活力を取り戻すかと思われたが,その富の多くは貿易協定を通じてむしろイギリスに吸い取られていき,イギリスでの産業革命を支えることになった.イギリスとの関係でいえば,19世紀末にもポルトガルはイギリスの圧力により,アフリカでの植民地拡大計画を放棄せざるをえなくなった経緯がある.ポルトガルにとって,イギリスは,歴史上古い同盟国でありながらも,ときに目の上のたんこぶだったのである.
 しかし,ポルトガル建国以来の国語であるポルトガル語に注目すれば,現在も世界に名立たる大言語の1つである.「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」 ([2010-05-29-1]) によれば,世界第7位の言語であり,その話者数は世界中に2億人近くいると見積もられている.

 ・ ザイラ・デッカー 『ナショナルジオグラフィック 世界の国 ポルトガル』 ほるぷ出版,2010年.

Referrer (Inside): [2015-11-05-1] [2015-10-25-1]

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2015-10-14 Wed

#2361. アイルランド歴史年表 [timeline][history][ireland][irish_english][map]

 アイルランド英語史について,「#1715. Ireland における英語の歴史」 ([2014-01-06-1]),「#762. エリザベス女王の歴史的なアイルランド訪問」 ([2011-05-29-1]) の記事を通じて略述してきた.背景にあるアイルランドの外面史も整理しておこうと思い,アンナ・マックィン,コルム・マックィン (60--61) を中心に,波多野も参照しつつ,略年表を用意した.アイルランドの地図も参考までに.

Map of Ireland

紀元前7000ごろスコットランドから最初の人々が陸地をつたわってアイルランドに来て住む.
紀元前3200ごろボイン川流域に羨道墳がつくられる.
紀元前2000ごろアイルランドで金属細工がはじまる.
紀元前700ごろケルト人がアイルランドにやってくる.
432ごろ聖パトリックがアイルランドに来て,この国の大半をキリスト教に改宗させる.
795最初のバイキングがダブリン近くの島ランベイに上陸し,入植地を作る.
800ごろおそらくアイオナ島のアイルランド人の修道院で,きわめて緻密な装飾をほどこしたアイルランドの代表的写本『ケルズの書』がつくられる.
1014アイルランドの王ブライアン・ボルーがアイルランド全土を統一し,クロンターフの戦いでバイキングを破る.しかし戦いの直後,王は死亡.
1170「ストロングボウ」ことペンブローク泊がアイルランドに侵攻し,ノルマン人のアイルランド侵略が始まる.1年後,ストロングボウがレンスターの王になる.
1171イングランド国王ヘンリー2世がアイルランドの大部分を支配下におさめる.
1366アイルランドに入植したノルマン人の勢力をおさえるため,イングランドが「キルケニー法」を制定する.
1494イングランド国王ヘンリー7世がアイルランド議会をイングランド枢密院の支配下におき,アイルランド支配を強める.
1601イングランド女王エリザベス1世がアイルランドに軍を送り,ティロン伯ヒュー・オニールおよび同盟軍をキンセールの戦いで破る.
1603イングランドがアイルランド全土を征服.
1641カトリックのアイルランド人が,プロテスタントのイングランド人入植者に奪われた土地を取りもどすために立ち上がり,数百人のプロテスタントを殺害.
1649イングランドの護国卿オリバー・クロムウェル率いる軍がアイルランドのドローエダとウェクスフォードで数千人を虐殺.カトリックのアイルランド人の土地をプロテスタントの入植者にあたえる.
1690オレンジ公ウィリアムがボイン川の戦いでジェイムズ2世の軍を破り,北部アイルランドのプロテスタント居住地を守る.
1782アイルランド議会が独自の法律を制定する権利を得る.
1798アイルランドの独立を求め,統一アイルランド人協会などの勢力が反乱をおこすが,失敗に終わり,数万人が死亡.
1801連合法により,グレートブリテンおよびアイルランド連合王国が成立.
1845ジャガイモに疫病が発生し,4年におよぶ飢饉となる.膨大な数のアイルランド人が移民となってアメリカなどに渡る.
1870ウィリアム・グラッドストーン首相がアイルランド人の小作農の法的権利を強め,最終的には土地所有を認める新しい法を成立させる.
1913アイルランド自治法案がイギリス上院で3度目の否決にあう.
1914第1次世界大戦の勃発により,アイルランド議会の復活と,アイルランドの権利拡大に関する法の制定が遅れる.
1916イースター蜂起でアイルランドの民族主義勢力が主要な建物を占拠し,アイルランド共和国の独立を宣言.しかし氾濫はイギリス軍によって鎮圧される.
1916ジェイムズ・ジョイスが『若き芸術家の肖像』を出版し,同時代の主要な作家として活躍しはじめる.
1919前年の選挙に勝ったシン・フェイン党がアイルランド国民議会(ドイル)をつくり,ふたたびイギリスからの独立を宣言.(シン・フェインとは「われわれ自身で」という意味.)イギリスと国民議会支持勢力とのあいだで戦闘がおきる.
1920イギリス議会でアイルランド統治法が成立.北アイルランドの6州にひとつの議会,それ以外のアイルランドにひとつの議会が,それぞれつくられる.
1921イギリス自治領としてのアイルランド自由国を成立させる.イギリス・アイルランド条約が結ばれる.北アイルランド6州はイギリス統治下にとどまる.
1922イギリスからの完全独立をもとめる民族主義勢力の反対を押し切り,国民議会がイギリス・アイルランド条約を承認.条約支持派と反対派との1年におよぶ内戦が勃発.
1937アイルランド自由国を廃止して独立民主国家エールの樹立を宣言する新憲法が,国民の投票により承認される.
1949イースター蜂起(1916年)を記念して,4月,エールが共和制国家アイルランドとなり,イギリス連邦を脱退する.
1955国際連合に加盟.
1959エーモン・デ・ヴァレラが大統領に就任.
1973ヨーロッパ経済共同体 (EEC) に加盟.アイルランド共和軍 (IRA) が北アイルランドでの攻撃を再開.
1985イギリスとのあいだに,イギリス・アイルランド協定がむすばれる.これによりアイルランドは,北アイルランド統治に関して提言する役割をあたえられる.
1991ヨーロッパ連合 (EU) に加盟.
1993イギリス・アイルランド両首相が,テロ行為が集結すれば北アイルランド和平交渉を提案するという共同宣言(ダウニング街宣言)に署名.
1998アイルランドと北アイルランドでの投票により,ベルファスト合意(聖金曜日協定)のしめす北アイルランド問題の政治的解決が承認される.
2004EUの議長国となる.
2004ヨーロッパ最大の経済成長を達成する.
2005IRAが武力闘争の終結を宣言する.
2007バーティ・アハーンが3期目の首相に選出される.


 ・ アンナ・マックィン,コルム・マックィン 『ナショナルジオグラフィック 世界の国 アイルランド』 ほるぷ出版,2011年.
 ・ 波多野 裕造 『物語アイルランドの歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,1994年.

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2015-09-08 Tue

#2325. ICOME9 に参加して気づいた学界の潮流など [academic_conference][map]

 先日,東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻主催の駒場英語史研究会で,今年度の国際学会への参加報告をする機会があった.昨年度の「#2004. ICEHL18 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2014-10-22-1]) に引き続き,今年度は春に ICOME9SHEL-9 に参加してきたので,本ブログ上でもその報告をしたい.今日は ICOME-9 について.
 2015年4月29〜5月3日にポーランドのブロツワフ (Philological School of Higher Education) で開催された The 9th International Conference on Middle English (ICOME9) へ参加してきた.以下に,学会の発表や発表者の概要をつかむのに役立つと思われる情報を示す.

Map of Poland, Wroclaw Marked

(1) 学会の沿革

 Jacek Fisiak 教授の立ち上げた,中英語に関する文学と語学の国際学会.今回と合わせて過去3回(第7回,第8回,第9回)参加したが,参加者は毎回50〜70名ほど.文学系に比して語学系が多いが,フィロロジーの色彩が濃い.今回は,講演と個人研究発表を含めて3部屋並行で,49の発表と69名の発表者(キャンセルも含め)があった.

 ・ 第1回 Rydzyna, Poland (1994)
 ・ 第2回 Helsinki, Finland (1997)
 ・ 第3回 Dublin, Ireland (1999)
 ・ 第4回 Vienna, Austria (2002)
 ・ 第5回 Naples, Italy (2005)
 ・ 第6回 Cambridge, UK (2008)
 ・ 第7回 Lviv, Ukraine (2011)
 ・ 第8回 Murcia, Spain (2013)
 ・ 第9回 Wrocław, Poland (2015)
 

(2) 基調講演

 ・ Hans Sauer (University of Munich) and David Scott-Macnab (University of Jahannesburg)
    "The Names of a Thousand-and-One Hunting-Hounds in a 15th-Century List"
 ・ Marcin Krygier (Adam Mickiewicz University, Poznan)
    "Laȝamon's Foreigners"
 ・ Michiko Ogura (Tokyo Woman's Christian University, Japan)
    "What Really Happened to 'Impersonal' and 'Reflexive' Constructions in Medieval English"
 ・ Rafał Borysławski (University of Silesia, Sosnowiec)
    "'Dreaming of the Middle Ages'?: Dream-Visions and Transgression from Marie de France to Chaucer"

(3) 特別セッション

 ・ The recipe in the history of English (cf. Bator, Magdalena. Culinary Verbs in Middle English. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2014.)
 ・ Translating Middle English literature

(4) 研究発表者の所属研究機関の国籍

以下は,研究発表者の所属機関の国別分布.日本勢も健闘している.

        Poland (33) ************************************
       Germany ( 6) ******
         Japan ( 4) ****
       Austria ( 3) ***
        France ( 3) ***
        Norway ( 3) ***
         Spain ( 3) ***
       Belgium ( 2) **
        Russia ( 2) **
   Switzerland ( 2) **
       Ukraine ( 2) **
           USA ( 2) **
       Finland ( 1) *
         Italy ( 1) *
  South Africa ( 1) *
United Kingdom ( 1) *

(5) 学会の潮流など気づいた点

 ・ ポーランド人を中心としたスラブ系の研究者と交わる機会
    - 北米・西欧以外での伝統ある英語史研究の伝統 (cf. Jacek Fisiak)
    - 日本国内,あるいは国際学会でも開催地によっては出会いにくい
    - 日本人研究者を認知している
    - 伝統的に形態や語彙に分野に強い
 ・ 大きすぎず,小さすぎず,ちょうどよい規模の学会
 ・ 語学・文学が混合しており,その点では日本中世英語英文学会の雰囲気に近い
 ・ 前回と今回より,開催日程が8月から GW へ移動

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2015-08-25 Tue

#2311. Tristan da Cunha [enl][world_englishes][map][geography][demography][statistics]

 「#2305. 英語を説明する25の地図」 ([2015-08-19-1]) の11番目として挙げられている Tristan da Cunha について付け加える.Tristan da Cunha は,アフリカ南部と南アメリカ大陸のどちらからも遠く離れた絶海の孤島.南アフリカからは約2400キロ,南アメリカからは約3360キロ離れている.6つの小島からなり,有人島は Tristan da Cunha と Gough Island の2つのみである.この群島は,1506年にポルトガル人の海軍将官 Tristão da Cunha によって発見された.17世紀以降,何度かにわたって定住の試みがあったが失敗し,初めて成功したのは1816年のイギリス駐屯軍によるものである.St. Helena に島流しにされたナポレオンの救出を阻止するための派兵とされる.その1816年に英国領として併合されたが,翌1817年に軍は撤退し,それ以降は,島に残った少数の者たちと,難破したヨーロッパ人の漂流者たちが島民人口のほとんどであった.1886年には97人がいたとの報告がある.1938年には St. Helena の保護領となったが,2009年にその地位は解消され,英国海外領 St Helena, Ascension and Tristan da Cunha の一部となっている.2015年現在,人口は259人であり,そのほとんとが英語を母語とする ENL 地域である.

Map of Tristan da Cunha

 以下,関連する外部リンクを張っておく.

 ・ Website of the Tristan da Cunha Government and Tristan Association
 ・ Wikipedia による Tristan da Cunha の記事
 ・ BBC による St Helena, Ascension, Tristan da Cunha profiles
 ・ CIA: The World Factbook による Saint Helena, Ascension, and Tristan da Cunha
 ・ Edgar Allan Poe による The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket (1838) の Chapter 15 に,Tristan da Cunha の歴史的,地理的な詳しい記述がある.

 なお,St. Helena については,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]),「#1919. 英語の拡散に関わる4つの crossings」 ([2014-07-29-1]) でも軽く触れている.

(後記 2015/09/01(Tue): McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992. の "TRISTAN DA CUNHA" (1056) の項も参照.この英語変種は,Highland English と同じ特徴を有すると考えられている.)

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2015-08-19 Wed

#2305. 英語を説明する25の地図 [map][link][hel_education]

 英語史を学ぶ上で有用な地図25枚を解説つきで掲載しているウェブページをみつけたので紹介したい.25 maps that explain the English language では,地図や図式で表わすことのできる英語史上の重要な話題が取り上げられており,それがおよそ時代順に並べられている.25項目の題名を抜き出してみよう.

 1. Where English comes from
 2. Where Indo-European languages are spoken in Europe today
 3. The Anglo-Saxon migration
 4. The Danelaw
 5. The Norman Conquest
 6. The Great Vowel Shift
 7. The colonization of America
 8. Early exploration of Australia
 9. Canada
 10. English in India
 11. Tristan da Cunha
 12. Countries with English as the official language
 13. Which countries in Europe can speak English
 14. Where people read English Wikipedia
 15. Where new English words come from
 16. How vocabulary changes based on what you're writing
 17. Vocabulary of Shakespeare vs. rappers
 18. Where English learners speak the language proficiently
 19. Scores on the Test of English as a Foreign Language
 20. Immigrants to the US are learning English more quickly than previous generations
 21. Where Cockneys come from
 22. Dialects and accents in Britain
 23. North American vowel shift
 24. American dialects
 25. You guys vs. y'all

 本ブログでもこれらの多くの話題を取り上げてきたので,関連する記事をキーワードで検索されたい.地図や図表のような視覚資料についても,本ブログでは積極的に掲載してきた.map の各記事,およびイメージ集もご覧ください.

Referrer (Inside): [2015-08-25-1]

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2015-07-15 Wed

#2270. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (3) [history][ame][bre][ame_bre][geography][map][demography][rhotic]

 「#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1)」 ([2015-07-06-1]),「#2262. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (2)」 ([2015-07-07-1]) に引き続いての話題.[2015-07-07-1]では,Fisher を参照した Gramley による具体的な数字も示しながら,初期移民の人口統計を簡単に確認したが,この Fisher 自身は David Hackett Fischer による Albion's Seed (1989年) に拠っているようだ.さらに,この D. H. Fischer という学者は,アメリカ英語史研究者の先達である Hans Kurath, George Philip Krapp, Allen Walker Read, Albert Marckwardt, Raven McDavid, Cleanth Brooks 等に依拠しつつ,具体的な人口統計の数字を提示しながら,イギリス英語とアメリカ英語の連続性を主張しているのである.
 Fischer の記述を信頼して Fisher がまとめた(←名前の綴りが似ていて混乱するので注意!)初期移民史について,以下に引用しよう (Fisher 60) .初期植民地への移民の95%以上がイギリスからであり,それは4波にわかれて行われたという.

1. 20,000 Puritans largely from East Anglia to to New England, 1629--41, to escape the tyranny of the crown and the established church that led to the Puritan revolution;
2. 40,000 Cavaliers and their servants largely from the southwestern counties of England to the Chesapeake Bay area and Virginia, 1642--75, to escape the Long Parliament and Puritan rule;
3. 23,000 Quakers from the North Midlands and many like-minded evangelicals from Wales, Germany, Holland, and France, to the Delaware Valley and Pennsylvania, 1675--1725, to escape the Act of Uniformity in England and the Thirty Years War in Europe;
4. 275,000 from the North Border regions of England, Scotland, and Ulster to the backcountry of New England, western Pennsylvania, and the Appalachians, 1717--75, to escape the endemic conflict and poverty of the Border regions, and especially the 1706--7 Act of Union between England and Scotland, which brought about the "pacification" of the border, transforming it from a combative society in need of many warriors to a commercial and industrial society in need of no warriors, with the consequent large-scale displacement of the rural population.


 Fischer は伝統的なアメリカへの初期移民史の記述を人口統計によって補強したということだが,これは英語変種の連続性を考える上では非常に重要な情報である.
 イギリス変種からアメリカ変種への連続性を論じる際に必ず話題になるのは,non-prevocalic /r/ である.この話題については「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) と「#453. アメリカ英語の諸方言における r」 ([2010-07-24-1]) で合わせて導入し,「#1267. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (2)」 ([2012-10-15-1]) で問題の複雑さに言及したとおりだが,Fisher (75--77) も慎重な立場からこの問題に対している.確かに,250年ほど前に non-prevocalic /r/ の消失がロンドン近辺で始まったということと,アメリカへの移民が17世紀前半に始まったということは,アナクロな関係ではあるのだ.それでも,歴史言語学的な連続性に関する軽々な主張は慎むべきであるものの,一方で英語史研究において連続性の可能性に注意を払っておくことは常に必要だとも感じている.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Fisher, J. H. "British and American, Continuity and Divergence." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. English in North America. Ed. J. Algeo. Cambridge: CUP, 2001. 59--85.

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2015-07-07 Tue

#2262. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (2) [history][ame][bre][ame_bre][geography][map][demography]

 昨日の記事「#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1)」 ([2015-07-06-1]) に引き続いての話題.「#1301. Gramley の英語史概説書のコンパニオンサイト」 ([2012-11-18-1]) と「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1]) で紹介した Gramley の英語史書は,地図や図表が多く,学習や参照に便利である.イギリスからアメリカへの初期の移民のパターンについても,"Major sources and goals of immigration" (248) と題する有用なアメリカ東海岸の地図が掲載されている.Gramley の地図では,ブリテン諸島からの移民のルートのほか,ドイツ,カリブ諸島,ドイツからの移民の流入の経路なども示されている.

Map of Major Sources and Goals of Immigration from Britain to America (Gramley 248)

 いずれの移民もアメリカ英語の方言形成に何らかの貢献をしていると考えられるが,昨日の記事 ([2015-07-06-1]) および「#1700. イギリス発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-22-1]) を参照してわかるとおり,ブリテン諸島からの移民がとりわけ重要な役割を果たしたことはいうまでもない.ブリテン諸島からの移民について,人口統計を含めた要約的な文章が Gramley (246) にあるので,引用しよう.

The English language which the settlers carried along with them was, of course, that of England. The colonists surely brought various regional forms, but it is generally accepted that the largest number of those who arrived came from southern England. Baugh (1957) concludes --- on the limited evidence of 1281 settlers in New England and 637 in Virginia for whom records exist for the time before 1700 --- that New England was predominantly settled from the southeastern and southern counties of England (about 60%) as was Virginia (over 50%). Fisher's figures indicate that 20,000 Puritans came between 1629 and 1641, the largest part from Essex, Suffolk, Cambridgeshire, and East Anglia with fewer than 10% from London, and that 40,000 "Cavaliers" fled especially from London and Bristol during the Civil War and went to the Chesapeake area and Virginia (Fisher 2001: 60). The Middle Colonies of Pennsylvania, new Jersey, and Delaware probably had a much larger proportion from northern England, including 23,000 Quakers and Evangelicals from England, Wales, Germany, Holland, and France. Over 250,000 from northern England, the Scottish Lowlands, and especially Ulster settled in the back country . . . . In each of the areas settled the nature of the language was set by speech patterns established by the first several generations.


 アメリカの New England や南部への移民には,イングランド南部の出身者が多く関与し,アメリカの中部諸州そしてさらに奥地へは,イングランド北部,ウェールズ,スコットランド,アイルランドからの移民が多かったことが改めて確認できるだろう.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Baugh, A. C. A History of the English Language. 2nd ed. New York: Appleton-Century-Crofts, 1957.
 ・ Fisher, J. H. "British and American, Continuity and Divergence." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. English in North America. Ed. J. Algeo. Cambridge: CUP, 2001. 59--85.

Referrer (Inside): [2015-07-15-1]

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2015-07-06 Mon

#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1) [history][ame][bre][ame_bre][rhotic][geography][map][demography]

 標題は「#1701. アメリカへの移民の出身地」 ([2013-12-23-1]) で取り上げた話題だが,今回は地図を示しつつ解説する.
 アメリカ英語の方言形成過程を理解するには,17世紀に始まるイギリス諸島からの初期の移民と,その後のアメリカ内での移住の歴史が大きく関わってくる.イギリス人によるアメリカへの植民は,1607年の Jamestown の建設に始まるが,この植民に携わったのは主としてイングランド南部出身者だった.最初の入植者として彼らの言語的な役割は大きく,イングランド南部方言が Jamestown にもたらされ,後にアメリカ南部に拡がる契機が作られた.
 1620年に Plymouth にたどり着いた "Pilgrim fathers" にも,イングランド南部(および東部)出身者が多かった.彼らは,先の入植者と同様に,およそイングランド南部の方言特徴を携えて新大陸に渡ったのであり,New England を中心とした北東部海岸地域にその方言特徴を定着させた.
 一方,1680年代からはイングランド中部・北部やウェールズからのクエーカー教徒 (Quakers) が大挙して Pennsylvania へ入植した.Pennsylvania などの中部へは,さらに18世紀の半ばにスコットランド系アイルランド人 (Scots-Irish) が数多く流入し,後の西部開拓の原動力となった.また,19世紀半ばにも多くのアイルランド人が押し寄せた.中部諸州に入り,西部へと展開したこれらイングランド南部以外の地域からやってきた移民たちは,いわば非標準的といえるイギリス諸方言を携えて新大陸にやってきたのだが,この諸方言こそが,後のアメリカにおける主たる方言となる中部方言 (Midland dialect) の種だったのである.
 イギリス諸島からの移民の出身地と方言を念頭に,上記をまとめると次のようになる.標準的なイングランド南部方言を携えたイングランド南部出身者は,その標準変種をアメリカの New England や南部諸州へと伝えた.一方,非標準的なイングランド中部・北部,ウェールズ,スコットランド,アイルランドの諸方源を携えた地方出身者は,その非標準変種をアメリカの Pennsylvania や中部諸州,そして西部へと広く伝えた.大雑把に図式化すると,以下の地図の通りである.

Map of Major Sources and Goals of Immigration from Britain to America

 このようなアメリカ英語形成期 (1607--1790) における初期移民の効果は,現代アメリカ英語の non-prevocalic /r/ の分布によく反映されていると言われる.「#453. アメリカ英語の諸方言における r」 ([2010-07-24-1]) の地図に示した通り,大雑把にいってアメリカ中部・西部の広い地域では car, four などの語末の /r/ は発音される,すなわち rhotic である.これは,「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) で見たように,現代のイングランド周辺地域の方言が non-rhotic であることに対応する.一方,アメリカの New England と南部諸州では,およそ non-rhotic である.これは,イングランドの中心部がおよそ rhotic であることと符合する.[2010-07-24-1]で触れたとおり,この分布は偶然ということではなく,歴史的な連続性を疑うべきだろう.
 移民先の方言の形成や分布を論じるにあたっては,移民の出身地と携えてきた方言に注目することが肝要である.関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1])
 ・ 「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1])
 ・ 「#1700. イギリス発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-22-1])
 ・ 「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1])
 ・ 「#1711. カリブ海地域の英語の拡散」 ([2014-01-02-1])

Referrer (Inside): [2015-07-15-1] [2015-07-07-1]

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2015-05-25 Mon

#2219. vane, vat, vixen [phonetics][phonemicisation][consonant][me_dialect][cornish][map][etymology]

 標記の3語は,歴史的に非常に稀な経路を通じて標準英語に入り,定着した語である.vane (風見,風向計),vat (醸造用などの桶),vixen (雌ギツネ)は,いずれも語頭に有声摩擦音 v をもっている.語頭に v があるだけでは稀でも何でもないのだが,(雄)キツネを表わす fox に対して雌ギツネ vixen を比べてみて想像されるように,この3語においては語源的に無声摩擦音 f が予想されるところに有声摩擦音が現われる点が特異なのである (cf. OE fana, fæt, fyxen) .歴史的には,中英語期に特定の方言でのみ語頭の無声摩擦音が一律に有声化し,その分布は地理的に限られていたが,この3語についてはどういうわけか後に標準英語へと発展する変種に取り込まれ,一般化したのである.今となってはほとんど気づかれないが,この3語は子音の「訛った」発音に由来するのである (cf. vixen については,American Heritage Dictionary による vixen の注も参照).
 この「訛り」は,現代のイングランドでは南西部に存続している.南西部方言では語頭に [f] のあるべきところで [v] が現われるのみならず,[s], [ʃ], [θ] のあるべきところで各々 [z], [ʒ], [ð] が現われるといったように,摩擦音系列全体に対応がみられる.Upton and Widdowson (52) の方言地図より,finger の語頭音について方言分布を示そう.

Map of

 イングランドの最南西端,Cornwall の末端では標準的な [f] が行われているが,これは Cornwall 方言が南西部方言の英語の流れを汲むものではなく,近代期に従来のケルト系言語 Cornish を置き換えた標準英語にルーツをもつものだからである (cf. 「#779. Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]),「#2025. イングランドは常に多言語国だった」 ([2014-11-12-1])).
 さて,現在では語頭の [f] に代わる [v] の分布は南西方言に限られているが,中英語期にはイングランド南部に広がっていた.この広い範囲で,おそらくすでに古英語期から語頭の摩擦音の有声化が始まっていたものと思われる.中英語での fadervader の分布を Plan and Bibliography (9) に基づいた中尾 (101) の地図でみてみよう.

Map of

 古英語では,南部諸方言で件の変化が生じるまでは,方言にかかわらず [v] と [z] は語頭に生じることはなかった.ところが,中英語では,この変化の生じた方言のみならず広く一般に両音が語頭に生じることが可能となった.Lass (58--59) は,この語頭音としての [v], [z] の一般的な許容の理由の1つは,まさに南部諸方言に生じた摩擦音有声化にあるとみている (cf. 「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1])) .

A third factor, perhaps the most likely, was the existence in Middle English of varieties that had in Old English times undergone voicing of initial fricatives. Many southern dialects had voiced at least initial /f s/ --- a development whose relics survive still in the rural West Country ('Zummerzet'). This parallels, and may well stem from, the same process in continental West Germanic: the <v> in G Vater 'father', now pronounced with /f/, and Du. initial <v> and <z> in vader and zon 'sun' (/f s/ in more innovating dialects, still /v z/ in conservative ones) reflect this. While the voicing in England was mainly southern, it did extend well up into the midlands in Early Middle English, and the standard still has a number of forms with voiced initials like vat, vixen, vane (OE fæt, fyxen, fana). Contact between speakers of these dialects and others without voicing may have facilitated borrowing of French /v z/, making them less 'outlandish'.


 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Cambridge: CUP, 1992. 23--154.
 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.
 ・ Kurath, Hans, Margaret S. Ogden, Charles E. Palmer, and Richard L. McKelvery. Plan and Bibliography. U of Michigan P, 1954.
 ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.38頁.

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2015-05-21 Thu

#2215. Niue,英語を公用語としてもつ最小の国(最新版) [map][austronesian][esl][demography][statistics]

 明日5月22日(金)と23日(土)に,福島県いわき市で「いわき太平洋・島サミット2015」が開かれる.日本,オーストラリアを含め,太平洋諸国が参加するサミットで,太平洋地域の相互外交を強化することを狙いとする.ホスト国である日本は,サミット開催に合わせ,一週間前の5月15日に駆け込みでニュージーランド自治領のニウエ (Niue /niˈuːeɪ/; 国民名と形容詞は Niuean /n(j)uːˈ(w)eɪən/) を国家承認することを決定した.日本が承認する国家はこれで195カ国となる.ニュージーランド,中国,インドなどは先だって国家承認しているが,国連には加盟していない.
 ニウエは,ニュージーランドの北東約2400kmに位置し,面積は約259平方km(鹿児島県徳之島とほぼ同じ),人口は約1,500人の島国である.首都は Alofi.以下に,地図と国旗を示す.

Map of Polynesia Map of Niue National Flag of Niue

 この島国の略史を記そう.Captain James Cook が1774年に上陸し,島民の示した敵意にちなんで "Savage Island" と命名.1830年代に宣教団が来島し,1852年に島民がキリスト教化.1900年に英国がサモア分割の一部としてニウエを併合した.翌1901年には,ニュージーランドがクック諸島の一部として同島を併合したが,1904年には島は分離して自治体となった.1974年にニュージーランドと自由連合を組む自治政府が樹立した.内政的にはこのときに事実上独立したいってよいが,島民はニュージーランド市民であり,防衛・外交はニュージーランドに任意で依存してきた.ニュージーランドへの移住者も多い.
 用いられている言語についていえば,EthnologueNiue の項によれば,ニウエ語 (Niuean) と英語が公用語となっている.国民のほとんどがニウエ語を話すが,英語も広く通用する.ニウエ語は,オーストロネシア語族ポリネシア語派に属し,隣接するトンガ語やサモア語に類似する.
 英語史の観点から話題にできることが1つある.ニウエがより広く国際的に国家承認されるのは今後のことになるのかもしれないが,正式に承認されることで,ニウエは「英語を公用語としてもつ最小の国」のタイトルをナウルより奪うことになる.「#1747. 英語を公用語としてもつ最小の国」 ([2014-02-07-1]) で取り上げたナウルは,面積ではニウエよりもずっと小さく,その意味ではいまだ「最小」だが,人口についていえばナウルは約1万人いるのに対し,ニウエは千数百人という規模であるから「最小」と呼ぶことができる.英語とその分布に関連する統計その他の情報を更新する必要が生じてくるだろう.
 関連して,直接ニウエの話題こそ含まれていないが,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]),「#1591. Crystal による英語話者の人口」 ([2013-09-04-1]),「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]),「#1700. イギリス発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-22-1]) などを参照されたい.英語の拡散との関連では,「#1919. 英語の拡散に関わる4つの crossings」 ([2014-07-29-1]) を参照.
 ニウエに関する外部リンクとしては,以下のものがある.

 ・ 外務省によるニウエ基礎データ
 ・ CIA: The World Factbook による Niue のデータ
 ・ Wikipedia による Niue の記事

Referrer (Inside): [2017-06-07-1]

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2015-04-29 Wed

#2193. La Francophonie (2) [french][statistics][demography][francophonie][map]

 昨日に引き続き,La Francophonie について.La Francophonie の公式サイト数で見るフランコフォニー に,フランス語に関する人口統計を含む様々な数字が掲載されている.これらの数字は,OIF (Organisation internationale de la Francophonie) による2014年の報告(4年ごとに更新される)に基づくものという.数字をいくつか示そう.

 ・ La Francophonie は80の国・地域が参加する連合(54の加盟国,23のオブザーバー,3の準加盟国)
 ・ フランス語は英語とともに5大陸で話されている言語である
 ・ 世界に2億7400万人のフランス語話者(うち5大陸で2億1200万人が日常言語として使用)
 ・ 世界で1億2500万人のフランス語学習者(7600万人が教育言語として,4900万人が外国語として学習)
 ・ ヨーロッパで7700万人の日常的なフランス語話者,及び5200万人のフランス語能力を有する者
 ・ 世界で5番目によく話される言語
 ・ 世界で3番目の業務用言語(ヨーロッパでは2番目)
 ・ 世界で4番目のインターネット用言語
 ・ 世界で2番目に国際機関で用いられている言語

 上記のサイトにはフランス語に関連する世界地図もいくつか掲載されている.以下に貼り付けよう.

Estimation de francophones

Le monde de la Francophonie

Le monde de la Francophonie et Commonwealth

 上の2つ目の地図にあるように,La Francophonie には54の加盟国 (États de gouvernements membres de l'OIF),23のオブザーバー (États observateurs), 3の準加盟国 (États associés) の計80の国・地域が参加している.地域ごとに名前を挙げよう.

Afrique de l'Ouest

  • Bénin
  • Burkina Faso
  • Cap-Vert
  • Côte d'Ivoire
  • Ghana (État associé)
  • Guinée
  • Guinée Bissau
  • Mali
  • Niger
  • Sénégal
  • Togo
Afrique centrale et océan Indien
  • Burundi
  • Cameroun
  • Centrafrique
  • Congo
  • Congo RD
  • Gabon
  • Guinée équatoriale
  • Rwanda
  • Sao Tomé et Principe
  • Tchad
  • Comores
  • Djibouti
  • Madagascar
  • Maurice
  • Mozanbique (État observateur)
  • Seychelles
Afrique du Nord et Moyen-Orient
  • Egypte
  • Émirats arabes unis (État observateur)
  • Liban
  • Maroc
  • Mauritanie
  • Tunisie
  • Quatar (État associé)
Amérique --- Caraïbe
  • Canada
  • Canada Nouveau-Brunswick
  • Canada Québec
  • Costa Rica (État observateur)
  • Mexique (État observateur)
  • République dominicaine (État observateur)
  • Dominique
  • Haïti
  • Sainte-Lucie
  • Uruguay (État observateur)
Asie --- Pacifique
  • Cambodge
  • Laos
  • Thaïlande (État observateur)
  • Vanuatu
  • Vietnam
Europe
  • Albanie
  • Andorre
  • Arménie
  • Autriche (État observateur)
  • Belgique
  • Bosnie herzégovine (État observateur)
  • Bulgarie
  • Chypre (État associé)
  • Estonie (État observateur)
  • Croatie (État observateur)
  • Ex-Rép. yougoslave de Macédoine
  • France
  • Géorgie (État observateur)
  • Grèce
  • Hongrie (État observateur)
  • Kosovo (État observateur)
  • Lettonie (État observateur)
  • Lituanie (État observateur)
  • Luxembourg
  • Moldavie
  • Monaco
  • Montégnégro (État observateur)
  • Pologne (État observateur)
  • Réep. Tchèque (État observateur)
  • Roumanie
  • Serbie (État observateur)
  • Slovaquie (État observateur)
  • Slovénie (État observateur)
  • Suisse
  • Ukraine (État observateur)
  • Fédération Wallonie-Bruxelles

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2015-03-09 Mon

#2142. 中英語における3単現および複現の語尾の方言分布 [map][laeme][lalme][me_dialect][me][3sp][3pp][verb][conjugation][nptr]

 標題の問いに手っ取り早く答えるには,次の表で事足りる(Görlach (68) による表の一部より).

 SouthMidlandNorth
Present Indicative3sg.-(e)þ-(e)þ-(e)s
pl.-(e)þ-(e)n-(e)s


 これを地図上に示すと「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1]) の通りとなるが,より詳しい分布を得たいときには LAEME (初期中英語)と eLALME (後期中英語)を参照するのが便利である (cf. 「#1622. eLALME」 ([2013-10-05-1])) .以下では,両アトラスより得られた地図の画像を貼り付けよう(クリックするとより大きく綺麗な画像が得られる).まずは,1150--1325年をカバーする LAEME より,3単現(左)と複現(右)の語尾の分布をそれぞれ示す.

LAEME: 3sp 's' and 'th' LAEME: 3pp 's', 'th', 'n', 'e', and zero
LAEME: 3sp 's' and 'th' LAEME: pp 's', 'th', 'n', 'e', and zero


 両地図で北部に集まる赤丸が -s を,南部に集まる青四角が -th を表す.右の複現の語尾では東中部その他に黒三角が散在しているが,これは -n 語尾を表す.次に,複数代名詞と接する動詞の現在形が -e またはゼロの語尾をとる "Northern Present Tense Rule" (NPTR; cf. 「#689. Northern Personal Pronoun Rule と英文法におけるケルト語の影響」 ([2011-03-17-1]),nptr) の分布図を見よう.

LAEME: NPTR pp 'e' and zero
LAEME: NPTR pp 'e' and zero


 では次に後期中英語の分布に移る.eLALME では,語尾の種類ごとに別々の地図を作成した.まずは3単現から.

eLAEME: 3sp 's' eLAEME: 3sp 'th'
eLALME: 3sp 's' eLALME: 3sp 'th'


 前時代の分布をよく受け継いでおり,左図の通り -s が北部に,右図の通り -th が中部以南に分布しているのがわかる.複現については,-s, -th, -n, -e (or zero) の4種類について各々の地図を見てみよう.

eLAEME: pp 's' eLAEME: 3pp 'th'
eLALME: pp 's' eLALME: pp 'th'
eLAEME: pp 'n' eLAEME: 3pp 'th'
eLALME: pp 'n' eLALME: pp 'e' or zero


 こちらも前時代の分布をよく受け継いでおり,北部で -s (左上図),中部以南で -th (右上図)が優勢だが,中部で -n (左下図)が前時代よりも著しく拡張していることが見て取れる.全体的に,初期中英語と後期中英語の分布間で量的な差は見られるが,質的には大きな変化はないといってよいだろう.  *

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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2014-11-29 Sat

#2042. 方言周圏論の反対 [wave_theory][japanese][dialect][dialectology][geography][geolinguistics][stress][prosody][map][prescriptive_grammar][speed_of_change]

 「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),方言周圏論を含む他の記事で,言語革新の典型的な伝播経路とその歴史的な側面に言及してきた.中心的な地域はしばしば革新的な地域でもあり,そこで生じた言語革新が周囲に波状に伝播していくが,徐々に波の勢いが弱まるため周辺部には伝わりにくい.その結果,中心は新しく周辺は古いという分布を示すに至る.互いに遠く離れた周辺部が類似した形態をもつという現象は,一見すると不思議だが,方言周圏論によりきれいに説明がつく.
 以上が典型的な方言周圏論だが,むしろまったく逆に中心が古く周辺が新しいという分布を示唆する例がある.日本語のアクセント分布だ.日本の方言では様々なアクセントが行われており,京阪式アクセント,東京式アクセント,特殊アクセント,一型アクセント,無アクセントが区別される.興味深いことに,これらのアクセントの複雑さと地理分布はおよそ相関していることが知られている.例えば2音節名詞で4つの型が区別される最も複雑な京阪式アクセントは,その名が示すとおり,京阪を中心として近畿周縁,さらに波状に北陸や四国にまで分布している.その外側には2音節名詞で3つの型が区別される次に複雑な東京式アクセントが分布する.東京を含む関東一円から,東は(後で述べる無アクセント地域は除き)東北や北海道まで拡がっており,西は近畿を飛び越えて中国地方と九州北部にまで分布している.つまり,東京式アクセントは,近畿に分断されている部分を除き,広く本州に分布している.
 続いて2音節名詞で2つの型を区別する特殊アクセントは,埼玉東部や九州南西部に飛び地としてわずかに分布するにとどまる.1つの型しかもたない一型アクセントは,全国で鹿児島県都城にのみ認められる.最後に型を区別しない無アクセントは,茨城県,栃木県,福島県,そして九州中央部の広い地域に分布している.このように互いに遠く離れた周辺部に類似したアクセントがみられることは,方言周圏論を想起させる.
 しかし,ここで典型的な方言周圏論と著しく異なるのは,歴史的にはより古い京阪アクセントが本州中央部に残っており,より新しい東京アクセントその他が周辺部に展開していることだ.また,平安時代の京都方言では2音節名詞は5つの型を区別していたことが知られている.すると,平安時代の京都方言のアクセントのもつ複雑さを現代において最もよく保っているのが京阪式アクセントで,そこから順次単純化されたアクセントが波状に分布していると解釈できる.中心が複雑で古く,周辺が単純で新しいという図式に整理できるが,これは方言周圏論の主張とはむしろ逆である.日本の方言を分かりやすく紹介した彦坂 (77) は,次のように述べている.

 内輪にあたる中央の文化的な地方では、教育や伝統がよく伝えられ、ことばもふるい型がたもたれやすかったのです。その外側の中輪の地方になるとこれが弱まり、さらに外輪の地方ではもっと弱まります。近畿を中心に円をえがくようにして、中心がアクセントの型をたもち外側がくずれているのは、そのためです。これは、方言の歴史的な変化のようすを語るものです。
 ――きみはこれを聞いて、前に話した「方言周圏論」=“文化が活発な中央で新しい語が生まれてひろがり、地方にはふるい語がのこる”というのと反対だと、思うかもしれません。この考え方は方言単語のひろがり方によく当てはまります。
 でも、アクセントを中心にして考えられたこうした解しゃくは、「アクセントなどのふくざつな型をもつものは地方のほうが変化を起こしやすい」という、ことばのもうひとつの変化の仕方を語っています。


 構造的に比較的単純な語と複雑なアクセントは,変化や伝播の仕方に関して,別に扱う必要があるということだろうか.構造的複雑さと変化速度との間に何らかの関連があるかもしれないことを示唆する興味深い現象かもしれない.と同時に,上の引用にもあるように,規範や教育という社会的な力が作用しているとも考えられる.
 なお,最も周縁部に分布する無アクセントが最新ということであれば,それは今後の日本語アクセントの姿を予言するものであるとも解釈できる.事実,彦坂 (75) は,「将来の日本語はこういうアクセントになるかもしれません。いゃ、なるでしょう。」と確信的である.  *

 ・ 彦坂 佳宣 『方言はまほうのことば!』 アリス館,1997年.

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2014-11-27 Thu

#2040. 北前船と飛び石理論 [geolinguistics][geography][dialect][japanese][map][gravity_model]

 「#2034. 波状理論ならぬ飛び石理論」 ([2014-11-21-1]) 及び「#2037. 言語革新の伝播と交通網」 ([2014-11-24-1]) で話題にしたように,言語革新は,その他の文化的革新と同様に,交通網に沿って伝播することが多かった.現代はテレビやインターネットなど各種のメディアが発達し,物理的な障害をいともたやすく飛び越えていく時代だが,近代までは物理的な交通こそが,あらゆる文化的伝播の基礎にあった.
 ある一地方で始まった言語革新や,ある一地方に限定されていた方言形が,交通網に沿って伝播する例は,近世の日本にもみられる.明治期までの日本の物流の幹線は,内陸の街道ではなく,沿海の航路である.江戸初期の寛永年間 (1624--44) に河村瑞賢 (1618--99) により本州を巡る廻船航路が開かれると,廻米船が本州の沿岸を頻繁に巡るようになった.大阪,瀬戸内海,日本海岸,酒田を巡る西廻り航路と,江戸,太平洋岸,日本海岸,酒田を巡る東廻り航路と,大阪,太平洋岸,江戸を巡る南海路があった.特に日本海岸を往来した西廻り航路の北前船の活躍がよく知られている.廻船は佐渡,酒田,松前,宮古,銚子などに寄港し,これらの港町に上方の物品,文化,そして方言を伝えた.いわば途中の中小の港町や内陸部を飛び越えて,遠く離れた大きな港町へ飛び石風に上方方言を伝えることとなったのである.  *
 具体例を挙げれば,西廻り航路の要衝だった佐渡には京都風の敬称「〜はん」(共通語の「〜さん」に相当)が行われているほか,「行かない」の意の近畿方言形「いきゃせん」,「いとおしむ」の意の東北方言形「かなじゅむ」,「だけど」の意の九州方言形「ばってん」などが聞かれる(井上,p. 44).また,宮古など岩手県の沿岸部や千葉県の銚子では「ありがとう」の意味での「おおきに」が聞かれる.ほかに銚子方言では「煮る」ことを「たく」と表現するが,これも上方の方言に倣ったものである.周囲にそのような方言形が行われている地域がなく,孤立した分布を示しているため,これらは当時の廻船航路という交通網に沿っての飛び石現象と解釈するよりほかない.また,八丈島の「おじゃる」は古い京都の方言で,黒潮に乗って流れ着いたと言われており,広い意味で交通網に沿った方言形の伝播の例といってよい(井上,pp. 8--9).
 北前船の活躍は幕末から明治初期が最盛期だったが,その後に汽船や内陸鉄道網の発達で衰退していった.それとともに方言伝播のルートも変わっていったものと思われる.

 ・ 井上 史雄(監修) 『方言と地図』 フレーベル館,2009年.

Referrer (Inside): [2015-04-06-1]

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2014-11-24 Mon

#2037. 言語革新の伝播と交通網 [wave_theory][geolinguistics][geography][dialect][sociolinguistics][map][gravity_model]

 「#2034. 波状理論ならぬ飛び石理論」 ([2014-11-21-1]) で,都市から都市への言語革新の伝播に触れた.交通が未発達の社会では,人々の行動半径は大きくなく,移動は近隣の地域に限られる.その場合には,言語革新の伝播の様式は,波状理論 (wave_theory) で予想されるとおりの波紋状になるだろう.しかし,交通が発達した社会では,言語革新は例えば道路網や鉄道網に沿うなどして,互いに遠く離れた都市から都市へと飛び石のように伝播するだろう.このように波状理論と飛び石理論は互いに矛盾するものではなく,むしろその社会の交通の発達度を変数とする,より一般的な理論へと止揚できるように思われる.
 刷新形の伝播と交通網とがいかに連動しているかを知るには,イングランド南部で「かいばおけ」を表わす標準形 manger が伝統方言形 trough を置換していく過程と分布を眺めるのがよい.Survey of English Dialects のための調査が進められていた20世紀半ばには,この地域では伝統方言形 trough が行われていたが,北から標準形 manger が着実に浸透しつつあった.その侵入の経路を詳しくみてみると,ロンドンから南西,南,南東へ延びる幹線道路と鉄道網にぴったりと沿いながら浸透していることがわかったのである.結果として,交通網に沿った地域では新形 manger が早く根付いたが,交通網から外れた地域では古形 trough が持続しているという状況が示された.以下,Trudgill (130--31) より,方言地図と交通地図を示す(両地図がいかに重なるかを見るには,こちらのGIFアニメーションをどうぞ.)

Map of

It can be seen that each of the three southward-encroaching prongs of the manger area, two of which actually reach the coast, coincide with the main London to Dover road and rail route, the main London to Brighton route, and the main route from London to Portsmouth. The spread of the incoming form is clearly accelerated in areas with good communications links, and is retarded in more isolated areas. (Trudgill 132)


 言語革新に限らず,モノにせよウィルスにせよ情報にせよ,あらゆるものが交通網に沿って,より一般的にはコミュニケーション・ネットワークに沿って移動し伝播する.考えてみれば当然のことだが,南イングランドにおける「かいばおけ」の例のように地図で示されると,そのことが具体的に理解でき,納得できる.方言地理学がいかにダイナミックであるかを味わわせてくれる好例だろう.「#1543. 言語の地理学」 ([2013-07-18-1]) の分野からの研究例としても評価できる.

 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

Referrer (Inside): [2015-04-06-1] [2014-11-27-1]

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2014-11-23 Sun

#2036. イングランド方言にみられる方言周圏論の典型例 [wave_theory][dialect][geography][isogloss][map][geolinguistics]

 方言周圏論といえば,「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]) でみた「蝸牛」の例がよく知られている.ほかにも,「とんぼ(蜻蛉)」を指すアキヅに類似する形が,福島から岩手にかけての東北地方と宮崎南部という遠く離れた地域に分布する例,「退屈」を意味するトゼンの訛語がやはり東北と九州に独立して分布する例などが知られている.南西ヨーロッパの albus に由来する古形が周辺に残存している例も,「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]) でみた.では,英語における方言周圏論の例として,何が挙げられるだろうか.
 1つは「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) の地図である.r 脱落という革新がイングランド南東部に発し,北部や東部へ拡がっている.現在も拡大中だが,波紋の及んでいない最北部や西部などの周辺的な地域では,r を保持する古形が残存している.このように方言周圏論の典型例では,ある形態が互いに遠く離れた周縁部 (relic area) に現われる.
 Upton and Widdowson のイングランド方言地図をパラパラ眺めていて,もう1つ典型的な例を見つけることができた.以下は,Upton and Widdowson (140) に掲載されている「(ワシ・タカの)くちばし」を意味する beak の方言語の分布である.

Map of

 標準語形である beak がイングランドの大半を覆っているが,南西部,西部,北部の辺境に bill の小島が細々と分布している.これほど互いに離れた地域で独立して bill が発生したとは考えにくいので,代わりに,かつて全土を覆っていた bill が革新的で勢いのある beak に詰め寄られ,かろうじてその侵入を免れた小区画が辺境に点々と分布しているものと解釈する.ただし,北西部に第3の方言形 neb もある程度の分布を占めており,若干複雑な様相を呈する.
 beak は古フランス語 bec からの借用語で13世紀半ばに入ってきた比較的新しい語である.一方,bill は古英語 bile に遡る本来語で,その起源は古い.neb も同様に古英語 neb(b) に遡る本来語である.現在はイングランド北西部のほかスコットランドにも方言として使用されているが,この北寄りに偏った分布は,英語史的には古ノルド語の同根語 nef の存在によって補強されたのではないかと考えたくなる.
 英語史の知見を交えながらこの方言地図と読み解くと,通時的には次のような過程があったのではないかと想像される.まず,古英語期には bill がイングランド中に広く分布していた.それと並んで neb もそれなりの分布を示していた可能性があるが,とりわけ古ノルド語との接触以来,北部方言で勢力を強めていった.続く中英語期にフランス語からの新参者 beak がおそらく南部に導入され,波状にイングランド全土へ伝播していった.大半の地域では beak が従来の語を置き換えつつ定着していったが,周縁部には本来語の billneb がしぶとく生き延びる小区画が点々と残ることとなった.以上は1つの歴史のシナリオにすぎないが,少なくとも方言地図の示す分布と矛盾しないシナリオである.方言地図の読み解き方の1つの指南として,「#2019. 地理言語学における6つの原則」 ([2014-11-06-1]) も参照されたい.

 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.

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